それは、城が吹き飛ばされた後。五影が、キラービーが倒された後の一場面。隠れ里に異変が起きていることに気づいたメンマ達は、心の中で会議を開いていた。皆が横に並び、想像以上の力量を持っている長門の方を向きながら、各々に感想を言い合う。「ちょっと…………不味いかもしれんね」「ん、予想外だったね。最悪の一段上を………いや、悪いという意味では下なのかな」「………その割には、二人とも慌てていないってばね」「うむ、こう何度も繰り返されれば慣れもする。それよりも………分かっているな?」何とも言わず、九那実はメンマに問いかけた。「………分かってる。四の五の言ってられる場合じゃないってことも」元気なく、メンマが言う。彼我の戦力差は大きく、メンマ達が作戦前に想定していたものよりも、かなり大きかった。本来使いたくないものまで、使わなければならないという程に。「一つのミスで致命傷を受けかねん………上手くやろうなどとは考えるなよ」「それは、分かってる」城を吹き飛ばした術、そしてキラービーに見せたあの術。まともの受ければそこで終わりで、以前見せられた他の術もそう。緩みなど見せればそこで終わり、次の瞬間には天に召されているだろう。メンマはため息をつき、九那実に謝罪の言葉を向けた。「悪いね、キューちゃん、俺の力不足のせいで」すまなさそうに謝るメンマ。対する九那実は、首を横に振った。「いや、悪くないぞ。全くもって、悪くない。これは我の戦いでもあるし、それに………」九那実は暗い雰囲気が流れる場にあってなお、輝くような笑みを浮かべた。「チャクラだけを貸した戦場は数あれど――――初めてだからな。真の意味で"一緒に戦える"というのは」前を向き、遠い目をしながら問いかける九那実。メンマは腕を組み、今までの戦闘を思い出した後、そういえばそうだったね、と返した。「一緒に戦う、か。複雑だけど、そう考えれば―――」確かに悪くないのかも、と。メンマは頬をかきながら、横目で九那実の方を見た。九那実の方も、メンマの方を横目で見ている。二人の視線が、重なった。血のような赤の瞳と、空のような青の視線が重なる。二人の手がすっと上がり、ゆっくりと閉じられ、拳が作られる。そして、互いに無言のまま。こつん、と拳同士がぶつけられる。「行こうか」「ああ」何かを握りしめた、拳と拳。掌に何かを隠した、拳と拳。鼓動が交わる、音がした。小池メンマのラーメン日誌 九十一話 【 共に 】ひたすらに黒い、底なしの闇。メンマは目の前の物体を見た瞬間、全身に鳥肌を立てていた。悪意が煮詰められ抽出され、更に混ぜられ長時間煮られればこうなるのだろう。逃げ場などない、視界の全てを覆い尽くさんという程に大きい、濁りに濁った黒い波濤。それを前に、いつかの守鶴の砂の津波を思い出したメンマは、立ち向かうことを選択した。ここで後方に逃げても波は追ってくるので意味がない。そしてここで後ろへ退くのは、絶対にやってはいけない選択だと思っていた。この恐怖を前にして、一度でも背を向ければ戻れなくなる。そう考えたメンマは、ならば、と対応策を考える。しかし打つ手は数少なく、時間はない。だが状況を打破しなければならないメンマは舌打ちをしながら、札の一つを切ることに決めた。いつにない速さで腕元の紋にチャクラを流しこみ、前もって用意しておいた起爆札付きクナイを口寄せし、叫ぶ。「飛燕裂空!」片手に3つ、両手で6つ。通常と比べ倍する大きさの空刃が纏わされたクナイが放たれた。同時に解放された風鞠が破裂し、出でた追い風がクナイを追いかけ、更に加速させる。ただの刀から大業物へ。風遁の刃によって鋭さが増されたクナイが、泥の表面を貫いた。そのまま波の中腹へと突き進んでいくクナイは、動きが止まって間もなく、「爆発しろ!」両手をあわせるメンマの合図と共に、爆散した。クナイに貼られている起爆札はいつもの謹製物で、爆発の威力もケタ違い。更に6箇所同時に起きた爆発の圧力と爆風が連鎖し、黒の波を内部から喰らい尽くていく。散った黒い泥が、雪のように舞散り――――その雪の中を、ペインは駆け抜ける。「喰らえ!」人外の脚力で風のように駆け抜けたペインは、メンマの眼前で踏み込み、拳を振るう。メンマはその一撃を受け流そうとして――――背筋に怖気が走った。(―――身代わりの術!)心の中で叫び、堅牢な岩塊を口寄せる。それを身代わり残し、跳躍した。ペインはそれを見ながらも拳を引かずに振り切った。――――そしてメンマは、眼下に広がる光景を見て、今の自分の行動が正しいと悟る。身代わりに使った岩塊は固い岩盤を切り取ったもので、ともすれば飛燕をも止めうる硬さを持つ。通常であれば殴った方の肉が避け、拳が砕けるほどのもの。それが、ただ散った。激音と共に、問答無用で破砕されたのだ。ぱらぱらと、小石が散らばる音だけを残して、木っ端微塵に舞い散った。その、尋常でない破壊力を見せつけられたメンマの顔が青ざめる。あれだけの威力だ。独立している部位、例えば顔、腕、足に当たりもすればその部分だけちぎれ、燕のようにすっ飛んでいくだろう。胴に受ければ内蔵の数個は破裂させられるに違いない。メンマは滝のような血反吐を吐きながら、のた打ち回る自分の姿を幻視する。(いや、幻だ)去来する恐怖を胸の底に沈殿させ、メンマは自分に言い聞かせた。当たらなければ、力など無いも同じと。しかしそれは理屈で、目の前に現れた死の恐怖は消えず。メンマはわずかに後ろへと下がった。ペインはそれを見て、わずかに笑い、「その判断力。実に大したものだ、が――――」まだ序の口に過ぎないぞ、と。ペインはそう告げると同時に、足元の地面を掌で叩いた。バン、という音が鳴る。それを合図として、地面が隆起し、その中からやがて黒い泥が溢れでてくる。そして泥はまるで粘土のようにゆっくりと。ペインの意志によってこねられ、一つの場所に圧縮されて――――「行け!」叫びと共に、勢い良く射出された。先ほどのミサイルとはまるで違う、正しく突風のような速度で放たれた黒く巨大な槍が、メンマの心臓へ向け飛んでいく。瞬きもすればこそ。一瞬後には、もう目前にまで迫っていた黒い槍を、メンマはかろうじて避けた。身体を傾けると同時に、風の鞠を身体の横で爆発させ、身体ごと吹き飛ばしたのだ。先ほどまでいた場所を、黒い槍が通りすぎていく。そして、過ぎ去った背後。城壁の土台部に突き刺さり、そのまま貫通した黒い槍の威力を見たメンマは、戦慄する。もしあのまままともに受けていたら、腹を貫かれそのまま内蔵をぶちまけられていただろう。それどころか、余波で血液が逆流し、心臓に深刻なダメージを負っていた。殺意に溢れた攻撃を見たメンマは、自らの無残な死体を想像してしまう。額から、一筋の汗が流れ出す。ペインはそんなメンマの心境など知ったことかと、次なる攻撃を仕掛けた。ゆっくりと右手が上げられ、「万象天引」ペインの叫び声と共に。かざされた手に、あらゆる物を引き寄せる引力が生じた。メンマは踏ん張ってみせるが、引き寄せる力の方が上で、地面の砂ごともっていかれてしまう。「く―――!」宙に舞いながら、メンマは正面を見据えた。見れば、相手は掌をかざし、もう片方の手で刀を持ち、待ち構えていた。刀身からは、黒い泥。先ほどと同じ、手持ちの槍の形状だ。メンマは咄嗟にクナイを取り出すが、リーチの差は歴然だ。このままでは串刺しにされかねない。そう考えたメンマは飛燕を使い、自らのクナイにまとわせ、伸ばし、刀の形状で固定する。だがそれと同時、ペインは勢いよく自分の足を地面へと叩きつけた。ダン、という音。それと同時、黒い泥が再度地面から吹き出した。即座に固められると細い槍となったそれは、宙に浮かびながら引き寄せられるメンマの胸元を貫かんと襲いかかった。足場なく、捕まる所もない。そう判断したミナトは、足元に風の鞠を作り上げ、メンマがそれを踏みつけた。「風踏!」爆風。同時、風に乗ったメンマの身体が、天高く舞い上がる。黒い槍が過ぎ去るのを見たメンマは安堵し――――ため息をつこうとする寸前、ミナトの叫びがこだました。『上だよ!』焦りの声、必死の叫び。それに即座に反応したメンマは、上を見上げる。そこには頭上には黒い泥が配置され、今にもメンマの全身を覆い隠さんと広がっていた。「くっ!」起爆札で吹き飛ばそうにも、距離が近い。そう判断したミナトとメンマは、再度風の鞠を作り出し、蹴った。空に向けて作られた蹴鞠による爆風に煽られ、メンマの身体は急降下した。まだ引力は働いている。メンマはそんなペインに向き合いながら、反撃に移った。腰元からクナイを取り出し、ペインの額に向けて投擲する。だがそのクナイの速度に加速はなく、常識の範疇の速度であった。当然、正真正銘の化物と化したペインには通用しない。片手で造作もなく、一振り。それだけで全てが払われてしまう。(―――くるか)クナイを叩き落したペインが、心の中で呟く。足元に散らばったクナイ、見れば柄の部分に紋が刻まれている。それは先ほどまで自らの肩に刻まれていたものと同じで、飛雷神の術の目的地を示すもの。(マーキングか、よかろう来るがいい。その時が――――)お前の最後だ、と。ペインがほくそ笑むと同時、メンマは印を組んだ。それは時空間跳躍忍術を示すもの。メンマの体内のチャクラが変わり、ペインはそれを輪廻眼で捉える。メンマの眼が、大きく見開かれ、チャクラが高まった。悟ったペインが構えを取る。そして跳躍の目的地である、クナイの方を注視した。メンマから、転移の印が組まれ、それと同時にペインが腕を振りかぶる。それを合図として、メンマの姿は――――――掻き消えず。(―――なっ!?)攻撃の動作に移ろうとしたペインは、メンマのチャクラが霧散したのを見て、焦りの声を上げた。(裏の、裏か!)しまったと思ってももう遅い。メンマは一挙動、つまったペインの元へすでに距離を詰めていた。そして降下する勢いそのままに、前蹴りを放った。防御の腕と、蹴り足が衝突する。人外のチャクラを持つ同士が正面からぶつかり合うことで、周囲に爆風が生まれた。しかしペインは倒れもしなく、ただにやりと笑うだけ。メンマが渾身の力をこめた蹴りを受けながら、小揺るぎもしなかった。(っ、なんつー力だよ!?)ケタ違いに上昇した身体能力を前に、メンマは焦った。そのせいで身体が硬直し――――ペインはその隙を逃さず、反撃に移る。「来い!」声と同時、最初に放った地面から突き出された黒い槍が戻ってくる。背後、メンマの死角からそれが襲いかかる。ペイン自身も拳を引き、前後からのはさみうちを仕掛け―――「っ、マダオ!」『承知!』意図を察したメンマは言葉もなく呼びかけた。何とも返さず、ミナトがそれに答える。直後、蹴り出した足に、もう片方の足が重ねられ、特大の風の鞠が生まれ、『解放!』号令と共に、烈風が生まれた。メンマは両の蹴り足から生まれた風に乗った。宙に舞い上がり、十尾の攻撃を回避し、そのまま再び距離を取る。風に乗る回避と、爆風による攻撃を同時にする戦術だ。阿吽の呼吸は見事にはまり、顔のすぐ前で風の塊を解放されたペインは吹き飛ばされ、そのまま後ろへ転がっていく。だがペインは、それでも笑みを絶やさない。「お前も、この程度なのか!」即座に体勢を立て直し、また十尾を呼び出し、圧縮しはじめる。それを見たメンマは、呆然としながら呟く。「…………あれが、全然効かないのかよ」軽い脳震盪ぐらいは起こせると思っていたのにと言うメンマ。九那実は、首を振りながら、低い声であれはもう違うと言った。『まともな人間ならばそうじゃろうが………気をつけろ。あやつの肉体、既に人間の範疇にないぞ』既に、理を外れていると。そう称されたペインは、ゆったりと動き、『――――来るよ!』ミナトの声と共に、再び黒い槍が乱舞した。~~~~~激音が響く戦場。それを鏡越しに見ながら、サスケ達は言葉も発せないでいた。出鱈目の連続を惜しげもなく繰り出してくるペインに、恐怖していたのだ。メンマをして即死級の攻撃を、分の間に幾度も放ってくる怪物。ただ、その圧倒的な力を前に、死を恐れる人としては黙らざるをえなかった。それほどまでに目の前のペインは圧倒的で、いっそ神々しいと言える程に異様であったのだ。「………っ!」「――――」「二人供………」シンの足が震えていた。一歩も、前に進まないようだ。灯香は、歯をくいしばっている。目の前の理不尽と、かつての光景を思い出し。サイは、そんな二人に心配そうな声をかけている。「………まずいな。防戦一方だ」「ああ。あいつの攻撃も………そこそこ当たってるようだけど、全然効いていない」「それに………腰が引けているな。あの拳を見た後だから、無理はないが」多由也が、サスケが、イタチが、顔を険しくしている。見える戦況と、相手の実力を把握した上で。追い詰められていく、メンマの身を案じながら。足元では、香燐が気絶していた。誰よりもペインの強さを知ることができる彼女は、十尾が本格的に動き出した直後に気絶してしまったのだ。そんな香燐を見下ろしながら、菊夜が言う。「………正直、これほどまでとは思わなかったです」「そうだな…………忍界を滅ぼす、とは大言でもなんでもなかったか。確かに、これだけの力ならばそれも可能」無表情に言うザンゲツ。それに対し、紫苑はしかしと言い返す。「負けないさ。ペインの強さは確かに異様――――だが」こんな所で終わるあいつではない、と。紫苑が告げたと同時、鏡の向こうのメンマは、完全に包囲されていた。~~~~~「どうした? ――――終わりか」ペインは傍らに十尾を侍らせ、冷然と問いかける。「終わ、ら、ねえよ」肩で息をしながら言い返すメンマ。全力で逃げまわり、体力を消耗した彼からの全身からは、湯気が出ていた。あちこちに刻まれたのは小さな傷。直撃を受けずとも余波で肉を切り裂かれたのだ。少なくない量の赤い命の水が、流れ出ている。ペインは呆れ声で返した。「そんな………満身創痍の身で。口だけでも言えるのは大したものだ、が…………これで終わりだ」ペインは、言うと同時に泥を薄め、空中へと散布しはじめた。間もなく、黒い霧がメンマを囲んでいく。「………っ、風よ!」危険を察知したメンマは印を組みチャクラを練り込み、性質変化による風を放射状に放った。生み出されたその爆風は停滞なく黒い霧に直撃し、全てを吹き飛ばそうと駆け抜けていく。しかし、風が吹き去った後、霧は残っていた。粘度が高い霧はわずかに揺らぎはするも、散りはしなかったのだ。居直る霧は変わらぬ禍々しさを保ちながら、収束する。「四方八方からの攻撃だ。一方向を吹き飛ばそうとも、残りの波がお前をさらう」死刑宣告の叫びが、広場に響き渡る。障害物も全て砕かれた平原、三狼の山の頂きにペインの声がこだまする。そんな中、メンマは声を聞いていた。自らの内から聞こえる声を。親指の肉が食いちぎられた。――――血を流す指が、“戌”の印をかたどる。「マーキングの類は既に退けた。放とうとも、飲み込んでくれる」逃げ場は無いと、ペインは言う。そしてその声を合図として、霧は泥に、泥が波となった。自らを包囲する黒い波。それは間断なく隙間なく、そして容赦なくメンマを飲み込もうと迫ってきた。――――メンマ印が、“亥”へ申へ変わる。「―――負の念に。飲まれて、果てろ」泥が迫る。波が迫る。全てを飲み込む世界が迫る。それに構わず、メンマは、“申”と。そして“酉”の印を作り、最後。『主よ――――』―――――印の形が、“未”へと変わる。目の前の絶望を前に。それを無視し、メンマはただ自らを呼ぶ声に応じる。『――――呼べ!』自らに問いかける、最愛の人の言葉に。「応よ!」叫びに、是を返して。メンマは血に濡れた掌を、自らの心の臓へと叩きつけた。自らの魂に喝を入れ――――そして、術の名を叫んだ。「口寄せの術!!」――――声と共に、白煙が舞った。~~~~~~~じっと見据えていた戦場。抗う最後の希望が絶望に飲まれようとしていた。その中で、五影達は見ていた。闇を払う、金の帯を。それは九つにわたり金毛に包まれた尾。最強の尾獣と恐れられた、最強のチャクラを擁した、恐怖の代名詞とも謳われる妖魔。咆哮が、響く。~~~~~~「九那実さん………!」「野郎、とうとう………!」眼を覚ました白が、再不斬が映る光景を前に息を飲んでいた。あまりに凄い、その威容。金毛に包まれた九尾が持つ美しさに、声も出なかったのだ。そしてサスケ達の元へも、咆哮が届く。その頭の上には、金髪の忍びが腕を組みながら乗っていて。「先生…………!」カカシは、その背中に自らの師の姿を幻視していた。~~~~~~~「キューちゃん!」メンマが叫ぶ。それに呼応して九つの尾が動く。金と見紛う程に濃密に籠められたチャクラ、美しき尾の束が空を薙ぎ払った。泥が蹂躙される。それを纏わされた尾の一撃でもって泥が打ち払われたのだ。その威力と、メンマを使った術とその狂気を見たペインの顔が、驚愕に染まる。「正気か、貴様………その魂、保ちはせんぞ!?」メンマの足元。口寄せの術でもって呼び出された巨体。九尾の妖狐を見たペインは、メンマの正気を疑った。巻物による仮のつながりではなく、魂が結びついた状態で口寄せすれば――――規格外である天狐の魂を活性化などしてしまえば、人間の身体などひとたまりもない。最悪、宿主の身体が喰われかねないのだ。「ああ、百も承知だ…………けどよ! 臆病風に吹かれて、ここで逃げ出すくらないなら――――」震えている腕。それを振り払い、メンマは叫んだ。「いっそ見事に、咲いて散ってやらあ!」渾身のチャクラが、吹き荒れる。肉がふさがり、傷が癒え――――魂に罅が入る。途端に走る激痛。しかしメンマは、それを無視してみせた。「行くぜ!」メンマの呼びかけに、3人は声を大にして応と返した。体内からは波風ミナト、そして九尾の身体から、九那実とうずまきクシナが。それは互いに離れた肉の姿を繋ぐ、互いをよく知る者たちの意志であった。メンマと九那実、ミナトとクシナ。そしてメンマとミナト、クシナと九那実。比翼であり連理、それぞれが共に過ごしてきた時の中で交わり交わした心の具現。想いと思いで願いを型どり、それこそが、九尾の肉体を保ち、メンマの肉体を保っていた。『とはいえ、長くはもたないよ!』「分かってるさ、手早く片付ける――――九那実!」「呼んだな、メンマ!」九那実はメンマの呼びかけに対し、狐の姿でわずかに身をよじらながら、自らの周囲にチャクラを展開した。尾獣に比べれば少しは落ちるが、それでも意志の篭った天狐のチャクラは凄まじい。尾獣のチャクラを操る術に長けたクシナの補助もあって、規格外の密度となっていく。それをミナト、メンマが共同して風に変えていく。「出来るものなら、やってみるがいいさ!」ペインが、合掌した。柏手が鳴り、巨大な泥の波が唸りを上げる。九尾を押し包むように、負念の波濤がおしよせ、「しゃらくせえ!」メンマが一喝する。同時に振るわれた九那実の巨大な爪が、黒い絶望の波を半ばから真っ二つに切り裂いた。うなりを上げて空を裂いたその一撃、余波でペインの近くにある地面まで深く、文字通り爪痕を刻まれる。ペインはその威力に顔をひきつらせた。そして爪の先にあるものを見て、叫ぶ。「飛燕を、爪にしたのか!」「ああ―――風遁秘術・風牙風爪! 盛大に葬ってやるよ!」「やってみるがいいさ!」言いながらペインは膨大な量のチャクラを練り、修羅道の能力を使った。面で駄目ならば威力の高い点で埋め尽くせばいいと、周囲に滅びた兵器群を具現化したのだ。(図体がでくなった分、破壊力が増しはしても、機動力は落ちた筈!)ならば八尾と同じに、避けられない攻撃を当てればいい。そう思ったペインは兵器群を一斉発射した。尾に火を灯し、飛来するミサイルのようなもの。対するメンマはそれを見て、にやりと笑い、腰元から取り出したクナイを四方へ放り投げた。ペインはその位置を確認し、意識の底でその場所を攻撃範囲に入れ、(布石―――本番は、これから)メンマは兵器群を迎撃すべく、印を組み忍具口寄せを使い、風魔手裏剣を呼び出した。身の丈程もある巨大な手裏剣、その一面には起爆札がびっしりと張られていた。これは、この日のために作った切り札のひとつだ。メンマはそれに、渾身の―――かつてないほどの大きさを持つ、特大の飛燕を纏わしながら、その場で大回転しぶん投げた。『加速!』間髪入れずに風の蹴鞠が炸裂、手裏剣の速度を更に加速させる。特大の風が纏わされた手裏剣が兵器群の中心へと一直線に飛んでいき――――九尾の尾が紅蓮に染まる。「行け、狐火!」―――咆哮。獣の雄叫びが、大気を震撼させた。その直後、九那実の尾から特大の狐火が放たれる。その狐火の炎は、生まれた瞬間に近くにある、濃密な風を喰らいだしていく。それは手裏剣からこぼれる風の轍。火は風を喰らい炎となり、劫火となる。そしてまるで導火線上を走る火の如く、風の轍を踏み越え、手裏剣の跡を追いかけていく。走る手裏剣に、追う炎。その両者は兵器群の真中で衝突し、爆発した。特性の起爆札と手裏剣本体にある風の塊、それに狐火が合わさり、起爆札と一緒に爆発。極まった爆発が周囲の酸素を蹂躙し、食い尽くした。そして破壊の渦となり、特大の火炎の華を咲かせた。圧縮された風で咲かされた、橙の巨大華。それは兵器群をあまさず全て吹き飛ばした。余波の爆風が、メンマとペイン両者のもとへと吹きすさぶ。「ぐっ!」「ぬっ!」巻き起こった風と砂に、両者は眼をかばった。爆風は構わず全てを蹂躙し、互いの背後にある森林群を力いっぱい揺らしつくした。細い木々が折れ、枝が折れ、水が舞い散り、まとめて彼方へと吹き飛ばされていく。それは数秒間続き――――やがて、爆煙が晴れた後。そこには、既に構えに入っている両者の姿があった。互いの、視線が合わさる。(行くぜ)視線に殺気が生まれる。物言わぬ沈黙の言葉が、視線の上で交わされ、(こちらもだ)撃砲鳴らす合図となる。決戦の意を込めた、決め技。切り札を切ると決めた二人の周囲に、膨大かつ濃密なチャクラが吹き荒れる。~~~~~「目覚めろ、十尾―――」黒く、負の念が集う。十尾の核に集められた、様々な負の思念がこぼれ出していく。それは嫉妬、あるいは恐怖、極まった憎悪に、どうしようもない侮蔑、万物の怨嗟に、共通する絶望。陰に属する想いは連なり重なって高まり、ひとつの形を成していく。あるいは、巨獣。あるいは、巨人。否、形だけが定まらず、ただ禍々しさだけを追求された形態へと変化していく。「忍法口寄せ・十尾合身―――――」印が組まれる。それは形だけ、ひとつの指向性を持たせるために組まれた、一見すれば出鱈目な印。だがチャクラの理を知り尽くす彼にとっては、至極当然なことだった。そして、生まれた。世界を喰らう、負念の龍が。屑で集められた九頭の負念龍が連なり、メンマへと撃ち出された。「陰遁・秘術――――」~~~~~「風遁・風龍波―――――」メンマの声が朗々と響き、風の龍が生まれ、「忍法口寄せ・風遁・九蓮宝橙――――」九那実が背負う九つの尾が紅蓮に燃え出した。それは連なり合わさって、やがてひとつの形となる。それはまるで、大砲の砲塔。そしてその九尾の頭にある、橙の人間が、動く。印を組み、砲塔の中心へと風の波があつめていく。収束させられた性質変化の風が、火に喰われ――――焔が生まれる。火は風を喰らうの理に則った上での、術。いつかサスケと放った螺旋丸と、同じ原理。その上九尾のチャクラが合わさった火球は出鱈目な熱力を持つに至り、灼熱の言葉に相応しいほどに勢いを増していく。それでも尚止まらず、風の龍が次々に火にくべられていき、火は更なる焔となる。喰らい高まり、飲み込み高まり、合わさり高まり、極めまで高まっていった直後。メンマの拳が、振り上げられた。地獄の閻魔を天に供えんとする砲撃が。天駆ける焔魔の一撃が。「火遁・秘術――――」振り下ろされたメンマの拳と共に、放たれた。~~~~~~~~山の頂きにて対峙する、九尾と十尾。その上に乗る者の意志により、術が放たれた。叫びが、山に木霊する。『『「「焔魔天駆!」」』』空喰らう太陽と。『「陰遁・屑龍弾の術!」』世界喰らう負念の蛇が放たれた。それは恐ろしい速度で飛来し、直後中央で激突。しかし活動は止まることなく、火球の熱量が蛇を焼き、蛇の牙が火球を啄んでいく。両者一歩も退かない、完全な拮抗状態となる。「ぐ、ああああああぁッ!」メンマの声と共に風が吹いた。太陽を風が押し、「ち、ィィィィィィいッ!」ペインの声と共に負の思念が高まった。負龍を、黒い意志が押す。衝突するたび爆発が起こり、爆発が起こる度に余波が漏れ出す。蛇は太陽を食らおうと、太陽は蛇を焼きつくさんと、幾度も衝突し、削れ、余波を撒き散らす。その漏れでたチャクラエネルギーは自然と破壊の力となった。拡散する余波はあらゆる場所に散らばり、大地を、木々を、城の残骸を、無差別に削っていく。大地が鳴動し、局地的な台風が発生する。高密度のチャクラが雨のように舞い、嵐のように吹きすさぶ、そこは正に地獄のような光景をていしていた。しかしその嵐は、以外な形で終焉を迎えることになる。火球が啄まれ食いつくされ――――そして黒の蛇もまた、火球に焼き尽くされて消失したのだ。一切の有利ない、完全な相殺。だが最後の余波が、大気を揺るがした。蛇の断末魔が響き―――――再度、爆風が吹き荒れた。「くっ!」ペインは膨大なチャクラを至近距離で見てしまい、眼を覆った。その輪廻眼の性能故に、チャクラが"見え過ぎてしまった"のだ。あまりのチャクラの量に、眼が傷んでしまうことを恐れたペインは一歩下がり、その風をやり過ごそうとする。そして、風が段々弱まってきた時、洞察眼の精度が落ちたペインは、警戒を高めることにした。ペインが一番怖いのは、転移による奇襲だが―――(マーキングのクナイは、遠い)再度確認し、ペインは安堵した。転移からの奇襲が一番厄介で、対処が難しい。最初に刻まれたものは消し、再度ばらまかれたモノの位置は確認している。その位置は遠く、あったとしても、転移してから十分に対処できるとペインは判断する。そして煙越しにうっすらと見える九尾の巨体は、その場を動かないでいた。(チャクラ量も高まっていない、ならば――――?)遠距離攻撃もない。そう、判断した時だった。「………?」無言のまま。戸惑いの思考が、ペインの頭の中を走る。―――なぜならば、無いのだ。九尾の巨体、その上に『乗っている筈』の、メンマの姿が―――――確認できない。(あの暴風の中だ、飛雷神の術で転移を――――)あるいは気配を消したのか。ペインは周囲を見回し、チャクラを見ようと眼をこらす―――――――――だが。『太』ペインの前から、声がした。それは、直前までチャクラを弱め、隠行で気配を隠していた者の声。(な――――――)悟ったペインの顔が驚愕に染まる。散々に見せつけた、威力ある攻撃の数々。人を引き裂ける怪力に、圧倒的な殺意。それを見てなお――――この相手は、正面から来たのだ。一人の肉の器に、二人分のチャクラ。互いのチャクラを共鳴させて、極みまで高め合った結果だろうか、魂に過ぎないモノも表に現れて。(姿が、重なり――――)刹那の瞬間。ペインは、二人の姿を見た。一人は、小池メンマにしてうずまきナルト。もう一人は、四代目火影――――波風ミナト。「極」二人は、全く同じ体勢。魂の形―――勾玉の形状をした、白く輝く螺旋の球を誇らしげに掲げながら。真正面から、突っ込んできた。『「螺旋丸!」』十尾の防御も、斥力の防御も全部吹き飛ばす程の。親子二人の螺旋丸が、ペインに直撃した。~~~~~~~~~~『「だあああああああああああああっ!」』二人の声が重なる。チャクラが重なり、共鳴しあう。親子だからこそ成る、近しい性質を持つ者同時による、共鳴現象。それはチャクラを従来の百倍程に高めて、その形を変えた。その外見は、動物の牙か、人の耳か。あるいは空に浮かぶ月か、人の原初たる精子か胎児か、それ以前となる魂か根源か。古代より伝わる霊器の形、勾玉の形をした現時点で行使しうる最高の螺旋丸、"太極螺旋丸"が、ペインの防御を粉砕し、破砕していく。次々と、噴き出る負の念。しかし太極螺旋丸の貫通力はそれを潰し、解き、昇華していく。そしてついに、貫いた。防御を完膚なきまでに散らした螺旋丸が、ペインの肉にまで届く。「ぶっ飛べええええええええええぇぇッ!」渾身の咆哮。同時に起きた鈍い爆音と威力に圧されたペインの身体は、まるで小石のように吹き飛ばされていった。ひとつ地面に叩きつけられ、100間。ふたつ叩きつけられ、更に200間。勢い良く跳んだペインは水面を跳ねる石のように跳ね、ぶつかる度に地面を削っていく。その勢いは森に入っても止まらず、木々にぶつかりながら転がり続けていく。やがて、遠く。メンマの耳に、遠雷のような音が届いた。どぉん、という鈍い音。聞いたメンマは、転がっていったペインが何かにぶつかり、止まったのだろうと判断した。ならば、最後の一撃を使わなければならない。そう考えたメンマは足に力をこめようとするが―――力が入らない。無理の反動が、一気に襲ってきたのだ。そう意識してからは、速かった。意志により若干弱められていた激痛が、倍となって全身に襲いかかってきた。――――同時に、九尾の九那実が煙となって消えた。メンマの身体の中へと戻る。『グ…………くっ、あ』『ギ、く…………!』九那実とクシナから、苦悶の声が零れた。肉体を離して攻撃を仕掛けた、リスク――――その、報いが九那実の方にもおとずれたのだ。反動が負荷となって魂を傷つけていて、そのせいで激痛に身を苛まれているのだろう。二人の声を聞いたメンマは心配し、大丈夫かと声をかける。しかし返ってきた言葉は叱咤のもの。気丈な二人はすぐに笑ってみせ、そして言った。『今は良い………先にアイツの生死の確認を』『今、ならば………アレが有効に使えるってばね』「二人とも………」その痛み、尋常ならざるに違いない。魂はデリケートで、自らの根本にも関わること。それ故その痛みは火傷その他、あらゆる外傷や内傷による痛みを上回ることを、メンマは経験上よく知っていたなのにひきつりながらも笑顔を見せ、行けという二人の言葉。メンマはその意志を受け取り、黙って頷き、足に力を込めた。激痛が走るが、それを気合で無視する。「時間も、ない………!」しかしそれでも、傷の深さを思い知った。メンマは痛む身体を引きずりながら走り、削れる地面の跡を追っていく。一歩踏みしめるたびに、頭と胸に激痛の鐘がなり、メンマの気力を奪っていった。だが、全速力で走って一分ほど後である。「見つけた!」『あれは……!』二人はペインの姿を確認する。ふうと、安堵のため息をついた。発見したペインは大きな樹にもたれかかり、顔を伏せていたのだ。あれほどまでに猛威を振るっていたチャクラが、今は大人しくなっている。どうやら気絶しているようだと、4人は判断した。「チャクラは……消えていない」『息もあるし、生きているね。気絶したんだろう――――それよりも、早く!』「あ、ああ!」メンマは促され掌をかざし、腕にチャクラを走らせた。身体の中に刻み、隠している切り札が発動しようというのだ。(キューちゃんの傷も………この程度なら、治るはず。俺もまだ、いけるはず)予想外の手練だった。死を決心したものだった。でも今、こうして死ぬことなく立つことが出来ている。怪我も最悪の想定を超えず、挽回が可能な域にある。(良かった。ようやく、これで………)約束が果たせると、メンマは息をつく。そして、終わらせるための用意を整える。今からつかうのは、十尾のチャクラが弱まって初めて効果を発揮する、最大の隠し札。最後の一撃を可能とする、切り札だ。使うならば今しかない。メンマは眼を瞑り、最後の一撃のために集中する。(起動――――)もう空に近いなけなしのチャクラを振り絞る。そして数秒の後、高まり、形の無かったものが形になる。―――――そして、それが本当の形となって、外に出る寸前。ずぶり、と。(…………ん?)メンマは違和感を覚え、とじていた眼を開く。そしてゆっくりと、違和感の元――――異物を感じる、自分の腹を見下ろした。するとどうだろう。黒い、一筋の線が『自らの腹を貫いている』ではないか。メンマは腹部に走る激痛に、どうしようもない場違い感を覚え――――「あ?」思考が停滞し、一瞬の間隙が生まれ、『正直、感服したよ。だが――――そこまでだ』"何か"が、声を発し、ペインの中にある十尾からもれた"何か"が、閃光となり―――――裂かれたメンマの左腕が、おもちゃのようにちぎれ飛んだ。激痛が、声にならない叫び声となる。力が奪われ、意識が朦朧となったメンマは膝から崩れ落ち、『死は一瞬だ。恐れることなはない』一切の猶予なく埋められた声と共に、ペインの身体を中心とした四方百間の世界が弾け。『安らかに、眠りたまえ』メンマの身体は、紙のように。爆風に吹き飛ばされ、空に舞った。あとがきちょっと遅れました。年内に終わりそうにないです。ちなみに口寄せによる合体忍術は、原作でカカシが使った、『忍法口寄せ・土遁・追牙の術』、口寄せと組み合わせた忍術の亜種みたいな感じです。術の名前は屑龍と九頭龍、九蓮と紅蓮、砲塔と宝燈と宝"橙"(オレンジ)、焔魔天と閻魔天、天駆と天供をかけています。ちなみに密教の修行の中に、閻魔天供法というものがあります。