チャチャゼロ・・・・ゼロ?な第4話
エマは出て行ってしまった。もう戻ってくることも無いだろう。
ほかの使用人も、もうここに来る事はない。これで一人になってしまった。
そう、一人に。その事をボーっと考えながら外を眺めていると、あたりは次第に暗くなりぽつぽつ星も出始めた。
べつに、部屋が暗くなっても困りはしないが腹は減る。つまりは料理を作らないといけない。
そこまで考えて、この時代には電子機器その物が無いんっだと思い、取りあえず原作でのエヴァの始動キーである、
「リク・ラク ラ・ラック ライラック 火よ灯れ」
とやってみたが発動しない。その後何度かやってみたがダメだった。
そこで思ったのが、この始動キーはエヴァのモノであって俺のモノではない。なら、俺仕様の始動キーを作る必要性がある。
しかし、これが俺の頭を悩ませる事になろうとは思わなかった。何せ呪文である。どうやって決めるのが良いかわから無い。
そこで取り出した知識によると、始動キーは自己に対する魔法を使うと言う宣言だと言う事。
呪文は起こる現象を決定付けるもだと言う事が分かった。
そして、この二つに熟達すると無詠唱が出来るようになる。
出た知識としては大体はこんな感じだった。
「始動キーねぇ・・・、魔法魔法魔法・・・。」
別に言いやすければいい。短ければさらに使いやすい。
が、形式美にこだわるならそれなりに意味のある言葉にしたい。
そう考えて出てきたのが、
「エメト・メト・メメント・モリか・・・、えらく不吉な気がするがまぁいいだろう。」
エメトは真理を表し、メトは死。どちらもゴーレムをまともに作り破壊しようとした場合に使うワードで、確かヘブライ語だったと思う。
そして、メメント・モリは死を忘れるなと言う意味。これは自らの戒めになる。
いくら死なない身体と言っても何かしらの封印なりはうける。
原作で封印されたエヴァは怪我をすれば包帯などを巻いていたが、それが治りが遅いから巻いていたのか、
再生できないから巻いていたのか、それとも一般人に見せるためのフェイクか、これは分からない。
だが、600年を生きている間に魔力を封印して倒そうという輩が出なかったとは考えられない。少なくとも、人間は考える動物だ。
それならば、フェイクだろう。治りが遅くとも包帯や何やらに頼るよりは、封印して少なくなった魔力でも操作して再生にまわせばいいし、
痛みが気になるなら麻酔でもモルヒネでも打てばいい。
しかし、不死性に頼ってばかりではいつか足元をすくわれるだろう。
そして、出来た始動キーを使い火よ灯れと、指先に意識を向けて行なった時に、指先から火柱が上がりそうになって取りやめた。
原作ではライターの方が便利だと言っていたが、魔力量の問題でここまで恐ろしい事になろうとは。
下手をすれば事をなす前に屋敷ごと火達磨になる所だった。
取りあえず、これを見て魔法学校に早く行かなければと心に誓った。
それと同時に戦力である。それに関しては心当りがある。
「そういえばチャチャゼロがいるんだよな。こいつは動いてくれるのか否かだが、どうなんだろう?」
そう思ってイスの上のチャチャゼロを見る。チャチャゼロ。
エヴァの一番古い従者にして、長い時を歩む事になるパートナー。
しかし、目の前のチャチャゼロは動かない。
いや、動かしようが無い。エヴァの知識の中にも糸を繰って人形を動かす知識や、腹話術の知識は無い。
まったくと言うわけではないが、お遊戯レベルだ。
となると、俺がその技術を磨き上げる事になるのだが、それはそれで面白そうだからいい。
しかし、磨き上げるまでチャチャゼロを持ち歩く訳にはいかない。
流石に追われる身である今は戦力は欲しいが、荷物はいらない。
そう思いうんうん唸っていると、ふと一つの閃きがわいた。
原作を読んでいて思ったのだがもしかすると、チャチャゼロには魂が封じ込めてあって、
エヴァがチャチャゼロに魔力を流すことによって動く自らの意思を持つ人形なのではないかと。
仮にそうでないとするのならばチャチャゼロが動けない理由が見当たらなくなる。
何せ、魔力は無くとも糸を繰ることは出来るし、腹話術なら喋ることも可能。だが、それが出来ないと言う事は、
さっき考えたことが当たらずとも、遠からずなのだろう。
確証は無い。確証は無いがやってみるしかない。
失敗しておかしな事態になった場合は、すべてを燃やして隠蔽すればいい。
それに、やり方はあのゲスの血の中にある。アレの得意魔法が降霊術と死霊術で助かった。これなら魂を降ろす事が出来る。
魔力は有る、ついでに言えば今日は昨日と比べて、
えらく身体にまとわり付いてくる魔力の感覚が多いと思ったら、幸運なことに空には満月も浮かんでいる。
何かしらを呼ぶにはこんなに条件のそろった日は無いだろう。
「これは思い立ったが吉日と言う奴か。前はどちらかと言うと幸運ではなく、悪運しかなかったが今は幸運に・・・、
恵まれてるのか?判断に迷うが。」
そう言いながら、知識を呼び出す。必要な物は先ず依り代。
これはチャチャゼロ人形を使うからよし、次に依り代にパスを通し、主と求めさせるための血液。
これは地下にある樽から代用しよう、わざわざ再生するからと言って自分の血を流すのは嫌だ。
知識では一応これがあれば何かしらの魂を呼ぶことが出来る。
出来はするが、今の俺がこれで魂を呼んでも誰がくる分からない。
こういう術の場合、たいていは自身に関係のある人の魂を呼び出すのがお決まりだと血が教えてくれるが、これは困った。
俺にはこっちに知り合いが居ない。エヴァになら居るかもしれないが、多分俺では呼べない。
俺は『エヴァ』ではあるが『エヴァの魂』ではない。まぁ、だからこうして俺が機能出来る訳だが。
それに、もし俺の魂が誰かを呼ぶにしても無理がある。何せ、俺は今よりもはるか未来に生きていた。
つまり、生まれもしていなければ死んでもいない、俺に縁のある人々を呼ぶのは不可能になる。さて、どうするべきか。
何か策は無いかと考えて出た一つの案が、何かしらの媒体を用意すると言うもの。
媒体があれば、ある程度は呼ぶ魂を指定できるらしい。
これならば、最悪そこいらに漂っている悪霊を呼び寄せて変な事態になる事は無いだろう。
もし悪霊を呼び出したら、チャチャゼロ人形を焼いて身体を奪うだけだが。余談だが、吸血鬼よろしく俺には幽霊が見える。
最初見たときは感動したが素っ裸の時だったので特に考える事も無く幽霊の中を突っ切ってみた。
しかし、幽霊の方は気がついていないのだろう。そこに立ったままだった。
「よし、取りあえずは地下だな。あそこには宝物庫もあるし、血の樽もある。」
悪霊対策として、部屋から出て厨房に行きアルコール度数の高い酒とコップを2つを探す。
火柱は出せるが、地下は石造りのため引火性の物がいる。それに、あんな所で火柱を上げ続ければ窒息死は必死だろう。
それに、まともな物が呼べたら酒ぐらいは振舞っても問題は無いだろう。少なくともこれからを生きるパートナーだ、友好関係は築きたい。
そして、地下室に到着。取りあえず、チャチャゼロ人形の人形の服を脱がし、手近にあった樽の蓋を破壊して中に突っ込む。
血に浮かぶチャチャゼロ人形、無駄に似合っている。取りあえず第一準備はよし。次に媒体を探しに宝物庫に向かう。
宝物庫の中には沢山の金銀宝石類が転がっている。
一度エマに渡すため取りに来た時も思ったが、本当にこの家の当主は金持ちだったんだな。
しかし、これはラッキーだ。こういう風に地位を持っている人間は多かれ少なかれ貢物をもらったり、趣味で骨董なり何なりを集めようとする。
つまり、これらを媒体にすれば何かしら古くて、なおかつ愉快な物を呼び出せる可能性が高い。
それに、型月理論で行けば、神秘も追加できるのだろう。そう思い探してみるが、なかなかでてこない。
金の剣やえらく綺麗な装飾のされた鎧はあるが明らかに真新しい。
「ここ以外ならあるのか?いや、古い壷とかで呼び出しても、戦闘に耐えうるものは呼びだせんだろ。
と成ると武器系統がいいんだが・・・・・、ん?」
ごちゃごちゃ置いてある物に隠れて分からなかったが、奥の方に一つ箱がある。
この部屋には、剥き出しの宝物はあるが、箱に入ったものは無い。それを不思議に思って近づいて、箱をあけてみると。
えらくぼろぼろな何かが4つ出てきた。その一つ手にとって見ると辛うじて剣だろうと言う事は分かる。
「この4つで一セットか?まぁ、同じ箱に入ってるんだからそうだろう。しかし、これはなかなかに面白そうな物が出てきそうだな。
しかし、変なフラグの前触れでもある。どうするべきか・・・・・・。まぁ、普通で無いならそれでいいか。ククク。」
取りあえず媒体は決まった。それにこれ以上探していると、チャチャゼロ人形が何もしていないのに勝手に動き出しそうで怖い。
そう思い、樽のある拷問部屋に帰って魔法陣を書く。当然この陣を書くときに使ったのは樽の中の血。
そのせいで樽が全部空になってしまったが使い道が無いので問題ない。
そして、陣の中央にチャチャゼロ人形を置きその周りに持ってきた物を置く。さぁ、これで準備は出来た。
準備は出来たが・・・・、
「クソ、あのゲスめ。肝心なところで使えん。」
いってしまえば、血の量が足りなかったのか、出てきた呪文は歯抜けで意味を成さない。これで下手に召喚すれば暴走するだろう。
だからこそ何か別の呪文で代用するしかない。召喚用の呪文なんてほとんど知らないが・・・、いや、心当たりはある。
一つだけだが、一応覚えている。Fateの召喚呪文だがこれは使えるのか?しかしやってみるしかない。やらないと準備した物がもったいない。
暴走すればした時だが、しなかった場合はそれなりに何か出るだろう。
幸いなことに剣で斬られたぐらいじゃ死なない身体だ。なら、一つかけてみようじゃないか。
ついでに呪文もいじろう。何が出るかはお楽しみだが、どうせなら、神父服でも探してきておくんだったな。
いや、いまならミニスカに赤上着でツインテールか。
そう思い陣の端に両手を着く。
「よし、やってみるか――――――――――――
エメト・メト・メメント・モリ
素に銀と鉄。 礎に血と契約の主。 祖には我がわが同胞たる真祖。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
今の所はまだ、何も起こらない。ただ、自分の血を解してそこに魔力を流すだけ。
もともとが自分の物だけあって、うまく流れているようだ。
「 閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する悠久なるたびの終焉をここに」
ここまで言って、部屋の中の空気が変わる。吸血鬼にある第六感が何かしらの動きを感じ取る。
呪文はまだ完成していない上、所々変えているがうまく作動しているようだ。
「 セット
告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の武器に。
わが言霊に従い、この意、この思いに従うならば応えよ」
ここまで言っている間に陣から風が吹き上がる。
部屋の中で小さな竜巻でも出現したのでは無いかというぐらいの暴風。
目を開けていられないが、手を放すと何が起こるかはわからないし、言葉も紡ぎ終わっていない。
しかし、いくらなんでもこの風の量はおかしい。アニメで見た感じではここまで・・・・って、誰もまともに召喚しているシーンがねぇよ!
うっかり魔術師は二階にフェイカー落とすし、へっぽこは気づいたら出来ちゃいましたって感じだ。てことはこれで合ってるのか?
景気良く魔力を持っていかれているような気もするし。まぁ、完成してから考えよう。
「 誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏、人形に新たに宿りし魂よ
抑止の輪より来たれ、死の先を生きる者たちよ―――!」
紡ぎ終わった瞬間陣が爆発した。いや、正確にはボロボロだった物が粉々になってチャチャゼロ人形に吸い込まれていったようだ。
それと同時に、吹き荒れていた風が一気に爆発したせいで俺は吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がってしまった。
乙女の肌に傷がついたらどうしてくれるんだ。取りあえずチャチャゼロ人形は一発殴る。
ん?傷なんて再生できるだろうって?気分の問題だ気分の、可愛いは正義なのだよ例え理不尽でも。
そう思いながら身体を起こしてみると。男と目があった。
一瞬ポカンとする。だってそうだろう、チャチャゼロ人形に魂を宿らせようとして人形の代わりに細みな男が居たら誰だって驚く。
しかも、顔を見たら何故かドキドキする。男にドキドキするなど言語道断だ、まかり間違っても俺の魂は男だ。
男としての尊厳とかは得に問題ないが男との恋愛とかは嫌だ。
そこで考えて思ったのは、何かしらの魔法ではないのかという事。
そして互いに口を開き言葉が被った。
「キサマゲスの手先か!」
「君が俺を呼んだのか?」
被ってしまった為、お互い次の言葉が出ない。しかし、しかしだ。
目の前の男は『俺を呼んだのか?』と聞いてきた。ならば、目の前の男は多分そうなのだろう。
取りあえず確証がほしい。そう思い男の方を見ると、男の方もどうした物かと考えているらしい。
それなら好都合だ。幸いな事に襲ってくる気配もないし。
「キサマの本体が人形ならば、間違いなく呼んだのは私だ。いったいキサマは誰だ?
なぜ、人形じゃなく人の姿をしている?」
そういってやると、男の方もややあって答えてくれた。
なかなかに衝撃的な回答を。
「俺はフィアナ騎士団の騎士。名はディルムッド・オディナ、状況が分からないが本体が人形というのは間違いない。
それと、ゲスというのが誰かは分からないが手先ではない。」
さて、出てきたのはゼロランサーでした。チャチャゼロとゼロランサーはゼロつながりだからありだよね?
って、いったい俺はどれだけフラグブレイカーな存在なんだ?いや、本体は英霊の座とかいうところにあるからFateには出演するのか。
しかし・・・・、そう思いディルムッドの方を見上げる。確かこいつって神話でも不運だしFateの方でも不運。
おまけに幸運のパラメーターはEだったよな?その上俺の所に来るとか、どれだけついていないんだ?
まぁ、俺としては曲がりなりにも英雄、その上強さだけを考えるなら対一戦ならば、最優といっても変わりない彼が出てきたのは幸運である。
が、流石にどうした物か?そう考えているとディルムッドのほうが口を開いて来た。
「取りあえずは、君が呼んだという事は君がマスターでいいのか?確かに魔力は君から流れている事を感じられるが。
見た所敵もいない様だし、それに英霊の座との繋がりも変な感じなのだが?」
さて、どうしたものだろう。
このままマスターだと名乗ってもいいが、それだと令呪も持ってない俺は宝具を喰らってしまいそうだし・・・・。
うまくいけば、600年あるいはそれ以上一緒に居る事になる。ならば、こちらの状況を話そう。
少なくとも情報量では俺のほうが勝っている。ならば、後はそれをどう活用して欲しい答えを導き出すかだ。
交渉の基本は顔は笑顔で右手で握手、左手でわき腹を貫通させてさらにカードを奪い取る立ったよな?
少なくとも、俺はこうとしか覚えていない。そうとなれば交渉の席に移そう。
「着いて来い。少なくとも、互いの事が分からなければどうしようもない。私との契約は話を聞いた後でかまわない。
話を聞いて契約したくなければそれでもかまわない。」
そういって歩き出すと、どうやら後ろからつ着いて来くれるらしい。足音はしないが気配で分かる。
そして、連れて来たのはエヴァの部屋。最初ここがどこかと聞かれて、寝室だと答えると少し戸惑っていた。
お互い席について昨日持ってきていたワインを昼から片付けていないカップに注ぎ互いの前においてさぁ、交渉といこう。
「まずは話を聞いてくれ、質問は後で受ける。まず私は人間ではない吸血鬼の真祖だ。
それと、私は正義でもなく悪でもなく自身の思う道以外は進む気がない。そして、最後に私はお前の事を知っている。
それが真実かどうかは確かめるすべはないが少なくとも知っている。この状況でもし仕えるというのならば私は喜んで契約を結ぼう。」
そこまで言ってワインを一口。
口を湿らせてディルムッドの方を見て今度はお前が話せと目で送ってやると話し出した。
「俺の方はほとんど分からない事ばかりだ。猪に轢かれ和解した筈の友に見殺しにされ、もう後は死ぬだけだと思っていたし、
事実俺は死んで英霊の座という所にいた。しかし奇妙な事が起こった。俺の本来の魂が情報を渡した後に急激に引っ張られた。
それはもう無理やりにだ。座は引っ張られる俺の魂には目もくれず、渡した情報で仮初の俺を登録し俺は今に至る。
これが俺の方の状況だ一応座との繋がりはあるが、今はあちらが本物で俺が偽者になっているんだろう。
しかし、世界は矛盾を嫌うため俺はもう長くはいられない。」
そう言われて手を見せられた。ディルムッドの手は少し透け始めている。その後自身の言う事は言ったと沈黙する。
出したワインは飲まない、毒か何かを警戒してるのか本体が濡れるのを危惧しているのか・・・・。さて、どうするべきか。
少なくとも今の話を聞いたかぎりでは、こいつ曰く本物は自分だといっている。個人的にはあまり問題ないがどうした物だろう。
魂があるなら成長できるし、たぶんプラスと見ていいのだろう。
魂と聞いて思いつくのは、今回の召喚で使った魔方陣は召喚と言うよりは降霊術の陣を使った。
内容は、おろした魂を問答無用で依り代につなぎ止めるという物。多分そのせいで今の妙な状態なのだろう。さて、
「キサマに時間がないのは分かった。で、どうする?そのまま消えるか。
それとも私に着いて来るか?その二択以外はない。私はキサマの意志に任せる。」
そう問いかけるとディルムッドは重い口を開いた。どうでもいいが、こいつは何故か子犬のように感じる。
クーフーリンが猛犬と呼ばれたからそういう印象なのか、目の前の奴があまりに不幸だからなのかは分からない。
ただ、物悲しそうには見えるが。
「ついていくも何も俺は消える以外の意外の選択肢がない。
だが、仮に永らえることが出来れば次こそは騎士の忠義という物を貫きたい。」
なるほど、Fate/zeroでも神話でもコイツは騎士の忠義を求めていた。
ふむ、こいつが消えるのは惜しいな。それに、考えているとおりならこれで解消するはずだ。
「ディルムッド・オディナ。キサマは私に忠義を尽くす気があるか?尽くす気があるのならば私はお前を私の騎士として迎えよう。
何、私もこれから悪の魔法使いと呼ばれることになる、戦力としてお前は欲しい。どうだ、私は全世界がキサマのことを不義だの何だのと、
のたまった所で気にしない。私だけはキサマの事を忠義の騎士だと認めようどうだ?」
それを聞いたディルムッド目を見開く。自身の欲した物が目の前にある。
目の前にあるが自身には時間がない、自らの身体は刻一刻と消えていっている。
目の前の少女は俺に手を取れというかのように手を差し出してくる。あぁ、この手を取れればどんなにいいか。
葛藤するしかない。
「君の騎士になれるのなら・・・・、君がその誓いを守ってくれるのならどんなに嬉しい事だろう。
だが俺はもう消えるしかないそれ以外の道がないんだ。」
そういうと、目の前の少女は笑った。声は上げていないただ、その顔は笑っているまるで、
俺のいっている問題が『何だその程度の事か』と言いたげに。明かりのない部屋で月明りだけを顔に受けとても綺麗笑っている。
そして俺の話を聞いてもなお、手を差し出したままだ。あぁ、これは、きっと悪魔の罠なのだろう。まるで彼女と交わしたゲッシュのように。
そう思いながら少女の手をとった。そうすると少女が一言俺に言った。まるで、こうなる事を初めから分かっていたかのように、
「喜べ騎士、君の願いはかなう。」
さてと、ディルムッドが手をとってくれるかが問題だったが、とってくれたの大丈夫だろう。
後はこのままでは消えてしまうので、とっとと消えないように処置をしよう。成功確率は不明だ。
しかし、これなら出来るだろうという奇妙な確信がある。要は、彼が彼であることに矛盾がなければいいのだ。
「ディルムッド槍を・・・。ゲイ・ボウを貸せそして片膝をつけそれで決着がつく。」
そういうと、ディルムッドは槍を取り出し俺に貸しいてくれた。まぁ、それでも奴の顔と俺の顔とがようやく同じ高さぐらいだ。
そして、片膝をついた奴の顔に槍の穂先を向ける。
「ちょっと待ってくれ君はいったいどうするつもりだ。その槍の効果を知らないのか?ならば教えてやるよ。
その槍で傷を負えば消して癒える事がない、その槍はそういう代物なんだ。」
ディルムッドやけにうろたえている。まぁ、無理もない自身の獲物の効果は自身が一番知っている。
コイツだけはこの槍を踏んでも大丈夫だがそれ以外では傷を負うだろう。だからこそ今からやる事が可能になる。
「だまれ、私は強欲でな自らの物には自らの物であると印をつけるようにしている。
キサマは私の手をとった、それはつまりキサマは私だけの騎士という事だ。ならば、キサマに私の物だという印をつけなければ成らない。
それと聞くが、この槍は常時効果が有るんだよな?私が扱っても大丈夫か?」
それをきくと、ディルムッドは律儀に答えてくれた。
もう、うろたえている雰囲気もない。むしろ、騎士として勲章でも受け取るかのように喜んでいるような気がする。
「あぁ、そのことならばどう言う訳か、今のゲイ・ボウもゲイ・ジャルグも真名の開放型になっている。
多分、効果を出さないように巻きつけていた布のせいだろう。俺が持たないと開放は出来ない」
「そうか、ならばキサマも槍を持ち開放しろ。」
そういうと素直に持ってくれた。もう本当に時間がないのだろうチャチャゼロ人形が透けて見えている。
狙うは顔の黒子。ディルムッドの魔貌とも称されるこれを消すことが出来れば、こいつはディルムッドでは居られなくなる。
これがただの傷なら無理だっただろうだが、この槍の傷は癒えない。この槍を持って黒子のある位置を傷つければ魔貌は意味をなさなくなる。
俺とディルムッドは見つめあう。俺の顔は多分赤いだろう。だが、今はそれをネタにする気もない。
「準備は良いかディルムッドよ。これが終わればお前はお前の代名詞でもあるその魔貌を失う。そして、私だけの騎士となる。」
「あぁ、かまわない。私はこの傷を受け君だけの騎士となろう。」
そしてディルムッドが真名を開放する。
必滅の黄薔薇
瞬間、俺は槍を縦に引いた。そして、ツーッとディルムッドの顔に決して癒える事の無い傷が刻まれ血が流れる。
身体を見てみると、さっきまで透けてい所が今はもう透けていない。かわりに偉く身体が疲れた、多分これが英霊を従者にし宝具を使うという事なのだろう。気をぬいたら倒れるという事はないが少しダルイ。それと、ディルムッドの血がえらくうまそうに見える。
男から吸うのはいやだが、忠義の代価はやらんとな。
「ディルムッドその顔の傷を持ってキサマをエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの騎士として迎える。」
「はっ、ありがたき幸せ」
そういって片膝いた姿から頭だけを下げる俺は槍を横に置き、ディルムッドのそばまで行き、今傷をつけた顔を両手で持ち上げる。
一瞬キョトンとした顔が現れるが別にいい。今はそれを弄るよりもこっちの方が良い。そう思って奴の傷口を舐め上げる。
うっかり魔術師は英霊の血は毒だといっていたが、これはなかなかにうまい。ただ残念なのは情報として使えないことぐらいだろう。
「あ、主いきなりなにを!?」
えらくうろたえている。
生前確か友人の婚約者と逃避行したというのになかなかに初心だ。
「私はキサマに言ったぞ真祖だと、吸血鬼だと。ならば血を飲んでなにが悪い?」
それを今思い出したかのようにディルムッドの顔が青くなっていく。グール化でも恐れているのだろう。
まぁ、それよりも彼に降りかかる悲劇は多分彼の考えている事の斜め上を行く事になるだろう。
何せ、俺は快楽主義者で退屈を嫌い普通を嫌う。
用は楽しく愉快でないと気がすまない、それは当然従者になったディルムッドにも当てはめる。
まだ焦っているディルムッドに言葉を投げかけてやる。
「安心しろグールにはならん。それよりも貴様は私の従者になってしまったのだ。
そう、なってしまったのだ、この悠久の時を生きる吸血鬼の手をとってしまったのだ。これからは馬車馬のごとく働いてもらうぞ。
それと、今の傷口への口付けは代価だ。処女の乙女の、しかも主の初めての口付けだ。
これよりも高い代価はほかを探してもなかなかないぞ、光栄に思え私の騎士。
では、私はもう寝る。後は好きにするといい。
酒ならば厨房にあるからたらふく飲むといい。ではお休み。」
ディルムッドが何か言いたげにこちらを見ているが今は無視。
それはもう白み始めている。
夜の住人である吸血鬼にはもう寝る時間だ。
後の事はまた今夜にでも話そう。