「志貴様、朝です。お目覚めください」
聞き慣れた声が穏やかに俺を目覚めさせる。
「ん……」
ゆっくりと眼を開く。
「ふあぁ……おはよう、翡翠」
「え……?」
翡翠が少し驚いた顔をしている。
「どうしたの翡翠? 眼鏡貸して欲しいんだけど」
「あ、はい……」
なぜか慌てながら翡翠が俺に眼鏡を渡す。
渡された眼鏡を掛けると俺は大きく伸びをした。
「……それでは朝食の支度をいたします。
着替えが済み次第、食堂にいらしてください」
一礼すると翡翠は部屋から出て行った。
心なしかその後ろ姿が落ち込んでいる様に見えた。
「何だろ……? 今日はちゃんと起きれたよな?」
時計を確認する。
時刻は六時半。
昨日翡翠に頼んだ通りの、いつもより少し早い時間だった。
この日が来た事がとても嬉しい。
今日から――――さつきが学校に復帰する。
「おはようございます、今日は珍しく早いのですね兄さん」
居間に入るなり俺を出迎えたのは、どこか棘のある秋葉の言葉だった。
「おはよう秋葉。秋葉もこれから朝食か?」
「いいえ、私はつい先程済ませた所です。
兄さんも早く食堂に行ったらどうですか?」
……気のせいか秋葉がますます不機嫌になった気がする。
どうやら何かまずい事を言ってしまったみたいだ。
「あ、ああ、そうさせて貰うよ」
これ以上秋葉の機嫌を損ねる前に食堂に行こう。
朝食を済ます。
少し時間に余裕があったので秋葉に付き合ってお茶を飲む事にした。
「全く、いつもこれくらいは余裕を持って欲しいのですけど」
相変わらず秋葉は小言を言うものの大分機嫌は治った様だった。
しばらくして静かに秋葉がカップを置くと立ち上がる。
「兄さん、私は時間ですのでお先に失礼します」
「あ、俺もそろそろ行くよ。
せっかくだし入り口まで一緒に行こう」
そう言って俺もお茶を飲み干して立ち上がる。
そんな俺を見て秋葉が微妙な顔をする。
「まあ……いいですけど」
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもありません。
兄さん、早く行きましょう」
翡翠から鞄を貰って俺達は外に出る。
翡翠、まだ落ち込んでいた気がするのだが大丈夫だろうか?
かすかに「使用人として……能力が……不足」とか聞こえたし。
翡翠に不満は特に無いのだけど。
いろいろ考えていると目の前に車が来て止まる。
これに乗って秋葉はいつも登校しているのか。
すごいな……いかにも高級車ですと言った感じだ。
俺がこれに乗って登校する事が無くてよかった。
運転手が出て来て音も無く後部ドアを開く。
「兄さん」
秋葉が車に乗り込んだ後、
「彼女に会ったら伝えてください。
私の兄は非常に朝がだらしないので、
待ち合わせをするならうちに来て貰って構いません。
私自身も一度貴女と二人で話をしてみたい、と」
真面目な顔をしてそんな事を言ってくれました。
「へ?」
俺が呆気に取られている内にドアが閉められ車は出て行った。
「えっ……と」
ちょっと頭が混乱している。
「とっくにばれてたって事?」
俺がさつきと待ち合わせしているのが。
……よく考えたら俺こんな時間に起きたの初めてだな。
さつきの復学の事は話したから結構ばればれだったかもしれない。
「まあ、とりあえず行くか」
きっとさつきはもう待ってるだろうし。
「おはよう、志貴くん」
坂道で待っていたさつきは俺を見つけると笑顔で挨拶する。
「おはようさつき、待った?」
「ううん、私も今来た所」
「そうか、それは良かった。じゃあ行こうか」
「うん」
――――あれから一週間が経つ。
アルクェイドは俺達が気付いた時には既にいなかった。
酷く消耗した力を回復させる為に自分の住処に戻ったらしい。
「きっと、帰ってくるから……」
アルクェイドはそう言い残したと先輩は教えてくれた。
ちゃんと約束したんだ。
あいつはいつか必ずここに帰って来るに違いない。
先輩は今も変わらずこの町に残っている。
本人はさつきの監視する為と言っているが……
それにしては随分と世話を焼いてくれていると思う。
「別に……彼女の歩みがどこまで続けられるのか。
私はそれを少し見てみたいと思っただけです」
一度その事を尋ねてみたらそんな風に先輩は答えてくれた。
そしてさつきはこの一週間、太陽光に慣れる訓練をしていた。
その結果、ある程度は日中でも動く事が出来る様になった。
その後、決心して家に帰ったさつきは親に全てを打ち明けた。
そんなさつきを彼女の親は優しく抱き締めたと言う。
ようやく――――さつきに日常が戻って来たのだ。
何気ない会話をさつきと交わす事がとても嬉しく感じる。
「あ、そう言えば秋葉がさつきに遠慮せずに屋敷に来ていい、って」
何気なしに秋葉の話を切り出す。
「え? う、うん……それは……まあそのうちに」
さつきは曖昧に言葉を濁す。
さつきと秋葉の関係は複雑だ。
どちらも嫌っているわけでは無いと思う。
おそらくお互いが相手に対して後ろめたく感じている。
だからどうしても態度がよそよそしくなってしまうのだろう。
「なあさつき、秋葉はさつきを恨んでないよ。
さつきだって秋葉を恨んでなんかいないだろ?
秋葉もさつきと話し合いたいって言ってる。
一回、うちに来てちゃんと話してみないか?」
「う……ん……そうだね」
しばらくさつきは悩んでいたが、
「いつまでも後ろ向きな考えはよくないよね。
わかった、一度秋葉さんと話してみる」
決心してさつきは頷いてくれた。
「よし、秋葉に伝えておくよ」
俺はさつきと秋葉は意外と相性がいいんじゃないかと思う。
きっと、仲良くなれるだろう。
学校に着いて教室の前まで来た。
さつきが職員室で少し手続きをしてたのでやや遅めの時間だ。
大体の生徒はもう教室に入っているのか廊下にあまり人はいない。
ドアの前でさつきが一度大きく深呼吸をする。
静かにドアを開ける。
「おはよ――――『お帰り、さつき!!』」
開けた瞬間に待ち構えていた女子生徒達が声を揃えてさつきを迎えた。
「え、ちょっ……わっ!!」
たちまちさつきは囲まれてもみくちゃにされる。
「もう大丈夫なの? 元気になった?」
「このぉ……心配したんだから!!」
「やっぱさっちんがいないと盛り上がらないって」
「ちょっと、さつきが困ってるじゃないの」
「いいの!! 散々私達を心配させた罰よ!!」
「すごいな……」
改めてさつきの人望の高さを実感する。
休んでいた所為でクラスに馴染めないという心配は杞憂だった。
「おはようございます、遠野君」
「こら遠野、自分だけ後ろからこっそり入りやがって。
無関係を決め込もうとしてもそうはさせないぜ」
席に着くと先輩と有彦がこっちにやって来た。
「おはよう先輩。有彦、いつもながらお前の言う事は意味不明だ」
「はははっ、とぼけるんじゃねえよ!!」
笑って、有彦はばしばしと背中を叩く。
その後、肩に手を回されて有彦に頭を引き寄せられる。
「で、どうなんだよ?」
「何が?」
「決まってるじゃねえか。お前と弓塚の関係について訊いてんだよ」
有彦の言葉に俺は内心動揺した。
俺とさつきの関係って言うと多分恋人と言っても差し支え無い。
だがそんな事こいつに話すと無駄に話が大きくなる事は明白だ。
「別に……関係って言われても普通だよ。
たまたま今日は一緒に教室に来たけど」
「ほおー? 普通……ねえ?」
有彦が意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「あのなあ、そんなわけねえだろうが。
あの弓塚とお前が仲良く登校してる事態普通じゃない」
「それは考えすぎだ。お前が単に面白くしたいだけだろ」
有彦の言う事は大分こじつけが入っている。
けどそれがやけに的を射ているから始末が悪い。
ふと隣にいる先輩を見ると何か妙にいい笑顔だった。
……先輩、まさか話していませんよね?
少し不安になる。
「まあ否定はしないけどな。本当に弓塚と何も無いのか?」
「だからそうだって言ってるだろ、さっきから」
「ふーん」
ニヤニヤしながら有彦は視線を先輩に向ける。
「こいつこんな事言ってますよ先輩?
聞いていた話と違うんですけど?」
顔色が変わったのが自分でもわかった。
「せ、先輩、話したんですか!?」
「へえ? じゃあ先輩は知ってるんだ?
それなのに俺には隠すなんて冷たいな遠野」
「あ……」
やられた。
会心の笑みを浮かべた有彦を見て嵌められた事に気付く。
くっ、さっき先輩を見た時に動揺を見せてしまったか。
「はあ、駄目ですよ遠野君。
下手にごまかそうとするから裏目に出るんです」
先輩がくすくすと笑う。
「私は訊かれたら嘘はつきませんよ。
遠野君が言って欲しくない事でも」
先輩、それは脅しって言うんです。
「もう一度だけ訊こうか遠野。お前と弓塚の関係は?」
勝ち誇った表情で有彦が訊いてくる。
非常に癪に触るがもう隠し様が無い。
「……お前の思っている通りだよ」
「ああ? それじゃあわからねえよ。
ちゃんとお前の口から言ってくれ」
こいつ、絶対わかってて言ってやがる。
「ああもう……付き合っているって事だよ!!」
「はははっ、そうかそうか!!」
大笑いする有彦。
俺は有彦をぶん殴りたくなる衝動を必死で抑えた。
「しっかし、まさかお前と弓塚とはねぇ……」
有彦はなぜか感慨深げに俺の顔を見る。
「あんだけ疑って置いてよく言う」
「そりゃ今日の弓塚を見りゃ誰でもわかるさ。
俺が言いたいのはそうなるとは思わなかったって事だよ」
急に有彦が笑うのを止めて真面目な顔になる。
「前に俺はお前に弓塚はやめとけって言っただろ」
「そんな事言ったか?」
俺の言葉を聞いて有彦は呆れた顔をする。
「ったく。人の忠告はちゃんと憶えとけよな。
弓塚はああ見えても内気で一途だ。
お前みたいにぼんやりしてる奴とは相性が悪すぎる。
深入りすると危ないからやめとけって言ったんだ。
まあ、今となっては俺が間違っていたみたいだが」
それを聞いて俺は驚く。
有彦の言葉は弓塚さつきと言う人物を的確に捉えたものだった。
「いや、お前の言った事は確かに正しいよ。
でもな、一つ言うのなら――――」
さつきの事を考える。
さつきに関わって危ない目に遭ったのは事実だ。
でもだからと言ってさつきを好きになった事を後悔なんてしない。
「俺だってさつきの恋人やっているんだ。
さつきがそういう性格しているのはわかってる。
だからさつきが無茶しそうになったら俺が止める。
そうすれば、何も問題なんか無いだろ?」
「は」
有彦が一瞬何か呆気に取られた表情をして、
「は、ははははははは!!」
直後に思いっきり爆笑した。
「ははは、すげぇこれは本物だよ!! 手の施しようが無い!!」
「きゃー、そんな事言うなんてダイタンですね遠野君!!」
腹を抱えて笑い続ける有彦とその隣で何か舞い上がっている先輩を見て自分の言った事の恥ずかしさに気付く。
「……っ!! うるさい少し黙れ」
顔が赤くなるのが自分でもはっきりとわかった。
「ははははは!! ……やれやれ」
ようやく有彦の笑いが止まる。
「変わったなお前、いや弓塚もか。
前みたいな危うさが無くなった。
どうやらもう大丈夫みたいだな」
「有彦……お前」
もしかして心配してくれたのか。
わかりにくいがこれはこいつなりの気遣いなのかもしれない。
そう思ったその時、有彦がニヤリと笑った。
「じゃあ遠野、勇者のお前に一ついい事を教えてやろう」
何だろう、酷く嫌な予感がする。
「さっきお前が大声出した時から周りがずっと聞き耳たててるぞ」
瞬間、俺は凍り付いた。
――――うそだ。
そんなそれじゃあおれはあんなはずかしいことをみんなにきかれたのかそんなわけないだろきっとうそにちがいないそうさまちがいなくかんちがいにきまってる。
混乱しかけた思考を何とか纏める。
――――大丈夫だ、落ち着け志貴。
まずよく見て、そのあとによく考える。
そんな教えを、今までずっと守ってきたじゃないか。
オーケー大丈夫落ち着いた。
俺は壊れかけた機械みたいにぎこちなく周りを見回す。
思い切り見られていた。
と言うか俺が視線を向けても眼を逸らす事すらしてくれない。
さつきの周りにいた女子でさえこちらを好奇心全快で見ている。
いや、一人だけ俺を見ていない人がいる。
「し、シキクン……」
……さつきだった。
焦点が定まらない眼で何かをぶつぶつと呟いてる。
湯気が出そうな程赤くなってる壊れかけのさつきを見て理解する。
ああ、もう駄目だこりゃ。
かくして俺はさつきに続いて囲まれる事になった。
もみくちゃにされる中俺は後で有彦に八つ当たりする事を固く決意した。
「つ、疲れた……」
今日の感想はそれに尽きる。
あの後俺とさつきは休み時間になる度に散々質問攻めに遭った。
その癖放課後の今はみんなさっさと帰って周りに誰もいない。
気配りだとしたら何か逆に腹が立つ。
そんな俺を見てさつきが笑う。
「そうだね、でも――――楽しかった」
本当に嬉しそうなさつき。
その笑顔を見ていると他の事はどうでもよくなった。
「そう――――だな」
慌しくも平和な日常。
それが送れる事は幸せに違いない。
……まあ、ここまで慌しいのは流石に勘弁して欲しいが。
「帰ろう、志貴くん」
「ああ」
二人で夕焼けの道を歩いて行く。
感傷に浸っているのかさつきの口数が少なくなる。
沈黙が多くなるがそれは決して嫌なものでは無い。
俺にとってこの夕焼けの帰り道がさつきとの始まり。
また……さつきと一緒に帰る事が出来て本当によかった。
そんな事を考えているとさつきがいきなり俺にもたれかかってきた。
「さつき?」
「ごめん、少しよろけちゃった」
心なしか少しさつきの顔色が悪く見えた。
はっとする。
「さつき、もしかして日光が……」
「うん、ちょっと日差しを浴びすぎたかもしれない。
でも大した事ないからじっとしてればすぐ治るよ」
もっと早く気付くべきだった。
さつきは夕方に最も不安定な状態になると先輩に教わったのに。
「志貴くん、そんな顔しないで。
確かに夕日は少し身体に応えるけど――――」
さつきは鼓動を聞く様に俺の胸に頭を寄せる。
「それより志貴くんとまた夕焼けを見れた事の方がずっと嬉しい」
さつきの言葉に俺は何も言えなかった。
「ん、もう大丈夫。ありがとう志貴く――――」
離れようとしたさつきを俺は答える代わりに抱き締める。
さつきは少し驚いたみたいだが抵抗はしなかった。
「あんまり……無茶をするなよ。
さつきは何でもすぐ独りで抱え込もうとするから」
「……他の人ならともかく志貴くんがそれを言う?
私に言わせれば志貴くんの方がよっぽど無茶してるよ」
「あはは、じゃあお互い様って事で。お互いに気を付けよう」
「くすっ、そうだね」
笑って、さつきは俺に身体を預けてくる。
「時々ね、不安になるんだ」
ぽつりとさつきが呟く。
「あの時シエル先輩に言った事は嘘じゃない。
私を大切にしてくれる人達に報いる為にも、
私は精一杯生きていくって決めた、ただ……」
さつきが俺の胸に顔を埋める。
「私、いろいろな人に助けてもらって今も生きている。
でも私はそれに見合うほどちゃんとしているのかな……って。
どうしようもなく不安になる時があるの」
さつきのずっと抱いていたであろう悩み。
それにどう答えるべきか迷う。
肯定するのは簡単だ。
だがきっと本当の答えはさつきにしか出せないのだと思う。
だから俺が言うべき事は答えを示す事じゃない。
さつきを少し強く抱き締める。
「それは俺にはわからない。でも悩みを聞く事は出来る。
辛かったら誰かに話すだけでも楽になるんじゃないか?
俺はいつでも傍にいるから……ゆっくり考えていけばいい」
「志貴……くん」
さつきが俺の眼を真っ直ぐ見た。
視線が交錯する。
お互いの鼓動が共有される。
俺を見つめるさつきの瞳が静かに閉じられた。
そして――――「やっほ――――!!」
突如聞こえた誰かの大声が雰囲気をぶち壊した。
「…………!!」
出せる限界の速さで咄嗟に離れる俺達。
俺は声のした方を睨み付けた。
「「え?」」
俺とさつきの声が重なる。
見覚えの有る姿がこちらに向かって走って来た。
「あれ? 反応ないなぁ?
まさか私の事忘れたとか言わないわよね?」
「「…………」」
何も言えない俺達。
「ちょっと!! 本当に忘れちゃったの?」
「あ、あ、あ……」
「あ?」
「アルクェイド!! 何でここにいるんだよ!?
お前、帰ったんじゃなかったのか!?」
困惑と怒りを込めて俺は大声で叫んだ。
「いったぁ――――そんな大きな声で言わなくてもいいじゃない。
だからもう力が戻ったから帰って来たのよ。
シエルにわざわざ伝言頼んだのに志貴、聞いてないの?」
それは聞いた、聞いたけどあれは――――
「このばか女!! それならもっと普通の伝言にしろよ!!
あれの所為で俺とさつきがどれだけ心配したと思ってる!?」
あの言い回しは二度と会えない事を危惧させるものだぞ。
「む、何よ志貴。おとなしく聞いていれば文句ばかり言って!!
せっかく帰って来た私を暖かく迎えるとか出来ないの!?」
俺とアルクェイドは睨み合う。
「ぷ……」
突然、黙って見ていたさつきが吹き出す。
「あはは、あははははは!!」
「「あ……」」
おかしそうに、さつきが本当に心の底から笑っていた。
「ほら、あんまり怒っちゃ駄目だよ志貴くん。
アルクェイドさんはちゃんと帰って来てくれたんだから。
とりあえず細かい事は抜きにしよう?」
さつきは満面の笑みを浮かべてアルクェイドに話しかける。
「お帰り、アルクェイドさん」
「……うん、ただいま」
少し恥ずかしそうにアルクェイドが笑う。
「じゃあ、行こっか?」
唐突にアルクェイドがそんな事を言い出す。
「は?」
「もう、約束したじゃない!! また三人でカラオケに行くって」
「いいね、私も久し振りに思いっきり歌いたい気分」
すぐに意気投合した二人の視線が俺に向けられる。
もちろん俺だって断る理由は無い。
「ああ、行こう」
「決定!! 今度こそさつきより上手く歌って見せるから!!」
そう言ってアルクェイドは駆け出す。
「やれやれ」
俺は苦笑する。
きっと俺達はこれからこんな騒がしい日常を繰り返すのだろう。
ああ全く――――望む所だ。
大切な仲間が、そして最愛の人がいる。
これでその日常が楽しくならないはずがない。
「行こう、さつき」
「うん!!」
夕焼けに美しく映える彼女の笑顔に――――
――――もう、翳りなんてどこにも無い。
――――Fin――――