<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.10094の一覧
[0] 萌え?・・・いや、むりっしょ?《ネギまエウ゛ァ憑依》[フィノ](2010/04/03 23:13)
[1] プロローグ[フィノ](2009/11/11 08:53)
[2] プロローグ 2[フィノ](2009/11/11 08:53)
[3] え・・・マジ?な第1話[フィノ](2009/08/01 22:15)
[4] 緊急指令死亡フラグを撃破せよ・・・な第2話[フィノ](2010/02/26 12:17)
[5] 現状の思考と考察・・・な第3話[フィノ](2010/02/26 12:20)
[6] チャチャゼロ・・・・ゼロ?な第4話[フィノ](2010/02/26 12:26)
[7] 良い日旅立ち・・・炎上な第5話[フィノ](2009/08/01 22:19)
[8] 学校とはとにも奇妙なところだな第06話[フィノ](2010/04/13 21:43)
[9] 人間交差点・・・・な第7話[フィノ](2009/08/28 15:17)
[10] 頭痛がおさまらないな第08話[フィノ](2009/08/01 22:21)
[11] 真実は小説よりも奇なり・・・俺のせいだがな第09話[フィノ](2010/04/13 21:44)
[12] モンスターハンター・・・待て、何故そうなるかな第10話[フィノ](2010/02/26 12:29)
[13] 復讐は我にありな第11話[フィノ](2010/02/26 12:31)
[14] 新たな一歩なのかな第12話[フィノ](2010/04/13 21:46)
[15] 肉体とは魂の牢獄なんだろうな第13話[フィノ](2010/02/26 12:36)
[16] 絶賛逃亡中?な第14話[フィノ](2010/02/26 12:37)
[17] 幕間その1 残された者、追うことを誓った者[フィノ](2010/04/13 21:48)
[18] ラオプラナな第15話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[19] 思い交差点な第16話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[20] 色々とな第17話[フィノ](2009/08/01 22:29)
[21] おいでませな第18話[フィノ](2009/08/01 22:30)
[22] 幕間その2 騎士と主と在り方と[フィノ](2009/08/01 22:30)
[23] 発掘も楽じゃないよな第19話[フィノ](2009/08/01 22:31)
[24] 嫌な確信が出来たな第20話[フィノ](2010/04/13 21:50)
[25] 予想しておくべきだったな第21話[フィノ](2010/04/13 21:59)
[26] あいつらも大変だったようだな第22話[フィノ](2010/04/13 22:14)
[27] 目玉だな第23話[フィノ](2010/04/13 22:35)
[28] 全て世は事も無しな第24話[フィノ](2010/04/13 22:37)
[29] 知らぬが仏、つまりは知らないと死ぬ事だな第25話[フィノ](2009/08/09 13:34)
[30] タヌキとキツネとだな第26話[フィノ](2010/04/13 22:38)
[31] 失態だな第27話[フィノ](2010/04/13 22:39)
[32] さて、どうしようかな第28話[フィノ](2009/08/24 18:15)
[33] 中々にヒドイ事をするな29話[フィノ](2009/08/28 14:04)
[34] 1と0の差かな第30話[フィノ](2009/09/07 12:08)
[35] 時間は勝手に進むものだな第31話[フィノ](2009/09/21 17:04)
[36] 英雄の横顔かな第32話[フィノ](2009/09/28 22:28)
[37] ボロボロだな第33話[フィノ](2009/10/07 00:20)
[38] 夜ももう終わりだな第34話[フィノ](2009/10/16 01:21)
[39] 事故だと思いたいな第35話[フィノ](2009/10/21 19:47)
[40] 幕間その3 曰く、チョーカッコいい男[フィノ](2009/10/29 02:12)
[41] 戦闘or日常さてどっちが疲れるかな第36話[フィノ](2009/11/04 14:11)
[42] 取り合えず叫ぼうかな第37話[フィノ](2009/11/11 13:22)
[43] 気のせいだと思っておきたかったな第38話[フィノ](2009/11/15 20:58)
[44] それぞれの思惑だな第39話[フィノ](2009/11/25 09:56)
[45] 美味しそうだな第40話[フィノ](2009/12/01 16:19)
[46] 互いの牙の間合いだな第41話[フィノ](2009/12/08 01:32)
[47] 幕間その4 仲良くなろう[フィノ](2009/12/08 20:14)
[48] 出発は明朝かな第42話[フィノ](2009/12/18 17:37)
[49] 強い訳だよな第43話[フィノ](2009/12/26 14:10)
[50] 商人・・・、なのかな第44話[フィノ](2010/01/22 01:29)
[51] ケダモノの群れだな第45話[フィノ](2010/01/08 19:08)
[52] 見たかったな第46話[フィノ](2010/01/19 00:19)
[53] 疑うな第47話[フィノ](2010/01/20 01:44)
[54] 無形の有形だな第48話[フィノ](2010/02/03 06:37)
[55] そして歩き出すだな第49話[フィノ](2010/02/03 15:55)
[56] 旅の途中だな第50話[フィノ](2010/02/17 19:39)
[57] 地味に変わってるな第51話[フィノ](2010/02/24 00:17)
[58] 到着、出会いと別れだな第52話[フィノ](2010/02/26 12:10)
[59] 幕間その5 爪痕[フィノ](2010/03/04 23:18)
[60] 難しいな第53話[フィノ](2010/03/06 23:40)
[61] 日常だな第54話[フィノ](2010/03/13 12:39)
[62] その後の半年だな第55話[フィノ](2010/03/22 14:24)
[63] 研究の日々だな第56話[フィノ](2010/04/04 18:01)
[64] すれ違う人々だな第57話[フィノ](2010/04/13 22:55)
[65] 花畑の出会いだな第58話[フィノ](2010/04/25 22:56)
[66] 幕間その6 メイド達の憂鬱[フィノ](2010/05/02 06:47)
[67] 幕間その6 メイド達の憂鬱 中篇[フィノ](2010/05/05 06:13)
[68] 幕間その6 メイド達の憂鬱 後篇[フィノ](2010/05/23 22:37)
[69] ありふれた悲劇だな第59話[フィノ](2010/06/24 21:58)
[70] それぞれの思いだな第60話[フィノ](2010/11/12 06:04)
[71] 強く・・・、なりたいな第61話[フィノ](2010/10/25 22:54)
[72] ブリーフィングだな第62話[フィノ](2010/11/12 14:41)
[73] 彼女達の戦場だな第63話[フィノ](2010/12/01 23:14)
[74] 彼の戦場だな第64話[フィノ](2011/01/26 13:43)
[75] 自身の戦いだな第65話[フィノ](2011/04/18 03:53)
[76] 狗の本分だな第66話[フィノ](2011/04/23 03:32)
[77] 対峙だな第67話[フィノ](2011/05/02 03:37)
[78] 懐かしいな第68話[フィノ](2011/07/07 22:33)
[79] 風の行方だな第69話[フィノ](2011/09/23 23:39)
[80] 彼に会いに行こうかな第70話[フィノ](2011/10/01 03:42)
[81] そんな彼との別れだな第71話[フィノ](2011/10/15 07:37)
[82] 小ネタ集 パート1[フィノ](2009/08/11 22:17)
[83] 小ネタ集 パート2[フィノ](2009/09/21 17:03)
[84] 小ネタ集 パート3[フィノ](2010/02/03 15:53)
[85] 小ネタ集 パート4[フィノ](2010/02/04 03:28)
[86] 作者のぼやき。[フィノ](2010/01/08 00:21)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[10094] それぞれの思いだな第60話
Name: フィノ◆a5d9856f ID:968145c2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/12 06:04
それぞれの思いだな第60話



エマと共に出かけたエヴァは、何時ものように元気に帰ってくる事なく、
血で赤茶けたボロボロの服を身に纏い、傷1つ無い姿でライアによって店に運びこまれた。
そして、ロベルタがエヴァを部屋に運び、その間にライアから話を聞くと、ライア曰く、
ローエン商会に属する商人達が、イギリスを目指すために偶然通りかかった花畑で、この姿のエヴァを見つけたという。

しかし、最初見つけた商人たちはエヴァが生きているとは思わず、何か使えるものが無いかと近寄った時に、
初めて息をしているのに気付き、だが、いくら生きていてもエヴァの事を知らない商人たちは途方にくれ、
取り敢えずは、町で顔の広いライアに娘の事を聞こうと商館に運び込んだらしい。

そして、エヴァの顔を見たライアは俺達の所に幌付きの馬車にエヴァを乗せ運び込み、
運び込んで去り際に何時ものように明るい調子ではなく、声のトーンを落とした重苦しい声で、

「私は何があったのか、何がエヴァさんに起こったのか、そして、
 これからどうなるのか・・・、そんな事を詮索する気はサラサラありやせん。
 そして、あっしら商人は今日何も見ず、何もしなかったし、ここにも来ちゃいません。
 それが・・・、お互いのためでしょう。」

そう言葉を残してライアは夕暮れの町に消えていき、その時からこの店は火が消えたように静まり返り、
まるで、冬が暗鬱に貯まりこんだかのように冷ややかになった。
ただ、時折扉の開く音とノーラの話す声だけが、今だ持ってこの場所が店として機能している事を教えてくれる。

「今日もまた、お嬢様は目覚めませんか。」

そう、イスに座り膝に肘をついて顔の前で手を組む俺の背後に立つロベルタが口を開く。
エヴァがボロボロの服を着て運び込まれた時は冷静だった彼女は、すぐさまエヴァを部屋に運び込み服をすべて脱がすと、
体に異常がないかを調べ、異常が無い事がわかるとエヴァに服を着せ、心配になって様子を見に来た俺に

「何処にも異常はありません、ですからお嬢様はすぐに目を覚まされるでしょう・・・。
 聞く事はそれからです・・・、一体何があったのか、そして・・・、エマさんは何処に行かれたのか。」

そうロベルタが言って早数日。
そして、今日もエヴァの部屋には西日が差し込み、辺りの家にはポツポツと光が灯り始めている。

「お嬢様、夕食の準備が整いました。
 お入用でしたら食卓までお越しください。
 チャチャゼロさんも、なにか口に入れてください。
 私がお嬢様の体を拭いている間に。」

そう部屋に顔を出したロベルタが口を開く。
彼女もまた、エヴァの目覚めを待つように何時もどおり食事の準備を行い、
何時ものように目を覚まさないエヴァに声をかけ、そして彼女の体を拭いていく。

俺がここ数日でこの部屋を出るのは、ロベルタがエヴァの体を拭いているぐらいのもの。
特に空腹は感じない、いや、そもそも俺は特に物を食べなくても生きていける。
だから、ここ数日で口に物を入れたのも数える程度。

そして、食卓につけば必ずノーラと顔を合わせる事になる。
ノーラ・・・、俺たちと旅をしだして笑顔を増やした彼女は、
しかし、今はであった当時のように、憂いを帯びた表情をのぞかせる事が多くなった。
そんなノーラは1口2口とスープを口に運びながら俺のほうをチラチラと見てくる。
何を聞きたいか・・・、それはノーラ自身に尋ねるまでも無い。

「今日も、エヴァはよく眠っているよ。」

そう俺が言うと、ノーラはハッとした後、視線を下に落としてスープをクルクルとスプーンでかき混ぜながら、
掬って食べるでもなく、ただじっと見つめ、

「エヴァさんは元気になりますよね?
 それに、エマさんも無事ですよ・・・、ね?」

そう、心細そうに俺に尋ねてくる。
それに対して、俺は無理やりに明るい調子で声を出し、

「大丈夫だノーラ。
 エヴァは1度寝ると、勝手に目覚めるまでは中々起きないんだ。
 だから、そう、だから今度もひょっこり目を覚まして、
 何でもないかのように『あ~、よく寝た』なんて言いながら目を覚ますよ。
 それに、エマも多分何らかの事情で今ここにいないだけだろう。」

その俺の言葉でも、やはりノーラの不安は拭い去れないのだろう。
彼女の顔は晴れるこよなく、何処か機械的にスープとパンを口に運び、
俺もそれに習うように、パンを千切っては口に運ぶという作業を行い、
ノーラに頼まれていたミスリル製の大きな布を、彼女に手渡して静かな食卓を後にし、
彼女の眠るペットの前のイスに座り、ロベルタも俺の後ろに立つ。

蝋燭の明かりのない部屋は、月と星の明かりのみで照らし出され、
外の喧騒も夜が深くになるに連れ薄れ、音のない部屋は寒々しさが際立つ。
夜に生き、闇と共に歩む彼女の日常は、実はこれほどまでに恐ろしい虚無の世界にあって、
だからこそ、あの遺跡に潜る前の夜にあんな詩を謳ったのかもしれない。
少なくとも、寂しさとでも手を繋ぐ事ができれば、心まではカラッポにならず抜け殻にはならずにすむから。


「静かですね。」

そう私が口にした言葉は思った以上に部屋に響き、一言しか話していないはずなのに、
壁に反響して、同じ言葉が無限に繰り返されるような気がします。

「あぁ、まるで世界から音が消えたみたいだ。」

無限とも思われる反響も、そのチャチャゼロさんの声で途切れ、
後に残ったのは静寂と、私の中にくすぶる言いようの無い感情。
腹の中にごろりと溜まり、吐き出そうにも吐き出す方法が見つからず、
その感情は、お嬢様がこうなって帰ってきて以来消える事無く私の中で息づき、
日に日にそのくすぶりが熱を持ち出し、そして、エマさんから貰ったナイフのように研ぎ澄まされていきます。

「今回の事・・・、どう思われます?」

そう聞くと、チャチャゼロさんは姿勢を変える事無く、眠ったままのお嬢様の顔を見たまま、
静かに静かに口を開き、

「解らない・・・。
 ロベルタ、俺達は今はまだ事の始まる前にいる。
 俺達の事の始まりはエヴァの目覚めた時で、それまで俺達は・・・、
 エヴァと共にいようと思う、エヴァの下に名を連ねるすべての中間達は、
 ただただ怒りを鋭利に研ぎ、そして、エヴァの号令と共に一斉に走狗が如く研がれた刃を持って走り出す。

 今はどんなに歯痒くとも、待つときだ。
 ・・・、それに、彼女が目覚めた時誰もいないんじゃ彼女が寂しがる。」

そう言う、チャチャゼロさんの組んだ手の甲には爪が食い込み、赤い血が見えます。
そんなチャチャゼロさんの後姿を、何処か他人事のように見ている私は、
私の中にあるこの感情が怒りと呼ばれるものだと知り、そう私の中で名づけられた感情は名を得た事で爆発的に増殖し、
肥大化した怒りは、私たちを浸食していく・・・。

「チャチャゼロさん・・・、少々魔法球に篭ります。」

「ん?ああ、解った。」

そうチャチャゼロさんに言葉を残し、私は魔法球の中へ。
あの日、あの時・・・、私は・・・、私や魔法球の中のお姉さま方は一斉に涙を流していました。
・・・、それほどまでに深い悲しみをお嬢様に味あわせた者を、私は許すことが出来ない!
そう思いながら、魔法球の中にあるお嬢様の研究室にポーランさんだけを連れ込み、やる事はただ1つ。

「何があったの、ロベルタちゃん?」

そう、研究室について口を開いたのはポーランさん。
何時もニコニコしている彼女は今も何時ものようにニコニコしながらそう私に聞いてきます。
ですが、少なくともこの方は私がここに来る前までは、他の姉妹方の指揮を取っていた方。
そのニコニコした顔とは裏腹に瞳だけは笑う事無く、ただ静かに私を見据えています。

「報告が遅れた事を先ずは謝罪しますポーランさん。
 現状である情報は少ないですが端的に話しますと、
 お嬢様とお嬢様の乳母に当たるエマさんが正体不明の賊に襲われ、
 今現在お嬢様は意識不明で床に伏し、エマさんの安否も不明です。」

そう私が言うと、ポーランさんは相変わらずニコニコしたまま、
笑っていない目を若干細めながら私の顔を見据え、しかし、相変わらず語調は変えず、

「そんな事に今なってるんだ・・・。
 で、短時間でも1人で動けるようになりたいって訳なんだね。」

そう言いながら、ポーランさんは私に背を向けて研究室の棚のほうに目をやり、
ガサゴソと何かを漁り出していますが、私はそれよりもポーランさんが私のやりたい事を先読みし、
そして、よく見れば寝台の上には、既にいくつかの器具が準備されていることを見て取り、
ポーランさんに心の中で感謝の言葉を述べながら、

「可能ですか?」

そう、一言だけ問うと、ポーランさんはこちらを振り向かず、
ただ、一切の感情を押し殺したような平坦な声で、

「制限時間付きでかなり不便。
 でも、お嬢様が寝ていてもドール契約は出来るよ。
 その契約をする事を前提として改造してあげる。」

そう言いながら、私のほうを振り向きカツカツと歩み寄り、
私の瞳を見上げながら、ピッと寝台を指差し、

「貴女は完成すれば、人と変わらないようなれる。
 でも、今ドール契約をすると貴女は自身が人で無い・・・、ドールだという事を自身に刻む事になる。
 それでいいならそこに寝て、そして、私達にも代価を頂戴?」

そのポーランさんの言葉に、私は一体なにが代価になるか薄々気付きながら、
しかし、その代価を彼女自身の口から聞きたいと思い、

「メイド"長"と呼ばれている私に貴女は代価を求めるか、ポーラン。」

そう長の部分を強めて言うと、ポーランさんは顔に薄笑いを浮かべながら首をすくめ、

「そのメイド長"殿"がついていながらこうなったのでしょう?
 私達姉妹は何時もここでお嬢様の帰りを待つ、それが私達の仕事。
 でも、あの涙は許せないよ・・・、まだ涙の意味も知らない妹達が涙を流し、お嬢様が床に伏す・・・。
 そんな事が認められるか!!!」

そう、笑顔を消したポーランさんは激昂し、腰の後ろで手を組み捲くし立てるように言葉の弾丸を私に叩きつける。

「ロベルタメイド長!
 私は今怒こっている!完膚なきまでに怒っている!!途方も無く怒っている!!!
 まるですべてを失っても、憎しみだけが消えぬというほどに怒っている!!!!

 だから・・・、代価をよこせ。
 姉妹達をその戦場に連れて行き、立派に運用しつくせ。
 ・・・、これはお前だけの戦ではないメイド長、これは私たち全員の戦・・・、
 お嬢様の下に生まれた者、現在数123名の戦だ!」

そういうポーランさんを私は冷ややかに見下し、今の言葉を頭のかなで反芻しながら、

「その代価は支払えません。
 今の言葉はポーランさんの言葉であって、他の方の総意ではありません。
 そのような状況で、他の皆さんを連れて行くことは憚られます。

そう言うと、ポーランさんは静かに目を閉じて。
ニィッと頬の肉をゆがめて口を吊り上げながら、

「舐めてもらっては困る。
 今までの会話はすべて私からすべての姉妹に念話で流し、そして、先ほどの決定もすべての姉妹の総意。
 お嬢様が伏している今、そのお嬢様を護るのに何の躊躇いがいる?
 それに、支払いが無いなら私達は動かないよ。」

そういうポーランさんに絶句していると、私の方の他の姉妹からの念話が入ってきます。
そして、そのどれもが今の状況に対する憤りと私を戦場に連れて行けと言う旨の声。
その声を聞きながら、頭の片隅にあったポーランさんの役職を思い出す。

参謀長件指揮官・・・、そして、この方もまた初期の5名の1人。
なるほど、権謀数術は彼女の領分で姉妹を味方につけ、
数を操る彼女に逆らう術は、今の私にはありません。

「解りました・・・、代価の支払いを厳守します。
 なので・・・、本日中にお願いします。」

そう言い、着込んでいる服を脱いで寝台に横たわると、
ポーランさんは、何処か悲しそうな瞳で私を見ながら静かに口を開き、

「謝罪はしない・・・、許しもいらない・・・。
 ただ、そう、ただメイド長はメイド長のままでいて欲しい。」

静かに目を閉じた私は、そのポーランさんの声を聞きながら、
これからの行動を頭に思い描きつつ、

「私は私ですよ、ポーランさん。
 それに、今謝罪するのはずるい。」

そう言い、私は意識を手放します。
ただ、その意識を手放す間際にスッと頭をなでられた感覚が・・・。


ーside砦ー


「ねぇ、ジュアお姉さんの方は食べれなかったし、
 お婆さんの死体も、ジュアがどこかに送り出しちゃって、食べ損なったから僕はお腹がすいているんだ。
 ・・・、そろそろ君を食べていいかな?」

そうシーナが私に問うてくる。
忌々しい事だ・・・、あの花畑に置いて来た娘の死体を回収し様と思えば死体は無く、
仕方なく、シーナの持ってきた死後数日を持っても腐らない死体を、
邪神のとは言え、奇跡の残り香が宿った可能性があると思い、
報告書と共に傭兵を使ってフランスに送り出した。

「シーナ、私を食らうというか・・・。
 あの娘の死体は忽然と消えた、それならば、いずれまた廻り合う。
 今は待つ事を覚えよ。」

そう、シーナに告げると。
シーナは値踏みするように私の方を見ながら、チロリと唇を舐め、

「ふ~ん・・・、間違って君を食べる前に来るといいね娘さんが。」

そう言って、シーナは踵を返して私の元を去る。
あれもそろそろ潮時なのかもしれない・・・。
あの娘が復活を果たしたかは酷く微妙な事だが、死体が無い以上何らかの方法で復活を果たしたのだろう。
それならば、そう、それならばあの怒り狂った娘はまた私たちの元に姿を現す。

そして、次に姿を現したときこそ、私がフランスへと帰還するとき・・・。
あの娘の攻撃を、アーチェを使って掻い潜りフランスまで誘導し、
神おわす土地であの娘を捕らえ、我等の新たの力とする。

1度負けたあの娘では、シーナを倒す事は多分出来ないだろう。
ならば、あの娘が現れると共に、早々に聖遺物を回収するのが得策か・・・。
なんにせよ・・・、そう、なんにせよ全ては千年よりも前に始まり、旅立った者達は未だに帰還しない。
ただ唯一の眉唾は、マグダウェル家のシーニアスと言う男の言った、新世界は機能しているという事だけか。

しかし、あの男もまた、不貞の輩・・・。
なんにせよ、いずれ答えは出るそれが今よりどれほど先になろうとも。
十字軍を再編し、聖地を奪還するそのときに。
そう考えながら、アーチェの元を目指し石造りの廊下を進む。


花畑の一件以来、ジュアのヤロウはなぜか正気に戻った。
いや、今の状態が正気なのかは解らないが、それでも、まともに話ができるようになった。
でも、代わりにシーナのヤロウが、少しずつだが狂い始めているような気がする。
それをどうにか止められないものかと思うが、頭の悪い俺ではいい案が思い浮かばねぇ。
そんな中で唯一の希望は、シーナが何時もつれていて正気に戻ったらしいジュアのヤロウだけか。
そう自室で考えていると、部屋にジュアのヤロウが現れて、

「アーチェ、話がある。」

そう口を開き、勝手にイスに座りやがる。
しかし、俺はどうもこの男があまり好きにはなれない。
この男からは、何処か気の抜けない気配が常に漂い続けている。

「珍しいな、お前からここに来るのは。
 で、話しはなんだ?」

そう聞くと、ジュアのヤロウは俺を、いや、正確には俺の鎧を嘗め回すように見つめながら口を開き、

「そろそろシーナが限界に近い。」

そう話を切り出す。
しかし、限界とはどういうことだ?
アイツは今日もちゃんと飯を食って、何時ものようにフラフラとほっつき歩いている。
そんな状態で来る限界って・・・、なんだ?

「どういう意味だ?」

そう聞くと、ジュアは重苦しい声で、

「お前にも解っているはずだ、シーナがここ数日で急速に正気でなくなっていることが。
 何時シーナが暴走するか・・・、それは私にも解らな・・・。」

「どうすればいい!!
 どうすりゃあシーナを・・・、弟を助けられる!!」

そう、ジュアのヤロウに詰め寄れば、シュアのヤロウは眉1つ動かさず重苦しい声で、

「時が来ればどうにかしよう。
 ただ、それにはお前たちが倒した娘の死体がいる。」

そう、ジュアのヤロウが静かに語る。
一体あの娘の死体がなんになるのか、そんな事は知った事じゃねぇ!
頭の悪い俺じゃ、いくら考えても、どうすりゃシーナがまともに戻るかもわからねぇ!!

「あの花畑か!
 あの娘の死体はあそこにおいてきた、あそこに行けば!!」

そう思って、イスか倒れるのも気に留めず、
部屋を出て花畑に向かおうと、ジュアの横をすり抜けて歩き出せば、
ジュアのヤロウが俺の手をとって引き止め、何事かと思って振り向けば、

「無駄だアーチェ。
 あの娘の死体は花畑には無い。」

そんなフザケタ事を抜かしやがる!
こいつは正気に戻ったと思ったが、まだ頭の中はイカレタままなのかも知れない。

「バカいうなジュア!
 アレだけきっちり殺しといて、死体がねぇわけねぇだろ!!」

そうジュアの胸倉をつかんで、息がかかるほどの距離で言えば、
地面に足のついていないジュアはしかし、はっきりとした声で息のし辛そうな雰囲気も無く、

「しかし、確かに死体はないのだアーチェ。
 よく考えろ、お前の刺した止めは、あの娘の止めとなりえるのか?」

そう静かにジュアは俺に聞いてくる。
俺の一撃があの娘の止めになるのか・・・?
どうなのだろう、腕を切り飛ばせば、何事も無いかのように体に腕をくっつけて襲い掛かり、
シーナが娘の頭を消し飛ばしても、俺の脚をつかんで見せた。
その娘が、俺が体を貫いた事で絶命するのか・・・?

「あの娘は生きている?」

そう、自身でも否定したい答えが俺の口から紡がれる。
そして、ジュアは俺の答えに満足したかのようにうなずき、

「あぁ、アレは生きているのだろう。
 ならば、いずれアレはここに攻めてくる。
 アレほどまでに怒り狂った娘なら、いかなる法を使っても必ずここに攻め込んでくる。」

娘に恨みはない。
だが、弟を助けるためには、どうやら娘の体がいるらしい。
そして、その娘は俺達の所に責めてくる。
シーナがあの娘から、どんな怒りを買ったのかは知らない。
だが!

「あの娘・・・、次に会った時には確実に死んでもらおう。
 それが、身勝手でも、シーナを救うにはそれしか法が無いのなら。」

そう言いながら、ジュアを放し俺は戦の準備を始めなければならない。
何時来るのか、あの狂ったままの状態で来るのか、それとも、もっと他か・・・。
そう思っていると、ジュアガサリ際に口を開き、

「使える兵は全て使おう。
 逃げ出すならそれでもかまわないが、一時の楯ぐらいにはなるだろう。」

そう言いながらジュアは俺の部屋を出て行った。


ーside店ー


ロベルタが魔法球に篭って数時間。
東の空は白み始め、先ほど雌鳥が朝を告げるように高らかに叫び声をあげた。
そして、その叫び声と共に、ロベルタはコチラではあまり着ていなかったメイド服を着て魔法球より帰館し、
『多少遅くなりました』と言った後、寝ているエヴァの枕元に行くと、何かを書き出した。

「何をしているんだ?」

そうロベルタの背に声を投げかけると、ロベルタは俺の方を振り返る事無く口を開き、

「ドール契約の陣を書いています。」

そう素っ気無く彼女は俺に言葉を返した。
しかし、彼女の言葉には1つ聞き逃せない言葉がある。

「ドール契約、何故そんなものを今頃?
 それに、そんな事を君の一存で勝手にして、一体何をする気だ。」

そう聞くと、ロベルタはスッと目だけを動かして俺の事を見て、

「これより私達は出かけます。
 何時帰れるかは解りませんが、できればお嬢様の目覚めには立ち会いたいものです。
 それに、できればこんな無理な形で契約はしたくなかった・・・。」

そう呟いてロベルタは、エヴァの口についばむ様な口づけを行い、
契約を完了させ、魔法球にカバンをしまうと部屋を出ようとする。
しかし、俺も早々そんな彼女を見過ごすことは出来ない。

「待てロベルタ、何をする気かは知らないが、君1人で何ができる。
 もし仮にエヴァの敵討ちを1人でしに行くと言うのなら、それはあまりにも無謀だ。」

立ち去ろうとするロベルタの手をつかんで声をかけると、ロベルタは俺の手を強引に振りほどきながら、

「無謀を承知の上での行動です。
 それに、私は1人ではありません。」

そう言うと、ロベルタはスッとカバンに目をやり、

「私"達"の意思です。
 私達は今の状況を指を銜えて見ていられるほど・・・、大人じゃない。
 だからこそ、私達は私達のできることをする。」

そうロベルタは言い放ち、部屋を出て行く。

「待て!君はエヴァから離れられないだろう!」

そう言う俺が言うと、ロベルタは駆け出しながら、

「ご心配には及びません。
 それは無理やりにでも打開させていただきました。」

そう言いながら、朝霧漂う町を駆けていく。
そんな彼女の背中を見ながら口を付いて出た言葉は、

「・・・、クソ!」

そういった罵倒の言葉。
いや、今の俺は彼女の行動力が羨ましいのかも知れない。
エヴァを傷つけた敵を見つけるために、駆け出す方法を得た彼女の事が。
だが、俺はまだ今は駆けだせない。

いくら怒り狂おうとも、いくら彼女のように駆け出したくとも、
今の俺は、まだそれはできない。
少なくとも、エヴァが目覚めるその時までは、俺は彼女の元を離れる気は・・・、ない。
そう思い、部屋に戻り何時ものようにイスに座り寝ているエヴァを見守る。
そして、日も高くなり昼になった頃、

「う・・・、あ・・・。」

そう言った喘ぎと共に、堅く閉ざされていたエヴァの瞼が開かれた。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.030949115753174