予想しておくべきだったな第21話
ーside中の2人ー
言葉を残し、押し戸式の扉を押し中に入る。
バタンと言う重厚な音の後、入って直ぐに目に入ったのは糸の切れた俺の人形。
どうも、扉の閉まる勢いで糸が切れたらしい。
しかし、それは俺の後ろの扉がそれだ密閉率が高くなおかつ、
鋼程度の強度のある糸を磨り潰し、切る事が出来る事を物語っている。
ついでに言えば、奥の方から水がこぼれる音がする。
どこかに穴でも開いているのだろうか?
「ドアは開かないみたいだねぇ、なんかの仕掛けかい?
ついでに言やぁ、なんか身体が重いねぇ。一応、障壁とかは張れるけど。」
そういって、ドクロは今入った扉を調べている。
部屋の中は明かりも無く、今の光源は俺のブルースチィールのランタンだけ。
まさしく、この銃とランタンの持ち主が如く死沼へ誘う鬼火に導かれるままこの部屋に入った気分だ。
そう思いながら、腰のランタンを左手に持ち、奥を照らせるようにする。
ここに入る前にキセルを直しておいて良かった、下手に出したままだと邪魔になる。
部屋の広さは大体200メーター四方の正方形で奥の方は見えない。
ついでにどうも、魔力封印の結界でも張ってあるのか、今の俺の魔力の上限は大体魔法の矢5発分ぐらいか。
ただ、ディルムッドに流れる魔力が変わらないので、この部屋限定なのだろう。
「多分魔力封印のせいだ、そのせいで、身体強化も魔力障壁もガタガタになっている。
何があるかは分からんが、無茶はするなよ。」
そう言いながら辺りを照らす。
映し出されたのはいくつかの本棚群。
近付いて見ると埃も被らず、やけに綺麗なのが分かる。
多分、使われなくなって長く、更に密閉率のせいで空気の流れも最少しかなく、
部屋その物が缶詰めのような状態だったのだろう。
「あ~あ、本ばっかり、金目の物は無いかねぇ?」
そう言いながら、本を引っ張り出してドクロが見ている。
俺も近くの本を見てみるが、理解できる文と出来ない文がある。
どうも、この本は今の古代文字と、その前の古代の文字を組み合わせて書いてあるようだ。
その事から考えれば、ここの書物は相当に古い。
下手すれば紀元前クラスか、ゲートで使われている文字もあるし。
ドクロの方は早々に飽きたのか、俺の横に立っている。
たぶん、明かりが無い所をうろつくのはマズイと思ったのだろう。
「ドクロ、契約どおり書籍関連はすべて貰うぞ。」
そう言うと、ドクロの方は首をすくめながら、
「あぁ、アタイじゃ捌けないし好きにしな。」
そういいながら俺を見てくる。
ドクロとの最初の契約で、報酬の支払いは総額を5:5、ただ、
これはディルムッドの分も含めてなので、ウチの分は2,5と2,5の併せて5となる。
ただ、例外として本関連が出た場合は、ウチがすべて総取りとなっている。
これは、基本的にトレジャーハンターの目的は遺跡の魔法具や錬金術アイテム、錬金術の素材、後は金銀宝石など、
即物的で、価値が分かり易い物を求める傾向が強く、本や石版、その他、歴史的価値のある物は求めない。
理由は、自由貿易都市まで運ぶのが大変な事や、基本的にそういった物を欲しがるヤツがアリアドネーなどの、
学術都市関連のいわゆる、学者や探求者、後は趣味として扱う人間しかおらず、
現状では発掘調査以外での書籍関連は、かさばるため遺跡に残されるので、
いくら魔法で加工されていようと大変勿体無い事になる。
「そろそろ奥に行かないかい? なんか音もかすかに聞こえるしさぁ。」
そう言いながら、俺の袖を引っ張る。
ふむ、ここで止まっていても仕方が無い。
現状では、本を読む事よりも先に扉を開く方が先か。
いくら本があっても、ここから出れないんじゃ意味が無い。
ついでに言えば死なない関係上、下手をすれば一生ここで暇に暮らすのか。
それは俺にとって拷問に等しい、一体何の刑罰なんだまったく、考え出したら薄ら寒くなってきた。
「あぁ、扉を開いて外でじっくり見るとしよう。
さしあたっては音のなる方へか。」
そう言って、ランタンとドア・ノッカーを構え、水の音のする方へ進む。
ーside外の2人ー
二人が中に入って扉の前でキールと共に帰ってくるのを待つ。
幸い魔力はエヴァから流れてくるので問題は無いが、念話は通じない。
まぁ、彼女が簡単に死ぬとは思えないので、今はここで彼女の帰りを待つとしよう。
そう思い、壁に背中を預けて腕組みをして立っていると、扉に背を預けて方膝を抱え込む姿勢で座っていたキールが口を開く。
「チャチャゼロさん少し話をしませんか?
私にはどうしても分からない事があるのですよ。」
そう言いながら俺を見上げてくる。
分からない事・・・・、もしかして、この遺跡のトラップで何か気付いた事があるのだろうか?
それならば、早く中の彼女達に教えた方がいいのかも知れない。
「何だ、何か気付いた事でもあるのか?」
そう言うと、キールは俯きながら言葉を漏らした。
「いえ、人に聞いても答えが出るとは思えないのですが・・・・、」
そういって、一旦言葉を切り深呼吸をして、俺の目を見ながら、
「人に好きになって貰うには・・・・、信頼してもらうにはどうしたら良いのでしょう?」
そういって、また顔を俯かせる。
参ったな、この手の質問だったか。
しかし、俺もこれにばかりは答えられない。
何せ、今の俺自身エヴァの信頼を総て貰っていないと思っているのだから、
こればかりは、どう答えていいモノか非常に悩む。
なので、そのままの現状を返すか。
「それは俺にも分からない。
何せ、エヴァは俺を信頼していてくれても、その総てを預けてはくれないからな。」
そう言うと、キールは信じられないモノを見るように俺を見てくる。
そして、事実声も信じられないといっている。
「エヴァンジェリン嬢が貴方に信頼の総てを預けていないと?
そんな事は無いでしょう。何せ、貴方方がララスに来て、すでに半年以上がたちますが、
その間、彼女が何時も一番に意見を求めるのは貴方でしたよ?それで総ての信頼を勝ち得ていないと?」
そういって、不思議そうに俺を見てくる。
確かに、キールの言っている事は正しいが、
それでもなお俺とエヴァにはあるのは、信頼関係という言葉では表せないさまざまなモノであり思い。
「あぁ、俺とエヴァの関係はそうだな・・・、パートナーであり共犯者であり、そして、主と騎士だ。
しかし、エヴァはまだ俺に満足していない。何せ、欲張りな彼女だ、彼女に信頼を勝ち得る為には力をつけ、
彼女と共に駆け抜けるだけの気概を持ち、さらにそれを楽しめる度量がいる。そんなもの、一朝一夕では完成しない。」
そう言うと、キールは目を丸くしている。
そして、考えながら、
「貴方方はもう連れ添って長いのではないですか?
貴方方を見ていると、すでにもう何十年もの時を共にした様な仲に見えるのですが?」
そう言われて、目をつぶって思い出すのは、彼女と初めて出会った月の綺麗な夜。
考えてみれば、俺の今はあの夜に始まり、そして今なお続いている。
あの時彼女の差し出す手を取り、顔に癒える事の無い傷を負い、
そして、今もまだ忠義を尽くし彼女と共にいる。
考えてみれば彼女から貰ったものは多い。
今の世界の知識に新たな力、自身の最も欲していた騎士としての忠義に、今を楽しむと言う生き方。
彼女は歪で歪んでいるが、それでもなお俺を引き付ける。
その事に時間は必要か・・・・・、答えは『否』だろう。
それに、彼女は依存されるのは気にしないが、依存する事は無い。
「エヴァと出会ってから5年ぐらいか、片時も側を離れた事も無いが、
それでも目を離すと彼女は勝手に何処かに行ってしまう。
それを追うのも大変なら、追った後も大変で、毎度毎度そんな事に首を突っ込むなと言いたくなる事ばかりだ。
だが、それでも不思議と悪くないんだよ・・・・、彼女と2人ならね。」
俺がそう言うと、キールは言葉を噛み締めるように目を閉じ口を開く。
「フフッ、たいした惚気ですね。まったく持って羨ましい。」
あぁ、エヴァンジェリン嬢が羨ましい。
そして、目の前のチャチャゼロさんがもっと羨ましい。
チャチャゼロさんは気付いていないかも知れないですが、
彼の顔はエヴァンジェリン嬢を良く言う時も、悪く言う時も変わらず、ずっと楽しそうなのですから。
それに、癖なのか自身の顔にある傷を話しながら、たまに触っているんですよ。
まったく持って、完璧に惚気られたしまいましたね。
それに、チャチャゼロさんの言葉の節々に彼の苦労も見え隠れしますし。
考えてみれば、私はドクロと遺跡に潜ったのは今までに1回、今回を併せて2回目でしたね。
なるほど、そんな男を好きになるのも無理なら、信頼するのも無理。
ついで言えば、前に潜った時には、
「キールつったねぇ、あんた歩くの早すぎ。ちったぁこっちの事考えな。」
なんて、声をかけられたのが初めての出会いで、
次は、ララスで、
「なんだい勿体無いねぇ、それとも根性が足りないの根性が、
アンタとならまた他の遺跡にも2人で潜っても良かったのにねぇ。
あ、そん時はアタイに合わせて歩くんだよ、アンタ歩くの早いんだからさぁ。」
そんなこんなで、彼女が私の店に入り浸るようになり、
私もそれに合わせるように店の店主になって、考えてみれば、
今回こうやって私がまた遺跡に潜る気になったのも彼女に言った、
2人でなら潜ってもいいと言う言葉を、エヴァンジェリン嬢とチャチャゼロさんに重ねていたのかもしれませんね。
私らしくないと言えば、私らしくないですが、それでも今回潜った事で、
何かしらの歯車が回ってくれれば私としては嬉しい限りです。
何せ、今回は彼女から『歩くの早すぎ』とは言われて無いのですから。
彼女を好きになったきっかけは・・・・、今はもう思い出せませんね。
しいて言うなら、私の店で一度彼女が飲みながら愚痴った時ですか。
彼女が、
「もう死なせない、こんな仕事してりゃぁ人が死ぬのなんて見飽きるけど、でも、もう死なせない。キール酒!」
そう言いながら、彼女は浴びるように酒を飲んでしました。
後から聞いた話では、彼女が加わったパーティーが彼女を残し全滅して、
その代わりに、彼女は傷一つ負う事無く助かったと言う、割と良くある話でした。
でも、私が覚えているのはそんな事件の内容では無く、
彼女が愚痴っていた言葉では無く、彼女の泣きたいのに泣けないといった表情。
その表情が頭から離れず、今もなお思い出せます。
そして、その時私が思ったのは泣きたいなら泣けばいいのにでした。
しかし、彼女は泣かずに、ひたすら悲しみを噛み締めていて、でも泣かなくて・・・・。
そして、どうして泣かないのかを考えるようになり、出た結果が『涙を預けられる相手がいないから。』でした。
だからでしょうか、その後は意外と早くなら私が預けられる相手になれば良いと思い、
そして好きになっていたという所ですか。多分、これで間違い・・・・・無いでしょう。
フフッ、今考えると青臭い気もしますが、でも、その青臭さがあるからこそ出来る事もあるのかも知れませんね。
カシャン・・・・・、カシャ・・・・・・ン、
と、どうやらお招きしていないお客さんのようですね。
今までのように簡単に倒れてくれるとありがたいのですが、
そう思い、横を見ると、チャチャゼロさんも2本の木の槍を独特な構えで構えています。
はてさて、私達は後の扉を守ってお留守番するのが彼女達からのオーダーなのですから、
酒場の店主としてはきっちり答えるとしましょう。
「キール、ここは狭い上に天井も低く、俺は槍で突く事が主体になる。援護は任せたぞ。」
そう言いながら、チャチャゼロさんは槍を構えて、闇の中を見ようと目を凝らしています。
さて、私も私に出来る事を頑張りますかね。
「分かりました、では、まずは明かりをつけましょう。」
そういって、キールは数十本のナイフを壁にめがけて投げつけ、
そして、壁に刺さったナイフが光りだした。
なるほど、これなら辺りが見やすくて助かる。
そう思い、通路を渡り俺達の前に姿を現すモノを見逃さないよう闇に目を凝らす。
ーside中の2人ー
50メーターぐらい進んだだろうか、部屋の中は相変わらず本棚が乱立して続いている。
そのせいで奥の方まで見えず、だが、それでも水の音には近付いている。
水の音に一定のリズムは無い、ただ、何かを汲み上げて、それをどこかにこぼす音。
それと、この部屋だがどうも遺跡と言うには古さが足りない、逆に今の技術では作れないような気がする。
オーパーツ、そんな言葉が頭をよぎる。
しかし、もしもの話だが、超の言う最大のネタバレである火星人と言う事が本当なら、
もしかすればこの遺跡群はテラホーミング用の母船か、或いは研究施設なのではないだろうか?
確信は無い。あるのは推測のみで、他は自身の目で見た事実のみ。
しかし、この遺跡や、他の遺跡も潜ってみて分かったが、どうも技術的に今の時代で作るには到底不可能なものが多い。
それに、超は自身を未来人と言い、そして未来に帰っている。
その事を考えれば、時間の壁と言うモノをこの世界では越える事が出来る。
さらに言えば、ゲートを用いれば他の世界に飛ぶ事も可能。
何だろう、昔映画で見たスターゲートと言う作品が思い浮かぶ。
行き先や何かは違うが、大まかに言えばあれの類似作と考えると頭の中がすっきりするかも知れない。
まぁ、出た先が古代エジプトに似た世界ではなく、魔法上等ファンタジーな世界だったと言う所か。
「なんだいエヴァ、難しい顔して。今はとっととここを出る方法をさがすんだろ?」
ドクロの声で思考を中断する。
確かに、ここに閉じ込められたままでは今の思考に意味はない。
この思考が何時役立つかは知らないが、それでも何らかの形で役立つ事もあるだろう。
「あぁ、そうだな。それに、もう水の音も近い。あの本棚を越えた辺りか?」
そう言いながら、乱立する本棚の中を進む。
そして、出たのは本棚が無く開けた場所。
辺りには檻のような物があったが、今はもう使えないのだろう壊れている。
しかし、問題はそこではない。そう今の問題は
「あぁ~ん?今日は客が多いじゃねぁか。何だ、こんな大罪人の所によぉ。」
そういって、自身の目の前にある樽の様な容器から何かを御椀で掬い出して口に運ぶ。
しかし、その掬い出して飲んだものは、体に刺さっているチューブからまた容器の中に戻っている。
近くには、刃こぼれした鉈のようなナイフがいくつかあり、地面に突き刺さっている。
「エヴァ、アイツ生きてるのかい?」
「知らん、しかし、喋るなら死んではいないのだろ?
ついでに目がチカチカ光ってる。」
目の前にいる人物・・・・、いや、黒い骨が白い白衣を着た骨格標本とでも言えばいいのだろうか?
両手は太い手甲で覆われてはいるが、それでも、それに続く腕は骨で、指も骨。
きっと、その白衣の下も骨なのだろうし、ズボンの中も同じだろう。しかし、これ魔族や魔物の類ではない。
その上で、この密閉率が高く、壁に塗り込められた部屋で生き続け事の出来るもモノで該当するもの。
さらに、この遺跡でここに来るまでに出会っていないもので該当するのはオドラデクエンジェル。
それが、今目の前で動いている物の正体ではないだろうか?
「なんでぇ、何黙ってやがる?あぁん?」
なんというか、ガラが悪い。
しかし、そんな中でも樽の中から御椀で掬い上げて飲む動作を止めない。
「うるさいねぇ、アンタ見てるとウチのじぃ様思い出すんだよ。ちょっと黙ってな!」
あぁ、これで、コイツがムクロの娘だって事がハッキリしたな。
ディルムッドに言われた後、何度か聞こうかと思ったが、何だかんだで聞きそびれていて聞けなかった。
今の感想を言えば、のどに刺さった小骨が取れた感じだろう。
と、いかんな。今は目の前の動く骸骨にかまってやらないと。
「そういきり立つなドクロ。それと、キサマに聞きたいのは、ここが何処で、どうやって外にでるかだ。
知っているなら教えて頂こうか。細身のジェントルマン。」
そう言うと、白衣の骸骨は樽の中の液体を飲みながら喋りだした。
その口調はとても疲れていて、同時に自暴自棄であり、さらに言えば、苛立っている。
「出方なんてしらねぇよ、もう何もかも忘れちまった。
そもそも、俺が何でこんなとこにいるのかも、何でこれがなくならねぇのかもよぉ。
ついでに言えば、俺の罪もだ。哀れだろ、何を償っているのかわからねぇのに、償い続けるって言うのもよぉ。
・・・・・、しってっか小童ども、永遠と言う名の美酒は同時に終わりの無い酒乱を生むってよぉぉぉぉ!!!!」
そう言いながら、近くに有った鉈のようなナイフを右手で抜き切りかかって来た。
ついでに言えば、あの骸骨が立った事によって部屋の電気がついた。
「ちっ!女狐、あいつ殺していいのかい!?」
そう言っている間も、白衣のドクロはこちらに切りかかってくる。
身長は、座っている時は気かなかったが2メーター半ぐらいあり、その手も足も長い。
その体格から繰り出されるナイフは鋭く、さらに言えば、距離感が掴みにくい!
一撃目はどうにか2人とも後に下がりかわす事が出来た。
しかし、白衣の骸骨の追撃は止む気配が無い。
「かまわん、ヤってやれ。さもなくば私達がヤツのお仲間になる!」
「じぃ様みたいになるには、アタイはまだチョット早いねぇ!!」
そう言いながら、ドクロは武器を構え、俺もドア・ノッカーを構える。
どんぶり勘定で一発撃った後のリロードは大体5秒。だが、この数字を出すには火傷を気にしない事が条件。
まぁ、再生できるから問題は無いが、それをこなすだけの精神力が持つかか・・・・、いや、持つかではなく持たせるの間違いか。
そもそも、今はそんな事を言っている場合ではない。目の前の白衣のドクロは傍若無人に鉈で斬りかかって来るんだし!
目の前に迫る横薙ぎの鉈を、ドクロは伏せて避け、俺はバックステップで避ける。
その後、ドクロが四つん這いで獣のように後に跳躍して俺の横に来る。
俺の方は、かわしたつもりが、完全には回避できず、胸の下あたりの服がパックリと横に切られた。
白衣のドクロの方は、一旦仕切りなおしか、俺達に背を向け、樽の中の液体を飲んでまた樽にチューブから吐き出している。
「ドクロ、好きなだけあの酒乱をド突いてヤれ。私は先ず、活路を開く!」
そう言うと、ドクロも楽しそうに棍棒を構えながら、
「そいつぁーご機嫌だ!アタイ好みだよ!!」
そう言われて、銃を構える。
狙うは白衣のドクロの眼。人と違い骨なので的はデカイ。
しかし、問題なのはそこを撃って有効かと言う事。まぁ、やらない事には始まらないか!
相変わらず、白衣のドクロは液体を飲んで元気になったのか、鉈を技なく振るいながら迫ってくる。
試しにドクロが、鉈を横の滑る様に交わして回し蹴りを放ったが、大きな手甲に阻まれ、有効打にはならない。
さて、現状では俺達がと、言うよりドクロが不利なのは明白。俺の場合は、俺自身がダメージを追おうとどうとでもなる。
さて、それを前提として反撃と行こうか!
「ドクロ、考えて動けよ!」
そう言って右眼に照準を定め、
バヒューーーン
発射した弾は銃口を飛び出し、寸分たがわず白衣のドクロの右眼に吸い込まれるように飛んでいく。
その間も、俺はドア・ノッカーを素手で掴み、手のひらの焼ける感覚を感じながら弾を込める。
弾込めに4,5秒。予想より0,5秒早い、これはプラスだ。だが、俺の手の方もボロボロなのでトントンか。
痛みを誤魔化す為、一気に魔力を流し傷をふさぐ。しかし、魔力が少ないせいか、傷の再生には時間がかかる。
ドクロの方も、俺の撃った弾が有効化を見極めようと、骸骨の眼に着弾する瞬間を見ている。
しかし、
ガキン!
やたら鈍い音の後、俺の撃った弾はポロリと床に落ちた。
相手の眼の方は殆ど無傷・・・・?
「いてぇな!クソ餓鬼が!眼がチカチカしやがる!!」
そういって、弾丸の当たった右の眼を左手で押さえた。
それを見たドクロが、一気に走りより棍棒を縦に叩き付ける。
しかし、骸骨の方は残った右手を大きく振りかぶりドクロの一撃が当たった瞬間に鉈の柄でドクロの脇腹を殴りつける。
一応、ドクロも障壁ないし気での身体強化はしている。ならば、大丈夫だと思いたい。
ついでに言えば俺は、ドクロの疾走を見た瞬間に、その後を追い走り出していた。
あるチャンスは使う。勝てる見込みがあるなら、それに向かって進む。
ならば、今できる事はこの銃の最大活用である保身無きゼロ距離射撃!
幸い、骸骨の腕はドクロを払いのけて大きく開かれた腕と、片方の目を覆う手。
警戒するのは、目を覆っている手と、両足でいい。、
ドクロの後ろを走ったおかげで距離は詰めている。
蹴りを出すには近く、膝を出すには有効ではない距離。
身長差はあるが、ならば狙うのは顎の下から脳天にかけて。
一気に加速し体を体当たりするように相手にぶつけて、すぐさま腕を上に伸ばす。
銃身をゴリッっと顎の下に押し付けてゼロ距離で弾丸を撃ち出す!
バヒューーーン
しかし、それを行った後、顎を撃ち抜かれて大きく上向いた顔がガクンと下を向き、
刹那、俺の眼と骸骨のチカチカ光る眼が合う。
(効いてない!?)
思った瞬間、俺は左手で首を後から持ち上げられて、力任せにドクロと同じ方の壁に投げつけられた。
「ぐぁ・・・・。」
背中から叩き付けられたせいで肺から息が漏れる。
ついでに言えば、あの白衣の骸骨は中々に馬鹿力なんだろう、どうも首の感覚もおかしい。
あらかた骨が折れたか、砕けたかだろう。射撃のために魔力を総て使って、障壁も何も無かったから仕方ないか。
そう思い、首の辺りに魔力を集めて回復する。しかし、どうも首のすわりが悪い気がする。
ついでに言えば、瓦礫が体に乗って重い。
「めぎつねぇ、生きてっかぃ?」
声のする方を見ると、瓦礫を体から退けているドクロ。
コイツの方は、どうやら骨折等は無いらしい。
「不思議な事に生きてる。」
「ちっ、アンタもしぶといね。」
「お互い様だろ。さて、問題は今の動けない状態であの色黒伊達男が近寄ってくる事だが、何か案はあるか?」
そう言いながら未だに瓦礫が退ききらないドクロを見る。
しかし、ドクロの方も、案が無いのか怒鳴り返してくる。
「あるわけ無いだろ!あのハゲをぶん殴りたいけど、さすがに分がわりぃ。
ついでに言えば、頭はアンタだよ。アタイは弾丸で、アンタは射手OK?」
そういっている間にも、白衣の骸骨は近寄って来て、もう一歩と言う所できびすを返した。
何だと思って見おくると、樽の中身をガブガブ飲んでいる。
「あのハゲ、酒乱じゃなくて酒好きじゃねぇか!
チクショウ、今のでトドメさせたのに、情けをかけやがったあのバカは!!!」
そう言いながら、ドクロは無理やり瓦礫を退かしている。
確かに、ドクロの言うよに今のを見るだけなら酒好きに見える。
俺達を始末する事より、目の前の一杯を優先させたのだから。
ちっ、首の座りが悪いせいか、思考に靄がかかる。
しかし、答えのピースは揃っている筈だ。
「ドクロ言葉遊びだ!」
そう言うと、ドクロは怪訝な顔をして俺を見てくる。
しかし、そんな物はかまわない、やらなければ目の前に迫る脅威と無策で戦う羽目になる。
そう思いながら、睨み返す。
「なんだい女狐、恐怖で・・・・、はん!いいだろう、してやろうじゃないかい!」
その声を聞いて俺の方も、瓦礫を退けながら言葉を叫ぶ。
「大酒飲んだら!」
「二日酔い!」
ドクロも、俺に答えるように叫ぶ。
「暖かいベッドで!」
「寝て酔い覚まし!」
「酔えない酒は!」
「地獄のごうもぉおん!!」
そういって、ドクロは自身に乗っている最後の瓦礫を退ける。
俺の方も、体が回復してきたのか、頭に血が回りだした。
確かに、酔えない酒は拷問で、二日酔いならとっとと寝たい。
昔どこかの拷問に無理やり食べさ続ける言う物があった。
ならば、あの骸骨はそれと同じような拷問を受けているのだろう、何時終わるとも無く、
誰が止めるわけでもなく、酒が無くなり、綺麗さっぱりいい夢が見れるようになるまで。
しかし、酒は飲んでもチューブで樽に戻り、新たなる一杯に早代わり。
いい感じに永久機関だな。
「ドクロ、あれを永眠させる方法が見つかった。」
そう言うと、ドクロはニヤリと笑い、
「いいねぇ、最高だねぇ!なら、とっとと閻魔様にでも会って来てもらおうじゃねぇか!」
そう言いながら、立ち上がる。
俺の方も、立ち上がり、骸骨の横の樽を見る。
あれが壊せれば、このろくでもない罪人は寝る事が出来る。
しかし、あれを壊そうにも中々骨が折れそうだ。
そう思いながら、新たなる銃弾を込める。
俺の作った銃弾は貫通力重視の物だが、それでもこの口径から撃ち出せば大体の物は撃ち壊せる。
後願うなら、あの樽があの骸骨と同じ素材で作られてない事だろう。
「アレを引き付ける事は出来るか?」
そう言いながら銃口で骸骨を指す。
ドクロの方は一瞬考え、
「見栄は張らない、真正面で10秒、逃げながら打ち合って20秒。
悔しいけど、今の状況ならそれが限界かねぇ?」
そうなると、俺が相手をした方がいいな。
何せ、俺はチョットやそったじゃ死なない。
そうと決まれば、
「私がアレを引き付ける!キサマは樽をヤれ!」
そういって骸骨に向かって駆け出す。
「あ!女狐、アタイにも殴らせろ!」
そう言いながらドクロは俺を追ってくるが、途中から姿を消した。
多分、本棚の隙間を使って樽に近寄る気だろう。
となれば、俺は俺の仕事をするか。
ガバガバ樽の中身をのんでいる骸骨に向かって言葉を放つ。
「咎人、どうやら死神がお迎えにきたらしいぞ?」
そう言うと、骸骨はお椀を樽の中に投げ込み、
手の甲で口を拭いながら、
「そうかい、しかし来るのがすこぉしばかり遅くねぇか?
なんせ、俺は干乾びて風通しがこんなに良くなっちまった!!」
そう言いながら、今度は両手でナイフをもっって俺めがけて突っ込んでくる。
骸骨のはためく白衣の下は、骨と最低限の臓器を模しモノのしかなく、本当に風通しがよさそうだ。
そう思いながら、突っ込んでくる骸骨を樽から遠ざけるために、銃弾を頭めがけて放つ。
バヒューーーン
撃った弾の弾道は額に命中するコース。した所で有効打にはならないが、中らないよりはいい。
そう思いながら、発射して直ぐの銃に弾を込める。
触れた瞬間『ジューーー』という肉の焼ける音と臭いがするが、そんな物にかまっている暇は無い。
何せ、あの骸骨は止まらない。
そう思い、手早く弾込めをして、カチンと込めた瞬間に骸骨が右手で突きを出し、
さらに、そこから、左足で踏み込みながら左手で横真一文字に斬り裂き、
おまけに、その左足を軸足にして回し蹴りを放ってくる。
俺の方は、1つ目の突きを銃身でそらし、斬り裂きをバックステップで避け、
最後の蹴りを体の正面で受けるように反転して、銃を突き出し、回し蹴りにあわせて脛に打ち込むと同時に後ろに下がる。
「いってぇなぁ嬢ちゃんさっきからよぉ。」
そう言いながらも、骸骨はまったく持って無傷。
痛いと思うなら凹むぐらいはして欲しい。
今の状況でコイツは少なくとも戦車の装甲以上の硬さを持っている事になるんだし、
それぐらいのサービスはして欲しい。そう思いながら、焼けた銃身を素手でさわり弾を交換する。
ちらりとドクロを捜せば、もう樽の直ぐ側、今のままいれば気付かれないか。
「痛いと思うなら倒れたらどうだ?楽になるぞ?」
そう言うと、骸骨の方は左手で頭を掻きながら、
「そう言う訳にもいかねぇんだよ、俺はまだ終わっちゃいねぇから・・・・、な!!」
言葉を言い終わる前に左手に持っていたナイフを俺の頭めがけて投げつけてくる。
それを、姿勢を低くし左に滑る様にかわしたが、
「見えてるぜ嬢ちゃん。」
ちっ、読み違えた。
そう思った時はもう遅く、骸骨は自身の大きな体をフル活用して渾身の水面蹴りを左から放ってくる。
ナイフに目が行き過ぎた、この状況では避け切れない!
そう思い、銃を持っていない左手を盾に使い骸骨の蹴りをその腕だけで受け止める。
腕に蹴りが当たった瞬間、一気に手首から肘までに骨が軋みあがり、そして、砕けていく。
これで左手はダメになった。そう思いながら、腕で受けた反動を使い右に転がる。
「さてと、これでまた俺の知らない罪が増える。初めての罪がなんだったか、何で俺がここにいるのか。
さっぱりだがよぉ、まぁ、運が悪かったと思って諦めてくれや。」
仰向けになって止まった俺の頭上には、俺を見下す骸骨。
しかし、俺の目の端には勝利の影がちらつく。何でかって、それは、
「クソハゲ!とっとと寝ちまいな!」
その言葉を聴いて、骸骨が口を開きながら後を向く、
「あのクソアマ!」
そう言葉を発するが、時すでに遅くドクロが渾身の力で樽を殴りつける!
ゴォーーーーーン!!!!!!
派手な音はした。
しかし、樽が砕けるには至らず、それを見たドクロもあっけに取られている。
そんな中、顔に手を当てて笑うのは白衣の骸骨。
「ハ八、ガハハハハ・・・・・、なんでぇ、これで眠れると思ったら、まだ俺は許されねぇのか?
一体何をやらかいたってぇんだ俺は?何時になったら終わるんだ?なぁよお!!!」
それは八つ当たりだろうか?
それとも、自身が思い出せない事への苦悩だろうか?
俺には分からない。だが、今出来る事をしよう。
見れば、ドクロも放心状態。まったくらしくない。
「ドクローーーー!!!!これに合わせろーーーーー!!!!!」
そういって、構えるはドア・ノッカー。
最後に弾込めをしていたおかげで、後は狙って引き金を引くだけ。
俺の言葉に、一瞬ピクリとした後、ドクロは何時もの打撃姿勢をとる。
そして、
バヒューーーン
撃ち出された弾は回転しながら樽に向かって突き進む。
それを見た骸骨が、手を伸ばすがそんな速さでは銃弾は掴めない。
そして、
ゴォーーーーーン!!!!!!
と、音がした後、ドクロの全力の一撃が入る。
多分、この空間では何時もの力は出せないのだろう。
それでも、自身の信じる相棒の名を高らかに叫ぶ!
「エクスカリバーーーーーン!!!。」
その一撃により、
ピシ・・・・・・・・、ピシピシ・・・・・・、グァシャァァァァアンン!!!!
樽が砕け散って、中に入っていた液体が一滴残らずぶちまけられる。
そして、ピチャチピチャリという水滴の音がこだまするだけの空間で骸骨が口を開く。
「なんでぇ、本当におねむの時間かよ。
まぁ、これで俺ももう飲まなくてすまぁ・・・・・、ありがとよ。」
そういって、あくびしながら骸骨は何処かに向かう。
それを見送っていると、いつの間にかドクロが俺の横に来て立たせてくれた。
そして、ドクロと共にあの骸骨を追って歩き出す。
「なぁ、女狐、ありゃあ一体なんだったんだ?」
そう言いながら、俺を見てくる。
何かと聞かれれば推測しか立たない。
「多分だが、ただ寝たかっただけだろう。何百年何千年、或いは何億年。
ここでただ一人飲み干す事のできない酒を飲み続け、寝る事も酔う事もできずにただただ杯をあおる。
それは拷問以外の何ものでもなかろう?だから、アイツはただ眠りたかっただけだろう。」
そう言うと、ドクロは頬を膨らませながら、
「そんなんだったら勝手にしろっつぅの!アタイらにはいい迷惑だよ!まったくもう!」
そういっているうちに、骸骨は立派な棺の中に自身の体を横たえた。
そして、それと同時に何処からとも無く機械の駆動するような音が聞こえ出した。
もしかすれば、この骸骨はこの遺跡を起こす最後の部品で、そして今その最後の部品がはまったのかもしれない。
「さて、女狐お互いボロボロだ。一旦ここを出ようじゃないかい。」
「そうだな、一旦出て、その後本を詰めよう。」
そういって、骸骨の横たわる棺を後にする。
リヴァイヴァ・・・・、確かその意味は蘇生や復活ではなかっただろうか?
ならば、あの骸骨もあの液体を飲むことで自身の命を長引かせる復活の儀式を強いられていたのだろうか?
謎の多い遺跡だまったく。そう思い、外に出る扉を目指す