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No.996の一覧
[0] 誘宵月[アービン](2005/11/23 13:06)
[1] プロローグⅠ[アービン](2006/03/25 15:59)
[2] プロローグⅡ[アービン](2006/03/25 16:00)
[3] 第一話 暗黒烙印Ⅰ[アービン](2005/11/23 15:57)
[4] 第二話 吸血姫[アービン](2005/11/23 15:58)
[5] 第三話 死猟[アービン](2005/11/23 15:59)
[6] 第四話 暗黒烙印Ⅱ 前編[アービン](2005/11/23 16:01)
[7] 第四話 暗黒烙印Ⅱ 後編[アービン](2005/11/23 16:03)
[8] 第五話 カルマ[アービン](2005/12/26 21:43)
[9] 第六話 妖の聖歌 前編[アービン](2006/03/08 01:49)
[10] 第六話 妖の聖歌 後編[アービン](2006/03/08 02:09)
[11] 第七話 割れる日々 [アービン](2006/03/25 15:44)
[12] 第八話 境界線 [アービン](2006/07/30 02:36)
[13] 最終話 在る理由 前編[アービン](2006/09/30 04:00)
[14] 最終話 在る理由 中編[アービン](2006/09/30 04:01)
[15] 最終話 在る理由 後編[アービン](2006/10/01 01:30)
[16] エピローグ 夕映えの月[アービン](2006/10/05 02:01)
[17] 後書き[アービン](2006/10/05 01:50)
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[996] 最終話 在る理由 中編
Name: アービン 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/09/30 04:01





「なん……で?」

目の前で起こっている事が理解出来ない。

どうしてさつきがアルクェイドを襲っているのか。

「さつき!!」

あらん限りの声で叫ぶ。

「志貴?」

俺の声にアルクェイドだけが反応する。

さつきは全く反応せずにアルクェイドに襲い掛かる。

その差がわずかにアルクェイドの対応を遅くした。

「ちっ!!」

薙ぎ払われたさつきの爪をアルクェイドはぎりぎりで防ぐ。

だが衝撃を完全に殺し切る事は出来ず弾き飛ばされる。

こちらに向かって飛んで来たアルクェイドを反射的にかばう。

「ぐぅ……!!」

それが失策だと気付いたのは衝突してからだった。

人一人を吹き飛ばすだけの力を受け止めるのは容易い事ではない。

結果、俺はアルクェイドもろとも倒れ込んでしまった。

さつきはその隙を見逃さず飛び掛って来ようとして――――

「戻れ」

廊下の奥から聞こえた声に反応して後ろに下がって行った。

「はあっ、はあっ」

アルクェイドが立ち上がる。

ちらりと一瞬見えたその顔は怒りに歪んでいた。

「アルクェイド、さつきはどうなってるんだ」

「支配されているのよ……アイツに」

忌々しげに言うとアルクェイドは廊下の奥を睨み付ける。

「やっと来たか、志貴」

奥から誰かが歩いてくる。

近づくにつれて明らかになるその姿はやはり――――

「シキ……」

俺の呟きを聞いてシキが笑う。

「おお、ちゃんと思い出してるじゃねえか。
 完全に俺を忘れたのかと心配したぞ」

「御託はいい、さつきを解放しろ。
 お前の相手は俺がしてやる」

怒りを押し殺してシキに言い放つ。

「はっ」

俺の言葉にシキはますます笑みを深める。

「随分この女に入れ込んでるじゃねえか、まあ確かに――――」

言葉を切るとシキは傍に控えていたさつきの肩を抱き寄せる。

「いい女だよなあ、こいつ。
 俺に逆らえないはずの身体を無理やり動かして、
 必死で俺に立ち向かってくる姿には涙が出た。
 結局、気を失うまで俺の支配を拒み続けたんだぜ?」

そう言いながら、シキはさつきの首筋に舌を這わす。

さつきは何の反応も見せず、為すがままにされている。

さつきのあんな顔は見た事無い。

感情と言うものが抜け切った顔。

まるでそれは――――人形。

「どうだ、志貴? 自分の大切なものを奪われる気分はよぉ!?」

「て……めぇ――――!!」

押し殺していた怒りが爆発する。

一息で間合いを詰めるとシキにナイフを振るう。

しかし俺の攻撃はシキに届く前に阻まれた。





「さつ……き」

気が付くとさつきがシキの前に立ちはだかりナイフを止めている。

無造作にさつきがその腕を振るう。

呆然としていた俺はただそれだけで弾き飛ばされた。

「がっ!!」

廊下の壁に叩き付けられて肺から息が押し出される。

「くっ、くくく、あは、あっーはっはっは……っ!!」

シキの笑い声が聞こえてくる。

「それだ、その顔が見たかったんだよ!!
 俺を死ぬほどに憎んで、その果てに絶望する顔が!!
 ほんとに最高だ、ここまでした甲斐がある!!」

痙攣した様に身を震わせながらシキは笑い続ける。

「ひっ、ひひひ、なあ志貴?」

突然、シキはぴたりと笑い止むと俺を見る。

「こいつがお前を殺したら最期にお前はどんな顔をするんだろうな?」

「…………!!」

思考が停止する。

「ああ、その考えはとても魅力的だ。
 全く逆らう事が出来ない程に」

シキが何か言っている。

「安心しろよ、こいつは俺が大事に使ってやる。
 ここまで便利な奴は他にいないからな。
 そうだ、お前を殺したら褒美として、
 お前の血を全てこいつにやる事にしよう」

その瞬間俺の中で、

――――ナニカガキレタ

「じゃあな、志貴」

さつきが俺に爪を振り下ろしてくる。

それを間に割り込んできたアルクェイドが阻んだ。

爪が擦れ合い耳障りな音が鳴る。

「志貴」

ちらりと俺を一瞥した後、アルクェイドが続ける。

「私がさつきを抑えておくわ。ロアは志貴に任せる」

そう言うとアルクェイドは腕の力を抜く。

さつきの身体が前に傾くと同時にアルクェイドは腕を掴み勢いを殺さずに後ろへ投げ飛ばした。





「ちっ、あの女いい所で邪魔をしやがって」

シキがまた何か言ってる。

「まあいいか」

そう言うとシキは懐からナイフを取り出す。

「やはり最期の決着は俺とお前でつけるのも悪くない」

ああもう、さっきから――――

「ごちゃごちゃうるさいんだよ」

一閃。

首を狙った一撃はシキが咄嗟に盾にしたナイフを弾き飛ばす。

間髪入れずに追撃する。

しかしそれはシキが大きく飛び退いた為に腕を掠めただけに終わった。

「てめぇ……!!」

シキが射殺す様に俺を睨む。

「お前俺と殺し合いをしたいんだろ?
 なら言葉を並べるなんて無駄な事する必要は無い。
 まあすぐに殺されたいんだったら止めはしないけど」

「……っ!! はっ、そうかよ。
 じゃあ遠慮無く本気でお前をぶち殺してやる」

だから――――そういうのが無駄だって言ってるのに。

シキが走る。

その動きはまさに獣のもので身体能力の差は歴然。

だが俺達の攻撃は互いに一撃が必殺。

まともに入ればそもそも力なんて関係無い。

だから俺はシキの攻撃を捌きながら隙を探せばいい。

俺が死ぬまでシキに隙が無かったらシキの勝ち。

その前にシキに隙が出来れば俺の勝ちだ。

負ける気なんてしない。

――――シキはきっと隙を見せる。

振るわれるシキの爪をかわし、逸らし、弾く。

一撃受ける度に腕が痺れていく。

そんな事をどれだけ繰り返しただろうか。

「ぐ……」

シキの攻撃を正面から受け止めてしまう。

ナイフと爪がぎちりと噛みあい嫌な音を立てる。

こうなると力の差がものを言う。

いい加減手が痺れていた俺ではナイフを支え切れない。

「はあっ!!」

シキが鬩ぎ合いを押し切る。

ナイフが跳ね飛ばされた俺の手から落ちて廊下の端に転がっていった。

「ちっ、手こずらせやがって……
 だがまあ、これでお終いだな志貴。
 得物を失ってはどうしようもあるまい」

「…………」

ナイフの位置を確認する。

俺のナイフは三メートル後方にある。

取りに行けない距離では無いがそれはシキの邪魔が無ければだ。

シキが目の前にいては立ち上がる間も無く殺される。

「これだけ頑張ったなら心おきなく死ねるだろう?」

一方でその事実が今シキを油断させている。

後、一手足りない。

少しだけでもいい、シキが何かに気を取られれば。

「あばよ」

シキが俺を引き裂こうとしたその時――――

何かがガラスを突き破って飛び込んで来た。

「何っ!?」

あれは――――シエル先輩!?

先輩は音も無く着地した後予備動作も無しに細長い剣を投擲する。

「くそっ、どいつもこいつも邪魔を!!」

シキは素早く向き直ると剣を叩き落す。

突然の背後からの攻撃に対してここまで反応したのは驚嘆に値するだろう。

だが――――それは致命的な失敗だ。

この瞬間シキは完全に俺に背を向けていた。

もし俺がナイフを持っていたらシキは絶対にこんな事しなかったに違いない。

ほら、油断した。

得物が無いだって? もっと周りをよく見ろよ。

そんなんだから足元を掬われる。

お前のナイフがすぐ傍に落ちているじゃないか。

素早くナイフを拾うと手近に見えた肩の『線』を断ち切る。

ごとり、と音がして右肩ごとシキの腕が落ちた。

「ぐ、ぎゃああああああ――――!!」

血が噴出てる右肩の切断面を必死に抑えてシキはこちらを向く。

「志貴、貴様……」

「落し物だ、返してやるよ」

そう言いながらシキの右足の『点』にナイフを突き刺す。

「あ、が……このヤロォォォォ――――!!」

苦し紛れにシキが爪で薙いでくる。

そんなもの最早何の恐怖も感じない。

後ろに下がって難なくかわすと自分のナイフを拾い上げる。

右腕と右足を殺されたシキは身体を支えられずに倒れこむ。

そこへ先輩が投擲した剣が残った手足に刺さり動きを封じる。

「くそがぁぁぁぁぁ――――!!」

シキが血を吐く様な叫びを上げる。

これで……止めだ。

そう確信した時、

「……っ!! しまった!!
 志貴危ない、さつきが……!!」

「遠野君!!」

切羽詰ったアルクェイドと先輩の声が聞こえた。

直後に、背中に衝撃が走る。

「ご……ほっ」

床に強く身体を打ち付ける。

口の中から血が溢れ出す。

最後の最後でしくじった。

背後をおろそかにしていたのは俺も同じだった。

「ごふっ!! き、キサマ……」

……? 何だ今のは?

朦朧となりかけた意識を何とか取り戻し顔を上げる。

目に映った光景に呼吸を忘れる。

「支配が……解け……」

「オマエダケハ……」

さつきが――――シキの胸を貫いている。

さつきは何の表情も浮かべていない。

ただ……眼だけが、他のものを何一つ捉えずにシキのみを見ていて――――

「オマエダケハユルサナイ」





――――周りを凍りつかせる程の狂気を放っていた――――





その言葉が処刑の合図だった。

さつきが爪をシキに突き刺す。

それを引き抜いては突き刺し、突き刺しては引き抜くを繰り返す。

その速さは視認する事すら難しい。

シキと言う存在が原形を失うまで一分もかからなかった。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ」

さつきが立ち上がる。

その足元には肉塊が蠢いている。

信じられない事にそれはまだ生きていた。

もっとも、死んだ方がよほどましだったのだろうが。

「ハアッ――――」

さつきは何かに集中している。

悪寒がする。

気が付けば喉がカラカラに渇いていた。

この感じは、まさか――――

「やめろさつき、それだけはよせ!!」

「よしなさい弓塚さん、取り返しの付かない事になりますよ!!」

しかし俺達の制止の声は遅すぎた。

「ア、アアアアァァァ――――――――」

さつきの叫び声と共に空間が歪み、

――――世界が塗り替えられた――――

どこまでも続く砂漠に、紅い空。

漂う砂塵は辺りを『死』の気配で満たし、

舞い散る木の葉は『生』を枯らし尽くす。

全てが渇ききった、『枯渇』した世界。

「――――、――――」

肉塊が這って逃げようとする。

それは本能的な行動。

誰もが『死』に抱く恐怖。

しかしこの世界の主はそれを許しはしない。

無言でさつきは指を指す。

それで終わり。

木の葉が肉塊を覆い尽くし、

シキと言う存在はこの世界の砂となった。










「はあっ、はあっ……」

さつきの荒い息遣いのみが場に響く。

誰もが何も言えない。

「はあっ、はあっ、はあっ……」

さつきは先程までの狂気は無くなり何かに堪えているような様相をしている。

それが俺の嫌な予感を生む。

「さつき」

意を決して俺は話しかける。

「これで全て終わったんだ。もう結界を止めてくれ」

「出来……ない」

「え?」

苦しげにさつきが答える。

「止まらない、閉じる事が……出来ない」

がくがくとさつきの身体が震えだす。

「しっかりしろ、さつき!!」

「来ない……で、もう……抑えきれない!!」

さつきが搾り出すような声で駆け寄ろうとする俺を制止する。

それがさつきの限界だった。

「駄目、身体が弾けて……!!」

「さつき!!」

「いけません、遠野君!!」

先輩が俺を無理やり抱えて力の限り跳ぶ。

瞬間、さつきの周りから溢れ出るように木の葉が現れた。










かろうじて俺達は木の葉から逃れる事に成功した。

「くそっ、どうなってるんだ!?」

現れた木の葉はさつきの周りに渦巻いている。

今までとは違う、近づくもの全てを無差別に枯らそうとする。

「暴走している……」

アルクェイドが呟く。

「正直、自分の眼を疑うわ。
 さつきはまだ吸血鬼になりきってすらいない。
 それで固有結界を展開するなんてでたらめもいい所よ。
 強大な力は同時に自分も滅ぼす危険性を孕んでいる。
 このままじゃあ――――さつきが負荷に耐え切れない」

さつきが……死ぬ?

「冗談じゃない!!」

そんなの認められるか。

木の葉の渦に踏み込もうとした俺を先輩が止める。

「落ち着いてください遠野君!!
 あの中に踏み込めば私やアルクェイドでもただでは済みません。
 遠野君が入ろうとしても何も出来ずに無駄死にするだけです!!」

「じゃあこのまま見ていろって言うのかよ!?」

「……これは彼女が自分で招いた末路です」

「…………っ!!」

駄目だ、これ以上先輩に言ってもしょうがない。

「アルクェイド!! 何か方法は無いのか!?」

「…………」

俺の問いにアルクェイドは押し黙ったまま何も喋らない。

「アルクェイド!!」

「…………あるわ、一つだけ」

静かに、アルクェイドは言った。

「固有結界は術者の心象風景を具現化したもの。
 故に固有結界と術者の精神は密接な関係がある。
 固有結界が暴走すると精神も乱れる。
 逆に精神が安定すると固有結界も安定する。
 要はさつきが正気に戻れば暴走は収まるって事」

顔を険しくしてアルクェイドは続ける。

「私が力を使えばさつきまでの道をこじ開けられる。
 けど、相当強引な力技になるから長くはもたない。
 もって数分、多分それよりもっと短いと思う。
 そのわずかな時間で志貴がさつきを正気に戻す。
 チャンスは一度だけ、失敗したら死ぬわ」

俺の眼をまっすぐ見つめるとアルクェイドは問う。

「どう? それでも志貴はやる?」

「当たり前だ」

迷う必要なんて無い。

可能性があれば命を賭ける理由として十分すぎる。

「そう……わかったわ」

俺の答えに満足したのかアルクェイドが笑う。

「アルクェイド……なんて事を言うんです!?
 死徒を助ける為に本来無関係な人を危険に晒す気ですか!!」

「そうね、普通に考えたらこんなやり方馬鹿げてる。
 被害を拡げたくないなら私が固有結界を破壊すればいい。
 固有結界内で部分的干渉を維持するよりその方がよほど簡単よ。
 暴走状態の固有結界を破壊されたさつきは負荷で死ぬけどね。
 少ない犠牲で確実。現実的に考えたらそれが最善の選択。
 だけどそんな終わり方、志貴は望んではいないし――――」

アルクェイドがかすかに笑う。

「――――私だって望んでない」

「アル……クェイド」

先輩が信じられないものを見た様な顔をする。

「私が合図をしたら走って。頼んだわよ志貴」

「わかった、任せろ」

アルクェイドが呼吸を止める。

アルクェイドの周りの景色が揺らぐ。

揺らぎは徐々に大きくなり前に広がっていく。

揺らぎが木の葉に到達したその時。

空間に波紋が広がり、木の葉の渦が二つに割れた。

「行って、志貴!!」

その声と同時に俺は全力で疾走する。

段々と狭まる道を駆け抜けていく。

「……さつき!!」

渦の中心、わずかに開けた場所に蹲っているさつきが見えた。

結界の負荷の影響か身体中から血を流している。

さつきの傍に近づこうとして、

「……つ、ああ!!」

灼け付きそうな渇きを感じた。

それと伴って襲う急激な脱力感。

どさり、と音がした。

「は、あ……」

それが自分が倒れた音だと遅れて気付く。

「さつ……き……」

地を這ってさつきに手を伸ばす。

指先がほんの少し、さつきに触れた。

何かが流れ込んで来る。

(サムイ、クルシイ、イタイ――――)

これは……さつきの心?

(サビシイ、ワタシヲミテ、コワイ、ワタシヲミナイデ――――)

混在する様々な感情が俺の頭を掻き回す。

(サビシイ、カワク、カレル、カレハテル――――)

――――タスケテ、ヒトリハイヤ――――

ぽたり、と手に冷たい感触が垂れる。

ようやく俺はさつきは泣いている事がわかった。

その眼は虚ろで、その涙はまるでさつきから潤いが抜け落ちているみたいだった。

「まった……く、馬鹿だろ」

そんなに辛いのに、そんなに助けて欲しかったのに。

どうして心を押し殺そうとするんだ。

よろよろと身体を起こす。

手を伸ばしてさつきの肩を掴む。

べっとりと手にさつきの血がついて紅くなる。

そんなの全く気にならない。

さつきを引き寄せると躊躇無く抱き締めた。

「あ……」

そこで初めてさつきが俺に気付き身じろぎをする。

そんなさつきを俺は固く抱き締める。

「もう、いいんださつき」

彼女をもう離してしまわない様に、

「もう全部自分で抱え込んでしまう必要も、辛い時に独りで泣く必要も無い」

彼女が独りぼっちにならない様に、

「辛い事は俺が一緒に背負う。泣きたくなったら俺の胸を貸してやる」

彼女に寂しい想いをさせない様に、

「ピンチになったら――――」

彼女がもう一度本当に――――

「――――きっと、俺がさつきを助けてみせるから」

――――心から笑う事が出来る様に。

「いい……の……?」

さつきの声は震えていた。

「ああ」

おずおずとさつきが俺の背中に腕を回す。

ゆっくりとさつきの力が抜けて俺に身体を預けてくる。

渇きが無くなる。

薄れていく結界が消える直前、緑に満ちた美しい庭園が視えた気がした。






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