―――事の発端は、キューちゃんが発した一言によるものだった。あの、木の葉から出奔した日から数えて2年。一心不乱に修行に励んでいたうちはサスケも、ようやく上の中クラスの力を持つに至った頃の事。その日の修行も終わり、多由也と白が作った晩飯を食べた後、キューちゃんが居間に残っていたメンマ達に、唐突に告げたのである。「明日は麻雀をしてみたい」と。メンマの中にいるときは見るだけしかできなかったが、今ならば自分も参加できる。前から興味をもっていたので、ちょうどいいからやってみようと言うのだ。何がちょうどいいのか。一名を除く皆は不思議に思ったが、明日の天候はひどく、今晩の様子だと豪雨になりそうなためその提案に了承を返した。そして、次の日。この地方で催される「夏祭り」を明後日に控えたその日。前日の予想通り、天候は朝から豪雨となった。修行を行うのは危険と判断したメンマ達は、その日だけ修行を中断し、昨日のキューちゃんの提案を実行に移すこととなった麻雀につかう牌だが、これは秘密箱の中にあった。秘密箱には、木の葉に来て師匠に弟子入りをする前、まだ各地を旅してラーメンの案を求め旅している時に手に入れたモノがしまってある。トンファーなどの武器から、特殊忍具の素材となる鉱石まで入っている不思議BOXだ。ちなみに匠の里の職人さんの協力の元、開発された武器もある。その一。「唱えるもの!」古式銃、キャスターともいう。なんつーかあれである。いわゆるひとつの魔弾銃を模したものである。だが実態は勢い良く起爆札を射出するだけというこの武器、アウトローなスターであるならば、こういうのを持たなければならないとメンマが開発したのだが―――結果は失敗。手元で爆破してしまうという、問答無用自決兵器に成り下がってしまった。まあ遊び半分のネタなので、それでよかったのだけれど。その二。「天変地異下駄占いの術!」デカイ絵筆が使えないのであれば、と開発した――――ただの起爆札を貼り付けた下駄である。ちなみに天気は爆発のみである。頑張れ鳥取。それゆけ鳥取。出来ればトントンにぶちかまして、「晴れ時々ブタ!」とか言いたいメンマであった。その三。「魔法札・エーテルちゃぶ台返し!」言うまでもなく起爆札を(ryミニサイズ。魔装機神復活祝いに作られた、祝賀用武器である。やったぜ畜生、遂にキタ―ー! という次元を越えて集う、魔装機神ファンの歓喜の悲鳴を聞き届けた職人が作った、謹製の一品である。シュウが好きなのはモニカではなく、セニアだと思うんだとはメンマの談である。閑話休題。その色々とカオスな道具袋中に、とある雀荘で手に入れた麻雀牌は眠っていた。男たちは場の用意を始める。テーブルの上に布を被せ、即席の麻雀台を作り、その上に麻雀牌を放り込む。じゃらじゃらという牌同士がこすりあわさる、独特の音が部屋の中へと鳴り響いた。何も賭けないのは面白くないと、順位毎に点数をつけ、最大点を獲得したものが最低点のものに罰ゲームを指定できるという形になった。祭りの前だ、景気よくいこうやとメンマが言うと、全員が頷いた。―――ーかくして、場は用意された。にやりと笑ったのは、はたさて誰だったのか。「最初は誰にする? 取り敢えず俺は“見”に徹するけど」タバコを吸う真似をしながら、メンマがそんなことをほざいた。華麗にスルーされ、メンマ他6人はじゃんけんを始める。無視されたメンマは部屋の隅でいじけていた。やがてじゃんけんの勝敗が決まる。勝った4人は東西南北それぞれに座った。―――さあ。戦の始まりだ。どこかでゴングが鳴り響く。勝った4人、最初の面子は以下の通りである。東、再不斬。西、キューちゃん。南、サスケ。北、多由也。一戦目はこの4人で、メンマとマダオと白は後ろで観戦である。ちなみに、復活したメンマは4人を見ながら「四方を守る四匹の守護獣……」とかほざいたが、意味が分かるマダオを含む皆に無視された。もし元ネタを知っていれば、多由也あたりは「誰が亀だ」と怒ったことだろう。凹むメンマをよそに、ゲームが開始される。「カン!」まず多由也が速攻でしかける。鳴きの多由也とはウチのことだ、とか言っているが、誰も聞いてはいない。ただ、カンされた牌を見て驚くだけ。「ドラ4……!?」サスケがしまったと言う。対する多由也は不適な笑みを浮かべていた。だがそんな不利など、どこ吹く風。キューちゃんは涼しい顔を保ちながら、どんどんと手を作っていく。再不斬はしかめっ面のまま。どうやら配牌が悪かったらしい。サスケも顔だけは無表情に保ちながら、じっと牌を見つめている。だが空気が重い。唯一純粋な初心者なので、無理もないだろう。「……」多由也のポンを最後に、場は派手な動きはなく進んでいく。どんどんと残り牌が少なくなっていくが、動きはない。そのまま静かに進行し、やがて残り2巡というところまで来た、その時―――キューちゃんが、動いた。「リーチ」たん、と牌をおいて横にする。ここにきてまさかのリーチである。場にいる他の3人はわずかに動揺を見せた。だがその後、「どうせ初心者のやることだから」と再不斬だけは冷笑を見せる。だが、その笑みはすぐに凍りついた。「――ツモ」キューちゃんの明朗な声が響き渡る。ゆっくりと、牌が倒されて行く。「何ィ!?」「馬鹿な……」「くっ……」「リーチ・一発・面前清摸和・タンヤオ・海底摸月そして―――」裏ドラが開かれる。カンされたので、裏ドラは増える、そして――――「裏ドラでみっつ! 倍満じゃ」その時3人電流走る――――(―――馬鹿な。狙ってやったのか!?)(くっ、ウチのカンが裏目に出たか)(――――あれ、そういえばドラが増えてるな。何でドラが増えたんだ? 裏ドラ? 何だそれは――――)黒髪のあの子はどうやらルール理解していないようだ。自分の牌で精一杯だと見える。理解できぬまま、疑問符で頭をいっぱいにする。―――やがて、4人の勝負は進み、終局を迎えた。最終の結果は以下に通り。トップ:キューちゃん二位:多由也三位:再不斬ドベ:サスケていうかキューちゃん以外の皆は配牌が悪く、ドジを踏んだサスケが多由也に振り込んだこと以外、急激に点数が上下することも無かった。そういえば俺達って幸運ランクつけるならD以下だよねー、とメンマが笑えないジョークを飛ばすが、わりと洒落にならなかったので皆が押し黙った。口は災いの元である。そして次の場が始まる。面子はキューちゃん、白、メンマ、マダオ。トリオ対白である。まず最初に白が動いた。「―――ロン。そのドラですっ!」「何っ」キューちゃんが不意に出したドラに、白が飛びつく。三暗刻、純全帯ヤオ九、ドラ3。すーぱーづかん、炸裂。「くっ、しまったっ!」「―――油断大敵ですよ?」機を見るに神速。氷の微笑を浮かべる白に、場にいる全員が凍りつかされた。すげえ怖い、と。白のポーカーフェイスと場の読みっぷりはハンパなく、終わって見ればダントツの首位。白、メンマ、マダオ、キューちゃんの順位となった。それからも勝負は続き、最終的な総合順位はこうなった。一位、白。二位、メンマ。三位、マダオ。四位、再不斬。五位、多由也。六位、キューちゃん。ドベ、サスケ。安定した白の強さは他の追随を許さず、終わってみれば圧倒的首位。メンマはそれに追いすがるも、一歩及ばず二位。功名な組み立てかつ神速の上がりで、マダオが三位。地味に再不斬は四位。鳴きに徹したがうまくいかず多由也は五位。上り下りが激しい、キューちゃんは六位。今はふて寝するために部屋に戻っていった。いうまでもなくというか、相手が悪い。サスケはドベ。「…………やだ奥さん、あの子“ドベ”ですってよ?」「まあまあ、可哀想に。しかし“ドベ”ですかあ。しかし、ダントツでドベとはねえ」マダオとメンマは態とらしく、サスケの前でひそひそ話をしつつ、ドベを強調する。それを聞いたサスケは怒りに打ち震え、ぷるぷると震えていた。「くっ、もう一度だ!」「あれあれ? 泣きのもう一勝負ですか? しかし、ねえ」バツゲームがありますし、と白の方を見る。ボクは良いですよ、と言ってくれた。「そう言ってくれているようですし――――ここはどうだ。俺とタイマンでも」「いいのか?」「ああ。ただし――――負ければ真っ二つだぞ? もとい、罰ゲームのグレードも上がるぞ?」当初の罰ゲームはトイレ掃除と部屋掃除一ヶ月だった。それが、更にグレードアップするが構わないかとたずねる。「くっ…………」「さて、どうする? ここで終わるか、続けるか! 選べ、サスケぇ!」その言葉に、サスケは奮起する。舐められたままでは終われないと、戦意を奮い立たせる。「――――やってやる…………やってやるさ!」「―――やるのか」再不斬が目を閉じる。「サスケが燃えてるぜ………」多由也が面白そうに笑う。「どちらが勝つんでしょうか」白はあくまで冷静だ。「―――あー繰り返す。お客は今入店した。繰り返す、お客は今入店した」マダオは向こうを向きながら、訳の分からないことを言っていた。二人は至近距離でにらみ合う。「―――トイレの後に、最後の勝負だ。ああ、どんな手を使っても構わんよ?」だから逃げるなよ、とメンマが言う。「―――上等だ」いつもの借りを返してやると、サスケは息巻く。そして最後の一勝負が開始された。ルールは簡単で、三本勝負の二本先取制。終局時に点数の多い方勝ち。つまりは、二回負ければそのまま負けとなる。序盤は二位の貫禄を見せつけ、メンマが一方的に点を積み重ねる。タンヤオ、ピンフなどの基本的な役を連続で上がり、徐々にサスケの点棒を掠め取っていく。そのまま、一局目が過ぎた。まずは、メンマの一勝だ。―――だが、次の局。初手でサスケが見せる。「ロン」その時、歴史が動く。「ちっ、しくじったが…………って、何ぃ!?」三暗刻、純全帯ヤオ九、ドラ3。先程の白の手だ。「馬鹿な………っ、それはッ!」メンマがサスケを見て―――サスケの、目を見て、叫んだ。「写輪眼っ!?」目にはあの模様が浮かんでいた。「―――どんな手を使っても良いと言ったな」サスケが嗤い声を上げる。「こんなこともあろうかと―――白の打ち筋を、コピーしたおいたのさ!」その場にいる全員に電流が走った。つまりはこのエリート、自分のドベを確信していたということか―――。ドベに容赦なく勝負を仕掛けるメンマといい、何でも使っていいからと写輪眼を使う、というか使う気満々の準備万端なサスケ。マダオを除く3人が、こいつらもう駄目だと思った。「―――まさか。初心者だと、甘く見ていたぜ。さすがはうちは………!」天才だ、と戦慄くメンマに対し、サスケは不敵な笑みで返す。「写輪眼の力を舐めるなよ………!」ごごごご、と周囲を置き去りにして更に戦意を高める二人。そしてサスケは相手の打ち筋を写輪眼の心移しの法で読みつつ、序盤のリードを守りきって勝利した。二局目はサスケの圧勝に終わった。そして、終局。写輪眼の優位はゆるぐこと無く、また白の卓越された打ち筋は綺麗に緩やかに威力を発する。気づけば終局。サスケとメンマの点差は実に28000点。「どうやら、俺の勝ちのようだな」そういいつつも、サスケは写輪眼を緩めない。まさに外道。いつも修行でぼこぼこにされている恨みというやつでもあるが。「―――――」対するメンマは、黙りながら無表情のまま、黙って打つ。場は進み、残る牌は4つ。サスケは勝ったと確信した。心移しの法で、相手の手を大体読むことができるのだ。間違いなく、大きい手は作れていない。そう信じ、手元に残った“中”の牌を放った。――――そう、場に白も中も発も、2牧以上出ていないのに、だ。メンマの口の端が上がる。「――――昔、とある妖狐はこういった」ゆっくりと、牌が倒される。そしてその場にいる全員が―――いや、マダオ以外の3人が、驚愕の表情を浮かべる。「切り札は先に見せるな。見せるなら、さらに奥の手を持てと――――至言だな」故に先に切り札を見せたお前に、勝ち目はない。そう言いながら、笑った。「っ、馬鹿な!」顕にされた牌に揃うは、三元牌。全てが刻子となっている。つまりは、役満。「ロン、大三元だ!」しめて32000点。逆転だ。予想だにしていなかった展開に、サスケが呻く。「くっ、どうして………!?」心移しの法が役に立たなかったのか。そう思った時、あることに気づいた。この場にいない、誰かに思い至った。そして、チャクラの色は―――――!「まさか! 最後の1局は………九那実が打っていたのか!」いつの間に合体を! とサスケが戦慄く。「I do I do I do!」ポーズを決めてそんなことを言うメンマ。ここに、勝敗は決した。「―――俺の、負けか」「イエス、イエス、イエス、だ」ばれなきゃあ、イカサマじゃないんだぜと不適に笑うメンマ。ドーンという効果音がどこからともなく聞こえた気がした。打ちひしがれたサスケは、その場に膝まついた。「さて、罰ゲームだが………この中から選んでもらおう」と、メンマは箱の中を指差す。この中に、罰ゲームの内容が書いた紙が入っているのだ。「参考までに聞くが………いったいどんな罰ゲームが入ってるんだ?」「ああ、軽いもので言えば、そうだな」ひとつ指を立て、事も無げに言う。「木の葉の中心で若作りと叫ぶケモノ、とか」もちろん火影に向かって、だ。「………ひき肉にされるんじゃないか?」綱手のことに関しては、噂には聞いたというかメンマに聞かされた。てかサスケ君は木の葉に行けないのでこれは不可なのだが。「カカシの目の前でイチャパラの展開をばらす、とか」メンマは私的見解だが、ネタバレという罪は七つの大罪に入ってもいいんじゃないかというぐらいの犯罪だと思っている。イチャパラを神聖視しているカカシにとっては、宣戦布告と同意だろう。これもサスケには出きないだろうが。「そういうのなら、俺がやってもいいんだがな」むしろリベンジできるし、望む所だと再不斬が言う。「――――再不斬さん。もしかして…………イチャパラを、読むんですか?」それを聞いた白が、怖い笑顔で再不斬に詰めよる。「読むんだよ。つーか全巻読破済みらしい。ま、桃地君だって男の子だからねー」メンマが間髪居れずに説明をする。言われた桃地は「ちょっ、おまっ!」とか叫んでいるが時既に遅し。「―――そうですか。それではちょっとあっちに行きましょうか再不斬さんなに時間は取らせませんすぐにすみますのでほらあっちに――――」哀れ桃地君は白さんにひきずられ連れて行かれました。まる。「何やら悲鳴が聞こえてくるのじゃが………」むしろあっちが罰ゲームなのでわ、とキューちゃんが哀れみの視線を悲鳴がした方へ向ける。「まあ、それはおいといて。はい、早く引いて」「くっ…………!」サスケはおそるおそる箱の中に手を突っ込む。やがて紙は取り出され、書かれた文があらわになった。「―――まじで、か?」「―――まじさ。てか難度低いし、いけるだろ」その文を見た多由也は、腹を抑えてうずくまっている。キューちゃんの目は面白そうに輝いている。マダオは「僕の仕事が増えるねえ」と呟いた。紙に書かれた内容は、こうである。『罰ゲーム・その7。浴衣を着て祭りに行け! スネ毛の処理は忘れずに! …………難度:C」沈黙が場を支配する。やがてそれは絶叫によって破られた。「っ女装ぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉ――――!?」サスケの悲鳴が、嵐の中の隠れ家に響き渡った。祭り、当日。全員が祭りに繰り出していた。「――――随分と。遠い所にきちまったもんだな」目の前に映る光景を見て、サスケが呟く。陽が落ちた夜の時間。暗くなるはずの視界だが、そこには人の灯す明かりがあった。「ふふ、提灯って綺麗ですね」白がぽつりと零す。その隣にいる多由也もうんうんと頷いている。二人とも着物姿だ。白は一年前、初めて祭りに来た時と同じ、黒い着物を着ている。白い肌と黒のコントラストが見事で、年齢に似つかわしくないエロスを醸し出している。隣の再不斬はたじたじだ。多由也は薄い桃色の着物。少女と女性の中間点にある多由也は、独特の色気を醸し出している。特に後ろで括られた髪、その下にあるうなじがとってもエロスだ。隣にいるサスケはそれどころではないが。「いや、俺が言いたいことはそうでなくてな……」ため息まじりの言葉。心底深い心持ちで放たれたその言葉は、背後に控えるメンマを爆笑させるに至った。「笑うな!」美顔の美少年、かっこもとい、『女装した美少年』はメンマに怒鳴り声を撒き散らす。「……っ……っ」メンマは腹を抑え、痙攣を返すのみ。「呼吸困難になるほどにうけているね。ツボったというやつだよ」マダオが歯を光らせながらそんなことを言う。「うむ、中々見ごたえがあるのう」昔に集めたウィッグ。その中に黒い長髪バージョンがあったのでかぶせてみました。「肩幅がちょっと広いけど………くく、サマになってるぜ」多由也は顔を背けながら、ぷぷ、と笑う。ちなみにメイク担当は多由也と白である。「しかし、この着物はどうしたんだ? 俺のサイズにぴったりなんだが」「マダオが一晩でやってくれました」「実に作成意欲が湧かない一品だったけど………まあ、中々にあってるよ」元々が美少年顔、いわゆるイケメンなので、少しメイクと詰め物をすればそれらしくなるのだ。加え、無駄にノリ気だった多由也と白のメイクにより、サスケは見事な『美少女☆』になっていた。マダオが縫った青い着物も見事で、一端の美少女に見えるものだから変装というものは恐ろしい。「………泣いていいか?」「一応罰ゲームだから駄目ー。サスケは多由也と回ってきてね。俺はちっと、運営の人と話があるんで」「運営の人? ………ああ、“網”関連の仕事か」「そうだ。この祭り、場を仕切ってるのが網なんでね。そんで、昔知り合いに遊び半分で提案してみたアレが親方達の努力で、どうやら形になったらしいから」ロマンを求めて、らしい。一度見たかったからといって作り上げる網の職人さんには頭が下がる。匠の里も一枚かんでいるとか。「一応発案者だからな。現場に行っとくわ」「………まあ、俺達は行かない方がいいか」というかこの格好で行くのは死んでも嫌だと、サスケが沈痛な面持ちを見せる。「身内の恥をさらす必要もないな。いくぜ、サス子ちゃん?」「っ多由也、てめえ………ちょっ、待て!」二人はぎゃーぎゃー言いあいながら、人ごみの中へと消えていく。「ちゅーことで、白と再不斬もよろしく」邪魔する気は毛頭ないあるよー、とメンマは言う。「ちなみに何で俺はサングラスをかけさせられているんだ?」「気分」サングラス強面眉なし筋肉隆々かつ浴衣。どう見てもグレートヤクザです本当にありがとうございました。まあこれならば超弩級美少女白に手を出そうとするような、ふてえ輩は現れないだろう。多由也とサスケ、あっちはあっちで楽しいことになりそうなので放っておくが。「分かりました」白が苦笑する。「まあ、いいか。じゃ、例のあれとやらを楽しみにしてるぜ」「ああ。がっかりはさせないつもりだ。だから――――」一息入れて、メンマは言う。「空を――――空を、よく見ておくといいよ」「それは色々な意味でまずいフラグでしょ………」マダオのツッコミと共に、3人は去っていった。一方、サスコと多由也。「ったく、なんで俺がこんな目に」「勝負に負けたからだろ? なら潔く負債を払うのが男ってもんじゃねーか」「………潔く女装するのは男っぽいのか?」苦悩の少年、うちはサスコは頭を抱えて悩む。「しっかし、相変わらず人多いな。去年以上じゃないか?」「まあ、年々戦災からの復興は進んでいるらしいからな。忍界大戦の傷跡とかどうにも知らないけど、復興も進めば祭りも賑わうし、人も増えるだろ――――っと」サスコはそう言いながら懐から財布を取り出し、屋台に向かう。たこ焼きを二船6個づつ買って、多由也のところへ戻ってくる。「さんきゅ。でもお前何で凹んでんだ?」「………べっぴんさんって、べっぴんさんって言われちまった………」サスコは全身に立つ鳥肌に耐え、俯きながらたこ焼きをもくもくと食べる。多由也はそんなサスコに対し、けけけと笑う。そして歩くこと数分、二人は珍しい屋台を見かけた。祭りの時以外はみかけない店、お面屋。「って何処かで見たことがある面が………」「おいおい、暗部っぽいぞこの面。さすがに原料は違うようだが」柔らかい面を手で触りながら、サスコが言う。「曲がるな。白が持ってたあの面より断然柔らかいようだ」「いや、暗部の面をそのまま売ってたらマズイだろ………あ、狐の面もある」多由也が狐の面を手に取り、まじまじと見る。「お、姉ちゃんら良い所に目をつけたな! 良い仕上がりだろ! ……何でか、火の国では一個も売れないんだが」そりゃそうだろうよ、とサスコは心の中だけで言う。だがおっちゃんは構わず、一気にまくし立てる。商売人の口の饒舌さはとどまることを知らない。「ま、最近ようやくひとつ売れたんだけどな。木の葉の忍者が何故かこの面を持って―――身に着けている忍者がいたら知らせて欲しいって言われたんだよ」何言ってるか意味わからねえし、そんな変なヤツいねえよなあ? と言いながら、おっちゃんがからからと笑う。「うーん、知らねえな。というか、そんな面をしながら戦うやつは馬鹿以外の何者でもないだろ」「ウチも知らん。そんな変人がいたら、こっちから話のネタにするよ」(※実はオタクのところのラーメン屋です)そのまま二人は面屋を離れた。しばらく歩き、二人が夜店を見回していると、何やら一箇所だけ賑わっているところがあった。ずいぶんと広い。見れば客が向こうの方へなにかを投げているようだ。まだ遠いためその店で何をやっているのか分からないが、「あ~おしい」とか、「ヘタクソ!」とかいう声が聞こえてくる。興味を持った二人はそこに近づき、夜店の看板に書かれている文字を見た。「………射的屋?」そこにはクナイと手裏剣の絵が書かれていた。「………面白そうだな。サスコ、やってみろよ」「サスコっていうな!」そうして二人は順番待ちの列に並ぶ。この射的屋、従来のものよりも標的までの距離が遠く、難易度が高いようだ。その分、景品も豪華になっているのだが、まだ誰も的にすら当てられないらしい。中心の赤丸(犬ではない)に当たれば100点、あとは外側に外れるにつれ20点ごと減っていくらしい。商品も100点が一等、あとは20点ごとにグレードが下がっていく形式だ。つまりは外れれば0点で6等、外れ。60点ならば3等となる。一投500円で、2投700円。ずいぶんと高いが、商品も豪華だからか、珍しいのかで客が集まっているのだろう。やがて、二人の順番が回ってきた。「おっちゃん、2回だ」「おっ、今度はきれーなお嬢ちゃん達が挑戦か! はいよ。みんな、応援してやってくんな!」おっちゃんが場を盛り上げると、祭り独特の熱気が店の前に立ち込めた。「おい、誰だよあの美人」「横の赤い髪の娘も綺麗だなー」「でも黒髪の娘、肩幅が広くないか?」「………だがそれがいい」という、周囲の喧騒は全て無視し、サスコは商品を熱心に見つめている多由也に話かけた。みょーに尻に視線を感じるが、取り敢えず無視した。触ってきたら千鳥だが。「おい、どれがいい?」「え、そうだな。さん―――いや」多由也は咄嗟に口に出かけた言葉を途中で止め、首を横に振った後勿論やるからには一等だろ! と言う。「―――分かった」サスケはクナイの手元、わっかのところに指を入れてくるくると手元で回す。いつものクナイならばこんな距離目を瞑ってでも当てられるのだが、この模擬クナイは刃引がされており、重心の位置もずれている。本来のものよりずっと軽いし、いつも通りというわかにはいかなさそうだ。だが取り敢えず投げてみないことには分からない。サスコはクナイを構え、無造作に投げる。投げられたクナイは的に当たらず、的の横にある樹へと当たり落ちた。「あー、大暴投! ほら、もう一回!」頑張って、と二本目のクナイが渡される。「さて、と」修正完了、風の影響も考慮。投擲の軌道も確認。分析、完了。「よっ、と」サスケの手が一瞬だけぶれる。直後、クナイは的に刺さっていた。「お、当たり~!」おっちゃんは小さい鐘をからんからんと鳴らす。その背後で、多由也はきょとんとした表情を浮かべていた。「ほら、お求めの品だぜ」「って、お前、なんで――――」多由也が息をのむ。サスケの腕ならば、的の中心に当たることなど容易かっただろう。だが、なぜ、60点の線に当てたのか。わざわざこの“3等”の景品を選んだのか。そう多由也が言うと、サスケは溜息をついた。「………あんなに一心不乱に見つめてたくせに。気付かれないと思ったのか?」と言いながら、サスケは3等の景品である、耳飾りを投げて渡す。安物だが女の子向けの可愛いデザインをしている。「………ちょっと、待っててくれ」多由也はその場に立ち止まり、耳にかかる髪を払い上げ、でその耳飾りを着ける。その後、サスケに向けて似合うか? と聞いた。サスケは多由也の笑顔と耳飾り、そして耳飾りを付ける際に見えたうなじ、それらが折り重なって出来た桃色オーラに心撃たれ、動揺。一歩、後ずさってしまう。「………悪かったな。変なこと聞いてよ」多由也はサスケの反応を見て勘違いをし、その笑顔を曇らせる。そして早足で、人ごみの中へ逃げようとする。「………って、待て。ちが―――」追うサスケ。逃げる多由也。だがそこは人ごみの中。「っつ!」「いってえなあ!」早足だった多由也は勢い良く、誰かとぶつかってしまう。「っ、どこ見て歩いてんだオマエ!」いかにもチンピラ風味な若者。怒りながら、多由也の肩を掴もうとするが、多由也はそれをすっと避ける。「へっ、触んじゃねーよクソボケが」「あん? 口の悪い女だな」へっ、とチンピラが下卑た笑いを上げる。「っつーか似合わねえ耳飾りしてよお! 何を色気づいてやがんだガキがげふぉう!?」チンピラの言葉は、追いついてきたサスケが繰り出した前蹴りによって遮られた。「うるせえぞチンピラ」「ごふっ、げふっ、このアマ、何しやがんだあ!」チンピラが叫ぶ。すると、何処からとも無く男の仲間が出てきた。その数4人。「……っテメエら、何してんだ! おい、大丈夫か」「ああ。しっかし、いきなり蹴りくれるたあ、酷えなおい。あーあー痛え痛え。こりゃあ、ケガしちまったよ」男は腹を抑えながら、下卑た笑みを再び浮かべる。「こりゃあ、慰謝料が必要かなー?」横にいる仲間、を見ながら、にやにやと笑いあう。「こういう場合のお礼って言ったら分かるよなあ?」「おう、黒髪のオマエも、みりゃあキレーな面してんしよお。一緒に―――」助平な顔を浮かべながら聞くに耐えない言葉を連発する男達。その言葉に晒されるサスケ(男)。ぷるぷると怒りに震える。やがて―――「そうだなあ、口悪いそっちのねーちゃんも、身体だけはいいもん持ってんし、ちっとあっちで―――」―――その言葉が決定的となった。サスケの頭の中で、何かがぶつりとキレる。「あん?」何の音だ、という暇も無く。「――あた!」「へぐぉ!?」ワンストライク。「あたた!」「ゲフィ!?」「グフン!?」ツーストライク。「おわったあっ!」「ほーむらんっ!?」無頼の輩のゴールデンなボールに一撃ずつ、雷光のような踏み込みかつ蹴撃を加える。「―――これにて、終劇」悶絶する男たちを見下ろし、またつまらぬものを蹴ってしまった、とサスケは呟く。いい加減ストレスも限界にきているようだ。そして、背後で呆然としている多由也に向き直り―――「へっ!?」―――手を握る。そのまま引っ張り、人気の無いところへ向かって走り出した。「お、おい!?」「いいから、ついて来い!」必死に走るサスケ。だが手を握られている多由也も、別の意味で必死だった。それを高台から見下ろしているメンマは。「おーおー、若いっていいねえ。しかしサスケもやるもんだ」二人を見ながら、「一目瞭然なんだけどねえ」と笑う。「―――じじむさいぞ。ついでに我にとっての挑戦と取ってよいか?」意味不明の怒りが去来し爆発しそうになるキューちゃん。「え、何で?」「ほらほら二人とも喧嘩しない。それより、もうそろそろ準備できるらしいよ」「おう、分かった」「………そういえば、難度:Aの罰ゲームってどんなの?」「白にπアタックツー。再不斬の目の前で」「 死 ぬ わ !」「………ハリネズミにされた後、超究武神覇斬っぽいなにかでメッタ切りにそうだね………」祭りのある通りから、少し離れた廃寺の前。あたりにはちらほらと林があるそこで、二人は足を止めた。。「………ここまで来ればいいか」サスケは握っていた多由也の手をはなし、傍に誰かいないか周囲を見回す。「って、どうしたんだよ、急に走り出して」多由也は握られていた手を自分の胸に寄せながら、サスケに聞く。不意打ちで手を握られたせいか、顔が赤くなっていた。(い、いきなりすぎるんだもん、コイツ)多由也の胸の内から、何か得体のしれないもやもやが出てくる。それが頬を赤くしているのだ。「………どうした? ああ、走ったから暑いのか」「違うにきまってんだろ、ボケ! だいだいオマエが―――」言いかけるが、何やら薮蛇になりそうだと思い、多由也は途中で言葉を止めた。「―――それより、こんなところまで来てどうすんだ?」「ん、いや………さっきの、ことだが」耳飾りな、と言いながらサスケはぽりぽりと自分の頬をかく。「まあ、なんだ。ちょっと、その、耳飾り………似合ってるから―――というか俺に聞くなよ! 言われても何言っていいか分かんねえんだから!」急に怒りだしたサスケ。怒鳴られた多由也は一瞬だけ鼻白むが、即座にサスケへと怒鳴り返した。「っ怒るなよ! というか、何でウチが怒られてんだ!?」「知るか!」二人は顔を真っ赤にしながら言い合う。そして数分が経過した。「疲れた……」精神的に疲労しているサスケはぐでんとなっていた。「何で怒ってるんだろうなウチら……」あほらしい、と空を見上げる。「全くです。怒鳴り声がこちらまで聞こえましたよ?」聞こえた、いつもの声それにこの気配はあの二人のものだ。「白? と、再不ざ―――」暗がりから現れたグラサン装備の再不斬、そして白を見た二人は硬直する。((………完っ全にヤクザとお嬢じゃん………))思わずカンクロウ口調になってしまう程の衝撃だった。「おふたりは何故ここに?」「いや、ちょっとあってな」多由也が少し頬を赤くしながら答えると、白はふふと口元に手をあてて笑う。「………どこから聞いてた?」「いえいえ。それよりも――――そろそろ、例のアレとやらが始まる時間ですよ?」言われたサスケと多由也ははっとなる。そして、空を見上げた。少し遠い喧騒。祭ばやしの音も遠い。ここは高台にもなっているので、見晴らしもよかった。そんな4人がいる前で――――――夜空に、花が咲いた。「あれは……………!?」多由也が驚き、目を見開く。「火遁、じゃないようだが」サスケは夜空に神神と広がるそれに心を奪われた。心ここにあらず、うわ言のように呟く。「――――綺麗ですね」夜空に咲く一輪の花。生まれては消えるその儚さと、咲いた時の鮮やかさに見惚れ、白は感嘆の声を上げた。開花は一瞬、だがその鮮烈さは心に刻まれる。「成程。言うだけのことはある」見事だ、と再不斬にしては珍しく、口の端だけでなく顔全体の笑みを浮かべる。火薬と金属によって織り成される、一瞬の芸術。『夜空にどでかい花を咲かせようぜ!』というそのロマン。最初に考えた者は間違いなく弩級の馬鹿かつ極みにある天才であろう。そう、夏の風物詩が一つ――――花火である。見たことのない、掛け値なしに綺麗なものを見た4人は、知れず傍にある人と手を握り合っていた。この温もり、できるならば失いたくはない。来るべき戦いを備えた忍者達。皆、心の内で同じことを願った。おまけ打ち上げ現場にて。「ほら次い! ほら次い!」「う~む、真下から見る花火とやらも乙だのう」「団扇片手に優雅にひたってないで手伝ってよキューちゃん!?」「ああ、ちょっとイワオさん! マダオさんが一個だけあった外れの、不発の、爆発に、巻き込まれ――――!」「アフロー!」「ララァ!」「いやそれは何か違うと次元の彼方からツッコミが――――」「親方、親方ー!」「へっ………『咲かば散れ 夏の夜空と 火の大花』」「親方が辞世の句を―――」「いや、こっちもアフロになっただけじゃん―――」あとがき忍びも息抜き。作者も息抜き。季節外れの閑話は終り。次は五十五話です。