戦闘or日常さてどっちが疲れるかな第36話
さて、食事である。
目の前には美味しそうな料理が並び、そこから立ち上る香りは空腹の腹を刺激する。
料理場の方では、他のメイド達がいまだあくせく働いていて、匂いから察するに他の料理でも作っているのだろう。
さて、何はともあれ食事である。そう、食事で・・・・。
「なぁ、チャチャゼロ。何故私はいまだお前の膝の上に座っている?」
そう、頭を上に向ければ、そこには上から覗き込むディルムッドの顔。
ディルムッドを慰めるために耳と尻尾を生やして、ディルムッドの膝の上に座ったはいいが、
その後、食堂に移動する間は縫い包みの様に持ち運ばれ、その後食卓についても、
いまだディルムッドの膝の上にいるのが現状だったりする。
まぁ、とりあえずこの一連の動作には目を瞑ろう。
いらん藪を突いたのは俺で、その所為でディルムッドはやさぐれたのだから。
が、流石に膝の上に座ったままでは食事もしづらいだろうし、耳がピコピコ目の前で動いていては邪魔だろう。
ついでに言えば、このままでは俺が食事ができない。
「ん?・・・、あぁ、そのまま食事してくれてかまわないよ。
君が膝の上に居ると、ポカポカして気持ちがいいし、ぷにぷにしてやーらかいから癒される。」
そう言いながら、ちょいちょい近くの料理をつまんでいる。
うぅむ、子供は体温が高いから、その所為でポカポカするのだろうか?
ついでに言えば、別荘を作ってから合気道の型なんかも暇を見つけてやってはいるが、
一向に筋肉はつかずに、全身ぷにぷにのままだったりする。
うん、筋肉つかないってわかってたけどさ、必要ないし。
そんな俺とディルムッドのやり取りを対面で見ていたロベルタが目を細めながら口を開いた。
うん、きっとロベルタなら的確に今の現状のおかしさと、俺が言いたい苦言をディルムッドに伝えてくれるに違いない。
そんな淡い期待を胸に抱いていると、飛び出た言葉は
「チャチャゼロさん、そんな羨まし・・・・、もとい、そんな美味しいポジショ・・・・、
もとい、お嬢様が迷惑しているではありませんか。」
ロベルタは真顔でディルムッドを見ながら言っているが、地味に本音(?)が駄々漏れである。
きっと今のロベルタの中には別のロベルタが入っているのだろう、
それに、こんな時に言うのであろうこの台詞は。
「ロベルタ、お前もか・・・・。」
ふぅ、どうやら、俺の戦場はいつの間にか日常生活にまで及んでいたらしい。
ついでに言えば、きっと俺の精神力はこれで向上しているのだろう。
「うん、もういい。」
そういじけながら、ディルムッドの膝の上でダルそうに料理をつまんでいると、
ロベルタが俺の方を見ながら、
「お嬢様いじけてはなりません、女の子はエレガントにですよ。」
そう言いながら俺の顔を見て、両拳をグッと握っている。
そうか、なら元気を出さないといけないな。
そう思いながら、空のグラスを差し出し、
「なら葡萄ジュースをくれ。」
そう言うと、ロベルタが『かしこまりました』といいながら、
俺の横を通り過ぎる時にスッと手をかざしたので、俺もそれに合わせるように手を出してハイタッチ。
うぅ~む、今更だがロベルタの不思議度が俺の中で当社比20%ぐらい上がったな。
そんな事を思っていると、頭の上からディルムッドが、
「珍しいな、エヴァが酒ではなくてジュースを飲むなんて。」
そういいながら、料理を咀嚼している。
「まぁ、な。でも、出て来るのはたぶんワインだろう。」
そう年代物の葡萄ジュースの事を思いながら、ディルムッドの膝の上で料理をつまむ。
そうして食事をしていて、ディルムッドが遠くの料理を取る時に思った事があるのだが、
今ディルムッドは料理をナイフとフォークで食べている。
だが、普段は箸を使って食べているし、本人も箸の方がなれると便利だといって箸で食べている。
そして、今俺はディルムッドの対面で食事をせずに膝の上で食事をしている。
つまりは、彼の手を見る機会は彼が料理を取る時以外ない。
そんな事を思いながら、頭上のディルムッドの顔を見るが、本人はそ知らぬ顔で食事をしている。
「チャチャゼロ、何か隠してないか?」
そう聞くと、一瞬目を逸らしたが、その後もジーっと膝の上からディルムッドの顔を見ていると、
両手を挙げ、バツの悪そうな顔で、
「指の動きが少し悪くてな、ただそれだけだよ。
たぶん、動かしていればすぐ元通りになるし、前の足の時もそうだった。」
そう言いながら料理を食べだした。
はぁ、そうならそうと言ってくれれば、食べさせるのも吝かではない。
それに、今回の一番の功労者で、名誉の負傷を負ったディルムッドにそれぐらいしても罰は当たらない。
そう思い、近くにあった料理を箸でつまんで、
「ホレ、口をあけろ。」
そう言いながら体をよじって、箸をディルムッドの口の近くまで持っていく。
そうそると、ディルムッドは一瞬迷ったのか料理を前に硬直した後、ゆっくりと口を開いて料理を食べた。
そして、飲み込んだ後、
「1人で食べれるから、君の手を煩わせるほどでもないさ。
ついでに、もし俺にも子供がいればこんな感じだったのかな?」
そういいながら微笑んでる。
そして、『そうか』と言葉を吐く前に、
「なら、僭越ながら私がその役目を引き継ぎましょう。」
そう言って、ロベルタはワインを俺のグラスに注いだ後、
両手にフォークを持ち、ヒュン!ヒュン!と音が聞こえそうな速度でステップを踏みながらフォークを突き出している。
ふむ、あの速度で突けるなら十分に接近戦もこなせるな。
そんな事を思いながら、注がれたワインを飲んでいると、
「チャチャゼロさん、準備できました。存分に喰らって下さい!」
そう言いながら、ロベルタの料理を刺した閃光が如きフォークがディルムッドの顔を突き、
それと同時に『ガチッ!』と歯で鉄を噛んだ音がする。
その後数閃、煌きと鉄を噛んだ音がして、
「どうですかチャチャゼロさん、料理のお味は?」
そう、静々と聞くロベルタに、
「いや、美味いよ。ただ、もう少しゆっくり味わいたいな。」
そう言って、ツーっと冷や汗をたらしながらディルムッドは自身の手で料理を食べだし、
俺もロベルタからワインを注いでもらい食を進め妙に疲れる晩餐は終了となった。
そして、それから数日。
ディルムッドの方は槍を振るったり、体を動かしたりしながら体調を整え、
ロベルタの方は物の整理をしながら錬金術の研究を一緒に進めている。
まぁ、今回の事で分かった事と言うか、もとより、ロベルタの単独行動が出来ないというのはネックになる。
なので、今の時間を利用して研究しているのだが、行き詰っているのが現状。
オリハルコンはまぁ、現物であるボディがあるからまだいい。
ホムンクルスもまぁ、人工精霊関連から技術を進めれば代用はどうにかなりそうである。
が、あとの二つ。すなわち賢者の石と、エリクサーについてはどうもわからない。
エリクサーについては、大酒の飲みガイコツから採取した物が有るには有るにだが、
どういう物質なのかは今1つわからない。
更に言えば、賢者の石に関しては構造不明。
ついでに言えば、ロベルタ自身はこの4つの造り方を知らないらしい。
まぁ、知っていればいいなぁと言う淡い期待だったので、あまりがっかりはしないし、
知っていたら知っていたで、あの閉じ込められていたヤツが如く、人に反旗を翻していたかも知れない。
まぁ、今となっては昔の事なので詳細はロベルタに聞くしかない。
さて、それならどうやって彼女を完成させるか。
一番手っ取り早いのは、アルケミストを探し出して聞くのが早いのだが、
今はもう新世界にはいないし、錬金術は廃れている。
ならば、どうするか?
そう考えた時に、ならば、錬金術が今はやっている。
もしくは、今から流行しそうな所にいけばどうにかならない?
そう思った時にとある人物の名前が浮ぶ。
彼は医者であり、化学者であり、アゾット剣を持った錬金術師と言われれば思い浮かぶ人物。
その名はホーエンハイム、もしくはパラケルススという。
実際この人物はドイツに住んでいるので、今会いに行けばまだ間に合う。
ついでに言えば、時代的に会っておきたい旧世界の偉人としてはダヴィンチに、その競い相手のミケランジェロ。
それにダヴィンチは裏では錬金術もやっていたから、何かしらの手がかりになるかもしれないし、
絵の一枚でも書いてもらいたい。ついでに、ミケランジェロには城の設計図でもひいて貰おうかな。
そう計画を立てるものの、旧世界へは中々行きたいと思えないのが今の旧世界の現状。
まぁ、旧世界、今は中世と呼ばれる頃で魔女狩りなんかをやっている。
ついでに言えば、俺の持っている中世のイメージだと、淫靡で仄暗く、サディスティックな貴族主義で、
昼と夜の境、つまりは夕暮れ時のか持ち出す曖昧さを内包した時代だと思う。
そんな中を歩くなら知識が要ると、頭を整理してみて使えそうなのがエヴァのモノとゲスのモノ、
後は生前の学生時代に勉強したモノに桐生操先生の著書。
そして、萌え萌え辞典シリーズに、伝説の武器やら幻想獣を扱った著書。
そう考えるとボチボチ知識はある。
ただ、旧世界の伝説の魔獣なんかは、新世界から間違って旧世界に行った魔獣がそのまま伝説として残されていそうなんだよな。
まぁ、それは旧世界で対峙した時に考えるとして、他は魔法使いが本当にいるか?
それについては俺の体が居る事を証明しているので居る、これは間違いない。
間違いないが時代が悪い。
現在進行形で魔女狩りをしている旧世界に行けば、変に疑われただけで捕まって拷問、
その後は火刑で灰にとデスコンボが繋がる。
まぁ、今の現状なら捕まった所で力づくで脱出できるから問題はない。
ただ一番の問題とすれば、歴史化異変が起きないかと言うところか。
知識があって、改変するだけの財力も力もある。
そうなると、色々いじくってみたいと思わない事なのだが、とりあえずは自重しよう。
仮に、戦国の世で信長辺りを生存させて天下を取らせると、
先ず起きそうな事と言えば、海外貿易の早期発展。
つまりは、新しいもの大好きな信長は家康のように鎖国しない。
だから、その時の技術力は上がる。
が、時が進んで第一次、第二次世界大戦の頃、もしくは、これが起きないなんていう最悪の事態になりかねない。
少なくとも、戦争は反対だが、その戦争の中で生まれた技術と言うのは事のほか多い。
簡単な例を挙げるならレントゲンや新薬類、航空兵器技術の転用で生まれた航空機類そして原子力。
これらが生まれないという事は、トータルして技術力が下がる。
そうなると、俺の知っている時代での風景が、2,3世代前の風景になりかねない。
少なくとも、そんな事態になってもらっては困る。
だから、できる限り歴史改変しそうな事はしない。
まぁ、抜け道として改変できそうな歴史といえば、オカルトに特化したものなら、ある程度は好き勝手できる。
何故かと問われれば、それは既にあやふやな歴史として伝わっているもので、ある程度改変しようが、
そのあやふやなまま歴史として刻まれる。
それに、その事実が荒唐無稽なら、尚更現代人はその事実を信じない。
だからこそ、変えやすいしリスクが少ない。
ジャンヌを助けた時に人として助ければ、それこそ歴史的なスキャンダルだっただろうが、
あの時は天使として彼女を助けたし、身代わりも燃やした。
故に、あの出来事は諸兄は正史に刻まれるが、天使は戯曲や演劇といった芸能の方が吸収してくれるだろう。
後、時間軸のズレも新世界と旧世界はほとんど無い。
まぁ、多少はあるかも知れないが、年単位で違うと言う事はない。
それは、既に新世界と旧世界の年号が違う事、星の面積が違う所為で日の出から日の入りまでの時間が違う事、
後は、テオドラの歳なんかも後押しされる。
彼女は自身を三十路といったが、人間換算だと十代となるらしい。
それが肉体年齢なのか、新世界の時間経過を旧世界に当てはめたものなのかは微妙な所だが、
自身が体験した所ではそこまでの大きな違いはない。
と、ここまで纏めてみると、一旦旧世界に戻った方が得策なのかもしれない。
事実として今は新世界で逃亡しながら研究するよりも、旧世界で研究した方がいいし、
更にいえば、今でしかあえない人物もいるので、この際旧世界に戻るとしよう。
そう思い、念話でディルムッドとロベルタを書斎に呼び寄せる。
(チャチャゼロ、ロベルタ話がある。書斎まで来てくれ。)
そして来た2人、まぁ、先ず聞く事と言えば、
「2人とも、記憶力に自身はあるか?」
そう聞くと、
「私の場合聞いた事見た事は忘れません。
私の場、合記憶媒体である賢者の石が攻撃を受けない限り半永久的に記憶し続ける事が出来ます。」
と、ロベルタは答え、ディルムッドの方は、
「ん~、人並みにと言った所かな?
騎士団に入る時にも本を覚える項目はあるし、大丈夫だと思うが?」
そう言って俺の方を見てくる。
ふむ、旧世界に行って旅をするとして、問題なのは言葉の壁。
つまりは西洋諸国を歩いて回るにしても、俺の場合は現地人の血を吸えば問題ないし、
ロベルタの方は忘れないから問題ない。
そして、今の懸念はディルムッドが何処まで言葉を習得していけるかとなる。
まぁ、今聞いた限りなら早々問題はないか。
そう思い、キセルで魔法薬を吸いながら、
「一応、これからの行動方針なんだが、一旦旧世界に戻ろうかと思っている。」
そう言うと、ロベルタがスッと挙手して、
「行くのはかまいませんが、今の旧世界はいったいどうないっているのです?」
そう聞いてくる。
彼女からすれば、旧世界は故郷のような場所なのだろうが、
既に時が経ちすぎていて、今の現状をトレースし切れていないのだろう。
となると、彼女に今の旧世界の現状を分かりやすく伝えるなら、
「簡単に言えば、魔法が無い状態でのゼロからの進化だと思ってくれればいい。
生活様式は新世界の数世代前で、あちこちで今も戦乱やらなんやらが起きている。」
そう伝えると、ロベルタは思案した後、
「製鉄する技術はありますか?流石に石器となると行く意味が見出せません。」
そう返してくる。
まぁ、石器使っているなら行かなくてもいいよな、俺もそう思うし。
そんな事を考えていると、ディルムッドが口を開き、
「少なくとも、鉄はあるし魔法使いもたぶんいると思う。
ついでに言えば、俺もエヴァも旧世界から新世界に渡ったわけだから、
それなりのモノは旧世界にあるはずだが?」
そう言って、俺の方を見る。
まぁ、魔法技術やらなんやらがどうかは実際行って見ないと分からないわけだが・・・、
「確かに、チャチャゼロの言うとおりだな。
現状を鑑みるに、新世界は今の所大半の伸び代を、
つまりは魔法と言う個人資質に左右される技術のほぼ伸ばせる最大値まで進んでいると思う。
ゆえに、今新世界にいても、技術はほぼ横ばいで後はチョビチョビ上がるぐらいだろう。
だが、逆に旧世界は今成長期なんだよ。
新しい発見に新しい技術。
ついでに言えば、根幹が魔法ではなく錬金術、
すなわち多くの人にほぼ平等に恩恵を与える技術が伸びている真っ最中だ。
さらに、新世界より土地が広く多くの人が居る旧世界では技術が次の技術を呼び、今の時代から一気に加速していく。
だが、加速するからこそ旧い物は新しい物に塗りつぶされる。
だからこそ、今旧世界に行っておかないと、後々後悔すると思う。」
そう言うと、ロベルタはスッと目を閉じ、
「分かりました、しかし、その旧世界危険の程はどうなのでございましょう?
あまり危険な所にお嬢様を行かせるのは正直、私の望む所ではありません。」
そう言い、ディルムッドも思う所があるのか、俺の顔を見ている。
危険の程度か・・・、一応はどの程度か分かってはいるが、
「正直な所、私もそこまでは分からん。
ただ、さっき言ったように小競り合いのような戦はしょっちゅう起きてるし、
今はごく一部のための公共事業的な意味合いで人が殺されまくっている。」
そう言うと、2人ともポカンとしたような顔になり、
「ごく一部のための公共事業で人殺しですか?」
と、ロベルタが言い、
「一体なにがどうなってそう言う事になっているんだ?」
と、ディルムッドが渋い顔で聞いてくる。
まぁ、俺が知っているのも桐生先生の著書群を基にした知識だから偏りがあるかもしれないが、
掻い摘んで言うと、
「今の旧世界では異端狩り、後に魔女狩りと呼ばれる異教徒弾圧の真っ最中なんだよ。
とある宗教が今の旧世界の私の居た所周辺を牛耳っているんだが、その宗教を支持するやつらが、
自身の宗教を広めようとしたのがきっかけと言えばきっかけか。
当然の事だが、宗教や信仰なんてものは何処にでもあるし、神なんて腐るほどいる。
だが、その宗教を支持するやつらは自分達の神以外を邪神だと言い、他の神を支持するやつらを改宗させようとした。
そうすれば、それまで別の神を支持していたやつらから反発が起こる。
そして、あるところを境に宗教戦争に発展する。
まぁ、これが一番ある流れなんだが、戦争するにしても金ががかるし、その宗教の教祖達も金は欲しい。
ついでに言えば、戦争なんて面倒くさいし、信者は腐るほどいる。
そこで起こったのが異端狩り、つまりは、自身の身内の中でもこっそり別の神を崇めているやつらがいるという名目の元、
今度は身内も含めて狩り出した。しかし、早々身内を売ろうとするやつもいない。
そこで教祖達が考えたのが密告制度で、しかもそれを推奨した。
そうするととたんに皆密告しだし、その密告したヤツには多少なりとも金が渡される。
ついでに言えば、今の旧世界は貧富の差が激しく、はした金でも欲しいやつは欲しい。
だから、隣人が隣人を密告し、親が祖母を、子が親を何て感じで密告する。
ちなみに、その密告されたヤツは拷問されて、他のやつの名前を言わされ、その後火刑でさようなら。
ついでに、拷問の時に名前が出たやつもとっとと捕まえて更に拷問して名前を吐かせる。」
そこまで言うと、ロベルタが不思議そうに、
「いくら人を殺そうとも、お金は集まらないのではないですか?」
そう聞いてくる。
まぁ、そこにもカラクリがあるわけで、
「異端者の財産は全て没収だ。穢れた金だからその教祖達が清めるという名目でな。」
そう言うと、ロベルタが額に手を当てて首を振り、
次にディルムッドが、
「しかし、密告しようにもそれらしい証拠ってあるのか?
異端者だって隠れてやってるんだろ?」
そう言ってくる。
まぁ、それはそうなんだがようは、
「あぁ、密告の内容なら何でもいいぞ?
例えば、私よりあの娘が綺麗だ、それはなぜか?
それは、異教徒の神に使えて私の美しさを奪っているからだ。
なんていうこじ付けでも、屁理屈でも何でもいいんだよ。
さっき言った通り、ごく一部のための公共事業なんだからな。」
そう言うと、ディルムッドが更に渋い顔になる。
そして、
「そういえば、何で異端狩りが魔女狩りに? 」
そう聞いてくる。
「それは1つの本の所為だ、タイトルを『魔女に与える鉄槌』という。
まぁ、似た様は本はあるが、これが一番有名だな。ちなみに、魔女と言うが男も魔女と呼ばれる。
この本のせいで、いっそう拷問が凶悪になったが、著者も最終的にはこの本の餌食になる。
と、まぁ今の旧世界で一番注意しないといけないのは下手なことをしないことだな。」
そう締めくくったが、どうも2人の顔色がさえない。
まぁ、各言う俺も自身で言っていて薄ら寒くなった訳だが、
「取り敢えずはだ、その魔女狩りを宜しくやっている地域には近寄る気はない。
よしんば近寄ったとしてもすぐさま立ち去るようにするさ。」
そう、首をすくめながら言うが、2人とも暗い顔で、
「今の話を聞く限りだと、新世界の方がまだマシな気がしてきたよ。」
「私もですチャチャゼロさん。お嬢様、考え直しは出来ませんか?」
そう言ってみてくるが、
「ん~、少なくとも向こうはそこまで魔法使いがいないのが1つ、
仮に捕まったとしても、逃げ出す事や、撃退する事は割と簡単だぞ?
何せ、相手はただの剣と楯位しか持っていないんだからな、それが1つ。
最後に、こっちでは追い掛け回されているが、向こうではまだ何もしていない。
つまりは、向こうでは私を追うやつがいない。
それを考えると、私としては向こうでひっそりとやった方が安全だとは思うが?」
そう言うと、ディルムッドが『はぁ』と1つため息をつき、
顔を上げて俺の目を見ながら、
「言い出したら聞かないんだろ?
なら、君の安全は俺が護るさ」
そう言ってポンポンと俺の頭をたたき、
ロベルタはそれを見ながら、
「まぁ、里帰りだと思って、私も旧世界を見るとしましょう。」
そういいながら微笑ましそうに俺とディルムッドを見ている。
うぅむ、子ども扱いされている・・・・、と、言うか2人からすれば俺の生きた年月なんて些細なもので、
かたや神話の登場人物、かたや製造年月日不明の一品と言う超高齢者チームなんだよな。
そんな事を思いながら、解散し各々の旧世界への出発準備へと相成った。