絶賛逃亡中?な第14話
アリアドネーを旅立って早数ヶ月。しかし、いまだにヘカテスには着いていない。
町を出た後、流石にヘカテスまでの道を飛んで行くのは無理があると判断して、
徒歩と飛行魔法とを使い分けながら進んでいるのだが、なかなか距離が稼げない。
ついでに言えば、ディルムッドは町を出てすぐにチャチャゼロボディに戻して、人の姿を隠蔽した。
理由としては、色々あるが、一番の理由は、隠密行動のためだ。お互いがお互いを隠さないといけない関係上、
こういった保険は必要になる。それに、いまだにヘカテスに着かない理由が、賞金稼ぎ、真祖化の秘密を探ろうする奴等、
後は、正義の名の下にな連中。そいつ等が俺を襲撃するもんだから、なかなか前に進めないでいる。
まぁ、幸い、魔力を隠す必要性がなくなったので、今の魔力を前提とした攻撃や、魔法が使えるのはありがたい。
闇の魔法は、依然取っ掛かりから進めてはいないが、それでも、ゼロよりはましといった所か。
まぁ、そんな中でも持ってきた道具で、ディルムッドの壊れた足を直したり、
色々と薬を作ったりしているわけなんだがなんとも。
そんな旅を続けて、今はようやく、ヘカテスまで後少しと言う所。
「ふ~、なかなかに刺激的な旅だったな。ついでに言えば、実践訓練もつめる。」
「あれで刺激的といえるエヴァは、なかなかに肝が据わってるよ。」
今は、休憩中。キセルで薬を吸いながら、そんな事を話す。
最初の頃の襲撃は楽でよかった。相手も俺の事をまだ舐めていたのだろう。そのおかげで、楽に追い返した。
しかし、かいが重なるごとに相手も一筋縄ではいかなくなっていく。その過程で、何人か殺したが、俺の方も、
戦闘のたびに無傷とは言わず、どちらかというよく体を吹っ飛ばされるし、血を流すなどよくある事。
互いを襲うのだから互い様だ。相手も俺を殺す気で来ているのだから、そいつ等が自身が殺される事を覚悟していない訳が無い。
ただ、正義を語る奴等だけは駄目だ。あいつ等は、自身が正義である事を疑わず、そして、その正義が負ける事を考えない。
だからこそ、俺に追い詰められた時に、自身たちの脆さを露呈し、同時に俺に呪詛を吐く。簡単な話し、こいつ等には明確な欲が無い。
賞金稼ぎは金を。秘密を探るものは知識欲を。しかし、正義を歌うこいつ等には求めるべき物が無い。
だからこそ、自身の拠り所が無く、それゆえに他者である悪に依存する。言ってしまえば、
悪が負けるという前提の出来レースのようなものだ。だからこそ、自身が負ければ呪詛を吐く。
見ていて気分のいいものではないが、少なくとも、こいつ等の命を奪うのは俺なのだから、見取るぐらいはしている。
まぁ、それでも殺した人の数はあまり多くなく、どちらかと言うと、引き際を踏まえた奴等が多いと思う。
それに、俺は俺で引く奴等を追って殺す気も無い。だからこそ、襲撃者の方の生還率は割と高い。
ついでに言えば、女性は殺す気が無いし、子供といっても曖昧だが、少なくとも私より若いような奴は殺す気が無い。
「そういえば、エヴァ、どうやって町に入る?このまま行けば、俺たちは間違いなく襲われるが。」
そういって、ディルムッドが話しかけて来る。
今日は、朝から襲撃も無く、時間は昼時という事で、隠れて軽い昼食をとり、コーヒーと魔法薬で一服と言う所。
服に関しては、ディルムッドはメイド服で、俺の方コウモリを使った服とマントを使っている。
「その事には考えがあるが、正直、何処まで通用するか分からん小手先の技だ。」
簡単な話し、今の現状で俺が吸血鬼だと分かるのは魔力の所存だと思う。
これに関しては、ディルムッドに送ればどうにかなると思うがなんとも。
封印用の指輪はすでに、あの戦闘でな無くなり、仮にあったとしても今度は自身の手で砕いていただろう。
次に、自身の体。真祖もしくは吸血鬼の伝説は学校で調べたおかげで、特徴や弱点は分かった。
だが、ただ、それが分かっただけで後は分からず、総じて書いているのが、悪いもの。という、どこかしっくりこない言葉だけだった。
まぁ、今はそれでもいい。重要なのはその項目で、吸血鬼は成長しないと言う所だ。
つまり、外見を幻術なり、年齢詐称薬なりでごまかせばいい。
幸いなのは、現状で俺を襲ってくる奴等が、俺の事を見つける一番の特徴として莫大な魔力を探す事。
ほかは、子供で人形をつれている事などを踏まえて探している。今挙げた例を考え今からやる事をすれば、
少なくとも、外見は変わるし、魔力もディルムッドを人に戻せばもって行かれる。
一応、これなら大丈夫だと思うが、さらに念を入れて一つ作りたい。
それは、
「チャチャゼロ、頼んでおいた物はあるか?」
「苦労したが、まぁどうにかといった所か。
しかし、血が欲しいなら、吸えば良いじゃないか直接。」
そう言って、俺に献血キッドと、その他もろもろをを渡してくる。
「違う、これは飲むためじゃなく、作るために必要なものだ。」
「作るって、何を?」
不思議そうに俺を見つめるディルムッドを尻目に、俺の方は鞄から色々と取り出すものがある。
フラスコにビーカーに、後はその他の薬品と、書物に空き瓶。
「作るのは獣人化の薬だ。年齢詐称薬はまだ前に作った分があるが、
一応、念には念を入れてだな。」
そう言って、調合に取り掛かる。
ディルムッドの方は、手持ち無沙汰からか、槍を振るっている。
「そういえば、どれくらい気はモノに出来た?」
調合を進めながら、ディルムッドに聞いてやると、槍を振るいながら返してくる。
「一応は、形になってると思う。飛ばす事はまだ駄目だが、それ以外ならどうにか。
一番の問題だった気を練る速度も、だいぶ上がった。まぁ、それでも多少は時間がかかるが、最初とは雲泥の差。
それに、体に纏わせるのも今はだいぶいい。最初の頃のシックリこないのがだいぶ薄れたよ。」
そういいながら、槍に気を纏わせている。
さて、どうするか。咸卦法の事を教えた場合練習し出すのは構わないんだが、今の状態で教えていいものか。
それに、原理としては知っているが、それを習得できるかはまったくの別問題。
俺が精神世界で闇の魔法う練習し始めた時は、自身の体が内側から爆発してグロ意事になった。
咸卦法は、体内に取り込む事はないが、代わりに気と魔力を融合させる。その事を考えると、爆発してもおかしくはないし、
下手に体に纏わせると、反発力によりディルムッドの体が、チャチャゼロ人形が持たない事も考えられる。
果てさてどうしたものか。言葉をお教えれば意味を知りたくなる。意味を知ればそれを欲する。
そして、欲した先がどうなるか。自滅か或いは成功か。
神のみぞ知るなんて言葉はごめんだ。少なくとも、コイツは俺のモノなのだから。
だからこそ、無茶をしないよう釘をさして教えるとするか。
「チャチャゼロ、キサマ『咸卦法』という言葉を知っているか?」
薬を吸い、調合を進めながらディルムッドに聞く。
そうすると、ディルムッドは振るっていた槍を止め俺の方を向き答える。
「『咸卦法』か、一応知ってる。
前に図書館で写本している時にそれに関する書籍があって、それを流し読みした。」
「それを使いたいと思うか?」
そう聞くと、ディルムッドは俺の目を見ながら、
とても複雑な表情を作る。
「使いたいが、今の俺には難しい。いまだに気をまともに使えない俺では、この技法を習得するには、
まだまだ練習が必要だ。だから、まだ咸卦法を練習しようとは思わない。」
フム、自身の意思での選択か。
なら、それでかまいはしない。代わりに下地を作るとしよう。
「なら、それでかまわん。
ただ、暇を見つけたならこれからは自身を無にする瞑想をするんだな。」
そういうと、ディルムッドの方も考え込み
そして、一つ頷き口を開く。
「分かった、それが下地を作る方法だろ?」
「ほぅ、気付いたな。」
そういうと、首をすくめて見せる。
「今の話の流れでいけばな。いずれは手にする技法だ。
今の、気に戸惑っている俺が、素早くそれをモノにするなら、フライングするしかないだろ?」
そう言って、ニヤリと笑いかけて来る。
なかなかにいい向上心だ。それがあるなら、コイツはいずれ咸卦法をモノにするだろう。
後は、これから人になるなら、それだけ気を練るのが難しくなる。その状態で早く練る事が出来るようにの訓練か。
ディルムッドは、ニヤリと笑った後、また槍を振るいだした。そこでふと思い出したのが、襲撃者から奪った物の整理がまだだった事。
「おい、暇なら奪った物の整理を頼む。いくら、色々入るからといって、
いざという時に見つからないじゃ話にならん。」
そういうと、槍を振るうのを止め、鞄の方に行きゴソゴソし出した。
「なぁ、この中で要らない物ってあるのか?」
「いや、とりあえずかっぱらったから何かは見ていない。
名前を言ってくれ。分かるものでいい。」
そう言って、ディルムッドが最初に取り出したのは、
「え~っと、性別詐称薬。(口調も変わるヨ)EX。」
読み上げられた名前に、まず俺がこけた。
ディルムッドの方を見ると、物珍しそうに見ている。
「まぁ、なんかの機会に使うだろう。入れといてくれ。」
そして、次に取り出したのが、
「あぁ、これは武器だな、ムチ。」
「まて、今までの襲撃者にベルモンド一族なんていたか!?」
その突っ込みに、ディルムッドはキョトンとしている。
待て俺、COOLになれ。しかし、何だろうこの歴戦をくぐりましたと言うようなムチは。
いかん、何かヤバイ気がする。
「他は?」
あまり精神衛生上聞きたくないが、聞かないと進まない。
そんな俺を尻目に、ディルムッドが鞄をゴソゴソして次々に取り出していく。
「次わっと、これか。」
そう言って取り出したのが、木の棒に四角く黒い鉄の塊がついたスレッジハンマー。
何かいやな予感がすると思っていると、ディルムッドがハンマーを振り下ろす。
そして、出たのが木の杭。これって、もしかすると?
「エヴァ、偉く実践的な武器だな。これなら、叩けば致命傷になる。
それに、これは山査子の杭か。」
そういいながら、ハンマーを振り回している。
しかし、俺は心穏やかでなわ無い。だって、これって
(モーラハンマー。)
そう思うと、なんだか冷や汗が出てきた。
この世界にはヴェドゴニアがいるのか?そうなのか?
いや、早計だ。俺は撃退した中で、そんな奴見た事無い。
そして、次に見たのが、細長い何か。
「刀、なんか刃の部分に溝があるな?」
(あれ、小夜?翼手?)
いや、化け物はいるけど、あんなグロイのは見た事無い。
と、言うかいくらなんでも、これだけのハンターに襲われた記憶は無い。
多分、きっとこれは何かの間違いだろう。うん、そうだきっとそうだ、そうに違いない。
ちなみに、俺はorz寸前。だが、薬を作っている手前それも出来ん。
そんな事を考える中、ディルムッドが最後の品を取り出した。
「これで最後か、お歳暮。って、これエヴァの字じゃないか。」
そう言って、ディルムッドが俺の方を見てくる。
はて、お歳暮なんて誰に贈ろうと思ったのか・・・・・・?
そう思って、考えていると、あの人の事を思い出した。
「あぁ、しまったな渡しそびれた。」
「誰に渡す予定だったんだ?」
そういいながら、お歳暮に手を伸ばすと、ディルムッドが俺に渡してくれる。
年代的には、会える可能性があったんだが、いまさら会いに行くと、アラブ人あたりに酷い事をされそうなんで、もう行かなくて良いだろう。
「ヴラド・ツェペシュ、またの名をワラキア公。一応、私たちの名前を世に知らしめてくれる人だ。」
そういうと、ディルムッドは腕組みして考えながら、
「吸血鬼なのか?」
と、聞いてきた。
まぁ、今の話ならそう思われても仕方ないか。
「いや、一応人間の英雄だ。ルーマニアで戦い、そして散った。今だと、ちょうど散るか散らないかの瀬戸際だろう。
まぁ、別名は串刺し公といって、オスマン帝国の使者を串刺しにした。」
そう、言いながらお歳暮の中身を散りだす。
ちなみに、中身は血です。まぁ、わたす相手がいないからいいかと思い、チューチュー吸い出す。
「いくらなんでも、お歳暮に血液は無いだろう。」
「なら、何ならいいと思う?」
そういうと、ディルムッドがやや考え込んだ後、ぽんと手を打ってまるで名案でも思いついたような顔になり、
「十字架なんてどうだろう?敵か味方か分からないんだったら、先制攻撃という事で。」
ディルムッドそれを言った瞬間、俺は思わず血を噴出しそうになった。
いや、なんと言うか・・・・、色々と染まったなコイツも。
そう思いながらディルムッドを見ると、ウンウンと頷いている。
そんなこんなで、精神的に疲れながらも薬は完成。
ディルムッドを周囲の偵察に出させて、安全を確認した後、人払いの魔法を使い、今の場所を隠す。
「さてと、薬も完成したし、後はこれを飲んでキサマを人にして年齢詐称すれば、大丈夫か。」
「これで漸くという所か。」
そう言ったディルムッドに魔力を流し、人の姿に変える。
ディルムッドの方も、数ヶ月ぶりという事で、首の骨をコキコキ鳴らしている。
さてと、俺の方もとっとと飲むとするか・・・・、その前に着替えなならんな。
少なくとも、今の服はコウモリで作っている。その事が下手にばれると、一発アウトの可能性がある。
「チャチャゼロ、服を取ってくれ。取るのは、ローレグの下着とブラ、後は丈の長い服を頼む。」
そう言いながら、俺はコウモリを自身に仕舞っているのだが、一向に服が来ない。
何かと思ってディルムッドの方を見ると、ローレグの下着を持って固まっていた。
「キサマ一体何をやっている?」
そう聞くと、一瞬顔を赤らめて、俺に下着と、服を渡してきた。
まぁ、ローレグ、もしくはストライクパンツとでも言えばいいんだろうか?
これに機能性を求めようとする方が間違っているが、ノーパンは避けたい。
それに、獣人化すれば尻尾が生える。そのことを考えれば、このチョイスしかない。
そう思い、パンツを履き、年齢詐称薬と獣人化薬をあおる。
そして、体は大体前と同じ19歳ぐらい。生えた耳と尻尾は、
「なんだろうこの生物は・・・・・。」
そう思いながら、自身に生えた耳を触ってみる。
自分で言うのもなんだが、フニフニしていて気持ちいい。
と、そうではない。そう思い自身の尻尾を見る。そこには、白い毛に覆われたふっくらとしたやや大きめの尻尾がある。
これは、多分狐だろう。そうなると巫女服が欲しかったな、お稲荷さま的な意味で。
そう考えながら、服を着込む。
ーsideディルムッドー
何だろう、目の前にやたら愛らしい生物がいる・・・・。
いや、何を隠そう我が主エヴァンジェリンなのだが、なんと言うか、俺の主は無防備だ。
まぁ、それは今に始まった事ではない。しいて言うなら一緒に暮らしだしてずっとと言った所か。
戦闘や、勉強、知識に戦術。その辺りのイロハは申し分ないし、俺もその辺りは助けられる事が多い。
しかし、私生活となると結構な割合で無防備だ。俺に風呂の中に下着を持ってこさせたり、
普通にバスタオルで体を拭きながら、出てきたりする事はざらで、部屋で下着姿でうろついたりもするし、
洗濯の時は、俺のも自分のもまとめて洗う始末。別にそれが悪い訳でもないし、洗濯に関しては効率的だろう。
それに、彼女の外見は10歳だ。その事を考えれば、あまり気にはしないのだが、今は成長した姿でいる。
ついでに言えば、頭には2つの耳を生やし、それがピコピコ動いているし、後ろ姿なので、
触り心地のよさそうな尻尾がフリフリ動いているのも見える。
「はっ!」
危なかった、本当に危なかった。一瞬気を抜いた瞬間、彼女の2つの耳を後ろから触りそうになっていた。
慌てて気がついて、自身の伸ばした手をもう一方の手で掴む始末。いかん、俺は大丈夫なのだろうか?
いや、大丈夫だ。むしろ、これを触らない方がおかしいんだ。きっとそうに違いない。うん、きっと。
目の前では白い耳がピコピコ、白い尻尾がフリフリ・・・・・。
ーside俺ー
とりあえず、自身の胸が大きくなった事に多少挫けながら、ブラをつけた後、他の服を着込む。
俺はスレンダーな方が好きです。超個人的だがな・・・・、まぁ、今はよしとしよう。
着た服は黒のハイネックに、同じく黒のズボン。首には鞄から取り出した逆十字のシルバーネックレス。
たまには、こう言うのを着けるのもいいかも知れない。ちなみに、髪は黒い大きなリボンで纏めている。
そこまでして、後ろを振り向くと、ディルムッドが変な事になっている。
何と言うか、自身の手で自身のもう一方の手首を掴み、しかしその掴まれた方の手は更に前に出ようとしている。
うん、誰か状況説明頼む。そう思っていると、ディルムッドと目が合い、姿勢を正してやや血走った目で口を開いた。
「エヴァ、その・・・・、触らせてくれないか?」
そういって、ヤツの視線を追うと、俺の頭の上の2つの耳に行っている。
別に触るのはいいんだが、何と言うかその前にコイツを野放しにしておいていいのだろか?
「まぁ、触るのはいいが、優しく触れ。人間と一緒でデリケートだからな。」
そういって、ディルムッドの目の前に頭を差し出す。
ちなみに、成長しても俺とコイツとの身長差は大体15~20cmなので、顔を見上げる形になる。
そんな事を考えていると、ディルムッドが手を伸ばし、やけに慎重に耳を触る。
慎重に触れといったが、何もそこまでというぐらいに。
フニフニ・・・・・フニフニ・・・・・フニフニ・・・・・・・・。
「えぇい!いつまで触っている!」
「はっ!」
なんというか、こいつに変な属性でも付いたか?
そんな事を考えながら、キセルで魔法薬を吸い、ディルムッドの方を睨む。
何故か、ヤツはお預けを食らった犬みたいな目で俺を見てくる。
あぁもう、うっとうしい。
「何か言いたい事があるか?」
「・・・、先生・・・!!耳が触りたいです・・・。」
どうせその台詞を言うなら、どっかでボールでもついてろと、声を大にして言いたい。
はぁ、こんな事で、俺たちはヘカテスにたどり着けるんだろうか・・・・?
そんな事を、目の前のディルムッドを無視して考える。
そして、煙を吸い、いい案が思いついた。
「キサマ、私の耳が触りたいんだな?」
そういうと、顔を輝かせながら、矢継ぎ早にまくし立てる。
「あぁ、そうだ。エヴァの耳が触りたい。さっき触った時の感触は中々忘れられるものではない。」
そう言って、俺を見てくる。
きっと、俺が折れて触る許可をくれると思っているのだろうが、そうは問屋が卸さない。
これだけ欲望むき出しなら、それのベクトルを操ればいい方に転ぶだろう。
「そんなに触りたいなら、今の人の姿で気を瞬時に練れるまで練習しろ。
私が見て、OKを出せるレベルになったら、好きなだけ触らせてやる。」
それを聞いたディルムッドは、考え込み、そして納得したように口を開く。
「それは、エヴァが重んじる『契約』と受け取っていいのか?」
ふむ、この契約を取り付ければ、少なくとも咸卦法への近道にはなるし、戦力は上がる。
それに、あくまでOKを出すのは俺基準。うまく乗せれば、この契約の利益率はかなり高い。
だが、なんとなくこれで契約すると、後々面倒な事になりそうなんだが・・・・。
まぁ、今の所戦力第一か。
「いいだろう、これは『契約』だ。内容は話したとおり。それでいいか?」
「あぁ、契約しよう。いかなる困難にも打ち勝って見せるさ。」
うん、なんか駄目な方に突っ走ってる気がするが、いいのか?
これで本当に良いのか?自身の耳を両手でペタンと頭に押さえつけながら、
ウンウン唸る。何だろう、この釈然としない感じは。
とりあえず、現代になったらこいつをアキバから遠ざけよう。
まぁ、俺は行くけどね、パチモンとか色々有りそうだし。
そんな事を考えながら、その夜、夕闇にまぎれてヘカテス入りを果たす。