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No.996の一覧
[0] 誘宵月[アービン](2005/11/23 13:06)
[1] プロローグⅠ[アービン](2006/03/25 15:59)
[2] プロローグⅡ[アービン](2006/03/25 16:00)
[3] 第一話 暗黒烙印Ⅰ[アービン](2005/11/23 15:57)
[4] 第二話 吸血姫[アービン](2005/11/23 15:58)
[5] 第三話 死猟[アービン](2005/11/23 15:59)
[6] 第四話 暗黒烙印Ⅱ 前編[アービン](2005/11/23 16:01)
[7] 第四話 暗黒烙印Ⅱ 後編[アービン](2005/11/23 16:03)
[8] 第五話 カルマ[アービン](2005/12/26 21:43)
[9] 第六話 妖の聖歌 前編[アービン](2006/03/08 01:49)
[10] 第六話 妖の聖歌 後編[アービン](2006/03/08 02:09)
[11] 第七話 割れる日々 [アービン](2006/03/25 15:44)
[12] 第八話 境界線 [アービン](2006/07/30 02:36)
[13] 最終話 在る理由 前編[アービン](2006/09/30 04:00)
[14] 最終話 在る理由 中編[アービン](2006/09/30 04:01)
[15] 最終話 在る理由 後編[アービン](2006/10/01 01:30)
[16] エピローグ 夕映えの月[アービン](2006/10/05 02:01)
[17] 後書き[アービン](2006/10/05 01:50)
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[996] 最終話 在る理由 前編
Name: アービン 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/09/30 04:00






「くああっ……」

堪え難い衝動が私を蝕む。

「やっぱり……眼を使ったのはまずかったかな……」

たまらず私はその場に蹲った。

意識が混濁していく。

「あ……」

目の前に志貴くんがいる。

気を失って、無防備な志貴くんが。

スッテシマエ

私の中で弱い私が囁く。

それはとても甘美な誘惑。

ふらふらと志貴くんに近寄って肩を掴む。

しばらくその首筋を見つめる。

「はあっ、はあっ……」

ゆっくりと私は口を開く。

牙が肉を突き破る。

口の端から血が一筋垂れていった。










「ああ……」

身体の力が抜けて後ろに倒れこむ。

噛み切った唇の傷を拭う。

「よかった……」

止められた。

その事がどれほど私を安堵させてくれたかわからない。

涙が溢れてくる。

相変わらず衝動は身体を蝕んでいる。

気を抜けば一瞬で自分は崩壊するだろう。

それでも……大丈夫だ。

弓塚さつきは堪えられる。

そう思う事が出来た。

涙を拭いて立ち上がる。

ふと志貴くんを見下ろして呟く。

「帰ってきたら、志貴くんの恋人になれるかなぁ?」

言って、くすりと笑う。

「それじゃ、行ってきます」

倉庫の扉を開け放つ。

青く澄んだ月の光が差し込んでくる。

大きく深呼吸をして私は外へ歩きだした。










静まり返った夜の学校に私の足音だけが響く。

吸血鬼の居場所を見つけるのは簡単だった。

さっきから私を呼ぶ声が頭の中でしていて酷くうるさかったから。

今更私を呼んで何がしたいのか知らないけどこっちとしては好都合だ。

「…………!!」

突然、身体が悪寒に襲われた。

――――来る。

肩の震えを手で抑え込んで、廊下の奥の闇を見据えた。

闇の中から悪寒の原因が現れる。

「ようやく観念したか」

それは男のカタチをしていた。

顔は包帯に覆われて見えないが、隙間から覗く眼から狂気が洩れている。

そして何よりもこの男には周りを塗り潰す様な濃い『死』の気配がする。

正直、恐くてたまらない。

だけど――――

「まさか、意地でも貴方になんか屈してやらない。
 私は貴方に従う為にここに来たんじゃない。
 貴方を倒して全てに決着をつける為に来たの」

ここで屈したらそれは弓塚さつきという存在を放棄したという事。

それでは……あまりにも失礼だ。

そんなんじゃあ――――志貴くんに顔向けが出来ない。

「はっ、わかんねぇ奴だな。
 仮にだ……俺を倒せたとして、その後どうする?
 結局お前が化け物だっていう事実は変わらない。
 ならどっちにしろお前は闇の中で生きていくしかない。 
 お前はもう二度と光の下で歩く事など出来ないのだから」

「歩けるよ」

「あ?」

嘲笑いながら言った男に対してきっぱりと言い放つ。

「確かに私もそう思ってた。
 でも私がどんなに深い闇にいても光を照らしてくれる人がいる。
 その人がいる限り私は光に向かって歩いて行ける。
 だから、後はただ……私が闇を振り払うだけ」

「は……」

男の口元が歪んだかと思うと、

「あは、あっーはっはっは……っ!!」

男は狂った様に笑い出した。

「なるほどねぇ……
 それがお前の戦う理由か。
 おもしれぇ――――」

男は心底愉快そうに私を見る。

「いいぜ、そこまで言うのなら少し遊んでやるよ」

言葉と共に押し潰されてしまいそうな程の殺気が放たれる。

逆らうな、と身体が告げる。

逆らえば死ぬと生存本能が危機を訴えている。

――――そんなの知らない。

本能の叫びを押し殺す。

唇を噛み切り、その痛みで身体の硬直を無理やり解く。

――――前に踏み出せ。

床を砕けるぐらい踏みしめて男に飛び掛る。

鋭く伸ばした爪を男に向かって振り下ろした。




















「……っ!!」

目覚めると同時に弾けた様に俺は身体を起こした。

多少眩暈がしたがそんな事はどうでもいい。

辺りを見回す。

わかりきっていた事だがさつきはいなかった。

「わからず屋」

静かに、怒りを込めて呟く。

「幸せ? 違うだろさつき。
 これからじゃないか……
 幸せになるのはこれからだろ!!」

拳を床に叩き付ける。

――――決めた。

そっちがそうするならこっちも意地だ。

「絶対に、嫌だって言っても助けてやる」

決意と共に立ち上がると、俺はさつきの元へと駆け出した。










見慣れているはずの学校は全く異質なものに見えた。

心臓が破裂しそうな程に鼓動している。

走ってきたからではなく、ここの気配に中てられた所為だ。

ここは……やばい。

だがさつきはこんな所で独り戦っている。

なら、迷う余地なんて何処にも無い。

校門をくぐり、俺は校舎の中へ入ろうとした時――――

「来たか、人間」

それは闇が湧き出るかの様に現れた。










「ネロ・カオス……」

俺に恐怖を刻みこんだ存在。

しかしその姿は以前より弱って見えた。

両腕は無く、心なしか身体も少し小さくなった気がする。

なのに……どうしてこうも恐ろしく感じるんだ?

その時、校舎の窓ガラスが一枚割れた。

その音に我に帰る。

そうだ、急がなければさつきが――――

「ふん、中の様子が気になるか」

不愉快そうにネロが言葉を発する。

「先ほど、姫君が中に入って行った。
 弱ったと言っても真祖の姫君。
 蛇ではおそらく敵うまい」

アルクェイドが?

「なぜそれを俺に言うんだ?」

言葉の内容も気になったが、それよりもネロの意図が読めない。

「貴様は私に死の危機をもたらした。
 それを克服する為に私は貴様を殺す。
 本気でない貴様など殺しても意味が無い」

――――感じていた恐怖の原因を理解する。

以前の俺はネロにとって獲物に過ぎなかった。

今は違う。

今のネロは俺を敵として見なしている。

『狩る』のではなく『殺す』

今のネロに慢心は無い。

ポケットからナイフを取り出し、眼鏡を外す。

避けては通れない。

そんな事を考えていては即座に殺される。

「ふっ」

俺を見てネロがかすかに笑う。

「では、行くぞ」

急に辺りが暗くなる。

不審に思って空を見上げると――――

「なっ!?」





百近い数の鴉が号令を待つように並んでいた。





「喰らい尽くせ」

黒い弾丸の様に襲い掛かってくる鴉の群れ。

いや、本物の弾丸の方がまだましかもしれない。

咄嗟に飛び退いてかわす。

かわしても、かわしても追ってくる。

「くっ」

嘴で頭を抉ろうとした鴉をナイフで解体する。

「がっ!!」

その隙に別の鴉が腕を抉る。

「くそっ……」

鴉を振り落とし、再び飛び退く。

ネロが攻撃に使っているのは鴉のみ。

おそらくネロの出す獣で最弱だろう。

一羽なら問題ない。

多くても動きがばらばらなら何とかなるかもしれない。

だがそれが統制されたものだとしたら?

一羽倒せばその隙を突いて攻撃してくる。

迂闊に戦うと、たちまち包囲される。

後はただ、死肉の様についばまれて殺されるだけだ。

統制された群れの恐ろしさ。

『大群』というより『大軍』

俺がどんなものでも殺せるとしても一度に殺せるのは一つのみ。

ネロはその弱点をつき、数と連携で勝負している。

更に本体のネロは一定の間合いを保ち決して俺を近づかせない。

隙が無い。

このままではじわじわと消耗させられて殺される。

「どうする……?」

周りに何も無い校庭ではこちらが圧倒的に不利だ。

どうにかして場所を変える必要がある。

逃げ回りながら少しずつ校舎に近づく。

ネロは俺より校舎に近い位置にいる。

迂回して校舎に入ろうとしてもさせてくれないだろう。

そうは言ってもこのままではどうしようもないのも事実。

なら――――危険を承知で突っ切るしかない。

「むっ?」

意を決して群れが比較的密集していない場所に突っ込む。

「ぐ……!!」

鴉達が容赦なく襲い掛かってくる。

みるみる内に体中に傷が出来る。

痛みに気を取られるな。

足を止めればその時点で死ぬ。

ナイフを振り回しながらひたすら前に進む。

校舎が間近に迫る。

悠長に入り口を探している余裕なんて有りはしない。

勢いそのままに飛び込むと窓を突き破った。

「かはっ――――」

床に叩き付けられて息が詰まる。

身体中にはガラスの破片が突き刺さっている。

「はあっ、はあっ――――」

のんびりしている暇は無い。

急いで立ち上がると窓に向き直る。

予想していた追撃は来ない。

「やばいな……」

ここですぐ追撃が来たのならばらばらに来る所をある程度撃退出来た。

ネロはもっと慎重に、冷静に俺を追い詰めようとしている。

だがわずかに時間は得られた。

「考えろ、奴を倒す方法を」

俺にあの鴉の群れを全て殺しきるのは不可能だ。

勝つのなら本体のネロを直接殺すしかない。

一番問題なのは奴に近づけない事だ。

何とか奴に近づく事さえれば――――

「――――!!」

ガラスの割れる音。

見ると俺からやや離れた窓から鴉が次々と入り込んでいる。

「ちっ……」

鴉の方に向き直った直後に別の方向でガラスの割れる音がした。

「え?」

後ろを見るとさっきと反対の方向の窓から鴉が入り込んでいる。

何て――――迂闊。

鴉の群れがずっと一つにまとまっていたといっても、二手に分かれる事も有り得るのを失念していた。

このままでは前後から挟み撃ちにされる。

「まずい……!!」

周りを見回す。

鴉はまだ襲っては来ない。

十分な数が集まってから一気に突撃させるつもりの様だ。

かと言って挟まれている今の状況で突破するのは難しい。

その時、ある物が目に止まった。

これは――――

「終わりだ、人間」

声がした方に目を向ける。

廊下の奥にネロ・カオスの姿があった。

鴉を突破して走り寄るには遠く、こちらの動きが把握出来る程度には近い間合い。

ただ特攻しても決してその間合いは崩せないだろう。

「ああ――――」

故に俺の勝機は奇襲のみ。

相手の意表をつく、動きが乱れている間に殺す。

だが奇襲には常にリスクがある。

失敗すればそれは死を意味する。

……それでもやるしかない。

「これで決着だ!!」

叫ぶと俺は拳を壁に着いている非常ベルに叩き付けた。

静寂を打ち破る様にベルが鳴り響く。

「ぬっ!?」

ネロが一瞬騒音に気を取られる。

「これでもくらえ!!」

備え付けられていた消火器をネロに向かって投げ付ける。

「むっ」

咄嗟に鴉に迎撃させるネロ。

鋭い鴉の嘴は消火器すら突き破る。

――――俺の思惑通りに。

瞬間、消火器が破裂した。

「何っ!?」

粉塵が辺りに充満する。

一時的に視界が塞がれる。

この状況では何も見えない。

――――俺が視ている『死』以外は。

一気に俺はネロに走り寄る。

「おのれ!!」

ネロが手当たり次第に鴉を襲い掛からせてくる。

出来るだけ身を低くして攻撃に当たらないようにする。

一瞬前にいた場所が砕かれてゆく。

もっと速く。

もっと速く足を動かせ。

ネロに近づく。

後数歩近づけばネロに飛び掛れる。

そう思った直後。

「ぬあああああ――――!!」

雄叫びと共にネロの中心から馬鹿でかい三本の爪が生えた腕が現れる。

「なっ……!?」

ネロが空間ごと俺を薙ぎ払おうとする。

断ち切る――――三本同時には一気に断ち切れない。

前に飛び込む――――まだ懐に飛び込める程近くない。

横に避ける――――廊下の幅では避けられない。

後ろに下がる――――そうすれば鴉の餌食になる。

駄目だ――――かわせない。

終わった。

遠野志貴はネロ・カオスに敗北した。

振るわれる爪は俺をただの肉塊に変えるだろう。

「あ……」

いいのか、それで。

まだやり残した事だってあるのに。

諦めてしまっていいと言うのか。

違う……!! そんなわけない!!

「こんな所で……終わってたまるかぁ!!」

どくん、と心臓が高鳴る。

巻き起こる死の暴風。

振るわれた腕はその風圧だけで粉塵を吹き飛ばした。

凄まじい風圧に俺は『天井』に押し付けられる。

無我夢中だった俺は壁を足場にして跳び、天井に張り付いていた。

「な……に!?」

ネロは驚愕の目で俺を見る。

それがネロの唯一の、

しかし致命的な隙だった。

天井を蹴る。

ネロが俺を迎撃しようとする。

だがそれより一瞬早く――――俺はネロの『極点』を貫いていた。





「ふん……」

ネロの身体が崩れていく。

「油断したわけではない。
 驕りを捨て、策を練った。
 万全の準備までしたというのに」

かすかにネロが笑った気がした。

「それでも……滅ぼされるとは。
 全く――――――――」

すっ、とネロが目を瞑った。

「実に、面白い」

それが……ネロ・カオスの最期の言葉だった。










「はあっ、はあっ、はあっ……」

いつの間にか手が震えていた。

強かった。

間違い無くネロ・カオスは強かった。

もし、もう一度戦ったら確実に俺が負けるだろう。

たまたま奇策が成功して、たまたま足掻いた結果が上手くいっただけ。

生きてるのが不思議なくらいだ。

極限の緊張が解けて床に倒れ込みそうになる。

「まだ……だ……」

まだ本当に倒すべき敵が残っている。

へたりこんでいる時間は無い。

「待ってろ……さつき……」

鉛みたいに重い身体に鞭を打って走り出す。

さっき窓が割れたのは一番上の階だった。

おそらく今戦っている場所はそこだ。

階段を駆け上る。

最上階に近づくにつれて争っている音が聞こえてくる。

取り壊し工事の様な凄まじいその響きに俺の焦りが増していく。

「くそっ!!」

ようやく最後の階段を上りきり廊下に飛び出す。

「――――え?」

目に映ったあまりに予想外な光景に思考が停止する。

そこには――――無表情でアルクェイドに爪を振り下ろしているさつきの姿があった。






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