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No.10094の一覧
[0] 萌え?・・・いや、むりっしょ?《ネギまエウ゛ァ憑依》[フィノ](2010/04/03 23:13)
[1] プロローグ[フィノ](2009/11/11 08:53)
[2] プロローグ 2[フィノ](2009/11/11 08:53)
[3] え・・・マジ?な第1話[フィノ](2009/08/01 22:15)
[4] 緊急指令死亡フラグを撃破せよ・・・な第2話[フィノ](2010/02/26 12:17)
[5] 現状の思考と考察・・・な第3話[フィノ](2010/02/26 12:20)
[6] チャチャゼロ・・・・ゼロ?な第4話[フィノ](2010/02/26 12:26)
[7] 良い日旅立ち・・・炎上な第5話[フィノ](2009/08/01 22:19)
[8] 学校とはとにも奇妙なところだな第06話[フィノ](2010/04/13 21:43)
[9] 人間交差点・・・・な第7話[フィノ](2009/08/28 15:17)
[10] 頭痛がおさまらないな第08話[フィノ](2009/08/01 22:21)
[11] 真実は小説よりも奇なり・・・俺のせいだがな第09話[フィノ](2010/04/13 21:44)
[12] モンスターハンター・・・待て、何故そうなるかな第10話[フィノ](2010/02/26 12:29)
[13] 復讐は我にありな第11話[フィノ](2010/02/26 12:31)
[14] 新たな一歩なのかな第12話[フィノ](2010/04/13 21:46)
[15] 肉体とは魂の牢獄なんだろうな第13話[フィノ](2010/02/26 12:36)
[16] 絶賛逃亡中?な第14話[フィノ](2010/02/26 12:37)
[17] 幕間その1 残された者、追うことを誓った者[フィノ](2010/04/13 21:48)
[18] ラオプラナな第15話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[19] 思い交差点な第16話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[20] 色々とな第17話[フィノ](2009/08/01 22:29)
[21] おいでませな第18話[フィノ](2009/08/01 22:30)
[22] 幕間その2 騎士と主と在り方と[フィノ](2009/08/01 22:30)
[23] 発掘も楽じゃないよな第19話[フィノ](2009/08/01 22:31)
[24] 嫌な確信が出来たな第20話[フィノ](2010/04/13 21:50)
[25] 予想しておくべきだったな第21話[フィノ](2010/04/13 21:59)
[26] あいつらも大変だったようだな第22話[フィノ](2010/04/13 22:14)
[27] 目玉だな第23話[フィノ](2010/04/13 22:35)
[28] 全て世は事も無しな第24話[フィノ](2010/04/13 22:37)
[29] 知らぬが仏、つまりは知らないと死ぬ事だな第25話[フィノ](2009/08/09 13:34)
[30] タヌキとキツネとだな第26話[フィノ](2010/04/13 22:38)
[31] 失態だな第27話[フィノ](2010/04/13 22:39)
[32] さて、どうしようかな第28話[フィノ](2009/08/24 18:15)
[33] 中々にヒドイ事をするな29話[フィノ](2009/08/28 14:04)
[34] 1と0の差かな第30話[フィノ](2009/09/07 12:08)
[35] 時間は勝手に進むものだな第31話[フィノ](2009/09/21 17:04)
[36] 英雄の横顔かな第32話[フィノ](2009/09/28 22:28)
[37] ボロボロだな第33話[フィノ](2009/10/07 00:20)
[38] 夜ももう終わりだな第34話[フィノ](2009/10/16 01:21)
[39] 事故だと思いたいな第35話[フィノ](2009/10/21 19:47)
[40] 幕間その3 曰く、チョーカッコいい男[フィノ](2009/10/29 02:12)
[41] 戦闘or日常さてどっちが疲れるかな第36話[フィノ](2009/11/04 14:11)
[42] 取り合えず叫ぼうかな第37話[フィノ](2009/11/11 13:22)
[43] 気のせいだと思っておきたかったな第38話[フィノ](2009/11/15 20:58)
[44] それぞれの思惑だな第39話[フィノ](2009/11/25 09:56)
[45] 美味しそうだな第40話[フィノ](2009/12/01 16:19)
[46] 互いの牙の間合いだな第41話[フィノ](2009/12/08 01:32)
[47] 幕間その4 仲良くなろう[フィノ](2009/12/08 20:14)
[48] 出発は明朝かな第42話[フィノ](2009/12/18 17:37)
[49] 強い訳だよな第43話[フィノ](2009/12/26 14:10)
[50] 商人・・・、なのかな第44話[フィノ](2010/01/22 01:29)
[51] ケダモノの群れだな第45話[フィノ](2010/01/08 19:08)
[52] 見たかったな第46話[フィノ](2010/01/19 00:19)
[53] 疑うな第47話[フィノ](2010/01/20 01:44)
[54] 無形の有形だな第48話[フィノ](2010/02/03 06:37)
[55] そして歩き出すだな第49話[フィノ](2010/02/03 15:55)
[56] 旅の途中だな第50話[フィノ](2010/02/17 19:39)
[57] 地味に変わってるな第51話[フィノ](2010/02/24 00:17)
[58] 到着、出会いと別れだな第52話[フィノ](2010/02/26 12:10)
[59] 幕間その5 爪痕[フィノ](2010/03/04 23:18)
[60] 難しいな第53話[フィノ](2010/03/06 23:40)
[61] 日常だな第54話[フィノ](2010/03/13 12:39)
[62] その後の半年だな第55話[フィノ](2010/03/22 14:24)
[63] 研究の日々だな第56話[フィノ](2010/04/04 18:01)
[64] すれ違う人々だな第57話[フィノ](2010/04/13 22:55)
[65] 花畑の出会いだな第58話[フィノ](2010/04/25 22:56)
[66] 幕間その6 メイド達の憂鬱[フィノ](2010/05/02 06:47)
[67] 幕間その6 メイド達の憂鬱 中篇[フィノ](2010/05/05 06:13)
[68] 幕間その6 メイド達の憂鬱 後篇[フィノ](2010/05/23 22:37)
[69] ありふれた悲劇だな第59話[フィノ](2010/06/24 21:58)
[70] それぞれの思いだな第60話[フィノ](2010/11/12 06:04)
[71] 強く・・・、なりたいな第61話[フィノ](2010/10/25 22:54)
[72] ブリーフィングだな第62話[フィノ](2010/11/12 14:41)
[73] 彼女達の戦場だな第63話[フィノ](2010/12/01 23:14)
[74] 彼の戦場だな第64話[フィノ](2011/01/26 13:43)
[75] 自身の戦いだな第65話[フィノ](2011/04/18 03:53)
[76] 狗の本分だな第66話[フィノ](2011/04/23 03:32)
[77] 対峙だな第67話[フィノ](2011/05/02 03:37)
[78] 懐かしいな第68話[フィノ](2011/07/07 22:33)
[79] 風の行方だな第69話[フィノ](2011/09/23 23:39)
[80] 彼に会いに行こうかな第70話[フィノ](2011/10/01 03:42)
[81] そんな彼との別れだな第71話[フィノ](2011/10/15 07:37)
[82] 小ネタ集 パート1[フィノ](2009/08/11 22:17)
[83] 小ネタ集 パート2[フィノ](2009/09/21 17:03)
[84] 小ネタ集 パート3[フィノ](2010/02/03 15:53)
[85] 小ネタ集 パート4[フィノ](2010/02/04 03:28)
[86] 作者のぼやき。[フィノ](2010/01/08 00:21)
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[10094] 難しいな第53話
Name: フィノ◆a5d9856f ID:9e0e11ed 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/06 23:40
難しいな第53話




わたくしがマクダウェル家に奉公にあがったのは、私が20になるかならないかの、ある寒い日でした。
私の住んでいた村は戦の戦禍で焼け落ち、両親も頼る者もなくなり、
近くの教会に身を寄せたときに舞い込んだ話が、お屋敷での奉公でした。
当時の私は、これから仕える家の家名の大きさに緊張し、私をそこまで送り届けてくださった方に幾度となく、
『私がそこでやっていけるのか?』と、そう質問したのを、今でも昨日の事の様に覚えております。
そんな緊張の中、私は送り届けていただいた方と、畑を歩き森に入り、
その奥にあった、大きな城のようなお屋敷。

呆けた様にそのお屋敷を見上げ、門の前で立ち止まっている私を尻目に、送り届けた方は門番の方と話し、
招き入れられたお屋敷の中は、私の住んでいた世界とは、まるで別世界と言うかのようでした。
そんな夢のような場所を連れられるまま歩き、私が謁見したのは出兵されていた当主様ではなく奥方様でした。
その奥様と謁見を済ませ、連れて来て下さった方と別れ、屋敷に住み込みで勤め出して2つの冬を越えた頃。
日に日に奥様のお腹は大きくなり、半年ほど前から奥様付きになった私に、奥様は自身の大きな腹を微笑みながら撫でて、

「エマ、もうじきこの子が生まれるわ。
 男の子かしら、それとも女の子かしら?
 あの人は戦に出て中々帰ってこないけど、それもこの子が平和な時を生きるためだもの、
 私も頑張って、いい子を産まないとね。」

そう言いながら、自身の腹に聖母のように微笑みかけていました。
それから少しして旦那様が家に戻り、エヴァンジェリンお嬢様をご出産された奥様の変わりに、
お嬢様の乳母となり、小さな頃の病気で子を作れない私は、お嬢様を本当の我が子のように育て、
聡明なお嬢様は家庭教師から教えられる勉学やダンスを覚え、おてんばな所もありましたが、
その美しさから将来は王室に入る美姫として領内でも知られており、旦那様も大変可愛がっておられました。

そんな中、7つになられたお嬢様が高熱を出し寝込み、それと時同じくして、
旦那様の兄に当たるシーニアス様が屋敷に身を寄せ、旦那様はそのシーニアス様に、
お嬢様の病気の治療の一切を委託し、旦那様はまた出兵されていき、残された私達はシーニアス様と、
そのシーニアス様が呼ぶ方々が、治療と称してお嬢様を地下の一室に連れて行き、
昼夜問わず聞こえる不気味な声と、たまに聞こえるお嬢様の弱々しい声に運び込まれる様々な物。

その事についてシーニアス様に意見したくとも、一介の侍女風情ではそれもままならず、
奥様に相談するも、治療の一切を仕切るシーニアス様には意見できないという事でした。
そんな状況でも、シーニアス様の治療が功を奏したのか、幾日かの後にお嬢様は自室に戻られ、
いくつもの薬を飲みつつも、完全に熱が下がって全快され、
その事については、シーニアス様にいくら感謝してもし足りませんでした。

そんな中でも、戦の気配は日々近付き戦禍を逃れるために
シーニアス様と旦那様の血筋にあたる方が領主を務める、湖面に浮ぶ巨大な城に私とお嬢様は移り住み、
後を追うといわれた奥様と旦那様に再会を果たしたのは、そこの城主様が病気で急死され、
シーニアス様が城主代理を務めるようになり、お嬢様の10の誕生日を目前とした頃でした。

その頃はもう、シーニアス様の指示により城に居る人間も少なく、
各言う私も城ではなく、城の近くの宿に住むようにシーニアス様に指示され、
そこからお屋敷の方に通うように指示されていました。
そんな中、再開を果たした旦那様と奥様は数日ほどそこに住み、
お嬢様を連れ誕生日旅行に行くと言われ足早にお屋敷を去り、帰ってくるまでの間は、
シーニアス様付きの侍女として、身の回りのお世話をするように仰せ付かりました。

風の噂で戦は激しさを増し、いくつもの村や街が戦火の中に消えていったと・・・、
そう、行商の方などから聞き及んでいましたが、それでも、
また、お嬢様達が戻ってこられれば、昔のように暮らせるものと、そう信じておりました。
しかし、その思いは通じず、次にお嬢様にお会いした時は、美しかった金髪は色が抜け落ちたかのように純白になり、
そのお嬢様から知らされた亡命の話し。

今の時期にそれを行う事が、どれほど危険かは私には計り知れませんが、
それでも、私もお嬢様に付き従おうと言う申し出を、お嬢様はきっぱりと、
マグダウェル家の当主として自身の意思で断り、私に、

「あなただけでも生き延びて、出来れば死なないで。」

そう言われた後にお菓子を作り、口付けを交わして別れ、
明後日の晩には城が大火に包まれ、その炎は夜空を焦がすほどに高らかに燃え上がり、
今でも宿から見たその光景を、夢で見る事がございました。

そして、日が流れ時が経ち、マグダウェル家の家名が人々の口にあがらなくなる度、
お嬢様達はどこかで生きているものと思い、自身も生き延びるために各地を転々とし、
戦終決の話を聞ききながら、流れ着いたのが今の街。

老いさらばえる自身を加味し、その町で暮らそうと家を建て、
最初は、お嬢様にお出ししていたお菓子を売る店を開こうかとも思いましたが、
戦が終わってまもなく、食べるに手一杯の状況ではそれもままならず、他に落ち着いて出来る事といえば、
幼かったお嬢様の服を繕う事の多かった私には、洋裁と機織ぐらいしかありませんし、掃除や洗濯では仕事になりません。
なので、その店看板を軒先に下げ日々細々と暮らし、戦の混乱がだいぶ落ち着いた頃、
久々にお菓子を作ろうと、街の酒場でワインを買いに行ったときに、一人の女性の後姿が目に留まりました。

その方は、その方を含め4人ほどでテーブルを囲み、背遠目から見ても解る純白の髪をリボンで一まとめにし、
その姿に何処か懐かしいものを感じた私は、背後からその女性の方に歩み寄りました。
歩み寄るに連れ、聞こえてくる声は懐かしい記憶を呼び覚まし、
心臓は早鐘を鳴らすように鼓動し、背後から見た限りでは、
その方をもう少し歳を取らせれば、ちょうど今時期のお嬢様と同い年ぐらいでしょうか?
そう思っていると、そのテーブルを囲っている金髪の娘さんに白髪の女性が、

「さて、無茶だとは思うが目星は付いたかノーラ?」

そう、何処か男らしい口調で質問をし、
その質問をされた女性の方は、困った様子で、

「まだ解らないですエヴァさん。
 色々ありすぎて、何処がどうだか。」

そう、確かにその女性は白髪の女性に向かい『エヴァさん』と、その方の名を呼びました。
その時点で、私の中の懐かしさは核心へ変わり、仮に違う方なら、また何時もの日々が戻ってくるものと思い、
その方の肩に手を置くと、その方はそのまま首を上に上げ、背後の私を見ようとしてきて、
私の方も、少しずつあらわになる顔を見ながら、嬉しさで顔を綻ばせます。

時が経ち、あどけなさの消えた顔はけれども、お嬢様の特徴を残し、
物を口に入れたまま振り向くという、おてんばなところも愛嬌を誘います。
そして、お嬢様も私の事が分かったのか、銜えていたパンが口からこぼれるのも気にせず固まり、
そんなお嬢様に、私の方から再会と喜びの意味を込めて、

「エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルお嬢様ですね。」

そう言うと、お嬢様の方もまさか、こんな所で出会うとは思っていなかったのでしょう。
暫しの間をおき、自身がこれから口にする事が、間違いが無いか確かめるように、


「・・・、エマ。」


そう、俺が彼女の名を紡ぐと、彼女は涙を流しながら抱きついてくる。
その彼女の背に、俺は手を回してもいいのだろうか?
そう思いながら他の3人の顔を見ると、その3人が3人とも困惑の表情を顔に浮かべている。
それもまぁ、当然だろう。この3人の中で彼女の事を知る人間は俺しかおらず、
付き合いの1番古いディルムッドにしても、彼女の事を話したことはない。
そう思っていると、

(えっと、その人はエヴァの知り合いなのか?)

そう、ディルムッドから念話が飛んでくる。
知り合いか・・・、か。

(ロベルタも一緒に聞いておいてくれ・・・。
 この人は私がまだ人だった頃に、お世話をしてくれた方だ。
 チャチャゼロは覚えているだろう、あの焼き捨てた城を・・・。
 あの城で、お前を呼ぶ前に出会い別れたのがこの方だ。)

そう、念話を返していると、
唯一念話を送っていないノーラが、俺と抱きついているエマを見ながら、

「えっと、エヴァさんの知り合いですか?」

そう声をかけると、エマは俺から離れ、
自身の涙を手でぬぐいながら、顔に微笑を浮かべ、

「はしたないところをお見せました、私はエマリエル・シャーリーといい、
 エヴァンジェリンお嬢様の幼少期から、10になるかならないまでの間を、お世話させていただいたものです。
 どうぞお気軽に、エマとお呼びください。」

そう言って、皆にペコリと一礼する。
そして、それに習うように皆もエマに礼を返しながら、口々に自己紹介をする。

「初めましてエマさん、私はロザリタ・チスネロスと言い、
 今はエヴァさんと共に、旅の徒にあるものです。
 私の事もお気軽に、ロベルタと及びください。」

そう言って、ロベルタはエマに微笑みかけ、
その横に居るノーラは、恐縮したように体を小さくし、

「ノーラ・アレントです。
 エヴァさんと旅をするようになって、まだ間もないですが、
 エヴァさんには色々と、よくして貰っています。」

そうノーラの自己紹介が終わり、次はディルムッドなのだが、こいつをどう扱うかも迷う。
このまま夫婦として紹介していいものか、それとも別の道を模索するべきなのか。
一応は、この街でノーラの職探しもかねて、数年は留まるつもりだったが、どうするべきなのだろう?
目の前にいるエマは大体50代だと思うし、この時代の50代と言うと高齢者の部類に入り、
下手をすれば、棺桶に片足突っ込んでいると、そう言われても仕方ないという年齢である。

それに・・・、彼女の顔を見れば、俺の方を見ながら微笑んでいる。
彼女は、今のエヴァの中身が俺である事を知らない。
否、俺がそれを悟られないよう演技をして、あの一晩の別れを作ったんだ。
きっともう出会う事もないと思い・・・、彼女の殻を被る俺が、醜くも彼女を演じる事の無いように。
そう、自身が決断を鈍らせている間にも、

「どうもエマさん、チャチャゼロ・カラクリと言います。
 俺は彼女・・・。」

そこまで言葉が進み、ディルムッドから念話が入る。

(夫と名乗っても?)

そう言われて、ディルムッドの方を見ながら念話を返す。
既に、ライアの前で俺達は夫婦として名乗り、街は大きいがそれでも世間は狭い。
それは今、彼女と俺が再開を果たしているように。

(・・・、いいよ。
 その代わり、それを名乗れば彼女の前では偽りの夫婦ではなく、真の夫婦として行動する。
 まぁ、真の夫婦がどういったものかは知らないが、それでもそれに見合うようにする。
 ロベルタ、お前もそれを心得ておき、ノーラにもそう話しておいてくれ。)

そう、ロベルタの方にも念話を流すと、ロベルタの方からは一言短く、


(御意に。)


そう私がお嬢様に返すと同時に、チャチャゼロさんがエマさんに微笑みかけながら、

「の、夫です。どうぞよろしくお願いします。」

そう、チャチャゼロさんが言うのを聞き、お嬢様はそのチャチャゼロさんの横で一度目を閉じ、
何処かぎこちなくもはにかむ様な笑みを浮かべて、頬をほんのりと朱に染めながら、

「エマ、私は結婚しました。」

そうはっきりとエマさんに言い、それを聞いたエマさんは目を丸くし、
手を口に当てながら、

「それは本当ですか・・・?
 お嬢様に出会えただけでも嬉しく思うのに、その旦那様ともお会いできるとわ。」

そういい、感動しているエマさんを前にお嬢様は微笑んだまま、

「積もる話もあります。
 今宵は一度話を切り上げて、後日私の方から出向くとしましょう。
 エマ、今貴女はどこに住んでいるの?」

そうエマさんとお嬢様が話している間にも、お嬢様からの念話が飛んできて、

(一旦店を出て、商会に戻る。
 ロベルタ、ノーラを支えるように立って表へ。
 チャチャゼロは、彼女の事が心配だと後を追え。)

そう言うお嬢様の指示を受け、私はノーラさんにそっと耳打ちをしながら席を立ち、

「すみませんエマさん、彼女が酔ってしまったようなので一旦外へ出ます。」

そう、私がエマさんに断りをいれて退席をし、
出口付近で背後を見ると、私達を追ってくるチャチャゼロさん。
その姿を見つつ、私達は店を出て店のわきの路地に入り、チャチャゼロさんと合流し、
お嬢様を待っていると、程なくしてお嬢様とエマさんが店を出て、お互いがお互いに逆方向に歩きだし、
こちらの居場所を見つけて合流し、

「商館に戻ろう。」

と、何かを考えるようなお嬢様が声を出し、私達は商館に行き借り受けている部屋に戻りました。
そして、部屋に戻るとノーラさんは疲れたためか早くにベッドにもぐりこみ、
チャチャゼロさんも、久々に横になれるという事でベッドにもぐり、起きているのは私とお嬢様のみ。

ただ、そのお嬢様は終始無言で、何時も吸っている煙も吸わず、
部屋に備え付けてあるテーブルに座り、ブランデーとグラスを影から取り出し、
夜が更け夜の寒さが漂う部屋で、閉められた窓から外を見ながら、私が酒を注ぐ氷の入ったグラスを口に傾けています。
そして、そんな静かな夜が明け方まで続くものと思っていた時、お嬢様がポツリと、

「紛い物が真を得る方法は真よりも長く、紛い物があり続けるしかない。
 そうすれば、真を知る者が居なくなり、紛い物は真へと昇華する。
 だが、その真を知る者の前に出た紛い物は、一体どうすればいい。」

そう、誰に言うでもなく、お嬢様は自らの首を振りながら、
自責の感のあるその言葉を吐き、そのまま体を追って机に頬をつけ、
グラスから滴る水滴を指で一撫でして、『はーっ』と深い深いため息をついています。

「出すぎた真似かもしれませんが、お嬢様。
 私にとってのエヴァンジェリンお嬢様は貴女のみです。
 そして、それはチャチャゼロさんにも、ノーラさんにも言える事であり、
 今までの旅で知り合った、数多くの方々にも言えることです。」

そう言うとお嬢様は、相変わらず机に顔をつけたまま、
どこか自嘲気味に言葉を吐き、

「知ってるさ・・・。
 すべてを失っても、未来だけは失えない。
 時を歩み経験をつみ、重ねた努力もまたなくならない。
 だが、それを積む以前のモノを・・・、出会うより前のモノを知る者にとっては、
 それをいくら謳おうとも、それの目に見える違和感はそれを紛い物として伝える。」

それは多分、今のお嬢様の姿であり、人ではなくなった者の悲哀の詩、とでも言えば宜しいのでしょうか。
望む、望まないに変わりなく、お嬢様私が出会った時お嬢様は既に吸血鬼でした。
しかし、その吸血鬼になる前にも関わった人はいて、人が、人と人の間に在って初めて人間となり、
出発点が人であるお嬢様は、未だにそれに対して苦しんでいるという事でしょうか?

「真価の価値が、すべての価値とは限りません。
 宝石は泥にまみれ様と依然高貴ですが、塵は天高く舞い上がろうとも塵でしかありません。
 ですが、その塵も雪となって地に舞い降りれば、宝石より多くの人を喜ばせるでしょう。
 私は過去ではなく、先を見てここに居ます。人は・・・、変わっていくものです。」

そう言い、お嬢様に微笑みかけると、お嬢様はプイッとそっぽを向き、

「頭と心は何時も矛盾を生む。
 頭で解っても心が従わない、心が解っても頭が従わない。
 この二つが、まったく同じ答えを出すことは極まれだろう。
 でも、どうあろうと前に進み続けるしかない・・・、それが例え醜く不器用で偽善的でも。
 ・・・、変に愚痴ったな、悪かった。」

そういうお嬢様の後頭部に、私は一礼して出来るだけの笑顔で、

「かまいません。私は人の心と言うモノを知りませんが、
 今こうしてお嬢様の話を聞くだけでも、それが大切なモノだと解ります。
 それに、私は人ではなく、いつの日か人間と言うモノになってみたいですね。」

そう言って、私も休もうとベットに向かう背中にお嬢様が、

「人の中で生きる事の出来るお前は人間だよ。」

ぶっきらぼうで、でも心強い声を私の背に投げかけてきます。
しかし、私は振り返る事無く、

「お休みなさいませ、お嬢様。
 後数時間もすれば、人の暮らしはまた動き出します。」

そう言うと、背後からグラスに氷の触れる音がし、
ノロノロと動く者の気配がし、

「あぁ、お休み。
 明日にはロレンス達もここを立つらしい、それの見送りもしないといけないからな。」


ー翌日ー


昨日・・・、いや、今朝がいいのだろうか?
まぁ、遅くまで飲んでいた酒が残っている訳ではないが、元々夜行性のせいか朝はけだるい。
そんな中でも洗面を済ませ、魔法薬を吸いながらコーヒーを飲めば頭も覚める。
ちなみに、朝食は質素の紐パンと飲み物のみ。

昨日の夜、朝食用の買出しをすればよかったのだが、エマと出会ったため、それもままならなかった。
まぁ、それならそれで、昼を少し早めに取れば問題ないだろうし、朝っぱらから早々食べるものでもない。
そう思いながら4人で1階に下りれば、

「おはようさん、よく眠れたかいお嬢さん方。」

そう、机の方で帳簿を見ていたライアが声をかけてくる。

「ええ、おかげさまで。ホロさんとロレンスさんは?」

そうライアに聞くと、ライアは親指でクイクイと2階を指しながら、

「まだ起きてこんよ。
 まったく、商人は誰よりも早く起きて、
 市場を見て回るものと決まっているんだが、まぁ、長旅で疲れているんだろうよ。」

そんな会話をしていると、2階からロレンスとホロが降りてきて、

「おはようライア、それに皆さんも。」

「ぬしたちは朝が早いの、わっチはもっとゆっくりの方がいいでありんす。」

そう、ホロが悪態をついている。
まぁ、それはいいとして、これから旅立つホロとロレンスに、1つ交渉をしたい事がある。
と、言うのも、ノーラを引き取る際に手に入った羊達が居るわけだが、
魔法球の中のメイド達も、流石に羊飼いの仕事を知るわけもなく、
また、四六時中放牧状態なので勝手に増えたりなんだりと、そろそろ監視役が欲しい所。

まぁ、そうは言っても、別に何もない土地にまとまっているし、
他の小さい魔法球の中にも、勝手に繁殖している生物は居るので問題はないのだが、
それでも、人手がある事に越した事はない。
そう思って、頭を捻っていると、1人だけ心当たりの人物が居る。
そんな事を思いながら、ホロとロレンスに言葉を投げかける。

「ロレンスさん、少々お願い事があるのですが、朝食ついでに町に出ませんか?
 無論、ホロさんもです。」

そう言うと、2人とも断る理由もないので快諾し、

「いいですよ、エヴァさん
 昨日ライアに、美味しい料理を出す店も聞いていますし。」

そう言いながら、ロレンスが先陣を切って歩き出す。
たしか、ホロとロレンスが旅を続けていけば出会えるはずだし、
何よりも、自身が何気なくロレンスに言った黄金の羊、
これが実は実際、雪国の方にすんでいて、普段は人の姿をして、
安息の地を求めながら、同属の肉を食べたりしながら人と共に生きている。

まぁ、実際にこの人に、ホロたちが出会えるという確証はないが、
して問題のある交渉と言うわけでもないだろうし、
何よりも、その黄金の毛皮が貰えると非常にありがたい。
そんな事を思いながら、着いたのはとある露天。
料理を頼み、今席に居るのはロレンス、ホロ、俺、ロベルタの4人。
ディルムッドとノーラは別の席に着くか、店を見るかと聞くと、店を見るといって行ってしまった。

「お願いと言うのも、ホロ、お前は他の神との関わり何処まである?」

そう聞くと、ホロは目の前に出た料理に手をつけながら、

「ふむ、麦に潜って長かったからの。
 わっちからなんとも。」

そう言いながら、目の前の料理を口に運ぶ。
ふむ、まぁ旅を続ければ彼にも出会えるだろう。
ギリシャ神話に登場する、黄金の羊の毛皮を持つ彼に。
ちなみの、毛皮の所有者は龍を眠らせたメディア。
で、よかったと思うが、まぁ、最終的にはどっかの英雄が持っていたと思う
ちなみに、効果は国を繁栄させる効果があるとかないとか。
個人的には、高級枕にでもなればいいかと思う。

「そうか・・・。
 まぁ、それでもいいか、お前達が旅を続け、
 どこかで安寧の地を求める神がいたら、私の事を紹介してほしい。」

そう言うと、ロレンスはあの時の話を思い出したのか、

「世界を1つ売りつける気ですか?」

そう、神妙な面持ちで俺の顔を見てくる。
そんなロレンスに、俺の方も同じく真も様な面持ちで、

「井の中の蛙、大海を知れ。
 これはとある国の言葉で、どんなに力があっても、
 外にはそれよりも強いものがいるという例えだ。
 だが、見方を変えれば、大海を知らない限りは蛙は最強でいられる。
 あの魔法球を井戸とすれば、その井戸の中はさぞ安寧だぞ?
 私の腕に抱かれ、チャチャゼロやロベルタもいる外敵のない生の楽園だよ。」

そう言うと、ロレンスは目を細めながら口を開き、

「代価は何を求めます?
 別に紹介するだけならばいいですが、その後の事は私も責任持てませんよ?」

そう言ってくる。
まぁ、確かに神と交渉する吸血鬼と言うのも、相当にシュールなものなのだろう。

「欲しいのは労働力だよ、クラフト・ロレンス。
 あの中は別時間で時が進む、だからこそ死なない者はあの地で安寧を見れる。
 それに、見つけて私の所にそいつが来たなら、私はお前に紹介料を払うし、
 いないならいないで、お前に損はない。」

そう言うと、ロレンスは何処か人の悪い笑みを浮かべ、

「いいですよ、私は私の目で見た事のみを話すとしましょう。」

そう言いながら、俺の方に手を差し出し、
俺はそのロレンスの手をとり、握手をしながら、

「それならば問題はないだろう、お前の目に映ったあそこは王宮の様だったのだから。」

そう言い、笑いあっていると、
その様を見ていたホロとロベルタが、

「ロベルタよ、ぬしはこやつらの話をどう思うかや?」

「さぁ、まさに神のみぞ知ると言った所でしょうか?」

そう言い、食事を終えた俺達はノーラとディルムッドと合流し、
馬車に乗り込み出発間近のロレンスは、

「何時までここにいますか?」

そう、俺達の方に質問をし、俺の方も、

「数年はこの町にいる予定だ。」

と、そう言葉を返す。
ディルムッドも、久々の男との旅が楽しかったのか、
ロレンスと別れを惜しみながら話し、ノーラとロベルタも、ホロやロレンスと別れを惜しんでいる。
そんな中、ホロが俺の方に顔を近付け、

「ぬしとの化かしあいも面白かったでありんす。」

そう言いながら、口を開いて笑い、そんなホロに袋いっぱいの飴を差し出しながら、

「私も面白かったよ、次は正面きっての化かしあいをしたい。」

と、そう言葉を返す。
ここでホロ達と別れれば、次の出会いは何時になるかはわからない。
ホロは神だから時の流れで死ぬ事はなくとも、ロレンスは限りある時を歩んでいる。

「では、また会いましょう皆さん。」

そう言いながら、ロレンスが馬に鞭を打ち、
横に乗るホロが手をブンブン振りながら、

「エヴァよ、次も甘いものを頼むでありんす。」

そのロレンスとホロに、俺達も手を振りながら、

「あぁ!また会おう!
 ホロ、次は桃の蜂蜜漬けを樽で用意してやる!」

そう言葉を返す。
なにせ、ロレンスもホロも『また』や、『次に』と言う言葉を紡いでいるんだ、
俺達が一方的に、次のない言葉を吐くわけにもいかない。
そう思い、馬車の姿が視界から消えるまで、俺達は商館の前で手を振り続けた。


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