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No.10094の一覧
[0] 萌え?・・・いや、むりっしょ?《ネギまエウ゛ァ憑依》[フィノ](2010/04/03 23:13)
[1] プロローグ[フィノ](2009/11/11 08:53)
[2] プロローグ 2[フィノ](2009/11/11 08:53)
[3] え・・・マジ?な第1話[フィノ](2009/08/01 22:15)
[4] 緊急指令死亡フラグを撃破せよ・・・な第2話[フィノ](2010/02/26 12:17)
[5] 現状の思考と考察・・・な第3話[フィノ](2010/02/26 12:20)
[6] チャチャゼロ・・・・ゼロ?な第4話[フィノ](2010/02/26 12:26)
[7] 良い日旅立ち・・・炎上な第5話[フィノ](2009/08/01 22:19)
[8] 学校とはとにも奇妙なところだな第06話[フィノ](2010/04/13 21:43)
[9] 人間交差点・・・・な第7話[フィノ](2009/08/28 15:17)
[10] 頭痛がおさまらないな第08話[フィノ](2009/08/01 22:21)
[11] 真実は小説よりも奇なり・・・俺のせいだがな第09話[フィノ](2010/04/13 21:44)
[12] モンスターハンター・・・待て、何故そうなるかな第10話[フィノ](2010/02/26 12:29)
[13] 復讐は我にありな第11話[フィノ](2010/02/26 12:31)
[14] 新たな一歩なのかな第12話[フィノ](2010/04/13 21:46)
[15] 肉体とは魂の牢獄なんだろうな第13話[フィノ](2010/02/26 12:36)
[16] 絶賛逃亡中?な第14話[フィノ](2010/02/26 12:37)
[17] 幕間その1 残された者、追うことを誓った者[フィノ](2010/04/13 21:48)
[18] ラオプラナな第15話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[19] 思い交差点な第16話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[20] 色々とな第17話[フィノ](2009/08/01 22:29)
[21] おいでませな第18話[フィノ](2009/08/01 22:30)
[22] 幕間その2 騎士と主と在り方と[フィノ](2009/08/01 22:30)
[23] 発掘も楽じゃないよな第19話[フィノ](2009/08/01 22:31)
[24] 嫌な確信が出来たな第20話[フィノ](2010/04/13 21:50)
[25] 予想しておくべきだったな第21話[フィノ](2010/04/13 21:59)
[26] あいつらも大変だったようだな第22話[フィノ](2010/04/13 22:14)
[27] 目玉だな第23話[フィノ](2010/04/13 22:35)
[28] 全て世は事も無しな第24話[フィノ](2010/04/13 22:37)
[29] 知らぬが仏、つまりは知らないと死ぬ事だな第25話[フィノ](2009/08/09 13:34)
[30] タヌキとキツネとだな第26話[フィノ](2010/04/13 22:38)
[31] 失態だな第27話[フィノ](2010/04/13 22:39)
[32] さて、どうしようかな第28話[フィノ](2009/08/24 18:15)
[33] 中々にヒドイ事をするな29話[フィノ](2009/08/28 14:04)
[34] 1と0の差かな第30話[フィノ](2009/09/07 12:08)
[35] 時間は勝手に進むものだな第31話[フィノ](2009/09/21 17:04)
[36] 英雄の横顔かな第32話[フィノ](2009/09/28 22:28)
[37] ボロボロだな第33話[フィノ](2009/10/07 00:20)
[38] 夜ももう終わりだな第34話[フィノ](2009/10/16 01:21)
[39] 事故だと思いたいな第35話[フィノ](2009/10/21 19:47)
[40] 幕間その3 曰く、チョーカッコいい男[フィノ](2009/10/29 02:12)
[41] 戦闘or日常さてどっちが疲れるかな第36話[フィノ](2009/11/04 14:11)
[42] 取り合えず叫ぼうかな第37話[フィノ](2009/11/11 13:22)
[43] 気のせいだと思っておきたかったな第38話[フィノ](2009/11/15 20:58)
[44] それぞれの思惑だな第39話[フィノ](2009/11/25 09:56)
[45] 美味しそうだな第40話[フィノ](2009/12/01 16:19)
[46] 互いの牙の間合いだな第41話[フィノ](2009/12/08 01:32)
[47] 幕間その4 仲良くなろう[フィノ](2009/12/08 20:14)
[48] 出発は明朝かな第42話[フィノ](2009/12/18 17:37)
[49] 強い訳だよな第43話[フィノ](2009/12/26 14:10)
[50] 商人・・・、なのかな第44話[フィノ](2010/01/22 01:29)
[51] ケダモノの群れだな第45話[フィノ](2010/01/08 19:08)
[52] 見たかったな第46話[フィノ](2010/01/19 00:19)
[53] 疑うな第47話[フィノ](2010/01/20 01:44)
[54] 無形の有形だな第48話[フィノ](2010/02/03 06:37)
[55] そして歩き出すだな第49話[フィノ](2010/02/03 15:55)
[56] 旅の途中だな第50話[フィノ](2010/02/17 19:39)
[57] 地味に変わってるな第51話[フィノ](2010/02/24 00:17)
[58] 到着、出会いと別れだな第52話[フィノ](2010/02/26 12:10)
[59] 幕間その5 爪痕[フィノ](2010/03/04 23:18)
[60] 難しいな第53話[フィノ](2010/03/06 23:40)
[61] 日常だな第54話[フィノ](2010/03/13 12:39)
[62] その後の半年だな第55話[フィノ](2010/03/22 14:24)
[63] 研究の日々だな第56話[フィノ](2010/04/04 18:01)
[64] すれ違う人々だな第57話[フィノ](2010/04/13 22:55)
[65] 花畑の出会いだな第58話[フィノ](2010/04/25 22:56)
[66] 幕間その6 メイド達の憂鬱[フィノ](2010/05/02 06:47)
[67] 幕間その6 メイド達の憂鬱 中篇[フィノ](2010/05/05 06:13)
[68] 幕間その6 メイド達の憂鬱 後篇[フィノ](2010/05/23 22:37)
[69] ありふれた悲劇だな第59話[フィノ](2010/06/24 21:58)
[70] それぞれの思いだな第60話[フィノ](2010/11/12 06:04)
[71] 強く・・・、なりたいな第61話[フィノ](2010/10/25 22:54)
[72] ブリーフィングだな第62話[フィノ](2010/11/12 14:41)
[73] 彼女達の戦場だな第63話[フィノ](2010/12/01 23:14)
[74] 彼の戦場だな第64話[フィノ](2011/01/26 13:43)
[75] 自身の戦いだな第65話[フィノ](2011/04/18 03:53)
[76] 狗の本分だな第66話[フィノ](2011/04/23 03:32)
[77] 対峙だな第67話[フィノ](2011/05/02 03:37)
[78] 懐かしいな第68話[フィノ](2011/07/07 22:33)
[79] 風の行方だな第69話[フィノ](2011/09/23 23:39)
[80] 彼に会いに行こうかな第70話[フィノ](2011/10/01 03:42)
[81] そんな彼との別れだな第71話[フィノ](2011/10/15 07:37)
[82] 小ネタ集 パート1[フィノ](2009/08/11 22:17)
[83] 小ネタ集 パート2[フィノ](2009/09/21 17:03)
[84] 小ネタ集 パート3[フィノ](2010/02/03 15:53)
[85] 小ネタ集 パート4[フィノ](2010/02/04 03:28)
[86] 作者のぼやき。[フィノ](2010/01/08 00:21)
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[10094] 日常だな第54話
Name: フィノ◆a5d9856f ID:9e0e11ed 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/13 12:39
日常だな第54話






ロレンス達と別れて約半年。
時は緩やかに流れ、いく宛ての無い俺達は当初の数週間を待ち宿に身を寄せ、そこから現在はエマの家に皆で身を寄せている。
と、言うのも今のエマは誰かに使えるメイドではなく、自身で店看板を軒先に下げた仕立屋で、
細々とだが、それでもある程度の顧客がいるという状況。
そんな状況なのだが、その店にはエマの弟子はおろか、彼女の身内もおらず、
老いさらばえた彼女が逝ってしまえばこの店も潰える。

そこで、こちらから話を持ちかけたのが、ノーラの弟子入りの話。
当初の目的はロベルタ完成なのだが、如何せんダ・ヴィンチもホーエンハイムも生まれていないので動きようが無い。
まぁ、他の錬金術師ないし魔法使いを探せばどうにかなるかもしれないが、逆にこの魔女狩り盛んなご時勢に早々出会えるわけも無い。
なので、先にノーラの方の雇い先と言うことで、エマに白羽の矢がたった。
それに、どの道イギリスにいるのならば、少しでも知り合いの側で、
なおかつ信用の置ける人の側がいいと言う事もある。

まぁ、弟子の件は俺の領分ではなく、エマとノーラの領分になるので特に口は出していないが、
それでも、色々な店をのぞいてノーラが出した答えなので、俺達が口を出すことは出来ないし、
一応俺達は、エマの所に身を寄せようと思っていたところなので、その選択は俺達にとってもありがたく、
また、数日でも彼女と長くいたいと言う我侭・・・。

・・・、いや。
これは俺が無意識にしている、贖罪なのかも知れない。
彼女は・・・、いや、正式には付き合いの一番古いディルムッドにすら、俺に何が起こったかは話しても、
性別も含め、俺として生きていた時の事を正式に話していないし、
むしろ、正式に話す事が出来ないと言う方が、正しいのかもしれない。
自身が誰か、"俺"は知らない、だが"私"が誰か、俺は知っている。

だが、"俺"の知らない"私"を知る人が俺を見れば、それは出来の悪い粗悪品に見えるだろう。
なくて七癖、その上、彼女の誕生から人としての終わりまで、エマは彼女を見守っている。
その人の眼を誤魔化すのは難しく、それと同時に、自身の演じる彼女を見るたび、
胸に焼けて真っ赤になった鉄の棒を突っ込まれ、そのままグリグリとネジ回されているような気分になる。
それを、当初は自己暗示と魔法でどうにかしようかとも思ったが、それはそれでやってはいけないような気がするし、
既に、俺は彼女についた嘘が雪だるま式に積もりあがり、何時雪崩が起こるとも解らず神経を尖らせている。

そして、その大きな嘘と言うのが、エヴァの両親の亡命の話。
精神的な嘘で一番大きいのは俺の存在が一番大きく、現実的な嘘で一番大きいのがこの嘘になる。
そして、その嘘の決着は大きく分けて3つ。1つは、オスマン帝国への亡命。1つは、亡命失敗で、どこかへ幽閉。
そして、最後に上がるのが黒死病、つまりはペストで両親及び親類が皆死亡したと言うもの。

そして、俺が選んだのが3番目。
他の2つは、どうしても矛盾が・・・、例えば亡命成功なら、今俺がこの地にいる必要性が無く、
幽閉なら、俺1人でウロウロしていると言うのもおかしな話になり、よしんば俺1人が逃げ出すのに成功したとしても、
その追っ手をまいて数十年過ごすのもまた、子供のやる事としては厳しい。
なので、一番現実味があり、かつ、どう話しの方向性を持っていくにしても、一番持っていきやすい話としてこの話を採用した。
もっとも、あのゲスは俺が殺しエヴァの両親も死に、残りの親族が一体今どうしているのか・・・。
それについて俺はまったく知らないし、それはエマも同様だった。

俺が彼女とこの町で出会った時、彼女と話した時間は少なかったが、
その中で聞いたのが、彼女が今住んでいる所、マグダウェル家として今繋がりのある人間、
とりあえず、その時取れた情報はそれだけで、後はこの半年で色々と話し情報の穴を埋めていった。

「お嬢様、起きてらっしゃいますか?」

そう言いながら、コンコンと部屋の扉をノックする音。
今俺の事を呼ぶのは、この家の主であるエマしかいない。

「もう、エマったら。」

そう言いながら、今間借りしている部屋から顔を出す。
エマは未だに俺の事をお嬢様と呼ぶ・・・。
それは過ぎ行く時の中で、彼女にとってあの屋敷で過ごした年月が、宝物のように輝くためなのか、
それとも、今なお進む未来に彼女が、抗おうとしているためなのかはわからない。
ただ、何度となく彼女にお嬢様ではなく、エヴァと呼んで欲しいといっても、
彼女は頑として受け入れず、

『お嬢様、いくらお屋敷がなく社交会に呼ばれなくとも、
 お嬢様はマグダウェル家の当主であり、最後の一粒種なのです。
 そんな高貴な方を私は呼び捨てに出来ませんし、そんな事をすれば逝った先で、旦那様や奥様に出会った時に顔向けできません。
 それでもなお、お嬢様とお呼びするのを拒まれるのでしたら、せめて人目のない所だけではそう呼ばせてください。』

そう言いながら、自身の腰を折って俺に懇願し、俺はその懇願を受け入れた。
いや、俺にとって受け入れないという選択肢は、もとより無かったものとしか言いようがない。

「おはよう、エマ。」

「はい、おはようございますお嬢様。
 もう旦那様は席におつきですよ。」

そう言いながら腰を折って礼をし、笑顔で話しかけてくる。
その彼女の笑顔に、俺は綺麗に笑えて返せているのか、それとも歪に笑っているのか解らない。
でも、きっと違和感なく笑えていると思う。

「あの人ったら朝が早いんだから。」

そう言うと、前を歩くエマは弾んだ声で、

「いい事ではありませんか。
 それに、初めこそあの方をお嬢様を誑かす悪漢かと思いましたが、
 あの方と話すうちに、あの方がいかにお嬢様を愛しているか、また、
 どれほど男らしい方というのがひしひしと伝わってきますし、お顔もまれに見る美丈夫ではありませんか。
 もう、町の方の噂では美人夫妻と評判ですよ。」

そう言いながら、口元に手を当てて笑っている。
そんなエマに連れられて皆の所に着き、各人に挨拶をし、祈りを捧げて朝食を取る
食事の内容はスープにパンと水と言う質素な物だが、味付けがうすい塩だけと言うこともあり、
素材の味が前面に出ていて美味いとおもう。

「エヴァ、今日は町で買い物をしようと思うから、ついてきてくれないか?
 あと、ロベルタさんも一緒にお願いします。」

そう言って、最後に残ったパンを口に放り込みながら、ディルムッドが俺の方に話しかけてくる。
それに対して断る理由もないし、半年間で町の様子はある程度わかっている。
まぁ、それでもエマやノーラの事があって、細かい所までは見て回れていない。

「ええ、お天気もいいし行きましょう、あなた。
 ロベルタさんは大丈夫?」

そう聞くと、ロベルタの方も、

「ええ、かまいませんよエヴァさん。
 私の方も、町で欲しい物がありましたから。
 ノーラさんはどうしますか?」

そうロベルタに聞かれたノーラは、自身の皿を片付けながら、

「私は今日もエマさんに、洋裁と装飾の事を教えてもらいます。
 エヴァさん達と旅をして教えてもらった事もありますが、本職はそれから更に勉強する事もありますから。」

そう言って、エマの方を見ている。
そして、彼女を弟子としているエマも、こちらを見ながら、

「ノーラさんには、今日から服の修繕をやってもらおうかと思っています。
 布で服にあいた穴を繕ったり、綻びた所を縫い合わせたりと簡単な物ですが、
 それでも商品は商品、きっちりとこなしてください。」

そう言われたノーラは、初めて商品を触れる喜びからか、
足元にいたエネクを抱き上げて、くるくる回りながら、

「エネク、今日から商品に触れるんだって!」

そう言いながら喜んでいる。
ノーラは7ヶ月近く基礎と練習の毎日だったのだから、この喜びようも解る気がする。
彼女にとって、商品を触れると言うのは自身の明確な成長だし、職人を目指している彼女にとっては、
声を上げるほどに喜ばしい事だろう。
そんなノーラを見て、エマは苦笑しながら、

「喜ぶのはいいですが、転ばないで下さいよ。」

そう外の洗い場に向かっているノーラに声をかけ、それをイスで見守っている間にも、
ロベルタが俺、エマ、ディルムッドの食器をまとめてノーラの後を追っている。

「エマ、よかったの?
 ノーラさんを貴女に任せてからどれくらい上達したかは知らないけど、
 商品といえば、失敗の許されない物じゃないの?」

そう言うと、エマはニコニコしながら、

「そういう品もありますが、ノーラさんにやってもらうのは本当に初歩的なもので、
 失敗しても糸を引き抜いてまた、縫い直しの効くような品ばかりです。」

それを聞いたディルムッドが水を飲みながら、

「エヴァ、早々過保護にする事もないさ。
 いずれはノーラも独り立ちして店を持つ、その事を考えれば、早いに越した事はない。」

そうディルムッドが言い、それを聞いたエマも頷きながら、

「あの子は基礎もきっちりしてますから、早々失敗する事はないですし、
 私も何時歳や流行病で逝くともわかりません。
 その事を考えれば、これは早い事ではないですよ。」

そう、エマが静かに目を閉じながら言っている。
老いに病・・・、か。いずれは来るモノ、俺たちには来ないモノ。
彼女を看取る覚悟は、ディルムッドと夫婦として彼女の前に出る時に決め、
その事はもうディルムッドと、ロベルタには伝えてある。

「悲しい事は言わないでエマ。
 貴女の背筋はピンと伸び、まだ老け込むには早いでしょう?」

そう言うと、横にいるディルムッドも何処か悲しげな目をしている。
しかし、当のエマは微笑を顔に浮かべながら、

「はい、お嬢様。
 お屋敷を出て旅に身をおき、流れ着いたこの町でまたお嬢様たちと出会えて、
 さらには若く、磨けば磨くほどに光る弟子にも出会えました。
 フフフ・・・、確かにお嬢様の言うように、老け込むには早いですね。
 では、私も職場の準備をしますので。」

そう言って、エマも職場の方に向かって行き、残ったのはディルムッドと俺のみ。
本来なら魔法薬を吸いたい所だが、生憎とエマもいるここでは吸えない。
そんな事を思いながら、ディルムッドの方を向き、

「あなた、今日は何処へ?」

そう聞くと、ディルムッドは俺の顔を見ながら、


「一応ライアに会って、そこから少しぶらぶらしようかとね。」


そう言うと、エヴァは小さく『ん』と返し、

「外に出るなら準備をしないとね、ちょっと着替えてきます。」

そう言って、家の奥へ引っ込んでいった。
そんな彼女の背中を見ていて思うのは、彼女が何処か無理をしているように見えること。
そして、その無理が見え出したのが、エマさんと出会ってから始まったこと。
最初の頃は気のせいだと思い、特に気もとめていなかった。
だが、日が経ちエマさんの家に身を寄せた頃から、それは徐々に大きくなってきたように見える。
そして、その事をロベルタに相談すると、そのロベルタも何かを感じ取っていたのか、

『人に悩みはつき物です。
 そして、今のお嬢様の悩みは、今と昔に関するものではないですか?
 エマさんと共にあった時期を私達は知りませんし、チャチャゼロさんもチャチャゼロさんで、
 エマさんとはちょうど入れ替わりにお嬢様と出会われたのでしょう?
 多分、お嬢様の悩みとは、それに関するものではないのでしょうか?』

そう、彼女らしい的確な意見をもらえたのは、俺にとってはありがたかった。
確かに、俺は彼女の身に起きた事を知っている。
起きれば吸血鬼の真祖だったこと、吸血鬼にしたやつの血を飲んで新世界と魔法の事を知ったこと。
そして、彼女のした選択と、その選択を受け入れた何か。
彼女の場合、その何かが彼女の血となり肉となって、今までの戦闘や勉強といった物の知識を出していると。

思えば、彼女は酷く曖昧なのかもしれない。
本当の彼女・・・、その本当と言うモノがなんなのか?
それは今まで見てきた、自身の眼に映ったモノとしか言いようがないし、
この町に来る前にもらった拳は、冗談抜きで文字通り死ぬほど痛かった。
その事を思い出して、目を閉じて自身の顔にある消えない傷を触っていると、

「妙にニヤニヤしてますねチャチャゼロさん。
 夫だと思って油断していると、足元をすくわれますよ。
 ・・・、主に私にですが。」

「いいさ、すくってくれて。
 倒れこむ先はエヴァの胸の中にするから。」

そう、片目を開けながら声の主であるロベルタに言うと、
ロベルタは恨めしそうにこちらを見ながら、

「クッ、私も男なら、お嬢様の夫役が勤まるのに。」

「文字通り糸で繋がっているからか?」

そう聞くと、ロベルタは小指をたてながら、

「そうですとも、私とお嬢様は離れられない運命で、
 出会いは、花嫁が花婿の元に訪れるほどに必然です。」

そう、両手を合わせ祈るようなポーズのまま、あさっての方向を見ながら暴走している。
・・・、エヴァ曰く、ロベルタの核には人格(?)と言うものが、腐るほど詰まっているらしいが、
そのうちの一体どれが主人格で、どれが下位人格なのかは解らないらしい。
なので、ロベルタボディ×人格∞?=ロベルタとなっているらしい。

まぁ、それを言ったエヴァ自身も、それが分かってもどうと言うことはないし、
たまにロベルタが暴走するのは、元々賢者の石が壊れたいたせいで、
指示通り修理したものの結局は完全に治せていなく、もしかすれば過剰分のデータが他のデータを圧迫しているために、
こんな暴走が起こるのではないかといっていた。

もっとも、毎晩魔法球に篭っては、朝まで出てこないで魔法と体術の訓練と、
人形達の作成に、ロベルタ完成の研究と、寝てはいるが寝ていないと言う、なんとも微妙な状態になっている
ただ、ドール契約という契約をエヴァは人形達としているわけだが、
その契約風景で、シチュエーションは多い物の一番頭に残ったのは、黄昏時の浜辺、
波の音だけが聞こえるそこでエヴァは、自らの血で書いた陣の上で、

「ふふ・・・、可愛いよ。
 その愛らしい顔も、細い腕も意志の強さを秘めた漆黒の瞳も。」

そう言いながら、漆黒のメイド服の少女の髪に指を通し、
そっと頬に手を添え少女の顔を上に向け、その拍子に少女の口から小さく、

「あっ・・・。」

そう余韻を残す声が聞こえ、少女の頬はその声のためか紅く高揚し、
エヴァはそんな姿を見ながら、自愛に満ちた微笑を顔に浮かべ、ブツリと自身の唇を噛み切り、
その傷口から溢れ出した血を、指で深紅のルージュを引くように自身の唇に塗り、メイドと口付けを交わす。
そうすれば、地面の魔方陣はほのかに輝き、輝きが終わると共に離された唇からは、
一筋の紅い銀の糸が名残惜しそうに、2人の唇を繋ぐ。

そんな彼女たちの姿を、最近美しいと思うようになった俺は、何処かダメになっているような気もするし、
同じようにそれを見ているロベルタが、よく奥歯をかみ鳴らしているのはなんとも言いようがない。
まぁ、そんな契約をするようになったのも、この町に入ってからで俺が確かに受け取ったと思う、
あの草原での口付けは確かに、彼女の初めての口付けなのだろう。

ちなみに、その奥歯を鳴らしているロベルタに、自身にもそういう契約をしてくれるように頼んだらどうだと言ったら、
大きく『は~っ』っとため息と、何処か裏切った者を見るような眼差しで、

『チャチャゼロさんは、何もわかっていません。
 こういうものは、自身でガツガツいくのはご法度で、
 お嬢様が望まれた時に初めて、初々しさを出しながらするのがいいのではありませんか。
 チャチャゼロさんみたいにお嬢様と何時も、イチャイチャチュチュしているスレた騎士と私は違うのです。
 それくらいは、空気の読めるメイドなのですよ、私は。』

そういったロベルタは、やはりエヴァの言うように何処か壊れているのだろう。
・・・、あれ、俺は一体何処からこんな事を考え出した?
いや、まぁ頭の中に出てきた映像は綺麗なモノだったので、結果としては得した気分なのだが。
そう思い、自身の頭を抱えていると、背後から俺の髪に指を通す手。
そして、聞こえてくる彼女の困惑した声。

「どうしたの、あなた?
 もしかして、頭とか痛いの?
 どうしましょう、あなたに頭が痛いといわれると、どうやって治せばいいか私には解らないのだけど。」

そう言いながら、小首をかしげ、引いた手を自身の口元に持っていっている。
その姿が、戦場に立つ彼女とのギャップに更に俺に混乱をもたらす。
あの、何処かぶっきらぼうだが、モノと人を考えた物言いと、
今の舞台上で他者を演じているような彼女。

「いや大丈夫だ、行こうライアを待たせるのも悪い。」

そう言って席を立つと、エヴァは『ええ、そうですね。』と、顔に微笑を浮かべ、
俺の半歩後を静々と歩き、時折ロベルタと話し絵に描いた淑女のように、にこやかな笑みを浮かべる。
いや、解ってはいる。彼女がエマさんの前で本当の夫婦を演じると言い、それに俺も納得した。

そんな事を思いながら、復興して発展し続ける町を歩く。
依然として裏路地には戦の爪痕が残っている物の、それでも目に見える所は大体復興が終わり、
その復興の波に乗れなかった者達は、身を寄せるように地下水路に逃げ込み、
今では地下水路に下手に入ると、何が起こるかわからない状態になっている。
そんな事を考えながら歩き、商館の前まで着けば大きく両手を広げたライアが、

「あぁ、美しい華よ。
 黒の淑女に白き乙女よ、今日もご機嫌麗しゅう。
 今日と言う日の貴方を私の目に焼き付け、日々移り行く時を楽しもう。
 ・・・、旦那、頭を抑えて頭痛ですかい?」

そう、ライアはあからさまに、俺が邪魔だと言う視線を投げかけてくるが、
ライアのこれは挨拶と変わらず、それを知っているエヴァ達も、

「相変わらず口が上手いですね、ライアさん。
 ですが、雪蟷螂と言う話しをご存知ですか?
 私と同じような容姿をした雪山に住む民は、1度人を愛すれば、
 その愛した人を食らい尽くすほどの烈火な愛を抱くそうですよ?」

そう、ニコニコしながらエヴァが返し、
その話を聞いていたロベルタが、薄っすらと開けた眼でライアを見ながら、

「ライアさんは体が大きいので、さぞ食べがいがありそうですね。
 たとえ、心篭らず息をするように愛の麗句を謳おうとも、それを本気にするご婦人もおられます。
 お気をつけ下さい、最近色恋沙汰の痴情のもつれで、刺された方がおりましたから。」

そう、最後まで言い、顔に妖艶な笑みを浮かべる。
そうすれば、ライアの顔が何時ものように引き攣りながら、

「旦那も愛されすぎてお困りでは?
 私にゃ彼女達の愛は重すぎる。」

そう言って、俺の両肩を大きな手でバシリと叩く。

「まぁ、これも男の器だろ。
 愛されすぎて困る事もなければ、それを糧に生きることもできる。
 ライアも結婚すればわかるさ、そのバラ色の景色が。」

「旦那・・・、死体みたいな目で言っても説得力はねーですぜ。
 それに、その薔薇はたぶん血しぶき色でしょうね。」

そう言い、4人でいっせいに笑い出す。
そして、涙になりながらもライアに、

「羊飼いは来ているか?」

そう聞くと、ライアも笑いを引っ込めて、
首を左右に振りながら、

「今日も来てないね。
 しかし、旦那もまめだね、何時来るとも解らない羊飼いを毎日迎えに来るってのも。
 まっ、私は毎日眼福だから問題はないですけどね。
 そういえば、エヴァさんに頼まれてた物一式揃いましたぜ。」

そう言い、ライアはエヴァの前によく分からない草やら、
鉄器やらその他、様々な物を並べ、それをエヴァは1つずつ手に取り確かめて、

「流石はローエン商会、仕事が速くて助かります。
 頼んだ品が揃うのは、もう半年先かと思っていましたのに。」

そう言うと、ライアは胸をドンと叩き、

「お褒めに預かり恐悦至極。
 これからもごひいきにお願いしますぜ、医者先生様。」

それに笑顔で答えながらディルムッドに荷物を持ってもらい、次に向かった先が地下水路。
水路に入って程なく歩いた頃に、エヴァはいつも吸っているパイプを取り出し、
口に銜えて火口に火を落とし、『は~っ』っと一息。


「地下のマッピングは今の10分の1か・・・。
 元々広いとはいえ、半年で10分の1と言う事は5年あれば、ほとんど終わるという事か。」


魔法薬の味が脳に馴染んで久しい。
煙の肺を焼く感覚が、体に気だるくのしかかり、
暗鬱とした地下の暗闇が心地よく、腐敗した水の香りさえもアクセントとしてくれる。

「ロベルタ、まだ潜っていないルートを探る。
 先頭に立て、チャチャゼロ、お前はいざと言う時の対処役としてロベルタの横へ。
 私はコウモリを出して、見落としがないかを探る。
 一応、今まで地下を調べたが、地下は礼拝堂も出てきていない。
 残りのルートのあるはずだから、心して行こう。」

そう言って、闇の中にカンテラも持たずに足を踏み入れる。
イギリスの地下は、現代でも完全掌握は出来ず、未だに地下工事をしたら墓所が出ただの、
古ぼけた礼拝堂がでただのと、噂には事欠かない。
そして、そんな場所だからこそ、錬金術師や魔法使いのアジトになる可能性があると思い、
こうやって昼間から地下に潜っているわけだが、一向にその気配がないのが今の現状。

ロベルタを使いマッピングしているので、道に迷う事はないが総面積不明で、
さらに、道が入り組み隠し通路らしきものまであるので、進捗状況は芳しくない。
まぁ、それでもこうやって探すしかないわけだが、手がかりの1つでもそろそろ欲しい所。
くっ、ダ・ヴィンチコードを見はしたが、聖骸布のありかを忘れたのは痛い。
アレがフィクションだとしても、それが本当にないとは言いきれないのだから。

そんな事を思いながら、地下を進むが今日も当たりはなし。
ただ、たまに拾う古ぼけた本の中に魔道書が紛れ込んでいるので、
魔法使いがいる事だけは明確となり、後の本もだいぶ腐食が進んでいるが、
それが解読できれば、新しい発見もあるかもしれない。
そんな事を思いながら、地下探索を終わり、
外に出たのはもう、夜の灯りが降りた後。

空からはチラチラと白い物が舞い降り、明日には積もっているかもしれない。
そんな事を考えながら、町を歩き家路を急ぐさなか1つの物が目に留まった。

「なんでこれある・・・?」

「どうされましたエヴァさん?」

横でロベルタが何か言っているが、それよりも目の前の物に視線が釘付けになる。
重さずっしり黒光り、無数のボタンに紙をセットする台付き。
これを見ていると、どうも指がワキワキ動く。
何を隠そう、その機械の名前はタイプライター。

少なくとも、これが出来るのはもっと先じゃないとおかしい。
機械のパーツ総数に、それが動くように作る機構、鉄部分の作成技術。
その他諸々の事を考えると、これが今あるのはおかし・・・、い?
いや、そもそもこの世界の常識と、俺の知っている常識にはかなり開きがある。
その事だけは、絶対に頭に置いておかないといけない。

そして、そこからたどると、ほぼ絶対といっていいほどに、この世界の科学技術は、高速で進歩する。
と、言うのもラブひなのカオラ・スゥは日本の技術を学ぶために日本に留学しているわけだが
初期値はラジコン戦車にマジックハンドと人面をつけたものを作ったが、回を重ねるごとに、
スネーク真っ青な光化学迷彩を作ったり、メカたまごと言う多脚型戦車を作り、
最終回では、飛行可能な二足歩行型メカたまごを作成するに至り、
しかも、それは神明流師範の素子とタイマンを張っている。

その事を考えると、超の暗躍もあるかもしれないが、
それでも技術開発速度は、明らかに異常な速度をたたき出す。
それこそ、通販でそれらの素材が買える程度には。
その事を考えると、これがここにあるのはいたって不思議な事なのかもしれない。
なにせ、これをみても足を止める人間はおらず、むしろ見慣れた感の方が漂っている。

「店主、これを1つ売ってくれ。」

そう言うと、それを売っていた店主は面倒くさそうに、

「銀貨15枚。」

そう、ボソリといったので、銀貨30枚を払いタイプライターを2台購入。
元々、タイプライターは目に病を患った人向けの筆記補助具なので、
最近目がかすむと言うエマに、プレゼントするにはいい品なのかもしれない。
そう思いながら、買ったタイプライターをロベルタと手分けして運び、

「ただいま帰りました。」

そう言いながら家の中に入る。
外が雪のせいもあり、火をたいている室内は暖かい。

「お帰りなさいませ、今日は大荷物ですねお嬢様。
 外は寒かったでしょう、夕食の準備も、もう出来ています。」

そう言いながら、エマが出迎えてくれた。

「ええ、でもその前に今日は珍しい物を買ってきたの。
 エマ、何時もお世話になっている貴女へのプレゼントよ。」

そう言って、テーブルの近くの台に、今日買ってきたタイプライターを置き、

「エマ、使ってみてくれる?
 喜んでもらえると嬉しいのだけど・・・。」

そう言うと、エマはしばしの間その置いた物を見ながら、

「私に・・・、ですか?
 しかし、宜しいのですか、こんなに高価な物を私なんかに。」

そういって、タイプライターのキーにそっと指を触れているが、

「エマ、それは違うわ。
 私は貴女にもらってもらい喜んで欲しいのよ。
 貴女は、けして自身に『なんか』なんていう言葉をつけていい人じゃない。
 だって、貴女は私の乳母じゃない、お乳はでなかったと聞いたけど、
 それでも、あなたに教えてもらった事は今でも覚えているわ。」

そういって、綺麗に笑えているであろう顔を作る。
出来るだけ自然に、出来るだけ不自然がないように、出来るだけ・・・、
ズキリズキリと痛むモノを覆い隠せるように。

「ありがとう・・・、ございます。」

そう言い、エマは自身の目じりを押さえている。
できれば、俺は自身の喉を今すぐ掻っ切りたい。
この偽善と欺瞞と保身しか生み出さないこの喉を。
そう思いながら、この生温かく何処までも偽善と優しさの満ちた空間を見守り、
雪積もる夜は深々と暮れて行った。


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