みんなどうも、俺です。
アトレイド家について調べるために、資料室にこもりっきりです。
基本的なことは、すぐに調べがついたんだ。
代々キャロに邸宅を構えていることも分かったし、当主の名前も分かった。血筋を紐解く中には、ジョウイ将軍の名前もある。
ここまでは予想通りってとこかな。
ただ、その先が問題だった。
まさかあの皇子サマに、こんな3行レポートを提出するわけにはいかないし。
もう少し、内容を煮詰めていかないと。
ところが。
無い。全然新しい情報が無い。貴族目録や領主名簿で探そうとすると、今分かってることで精一杯。
しょうがないから、キャロについて調べなおした。
どんなところかなー、とか、ここ出身の人って誰、とか。
結論から言うと、キャロ出身の兵士はほとんどいなかった。
一応ね、正規軍人は名簿に登録されるんだよ。もちろん俺のことも書いてある。ハズ。
何でこんなに曖昧かって言うと、名前と年齢が空欄になってたんだよね。
経歴欄に、皇子サマが行軍中にリューベで拾って来たって事と、群島出身だってことと、配属が情報班だっていうことだけが書かれてた。
だからたぶん、これ、俺。
司書さんによると、情報班は機密性の高い情報を持っているから、万が一スパイに入り込まれても分かりにくいようにあえて名前や年齢は書き残さないんだって。
でもバカにつき取り扱い注意、とは書かれてた。もうムカつかないよ。何でもいいよ。
で、肝心のキャロにいたことのある軍人だけど、その中で俺が知ってる名前は2人。
ジョウイ将軍本人と、ラウドって人だった。
どっちも、今回の戦争の発端だったユニコーンとかいう少年部隊の所属だったらしい。
でもなー。皇子サマにこっそり調べろって言われてるからジョウイ将軍に直接聞きにく訳にはいかないし、俺、あのラウドって人キライだし。
うーん。どうすっかなー。
しばらく悩んでみたけど、今日はもう終わりにしようと決め、兵舎にもらった自室へ帰ることにした俺は、そこですばらしいラッキーに出会った。
部屋長の上級兵さんがキャロ出身でした。
初めは、つっかれたー! とか騒いでたら、訓練もしないで何をしとるか! って怒られたので、ちょっと言い訳してみたんだよ。
「まだハイランドに来て日が浅いので、歴史や今回の戦について勉強していたんです」
これ、皇子サマの入れ知恵。
なんかね。情報班の仕事内容って、直接指示をしてきた人と、その人の上官にしか教えちゃいけないっぽいんだよ。
調べものをしなくちゃいけないのに、更に訓練なんてやったら死んじゃいますって言ったら、こう言えばなんとかなるって言われたのさ。
そうしたら皇子サマの言葉通り、部屋長さんはすぐに納得してくれた。ついでに、キャロの事情まで教えてくれる。
「へえ。同盟軍の軍主って、キャロの出身だったんですか」
おうよ。と頷く部屋長さん。更にはその軍主とジョウイ将軍がとても仲良しだったことも知った。
「でも、何で? この国の貴族って、あんまり平民と一緒に遊んだりしないのかと思ってたんですけど」
「まあそうかもしれんな。だが、ジョウイ様にはちょっと複雑な事情もあったから」
ふんふん。なるほど。これでなんとかレポートが書けそうだよ。
ジョウイ将軍は、どうやらアトレイド家の当主とは血がつながってないらしい。
その辺の出来事をしっかり調べれば、レポートとしては十分でしょ。
部屋長さんのおかげで、どうして皇子サマがジョウイ将軍のことを調べろって言ったのか分かったしね。
なんと! 皇子サマの妹のジル皇女様と、ジョウイ将軍が婚約したんだってさ!
やっと納得がいった。
ジョウイ将軍たちの話をした直後で皇子サマの機嫌が悪くなったのは、妹を取られちゃうと思ってヤキモチやいてたんだ。
シード将軍とクルガン将軍がジョウイ様って呼んでたのは、きっと仲良くなったときにジョウイ将軍と皇女様の恋愛について聞いていたからなんだと思う。
アトレイド家について調べたのは、ムコ殿の身辺調査ってヤツだったんだね。
あんな怖い顔して、意外にシスコン。ウケ……ウケません。皇女様、かわいそう。
でも良かった!
俺、実はちょっと心配してたんだ。あのときの皇子サマの怒り方って普通じゃなかったし、もしかしてジョウイ将軍のことキライなのかなって。
シード将軍の友達をどうするつもりでこんな仕事をよこしたんだろう、って思うと集中しきれなかったんです。
だけどもう安心。
だって、今回の婚約は皇子サマも皇王様もオッケーを出したらしいもん。キライだったらそんなこと許さないだろうし。
よーし。俄然やる気出てきた。
皇子サマの愛する妹さんが幸せになるためのお手伝いだもんね。ジョウイ将軍にはキャロにいる頃から今まで、やましい女性関係はありません! って証明しないと!
明日の調べものは、アトレイド家の交友関係についても資料を集めよう。
「やっと、できた」
レポートが書きあがったのは、皇子サマに指定された期限ギリギリのことだった。
まだ、夕食の時間までには少し時間がある。
報告は今日の夕食後に行く予定だから、読み直すくらいはできそう。
「ワイズメル家に、シルバーバーグ家、ねえ」
俺が見ているのは、アトレイド家の交友関係のページだった。
ジョウイ将軍が生まれてからのここ16年となると、正式な交流だけでも数は多い。その中で特に俺の目を引いたのが、この2家。
キャロの町は都市同盟との国境付近にあるせいか、アトレイド家は都市同盟内の貴族との交流も盛んに行っていたようだ。
とりたてて特に親しい家があるわけではないらしく、どの家とも1度か、多くて2度行き来をしている程度だったんだけど、その中にはグリンヒルの市長だったワイズメル家の元当主の名前もあった。
もしかしたら、テレーズさんとも知り合いだったかも。
うーん、マズイかな。俺は直接話したことはないけど、かなりの美人だったし。
なんて言ったって、あのシンさんが心酔しきっちゃう程の人だもん。あのシンさんが。
皇女様もかわいらしいって評判だけど、俺は見たことないしなー。比べられない。
でもそのグリンヒルを攻めて、皇女様と婚約したんだから、きっと皇女様の方が好きなんだよ。
羨ましいぜ。俺もお姫様と恋がしてみたい。
ハイランドはヤだけどね。あの皇子サマをお義兄サマとか、呼べないでしょ。
ジョウイ将軍、さすが。恐怖に負けずに愛を取った男。
俺、絶対真似できない。
まあこれは、問題ないか。普通に報告しよう。
ヘンなのはシルバーバーグ家の方だ。
シルバーバーグ家は昔からトランにあった軍師の家系で、ありとあらゆる戦況を覆すために知識の習得を惜しまないことでも知られている。らしい。
アトレイド家へは、何度か家庭教師のようなことをするために出入りがあったんだとか。
都市同盟どころかかなり遠くに住んでいるのをどうしてわざわざ、とは思わない。
俺でも知ってたくらいには、頭がいい事で有名な家だし。
大昔の戦争の時には群島にも出没したらしいし。
むしろ、よく家庭教師なんかやってくれたなってところに驚いた。
どうしても調べ切れなくて、どういう事情でそうなったのかまでは分からなかったけど。
好奇心で、シルバーバーグ家の家系図も調べてみた。
外国の貴族のことだから、正確なことはわかってないらしいんだけどさ。
シルバーバーグ家っていうのは本当に変わってて、1度でも付き合いのあった国には、権力者宛に家系図を送りつけるんだって。
有名すぎる家名がむやみに騙られるのを防ぐためだ、とか色々説が飛び交っているものの、本当のところはシルバーバーグ家の人にしか分かりません。
という話だ。
その家系図の中には、現在20歳代であろう男子の名前は書かれていなかった。
やっぱりグリンヒルで街を指揮していた金髪さんはニセモノだったみたい。
そこまで調べたところで、俺はレポートを整理して資料室を後にした。夕食食って、トイレへ行かなきゃ。
「これで全部か」
「はい。それ以上のことは本人に直接聞くのがいいんじゃないかと」
俺は皇子サマの居室に来ていた。
前回の報告は日中に執務室でやったので、この部屋に入るのは初めてだ。
皇子サマの部屋っていうくらいだから もっとキラキラしてるもんだと思ってたのに。
執務室にあったものよりいくらか小さな執務机と、やたら大きなベッドがおいてあるだけで、余計なものは一切無い。
「シルバーバーグ家と繋がりがあったとはな」
「あ、やっぱり気になりました? 俺も少し引っかかったんで、少し詳しく調べてみたんです」
皇子サマの視線が、初めてレポートから俺に移された。
グリンヒルで出会ったニセモノさんの話をすると、訝しそうな表情に変わる。
イライラされたらたまらないので、俺の知っているシルバーバーグ家について必死に話してみた。
「百何十年か前に、群島であった戦争にもシルバーバーグ家の人が関わっていたらしいんです」
「それがどうした」
「歴史で聞いたシルバーバーグ家は、負ける戦に首をつっこんで更に途中で逃げるなんてこと、絶対にしないんですよね」
さすがの皇子サマも、ハイランドから遠く離れた群島の歴史は詳しく知らないみたい。
俺の方がよく知っていることなんてそうは無いから、つい調子に乗って力説しちゃったよ。
「というわけで、俺のイメージでは強い軍か真の紋章が好きな人たちなんだろうな、と」
「主君を捨ててでも勢力の勝利を取る、か。なるほどな、覚えておこう」
「まあでも、それはあくまで俺のイメージですから。結果的に当時は軍は勝ったけど軍主が死んだっていう事実があるだけで」
俺、ずっと間違えてたんだけどさ。真の紋章って、持ち主を不老にはするけど、決して不死にはしないんだって。
考えてみればそうだよね。心臓刺されたり、首飛ばされたりしても生きてたらホラー。
だから、真の紋章の持ち主だったと言われている軍主が死んだってことも、そんなにおかしなことではないのかもしれない。
でも、歴史って本当に面白いと思う。
俺が今皇子サマに伝えたのは俺の育った島で伝わってる歴史だけど、軍主はオベルっていう国の王様だった説のほうが有力なんだよ。
軍主は死んでねえぞ、って怒られるかも。
どっちが正しいのかなんてわかんないから、詳しく知ってるほうで語ってみたけどな!
「えーと、俺からの報告は以上です」
「分かった、下がれ」
おお! 今回は1回も怒られなかった!
急いで帰ろう。さっさと帰ろう。何かで怒られる前に。
「いや、待て」
「はいー!?」
ナニ? 俺、やっぱりまたなんかした!?
「当分の間はあれの行動に気を配っておけ」
あれって言われてもわからねえよ!
「あれ?」
「ジョウイだ」
なんかね。訓練や調べものはしなくていいから、兵士同士の噂とかをちゃんと聞いておけってさ。
聞いたことを逐一報告しろって。
「チクイチって、どのくらい?」
「毎晩だ」
皇子サマには逆らえません。
やっと仕事が終わったからしばらくは会わないで済むと思ってたのに、これからは毎日皇子サマに会いに来なきゃならなくなりました。
俺、不幸。
そんなこんなで、気の休まる日はありません。
自分の不幸っぷりはシュトルテハイム・ラインバッハ3世さんよりひどいんじゃないかと思ってみた。
そんな俺の、20歳の夏真っ盛りのことでした。
8話コメント、ありがとうございます!
幻水2だけではなく、カードストーリーズとティアなんとか以外は全部プレーしました! できるだけ楽しんでいただけるように今後も頑張ろうと思っています。
レオンについても、ちょっとフラグ立ててみました。今後も興味を持っていただけたら嬉しいです。
酷評、激励、ともにまだまだお待ちしています。皆様、今後もどうぞよろしくお願いします!
それでは、次回も頑張ります!