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No.10094の一覧
[0] 萌え?・・・いや、むりっしょ?《ネギまエウ゛ァ憑依》[フィノ](2010/04/03 23:13)
[1] プロローグ[フィノ](2009/11/11 08:53)
[2] プロローグ 2[フィノ](2009/11/11 08:53)
[3] え・・・マジ?な第1話[フィノ](2009/08/01 22:15)
[4] 緊急指令死亡フラグを撃破せよ・・・な第2話[フィノ](2010/02/26 12:17)
[5] 現状の思考と考察・・・な第3話[フィノ](2010/02/26 12:20)
[6] チャチャゼロ・・・・ゼロ?な第4話[フィノ](2010/02/26 12:26)
[7] 良い日旅立ち・・・炎上な第5話[フィノ](2009/08/01 22:19)
[8] 学校とはとにも奇妙なところだな第06話[フィノ](2010/04/13 21:43)
[9] 人間交差点・・・・な第7話[フィノ](2009/08/28 15:17)
[10] 頭痛がおさまらないな第08話[フィノ](2009/08/01 22:21)
[11] 真実は小説よりも奇なり・・・俺のせいだがな第09話[フィノ](2010/04/13 21:44)
[12] モンスターハンター・・・待て、何故そうなるかな第10話[フィノ](2010/02/26 12:29)
[13] 復讐は我にありな第11話[フィノ](2010/02/26 12:31)
[14] 新たな一歩なのかな第12話[フィノ](2010/04/13 21:46)
[15] 肉体とは魂の牢獄なんだろうな第13話[フィノ](2010/02/26 12:36)
[16] 絶賛逃亡中?な第14話[フィノ](2010/02/26 12:37)
[17] 幕間その1 残された者、追うことを誓った者[フィノ](2010/04/13 21:48)
[18] ラオプラナな第15話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[19] 思い交差点な第16話[フィノ](2009/08/01 22:28)
[20] 色々とな第17話[フィノ](2009/08/01 22:29)
[21] おいでませな第18話[フィノ](2009/08/01 22:30)
[22] 幕間その2 騎士と主と在り方と[フィノ](2009/08/01 22:30)
[23] 発掘も楽じゃないよな第19話[フィノ](2009/08/01 22:31)
[24] 嫌な確信が出来たな第20話[フィノ](2010/04/13 21:50)
[25] 予想しておくべきだったな第21話[フィノ](2010/04/13 21:59)
[26] あいつらも大変だったようだな第22話[フィノ](2010/04/13 22:14)
[27] 目玉だな第23話[フィノ](2010/04/13 22:35)
[28] 全て世は事も無しな第24話[フィノ](2010/04/13 22:37)
[29] 知らぬが仏、つまりは知らないと死ぬ事だな第25話[フィノ](2009/08/09 13:34)
[30] タヌキとキツネとだな第26話[フィノ](2010/04/13 22:38)
[31] 失態だな第27話[フィノ](2010/04/13 22:39)
[32] さて、どうしようかな第28話[フィノ](2009/08/24 18:15)
[33] 中々にヒドイ事をするな29話[フィノ](2009/08/28 14:04)
[34] 1と0の差かな第30話[フィノ](2009/09/07 12:08)
[35] 時間は勝手に進むものだな第31話[フィノ](2009/09/21 17:04)
[36] 英雄の横顔かな第32話[フィノ](2009/09/28 22:28)
[37] ボロボロだな第33話[フィノ](2009/10/07 00:20)
[38] 夜ももう終わりだな第34話[フィノ](2009/10/16 01:21)
[39] 事故だと思いたいな第35話[フィノ](2009/10/21 19:47)
[40] 幕間その3 曰く、チョーカッコいい男[フィノ](2009/10/29 02:12)
[41] 戦闘or日常さてどっちが疲れるかな第36話[フィノ](2009/11/04 14:11)
[42] 取り合えず叫ぼうかな第37話[フィノ](2009/11/11 13:22)
[43] 気のせいだと思っておきたかったな第38話[フィノ](2009/11/15 20:58)
[44] それぞれの思惑だな第39話[フィノ](2009/11/25 09:56)
[45] 美味しそうだな第40話[フィノ](2009/12/01 16:19)
[46] 互いの牙の間合いだな第41話[フィノ](2009/12/08 01:32)
[47] 幕間その4 仲良くなろう[フィノ](2009/12/08 20:14)
[48] 出発は明朝かな第42話[フィノ](2009/12/18 17:37)
[49] 強い訳だよな第43話[フィノ](2009/12/26 14:10)
[50] 商人・・・、なのかな第44話[フィノ](2010/01/22 01:29)
[51] ケダモノの群れだな第45話[フィノ](2010/01/08 19:08)
[52] 見たかったな第46話[フィノ](2010/01/19 00:19)
[53] 疑うな第47話[フィノ](2010/01/20 01:44)
[54] 無形の有形だな第48話[フィノ](2010/02/03 06:37)
[55] そして歩き出すだな第49話[フィノ](2010/02/03 15:55)
[56] 旅の途中だな第50話[フィノ](2010/02/17 19:39)
[57] 地味に変わってるな第51話[フィノ](2010/02/24 00:17)
[58] 到着、出会いと別れだな第52話[フィノ](2010/02/26 12:10)
[59] 幕間その5 爪痕[フィノ](2010/03/04 23:18)
[60] 難しいな第53話[フィノ](2010/03/06 23:40)
[61] 日常だな第54話[フィノ](2010/03/13 12:39)
[62] その後の半年だな第55話[フィノ](2010/03/22 14:24)
[63] 研究の日々だな第56話[フィノ](2010/04/04 18:01)
[64] すれ違う人々だな第57話[フィノ](2010/04/13 22:55)
[65] 花畑の出会いだな第58話[フィノ](2010/04/25 22:56)
[66] 幕間その6 メイド達の憂鬱[フィノ](2010/05/02 06:47)
[67] 幕間その6 メイド達の憂鬱 中篇[フィノ](2010/05/05 06:13)
[68] 幕間その6 メイド達の憂鬱 後篇[フィノ](2010/05/23 22:37)
[69] ありふれた悲劇だな第59話[フィノ](2010/06/24 21:58)
[70] それぞれの思いだな第60話[フィノ](2010/11/12 06:04)
[71] 強く・・・、なりたいな第61話[フィノ](2010/10/25 22:54)
[72] ブリーフィングだな第62話[フィノ](2010/11/12 14:41)
[73] 彼女達の戦場だな第63話[フィノ](2010/12/01 23:14)
[74] 彼の戦場だな第64話[フィノ](2011/01/26 13:43)
[75] 自身の戦いだな第65話[フィノ](2011/04/18 03:53)
[76] 狗の本分だな第66話[フィノ](2011/04/23 03:32)
[77] 対峙だな第67話[フィノ](2011/05/02 03:37)
[78] 懐かしいな第68話[フィノ](2011/07/07 22:33)
[79] 風の行方だな第69話[フィノ](2011/09/23 23:39)
[80] 彼に会いに行こうかな第70話[フィノ](2011/10/01 03:42)
[81] そんな彼との別れだな第71話[フィノ](2011/10/15 07:37)
[82] 小ネタ集 パート1[フィノ](2009/08/11 22:17)
[83] 小ネタ集 パート2[フィノ](2009/09/21 17:03)
[84] 小ネタ集 パート3[フィノ](2010/02/03 15:53)
[85] 小ネタ集 パート4[フィノ](2010/02/04 03:28)
[86] 作者のぼやき。[フィノ](2010/01/08 00:21)
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[10094] 幕間その5 爪痕
Name: フィノ◆a5d9856f ID:9e0e11ed 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/04 23:18
幕間その5 爪痕



長くて大きな戦があった。
僕は寒村で、7人兄弟の7番目として生まれた。
そして、上の兄さん達は、3~4番目は1度戦に行って帰ってこず、
2番目と5~6番目は3回頑張ったけど、4回目で誰一人帰ってこなかった。
そして、一番最後まで残った1番目の兄さんは、武勲を立てて騎士になろうかと言う時に、
敵から毒矢をくらい、3日3晩苦しみぬいて最後に、

『戦の終わりが・・・、平定の時が見たかった・・・。』

そう、口の端から血を流し、目から涙を流しながら事切れた。
そして、そんな兄さん達の姿を見ていた僕も、いずれはこうやって・・・、
戦場に行って腹を裂かれるか、兄さんのように毒を受けて苦しんで死ぬものだと思っていた。
それに、僕の母さんと父さんは、酷く風変わりな人だと思う。

戦に行った兄さん達が帰って来る度に、最初の頃こそ喜んでいたが、
戦が長引き、ただでさえ荒れていた村が、更に枯れ井戸みたいに干上がった頃に兄さんが2人死に、
その死んだ兄さん達宛ての少しの見舞金が支払われると、状況は一変して兄さん達が生きて帰ってくると、
途端に母さん達の機嫌は悪くなって、その兄さん達がまた出兵した後は決まって僕に辛くあたった。
でも、多分それは仕方なかったんだと思う。

「このクズ、早く水汲みに行って薪を割りな!
 ただでさえ寒くて凍えそうなのに、一番若いお前がヘタってどうするんだい!!
 まったく、馬鹿みたいにへらへら笑って。」

そんな母さんの罵声を聞きながら、自身の体を見る。
女みたいに細い体に、あまり高くない身長。
毎日遠くまで水汲みに行っても、一向に腕は太くならず、むしろ、
何時もろくに食べていないので、どんどん痩せて肋骨が浮いた脇腹。

そして、冬のとある日・・・、鉛色の空は今にものしかかりそうなほど重苦しく、
薄くてボロのシャツしか着ていない僕は、その日も水桶を担ぎ水汲みに行き、
冷えて真っ赤になった手を吐息で温め、水汲み場に着いた頃に降り出した雪は深々と降り続けている。
そんな中を、長い時間かけてまた家に戻る。
大きな瓶のないうちは、日に5回はこの水汲みを繰り返し、その合間に巻き割りと洗濯をするのが僕の日課だ。
でも、その日はいつもと違って、

「まぁまぁ寒かったわね~、手だってこんなに赤くなって。」

そう言って、母さん気持ち悪いぐらい優しく、僕の手を自身の骨張ったゴツゴツした手で包み、
その背後に立つ父さんは、

「薪割りは終わった。
 こっちに来て火に当たるといい。」

そう、禿げ上がった頭で何時も寡黙な父さんは、
痩せて落ち窪んだ目を細めながら、僕を客人のように家の中に招いた。
そして、僕はその気持ち悪い両親に言われるがまま家に入り、
イスに座って、いつもは粗末な物しか載せられない僕の皿の上に、
小麦で出来たふわふわのパンと温かいスープ、それとハチミツを落としたホットミルクが出される。

そんな光景を見ながら、僕は口から胃ごと、体の中身を吐き出しそうなほどの気持ち悪さを堪えるのと、
両親の不自然なまでの作り笑いが、閉じた瞼の裏でチラつく不気味さで鳥肌が立つ。
その不気味さと気持ち悪さに、空っぽの胃の中のモノを吐き出そうと席を立とうとすると、
横にいた父さんから、ガシッと手首をつかまれ、

「暖かい食事を前に、何処に行こうと言うんだ?」

そう、暗鬱とした声で問われ、その間に背後に回った母が両の肩に手をかけ、
座らせようとグィッと下に力をかけながら、

「食べなさい、こんな豪勢な食事は初めてでしょ?」

そう言われながら力を込められて、痩せこけた僕は席に無理やり着かされ、
吐き気と気持ち悪さで、味もしない食事を取らされる。
その間にも、両親はかわるがわる、妙に甘い声色で僕に話しかけてきて、
僕はその両親に、ただ求められる様な受け答えをした。
そんな居心地が悪い時間がどれくらいか続いた後、『コンコン』と外に続く扉をノックする音。
その音に父さんが席を立ち、母さんが僕を逃がさないと言わんばかりに見すえる。

「別に逃げる気はないのに・・・。」

「なんか言ったかい?」

そう聞く母さんに、僕は首を左右に振って答える。
そして、母さんとの無言の不気味なにらめっこは、バタンと言う音と共に吹き込んできた冷気で打ち切られ、
その音のした方を見ると、父さんとその横には帽子を被り黒衣を着た背の高い男の人。
首から十字架を提げているから、どこかの教会の神父様なのかもしれない。
その男が、僕を灰色の瞳で舐めるように一見して、

「買い受けよう・・・。」

そう、腹に響くような重低音で父に言葉を発し、懐から麻袋を1つ取り出して、
父に胸に汚い物を押し付けるかのように、その麻袋を押し付けて父や、元から眼中になかった母をそのまま一瞥する事無く、
僕の目の前に立ち、まるで猫のように腰を丸めて視線を合わせ、無表情のまま。

「今君を買い取った・・・、行こう。」

そう言われて差し出された手には、厚い皮の黒い手袋。
僕はその手に自身の手を載せて、イスから立ち上がり、目隠しをされて手を引かれるまま家を出る。
目隠しで辺りは見えないけど、身を刺すような寒さと、頬に降りかかる冷たいモノで雪が降っている事が分かる。
そして、その手を引く男が僕の膝の裏に手を当てて、掬い上げるように持ち上げられる。

「なに?」

「馬車に乗る。」

そういわれて、男の人の腕からステップを登るかのような振動が僕の体に伝わり、
カチンと言う音と共に、寒さが和らぎ男の人は僕を丁寧にイスに座らせ、
その男の人が、対面に座るような気配がする。

「これ外してもいい?」

そう、目の前にいるだろう男の人に聞くと、その男の人の声は僕の耳のすぐ側から・・・、
気配も無いのに、息遣いさえ聞こえるほどの至近距離から、

「好きにするといい。」

そう言われたので、自身の目隠しを外すと、そこは目隠しする前と同じように暗い空間。
馬車がそんなに広いわけないのに、何処までも続いているように思い、横に手を伸ばすと布の手触りが伝わってきた。
その布の方に顔を寄せ、手で捲ると目に飛び込んできたのは青白い月光と、何処までも暗い森。
ただ、月の光があるおかげで、地面に積もった雪がコバルトブルーに輝き、
目に見えるモノすべてを蒼白く浮かび上がらせ、降り続く雪が星のようにキラキラと舞っている。
そして、そんな中はるか後ろに煌々と輝く赤い物が見える。

「アレは何?」

そう聞くと、男の人はやはり重厚な声で身じろぎ1つする事無く、
まるで置物が喋っているかのように、

「老いた葉が燃え盛っている・・・。
 君は、ゆずりはと言う木を知っているか。
 いくら自身が若い葉だろうと、同じ位置に新しい葉が出始めたら、
 自身が散り、その新しい葉に居場所を渡す・・・。」

そう、朗々と思った以上に男の人は饒舌に喋った。
僕はその人の言葉を聞きながら、蒼白い世界でただ1つ煌々と赤く光る所を見る。
アレは多分、僕の抜け殻なんだろう・・・。
古くなって剥げ落ちて、それが最後の灯火の様に燃え盛る。

「これから僕は何処へ行くの?」

「・・・、今は眠れ。」

そう言われて、急に襲ってきた睡魔に僕は抗う事無く押し流される。
ただ、瞼が重くなり目を閉じるまでの刹那の間、僕はその煌く光を見続けていた。
そして、次に目覚めた時、僕は自分が眼を開けているのかと疑いたくなった。
なにせ、眼を開けてもそこは真っ暗な所だった。

「オイ、誰か居るのか?」

そう、どこかから若い男の人のカラリとした声が聞こえてくる。

「居るよ。」

そう、声のした方に返すと、その声のした方から『ゴンッ!』と言う音と共に、
何かが転げまわる音、そして聞こえるカラリとした声。

「ぐぁ~~っ、痛ってーーーー!!
 クソ、何だこれ壁か!?」

その声が可笑しくて、一体何時ぶりだろう・・・。

「あはははは・・・・。」

壁の向こうから、女みたいな声で笑う声が聞こえてくる。

「笑うな、人が痛がってるってのに!」

そう言うと、壁の向こう側のヤツは全然すまないと思っていないような声色で、
だが何処か人懐っこく、

「ごめん、でもこうして笑うのも久しぶりなんだ
 いや、もしかしたら笑うのが初めてかもしれない。」

そう言っている間も、そいつは声を弾ませている。

「ったく、お前はのん気だな。
 こんな暗くて何処だか分からない場所で、馬鹿みたいに笑えるんだから。」

そう、今頭をぶつけた壁に背を預けて声をかける。
人の笑っている声は懐かしい。
俺は3人兄弟の一番上、でも下の2人は病で早くに死に、
父親は戦に出て帰らず、母はいつもうつむいて泣いていた様に思う。
でも、そんな母は事あるごとに俺の名を呼び、俺を長男だとして育てた。

だから、俺は長男なのだろう、例え弟や妹の顔を見た事がなかったとしても。
母が、涙を流しながら俺を教会に預け出稼ぎに行き、そのまま帰ってこなくとも、
その教会から、今のこの暗い場所に売られてきたとしても。

「どうなのかな、お母さんからは何時もヘラヘラしてるって言われたけど、僕にそんな気はないんだ。
 でも、君も僕の事を馬鹿みたいに笑うって言うからには、やっぱり僕は馬鹿みたいに笑ってるんだろうね。」

そう、壁の向こうのヤツは、自分の言った事に納得するように言う。
はぁ、前に隣に居たヤツは一人でブツブツ喋って、何時も壁を一人でガリガリと引っかいていた。
その前のヤツは、なぜか一人でバタバタ暴れて、たまに奇声を上げていた。
多分、俺も隣のヤツも何時かはそうなるんだろうと思う。

「なぁ、お前兄弟はいたのかよ?」

そう聞くと、そいつはあっけらかんと。

「6人居たけど、皆死んじゃった。
 7番目の僕は、今こうしてここにいるけどね。」

そう、まるで他人事のように、悲しむべき話を言う。

「悲しくないのか?」

そう聞くと、壁の向こうからは、オウム返しのように同じ質問が飛んでくる。

「君はどうなの?」

その質問に、俺は自身の事を取りとめもなく話す。
壁の向こうのやつは、やはり何処か楽しげに、俺の話しに相槌を打ちながら話を聞き、俺も向こうのやつの話を静かに聞く。
今が昼なのかそれとも夜なのか、そんな曖昧な中でお互いの声は壁を通して聞こえ、
その取りとめもない会話は終わる事がない。

「なぁ、今何してる?」

そう聞くと、隣のやつの声は壁を通して聞こえる。

「目を閉じると、瞼の裏に光が見えるんだ。
 ここは暗いから、その光を追ってるよ。」

そう、どうしようもない事をそいつは返してくる。
はぁ、だからだろう、俺がこいつの事を放っておけないと思ったのは。

「俺には兄弟が居た。」

「うん、知ってる。」

そう、それはとうの昔に話した。
いや、それを話してそんなにも時はたったのだろうか?

「だが、今は居ない。」

「それも知ってる。」

壁の向こうから声は聞こえる。
座りっぱなしで尻は痺れ、背中と壁が一体になったような感覚にさえとらわれる。
いや、もしかしたら、俺は最初から壁に向かって独り言を話しているかもしれない。

「だから、俺は兄弟がいないと落ち着かない。
 だから、お前を弟にしてやるよ。」

そう言うと、会話は1度途切れそれから壁の向こうのヤツは透明な声で、

「いいよ、だって僕はきっと君を・・・。」

そう、最後の方は聞こえないようなか細くなった。

「別にいいだろ、俺もお前も一人なんだし。」

そう言うと、隣のヤツは今までとは打って変わって妙にまごまごしている。
今まで明け透けなくお互いの事を話していた、コイツにしては珍しい。
そう思っていると、壁の向こうのヤツは、あからさまに話を変えるように、

「そうだけど・・・、名前。
 まだ、お互いの名前だって知らないし。」

そう言ってきたが、確かに俺は壁の向こう側のヤツに名乗っていないし、
向こう側のヤツも、俺に名乗っていない。
アレだけとりとめもなく話し、一体どれ位いるかわからないのに、
お互いに、その部分には触れていなかった事に、今更ながら気がついた。

「それもそうか、俺の名前はアーチェお前は?」

そう聞くと、女みたいな声のヤツは、

「僕はシーナって言うんだ。」

そう、どうも女っぽい名前を返してきた。
そのせいで、壁の向こう側のヤツが、実は女なんじゃないかと考え出したが、
それでも、暗くて見えないのだから仕方がない。

「まぁ、よろしくなシーナ。」

そういった直後、その暗かった場所に光が差す。
それを見て、目を細めながらも立ち上がって歩き出すと、横に一人の人が現れた。
くすんだ金髪に、女みたいに痩せて細い体。低い身長は更に、そいつを女っぽくし、
横に並んで歩くと、俺より頭1つ低い。

「お前がシーナか?」

そう聞くと、そいつはニコニコしながら、

「あぁ、君がアーチェだね。」

そう言いながらも、光を目指して歩けばそこには一人の人影。
そして、その人影からは罵声が浴びせられる。

「早くしろ!!キサマらに、ちんたら歩いている時間なんてモノはない!!」

その声に従い俺たちは歩いていく。

「お前はやっぱり俺の弟だ。」

そう言うと、シーナはニコニコしたまま首を縦にも横にも振らず、

「行こう・・・。」

それっきりシーナは口を開かず、俺も口を開かない。
そして、俺が連れてこられたのはどこかの広間。
辺りは蝋燭の明かりで明るく、地面には何かの模様がぎっしりと敷き詰められている。
そして、その模様の中央には、1つの白い細身の鎧。
両の肩には、その鎧を覆い隠さんばかりの白銀の大剣が備わっていて、
一体誰がそんな剣を扱うのかと、そう聞きたくなるぐらいだ。

「お前はその鎧を着ろ。」

そう、背後の鞭を持った男が俺をはやし立て、俺はその鎧を着込む。
しかし、俺一人ではその鎧が着込めず、暗がりから出てきた男達が俺にその鎧を無理やり着せ、
両肩についている大剣が重過ぎて、立っているのもやっとと言う感じ。
そんな中、背後に立つ男が俺の頭に兜を被せ、始まるのは合唱のような朗々とした声。
その声が聞こえだしたとたん、全身を蟲が這うような嫌悪感と、眼球を針で刺されるような痛みが全身を襲う。
その痛みに、うめき声を上げても声はやまず、合唱から叫ぶようになるに連れて、今着ている鎧が自然と軽くなってくる。
その代わり、自身の意識が遠のき、その後の記憶は酷く断片的になる。

同じような黒い鎧を着た集団を背後に従え、戦で大軍を相手にする記憶。
巨大な大剣は不思議と重くなく、自身の手足のように2本とも動き、数多の敵を暴風雨のように斬り殺していく。
そんな中、白銀の大剣は更にその輝きを増し、地を駆けていた俺は、何時しか空を駆ける事ができるようになる。
記憶は酷く断片的だが、それでも自身の技量はついたのだろう、馬上の騎士を一太刀で屠る程度には。
そしてそんな中、1つの事件が起こる。

何時ものように大剣を持ち、戦場を駆けた時に俺は初めて自身の兜を付け忘れた。
だが、それを気にせず何時ものように敵を蹂躙していき、敵の将の首を取ろうかと言う時に飛んできた敵の矢を鎧の隙間に受けた。
いつもなら、そんな矢が刺さった所で血が流れる事無く、むしろ、勝手に体から矢尻が吐き出されていたが、
その時は違い、深々と刺さった矢は熱さで自身のありかを知らせ、それを無理やり引き抜いた後には鈍痛が残る。
そして、その痛みが俺の頭にこびり付いていた記憶を1つ呼び起こす。

「シーナ・・・、弟が居た。」

その記憶と、断片的な記憶を元に俺は、俺がこの鎧を着た場所を、自身と同じようなヤツを殺しながら突き止め、
その仮定で、兜をかぶれば記憶が断片的になるのも収まり、それに比例するかのように剣は更に輝きを増し、
体は傷を受けても瞬時に回復するようになり、剣閃さえ空を駆けるようになった。

そして、とうとう着いた暁の丘。
いくつもの夜を駆け、その夜の先にたどり着いた砦は不気味に静まり返り、
濃厚な血の香りが漂う回廊を、両手に剣を持ち殺すべき敵を見つけるために走るが、
その敵は姿を現さず、代わりに見つかったのは少量の血溜まり。
それを見つけ、更に歩みを進め砦の高台に着いた時に目に飛び込んできたのは、
何時暗がりから見た光と似た光。
そして、その光の中から懐かしい声がする。

「アーチェかい?
 奇遇だね、こんな所で出会うなんて。」

そういったヤツの頬には血が一滴つき、それ以外はあの暗がりに差し込む光の中で見たとのすべて同じシーナ。
そいつはあの時と同じように、ニコニコしながら話しかけてきた。

「シーナ、お前がこの砦を?」

そう聞くと、シーナは苦笑するように唇に指を当てて、

「ん、でもこれからどうしようか?」

そう、シーナは首を捻って考えているが、俺はそのシーナの頬に着いた血を親指でぬぐい、

「取り敢えず、ここを拠点にしよう。
 俺と、この砦を一人で落とせるお前がいれば、国取りだってなんだってできる。」

そう言うと、シーナは目をふわりと閉じながら、

「そうだね、僕もお腹がすいたし、そうするのもいいかもね。
 あぁ、それと、そこに隅にいるのも僕の連れだよ。」

そういって、シーナが指を差す先には、親指の爪をガリガリ齧りながら、
分厚い本を読んでいる灰色の目をした黒い服の男。

「大丈夫なのかアイツ?」

そう聞くと、シーナは何時もと変わらず微笑みながら、

「うん、あの人は知り合いだから残したんだ。」

そういうので、取り敢えずその男は殺さないで置こう。
これから、自身達がどうなるかはわからないが、きっと戦の終わりは近いはずだ。


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