<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.996の一覧
[0] 誘宵月[アービン](2005/11/23 13:06)
[1] プロローグⅠ[アービン](2006/03/25 15:59)
[2] プロローグⅡ[アービン](2006/03/25 16:00)
[3] 第一話 暗黒烙印Ⅰ[アービン](2005/11/23 15:57)
[4] 第二話 吸血姫[アービン](2005/11/23 15:58)
[5] 第三話 死猟[アービン](2005/11/23 15:59)
[6] 第四話 暗黒烙印Ⅱ 前編[アービン](2005/11/23 16:01)
[7] 第四話 暗黒烙印Ⅱ 後編[アービン](2005/11/23 16:03)
[8] 第五話 カルマ[アービン](2005/12/26 21:43)
[9] 第六話 妖の聖歌 前編[アービン](2006/03/08 01:49)
[10] 第六話 妖の聖歌 後編[アービン](2006/03/08 02:09)
[11] 第七話 割れる日々 [アービン](2006/03/25 15:44)
[12] 第八話 境界線 [アービン](2006/07/30 02:36)
[13] 最終話 在る理由 前編[アービン](2006/09/30 04:00)
[14] 最終話 在る理由 中編[アービン](2006/09/30 04:01)
[15] 最終話 在る理由 後編[アービン](2006/10/01 01:30)
[16] エピローグ 夕映えの月[アービン](2006/10/05 02:01)
[17] 後書き[アービン](2006/10/05 01:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[996] 第四話 暗黒烙印Ⅱ 後編
Name: アービン 前を表示する / 次を表示する
Date: 2005/11/23 16:03
「志貴、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

外に出てしばらくしてアルクェイドは俺に訊ねてきた。

「何だ?」

「さつきは志貴の恋人なの?」

そんな事を言い出した。

「ちっ、違うって、話してたらそれぐらいわかるだろ!?」

思わず俺は声を大きくしていた。

アルクェイドは首を傾げて

「そうかなー? むしろ私にはそう見えるけど……
 でもそうじゃないと辻褄が合わない……」

「何が?」

「さつきが聞くと気にしそうだから言わなかったけど
 さっきの志貴がさつきの夢を見た話の事、
 あれは契約している人の間でたまに起こる事があるの」

「契約?」

「そう、血や精をやりとりすることによって『繋がった』状態にする。
 多分志貴とさつきの間に契約があると思ったんだけど」

そんな事あるわけが……いや、まてよ?

「弓塚に血を吸われたあの時に……?」

「ちょっと、それどういう事?」

「弓塚が正気を失っていた時に一度だけ血を吸われた。
 幸いちょっとだけだったからか俺は吸血鬼にならなかったけど」

それを聞くとアルクェイドは何か考え込んで、

「体質的に吸血鬼にならない?
 有り得るとしてもそんなのは退魔の一族でもなければ……
 けど、多分遠野という血筋はむしろ逆の……
 それにしては志貴にはそういうのが感じられないけど……」

ぶつぶつと何かを呟いている。

「おい、アルクェイド」

俺が声をかけても反応しない。

「おい!!」

突然、

アルクェイドは険しい顔つきをした。

「志貴、話してる場合じゃなくなったみたい」

「え?」

俺はアルクェイドの睨んでいる方に振り返った。




ドクンッ




心臓が激しく打った。

そこには黒いコートを着た男が立っていた。

あの男は……

初めて屋敷に来た日、夜、外にいた男。

恐怖と共にその記憶が甦る。

俺でもはっきりわかる。








あれは……間違いなく化け物だ……








「再開といこうか、真祖の姫君」

アルクェイドは一瞬俺を見て、

「ここじゃ狭くてお互い戦いづらいと思わない?
 私としてはもっと広い場所で戦いたいんだけど」

「……よかろう、ならば公園に来い」

そう言って、男は去っていった。

「アルクェイド、あいつが……?」

「違う、あいつはネロ・カオス。
 私を追ってきた吸血鬼よ」

「お前を追ってきた?」

「ええ、死徒の中に真祖を殺そうと考える奴がいてね、あいつはその刺客みたいなものよ」

うんざりした感じでアルクェイドは言った。

「そんなわけだから、あいつは私の相手よ。
 だから……」

「俺には関係無いって言いたいのか?」

「……本当はそう言いたい所なんだけどね。
 正直に言うと今の私一人ではネロを倒す事は難しい」

「なら俺も戦えばいいじゃないか!?」

「志貴、ネロと戦えば死ぬかもしれない。
 それに、これは私の問題であって志貴が関わらなければならない理由は無い。
 それでも、手を貸してくれる?」

「前にも言っただろ、少しは俺を頼れって。
 俺たちは仲間なんだ、助け合うのは当然だろ」

「ありがとう」

アルクェイドは微笑んで、しかしすぐに真剣な顔に戻った。

「普通に戦ったらネロは殺せない。
 私がネロの注意を引き付けるから志貴はネロの隙を突いて。
 志貴の眼ならおそらくネロも殺せるはず」

「わかった」














「妙に遅かったな、待ちくたびれたぞ」

「ふん、しつこく追いかけてくる奴にたいしての嫌がらせよ」

俺は今、ネロの背後から少し離れた場所に隠れている。

「なるほど、だがもうそのようなことも無い。ここが、貴様の終焉だ」

ネロは全くこちらに気を払っていない、これなら忍び寄れそうだ。

「随分と自信があるのね、この前あれだけやられた奴の台詞とは思えないわ」

「私としてもあれは予想外だったよ。
 おかげで蛇につまらん借りが出来てしまった」

細心の注意を払いネロに近寄る、ネロは気付いていない。

後、三歩……三歩近づけば一気にネロに襲いかかれる。

「そう、あいつと接触したのね。あいつは今どこにいるの?」

後、二歩……

「知らん、知っていたとしても言うと思うか?」

後、一歩……

「思わないわね、じゃあもういいわ、死になさい」

アルクェイドが震えそうなほど強烈な殺気をネロにたたきつけた。

ネロはこっちに全く注意を払っていない、いける!!

俺は一気にネロに駆け寄って距離を詰めると奴の『死』を視る。

「え……!?」

『線』が……ない?

そんな馬鹿な!? そんなはずは……

頭痛に耐えながらさらに眼を凝らす。

すると一つだけ『点』が見えた

これだ!! これを衝けば終わりだ。

だが、突然『点』が増えた。

十、二十、五十、百、二百、三百。

これは……いったい?

「くっ!!」

迷ってる暇は無い、とにかく『点』を衝けば終わりだ!!

ナイフが刺さる直前、

ネロの背中が膨れ上がり黒い犬が凄まじい速さで飛び出してきた。

「なっ!?」

咄嗟にナイフを振るうが足の『線』を切る事しか出来なかった。

犬の勢いは止まらずもろに体当たりをくらう。

「ぐっ……」

数メートルは吹っ飛んだ、衝撃に体が悲鳴をあげる。

だが犬は容赦なく俺にのしかかり噛み付こうとする。

まずい!!

首を食い千切られる寸前、何とか俺は犬の腹の『点』を衝いた。

黒い犬は崩れて液体となった……だが、

「くっ、何だよこれは!?」

黒い液体にまみれて俺は地面に縫い付けられたかのように動けない。

「志貴!!」

「ふむ、後ろで何か起こったようだ、貴様の使い魔か?
 残念だったな、私が気付かずとも私の内のいずれかが対応する。
 この身に奇襲は通用しない」

「……そうみたいね、群体の強みってやつかしら、ネロ・カオス。
 けど、奇襲が通用しないなら普通に倒せばいいだけの事」

「たわけ、その慢心、後悔するがいい」

ネロの体から無数の生物が飛び出していく。

獅子、豹、虎、象、鷲、熊、さらに地面を泳ぐ鮫なんてふざけたものまで。

一斉にアルクェイドに向かって襲い掛かる。







あっさり、終わった。

ある者は爪で引き裂かれ、

ある者は首を引き千切られ、

ある者は頭を握り潰された。

数秒もしない内に全ては黒い液体と化した。

「この程度?」

何だよ……アルクェイドの奴、全然余裕じゃないか。

「…………」

ネロは再び獣を放つ。

「無駄よ!!」

アルクェイドはそれを爪で引き裂いて、

「ちっ!!」

大きくその場から飛びのいた。

さっきまでアルクェイドの立っていた所に黒い液体が襲い掛かった。

「この程度の速さ、警戒さえしていれば捕らえられはしない」

「それはどうかな?」

黒い液体が地面から消えていく。

そしてアルクェイドの背後に現れ襲い掛かった。

アルクェイドは前に大きく飛ぶ。

「かかったな!!」

ネロの体が大きく膨らみ、

その体から黒い濁流が噴出した。

「しまっ――――」

空中にいたアルクェイドはそれをかわせず飲み込まれる。

「『創世の土』を改良したものだ。
 まだ不完全で混沌を一部失うと言う問題はあるがな。
 何、真祖の姫君を得られるなら安い代償だ」

「くっ、この……」

「いかに貴様といえどそこまで飲み込まれては脱出できまい」

アルクェイドが黒い液体に沈んでいく。

このままじゃアルクェイドが……

「こ……のぉ!!」

自分に纏わりついている黒い液体を『視る』。

『線』を切断するとただの水のようになった。

「よし!」

何とか立ち上がる、体の自由は戻った。

だが……どうすればいい?

俺では奴に近づく事もできない。

アルクェイドの言っていた事はよくわからないが、
あの獣たちは全てあいつらしい。

つまりあいつを倒すにはあの獣たち全てを倒さなければならない。

そんなこと、どうあがいてもできない。




どこからか、

声がした。




あいつの声じゃない、もっと遠い。

足音が聞こえてくる。

「ま――さか」

足音はこちらへ近づいてくる。

遠くに人影が見えた。

俺と同じくらいの年頃の見知らぬ少女が。

「ふむ、あれを使ったせいで養分が足りん、ちょうどいい所にやってきた」

少女は何も知らずにこっちに近づいてくる。

「に、逃げろぉぉぉ――――!!」

俺がまだいる事がばれるとか考える前に、力の限り叫んだ。

ネロから黒い虎が飛び出す。

一瞬で終わった。

短い断末魔がした後、黒い虎が死体を引きずって来た。

不思議な事に死体はネロに触れると忽然と消えてしまった。




なのに




音がする、




ゴリ、グシャリ、ガリ




ギギ、ゾブリ、ゴクリ。




ネロの身体から、食べている音がする。

食われている、ネロの中で、

なんて――――無慈悲

「てめえぇぇぇ――――!!!」

何も考えれない。

ただ、ネロへと走り寄る。

「――――食え」

ネロから黒豹が飛び出す。

だがそれがどうしたというのだ。

生きている限り、俺の敵ではない。

「邪魔だよ、お前」

一閃し、黒豹を解体する。

「ほう、さっき私に襲い掛かったのはお前か」

ネロは感情のない目で俺を見る。
だがそれがなんだというのだ。

「アルクェイドを放せよ、そんな他に力を裂いた状態では話にならないだろ。
 俺がお前の相手をしてやるから、アルクェイドを放せ」

「お前が私の相手をする、だと?」

「そうだ、だからアルクェイドを放せ」

ネロは口元を歪めた、笑っているらしい。

「興がそがれた、その責任とってもらうぞ」

アルクェイドの拘束を解くつもりは無いらしい。

「契約しよう、お前はすぐには殺さん。
 生きたまま、高熱で熔かすようにゆっくりと咀嚼しよう」

ネロの身体から何十という数の獣が出て来た。

「私の相手をしようなどという思い上がり、万死に値する」

「なっ!?」

俺は襲い掛かってきた黒い犬の『線』を断ち切る。

だが、一つ一つでは何とかなっても、それが何十ともなればどうか。

無数の蟻に群がられる角砂糖の様に、食い潰されるだろう。

カラスが頭をついばむ。

「つぅ――――」

だが痛みに構う暇など無い。

同時に左右から黒犬に食いつかれていた。

二匹の犬の『点』を衝く。

だが全然間に合わない。

次々と襲ってくる獣たち。

一匹殺す間に十匹襲ってくる。

もう、何も見えない。

目がおかしくなったんじゃない。

気がつけば、俺の周りは黒い獣たちで埋め尽くされていた。

死ぬ、このままじゃ五秒も持たない。

足首に黒犬が食いついて倒れそうになる。

だが倒れたらそれこそあっという間に食い尽くされるだろう。

このままじゃだめだ。

大元を、ネロ本体を倒せば何とかなるかもしれない。

「あああああああ――――!!」

闇雲にナイフを振るいとにかく前に出る。

おそらくこの先に、ネロがいるはず!!

「騒ぐな、見苦しい」

ズブッ

「え?」

ネロの身体から角が出て、

俺の身体に刺さっていた。

それはどうやら黒い鹿のものの様だった。

あまりに鋭く突き刺さったせいか痛みも感じない。

そのまま仰向けに倒れ込む。

「私は人間であれば選り好みはしない主義でな、
 安心しろ、細胞一つ残さんよ」

声が聞こえた。

同時に黒いドームが覆いかぶさってきた。

それは全て目を輝かせた獣。

ジュッ

皮が裂かれる。

ザクッ

肉が食われる。

ゴリッ

骨が削がれる。

死ぬ、このままでは殺される。

だけど俺にはどうすることも出来ない。



ズバッ



唐突に、黒いドームが裂けた。

「え?」

何が起こったのかわからない。

「あああああああ――――!!!」

ザンッ、ザンッ、ザンザンザン!!

次々と獣たちが切り裂かれていく。

「はあっ、はあっ、はあ……」

視界が開けた。

そこには……

「弓……塚?」

「志貴……くん、大……丈夫?」

苦しそうにしながらも俺を気にする弓塚の姿があった。

「貴様は……蛇の娘か、何ゆえ私に敵対する?
 私は蛇と争うつもりはない」

ネロがそう言うと弓塚はネロを睨みつけて、

「蛇がどうとかなんて関係ない、これは私の意志」

「クックックッ、そうか、面白い奴だ。
 よかろう、その意気に免じて少しだけ相手をしてやろう」

ネロが弓塚に向かって獣を放つ。

「このぉ!!」

弓塚はそれを爪で切り裂く、……爪で?

弓塚の爪は鋭く伸び、眼は紅くなっていた。

吸血鬼の力を……解放している!!

そんな事をしたら弓塚は……

「やめろ弓塚!!」

だが弓塚は襲ってくる獣を切り裂いていく。

ついにはネロの放った獣を全て倒した。

「はあっ、はあっ、はあっ、うう……」

苦しそうに弓塚はうずくまった。

当たり前だ、本来なら動ける方がおかしい。

この時間はまだ吸血衝動に苛まれているはずだ。

「ふむ、たいした素養を持っているようだな。
 だがもう限界だろう」

俺は何をしている?

仲間の手助けも出来ず、

人が殺されるのを見ているだけしか出来なくて、

おまけに助けるはずの少女に助けられてる。

俺は何をすればいい?





カンタンナコトダ、

アイツヲ……コロセ





「くっ、あははははははははは!!!」

何て……簡単。

こんな単純な事に気付かないなんて笑いが止まらない。

俺が考えるべき事は、

あいつを殺す、

それだけで十分だった。

「はっ、いいぜ、殺してやるよ、ネロ・カオス」

そう言って俺はネロに向かって駆け出した。

「この後に及んで何をほざく」

ネロの身体から黒犬が飛び出す。

だがそんなものでは足を止めるにも値しない。

ザンッ

一瞬で黒犬は消え去った。

「な……に?」

今度は虎が出た、アルクェイドに出していたものと同じだ。

だがそれも長くはもたない。

いくら獰猛で凶暴であろうとも、触れなければ俺を殺す事は出来ない。

なら触れようとする部分を切断すればいい。

結局、黒犬も虎もあまり大差ない。

虎は崩れ去って黒い水に変わっていく。

ネロまではまだ少しあるか。

「――――馬鹿な。姫君でさえ消滅させられなかった私たちがことごとく無に帰している。
 不可解だ、貴様何をした」

何か言ってるがそんなのはどうでもいい。

ネロの『死』を凝視する。

ネロに見える無数の『点』。

これを全て衝くのは無理だろう。

だが諦めるわけにはいかない。

黒い粘液に飲まれたアルクェイド。

殺されてしまった人。

そして……自分も苦しいはずなのに俺を助けてくれた弓塚。

ギリ、と歯を噛んだ。

恨み言を言っている余裕は無い。

あいにく動くだけで精一杯だ。

そんな余裕があるなら。

「――――よかろう、お前をわが障害と認識する」

さっさとこいつの息の根を止めてしまった方がましだろう。

奴のコートの中から、額に角がある馬だの、羽の生えた大きなトカゲだの、
子供の頃絵本で見たようなものが出てくる。

それらは確かに強いのだろう、『線』がとても少ない。

だからこそ、真剣になる。

体中のあらゆるものが障害を排除する為に連結していく。

角の生えた馬を角ごと真っ二つにする。

トカゲはその胴体を切り裂いた。

「有り得ん、おのれなぜ私がたかが人間風情に渾身でかからねばならんのだ!!」

びゅるん、と、ようやくアルクェイドを拘束していたものをネロは戻した。

「殺す! 我が系統樹には貴様らを凌駕する生命があると知れ!!」

なにか、奇怪なものが出てきた。
たとえるなら、蟹の様な蜘蛛。
大きさは、さっきの象より大きいくらいか。

焼けるからだ、頭痛がひどい。

傷口が痛い。

しかし悲鳴は上げない。

脳が、そんな余力があるなら殺せと命じる。

取りあえず三匹。邪魔者は全て消した。

「有り得ん」

ネロは眩暈でも起こしたように、よろりと後ずさる。

「……私のあらゆる殺害方法が殺されるなど、そのような事実が有り得るはずが無い!
 私たちは不死身だ。
 私が存命している限り死しても混沌となりて我に戻り転輪する不死の獣達が……
 何故貴様に刺されただけで元の無に戻ってしまうのだ!?」

叫んでいる敵に歩み寄る。

ネロは後ろに退こうとしてかろうじて後退する事を押しとめた。

「……無様!」

機械のようだった目に、赤い憎しみの感情が、漸く燈った。

奴の心は理解できる。

おそらく、殺人鬼としてのネロは己に撤退を命じている。
しかし吸血鬼としての奴は自らがただの人間に敗退することを認めない。

理解しない。

撤退することさえ許さない。

だから、それ以上後退する事を可能としない。

其精神、自身が無力だと悟るも認めぬ頑なさ。

「否、断じて否!! 我が名はネロ、朽ちずうごめく吸血種の中において、なお不死身と称された混沌だ!
 それがこの様な無様を見せるなぞ、断じて有得ぬ!!」

ネロの体がかたちを持っていく。
今まで闇でしかなかった体は、明らかに個として化肉していく。

「この身は不死身だ。死など、とうの昔に超越した!!」

ネロの身体が跳ねる。

奴は獣をまとめあげ、自分自身を最高の獣とした。

その速度、アルクェイドにも劣らない。

触れれば簡単に骨を砕かれるようなその一撃をかわし、
すれ違いざまに奴の腕の『線』を切った。

ざざざ、と言う音。

速過ぎてその動きを制御できないのか、
ネロはすぐに止まれずに通り過ぎていく。

また、距離が開いてしまった。

「なんだ、これは?」

切られた腕を見て、ネロは愕然としている。

「なんなのだこれは?何故、何故斬られた箇所が再生しない!?
 こんなたわけた話があるものか! アレは魔術師でもなければ埋葬者でもないと言うのに、
 何故、ただ斬られただけで私が滅びねばならんのだ!?」

「馬鹿ね。そんなつまらない体面を気にしてると殺されるわよ、ネロ・カオス」

聞き慣れた声がした。

「貴様!」

ネロは血走った目を弓塚を抱き起こしているアルクェイドに向ける。

ああ、そうか、さっきネロが拘束を解いた時にアルクェイドは自由になっていたんだった。

「あぁ、私の事は気にしなくていいわ。貴方の始末は志貴がする。
 邪魔をしたら私まで殺しかねないものね、今の彼は。
 苦しませて殺そうなんて考えるからこういう目にあうのよ。
 敵は反撃の機会を与えずに倒すものでしょう?」

そう言ってアルクェイドは弓塚を担ぐと、

「貴方の相手をする必要は無いみたいだし、少し外させてもらうわ。
 いつまでもさつきを血の匂いがする所においておけないし」

「待て、逃げる気か!?」

「しばらくしたら戻ってくるわよ。
 最も、それまで貴方が生きていられるかわからないけどね」

「黙れ! 私には未だ560もの命がある。
 この思い上がった奴をくびり殺した後、もう一度貴様を捕らえる」

「思い上がってるのはどっちかしらね。
 何しろ彼は……」





――――私を一度殺したのだから――――





そう言ってアルクェイドは弓塚を担いで出て行った。

「な……に……?」

ネロはその言葉に動揺していた。

「そんな馬鹿な……」

自らの動揺を押し殺すように獣が吼える。

片腕で、

一直線に俺の心臓を貫こうと疾走してくる。

その速さは文句無く。
俺を殺すためだけの単純な動き。

伸ばされた腕を切る。

奴の体には無数の『点』がある。
だがそんなものよりも奴の中心にある『極点』が確かに視えた。

ネロ・カオスの宿してる混沌。
その世界そのものを殺す。

その『点』を貫く直前、

ネロの身体から黒い液体が噴出した。

「なっ!?」

すぐにそれはただの水と化したが、その一瞬の隙をついてネロは俺の攻撃を回避した。

再び、距離が開く。

「……思い上がっていたのは私の方だったと言う訳か。
 認めてやろう、お前は私に死の危険をもたらす者だ」

ネロは怒りを押し殺した声で言った。

「ここは退いてやろう、だが覚えておけ!! 私は必ずお前を殺す!!
 私にとって死の危険など乗り越えるものでしかない!!」

ネロの身体が黒い液体と化していく。

「待てっ!!」

だが黒い液体は地面に溶けるように消えていった。

「くそっ!!」

最後の最後で、詰めをしくじった。

「あ……」

緊張が解けた瞬間、俺は地面に倒れこんだ。

そのまま意識が薄れていく。

誰かの足音が近づいてきた……

「まさか、ネロ・カオスを退けるとは……
 それにしても無茶にもほどがありますね」

誰だ……何をしている?

アルクェイドじゃない、だけどこの声は聞き覚えがある。

考えようとしたが、もう意識を保ってられない。

「彼女、このまま見過ごすわけにはいきませんね……」

意識を失う直前、そんな悲しそうな声を聞いた気がした。



















「……貴、志貴!!」

誰かが呼んでいる。

ゆっくりと目を開くと、アルクェイドが俺を見ていた。

「あ、起きた」

「…………」

とりあえず眼鏡を掛ける。

俺は……ネロと戦った後、倒れたのか……

「あれ? 傷が……治ってる。
 アルクェイド、お前が治してくれたのか?」

「違う、私が来た時にはもう志貴の傷は治っていたわ」

「そうか……いったい誰が?」

意識を失う直前に誰かが近づいて来たような……
その人の仕業だろうか?

まあ、あまり考えても仕方が無い。

それより……

「アルクェイド、すまん、ネロを逃がした」

「嘘!? あいつが逃げたの!?」

俺はアルクェイドにあの後の事を話した。

「そう……それは仕方がないわ。
 そもそも私がしっかりしていたら、
 さつきが戦う必要も無かったのに……」

「弓塚は……」

「何とか持ちこたえたみたい……
 でも正直耐えているのが不思議なくらいよ」

「そうか……」

重い沈黙が場を満たす。

「この時間だともう見回りしても意味がないわ、
 志貴も帰ったほうがいい」

「ああ……わかった」





















部屋に戻った時にはもううっすら朝日が射して来ていた。

そのままベットに倒れ込む。

傷は塞がっていても体力は激しく消耗している。

俺は急速に眠りに落ちていった……


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.030486106872559