ありふれた悲劇だな第59話
一体何が・・・、起こっている?
頭をよぎるその言葉をよそに、花畑を疾走する。
エマが何故あんなに戦えるのか、男たちがなんであんなに必死なのか。
息の上がっているエマはもう長くは持たない。
それに加え、片腕を蹴りでダメにされたのか、力なく垂れ下がっている。
クソ!自身が呆けていた時間が恨めしい!
何故、俺はすぐにエマの背を追う事ができなかった?
何故、俺は今の1歩目を踏み出すのにこんなにも手間取った?
そんな無駄な事を考えるのは後回しだ、眼前に見える死合いを見ろ。
どう動けば、俺はエマを救えるかを行動で示せ!
無駄な思考をすべてカットして、必要な事だけを選択しろ!!
「そろそろ死んどけ。」
そうやる気なく言葉を吐きながら、ばぁさんの心臓めがけて体ごと突っ込みながら突きを放つ。
まぁ、避けられたなら、後は俺の後ろにいる長身のヤロウが、逃げたばぁさんの首を刎ねてお終いだろう。
はぁ~あ、これでクソ面倒くせーばぁさんともお別れで、とっとと酒場に駆け込んで、
ぬるいビールでもかっ喰らってから、娼館にでも駆け込んで憂さ晴らしでもするか。
そんな事を、頭の片隅で考えながら放った突きを、ばぁさんは後ろにステップを踏んで交わす。
後ろに下がるのを見た瞬間、俺は一気に片膝を地につき、後ろの長身の踏み台替わりになれば、
長身のヤロウは遠慮無しに俺の背を思いっきり踏んで、飛び掛りながら、
「悪いな、詰みだ。」
そう言いながら、長身の男がばぁさんに切りかかる。
これで、本当に終いで奇跡でも起きない限りは、後はシーナさんの自由になる。
まぁ、背中を踏まれて顔が下がったおかげで、ばぁさんの最後は見れないが、誰もそんなもの好き好んで見なくてもいい。
ガキンッ!!
「なぁ!!」
そう、奇妙な音がしたと思って急いで顔を上げれば、さっきのばぁさんとは違うヤツの背中と、
長身が放った剣がそいつの体に触れる事無く、空中で止まっている姿。
白く長い髪からして、今見ている背中はあの娘のものだろう。
だが、そんなこたぁどうでもいい、大事なのは剣が触ってもいないのに止められたことだ。
チッ、娘はばぁさんを抱すくめて俺たちに背を向けている。
それなら、今のうちに引くしなねぇ。
なにせ、コイツは!
「下がれ!魔法使いだ!」
そう言葉を吐いて、一気に後ろに飛ぶ。
クソ、厄日過ぎて泣けてくる。
俺達みたいな普通の傭兵じゃあ、魔法使いが本気を出しただけで殺されちまう!
戦場で見たあいつ等は、1人で何十人も殺すような化け物ばかりだった。
そんな化け物に切りかかって、おまけに連れを傷つけたんじゃ、ただで済むわけがねぇ!
「ありがとう、もういいよ?」
「あ?」
間に合う事はできた・・・。
ただ、丁寧さは足りなかったかもしれない。
なにせ、俺がつかんだのはエマの折れて垂れ下がった腕であり、
その腕を強引につかんで引き寄せたせいで、苦痛のためかエマは少し震えている。
だが、それでも彼女を護れた。
男の放った剣は障壁に阻まれ、俺の体に触れる事無く空中で止まり。
男たちは引く気配を見せている。
「よかっ・・・。」
そう声を出そうとして口を止め、エマの肩をつかみ一気に前に出そうとする。
誰かはわからない、だが今!
「遅いよ♪プラ・クテ ビギナル 障壁突破。」
女みたいな声がしたと思うと同時に、自身の胸に他人の腕が生える。
腕は的確に心臓を貫き、腕の太さのせいで近くの肺もずたボロにされ、
一気に食道を血が駆け上がり、
がはっ!!
そう、声にもならないような音と共に一気に血を吐き出す。
だが、そんな事はどうでもいい。再生出来る体なら、これは致命傷ではない。
そう思いながら、恐る恐る胸から生えた腕の先を見る前にその腕が抜かれ、
エマの軽い体が俺の方に倒れ掛かり、支えきれずに地面に座り込み抱きかかえる。
その際、スカート越しに太ももにぬるりと暖かい感触がし、顔は青白く口元からは血が垂れていて、それだけでもエマに傷があることがわかる。
どう助ける?クスリと治癒魔法を使えば軽い傷なら、そうじゃなくても俺の魔力量なら重症でも!
「無理だよ娘さん。
そのおばあさんの心臓はここだから。」
その声に顔を跳ね上げると、女みたいな顔の男が赤黒いものに噛み付き、
それから溢れでる赤黒いもので口と服を汚す。
・・・、何ができる?何をすればいい?何なら可能だ?
何をすればこの状況が打開できる?
クスリと治癒魔法・・・、却下。
部分欠損を補う薬はなく、構造が複雑な心臓部は再生不可能。
治癒魔法に関しては見込みがあるが、治癒であるため部分欠損を再生させる事が不可能。
人形のパーツを使い擬似心臓の作成かつ使用・・・、却下。
あくまで似たものは作れるが、時間及び手術するにも時間がかかりすぎている。
それだけでなくとも、高齢のエマでは耐え切れるとも思えない。
吸血鬼としての能力使用・・・、不明。
エマが非処女の場合、ドラキュリーナとしての復活の見込み及び心臓の再生が見込める。
ただし、エマの年齢及びあくまでエヴァである事を考えると何処までいけるかは不明。
ついでに、半吸血鬼している間に治療を施せば人に戻る。
現時点ではこれが一番確率が高い!!
フル回転する思考を体に流し込み、顎が外れるほどに大きく口を開いてエマの首筋に牙をたてる。
犬歯でブツリと割れた首の肉からは、生温かい血が溢れその血を牙で啜る。
お願いだ、助かってくれ・・・、どうか、どうかお願いだ助かってくれ・・・。
そう願いながら、エマの中からすべての血を啜り、
牙を首筋からはなし、吸血痕に魔力を向ける・・・。
どうか動いてくれ・・・、どうか、新たな心臓が生まれでて脈を打てくれ。
そう思いながら、瞼の開かないエマを見ていると、何処からとも無く無骨な男の声が耳に入った。
「見ろよ、あの女あんなに悲しそうな顔してるのに・・・、
涙1つ流さないんだぜ。」
その言葉と共に、自身の顔を両手で押さえる。
まだ、その男の声は何か言っているが後の言葉は耳に入ってこない。
自身の頬は乾いている・・・。
エマは今だ動かない・・・。
それはきっと・・・・、エマが死んでしまったということ・・・、だろう・・・・。
別れの言葉もなく、話す事少なく、寂しさを持たせたまま・・・。
彼女の温もりが・・・、指の間をすり抜けて・・・、いく・・・。
「う・・・、ああああああああああぁ・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「あはははは・・・・、まるで獣の咆哮だね。」
その声のする方には、赤黒く口と手と服を汚した男。
この男が・・・、この男がぁ!!!!!
ーside店ー
お嬢様達が花畑に行かれた昼下がり、店に魔法球を置いていってくださったので、私も外にいる事ができます。
それに、店が繁盛している今、お嬢様とエマさんの2人がおらず、私まで中に戻ってしまうと仕事が滞ってしまいます。
そんな事を考えながら、注文された服の布をノーラさんと選び、糸や型紙をチャチャゼロさんが作り一段落した頃。
「そろそろお茶にしませんか、お2人とも。」
そう、額を拭いながらノーラさんが声をかけ、
「そうだな、こっちもある程度は一段落したし、何より喉が渇いた。」
そう言いながら、チャチャゼロさんが襟元をパタパタさせながら顔を出す。
そろそろ初夏の装いと言うこともあって、だいぶ涼しげな服を着ているはずなのですが、
それでもやはり暑いものは暑いのでしょう。
「それなら、何か冷たいものを出しましょう。
それに、確かライアさんの所からもらったお菓子もありましたし。」
そう言って、手早くお茶の準備をして3人と1匹でテーブルに着き、それぞれに氷の浮いたグラスを口に傾けて一息。
窓から入る風は生ぬるいですが、無いよりはマシといった所。
そんな中、ノーラさんが窓の外を見ながら、
「何だかんだで、だいぶ打ち解けれたんですねエヴァさん。」
「そうだな、来たばかりの頃はなんだかぎこちなかったが、
それでも一年も過ぎればそうなるさ。」
そうお菓子に手を伸ばすチャチャゼロさんを見ながら、お嬢様とエマさんの事を考えます。
お嬢様とエマさん・・・、あの方達は元々主と従者で、しかしお嬢様はエマさんの本当ことを知らない。
そして、エマさんも今のお嬢様の本当の事を知らない。
それは、両方の本当の姿を知っている私からすれば、歪で薄氷の上に立つような関係ですが、
しかし、本当にすべてを知り合った関係と言うものが、一番の幸せとも限りません。
故に、この事実は胸にしまいましょう。
「笑い会えるようになれたのは最近ですが、それでもお嬢様は部屋に篭らなくなりましたしね。」
そうおどけて言うと、ノーラさんが口元に手を当て苦笑交じりに、
「アレは研究がほとんどだったじゃないですか。
一回お部屋に花を飾ろうと入って机の上の書類を見たら難しそうな言葉とか数式でしたっけ、
それがビッシリ書いてありましたよ?」
そうノーラさんが言うと、チャチャゼロさんは額をかきながら、
小難しそうな顔で、
「俺はあの書類を見ると頭が痛くなるよ。
聞いたら内容を教えてくれるんだが、それでも内容が飛びまくってよく分からないんだよな・・・。
一応エヴァと一緒に学校には居て、本を写したりもしていたんだがなんとも。」
そう言いながら首をひねっていますが、確かにお嬢様の書く理論や計算式は、どうも今の時代にはそぐわないものが多いですね。
まぁ、たまに計算を間違う事もありますが、それでも頭が良いとか、天才なんて言葉で済まされるのか・・・。
考えると色々とありますが、それはいずれ教えていただくとしましょう。
今はただ、お嬢様とエマさんが打ち解けていただければそれで・・・。
「ん、ロベルタどうした、急に涙なんか流して。」
「え?」
そう、お茶を飲むチャチャゼロさんとノーラさんが私の顔を覗き込んできます。
ですが、私は泣くことなど出来たのでしょうか?
そう思いながら、頬に手を這わせると、確かにそこには涙の感触。
それと同時に頭に入ってくる姉妹の念話。
内容は、すべての姉妹たちが泣いているというもの・・・。
「お嬢様に何もなければよろしいのですが・・・。」
「何か言いました?」
そのノーラさんの言葉に涙を拭って笑顔で答えた後、窓の外を眺めます。
そこにある晴れた青空が、普段なら気持ちいはずなのに、どうして今はこんなにも悲しみの色に見えるのでしょう。
ーsideアーチェー
シーナ達を探すために森を歩く。
門番に就いていたやつらに聞くと、シーナはジュアと傭兵3人を連れて湖に行ったらしい。
あいつが花に興味があるとは知らなかったが、まぁ、人を如何こうするような趣味よりは幾分マシで、
男ばかりでむさい砦にあいつが花を植えたいと言い、それの世話をしたいといえば、
それはそれで、うち等の生活もマシになるかもしれない。
そう思いながら森を歩き出して数時間。
もうじき花畑が見えるかと言うときに、その花畑の方から女の絶叫が聞こえる。
はぁ、なんだか知らんがまた面倒ごとか。
そう思いながら、道を突っ走り森を抜ける。
森の抜け口で、ジュアのヤロウが花畑を睨むように見ているが、うんなことはどうでもいい。
抜けた先の花畑では、戦闘があったのか花は踏み荒らされ、その先では棒立ちのシーナに飛びかかる白髪の女。
「チッ、本当に面倒事かよ!」
そう毒づきながら空を駆けてシーナの前に出て剣を合わせて地に突き立てる。
瞬間、『ゴガン!!!』と言う音と、地から剣が抜けるほどの衝撃!
そして、その抜けた剣を手に大きく横なぎに払うと、女は飛んで距離を離す。
「こら!シーナ!!
なんなんだあの女わ!!」
そう聞くと、後ろのシーナは何時ものような笑顔で、
「魔法使いだよ。
敵だから倒さないと・・・、ね。」
そうシーナが言葉を返す間にも、女は叫びながら目を見開いて殴りかかってくる。
技は無い・・・、速度も追いつけないほどでもない・・・、正気かどうかは疑わしいが、馬鹿力があるのは解る。
魔法使いと言うよりは、魔獣の類に近いな。
「面倒を増やすなよ、まったく。」
そうシーナに言葉を吐きながら兜をつける。
さて、人でなく業もなく、ただただ力任せに突進するだけなら御しやすさもひとしお。
あの女がなんであんなになったのか、ここで何があったのか、シーナが何かをしでかしたのか、
それとも、元からああだったのか・・・。
まぁ、なんてことは無い・・・。
俺が見たのはあくまで、弟のシーナが襲われていたという事実だけ。
「来な化け物。
地獄に送り返してやるよ。」
ーsideジュアー
シーナが対象と接触し、アーチェが増援として到着。
以後、戦闘を開始し戦闘を続行中。
そう、紙に観察報告を記載しながら花畑を見る。
イカレたフリをするのは骨だが、それでも、イカレていれば行動がおかしくとも咎められない。
それに、如何にこの身に神の奇跡を有する力を宿そうとも、体そのものは人と早々変わりはしない。
故に、今眼前で行われている戦に介入する必要性は無く、私本来の仕事に徹しながら思い返す、昔はよかったなと。
戦中なら如何に惨い事をしても、如何に凄惨な事をしても、戦に勝つためと言う言葉さえ吐けばそれですべてが済まされた。
だが、戦が終わった今はそれもままならない。
クッ、悪は死に絶えればよいものを・・・。
神より見放されたものは生きる価値が無いというのに・・・。
そして、何よりも苛立たしいのは、未だに私がバチカンに戻れぬ事。
魔を葬るために魔を使い、魔に負けえぬものを作ろうとして、あの砦は作られたが、今では吹き溜まりもいいところだ。
それに、神は自身に似せて人を作ったなら、人は神に似ているのだろう。
ならば、人は神になれぬとも、神と似た領域に人がに昇り上がる事は出来るのだろう。
私たちは神の権力に傅くのではなく、神の力と成りえるために人を突き詰める。
「あああああ・・・・・・!!!!!」
「獣がぁ!!!」
血まみれの女が、私達が作った兵器に挑みかかっている。
前に見た限りではただの娘だったが、シーナの所存で理性の糸が切れたのだろう、
声を上げ、愚直にその身を刻まれながらもなお、堅牢なる楯のアーチェの後ろにいるシーナを狙う。
だが、アレでは足りぬ・・・。
如何に力があろうとも、獣では人は殺しきれぬ。
まして、神の力と成りえるためのあの2人には勝ち得ぬ。
だが、あの娘の体は良い素体になるだろう。
罪人を喰らうシーナと、血のみを吸うあの娘なら、多少調教は必要かも知れぬが、
それでも、調教次第では良い神の尖兵となる。
ただ、問題はシーナをどう止めるかか。
「チッ、シーナ手伝え!」
「ん、いいよ。」
そう後ろにいるシーナに声をかけながらも、目の前の娘からは視線を外さない。
1人で倒しきれない事も無いが、それでもあの娘のバカ力を何度も捌くのも面倒だ。
そう思っている間にも、娘は地面を舐めるように、叫び声をあげながら突っ込んで来る。
その突撃にあわせるように突きを放つが、娘は剣の腹を手で滑らせて軌道をかわす。
だが、それだけでは足りん!
「バカ力はお前だけではない!」
そう声を上げ、もう1本の剣で娘を挟んで叩き潰すつもりで、下がりながら剣同士を叩き合わせる。
しかし、娘は地面に両手と片膝をつき、顔だけを上げた猫のような姿勢で攻撃を交わし、
更に突っ込もうとするが、それよりも早く俺が動く。
「詰みだ。」
叩き合わせた反動で開いた両の剣は、ちょうど娘の両肩の位置。
その剣を逆手に持ち替え一気に地面に突き立て、突進する娘を蹴り突き立てた剣の間へと叩き込む。
そうすれば、娘の両腕は肩より千切れ飛び、バランスを失った体は地面へ倒れ・・・、無い!!
「ぐるぁああああ・・・・・・!!!!!
邪魔だ!!!!!!!」
そう娘は俺の知るうちで始めて言葉を発し、千切れ飛んだはずの腕はしかし、その娘の腕のある位置にある。
だが、それに驚く必要は無い、既に腕が生えた理由は見た。
千切れ飛ぶんだ腕が、コウモリとなって娘の肩につながるそのさまを。
チッ、剣を使うだけの俺では、この手の化け物には分が悪いか・・・?
そう思いながらも娘を睨みながら、手の中に剣を力を込めて握る。
「娘さん、僕はそこにはいない・・・、よ!」
そう声のする方を見上げた娘の目の前には、空から強襲するシーナ。
そして、そのシーナは手の内から眩いばかりの閃光を輝かせ、娘の視力を奪い、
そのまま娘の頭をつかみ、地面に叩きつけてから、
「プラ・クテ ビギナル 障壁突破 光の精霊298柱集い来たりて敵を射て魔法の射手。」
そう静かに言葉を紡げば、シーナの手が光り壮大な爆音を奏で土煙が立つ。
1発食らうだけでも相当なダメージの入るアレを、頭をつかまれた状態でアレを食らえば頭が消し飛ぶ。
あの女がなんだったのかは解らないし、ここで何があったのかも俺は知らない。
ただ言えるのは、ここで1人の化け物が死んだという事だ。
そう思いながら土煙をの方を見ていると、シーナが何かを引きずりながら歩いてくる。
「なに引きずってんだ?」
そう聞くと、シーナは何時ものようにニコニコしながら、
引きずっていたモノを抱きかかえながら、
「さっきの娘さんの連れだよ。
美味しくないと思ってたけど、彼女も中々業が深くて美味しかったから・・・、ね?」
そう、最後の言葉を濁しシーナが視線を落としたんで、俺もそれに合わせるように視線を落とせば、
そこに見えたのは、シーナの足をつかむ頭を砕かれた女の腕。
「か・・・・、え・・・・・、せ・・・・・。」
そう、息のもれる音と共に、辛うじて聞こえたのはその言葉。
これだけ破壊されたのになおも動き、しーなの足をつかむ・・・。
その姿はまさに執念と業のかたまり。
「久しく眠れ業深き者。
次の目覚めは日あたる場所と願え。」
そう、声をかけ娘の首を刎ね心臓に剣を突きたてる。
アレだけバカ力を振るっていた娘は、拍子抜けするほどに華奢で、
一体何処のそこまでの力があったのかと思うほど細く、俺の持つ大剣で刺せば体が縦に真っ二つになるのではと言うほど。
その屍骸から剣を引き抜き、剣をふるって血を飛ばし肩にかける。
「ジュア、そういえば傭兵の人が見えないんだけど何処行ったか知らない?」
そうの声に振り向くと、シーナは何時来たのか知らないジュアに傭兵達の行き先を聞き、
ジュアはジュアで何時ものように、
「力なき者は去った!
任務を終えたものは町に行った!!
光無き者は血涙を流し、死者の国の住人となった!!」
そう支離滅裂な事をいながら、さっきの女の死体に何かしている。
「はぁ、結局ここでなにがあった?
なんでこんな事になってた?
言え、シーナでもジュアでもいいからさっさと言え!!」
そう言うと、珍しくジュアが低く腹に響く声で女の死体を見ながら、
「千と言う時を越え、我等が願いが叶う時が来たのだ・・・。
新たなる一歩を踏み出す許可が、漸く今おりたのだ・・・。
人は人を超え、神と似通ったものとなる、その許可が今おりたのだ。
喜べアーチェ、今お前とシーナが仕留めた者が新たなEveとなる。」
そう話し終えると、スッと横目で睨み上げる様に俺の目を見て、
仄暗い笑顔を顔に貼り付けながら、
「さぁ、砦に戻ろう。」
そう言って、歩き出すジュアにシーナが娘の方を見ながら、
「これは食べさせてもらうよジュア。
僕はこれが食べたくて仕方が無いんだ。」
そう言うと、ジュアはシーナの耳に口を寄せ、
何かを2~3言呟くと、シーナは嬉しそうな顔になり、
「あぁ、それなら砦に戻ろう。
でも、ジュアの言うとおりにならなかったら、僕はジュアを食べるよ。」
そう言い、シーナとジュアは娘の死体を後に歩き出し、
俺もその2人の後を追うに歩きだした。