え・・・マジ?な第1話
背中がなんだか痛い、それとなんだか肌寒い。たぶん昨日はしゃぎ過ぎたせいでベッドから落ちたのかもしれない。
でも、それでもいい。今日も楽しい一日が始まるのだから。そう思って目を開ける。目を擦ってみる、目の前の光景は変わらない。
いつもの私の寝室は朝になれば、朝日が大量に入って明るいし、お父様やお母様にもらったぬいぐるみや可愛い小物がたくさんある。
中でもお気に入りのチャヤゼロは寝る時も一緒のベッドに入っている。
それだけではなく朝になればメイドたちが起こしに来てくれるはずなのだ。
それだけでも何かが違うという事は分かるし、まして今見上げているのは自分の使っている天蓋付きベッドの天蓋や部屋の天井ではない。
今見上げている天井は石が剥きだしになっていて、やたらゴツゴツとした印象を受ける。
それに、日の光は無く蝋燭の光があたりを照らしている。
とりあえず体を起こして今の状況を見ようとして、
「な、何で裸なの・・・?それになにこれ?」
体を起こしてみて愕然のする、寝ている時に着ていたネグリジェは愚か、下着すらつけていない。
その代わりに、体には何か赤黒いモノで、変な模様の様なモノが書かれている。
そしてあたりを見回してみると、今私がいる場所を中心に、私の体に書いてあるのと似たような模様が赤黒い何かで書かれている。
ますますもって意味が分からない。
そうして考え込もうとしていると、何かの音がしたので、その方を見ると伯父が立っていた。
しかし着ているのは、いつも会う時に着ている正装ではなく長いローブ。
それも、所々赤黒い染みがある。
それに、片手には伯父の身長と同じぐらいの杖を持っている。
とりあえず、状況が分からないので話を聞こう。そう思い口を開く。
「伯父さま、ここはどこですか?私はさらわれていて、おじ様が助けてくださったの?」
とりあえず今の私が考えられる内容はこれぐらいだ。
私をさらってお金を要求すれば、お父様から大金を取れるだろう。
そう考えて言ってみたが、伯父はニヤニヤと私の方を見たまま、まったく予想だにしない事を言い出した。
「目覚めたかねエヴァ。いや、真祖といったほうがいいかな?
どちらにせよこれで私の悲願はかなう、なに君がどうこう考える事とはしなくていい。
君は私の可愛いお人形さんなのだからね。こうなる事は、君のミドルネームがアタナシア・キティになった時から決ていたよ。」
そういって狂ったように高笑いをしだす。
だが、そんな事は関係ない。今伯父はなんと言った?真祖とか言うのはよく分からない。
でも伯父は私の事をお人形さんと言った。それは今のこの状況を作り出したのが、伯父だという事を示しているのではないか?
「伯父さま、いったいどういうことです!真祖とか言うのはよく分かりませんが、この状況を作り出したのは伯父さまなのでしょう?
だったら早く私をおうちに帰してください。そうしてくだされば、お父様にも怒りはしないよう私から言いますから。」
私は一刻も早くこの状況から逃げ出したくて、伯父に向かい言葉を紡いだが、帰ってきたのは残酷な言葉だった。
「いいことを教えてあげようエヴァ、まずキミが真祖になる事を望んだのはあの愚弟だよ。
余りに可愛い娘をそのままの姿で永遠に残したいと言ってね。しかし、アレには魔力はあったが才能はなかったし、
同じように錬金術の才能も無かった。あるのはただ、戦場で人を殺す能力だけさ。まぁ、そのお陰で君は今までいい暮らしができたんだろうがね。
そして、あの愚弟は私を頼ってきた、どうにかできないかとね。私も私で真祖化に興味があったので快く引き受けてやったさ。
そして、できあがったのが今のキミだよ。キミは知らないだろうがね、準備はしてあったんだよ。高熱の時に持ってきた薬、
その後私が送り続けていた薬。それらすべてが今のキミにつながるのさ。」
伯父の話を聞いて頭が真っ白になる。
今の状況を望んだのがお父様?嘘だ、きっとこの伯父は嘘を言っている。
あの優しかったお父様がこんな事を私にするはずが無い。
だからこの伯父、シー二アスが嘘をついているはずだ。
そう思い、口を開こうとする前に、シーニアスが先に口を開いた。
「聡いキミの事だ、どうせ嘘だとか考えているんだろうが関係ないよ。
そうだ、いい物を見せてあげよう。キミの父がどれほどまでに君を愛していたかの証拠をね。」
そういうと、シーニアスは杖を持っていない方の手で何かを私に投げつけてきた。とっさの事だったので私もそれに手を伸ばす。
そして、私の手で受け止めた物の正体に気づき絶叫する。
だって・・・これは・・・。
「お父さま・・・おとうさま!!!!」
私の手で受け止めたモノは目蓋を閉じて血の気が抜けて青白くなっている父、ヴァレンタインの生首だった。
何で、どうして・・・、頭の中がぐちゃぐちゃになる。私は楽しく誕生日を迎えただけだ。
まったくとは言わないが、今までした悪い事はちょっとした悪戯ぐらいだし、寝る前にもちゃんとお祈りしたし、安息日には教会にも行っている。
なのに、なのになんで?
「あぁ・・・神様、これは悪夢ですよね?
きっとそうなのですよね?本当はベッドの上で寝ていて、何も無いように朝になれば目覚めるんですよね?」
泣きながら手の中の生首に向かって話しかけているエヴァに向かって、シーニアスはまたもや声を上げて笑い、
ひとしきり笑った後、穏やかに、しかしその顔には狂気を張りつけて喋りだす。
「どうだいキミの父親の愛は。術式の中で血縁者の血液が大量に必要だという事がわかったら、
すぐにこの愚弟は自身と妻の血を差し出したよ。娘が永遠になれるのならとね。そして、後の事をすべて私に託して死んだよ。
私としては内心、笑いが止まらなかったがね。これが成功すれば私も真祖になれるし、失敗してもこの家と財産で好き放題さ。
いやまったくキミのおかげだよ。クッ、ハハハハ・・・・・。」
シーにアスの耳障りな笑い声を聞いた瞬間、私の中で何かがはじけた。殺そう・・・、目の前のこの男を・・。
目障りで私の幸せを奪って、高笑いをするこの男を。そう思うと体に力がみなぎってくる。
体が軽い、なんだか分からないけど、今なら目の前の男を殺せる。
そう思いシーニアスに向かって殴りかかる。シーニアスとの身長差は70cmを越えるだろうが、今の私には関係が無い。
殴りかかろうとジャンプしただけで、軽くシーニアスの目の前までいけるのだから。
後数メーターそうすればシーニアスに手が届く。
手が届けば、私はこの男をきっと殺せる。
しかし、その数メーターは私には届くことのできない距離だった。
「躾のなってない子だな。リラ・ライ・ア・ドック・ナララット 魔法の射手 炎の矢1発」
シーニアスの持っていた杖が淡く輝がやいたと思うと、中から炎の玉が飛び出してきた。
そしてそれは空中で避けようも無い私の右肩に命中した。
命中した瞬間、炎に焼かれる痛みとその反動で後ろに飛ばされる。
「うぐっ・・・・」
「やれやれ、君が急に暴れるからついつい攻撃しまったじゃないか。しかし、あぁ、これは酷いね骨まで焼けちゃってるよ。」
そう言われて私は自身の右肩を見る。そこには今まであった白い肌ではなく、黒く炭化した肩だったモノがあっただけだった。
そして、その事実に私は脅える事しかできない。こうなってしまってはもうダメだ、私はこの目の前の男に復讐もできずに死ぬ。
でも、最後に負け犬の遠吠えと言われてもいいから・・・。
「殺す・・・。キサマだけは必ず殺す。」
そう言って、人を呪えそうな位の怒りを込めて目の前の男を睨むが、男はニヤニヤ笑うだけ癇に障る。
今すぐ殺したい・・・、殺したいが、もうダメだ私は死んでしまう。そう思っていると。
「君はまだ死ねないよ。むしろこの程度で死んでもらっては困る。何一つ実験をしていないのだからね。それと・・・。」
そういって男はどこからともなく剣を取り出し私の喉を切り裂いた。とたん口の中に血の味が充満して息かできなくなる。
苦しい、窒息する。涙目でシーニアスを見上げる、しかし男の顔は無表情。
「口の悪い子は嫌いだよ。エヴァ、キミはこれから私の為だけに生き続けるのだからね、もう少し利口に口を開いた方がいい。」
そう言って男はエヴァに杖を向けて眠りの霧を唱えた。そして次の日からエヴァにとって地獄が始まる。
シーニアスの『耐久力を試す』の一言で再生しては殺されて、殺されては再生すると言う日々が始まり、最初のうちは抵抗もしたし、
体が動かない状態なら悪態もついた。そうしていると、シーニアスは先ず、エヴァの喉を切り裂く事から始めるようになり、
エヴァも、この終わる事の無い狂気に次第に死を願う人形ようになり、運命の日が訪れる。
「シーニアス、とっとと私を殺してくれ・・・・頼むから。お願いだからもう・・・・、終わらせて楽にさせて。
あぁ、神様いるのでしたら殺してください。もう終わらせてください。それが無理ならどうか誕生パーティーの時まで戻してください。」
そう言葉を紡いでいると扉からシーニアスが入ってくる。
不機嫌そうに私の顔を見て口を開く、まるで憂さ晴らしでもするかのように。
「うるさい娘だ・・・。そういえば今、誕生パーティーとか言っていたがそれは嘘の記憶だ。
キミは10歳の誕生日の日にはもうその体だったのだからね。」
それを聞いてもう何度目の絶望に打ちひしがれる。涙はもう枯れた。
楽しかった記憶の代表としてあった誕生パーティーの記憶も嘘だといわれた。
あぁ、もう無理です神様。もうこれ以上は耐えられません。誰のための復讐かも、もう分かりません。
そう思っていると。
「耐久力実験は今日でおしまいだよ。まったく、キミは膨大な魔力を持っているのにそれが使えないから、
痛いだけの実験になってしまったというのが分からないのか?まぁ、障壁を張ってなかったからこうして、
剣や何かで耐久力を調べられたんだがね。さてと・・・。」
そうして始まった実験によりエヴァの意識は深く深く落ちていった。
ーside ?ー
いったいここはどこだろう?轢かれて死んだはずなのだが、気が付いたら真っ暗な所にいる。時間の感覚は無い。
不思議な事に、それを不快にも感じないし、身体の感覚がまったく無いが、それも気にならない。
これが世に言う死後の世界というやつだろうか?悪い事は人並みにしかしてないし、良い事も人並みにしかしてない。
そのせいで神様が迷っているのか?そのためここにいる事になっているのだろうか?暇という感覚が無いのはありがたいが。
と、そんな事を考えていると、いつの間にか人がいた。
俺の居る所は一つの光も無い完全な闇の空間だ・・・、多分。でも人が居る、身体を持った他人がいる。
そうすると、ここが死後の世界というのが微妙になるのだが・・・、まぁ、俺が死んだのは確実だし気にしても始まらない。
そう思い少女の方に近づく。いや、足とか無いんだけどね、身体ないし。そうして近づくにつれ、その子のすすり泣く声が聞こえてくる。
体育座りの要領で足を組み、膝に顔を埋めた小さな女の子。金髪だから多分外人だろう。ついでに何も服を着ていないという状態。
一瞬煩悩から、
(これは世に言うご褒美というものですね。GJ。)
という思考が流れてきたが、なんというか問題だ。流石に誰も見ていないとはいえ。
と、とりあえず頭を振って思考を振り払い少女に話しかける。
「ねえキミ、何で泣いてるの?」
と、言った後に気づく『俺はしゃべれるのか?』と。しかしそれはどうやら取り越し苦労だったらしい。
なぜなら少女は顔を上げたからだ。だが、見えてはいないのか辺りを見回すばかり。
うすうす感じていた事だが、本当に俺身体無くなったんだな。
と、そんなことより話をせんとな。
「見え無くても大丈夫。声は聞こえるから、どうして泣いてたの?それとお名前は?」
できうるかぎり優しく話すと、少女は自身の事を話してくれた。
どうやら少女の話によると、散々な人生を現在進行形で歩んでいるらしい。
何だよ再生するから殺すって。型月のシエル先輩の過去まっしぐらじゃん。
そう思っていると少女はとんでもないことを口にする。
「お願い私を殺して。私を無かった事にして・・・、私のすべてを亡くして。
そのためだったら何でもする。痛いのは嫌だけど、もうそれも慣れてしまったから多分大丈夫。だからお願い!」
最後の方はもう叫ぶように言った。正直言えば助けたい。助けたいが体も無く少女の所への行き方も分からない。
そうなるとどうしようもない。そう思っていると。
「あなたでは無理なのね。」
そういって少女はまた泣き出した。何とかしたい・・・、状況を思考しろ。最良ではなくとも手は無いか。
そうして考え始めて、ふと思った事がある。俺と少女の違いと現状。少なくとも少女には身体、
つまり魂の受け皿があるのだから、死んではいない。それは少女の何度も殺されると言う事からも分かる。
しかし、ここは多分死後の世界とか、そういう所に最も近い所だと思う。現に俺の体は無い。
次に俺の事だが、まず俺は俺が誰であるかを思い出せない。いや、記憶喪失とかではない、単に俺の名前という部分。
俺が俺であると言う証拠、それが今の俺には無い。多分このまま行けば俺はなくなるのだろう。
これが死後の世界での転生とか、生まれ変わりのプロセスの途中というのならうなずける。
ここまで考えて思いついた事がある。しかし、それはある意味最悪の結果を出すかもしれない。
その方法とは、
(魂の入れ替え・・・・。)
これが俺の思いついた方法。多分俺と少女が入れ替われば少女は消滅する。
彼女の望みである死は与えられる。代わりに俺が大変な事になるが、普通ではなくなる。そこで俺の中に懐かしい感覚が生まれる。
普通である事を嫌い、普通である事に絶望していた俺の目の前に、普通ではない事に巻き込まれている少女がいる。
しかし・・・、
「君を助けられない事は無い。多分この方法ならキミは君でいられなくなる。それは多分死ぬという事だよ。」
そういうと少女が、がばっと顔を上げて立ち上がる。
裸とか何だとかはどうでもいい、ただ率直に俺が抱いた感想は『綺麗だ』だった。
「その方法を教えて。お願いだからその死ぬ方法を教えて、お願い。」
少女の目には決意がある。けしてして褒められた決意ではない。
だがそれは周り、つまり他人から見たらの事で少女は純粋に、ただ純粋にそれを願っているのだろう。
それなら・・・、俺も腹をくくるか。ここまで言われて、なおかつ可能性を見つけてしまったのだ。
「方法は簡単だよ。君の名前を・・・、君の存在すべてを表している名前を俺にくれ。
そうすれば、今の名前の無い俺は君になる事ができると思う。そうすれば君は名前を無くし、君ではいられなくなる。」
それを言うと少女はとてもうれしそうな顔で口を開く、まるで待ちわびていたプレゼントが届いたかのような声で。
「本当に、本当にそれで楽になれるのね?」
「あぁ、多分なれる。最悪入れ替わりは起きると思う。決まったら君自身を俺にくれ。」
そういうと少女は微笑み口を開く。
まるで歌うように、とてもとても愛しい物に出会えたかのように。
「私は今、この時この場において宣言します。『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』はそのすべての存在を捨て、
私の前にいるであろう姿無き闇に与えます。」
えー、ありのままあった事を話すぞ。
泣いてた少女はエヴァンジェリンでした。はい、ありがとうございます。
って、ちょっと待て。・・・・・マジ・・・・・なのか?
同姓同名の別人・・・・、いや無い。殺しても死なないって状態は人ではない。
心当たりがあるとすれば『ネギま』か、そうなのか。
俺は平行世界とかパラレルワールドとかに飛ぶのか?しかも闇の福音として。
やばいな~、でも方法教えたしな~。
まぁしかし、これはこれで面白いのか?っと、こっちからの返答がないからエヴァが不審に思ってる。
え~っと、呪文なんか知らんのだがな。
と、思っていると勝手に口(?)が動いた。
「すべてを捨て去りし娘よ。汝は無に帰する事を望み我は願いを聞き届けた。
今この時この場より、我が名は『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』となる。
契約はここに、代価は胸に、すべてを喰らい終了とする。」
そういうと、周りの闇がすべてエヴァに殺到していき・・・・・。