一方、キリハ達の方は乱戦となっていた。各所に散らばり、敵味方入り乱れての戦闘。そんな中、滝忍の一人が印を組む。「土遁・土陵返し!」突進してくるサクラに向け、滝忍の一人が土遁を使ったのだ。手で叩きつけられた場所の地面が割れ、まるで畳のようにめくれ上がる。だが、サクラはそれを見ても止まらない。頑丈な土の壁に対し、真っ正面から拳を打ち付けたのだ。激音と共に、土の壁が粉砕される。「馬鹿なあ!?」---桜花衝。サクラの怪力の一撃により土の壁はあっさりと粉砕され、後ろに居た滝忍までも吹き飛ばした。それは致命打には至らなかったものの、滝忍にそれなりのダメージを与えた。そこに、更なる追撃を仕掛けようとする。だが、横合いからもう別の忍びがサクラを襲う。「土遁・土陵団子!」上忍クラス、いわゆるランクBの土遁系の術。土で出来た巨大な、ゆうに直径10mはあろうかという団子がサクラを押しつぶさんと迫る。だがサクラは、それも逃げずに真っ向から打ち砕く。「痛天脚!」師匠譲りの怪力を活かした蹴りで、巨大な団子を真っ向から“蹴り飛ばした”。「ぐあああああ?!」後方にいた滝忍は、跳ね返ってきた巨大な団子に真正面からぶつかってしまう。そのまま、吹き飛んだ。「どうしたの、こんなもん!?」桃色の怪力娘は今日も絶好調であった。その少し前、ヒナタと対峙している滝忍は、焦っていた。数で囲んで優位に立っている筈だったが、なかなか仕留められないのだ。遠間からクナイや手裏剣を投げるも、全てがその白眼で捉えられ、避けられてしまう。瞬身の術で切り込んでも、反撃の柔拳を受けてしまう。突破口を見つけられない。何とかしなければ、と思考に意識を割いているその時だった。「なっ!?」横合いから、巨大な岩塊が飛んできたのだ。その軌道上にいた滝忍は驚きながらも、瞬身の術を使う事で何とか避けきる。だが、避けたその先には、ヒナタの姿があった。「はっ!」「ちぃ!」ヒナタは瞬身の術で移動した滝忍に対して更に一歩踏み込み、牽制である抜き手を放つ。それを防御し退いた相手を追い、間髪いれず更に踏み込む。今度は回し蹴りを放った。「喰らうか!」滝忍は側頭部に来た一撃をしゃがみ込むことでかわし、そして手に持ったクナイで即座に反撃に映る。だが。「ぐあっ!?」付きだした腕は、ヒナタの繰り出した一撃で止められる。白眼で相手の攻撃の軌道を見切り、クナイが突き刺さる前にクナイを持った敵の腕部を両手の掌で挟み込み、止めたのだ。もちろん、掌にはチャクラが篭められている。腕に奔る激痛のせいで、身を硬直させる滝忍。---ヒナタの間合い中にも、かからわず。「させるか!」そこに、もう一人の滝忍が、仲間の窮地を救おうと無造作に間合いを詰める。白眼の視界内に捉えられている事も知らずに。「なっ!?」背後から仕掛けた攻撃だったが、こちらに視線を移さないまま片手だけで払われる。そして、気づいた時には遅かった。懐に潜り込まれていたのだ。誘いだったか、と滝忍は悟った。体勢からいって、避けられない。ならば耐えるまでだと、来るべき衝撃に耐えて見せようと、腹筋を閉じ痛みを覚悟する。だが、その覚悟は無意味だ。「・・・・っぁ!?」腹筋を意に介さず、胃へ抜けた衝撃。男は呼吸すら出来ず、その場にへたり込んだ。ヒナタは返す刀で顎へと掌打を放ち、男の意識を刈り取る。「・・・・!?」そして殺気を感じ取り、振り返る。見れば、先程腕に柔拳を叩き込んだ男が、起爆札付きのクナイをこちらに投げようとしていた。「死ね!」それが、殺意と共に投げられる。だが、黙って爆殺されるヒナタではない。「八卦空掌!」軌道を見切り、クナイがこちらに届く前に八卦空掌の衝撃でそれを打ち落とす。打ち落とされた起爆札が爆発。滝忍はそれに巻き込まれないよう、再び瞬身の術で移動する。だが、直後滝忍の腹部を、衝撃が襲う。「・・・柔歩双獅拳」白眼の少女の声を最後に。柔拳の一撃を喰らった滝忍は、意識を失った。「・・・次は?」拳に雌獅子の迫力を乗せたまま。ヒナタは残る敵に向け、宣言した。「なら、こちらから行くね?」「・・・赤丸!」「ワン!」一方、キバと赤丸も頑張っていた。シノの隣に待機し、相手がシノに近づこうとしれば、その速度を活かした体術により撃破していく。「行け、虫達よ!」シノは相変わらずの無表情のまま。相手の間合い外から虫を使い、チャクラを搾り取っていた。近接のキバと、遠距離のシノ。その連携に隙は無く、相手は迂闊に近づく事もできない。「そこだ!」時間が経てば経つ程に、相手は劣勢になっていった。一方、少し離れて。いのの方は、複数の敵を幻術で足止めしていた。そこに、シカマルの影縛りが決まる。「チョウジ、肉弾戦車!」「分かった!」チョウジが自分の全身に鋼糸を絡ませ、倍化の術を使う。そして鋼糸の先についた取手を、いのが掴む。「・・・今だ、いの!」シカマルの影縛りが解かれたと同時。「おらあああああああ!」いのが、取手を掴み振り回す。秘術・回転超特球の術。木の葉の白い悪魔が使う武器を参考に開発した新術である。影で捕らえられなかった滝の忍びが水遁とか使ってくるが、関係ない。もの凄い勢いで振り回された肉弾が、その全てを弾き飛ばした。「く、怪力女め! ならば上だ!」滝忍が、死角である上からいのを襲う。だが、それは読まれていた。「ってえ、誰が肩幅広いのよ!」回転の勢いを活かし、そのまま上へと放り投げたのだ。滝忍は肉弾に直撃し、森の向こうへと吹き飛んでいった。その隙にいのとシカマルに攻撃を加えようと、肉弾を受けて弱っていた滝忍が、何とか距離を詰めようと走り出す。だが、2人は一目散に後退していた。そこに。「・・・ん、影?」つられて見上げる滝忍。そこには。「巨人!?」超倍化の術を使って巨大化したチョウジがいた。あたりに、地響きが広がっていった。「はっ!」「ふっ!」鉄が交差する。チャクラが荒れ狂う。そんな中、互いの群れ、その首領格である2人は殺意を交えていた。邪魔する者はいない。全員が、周りで同じように戦闘を繰り広げている。男が、訊ねる。「く、やる・・・っ!」クナイを手に持ち、一薙ぎ。上忍にしても速いその一撃を、キリハは目で捉えて、避けきる。だが、避けた筈のクナイが通った後、キリハの皮膚に一筋の赤が描かれた。「飛燕・・・!?」見れば、男のクナイからは風の刃が生えていた。だが、その刃の長さは木の葉の上忍、猿飛アスマにも匹敵する程だった。切り裂かれた首筋を触る。やや余裕を持って避けたのが功を奏したようだ。動脈までは届いていない。「・・・ならばこっちも!」キリハも、風の性質変化を得意とする忍びだ。相手の術に対抗すべく、クナイに風の刃を纏わせた。「・・・面白い!」「こっちは面白くないけどね!」互いに打ち合う。風の刃が乱舞し、余波によって周囲の地面や木々に斬撃の跡が刻まれていく。「はっ!」「くっ!」技量はほぼ互角。だが、気迫はキリハの方が上だ。シグレは徐々に押され、後退していく。「そこぉ!」「甘い!」決めの一撃、威力のある大振りの一撃をキリハが繰り出す。だが、シグレはそれを読んでいた。大振りの隙を見極め、キリハのクナイの横腹に自らのクナイを当てる。---武器破壊だ。滝忍の一撃は見事にクナイを捕らえた。キリハのクナイが砕け散る。だが。砕かれてなお、キリハの攻勢は止まらない。砕かれたクナイに構わず、腰に手を引きよせ、更に一歩踏み込んだのだ。近接の間合い、必殺の間合いから、掌打が放たれる。「破っ!」踏み込み、螺旋を描く軌道の掌打。月光の下、兄との一戦で学習したキリハ。体術の理合を自分風にアレンジし、その理の長する所を推測。自らに適するようにくみ上げたのだ。前だけを見続けた、一撃。対するシグレは、武器破壊の達成感に気を取られて防御が間に合わなかった。胸に掌打を受け、吹き飛ぶ。「・・・勝負あったね?」キリハは掌の先から返ってきた手応えを認識し、告げる。少なくとも数本は折った筈だ。もう満足に動けまい。気迫に押されたシグレが、後ずさりながら喚く。「・・・くっ、何を怒る事がある! 忍びなど所詮は国の道具だろう。あれも我も只の道具だ。怒る必要が何処にある!」「任務のため感情を割り切って己を統制する事と、人を道具として使う事・・・違う! 絶対に違う、一緒にするな!」都合良く理屈を並べ立てるな、と言う。仲間の意志を無視し、仲間の意識を認識しない。里を守る盾や矛。いわゆる“道具のような”、役割である事。人としての尊厳を無視し、人を“道具”と決めつけ、扱う事。同じではない。決して、同じではないとキリハは思う。「・・・戯れ言を! あれは仲間などではない。そも、人間ですらない、生まれついての兵器だ! 兵器を兵器として扱って何が悪い!」「・・・一体、何を見てそれを言う!」チャクラが、ぶつかる。互いに距離を取る。そこで、キリハは気勢を抑える。静かな声で、言う。「・・・何を信じてそれを言うの? 私には、分からない」里の者と、話していて分かった事があった。失った者を惜しみ、その原因を憎む気持ちは分かる。だが、年月と共に風化し、さらには歪められた情報を与えられた人達の言葉を聞いて、思ったのだ。---何を憎んでいるのか分からない。何かを憎むのではなく、憎む事に意義があるのだと信じているようだった。彼らにとって、真実などどうでもよい。自分の信じた理屈に従って、それを信仰している。そんな風に思ったのだ。人としての何かを見ずに、情報だけで肩書きだけで人を判断する。その目の中に、一体“誰を”映しているのか。「分からない? 皆思っているだろうが。分からないとすれば、お前がおかしいのさ。爆薬と一緒に居たい人間など、存在はしない・・・誰もがそう思っている筈だ」だから、俺は間違っていないと。この解答は正しいのだと断言する。「もう、いい」キリハは意を決した表情になる。対するシグレも、切り札を切る構えを見せる。「・・・俺は、ここで負ける訳にはいかない。里の未来のため、お前達を逃がすわけにはいかない」「・・・逃げないから、来なさいよ」互いに構える。距離は10間、18m余り。そこから、互いに一歩踏み出す。互いに上忍、一歩といっても常人のそれとはかけ離れていた。狭まり、対峙、その距離僅か。一足一刀などと生ぬるい間合いではない、致死の間合い。命を天秤の上にのせる距離。「殺っ!」掛け声と共に、抜き手を放つ。手には風の刃が在った。素手の速度に必殺の切れ味を持つ、シグレの奥の手だ。---風遁・飛燕斬。「破っ!」対するキリハは、掌打。だがチャクラを発し、止め、威力を高めたそれ。微量だが性質変化を織り込んだ、キリハの奥の手。---風遁・螺旋丸。息のかかる距離まで近づき、互いに交差した。余波による突風が、2人の交差した地点から吹き荒れる。「・・・くっ」キリハが肩を押さえてうずくまる。かなり深くまで斬られているのか、血が勢いよく噴き出していた。飛ぶ燕の如き鋭利な一撃は、キリハを捕らえていたようだ。---だが。「・・・・・・かはっ」竜巻の如き一撃を受けたシグレは、その螺旋に脇腹を抉られていた。そのまま、前のめりに倒れる。風の性質変化を含んだ螺旋は、その余波により竜巻を生み出した。それは飛燕の一撃を弾き、逸れた刃が喉ではなくキリハの肩を裂いた。竜巻は進路を変えず、標的をそのまま貫いた。(・・・間一髪だったな)肩の傷を見て、呟く。もしかしたら負けていたかもしれない。(・・・まだ、遠いか)いつかの兄の背中を思い出し、空を見上げる。空は暗雲。キリハの今の心中を現しているかのように。「・・・さて、と。止まっている場合じゃないや」自分の頬をはり、周囲を見渡す。(戦闘は終わったようだね)満身創痍になりながらも、何とか立っている味方を見て安堵のため息を吐く。どうやら、全員が無事なようだ。「・・・・急がなきゃ」先に戦っていた場所から、少しはなれたところで。「しぶといな・・・・」「お前がな・・・」互いに息を切らせながら、2人はにらみ合っていた。情報の利があるメンマだったが、相手の対応の早さと戦術の引き出しの多さに、攻めきれないでいた。一度全速の踏み込みから、影分身の陽動を活かして螺旋丸を決めたのだが、心臓を一つ潰すことだけしかできなかった。同じ手は2度通じない。戦術もいよいよ限定され、息も切れていた。角都は角都の方で、全方位からの地怨虞による触手攻撃をも振り払う、メンマの卓越した動きを捉えきれないでいた。先の踏み込みによる一撃にも、驚いていた。スピードで劣る角都はどうしても後手に回ってしまい、守勢ぎみ。遠間から得意の複合忍術を放つも、相手はそれを捌く。未だ、決定打を当てられないでいた。にらみ合う双方。やがて、動かなくなってから数分が過ぎた頃。「「っつ!?」」2人は同時に、同じ方向を見る。視線の先の木から、やがて男が生えてくる。「・・・こんな所にイタノカ、角都。滝隠れの忍達、全員敗れたよ。それで、木の葉の忍び達がこっちに向かってイル」「・・・思ったより速かったな」角都は尖ったアロエを身に纏う男の姿に驚きもせず、その情報を噛みしめた後静かに舌打ちをする。(・・・ってああ。暁のメンバーか)メンマは、実物で見るにはあまりにも異様な男の姿に驚き、硬直していた。確かにトゲトゲアロエヤローだ。メンマは原作のナルトの表現が至極正しいものだったと、今思い知った。名前を確かゼツとかいう、情報収集専門のメンバー。あしゅら男爵みたいな顔をしているが、2人が合体しているのだろうか。音隠れの、左近と右近みたいに。「・・・ちっ、チャクラも残り少ない。強引に押し切ってもいいのだが・・・・」角都はメンマを睨みつけたまま、再び舌を打つ。メンマの手には、螺旋丸が握られていた。「・・・数が増える。リスクが大きいか。仕方ない、撤退する」「・・・分かったヨ。飛段は回収しておくネ」「頼んだ・・・・おい」角都がメンマの方を向き、言葉を投げかける。「というわけで、決着はお預けだ。次、会った時には必ず終わらせる」殺気も露わに、角都はメンマの心臓の方を指さし告げる。「お前は俺が殺す。そして今奪われた心臓の代わりに、お前の心臓をえぐり取ってやる」だからそれまで誰にも殺されるなよ、と嗤う。「・・・あの蛇野郎と違って、心臓抜かれればふつーに死ぬ身体なんだよ、俺は。それに4つもあるならいーじゃないか、心臓の1つや2つぐらい」「・・・蛇? 大蛇丸の事か?」「・・・って、やべ」それとなく、視線を逸らす。状況を見れば、わざとらしい。芝居だと看破されるかもしれない。だが、今角都は疲労の極致に達しているはず。獲物を目の前にして撤退するというのが良い証拠だ。通常時程の判断力は無い筈。あとは角都の性格上、その疑念が何処まで膨らむかが、問題となってくるのだが。『あらゆる意味で五分五分だね』確かに、決定的ではない。これ以上やると逆に怪しまれる。さり気なく、そっとだけ。種火は小さくていい。派手な炎は直ぐに消える。小さな種火でも、育つ要素はあるのだから焦る必要はない。『・・・大蛇○だしね』色々と各方面に信用のないオカマだしね。「・・・まあ、今はいい。いくぞ」渋面を浮かべたまま、角都達は去っていった。「・・・・ふう」緊張がゆるんだ。俺はその場に座り、天を仰ぐ。『しのげたね。大丈夫?』「・・・何とか・・・・・ん、キューちゃん?」『・・・・何じゃ?』答えるまで随分と間があった。「なんか、声に力無いけど・・・大丈夫?」『・・・何とか』「・・・そう。ああ、そういえば七尾の娘はどうしたんだろ」気配に動きがないところを見ると、未だに気絶しているようだが。「キリハに任せるか・・・それより、砂隠れだ。マダオ、確か飛段の方が何か言ってたよな?」『一尾、リーダーの予想・・・僕達の事を知ってた。総合するに、砂隠れに最低でも2人、もしかしたら4人、暁が向かっているのだろうね』「2人ならばまだしも、4人はちと最悪だな」想像もしたくない。「仕方ない、飛雷針の術で飛ぶ・・・・?」立ち上がろうとした瞬間だった。「あれ?」視界が、急激に歪んでいく。「あれれ?」土の壁が、俺の顔面目掛けて迫ってくる。避けることもできず、俺は顔面をしたたかに打ち付けた。「・・・痛い・・・・」咄嗟に手を前に出す事もできなかった。というより、身体が全く動かない。「・・・・あー、くそ。これもしかして地面か?」顔面にぶつかってきた壁を見て、呟く。全身が、まるで正座の後の足のように、痺れ感覚が鈍くなっている。それに、平衡感覚も無茶苦茶だ。『・・・まずいね。先の戦闘での傷、開いたようだ』(・・・え、いや、それ本格的にまずくね?)『ものすごくまずいね。救援を呼ばなければいけないんだけど・・・身体、動く?』(腕だけなら、何とか。でも立つのは無理。声も、もう出ない)朦朧とした意識の中、何とかマダオに答える。『なら、僕を口寄せして。血もあるから』俯せになりながら、地面を横目でみる。こけた拍子に額が切れたのだろうか、赤い液体が見えた。「・・・・く」何とか腕を動かして、指先で血を拭う。そして、数十秒かけて、何とか発動した。「・・・よし」じゃあ、救援を呼ぶよ、とマダオは俺の懐から、起爆札を1つ取りだした。(頼んだ)居場所を知らせる爆音が鳴る。(あー、色々とばれちゃうな)マダオも、今は変化を使っていない。使うだけの余裕が無い。(それでも、助けられたから良しとするか)俺も死んでない。彼女も死んでない。敵は去った。万々歳だ。(少しは、修行した甲斐があったのかな)口と信念だけで生きていける程この世界は甘くはないと悟ったあの日以来。兼任ながらも鍛えてきたこの力、無駄ではなかったようだ。未だ、死なせたくないと思った人は死んでいない。理不尽に全てを奪われる少女を、一時とはいえ助ける事が出来た。この後は木の葉がどうにかしてくれるだろう。俺が口を出さずとも。---大丈夫じゃ。そうだよなあ、○○。お前の口癖だったよな。根拠なんか、一切なかったけど。これで、後は暁を倒すだけだ。これが終われば、やっと元に戻れる。---お主には、夢があるのか?あるとも。説明しただろう。借りものではない、頑張って初めて手に入るもの。イカサマなんか通じない、一生懸命やった者だけが到達できる。誰も奪わず、誰かを笑わせる事ができる、偉大な力さ。---叶うといいな。叶えるさ。とあるハンデを背負って、見る者来る者殺しに来るだろう未来。人外連中ぶっ倒して生き残れれば、後は何とでもなる。諦めなければ、道は開けるんだから。だから○○。お前も、諦めるなよ。さよならなんて言うな。ガキはガキらしく、素直に甘えていればいいんだよ。お前の事を、重荷だなんて思っちゃいない。きっと治るって。いつかきっと、俺が治してみせる。白い霧がかかった世界。女の子が、立ち上がる。---だから。その術を止めろよ紫苑。全身から、チャクラが流れる。何か、紋様を描いてるようだ。「大丈夫じゃ。妾は大丈夫。お主に貰った言葉がある。これ以上借りを作るなど、お主の夢を邪魔する事など。・・・だから行け、小池メンマ」---お前を忘れて、か?「務めは十分に果たした。これ以上、お主に一体何を望む。それに妾は、お主のバカっぷりが結構好きだったのじゃ」---だから忘れろ、と?「何、気にするな。これも妾の我が儘じゃ。あのような憎悪に囚われたお主など、正直二度と見とうない」---勝手だな。「お主の、お主がくれた言葉に従ったまでじゃ。誰も彼もが幸せになるそのために、戦うのじゃろう?」---ああ。「ならば留まるな。此処はお主の戦場では無い。在るべき場所へ向かえ。いつか来る。中身は歪になれど、お主はそういう宿命を背負っている」---宿命とか・・・・そんなの、俺の知ったことか。「ああ、それでいい。そのままでいいから、流れるままに生きよ。いつか時が訪れる、選ぶ時が来る。其処が、お主の戦場じゃ・・・・“うずまきナルト”お主の事は忘れぬ」それまでは大人びた顔を保っていた少女は。最後に、年に沿った笑顔を見せた後。「・・・ありがとう。だから、さようならじゃ」その術の結となる印を、結んだ。