超番外編final ~さらば聖杯戦士(セイント)たち~
(前回までのあらすじ)
死闘(?)のすえ、最強最悪のサーヴァント・英雄王をも倒した士郎たち
(通称・衛宮さんチーム)。これで狂った聖杯戦争にも、ついに終止符が
打たれる! そう思い、"この世の全ての悪"を破壊すべく、大聖杯へと急ぐ
一行(士郎&妖夢、凜&咲夜、桜&アリス)だったが……。
大聖杯へと続く道に足を踏み入れた士郎たちは、イヤな予感にとらわれていた。
すでに「邪魔するヤツらは指先(ガンド)ひとつでダウンさ~」でいないはずなのに。
――具体的には、言峰とか、マーボーとか、まっちょ神父とか。
「うっ……これは!!」
「いかがされたのですか、士郎様!?」
「なッ、何よ、これーー!?」
「り、凜お嬢様?」
彼らの目の前には異様な光景が広がっていた。
オリエントというか、エスニックというか、チャイナな趣きのそこかしこに
あふれる南国風味……それも、ハワイとかグァムではなく、どちらかというと
タイやミャンマーといった東南アジアっぽい情緒の建造物で彩られた、広大な庭園。
あちらこちらに点在する、大きなトラの置物がシュールだ。
「あぁっ、まさか、これは!!」
「知ってるのか、桜?」
「ええ、間桐の家の古い書物で読んだことがあります」
どうやら目立たないという自分の欠点を補うべく、桜は解説役を務めるつもりらしい。
「その場に足を踏み入れるだけで、魔術や特殊能力が弱められる固有結界があると。
その名も"虎喝庭園(タイガーバームガーデン)"!!
どうして、ひとりひとつのはずの固有結界が、書物に乗っていたのかは、永遠の謎だ。
「うっ……そういえば、妙に身体が重いわね。上海たちは大丈夫?」
(あまり……大丈夫じゃ、ないかも……)
元々魔女であるアリスや、魔力で動く彼女の人形たちは、少し辛そうだ。
「無理しないほうがいい。アリスたちは念のため、この庭園の端で待っていてくれ」
「そうね、悔しいけど、このままだと足手まといになるから、そうさせてもらうわ」
アリスを除く5人は、一路、庭園の中央にそびえる建物へと向かう。
「バカな!? これは……衛宮邸(ウチ)の道場?」
士郎がそう叫んだのも無理はない。
オリエンタルな雰囲気バリバリのこの庭園には似つかわしくない、その和風建築物
は……どこをどう見ても、士郎たちが昨日も鍛錬していた剣道場にそっくりだったのだ。
「クッ。どうやら、敵さん誘っているみたいね。上等だわ!」
「あ……姉さん、開けちゃダメです!」
慌てて桜が制止するが間に合わず、すでに凜の手が道場の玄関を開いていた。
つぎの瞬間、扉を開いた凜のみならず、その場にいた全員が、道場の中に立っている
ことに気づいた。
「ようこそ、我がタイガー道場へ!」
「ようこそ~!」
中で5人を迎え入れたのは、虎のストラップの付いた竹刀を持ち、白と藍の稽古
着姿で仁王立ちしている若い(おそらくは20歳代の)女性と、体操着&今となっては
絶滅寸前のブルマーに身を包んだ白銀の髪の美少女。
「あ、あなたは!」
「―なんだ、藤ねぇとイリヤか」
せっかく凜が作った”ため”を無視してあっさり敵の正体をバラす士郎。さすがは、
”「Fate」1空気の読めない男”の称号はダテではない!
「む……桜、ちょっと、士郎をあっちにやって」
「はい、姉さん。さ、先輩、ちょっとこっちへ」
ん? なんだ、桜? うわ、なにする、はなせ……
あはっ、だしちゃえ
さくら、それキャラが違う……よせ、や、やめ……
「そ……それで、どうして藤村先生が?」
背後から聞こえる雑音(というより絶叫)を、あえて無視して凜が仕切り直す。
「ふ、私は、花も恥じらう可憐なる女教師・藤村大河ではない! いまの私は
この虎喝庭園の創造主にして、タイガー道場の主、マスタータイガーよ!!」
「押忍、弟子1号っす」
「はぁ……それで、何の御用ですか? 私たち、ちょっと急いでるんですけど」
ふたりのノリノリな挨拶に腰砕けになりながらも、質問を続ける凜。意外に
律義だ。
「ふ、知れたこと……」
もったいをつけて腕を組み、カッと目を見開くタイガ。
「この先へ進みたければ、私を倒して進みなさい!」
「……要するに、東方聖杯本編で出番がなくてヒマなので、構ってほしいと言
うことですか」
「なるほど、”ちょっと我が侭で困ったちゃんだけど、気さくな年上の姉貴分”
のポジションを紫様に取られていますからね」
咲夜と妖夢のツッコミに、泣き崩れるタイガ。
「わ、私だって……私だって目立ちたいのよぅ」
「それはわかりましたけど……藤村先生、私たちに勝てるつもりなんですか?」
呆れ返る凜と違い、一応相手をしてあげるのは、桜なりの優しさなのだろう、多分。
ちなみに、いつの間にやら戻ってきた士郎と桜のふたりとも、妙にサッパリした顔を
してるが、深く追求しないのが紳士淑女のたしなみ、というヤツである。
「フッ……桜ちゃんたちこそ、気づいてないの? この道場に入った瞬間から、
あなたがたの魔術や特殊能力はすべて封じられているのよ!」
一瞬にして立ち直り、得意げな表情を浮かべるタイガ。
(今泣いたカラスがもう笑った)
という童謡を思い浮かべる士郎。
「もちろん、宝具も発動しないわよ。それどころか呼び出すことさえ出来ないからね」
「はぁ……」
気のない返事を返す士郎。
「何よォ、絶体絶命のピンチでしょ。少しはあせりなさいよ。そいでもって、もうダメ
だーっ、て思った土壇場で、すっごい合体協力技とかを思いついて、それでかろうじて
勝利をおさめるのが、こういうシチュエーションの醍醐味でしょうか?」
何やら不服げな虎の言葉に、疲れた口ぶりで士郎は反論する。
「じゃあ、聞くけどな、藤ねぇ。たとえ魔術とかが使えなくても、俺達5人に勝てる
と思うのか?」
言われて、ハテ、と首を傾げるタイガ。
(桜ちゃんは、戦力外よね。弓道の腕前はそれなりだけど、普段の運動神経とかは
あんまりないし……)
何気にヒドいことを考えながら、それ以外の4人の顔を見回す。
遠坂凜 一級の魔術師。魔術師といえばひ弱という既成概念を打ち破って、
じつは中国拳法の使い手で、実力はかなりのもの。
衛宮士郎 ヘッポコ魔術師。ただし、幼いころから我流ながら剣の稽古に励み、
その打たれ強さと回復力は、セイバーである妖夢のお墨付き。
十六夜咲夜 メイドにしてアーチャー。冥土真拳の使い手……ではないにせよ、
その素早い身ごなしと、ナイフの扱いは達人クラス。
魂魄妖夢 セイバー。剣士としての実力は折り紙つき。"冬木の虎"と恐れられた
自分でさえ、まともに十合と打ち合えるかは疑問。
一方、味方は……。
弟子1号 桜同様、魔力がなければ戦力外。
道場主 剣道有段者
結論:はっきり言って無理。
「くっ……しかし、こちらには、宝具"虎竹刀"(ランクE--)がある!」
結果――やっぱ無理でした。
(をわり)
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<後書き>
「18章がなかなか進まず、イライラしてやった。本人は反省している」