良い日旅立ち・・・炎上な第5話
・・・・じ、・・・・・るじ・・・・・
誰かが呼ぶ声がする。なんだか前にもあったような気がするが誰だろう、俺の眠りを覚ますのは。
「主そろそろ起きて下さい。」
目を開けるとそこには
「知ってる顔だ。って、チャチャゼロ?」
目を開けるとそこにはチャチャゼロ人形の顔があった。
はて?なぜにチャチャゼロ?我が騎士は?ディルムッドは?
そう思い混乱していると。チャチャゼロが話し出した。
「取りあえず落ち着いてください主。今のこの姿は仕方がなかったとしか言いようがないのです。」
そういいながらチャチャゼロは短い手足を使いベッドの横に立ち、人の姿になり方膝を突いて今の状況を話し出した。
「あの姿は主のためを思い、霊体化して魔力の温存に勤めようとした結果のなのです。
それと、あまり良い知らせではないのですが、今の私は英霊の座との繋がりが断絶しています。
どうかお許しを主。私はあなたの騎士になると誓ったのに、もう英霊でもなくただの魂宿る人形になってしまったのです。」
そう語り終わったディルムッドは悲痛な面持ちで頭を垂れている。下手に突付けば壊れてしまいそうだ。
ふむ、コイツないったい何に対して謝っているのだろう?わけが分からない。
「取りあえずディルムッドキサマはなにかを勘違いしてないか?
私はディルムッド・オディナと言う存在を騎士として認め、従者として雇い入れたのであって、
べつにそれが英霊であろうと無かろうと関係ない。それに、人形だろうと何だろうとキサマと言う魂がそこに宿り、
息づいているのなら問題なかろう?」
そういってやると、ディルムッドの顔が見る見るうちに明るくなっていく。
まるで、先ほどまでの憂鬱で今にも死そうな顔が嘘そだったかのように。
「主、私は貴女の手をとって良かった。本当に良かった。
私は、貴女の為の騎士で居られるのですね?」
嬉しいのは分かるが、そんなに近づけるな。男の顔をドアップで見たくない。
取りあえずディルムッドに「あぁ」と返事を返して。ふと思った事がある。
コイツを騎士と扱うのは問題ない。チャチャゼロ人形に化けれるのは、多分依り代がチャチャゼロだからだろう。
それはいいのだが、武器や宝具関連はどうなっているのだろう、聞いてみるか。
「現状を詳しく聞きたいからこれから言う事に答えてくれ。先ずは武器・・・、つまり宝具の事だが今の貴様は使えるのか?
後、英霊の座との断絶の影響は何かあるか?」
そう聞くと、ディルムッドは自らの宝具である二槍を取り出して見せた。
「主は私を呼ぶとき私の四つの武器を媒体に呼ばれた。すなわち二槍のゲイ・ボウ、ゲイ・ジャルク、双剣のモラルタ、ベガルタ。
しかし、今の私は二槍は使えても双剣は使えません。二槍は常時展開は出来ず真名の開放型になり、双剣に関しては使えないと言うよりも、
私の依り代である人形を守るかのように表面に漂い形作れ無いのです。それと座との断絶の影響は特に感じませんが、
スキルの魅惑の黒子は無くなっています。最後に、私は霊体にはなれません。なれるのはあの人形、チャチャゼロでしたか?
それだけです。むしろ、あの人形の身体が動きやすく、人の姿だと若干動きが悪いようにも感じます。」
聞いたかぎりだと、かなりオイシイ状態じゃないか。代価に差し出したのが双剣の使用不可能状態と、スキル一個の消滅、それと若干の動き辛さ。
もともと、黒子を傷つけた時点で、このスキルが無くなるのは分かっていたし、むしろなくなってよかったと言える。
動き辛さはディルムッドに任せて任意で姿を変えてもらえば良い。槍に関しても、開放すれば使える。
ここまで見るとトータル的に見て神様は割りと俺の事が好きらしい。
後は、あのゲスに復讐さえ出来れば俺は晴れて自由の身だ。
「聞いたかぎりだと、そこまで問題は無いようだな。魂も有りキサマを不幸にした黒子は消えた。
双剣は依り代を守ってくれる、良いことずくめじゃないか。さて、現状の確認は済んだ。
私はこれから新世界に旅立予定だが何か質問は?」
そういうとディルムッドやや考えこみ口を開いた。
「主が旅をするというのは分かったが、新世界とはどこです?」
考えてみればそうだった、コイツはここがどんなビックリ世界か知らないんだった。
取りあえず、それは新世界についてからでも話そう。口で言ってもそうそうこのビックリ世界は語りつくせない。
何せ、一般人でも頑張り次第では魔法を使ったり気を使ったり出来るのだし。
「取りあえず行けば分かる。それと、今からキサマの事をチャチャゼロと呼ぶ。キサマは私の事をエヴァと呼べ。」
そういって旅支度をしようとベッドから降りると、またションボリ顔のディルムッドと目が合う。
今度はいったい何かと思い聞こうとしたら。
「主・・・主の事を呼び捨てにするなど出来ません。
それに出来れば私の事もディルムッド、もしくはオディナと呼んではいただけませんか?」
ふむ、名前が今度は気に入らないと・・・。
割かし注文の多い奴だが、これは譲れないな。
「却下だ。チャチャゼロ、私が強欲なのは言ったな?キサマは私だけの騎士だ。
その騎士がおいそれとそこいらの雑兵に対して名乗りを上げるのは我慢ならん。だが、安心しろ。
私は、キサマが名乗りを上げるに相応しい相手と敵対した時には名乗りを上げさせる。その戦いの結果こそが私に対する忠義の証だ。
それに、日常生活で主などと呼ばれるのは疲れるし、これから私とお前は主従関係だけではなくパートナーだ。
共に悠久の時を歩み常に背中を預けるパートナーだ。ならば遠慮は不要だ、ゆえに私の事はエヴァと呼び、今を生きる事を楽しめ。」
それを聞いたディルムッドはやや考え込んだ後、
「はいわか・・・・、いや、了解したよエヴァ。」
それを聞いた後の行動は早かった。
ディルムッドには食料と、私と奴の背丈に合う服。それと金品を探させ、俺は地下に旅行の必需品である鞄をとりにいった。
この鞄は血の知識が教えてくれたのだが、新世界の魔法工芸品で鞄の中にいくらでも物が詰め込めると言う、一種の四次元ポケットも様な物だ。
これが置いてある場所は地下にある書庫だったので、ついでにその書庫にある本や巻物などを片っ端から詰め込んでいった。
そうこうしていると後ろから声がした。
「エヴァ、荷物は取りあえず集めて上の部屋においてある、ほかは何かやる事はあるか?」
やることか・・・、あぁ、一つあった。あの部屋を燃やそう。
もともと旅立つ時はこの屋敷を燃やすつもりだった。なら、あの部屋を念入りに燃やそう。
私と俺とが入れ替わったあの部屋を、俺とコイツが出会ったあの部屋を。あの、俺が生まれてからの濃い記憶が詰まった、
あのほの暗く悲惨な部屋をすべて燃やしてしまおう。
「キサマを呼んだ部屋があったな、あの部屋に酒が置いてあるから撒いておいてくれ。
出来れば、もう3~5本追加して。」
それを聞いてディルムッドは不審な顔をしながらも答えてくれた。
「あぁ、分かった。酒は厨房に沢山あったから、それを撒こう。少しもったいない気もするがな。」
さて、ディルムッドに支持を出しながらも進めていた、書庫の本の詰め込み作業は全部詰め込めたので終了。
後は宝物庫からお宝を突っ込むだけだ。そう思い、宝物庫の中にある宝石やら金やら銀やらを詰め込んでいると、ふと目に付いた物があった。
全体的に銀色で長さが大体20cmぐらいの棒状の物。
「キセルか・・・。懐かしいな、前は何度かこれでタバコを吸った事もあったし・・・、これは手持ちで行くか。」
そう言いながら懐にキセルを突っ込む。これは、家を焼く前にタバコの葉を探さないといけない。
そう思いながら詰め込んでいると液体をこぼす音がしてきた。あぁ、ディルムッドが酒を撒いているのだろう。
そして、お互いの作業が済んだので階段の前で合流する。
「終わったかチャチャゼロ?」
「あぁ、おわったよ。しかし、何であそこに酒なんて撒いたんだ?
しかも、元から置いてあった一本は割と度数の高い奴だったみたいだが。」
まぁ、何も無い地下室に酒など撒いたら不振で仕方ないだろう。
が、その前にディルムッドには、やってもらわなければならない事がある。
「チャチャゼロ、取りあえずなにか適当な服に着替えてくれ。これから向かうのは近くの森だが、それでも町は通る。
なのにその格好は不自然だ。」
ディルムッドはいつもの軽鎧姿のままでキョトンとしている。まさかのたわけは自身の格好がおかしくないとでも思っているのだろうか?
確かに、今の時代こんな格好をするやつもいるが、貴族である俺と一緒と言うのが不味い。
せめて正装をしてもらわないと、この後の事がいろいろと面倒になる。
「着替えるのは構わないのだが、一体どんな服装が良い?
俺は生前戦いばかりで、あいにく服の知識はあんまり無いんだ。」
ふむ、まぁ、英霊になれるわけだからそれだけ戦っていたのだろうし、その過程では服に気を配る事も無かったのだろう。
おまけに黒子のおかげで女性は勝手に寄ってくる・・・。どこのエロゲーの主人公だコイツ。はぁ、まぁ、いいかそんな事。
そう階段を上がりながら考えて、出たのはエヴァのパパであるヴァレンタインの書斎。
取りあえずここでディルムッドが持ってきた服の山から、タキシードと机の上でキセル用の刻みタバコが見つかったので、
ディルムッドにタキシードを渡し、俺は部屋の外に出て刻みタバコをキセルにセットし慎重に魔法で火をつける。
確かに、これならライターの方が楽だ。もう名前も思いだせない俺はどうやら愛煙家だったらしい。出てくる情報ではよくタバコを吸っている。
そう思いながらキセルから一吸い。紫煙を肺に入れれば、どことなく懐かしさがこみ上げてくる。
煙を吐きながらそんな事を考えていると着替えたディルムッドが出てきた。
「エヴァ着替え終わったがどこか変な・・・・・、いったい何を吸っているんだ?」
ディルムッドは基本的に美形なので、タキシードも良く似合っている。
ただ鏡が無かったせいか、ネクタイが曲がっているので直してやるとしよう。
「タイが曲がっているぞ。直してやるから身体をかがめろ。それと、吸っているのはタバコと言う趣向品だ。」
そう言ってやるとディルムッドは素直に身をかがめてネクタイが手に届く位置まで来たので直してやる。
その後はディルムッドが用意した荷物を鞄にしまい準備完了。
さて、これで出発できる。
「さて、私たちはこれから旅立つ訳だが。旅立つに際してこの屋敷を焼く。
もう、ここには戻ってくる気は無い、忘れ物は無いか?」
「俺はここに来たばかりなので特にはなにも・・・・。しかし、どうしてこの立派な屋敷を焼き払うんだ?」
まぁ、不思議だろうな。まかりなりにもこの屋敷は立派だ。
むしろ、お城といってもいいぐらい立派だ。だからこそ、ここに勤めていた使用人たちに迷惑がかかる。
今のご時世不吉な噂が立てばその噂の場所に居た人間まで不吉な物とされかねない。
だからこそ、屋敷を燃やし何があったか分からないようにするのがいい。
「今のご時世いろいろと面倒なんだよ。
特に、吸血鬼なんて化け物が巣食っていた屋敷に勤めていた人間なんぞ同類と見られて殺されるかもしれん。
だからこそ屋敷を焼き、何もなくす。幸い私は吸血鬼になり立てだ。歳だって見た目どおり十になったばかりだ。
だからこそ、証拠さえなければ下手な噂も立たない。それに、この屋敷には憎しみしかない。私を真祖にしたゲスと父親に対してのな。」
今の言葉を聞いてディルムッドはなにやらブツブツ言っている。
たまに『エヴァが10歳だと!』とか、『真祖になった?』や、聞き捨てならないのが『エヴァたんハァハァ』だったがあえて無視した。
まぁ、何かあるなら後で聞いてくるだろう。そう思っていると、ディルムッドが口を開いてきた。
「エヴァ、今言った事は本当なのか?真祖にされたとか吸血鬼になり立てだとか・・・・・、
これが一番疑問なんだが、エヴァがまだ10歳だとか。」
なかなかこいつも言ってくれる。しかも、一番最後の質問が一番信じられないというかのように。
まぁ、中身の俺は少なくともエヴァの倍は今の時点で生きてる訳だから、仕方ないといえば仕方ないがなかなか傷つくな。
「今言った事はすべて本当だ。真祖にされたのも吸血鬼なのも、私が10歳なのもな。
私は10歳の誕生日の日まで何も知らない普通の女の子だったが、ゲスが・・・、伯父であるシーニアスと父であるヴァレンタインに気がつくと、
吸血鬼の真祖にされてしまっていた。いや、父もゲスに殺されたから憎むべき復讐相手はシーニアスになる。」
そういい終わると、ディルムッドは神妙な顔で話し出した。
「すまない。エヴァがそんな境遇だとは思っても無かった・・・・。
これから旅立つのは、そのシーニアスとか言う伯父を殺すためなのか?」
ふむ、今の状況であのゲスと戦って勝てるかと聞かれれば微妙だ。真祖というアドバンテージとディルムッドという破格の手札。
勝てない事は無いと思う。だが、この復讐劇でディルムッドという手札は切りたく無い。
これは俺から私への手向けの復讐なのだから、俺の手でしなければ意味が無い。
だからこそ今から俺は新世界に行って、魔法学校に入るつもりなのだし。
「いや、今はまだ駄目だ。この復讐は私の手でやってこそ意味のある事だ。しかし、私は弱い。
真祖といえど生まれたてで、何が出来るのかも分からない。シーニアスは、まかりなりにも私を真祖にするだけの知識がある。
だから一筋縄ではいかんだろうし、私は魔力はあるが魔法を知らない。だからこそ、私は力をつける。
新世界に行くのは魔法の修行のためだ。チャチャゼロ、私の復讐のために力を貸せ。」
そういうと、ディルムッドは笑いながら
「エヴァの願いは俺の願いでもある、すべては我が君が思うままに。」
そう言うと、胸に片手を当てて一礼した。
よし、これで全ての準備は整った後は火をつけるだけ。
「エメト・メト・メメント・モリ 火よ灯れ」
最初にミスをして火柱が出た呪文だったが、今はそれがありがたい。
そして最初に居た書斎から地下に下りて、酒を撒いた部屋でキセルを手に持ち杖のようにふってやると火柱が出た。
火をつけた後は地上に戻り出口に向かうまでの間に、何度か呪文を唱える。
そして今、俺と鞄を持ったディルムッドは燃え落ちる屋敷を眺めている。
火は俺が予想していたよりも早く回り、今はもうその屋敷全体を包んでいる。
先ほどまで振っていたキセルに、また葉を詰め火をつけて一服。未練は無い。例え今それがエヴァが生まれて死に、
俺がエヴァとして生まれた場所だとしても。そういえば、俺は始めてこの屋敷から出たんだなと星を眺めながら考えて、
そんな感傷も今は要らないと思い頭を軽く振って言葉を発した。
「行くぞチャチャゼロ。」
短くそう言って歩き出すとディルムッドは素直に後をついてくる。
ややあって俺の横に並び口を開いた。
「行くのはいいんだが一体どこへ?
新世界とかいう所は歩いていける所なのか?」
ふむ、確かに疑問だろう。が、原作知識とあのゲスの知識のおかげでそれは解決している。
ただ、今から向かうのは転送ポートでは無く、あのゲスの隠れ家のうちの一つ。シーニアスの知識では治療系の魔法は出てこないので、
習得していないか、苦手なのだろう。あの怪我で隠れ家でのうのうとしているとは考えられないから、奴の隠れ家にいけるのだが。
今のまま、あの転送ポートに行けば少なくとも迷う。さらに言えば、この膨大な魔力量のおかげで真祖という事がばれかねない。
なので、あのゲスの隠れ家で奪う物がある。
1つは転送ポートまでの地図。場所が異界と言われるだけあって、血もあやふやな知識しか出さない。
行くまでの知識手順はちゃんと知識として出てくるから面倒は多少省けるのだが。2つ目は魔力を抑えるアイテム。
これは、奴がそのうち私につけようと作っていたもので、後一歩で完成という所。
完成してしまえば強力な効果を発揮するらしいが、魔法を知らない俺ではどうすれば完成か分からない。
だが、今はそれで良い。未完成だからこそ効果は半減するだろう。
「新世界に行くには転送ポートを使わないといけない。
だから、そのために必要な物を奪いに行く。場所は森の中のシーニアスの隠れ家だ。」
「シーニアス・・・、復讐相手の隠れ家なんかに乗り込んで大丈夫なのか?
いきなり戦闘とかになるかもしれないぞ?」
そういうと、鞄を持ち歩いているディルムッドは開いているほうの手を見て拳を作っている。
多分戦闘で活躍していい所を見せようとしているのだろう。
まぁ、ぬか喜びさせるのも悪い先に話しておこう。
「一応は安全だと思う。ゲスには深手を負わせているし治療系の魔法は使えないようだ。
それに今から行く隠れ家は研究用の道具はあっても、治療用の道具は無いらしい。」
そういうと、ディルムッド多少驚いたような顔になり疑問を口にした。
「行った事あるのか、その隠れ家に?やけに詳しいみたいだが。」
当然と言えば当然の疑問か。それとも、コイツは私が吸血鬼と言う事を忘れているのか。
それともこいつの知っている吸血鬼はこんな能力が無いのか。
まぁ、吸血鬼と好き好んで話し事も無いから知らないのだろう。
「吸血鬼は血を吸う事で、相手の血に刻んである知識を読み取ることが出来る。
しかし、私はまだ未熟なのか血の量が少ないと得られる知識が減る。隠れ家や何やらのことを知っているのはそのせいだ・・・。
先に言っておくが私はゲスの奪った腕から血を吸ったのであって、ゲスから直接吸った訳ではない。
それと、お前の血からは何も読み取れなかった。理由は不明だが、まぁ、人でないのはお互い様だ何かしらの理由があるのだろう。」
そう話している内に町を抜け、うっそうと木々の生い茂る森の入り口に着き、中に歩を進める。
月明かりをさえぎり、辺りは光も無いのに、普通に辺りが見えると言うのは便利だ。
ディルムッドの方は夜目が利いているのだろう、俺と同じ速度でついてくる。
そして、ようやくシーニアスの隠れ家に着いて扉を開ける。
「危ない!!」
そう言ってディルムッドは持っていた鞄を下から上へ振り上げた。扉を開けて飛んできたのは3本の矢。
それぞれ内臓、心臓、眉間と狙ってきたのだろうが、俺の背が低いため当たるのは内臓を狙って撃たれた矢のみ。
それも、俺は目で追えていたし、取ろうと思えば簡単に取れた。だが、それをしなかったのはした方が危なかったからだ、
あのまま動いていればディルムッドが振った鞄で手を強打していただろう。
「大丈夫かエヴァ、怪我は無いか?」
「あぁ、大丈夫だお前がすべて叩き落したからな。礼を言うぞ。」
そういうと、ディルムッドはまだ罠があるかもしれないと先に入っていった。俺もそれに続くように中に入る。
中の広さはそんなに広くない。ただ、散らかっている。ゴミではなくかつて人だったモノで。
辺りにはミイラ化した死体や生乾きの死体、ほかにも体の一部が無かったりと多種多様な散らかりざまだ。
あのゲスは本当に人を胸糞悪くするのがお好きらしい。ディルムッドの顔も心なしか顔をしかめている。
「とっとと探してここを燃やすぞ。」
「あぁ」
そうお互い短く言い合い辺りを探す。程なくして探していた二つは見つかった。嬉しい誤算は新世界の地図が一緒に手に入った事。
いくら原作を知っていても地名などまでは覚えていない。もう一つの魔力を抑えるアイテムは指輪の形をしていた。
ただ、これは俺の指には大きく直ぐ外れて危ないので、紐で縛り首から提げている。これでも効果を発揮してくれるらしく、
周りを漂っていた魔力はどこかに行ってしまった。ただ、誤算なのはディルムッドが魔力が足りなくて人の姿になれないという事だろう。
まぁ、身体は動かせるようだからいいのだが本人は落ち込んでいた。そして、隠れ家にあったローブをお互いに纏い。
隠れ家の外に出て火をつけて後にする。ディルムッドは人形のままでは鞄が持てないので、俺が持っている。
そして、転送ポートのある所まで歩く。チャチャゼロは原作では空を飛んでいたので試しに聞いてみたら飛べないとの事。
多分そういう術式を人形に彫りこんでいないからだろう。そうして、途中で休憩を挟んで歩き続け朝霧が出始めた頃、
ようやく転送ポートに着き正式な手続きをして新世界に無事に飛ぶことが出来た。
「エヴァ・・・・、これが新世界という所なのか・・・。」
「あぁ、多分そうだろう・・・・しかし、これはなかなか・・・。」
新世界について早々見たのは空を飛ぶ巨大な竜の大群。
あたりをも回しても獣人やら、見た事の無い妖精っぽいものまで居る。
原作でも人種の坩堝簿だと思っていたが、ここまでカオスだとは。
考えてみればネギはオコジョ妖精を持っているし、出てくるキャラクターは悪魔や鬼、あるいは神までも出演する作品なのだ。
ついでに言えば俺はその神すらも軽く殺せる性能を秘めている・・・・。
なんか頭痛くなってきた。
「まるで神代にでも戻ったかのようだな。ここまで神秘が溢れているとは・・・。」
ディルムッドは素直に感動しているようだ。
俺も何も知らなければ感動できただろう。だが、今だけは俺の知識が恨めしい。
あればあるほど危険への対処は出来るが代わりに、何が出てくるか分からないパンドラの箱にも思える。
「はぁ、とりあえず魔法学術都市アリアドネーに向かおう。少なくとも、そこなら魔法を学べる所もあるだろう。」
そういって感動したまま辺りを見ているディルムッドをズルズル引っ張って歩く。
程なくして、
「ハッ、俺はいったい何を・・・って、すまないエヴァ手を放してくれないか。
あまりにも感動して意識を飛ばしていたようだ。」
そう言われて放してやる。
そうするとヨチヨチと歩き出す、見ていると可愛いのだが今ので『コイツ大丈夫か?』と思ってしまった。
まぁ、楽しいのなら楽しいで構わないのだが。
ついでに、ここがどんなトンでも世界か話しておいてやろう。
そう思い歩きながら口を開く。
「感動するのは構わんが覚えておけ。ここはお前が考えているような甘い世界ではない。
少なくとも奴隷制度はあるし、賞金稼ぎも居る。それだけは無く住んでいる人間事態が旧世界、
新世界ともに半端ない強さを持っている可能性もある。楽しむのは構わんが気をつけておけよ。」
そういうと、実にディルムッドは楽しそうにしている。チャチャゼロの姿だが
なんとなくその表情が笑っているように見える。
「ここはそんな所なのか・・・・、すごく楽しみじゃないか。
エヴァ、俺は必ず君を守り誓いを果たそう。例えどんなに相手が強くとも俺の双槍をもって貫いてみせる。」
とりあえず、やる気は出たようだ。まぁ、ケルトの戦士は戦い好きで風のように戦場を駆け。
敵と対峙してもその敵を認めればともに酒を酌み交わすように気質だ。
なら、コイツにとってこの世界は最高なのだろう。
使えるべき主が居て、戦うべき敵が居て。
それならばやってもらう事は多いな。
「取りあえずは、学校に入学できてからだ。
キサマにもたっぷりしてもらう事があるんだから覚悟しろ。」
そういいながら、転送ポートの近くにあった換金屋で金貨を換金して資金を調達して、
近くのワイバーンを使ったタクシーのような施設に行き金を払い魔法学術都市アリアドネーの都市を目指す。