事故だと思いたいな第35話
オスティアで鬼神兵と戦闘して何とか勝利した後、
そのままボロボロの体を引きずって、新世界と旧世界を繋ぐゲートまで何とか逃走に成功。
ちなみに、今の新世界の方のゲートも霧の中にあるので他の場所よりも安全度は上がる。
そんな場所で影からカバンを引きずり出し、そこからダイオラマ魔法球を取り出して中に入って早10日。
まぁ、10日といっても中に入った後は服を着替えるのも億劫で、
適当に服を脱いでカボチャパンツとキャミソール姿で、チャチャゼロ姿のディルムッドとベッドに潜り込んで爆睡。
起きたらすでに7日経っていたと言う状況だったりする。
まぁ、あえて言うなら7日もぶっ続けで爆睡できるなんて俺もまだ若いな。
そう思いながら、起き出して今は食事と入浴を済ませて今はダイオラマ魔法球の中にある書斎で今までの事や、
今回の闇の魔法の副作用、ロベルタを完成させる方法なんかについてまとめと考察しだしで早3日。
ちなみにディルムッドが起きて来ないので心配になって見に行ってみれば、
まだベッドの上でゴロゴロしていたので、たぶん寝ているのだろう。
まぁ、起きてくれば来たで、ぶっ壊れた腕の修理をしないといけないし、
この際だからまだやっていなかった、チャチャゼロボディの全身採寸もまとめてやろうかと思っている。
そう思いながらキセルで魔法薬を吸いながら紙に羽ペンを走らせていると後ろから、
「お嬢様、病み上がりですのでそろそろ休憩をされては?」
そういいながら、トレーにティーポットとお菓子を乗せたロベルタが声をかけてきた。
「あぁ、そうだな、少し休憩を取るとしよう。
中々上手そうな匂いもするしな。」
そう言うとロベルタがティーカップにコーヒーを注ぎだしたので、
俺の方も机の上に散乱している紙やペンを片付け、ロベルタの入れてくれたコーヒーに舌鼓を打つ。
ふぅ、缶コーヒーを飲みながらタバコを吸うのが好きだったが、
またそれと似た気分が味わえるとは生きててよかったと言う所か。
そんな事を思いながら静かにコーヒーを飲んでいると、ロベルタが神妙な面持ちで口を開いた。
「お嬢様、少々お聞きしたい事があるのですが宜しいですか?」
はて、改まってなんだと言うのだろう?
「べつにかまわんが何だ?」
そう言うと、ロベルタは歯切れ悪く、言葉を選ぶように、
「いえ、そのですね、チャチャゼロさんの事なのですが・・・・、彼は一体どういう存在なのですか?」
そう聞かれても意味合いが広すぎでどう答えたものやら。
むしろ、俺にしろディルムッドにしろ叩かれれば埃がわんさか出るような存在だしな。
そう思って黙っていると、ロベルタが静かに、
「私の中には破損した物もあるとはいえ、過去からの膨大な記憶が入っています。
しかし、それらを探してもチャチャゼロさんの様な存在は見当が付かないのです。
いくら人形に魂を込めようとも、その人形が人の姿になったり、
あの鬼神兵の一撃を受け止めるだけの性能を持つとは考えられないのです。
それに、お嬢様がチャチャゼロさんを『我が騎士』と呼ばれる際にも、何か別の意味合いがあるように感じられるのです。」
そう言って、ロベルタは俺の目を見てくる。
まぁ、確かに『我が騎士』そこに込められた意味合いは、
ディルムッド・オディナという彼の本当の名前を乗せて呼んでいる。
そして、その存在が一体どういったものか、その成り立ちがなんなのか、
それに関しては1度学生時代に考察した事があった。
まぁ、でた結果はこの世界にあるディルムッド・オディナの遺品に、この世界の魔方陣と魔法。
そして最後にこの世界の呪文を唱えればこの世界に根ざした彼の魂が呼び出されたのかも知れないが、
俺は最後の最後、彼を呼び出す呪文を全く別のもので代用した。
それゆえに、今ここに存在するディルムッド・オディナはこの世界に根ざしたものではなく、別の世界の知識をもった存在となった。
仮に、この世界の彼が召喚出来ていたとするならば、人の姿にはなれないものの、
気やもしかすれば咸卦法までマスターした状態の彼が出てきたのかもしれない。
仮にそれが成功していれば彼は槍ではなく、人形ボディに見合った彼の持つ双剣を持って戦場を駆け巡っていただろう。
「まぁ、お前の言っている事は正しいよ。
私はチャチャゼロに入れる魂を召還して、それの持つ本来の名を私が許可する以外名乗る事を禁じた。
ゆえに、私がチャチャゼロの事を『我が騎士』と呼ぶ時には、その言葉にヤツの本来の名を込めて呼んでいる。
それに、多少ヤツの魂も特殊でな、それが原因で人の姿になれると思っておいてくれ。」
そう答えると、ロベルタはスッと目をとして一呼吸置いて目を開き、
「チャチャゼロさんの本当の名を聞いても?」
私がそう聞けば、お嬢様は首を左右に振りながら、
「すまないが、それは出来ない。
これだけは誰であろう、どんなに信頼していようと出来ない何せ・・・・、」
そこまで話した後一旦言葉を区切り、
「私とアイツとの絆だからな。」
そう言われて二カッと綺麗に笑われました。
その姿を見て思うのは、そこまで信頼し会える中が羨ましいという事と、
それと同時によりチャチャゼロさんの本来の名が気になるという事です。
「お嬢様、私もこれから長くお嬢様達といる事になります。
その間に私が名を看破してしまった場合はどうすれば宜しいでしょうか?」
そう聞くと少し考え込まれた後、
「看破する可能性は大いにある。
だが、それが出来たからといってそれを口に出さず、
できれば心の内に秘めておいてくれると助かる。」
そう言って静かに微笑んでいらっしゃいます。
戦場に立つお嬢様の背はその姿は小さくとも、大きく見えます。
しかし、一旦そこを離れてしまえば、独占欲の強い見た目どおりの少女と言うことでしょうか。
まぁ、チャチャゼロさんの本来の名にどういった意味があるのかは分かりませんが、
「お嬢様がそう望まれるのでしたら従います。」
その返答にお嬢様が口を開き、
声を出そうかとした時に背後から別の声が聞こえました。
「そうしてくれると俺も助かる。何せ、エヴァは強欲だからな。
下手な事をしないに限る。」
そう声のした方を見れば、片腕の壊れたチャチャゼロさんが飛んでいます。
一体何処から私とお嬢様の話を聞いていたのかは分かりませんが、起きてこられたようですね。
「あぁ、起きたか。
それぞれそろった所で、私も含め今回はよく生き延びてくれた。
あんな誰が死んでもおかしくない様な状況を生き延びた事を私は嬉しく思う。」
そういいながら、お嬢様はイスから立ち上がりチャチャゼロさんに歩み寄り、
腕の無い方の肩をなでながら、
「今回は私が至らないばかりに迷惑をかけた、ありがとう。」
そういいながら微笑んでいらっしゃいます。
そして、その顔を見るチャチャゼロさんも誇らしげに、
「なに、俺は君だけの騎士で、君の期待に答えると言う当然の事をしたまでさ。」
私は彼にとって報酬がなんなのか、
ただ呼び出されただけで、何故そこまでお嬢様に付き従うのかは分かりません。
私の中の別の私があのお2人を観測した時はすでに、お2人でいらっしゃいました。
あの方達が私に出会うまで、一体どういった道のりを歩んできたのかは知りませんが、
それでも、その私と出会うまでの間に会った時間と言うのは、あのお2人が今のお2人に繋がるまでの大切なものなのでしょう。
その時間を共有できないのは何だか寂しい気もしますが、それならそれでこれから続く長いたびでそれを補うとしましょう。
「よし、チャチャゼロも起きて来たし、先ずは腕の修理から始めるとしよう。
ロベルタ、必要な物の準備を頼む、私の方は研究室に行って先に腕を見るとしよう。」
そう俺が言うと、ロベルタは、
「分かりました、研究室でしばしお待ちを。」
そう言ってお互いに書斎の前で別れた。
さてと、先ずは修理である。
と、いっても別段必要なものは無く、しいてあげるなら俺の血と木材、
後はその木材を削ったり磨いたりするナイフやヤスリなんかか。
実際問題チャチャゼロボディの修理と言うのは過去に一度、
アリアドネーからヘカテスに逃げる間に壊れた足をやったきりなので、今回は気合を入れて全身整備もしたい所。
ついでに言えば、ドクロたちから殺人事件に出くわしそうなカラクリ人形も頂いたので、
球体間接じゃないにしろ、人形作りの参考にはなっている。
まぁ、それが無かったらチャチャゼロボディを作るのに必要な知識は、
ガンプラを作った時に見た物をイメージして作らないといけないので、
間接の可動域なんかが狭まっていた可能性がある。
ついでに言えば、リヴァイヴァ遺跡で手に入れたオドラデクエンジェルのボディは、
まんま骨格模型に人の臓器を詰め込んだような物なので人形作りにはどうにも転送させづらい。
ちなみに、このボディをロベルタに見せた所、
「こんなポンコツが最後まで動いていたとは・・・・。」
と、そんな事をもらしたので、詳しく聞いてみると、
実際はこのボディ全体にもう少し補強パーツが付いていたらしい。
まぁ、そう聞いても中々イメージが湧かなかったのでイラストでおこして貰うと、シリウスの痕チックなボディが出てきた。
うぅーむ、実はどっかに変な石とか入っていないよな?
まぁ、石だけなら賢者の石がすでに搭載されていたわけだがなんとも。
と、思考が変な方に飛んだな、今すべき事は先ず修理だし、
もうすでに研究室に着いているので後はロベルタ待ち、魔法薬を吸いながらそう思っていると、
「準備できました。」
と、言いながらロベルタが道具一式と、ティーポットとカップを乗せたワゴンを押してきた。
さてと準備もできた事だし、
「先ずはそこのベッドに上がって服を全部脱いでくれ。」
そう言うと、ディルムッドはベッドに登りいそいそとメイド服を脱ぎだした。
そして、全部服を脱いだ後、
「チャチャゼロさんが全裸ですね。」
「全裸だな。」
「ちっこいですね。」
「小さいな。」
ロベルタが言うので相槌を打っていたが、
それを聞いたディルムッドが居心地が悪そうに、
「君達、何だか悪意を感じるんだが?」
まぁ、裸だの小さいだの言われれば居心地も悪いか。
「いやすまん、悪意があった訳じゃないんだ。
さてと、ロベルタは全身の採寸とその数値を紙にまとめてくれ、
私の方は腕の接続部と他におかしい所がないか見て回る。チャチャゼロの方も自己申告頼むぞ。」
そう言うと、ディルムッドがすぐに口を開き、
「右腕の方も動きが悪い、たぶん間接の何処かが痛んでいるんだろう。」
そう言ったので、とりあえずは壊れた左腕を見てから右腕を見ることにして健診開始。
そうして見て回れば、左腕は完全大破なので二の腕からの作り出し、右腕の方も肘間接部分が磨り減っているので、
その部分を交換、更には両羽の軸の部分や、後は股関節部分も少々磨り減っている。
まぁ、総合的に見て十数年でこれなのだから、ボディないし間接部分を強化しないといけないな。
そんな事を思いながら、キセルを咥え修理箇所を紙に書き込み、
腕の削り出しをロベルタと分担してやっているとディルムッドが口を開いた。
「なぁ、エヴァ、今回の戦闘で闇みたいなのを纏っていたが、アレは何なんだ?」
「あぁ、アレは『闇の魔法』だ。」
削りながら答えると、ディルムッドは首を捻りながら、
「一体どういうものなんだ?」
「それは私も興味があります、
今まで見たことが無いような魔法ですが、なにが出来るのです?」
そう、一緒に削りだしていたロベルタも口を挟んできた。
さて、どういった物かか、実際ネギまの説明を読んでいても、それが地味に理解出来ない俺なのだが、
それを実践すると少なからず分かる物がある、なので今思えば、最初の頃にいきなり闇の魔法の練習として、
自身の中に攻撃魔法を突っ込もうとしたのがどれだけ馬鹿な事だかよく分かるし、その結果で自身の体が四散したのもいい経験だ。
「まぁ、先ずはこれを見てくれ。」
そう言って取り寄せるのは書斎にある魔法学校時代から、書き溜めている紙の束。
それを邪魔にならないようベッドの脇に広げれば、それを二人が興味深げに見ている。
「この図形の書かれた紙が闇の魔法なのか?」
そうディルムッドが声を上げる。
「そうでもあるし、そうではない。
その図形は、いわば魔法を考える上での理論的なものだ。
魔法使いが、精神力を必要とする根底には、魔力を使う他にイマジネーションなんかも必要になってくる。
そして、そのイマジネーションを図に表した場合、私の中ではその図形たちがしっくり来たという事だ。
ついでに言えば、魔法は学問であり、ちゃんと法則もある。」
そう言うと、ディルムッドと一緒になって見ていたロベルタが、
「これの説明をお願いできますか。」
そう削りながら聞いてきた。
とりあえずは、これからか。
「まぁ、かまわんが、先ずはその四つの丸を繋いで四角になった物、これらの丸にはそれぞれ、地、火、風、水、
と言うものが入り人間が一番使いやすいもので、人間から見た世界となる。」
そう言って、丸の中に文字を書き込んでいると、
ディルムッドが、
「人間から見た世界?」
そう言って小首をかしげ、ロベルタの方は、何となく理解したのか他の図形を見ている。
「あぁ、この4つはまんま人が人として成り立つ要因、いわば人と獣の差だよ。
人は手を使い火を手に入れて人となりえた。火と言うのは物に作用する上での意味合いが大きい、
例えば、火以外の3つを氷と水と雲、いわば個体、液体、気体に置き換えるとその変化をもたらすのが火となる。
実際魔法学校の初期練習も火よ灯れだしな。いわば、火と他の3つはそれぞれが人が初期より扱い続けたもの。
魔法を使わずとも人が手に入れられるもの、ゆえに人から見た世界となる。」
そう言って、キセルで魔法薬を吸い煙を吐く。
「では、お嬢様コチラの星型の物はなんなのです?」
そういいながら、各頂点に丸の書かれた五芒星の書かれた紙を見せてくる。
「これの丸に入るのは、水、金、地、火、木となる。ちなみに、これの視点は世界から見た物。
まぁ、分かりづらいなら、金の意味合いは金属だが、雷に置き換えてもいい。
そして、さっきの四角もだが、これらは互いに作用しながら成り立つ。
元来、雷と言うのは人の持ち物ではなく、天より飛来する物、いわば神の持ち物だった。
それに、他の4つはイメージしやすいが、雷と一言で言っても形が無いからイメージしづらいしな。
後、木は生命的なものかもしくは風、この循環の枠組みだと人や動物はここら辺に入るが、回り続けているのでここだけではない。
人のサイクルに当てはめるなら、人が生まれる木、大きくなるための水、畑を耕す火、その畑から出てくる金、
そして、人が死んでかえる地。そういった循環であり、また、これらは互いが作用する。
ちなみに、雷を金でもいいと言ったのは、雷は金属に集まりやすいからだし、
木に風、もしくは人を置いたのは、この循環の中を回るスピードが一番早く、生命の象徴としやすい物だからだ。」
そこまで言って、ティーカップを取るとロベルタがコーヒーを注いでくれたので、
それで口を湿らキセルに新しい魔法薬をセットして火をつけた後、各パーツの出来具合を見て錬金術を施しながら残りの説明に入る。
「後の2つ、丸に波線が入り黒い方に小さな白い丸が、白い方に小さな黒い丸が打ってある図、
それは世界だと思ってくれていい。」
そう言うと、2人ともポカンとしながら、
「これが世界?」
「やけに大きくなりましたねお嬢様。」
まぁ、大きいといえば大きいが、
魔力の出所、つまりは森羅万象を突き詰めるならやはりこの形となる。
そう思いながら、自身の手を切って各パーツに血をしみこませる。
足の時もそうだったが、パーツに血がついていないと動かなくなるらしい。
「意味合い的なものだよ。万物の基本は流転する事、つまりは停滞は無く常に動き回り続けているという事だ。
黒い方には死、混沌、破壊、闇、水、女性なんかが入り、白い方には生、秩序、再生、光、火、男なんかが入る。
これらどちらかが無いと発生しない物であり、片方だけでは存在し得ない物。
つまりは、世界が世界として成り立つために最低限必要なものかな。」
そう言うと、ディルムッドがスッと口を開き、
「正義と悪は入らないのか?」
ふむ、それはさっきの話なら考えそうな事だが、
そう思いながら、血の付いたパーツをチャチャゼロボディに組み込んでいく。
「世界にとっては正義も悪も必要ない。必要とするのは人間だけだよ。
正義の反対は別の正義だし、悪の反対は別の悪。いわば、これは同じ物であり人の視点の違いだ。
私達を襲う人間にとって、私達は悪だ。それは強大な力があり、いつ襲い掛かるとも分からず、更には、知恵があり向上心があるうえ死なない。
それは人と言う種にとっては害以外生まない。しかし、私達にとっては襲ってくる人間は悪だ。
いきなり斬りかかり、或いは魔法をぶつけ殺そうとする。そんな物は私達にとって悪でしかない。
そうなると、互いの正義が生まれ、互いの悪が生まれる。結局正義も悪もないんだよ。だから、世界と言う枠組みに入らない。
言ってみれば、お前と指チュパジジイみたいなものだよ。」
そう言うと、ロベルタが、
「指チュパジジイですか?」
そう言って小首をかしげている。
まぁ、それは知識が無いと誰だかわからないだろうが、
ディルムッドの方は誰だかわかったのかとても嫌そうな顔をしながら、
「アレが正義とはいえないが、今の話をするならそうなるのか。
・・・・、そう言えば、エヴァはあの後彼女がどうなったか知っているのか?」
うっ、薮蛇だ。
これは間違いなく薮蛇だ。
うっかり口が滑ったなんて物じゃない。
「私はお前に味方するがな、それより先に闇の魔法の事をだな・・・。」
そう言うと、ディルムッドは俺の目をジッと見ながら物々しく口を開いた。
「知っているなら教えてくれないか。あの後彼女がどうなったか。
俺が死んだ後、彼女が苦労しなかったが心配でならない。」
うっ、そう言われると更に言いづらい。
無知は罪だが、有知は大罪なのかも知れない。
せめてディルムッドがフィンをブチ殺すとか、
次ぎ会ったら串刺しにするとか言うのなら話してもいいのだが、グラーニャについて聞かれると非常に言いづらい。
そう思っていてもディルムッドは俺の事を見てくる。
さてはてどうするか・・・・。
「チャチャゼロ・・・、1つ聞くが、お前は恨み深い方か?」
最後のパーツを取り付けてそう聞けば、
ディルムッドは腕なんかの調子を確かめながら、
「そこまで深い方ではないと思うが・・・・、何があった?」
そう聞き、ロベルタの方は興味深そうに、
「お嬢様、もったいぶるのはよくありませんよ。」
そう聞いてくる。
このまま話さない方がいいんだがなんだろう、今話さないと後々酷い事になりそうだ。
・・・・、はぁ、話したくないなこの事実。
「・・・、とりあえず落ち着いてよく聞けよ。」
そう言うと、ディルムッドもロベルタも1度姿勢を正して俺の方を見てくる。
「指チュパジジイと再婚した。」
そう言うと、一瞬ディルムッドが無表情になり、
その後、人の姿になって俺の両肩を掴み、とても綺麗に微笑みながら、
「よく聞こえなかったんだが、もう1度お願いしても?」
そういう割には、しっかり俺の両肩に指がガッチリ食い込んで痛いのだが、
それよりも何よりも、同じ目線の高さで目を合わせて微笑んでいるディルムッドの方がムチャクチャ怖い。
笑っている顔は威嚇だとシグルイで言っていたが、それをリアル体験するとは・・・、洒落にならんほど怖い。
出来れば今すぐ逃げ出したいが、肩をホールドされているのでそれもかなわない。
うぅ、薮蛇どころか、藪を突いたら眠れる獅子が出てきた。
「とりあえず、痛い!それと、彼女お前の死後指チュパジジイに口説き落とされた以上!」
そう言うと、ディルムッドはにこりとした笑顔で「ケケケ・・・」と笑い声を上げながらそのまま部屋を出て行き、
そして、外から、
「あんの腐れ外道!!!!次ぎ会ったら目障りな親指千切って槍でブチ殺してやるからな!!!!
大体、戦場でも、何処でも親指をチュパチュパと最初から気に食わなかったんだあの腐れジジイがぁーーーーー!!!!!!!
俺の顔の事知っておきながら、わざわざ女の迎えなんて行かせるなコンチクショウが!!!!!!」
優しい人を怒らせると怖い、それは怒り方を知らないから、
つまりは何処まですればいいのか怒る度合いもしくは、叩いたりする度合いが分からないから。
いまだ外で叫んでいるディルムッドをみてふっとそう思い浮かんだ。
まぁ、そんな中でもグラーニャへの恨みを言わないのは彼の人間性なのだろう。
そう思っていると、ロベルタが、
「今ならチャチャゼロさんに物凄く優しくなれそうな気がします。」
「奇遇だな、私も今ならアイツの言う事を何でもきいてやれる気がする。」
そう言って、お互い顔を見合わせた後、ディルムッドの出て行った扉をしばし眺めていると、
ディルムッドがやさぐれた顔をしながら戻ってきて、
「もう恋なんてしない絶対に。」
そういいながら意気消沈している。
「と、とりあえず私の体なら好きにしていいからな、元気出せよ。」
「私も出来る限りの事はしますので言って下さいチャチャゼロさん。」
そう言うと、ディルムッドは溜息を1つついて、
「同情ならいいよ、彼女も生きるために仕方なかったんだ・・・・・、と思いたい。
後、何かしてくれるならエヴァは耳を触り放題、ロベルタはとりあえずコーヒーをくれ。
そうすれば・・・・、少しは気もまぎれる。」
遠い目をしながらそう言われて、ロベルタは新しいコーヒーを、俺は薬を飲んで尻尾と耳をつけて、
すぐさま研究室にもどり、今はディルムッドの膝の上にチョンと座って耳を触られているのだがなんとも。
これは、苛立っている時に柔らかい物をニギニギしていると落ち着くというやつだろうか?
まぁ、俺が下手に突いた所為でこうなったんだから文句なんていわないが。
そう思っていると、ディルムッドが、
「そういえば、話の続きはどうなったんだ?」
そう聞いてきた。
まぁ、あんな後だから進んでる訳も無いんだが、
「とりあえず、この黒と白の意味合い的なものまでは説明したか。
ちなみに、これが闇の魔法もしくは咸卦法のルーツだと思ってくれていい。
咸卦法の場合は弾き合う2つを融合させて1つの力とする。しかし、闇の魔法は違う。
なにが違うのかといえば前提条件に強大な魔力がある事、これは気を一切使わない強化魔法であるため。
次にその魔力、言わば闇を飲み込む器を作る。そして、その器に闇を入れて融合する。
言わば、魔と言う物を最大限使った魔法だと思ってくれればいい。まぁ、まだ最終完成には至りきれていないわけだが。」
そこまで話すと、ロベルタが不思議そうに、
「しかし、それなら先ほどの白と黒のマークは必要ないのでは?」
そう聞いてくる、
「いやいる、この魔法は酷く女性的でそれでいて酷く男性的なんだよ。
さっきも言ったとおり、この魔法は攻撃魔法を取り込む。それも強化魔法と言う肉体レベルではなく、霊体のレベルで。
それは1つの死であり、そこから生まれる力は生に繋がる、生と死の体現のようなものだ。
それに、これの完成形は他人からの攻撃、言わば死を自身で受け入れてそこから新たな力つまり生を生み出す。
それゆえに、死と生を、破壊と再生を、混沌と秩序を、男と女をそれぞれを司る物のシンボルとしている。
それに、この魔法の完成形を話したとおり、この魔法の完成形は相手の力を利用するものであって、
自身の力だけでは多少心とも無い。何せ、自身に魔力を撃ち込んだ上で自身の魔力を取り込む。
それはたんに自分の魔力を自分に上乗せしているだけだろ?最終的に言えば、この魔法は完成してこそ本来の意味合いがでるものだよ。」
そう言うと、ロベルタは少々首をかしげながら納得してくれた。
まぁ、自身で言うのもなんだが最終的な理論の固めとしてはまだ甘い。
それに、この理論事態もまだ改善の余地がある。
まぁ、それでもコツコツとやって行くしかないのだがな。
そう思っていると、ディルムッドが最後の図形を手にとって見ながら、
「これは今までに無くシンプルだな、これにも意味合いが?」
そう言って出してきたのは単純に丸が2つの二重丸。
「あぁ、ある。簡単に言えば、内側が自分で外側が他人。そういった意味合いだ。
ただ、これは意味合いが広すぎる。中の円は内世界、外の円を外世界と考えてもいいし、
今ここにいる皆とそれを包み込む空間、いわば互いを観測するものとでも思ってくれ。」
そう言うと、2人ともそれを興味深そうに眺めだした。
とりあえずは、なんだかんだでまた忙しい一日だったという所か。
そう思い、ディルムッドの膝の上に座っているとク~ッっと腹がなった。
思い起こせば今の今までほとんど物を口にしていない。
そう思っていると、
「チャチャゼロさん、お嬢様が空腹を訴えておりますので今日はこの辺でお開きにしましょう。」
ロベルタがそう言い、
「そうだな、俺も腹が減ってきたよ。」
そう言って、ディルムッドが俺のことをヒョイと人形のように持ち上げ、
そのまま食堂まで行き食事となった。