ラオプラナな第15話
夕闇にまぎれ、ヘカテスに入った後、俺とディルムッドは路地裏で野宿で一泊し行動しだした。
一番最初にやったのは、町の地形の把握。これは、逃走経路の確保という事もかねて、最優先で行い、
昼過ぎ頃には5分の1は回れた。ちなみに俺は、野宿した路地裏で竹箒を一つ失敬し、何食わぬ顔で今はキセルで薬を吸っている。
何でこんな事になったかと言うと、偽装というのが一番大きい。簡単な話、俺は杖がなくても魔法が使える。
これは、逃亡中実際に試さざるおえない状況で行ったから間違いない。しかし、普段はキセルを使っている。
それに、アリアドネーの時も杖はキセルだった。その情報がハンター達に漏れていないとは思えないので、
擬装用としてあえてこれを選んだ。あと、ディルムッドには学校で作った槍を二本とも渡し、それを担いでいる。
それにしても、遺跡発掘者の町というだけあって、辺りには荒くれ者といった感じの人々が多い。
ついでにいえば、町を回っている間に喧嘩が4件と食い逃げが3件ほどあった。まぁ、食い逃げに関しては、
3件とも店の店主だろう人が捕縛して引きずっていったので問題ないだろう。
喧嘩の方は、とりあえず、ダブルKOを見た以外はスルーした。
そんな中、ディルムッドから俺に念話が飛んでくる。
(エヴァ、町には入れたのはいいんだが、名前はどうする?)
そう言えば、その事についてコイツに話していなかった。キセルで薬を吸い、箒を担いで、念話を飛ばす。
どうでもいいが、ここに来るまでにライダーに追われる綾子の気持ちがわかった気がする。
理由としては、ディルムッドのヤツが、俺の耳を見ながらピッタリくっ付いて来る。
まぁ、ここで下手に騒ぎを起こしてもなんなので、今は見過ごしているがなんとも。
(名前については、私はエヴァンジェリン・アタナシアで通す。さすがに、逃亡者がそのままの名前を言うとも思うまい?
それに、ばれても今度は特徴が違いすぎるからごまかせる。キサマの方はチャチャゼロ・カラクリで通せ。)
(了解。エヴァの呼び方は好きにさせてもらうよ。)
そう言って、念話を切る。本当はアンバーとジェイドと名乗ってもよかったのだが、
洗脳探偵と黒幕が登場しそうなので、泣く泣く今の形に落ち着かせた。
「そういえば、どこに泊まる?また、野宿でもするか?」
こちらを見ながら鞄を持ったディルムッドが聞いてくる。
宿か・・・・、できれば酒場と兼用の宿がいい。そうすれば、情報収集がしやすい。
それに、そういう宿は、長く泊まるか早く出るかの二択になりやすい。理由としては、遠くからの発掘者が溜まるか、
町を通り抜けようとする旅人が、一杯引っ掛けて休んで旅立つと言う事が多い。それを考えると、隠れ蓑としても使える。
しかし、今見た限りではそれらしい物がない。となるとどうするか悩む所だ。
「キサマは見なかったか?酒場と宿が兼用になっている所を。」
そう聞くと、ディルムッドの方も首を横に振るい、
「見いてはいないが、さっき町の見取り図らしきものはあった。
まぁ、喧嘩をやっていた位置だから巻き込まれて壊れてないといいが。」
「そうか、なら案内しろ。」
そういって、ディルムッドを先頭に見取り図のあった位置まで移動する。
そこには、喧嘩に巻き込まれたのか、かろうじて原型を留めている見取り図があった。
その事でどうしようかと思っていると、顔にあざを作った二人組が来て、新しい見取り図と変えていった。
多分、これもこの町の罰かなんかなんだろう。喧嘩で壊したものは直しましょうとか。
まぁ、こちらとしては渡りに船だ。そう思いながら掲示板を見る。しかし、好転はしない。
現在地から、宿場街と酒場がある地点まではかなり距離があるようだ。代わりに、今俺たちがいる地点には、
商店と、発掘品、出土品の販売所。後は、個人的な露天商なんかいる。こうなれば、宿を取るより先に買い物か。
「先に買い物だ。宿場は後で箒で飛んでいくとしよう。」
「あぁ、それがよさそうだな。保存食も確か底を付きかけていた筈だ。
それに、追われるなら、買える時に買っておいた方がいい。」
そう言いながら歩き出す。この買出しでどうしても揃えて置きたい物がある。
それは、エヴァの別荘であるダイオラマ魔法球の素材。まぁ、魔法と付いてはいるが、中身は錬金術バリバリで、
術式やら素材やら道具やらがとにかく金がかかる。しかし、この別荘の完成時の実用性はかなり高い。
なので、これを早急に作りたいのだが、だがしかし、物事は甘くない。ムクロにもらった本を読んで、
現在の知識と技術を鑑見ると、どう考えても数年かかる。
なら、どっかからかっぱらうかとも考えたが、そうすると、
今度はその術式に手が出せず、壊れた場合や、ほかの機能を与える場合に苦労する上、
術式が違えば、きっちり機能しない可能性もある。総じてこれは自分の手で作り上げないといけない事になる。
なので、ここは1つ腰をすえて作成したい。それに、この町に着た本来の目的も、すぐさま終わると言う物でもない。
そんな事を考えながら、錬金術の素材や、保存食。それに、珍しい所で魔法銃があったので、何丁か買って、
動作確認を済ませたハンドガンタイプの魔法銃を1つを腰にぶら下げ、
後は細々とした物を買い、宿場街を目指すために、箒にまたがる。
「おい、どうした早く乗れ。」
「えぇ~と、後ろに乗っても?俺は飛べるから問題ないんじゃないのか?」
そんな事を言ってくる。まったく、こいつは何を言っているんだ。
「羽が見えているなら問題ないが、今のキサマは見えてないだろ。その状態で飛んだら不自然すぎる。」
「・・・・、わかった。失礼する。」
そういいながら、俺の腰に手を回してくる。
しかし、なんか緩い。普段は俺も箒を使わず、学校では浮遊術 を使っていたが、
実際この術も簡単ではなく、ほとんどの魔法使いは杖ないし箒を使う。ちなみになぜ俺が使えるかというと、
重力魔法の所存が大きい。飛ぶ時は夜想曲を展開し、自重を限りなくゼロにした上で、魔力放出を使いコントロールしていた。
まぁ、これは魔力操作の練習を積んだお陰と言う所だろう。重力の矢の地雷設置もこれの応用だったりする。
と、話がそれた。
「そのままじゃ落ちる。私も人を乗せて箒で飛ぶのは初めてに近いんだから、しっかり掴め。」
そういうと、腰に回した手が締まる。よし、これなら問題ないだろう。
そう思い、一気に空に舞い上がる。出だしはまずまずと言った所か。速度も、高度も安定している。
耳に当たる風も気持ちいいので、加速して速度を増す。そんな中、後ろから声がする。
「エヴァ、頼むから、尻尾と髪をどうにかしてくれ。毛並みが良すぎて、触りたくなる。」
そういいながら、今度はくしゃみをしている。
「我慢しろ、速度を上げたから、もうじき着く。」
そう、顔を向けながらディルムッドに言い聞かせ、程なくして宿場街の入り口に着く。
「よし、到着。」
「なかなかに酷い拷問もあったものだ。精神が削れるとはまさにこの事。」
「バカ言ってないでとっとと行くぞ。」
そんな事を言いながら、キセルに薬をセットして火をつけ吸いながら歩く。
辺りを見てみると、見栄えがよく豪華そうな所から、店自体は大きいが、リーズナブルそうな所。
後は、2階が宿で、1階が酒場の半壊しているが営業している所と様々だ。しかし、この壊れ方は魔法銃でも使ったか?
さっき商店街で見かけたし、不思議ではないな。そもそも、魔法銃は従者向きの武装で、魔法使いは普通に詠唱して魔法を使えばいい。
しかし、その従者となると、魔力供給とアーティファクトでの戦闘となる。しかし、魔力供給はあくまで執行時間があり、
戦闘中ずっと使えるとは限らない。それに、魔法使いの方も戦闘中なら魔法を使うので、送るだけの魔力を捻出できない事がある。
あと、アーティファクトも性能がピ-キーで、何が当たるか分からず。
遠距離補強兵装としても、魔法銃は用いられる。
ちなみに、魔法銃の製作は錬金術技術で行われ、その弾丸や何かも錬金術技術のため、
未来では作成方等が失伝してもう作られていないのだろう。
ネギはアンティークコレクターとして魔法銃を持っていたが、なんとも。
どちらにせよ、下手したら弾切れで使えない状態案じゃないだろうか?
まぁ、魔力常時流入式弾丸なんて言う弾要らずの弾も有りはするが。
そんな事を思いながら、宿場街を歩いたが、なかなかこれだと思う所がない。
「なぁ、どこがいいと思う?」
歩きながら横を歩くディルムッドに聞く。
究極的に言ってしまえば、雨風さえしのげて後はそれなりの広ささえあれば問題ない。
そう思っていると、ディルムッドはすぐさま口を開いた。
「あの、ボロボロの所にしよう。」
「ボロボロって、あの穴だらけの半壊した所か?」
そう、思わず聞き返す。別にかまいわしないのだが、何かしらの理由があるのか聞いておきたい。
「あそこである理由はあるのか?」
「あぁ、ある。ああいう風に壊れても営業しているって事はそれなりの固定客がいて、
なおかつ、いろいろな揉め事が持ち込まれるって事だ。それならば、情報にしろ隠れ蓑にしろ両方役立てれる。
それに、賞金稼ぎがいるなら、ああ言った所で一番情報を集めようとするだろう。他の所は、本当の宿っぽいからな。
人の入れ替わりが激しければ、それだけ情報の交錯が激しい。町の情報を集めるなら、ああいう所が一番だ。」
なるほど、確かに言われればそう思えなくもない。
ならば、こいつの言う事を信じてあそこに決めてもいいだろう。
それに、こいつはこいつで生前は恋人と逃避行劇を繰り広げたんだ、それなら、逃げる隠れるはお手の物だろう。
「よし、ならあそこにするか。店の名前は『ララス』か。」
そういい、箒を担ぎキセルを口に銜え魔法薬を吸いながらディルムッドをつれ中に入る。
中に入ったとたん、バーテンとガラの悪い男達の視線が突き刺さる。なるほど、これだけゴロツキがいれば情報には事欠かない。
少なくとも、こういった連中は群れるのが好きだ。だからこそ、そういった情報網が発達する。
より弱いやつを見つけ、食い物にし、骨までしゃぶっては次の獲物を探す。
ある意味ハイエナの様な嫌われ者で、同時に彼らは彼らのルールを守るから存在を許される。
そんな事を思いながら、カウンターまで行き尻尾に気をつけながら席に着き、バーテンに注文を下す。
「一番高くて美味い酒をボトルで後、一番高くて美味い料理。それを二人前。」
そういうと、バーテンが準備をしだす。
そして、俺の横に座ったディルムッドが声をかけてくる。
「良かったのかエヴァ、そんなに高いものを選んで?」
「かまわんよ。これはある意味牽制と駆け引きだ。」
そういいながら、煙を吐き出す。
ディルムッドの方は少々考え込んで辛口を開く。
「牽制と駆け引き?」
ディルムッドがそう言うと、バーテンが無言で酒のビンと、グラスを二つ置いて下がる。
そして、ディルムッドがグラスに酒を注ぎ、俺に渡した後、自身のグラスに注ぐ。
「先ずは乾杯と行こう。」
そういってグラスを掲げると、ディルムッドもあわせる様にグラスを掲げ、チンとグラスを合わせた後に飲み始める。
久々の酒は、のどを熱くし、体に染み渡る。ディルムッドも同じなのか、目を閉じて味わっている。
「こういう場所の鉄則は、1、弱みを見せない。2、情報がほしければ餌を出す。3、高いものを食って飲んで店に貢献する。
これがルールだ。そして、これのうちどれかを外せば、めでたく路地裏行きだろう。」
そういいながら、薬を吸い、酒を煽る。そんな中でも、頭の上の両耳は絶え間なく音を収集する。
「なるほどね、昔の俺達なら何も考えずに飲んで食って喧嘩だったな。
おっ、料理がきた。」
そう言って運ばれて来たのは肉厚なステーキと、酒のつまみであろうサラミと塩にレモンとライム。
それをバーテンが俺とディルムッドの前に置いて話しかけてくる。
「あんたらここは初めてか?」
そう聞いたが、俺は口の中に肉が入っていたので、ディルムッドが変わりに口を開く。
「あぁ、昨日来たばかりだ。そうだマスター、部屋に空きはあるか?」
そう聞かれたバーテンは、奥に行き何かごそごそしている。
大方宿泊帳簿を見ているのだろう。そんな事を思いながら食事をしていると、いくつかの声が耳に入った。
(やっちまうか?)
(美女と優男だろ?不幸だねぇ~。)
(娘は奴隷がいい。あれは高く売れる、男は発掘現場に売ればいい。)
はぁ、小物チックでやられ役オーラ全快の会話をありがとう。
そう思い、ディルムッドの方を見ると、向こうも首をすくめて返す。
会話の内容は聞いていたらしい。そして、念話で話しかけてくる。
(さてどうするエヴァ?)
(どうもせんよ、適当にあしらってやれ。あぁ、後、槍は抜いても殺すなよ。面倒になる。)
そんな事を念話で話していると、一人が声をかけてきた。姿からしてヘラス族だろう。褐色の肌が特徴的だ。
ほかにはそいつの仲間らしいのが4人。われ関せずが残り5人。
「よぉ色男、ここは初めてか?それなら、教えてやるよ。
ここで飲むにはカウンター料金て言うのを俺達に払わなきゃいけないんだぜ。」
そんな事を言いながら、ニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。
なんというか、小物だ。だからだろう、ひそかに俺の顔には笑いが浮かんでいる。
少なくとも、こいつらに負けるほどウチのツレはヤワではない。
そう思っていると、ディルムッドの方もアチラの流儀で答えた。
「そうか、蹴りと槍どっちがいい?」
そう言って、相手を挑発するように唇を吊り上げ、
歯を見せて笑いながら立ち上がる。やれやれ、こいつもなかなかに楽しそうだ。
ならば、俺は俺で、マッタリやるとしよう。そう思い、自身の腰に触れる。
動作確認は済ませた。ジャムる気配は無い。後は、自衛隊で培った感が感としてつかえるかか。
まぁ、銃を撃つのは、自転車の乗り方と一緒で一度やり方を覚えると、なかなか忘れない。
ならば、問題ないだろう。それに、ハンドガンなら反動を心配しなくていいし、今の身体能力なら反動自体感じないだろう。
銃を撃つ時、命中率を下げる要因はいろいろあるが、一番は反動だと思う。銃自身に癖があるが、それはもう直しようが無い。
ならば、後はその癖を見抜き、いかに反動を流すか、その一点だろう。そんな事を考えていると、後ろからいきり立った声がする。
どうやら、そろそろパーティーの幕開けらしい。
「バーテン、負けた方から修理代は取ってくれ。」
そう吸った煙を吐き、酒を飲みながら言うと、
バーテンの方も頷き答える。
「当然だな。それと、私はキール。お美しいお嬢さんは?」
「エヴァンジェリン・アタナシア。最近有名で困る。」
そういって、シニカルな笑みを浮かべると、キールも同じ様に返す。
「真祖ですか、最近現れたとい言う。同名では、そうなるのも吝かではないですよ。」
「あぁ、そうだな。」
そういって、ニヤリと笑う。キールが、俺を信じる信じないは関係が無い。
ただ、俺と真祖という等号が消えた。それさえあればいい、そのために、今回の騒ぎを大きくしているようなもんだ。
これで、俺とディルムッドがここのゴロツキを倒せば、後は勝手に噂が広がる。
そう、ここのゴロツキが獣人の娘と、優男にボコられたと言う。
そう思っていると、後ろで開幕したらしい。
ーsideディルムッドー
「上等!色男、吠え面かくなよ!」
そういいながら、男が左の拳で殴りかかってくる。しかし、たかがゴロツキ、
殴り方も大振りで、まるでカウンターを打ってくれと言わんばかりだ。
なので、男の拳に合わせて斜め前に出て、そのまま鳩尾に膝をくれてやる。
そうすると、男は面白いように吹っ飛んだ。それを見た、男の仲間であろう4人がテーブルから立ち上がる。
そして、最初に吹っ飛んだ男が、腹を押さえながら立ち上がり、
「てめぇ!ただで済むと思うなよ!行くぞヤロウども!」
といいながら、今度は合計5人で攻めてくる。しかし、こいつら程度は脅威は感じない。
それだったら断然、旅の間に襲われたハンター達の方が脅威だ。
「いいからさっさと来い。ウチの姫が怖くて早々時間が取れないんだ。」
そういいながら、自身に供給される魔力を抑え気を練る。しかし、それでもやはり、
供給無しのチャチャゼロボディとは違い、上手くは行かない。そんな事を思いながら、気を練る。
男達は俺一人めがけ三人で迫り、あとの一人は遅れながら来る。俺は最初の一人を足払いで倒し、次のヤツを、
その足払いの反動を利用した回し蹴りで同を打ち抜き、最後の一人をようやく練りあがった気を乗せた拳で殴り飛ばす。
そして、その吹っ飛んだヤツが、遅れた一人にぶち当たり、二人で抱き合うように転がって行く。
「どうした?もうおねんねか?」
「チクショウ!まだだ!」
そういいながら迫ってくる。今度は一人、魔法の矢をエヴァと同じように体の周りに浮かせているが、量が少なく、
俺の方は気を再度練り直しているので、問題はないだろう。そんな中、後ろから音がした。
見ると、男が一人エヴァの横で額から煙をあげて倒れたいる。我が主ながらなんとも。
後、その横のヤツは誰だろう?そう思いながら、迫ってくるゴロツキの相手をする。
ーside俺ー
後ろで男供が吹っ飛んで辺りが壊れているが、修理代は負けた方持ちなら問題ない。
そう思いながら、料理を平らげ、酒を飲む。
「へへへ、嬢ちゃんおとなしくしな。そうすれば怪我・・・・、待てよ嬢ちゃん。」
近づいていた男の事は知っていた。なので、特に問題なく対応できる。
男が俺の肩を叩いて何か言っている。その間に腰から魔法銃を抜き男の方を振り向き、額に魔法銃をゴリッと押し付ける。
魔法銃の威力は知らないが、この距離なら問題ないだろう。こんなゴロツキに俺自身の魔力を使うのももったいない。
「何秒待とうか?3秒?2秒?1秒?」
何食わぬ顔で男に聞くと、男の方は手を上げたまま今度は怒鳴ってきた。
「ふざけんなよ嬢ちゃん!てめぇの手ぇ震えてるぜ!」
いや、さすがにここで怒鳴るのはないでしょゴロツキさん。ちらりとキールの方を見ると、
むしろ撃ってくれと目で訴えかけてくる。ならばご要望にこたえよう。
「ならば、その震える手で風穴を開けるとしよう。」
そういって引き金を引く。瞬間パンッ!という発砲音が鳴り、男が額から煙を上げ崩れ落ちる。
まぁ、崩れ落ちた所で、死ぬような威力はないようだ。現に額から煙は上がっているが血も出ていない。
大方脳震盪と言った所か。そう思い、カウンターを向くと、いつの間にか俺の横に女性がいる。
ついでに言えば、ディルムッドのステーキにフォークを突き立てている。
一応そいつの方に銃口を向けながら問う。
「キサマもあのゴロツキの仲間か?」
そう聞くと、その女はステーキを一欠けら食べ。答えた。
「アタイがあんな連中とつるむかってぇの。後、キール。負け組みに付けでぴぴるぴるぴー1杯。」
そういって勝手に注文している。どうも、この騒ぎに乗じて現れた漁夫の利を狙うやつらか。
まぁ、俺の財布が痛まないなら、どうなろうといいが。
「キール、ついでにツレと私の分のステーキ追加、それとボトルで酒だ。後、そこの女にも食うならくれてやれ。
当然、支払いは負けたやつらで頼む。コッテリと遠慮なく搾り取ってくれ。」
そう言うと、キールは苦笑しながら厨房に入って行った。
そして、俺の横の女が俺の方を見て楽しそうに歯を見せながら笑う。
う~ん、種族は何なんだろう?横に立てかけられている巨大な棍棒・・・、いや、見た目が釘バットっぽいな。
額に二本の角があるし、鬼なんだろうか?そんなことを考えていると、向こうから話しかけて来た。
「あんた、見た目の割りにはやるねぇ。それに容赦がねぇ。気に入ったよ。」
そういいながら笑う。
「伊達や酔狂でここには居ないと言う事だ。」
そういいながら魔法薬を吸う。
そうしていると、後ろからディルムッドの声がする。
「終わったぞって、俺の食事が・・・・。」
手をパンパンとはたきながらディルムッド帰ってくる。
その奥には、山積みになったさっきのゴロツキたち。一応皆息はしているから問題ないだろう。
「料理と酒は追加した。そこの女は誰かは知らん。」
それを聞きながら、ディルムッドは俺の席の横に座る。
「名前も知らんやつが俺の飯を食ったのか。」
そういって、恨めしそうに女の方を見るが、女の方はそ知らぬ顔。
俺としても、料理が来るまでの辛抱だからとなだめて、その後ほどなくしてキールが厨房から出てきて
料理と酒を置いていく。ちなみに、結局その女の分も料理は運ばれてきた。まぁ、財布は痛まんから気にはしないが。
そう思うと、キールはカウンターから出てゴロツキ御一行の懐から財布を出して料金を徴収している。
それを尻目に、俺達は二度目のステーキに舌鼓を打ちながら話す。
「ところで女、キサマは誰だ?」
「ん?アタイかい?アタイの名前はドクロ。あんたらは何処の誰だい?」
そう言いながら、ステーキを口いっぱいに頬張っているドクロ。
はて、ドクロ、ドクロねぇ。どっかで聞いた事があるはずなんだが、
そう思っていると、ドクロが口を開く。
「いや~、しかし兄さん強いねぇ。しかもいい男だし。どうだいアタイに乗り換えないか?
今だったらアタイの全てがついて来るよ。」
そんな事を言いながらディルムッドを熱っぽく見てくる。
「いや結構だ、すでに先約と契約があるんでね。」
「だ、そうだ諦めろ。ついでに言うなら、男漁りならここは止めたほうがいい、
さっきのゴロツキしか居ないんじゃないか?」
そう言うと、ドクロのほうは落ち込みもせずあっけらかんと、
「そりゃそうだ、こんな地の果ての方がマシな酒場にいい男がいるわけがねぇよ。」
といって笑い、その笑っているドクロの頭に徴収の終わったキールの鉄拳制裁が入る。
ちなみに、キールが殴った時の音がやけに水っぽかったが、大丈夫だろうか?
ドクロの方は頭から煙を出してカウンターに突っ伏している。キールは、そのまま厨房の奥に行ってしまった。
「エヴァ、ドクロは生きてると思うか?」
「ギリギリじゃないか、チャチャゼロ。」
そういっているとドクロが、がばっと起き上がって、
俺達の方を見ながら聞いてくる。
「あんあたら、エヴァとチャチャゼロって言うのかい?
それって、アリアドネーで騒ぎ起こした吸血鬼の真祖じゃないか、あんたらもしかするのかい?」
そう聞いて、釘バットを取ろうと手を伸ばしているが、それを止める。
むしろ、ここから情報誘導を行うとしよう。
「違うよ、アリアドネーの真祖は子供と、連れは人形だ。いくらなんでも、私達は違う。
むしろ、間違われて迷惑しているよ。改めて名乗ろう、エヴァンジェリン・アタナシアだ。」
「俺はチャチャゼロ・カラクリ、よろしく。」
そういって、手を差し出すと、ドクロの方は何だというばかりに握手してきた。
よし、これでまたほかの情報が流れるな。と、言ってもこの手もそう何度も通じない。
ここがばれた場合は、後一回通じればいい方だろう。そんなことを考えていると、ドクロが口を開く。
「よろしくよ、そういえば、こんな所に何しに来たんだいあんたら?」
そういって不思議そうに見てくる。
そもそも、俺がこの町に着たかったのは遺跡が目当てだ。
学校で見た吸血鬼の資料は、資料として役に立たずなぜ、吸血鬼が恐れられているのか。
なぜ、ほかの吸血鬼という存在の資料がないのかという疑問がずっと渦巻いていたからだ。
そもそも、この世界の真祖は、吸血鬼は人からなる。そう、吸血鬼の元をたどっていけば人になるのだ。
なのに、なぜこれほどまでに吸血鬼は嫌がられるのだろう?しかも、新世界旧世界あわせて。
最初に考えたのは、グール化と言う所だったが、この世界には吸血鬼の抑制剤や、魔力レジストリで吸血鬼にならずにすむ。
だから、この可能性は潰した。
次に考えたのが、不老不死という事。これは、現実世界ではほとんど眉唾と思われているであろうから、あまり関係ない。
ただ、エヴァが真祖になった時代背景なら、魔女裁判のせいで、受け入れられないと思ったのかもしれない。
だがしかし、魔法世界には魔女裁判はないし、真祖になるには魔法が要るのだから、
新世界で受け入れられないという事実がおかしい。
そして、最後に考えたのが突拍子もない話だが、マギステル・マギを広めた『魔法使いと戦士による世界の救済』
ここまで遡るのではないだろうかと思う。そもそも、この二人が何と戦ったのか、その辺りは触れられていない。
だが、戦った相手を考えるなら、悪魔たちなのだろうと思う。しかし、その悪魔達からもあまり吸血鬼は歓迎される気配はないし、
そもそも、神クラスの最強生物と言う括りになる真祖を悪魔が歓迎するとも思えない。
それならば、逆に考えて、真祖とは人側の悪魔に対する1つの最終兵器なのではないだろうか?
そう思うと、いくつかの辻褄が合う。まず、この膨大な魔力量は、悪魔殲滅用呪文を使う事を前提とした魔力である事。
悪魔を倒すのはこの術式以外は通じず、後は、瓶による封印となる。しかし、その瓶がいくらでもあるとは考えられないし、
戦闘中にそれをどれくらいの確立で発動できるかが問題になる。現に、スタンは自身の石化と引き換えにヘルマンたちを封じる事となった。
次に、回復能力と身体能力は、兵器として戦闘続行のスキルとしてあるもの。これは、悪魔が悪魔殲滅用呪文以外では、どこかに帰り、
そして、また何度でも現れる事に対する措置ではないだろうか。後は、杖を使わずとも魔法が使える事。
これは、単純に両手を使えると言う事での戦闘幅の向上、それに、杖があると邪魔になると言う事も考えられる。
後は、吸血能力と不死性だが、簡単な話し、不死性はエヴァの別荘の使用を前提とした能力なら辻褄が合う。
つまり、短時間で強力な魔法を使える兵士を作る事ができると言う事を現実化させ、吸血は半吸血鬼と言う状況をあえて起こして、
魔力供給のいらない高い身体能力の兵士を作ると言う事ではないだろうか。
ちなみに、半吸血鬼の対象は高畑のように呪文詠唱ができない体質の人間を使う事で解決する。
と、そこまで考えて、なら、何故、今真祖が居ないのかと言う疑問だが、これは多分人と真祖の殺し合いがあったのだろう。
方や悠久の時を生き、人ではたどり着けぬような境地に居る真祖と、それを恐れる人間。構図としてはこんな感じではないだろうか。
しかし、そこまで考えて、俺も幾らなんでもこれは荒唐無稽すぎると思い思考を中断。
しかし、自身の事という事で、これへの興味は尽きず、現在に至るといった所か。
と、いかん思考に走りすぎた。そう思っていると、どうやらディルムッドがフォローを入れたらしく、
ドクロとの話はつつがなく終了。後の事は、後で聞くとしよう。
そう思っていると、キールから角部屋が空いているとのお達しがあったので、その部屋に宿を取り、
ディルムッドと、今後について語る。