現状の思考と考察・・・な第3話
とりあえずあのゲスは殺してはいないが、重傷を負わせてやった。
ついでに言えば奴の腕も俺が持っているから、くっ付けると言う事はできない。
杖を持っていた事から考えると多分利き腕だったのだろう。
そう考えると次に奴が襲い掛かってくるまでに、多少の時間がかかると推測できる。
最悪、奴の寿命を待って穏便に済ませると言う選択肢もあるが、この案は採用したくない。
奴へのトドメは今の俺から過去の彼女への手向けだ。
と、いかんいかん。
奴との戦闘で興奮していた頭が少しずつ冷めてくると、自身が素っ裸だということを思い出した。
いや別に欲情とか、目を逸らさんと駄目という事は無い。簡単な話、自分の体を見てハァハァする奴がいないように、
今の俺はすでに『エヴァンジェリン』であると言う認識があり違和感も無い。むしろ、それ以外になり得ないと言ったところか。
闇の中にいた俺は俺と言う知識だけであり、自己が無かった。だからこそ、この入れ替わりが成功したのだろう。
エヴァの体からエヴァの魂だけをアンインストールして、俺と言う魂をインストールすると言う事か。
「とりあえず、ここから出るのと服の調達か。」
流石に露出狂ではないので、何時までも裸でいるという事はしたくない。
別に寒くは無い、ゲスとの戦いのおかげで魔力と言うものが感知できるようになったお陰で、
その魔力を自身の体の周りに漂わせていると、特に寒いと言う事は無い。だが、何時までもここにいるのも嫌だ。
そう思いシーニアスが入ってきた扉から外に出てみる。扉を出ても真っ暗なままだと言う事は、少なくとも地上ではないようだ。
それと、さっきから足の裏に伝わってくる地面の感触は、土ではなく多少ごつごつしている事から多分どこかの地下室なのだろう。
そう思いながら、上に上がる階段を目指し歩く。
吸血鬼と言うことで真っ暗な中でも昼と変わらず、よくあたりが見えると言うのは多少奇妙な感覚だがそれは今更だ。
あのゲスの腕を奪った時にもう、人ではなくなってしまったのだな、と、心のどこかが勝手に折り合いをつけてしまった。
そう思い今は階段を上がっている。上の扉が出口だとするなら距離はそれほど無い。
そう思い多少速度を速め、その扉から外にでる。扉を出てみると、そこはどこかの書斎のようだ。
高そうな机や本棚などが並んでいる。そして、時間帯は夜。
差し込んでくる月明かりで、そう分かるが正確な時間は分からない。
取り合えず、時場所を把握しようと辺りを見回してみると結構広い。
それとあたりの物がでかい、当然と言えば当然か。前の体の身長は170cmを超えていたが、今は130cm位しかない。
その上今は、女の子で子供。エヴァの記憶と経験はそのまま俺が使えているから問題は無いが、気分としては小人だ。
そう思い記憶の糸を手繰り寄せると、どうやらここはエヴァのパパさんの書斎だったようだ。
それはそれで好都合。どこかに幽閉されていたら大変だったが、自宅の地下なら問題ない。
「とりあえずは体を洗うか・・・、血まみれのままはさすがに問題がある。となると厨房か。」
ここが日本ではないとすれば、水は貴重品になる。という事は風呂はまず無い。あるとすれば蒸し風呂になるだろう。
そういう関係上、風呂よりも厨房に備蓄してあるだろう水を使って体を洗った方がましだ。という事で、記憶を頼りに厨房までダッシュ。
いや、軽く走ったつもりが早い早いまるで、車に乗って走っているかのようだ。程なくして厨房に到着。
中を見ると壁際に蓋をしたいくつかの大きな瓶があった。
この中のどれかが水瓶だろうと蓋を開けていると、二つ目で正解にたどり着けたのでありがたかった。
そして、近くに水を掬う物が無かったので、瓶の中のそのまま浸かろうかと考えて水瓶の中を覗き込み、自分の顔が水面に映り目が合う。
「こうして自分の顔を見ると本当になってしまったんだなって・・・・・、ちょっと待て。これはどういう事だ?」
とりあえず、顔の作りとかはエヴァだ。それは間違い無い。
間違い無いのだが、原作と違うところが1つだけあるそれは、
「白髪?エヴァは金髪だったはずだが、エヴァが色を持っていったのか?それとも、何かの特典か?」
謎だ、激しく謎だ。なぜに白髪?いや、趣味としては金髪より白髪の方が好きだが、これじゃあアルビノとかわらんな。
それとも、ベルバラよろしくエヴァの苦悩により白髪になったのか?それとも、人の口を勝手に使ったやろうが何かしたのか?
とりあえず、本物か確かめるために、自身の髪を引っ張ったり、触ったりしてみるがそのどれから帰って来る反応も、
この髪が自身のモノであることを指している。
「悩むのは後だ、俺がこの瓶に浸かると他の人が飲めなくなるが・・・?」
そこで頭の中にエヴァ以外の情報が流れてくる。えーなになに、暇は出した?真祖化は成功?死なない殺せない?って、ちょっと待て。
この情報の出所ってもしかして・・・?情報を掘り下げるが、出る情報は断片的で余り意味を成さない。
だが、さっきの単語からしてこれが、誰が持っていた情報か分かる。十中八九間違いなくあのゲス、シーニアスだ。
しかしなぜこの情報がある?
「とりあえずは風呂だ。単語で暇は出したって事は、使用人はいないんだろう。なら問題ないな。」
そういって瓶にジャンプして飛び込み、中で全身を手で洗う。
エヴァの幽閉期間は分からないが、水浴びは気持ちがいい。
体に付いたシーニアスの血を洗い流して、先に髪を洗えばよかったと、ひそかに後悔したのは内緒だ。
身体に付いた血を洗い流して瓶から出る。そのうち石鹸を作ろう。
そう思いながら身体を拭く物を探していると、シェフ達が置いていったのだろうエプロンがあったので、
それを拝借して身体を拭き、エヴァの部屋に行く。
ついでにワインセラーにあったので、ワインとグラスも持って厨房を出る。
エヴァの部屋に行けばエヴァの服があるだろう、これで裸とおさらばだ・・・・。
いかん、エヴァの服という事はゴスロリか・・・、フリフリかフリフリなのか?
これは精神衛生上よとしく・・・、
「無くは無いんだよな。むしろ、服の着方なんかの情報がポンポン出てくるし・・・。
まぁ、これで戸惑って時間を食われるよりはマシか。」
そう思いながらエヴァの部屋に到着。
ベッドの近くの机の上にワインとグラスを置き、クローゼットと言う名の普通の部屋と、
同じぐらいの広さの部屋から服と下着を見繕う。知識で知ってたけど、エヴァ本当にお嬢様だったんだな。
とりあえず、取り出したのはペチコート、俗に言うカボチャパンツである。
ちなみにこれは意外とやばい下着で、又の間にスリットがあるというトンでも構造だたりもする。話がそれた。
とりあえず出した下着と服を着て一息。近くに鏡があったので見てみると、鏡の中にはフランス人形のように可愛らしい少女がいた。
自分で言うのもなんだが、髪の色が金から白に変わっただけで、結構印象が変わるものだなと思いながら、
ベッドの近くのイスに腰掛けてワインをグラスに注ぎ、一口飲み考え始める。先ずはここがどこかだが、
多分ヨーロッパのどこかだろうと思う。世界が違うせいで俺の知っている歴史と、この世界が同じ歴史かは知らないが、
少なくとも貴族やなんかの単語が出るのは中世ヨーロッパ方面だけだ。
しかし、正確な年代はわからない。
だが、エヴァは確か600年前の生まれだ。
多分このままここに居れば、百年戦争に巻き込まれる可能性がある。
それは避けたい、下手に巻き込まれると魔女裁判なんていう拷問にかけられかねん。それは御免こうむりたい。
となると、先ずはこの地を離れることは決定事項か。
行く場所は魔法世界に行きたい、できれば魔法学校に入学と言う形で。
そうしないといくらなんでも、魔法の勉強を独学と言うのは厳しい。
原作エヴァは人間から真祖になってほとんど旅をしていたみたいだが、それを真似るわけにはいかない。
自身を守るためにも復讐のためにも力が必要だ。そこまで考えてワインを飲み、
「しかし、行き方が分からんのだよな。
あっちに行けば行ったで、どうにかならん事も無いと思うんだが、ままならんな。」
と思っていると、また頭に情報が流れて来る。部屋、ポート、新世界、後はノイズ。
厨房でも思ったが、これは多分シーニアスの持っている情報だ。
たぶん間違いないと思う。しかし出所に心当たりが・・・・?
「もしかして、某有名吸血鬼の能力か?それとも吸血鬼自体が持ってる能力か?どちらにせよ、これって血が教えてるんだよな?あのゲスの血が。
有名吸血鬼曰く『血は魂の通貨、知識の銀板』だったか?深くは思い出せないが、まぁなんにせよこれは助かる。」
情報が穴だらけなのは、多分血を飲んだのがごく少量だったからだろう。
地下にある腕の血を啜れば多分、知識の補完は出来る筈だ。
あのゲスの血と言うことで余り飲みたくは無いが、今回ばかりは目をつぶろう。
そうと決まればとワイングラスをテーブルに置き、近くに置いてあったエナメルの靴を履き地下に向かって歩き出す。
無論、地下に向かうまでの間にエヴァの知識を使い、
どの部屋がどの部屋に対応しているのかを確認するのも忘れない。
そして、つい数時間前に這い出してきた地下へ階段を下る。
出る時は感じなかったが、地下と言う事もありなんだかカビ臭い気がする。
そう思い歩を進めると地下に着いた。地下は一本道だが両脇にいくつかの扉がある。
しかし、扉の中に関してはエヴァの知識からは拾えない。
代わりにシーニアスの知識が出てくるが、穴だらけで分からない。
そう思い、自身が閉じこめられていた部屋の扉を開く。
部屋の中はほとんど散らかっていない。
あるのは樽がいくつかと、大量の血が辺りに飛び散っているので、それが戦闘の名残となる。
「さてと、腕は・・・あぁ、あったあった。」
転がっていた腕を拾いふと考える。
これが吸血鬼としての初めての吸血だが、よりにもよって敵役の血とはなんとも皮肉だ。
だが、今は割り切るしかない。
そう思って手首の辺りに噛み付く。
すると犬歯が鋭く長くなって、手首の肉を割り口の中に血の味が広がる。
そのままチューチューと血を吸っていたが、すぐに無くなってしまった。
多分時間がたったため、殆ど腕から血が抜け落ちていたのだろう。
だが、知識の補強は出来た。ノイズだらけだった部分がクリアになった感じがする。
その知識をあさっていけば、シーニアス自身の事、魔法の事、魔法世界への行き方などが分かった。
しかし、余り深い知識は得られない。多分血が少ないからだろう。
まぁ、そこはどうとでもすればいい、他人の知識だけで魔法を使うのはあまり気分のいいものではない、
それが敵役のモノとなればさらにだ。
「まぁ、必要な時きは躊躇しないんだけどな。」
そう思いながら他の知識を詳しくあさる。
それで出てきたのはシーニアスの魔法の事。どうも奴はまともな魔法使いとはいえないらしい。
まず、魔力が低い。それはこちらとしてはプラスになるからよし、しかし得意としていた魔法は闇系統で降霊術と死霊術。
一応新世界の魔法学校を卒業しているらしいが、それ以上は分からない。
しかし、この二つは魂や霊体に対する攻撃が出来るので油断が出来ない。
後はこの家に関する知識だが、この地下室はシーニアスとエヴァパパの共同実験室件宝物庫だったらしい。
お金は調達する必要がなくなって大助かりだ。
あとは・・・、考えていると転がっている樽が目に入った。
これはなんだろうと思っていると情報が出てくる。
これは・・・・、胸糞悪いな。何せ樽の中身は、
「私から抜いた血か・・・、あのゲスめ。いったい何が目的だ?」
とりあえず樽を叩いてみるとチャプチャプと水の音がするから、固まってはいないのだろうが今は使いようが無い。
それにもうここでやる事も無い。そう思って地下から地上に上がる。外を見てみれば空は白み始めている、もう夜明けなのだろう。
そう思うと眠くなってきた。太陽の光は・・・、多分大丈夫だろう真祖なんだし。そう思いエヴァの部屋に戻りベッドに入る。
服を着替えるのも億劫だ。そう思ってふと横を見ると不気味な顔があった。
「チャチャゼロか・・・・、ご主人をお驚かせるなバカ。」
そういって、チャチャゼロをイスに座らせてベッドに入り意識を手放す。
・・・さま、・・・・うさま。
ん~、誰かが呼んでいる。
眠いがこの状況でおきないのマズイ、何が起こるかわからないから。
そう思い目をあけると、
「お嬢様おきてください、いったい何時お戻りになったのですか?」
「知らないメイドさんだ。」
「?、何かおっしゃいました?」
目を開けると目の前にはメイドさんがいた。
マテ、意味が分からない。そう思い起き抜けにもかかわらず、無理やり頭を働かせる。
すると出てきた知識は、エヴァの御付のメイドさんで名前はエマ。
今はこの家に仕えていた使用人が彼女を除き暇を出されている事。
今の彼女はシーニアスの御付をやっていたことがわかった。
「おはようエマ。今は私では無く伯父さまに付いていた筈だけど、どうかしたのかしら?」
とりあえず、しらばっくれよう。しかし、昔のエヴァはネギまみたいじゃなかったんだな。
まぁ、いい所のお嬢様があんな喋り方する分けないか。したらしたでイロイロ面倒くさそうだし、
エマがここに居る間は少なくともこれで行くか。そう思っているとエマが話し出した。
「『どうしたの?』ではありませんお嬢様。朝からお屋敷に来て見ればシーニアス様は居らず、代わりに誕生日に旅行に行くと、
ご家族でお出になったお嬢様が居られるではありませんか。いったい何があったのです?
それに、 あの美しかった髪の色もすっかり抜け落ちたかのようではありませんか?」
なるほど、これだけ大きな家の一家がいなくなっても騒がれなかったカラクリはこれか。
あのゲスの完全に計画通りって訳か、ただ一点俺の事以外では。となると、エマさんには暇を出して帰ってもらわないといけないし、
偽装工作もしなければならない。今の状況での偽装工作となると・・・・亡命か。
これが一番信憑性がある。そうと決まれば、
「エマ、よくお聞きなさい。私がここに居るのはお父様が戻られるまでの間です。今お父様は他国への亡命のため、
さまざまな所を回っているわ。私はお父様達と途中で別れ、秘密裏にこの家に戻ってきたの。」
それを聞いてエマの顔が青くなる。流石これだけ大きな家の住人が亡命すると聞かされれば青くもなるだろう。
しかし、可哀相だが俺に着いてくるよりはいい。少なくともあの男から狙われる事は無い。
「お嬢様、その話は本当なのですか!?しかし、それならば、なぜお嬢様だけお屋敷に?」
青くなりながらも必死に主の事を思う。
いや、いいメイドさんだよ顔も可愛いし、吸いたいけど流石に感情で動く訳には行かない。
「お父様は今回の旅で命を落とす可能性が高いと思われました。そして、それに私を巻き込む事を良しとせず。
私をこの家に戻されたのです。しかし、エマ、私の事を可哀相とは思わないで。
もし、この亡命が成功すれば私はこの屋敷を出ます。無論この屋敷の一切を焼き払って。」
取りあえず、理由のでっち上げは成功。少なくとも時代背景上無くは無い事なので、問題は無いだろう。
ついでにここを焼いてしまうのは勿体無いが、そうして私は死んだという事にしていた方が動きやすいし、他の人間にも迷惑がかからない。
「お嬢様・・・・、私も。」
「ダメですエマ。」
付いて来るとか、近くに居させてくれと言うつもりなんだろうが、それは出来ない。
今の俺は人を守れるだけの力が無い。
「なぜですお嬢様、私はお嬢様の乳母も勤め我が子のように可愛がっていました、なのに何故です!」
あぁ、エヴァは本当に色んな人に愛されていたんだな。
例えそれが今の結果に結びついたとしても、それが愛であると言う事には代わり無い。
だからこそ、この人を巻き込む事は出来ない。
「エマ・・・、あなた一人なら逃げ出すのは楽でしょう。ですが私は違います。今の私はマクダウェル家当主としてここに居ます。
それが亡命するまでの間だとしてもです。お願いエマ、あなただけでも生き延びて、出来れば死なないで。私も生きるから。」
これを聞いたエマさんはもうなんか涙ぼろぼろです。
はっきり言って心が痛い、心が痛いがこうでもしないとこの人は着いて来る。
だから、ここでこうでもして繋がりを切らないといけない。
下手に俺の回りにいると間違いなく死ぬ。
だから、ここで突き放す。
「お嬢様ご立派になられて・・・。」
そういって泣いているエマさんに向かって、『ちょっと待って』と断りを入れて部屋を出る。そして走って向かう場所は宝物庫。
そこから手近にあった袋に金貨を詰め、それを持って部屋に帰る。彼女の事は情報で知っているし、今の俺はエヴァだ。
ならこれは俺からの感謝の印。いずれ完全に俺という情報に塗り潰されてしまうだろう彼女への手向け。
「エマ、あなたは今までよく私とこの家に仕えてくれました。これは少ないですが私の感謝の印です。どうか受け取ってください。」
そういってエマの手に袋を持たせる。持たせた瞬間姿勢が崩れたが、何とか持ち直した。
考えてみれば袋にパンパンに詰まった金貨なんて相当重いんだろう、我ながら失態だ。
「お嬢様。私は私の意志で勤めたのであって、金銭が欲しかったのではありません。ですからこれは受け取れません。」
そういって袋を返してくる。これはなんというかメイドと言うより、騎士といった方が似合うような気がする。
だが、流石にこれは受け取ってもらわないと困る。そうでないと俺の気が治まらない。多少無理やりな方法でもだ。
「エマ、貴女は私のためによくお菓子を作ってくれましたね。私が駄々をこねるたび困ったような顔をして。
今からそのお菓子を作りなさい、そしての金貨はそのお菓子の代金です。貴女のお菓子はいつも、私に笑顔を運んできてくれたわ。
私はその笑顔を運んでくれる手にいかほどの代価を渡せばいいか分からない。だから、その金貨で足りないなら言って。
あなたを連れて行く事は出来ないけど、それならば私にも出来るから。」
それを聞くと、エマは泣きながら部屋を出た。多分お菓子を作りに行ったのだろう。俺は近くのイスに座って考える。キツイ・・・な。
自分でやっておいてなんだがキツイ、心が痛い。多分、悪として生きると言う事はこういう事となんだろうな。
俺は間違いなく正義にはなれない。でも、完全な悪に成れるかも分からない、そんな中途半端な存在。
どちらにせよ、何かをしなければ正義も悪もない。この評価はやっている本人ではなくあくまで、他人からの見た感想でしかないのだから。
それから程なくしてエマが帰ってきた、大量のお菓子を持って。そして食べた。普段のエマは一緒の席には着かない。
だが、今は無理を言って座らせた。エマは何も話さない。俺も話さない。いや、俺にはきっと話す資格がない、
これはそういう領域の問題だろうと思うから。そうして食べ終わるとエマが立ち上がった。
「お嬢様、今までお嬢様にお使え出来た事を私は誇りに思います。」
「私も貴女のような方に会えて幸せでした。」
そういうと、エマは一言失礼しますと言って俺の唇に口付けをして出て行った。
その光景を空に浮かぶ月だけが見ていた。