あ、どうも。俺です。
ルルノイエに帰ってきました。
今回は入るの簡単だったよ。いつの間にか俺、正規軍人として登録されてたらしいから。
軍団に混ざってルルノイエ入りを果たしたら、まずは任務の報告をしろと言われたので、教えられた通りの道を辿る。
着いた先には、シード将軍とクルガン将軍とジョウイ将軍がいた。ラウドって人もいた。
あ、ルルノイエに入る前にね、クルガン将軍に怒られたんだよ。
一般人ならどんな風に呼んでも構わないけど、正式に軍人となったからには上官へは敬意を払え。
ってことらしい。
じゃあ皇子サマもルカ皇子殿下って呼ばなきゃいけないの? って聞いたら、皇子サマは1人しかいないから別に良いんだって。
だから、シード将軍たちだけはちゃんと名前で呼ぶようになりました。
「なんか、エライ人ばっかりですね。どうして呼ばれたんですか、俺」
「君は情報班の配属だからね。階級こそ一般兵扱いだけど、任務の重要性で言ったら僕らとそれほど変わらないんだよ」
だから、情報班の任務報告は必ず皇子サマに直接しなきゃいけないらしい。
俺、かなりびっくり。知らないうちに出世してたよ。
とりあえず、走ってトイレへ行ってきた。
任務報告が始まった。ラウドって人は1言2言しゃべったらさっさと追い出されてた。
じゃあ次は俺かな、と思ったのに、俺を無視してジョウイ将軍たちに話をふる皇子サマ。
グリンヒルの攻略って、本当は半年くらいかかるハズだったんだってさ。だいぶ早く終わったって褒められてた。
ジョウイ将軍、すごい。俺より年下なのに。
いや、まあ、俺と比べてもしょうがないんだけどさ。
報告はすごく長かった。めちゃくちゃ長かった。
そろそろ立ってるの疲れてきたんだけど。
あ、終わった? これで終わり? やった、帰れる。
「待て。お前はまだ報告が終わってねえだろうが」
一緒に帰ろうとしたら、シード将軍に怒られた。
報告って言っても、俺の知ってることはほとんどシード将軍に話してあったし、実際、今の報告でそれは全部伝えてあるのに、何で?
でも文句は言わなかった。後ろでイライラしてる皇子サマが怖いから。
「始めろ」
本当に話すことなんて何にもないのに。
「何を、話せば、いいですか? 俺の、知ってること、は、全部、シード将軍に……」
しかも怖いからすぐ帰りたい。
「シード将軍、か。随分と懐いたものだな。グリンヒルに向かったときは名前すら満足に知らなかったようだが?」
そのせいでクルガン将軍に怒られたんだもんよー!
「クルガンか? そう堅苦しい男でもないはずだが」
「初めは、シード将軍の真似をして、ジョウイ様、とか呼んでみたんです」
でもシード様って呼んだら、柄じゃねえからやめてくれーって言われて。
じゃあ僕も、ってジョウイ将軍が言って。だから。
ジョウイくん。って呼んでみました。
クルガン将軍にものすごい剣幕で怒られました。
「シードが、あれをそう呼んだんだな?」
何だ、何だ? ナニ怒ってるの?
「はい」
「いつからだ」
いつからだったかな。初めからじゃなかったっけ?
いや、違うな。初めはジョウイって呼び捨ててたハズ。
いつから? いつからだっけ?
「そっか、帰ってきてからだ」
うん、そう。俺が寝てる間に、グリンヒルの攻略が終わってた日。
前日の夜は確かにジョウイって呼んでた。
よくよく考えてみると、あれから言葉遣いも変わってる。
思い出した順にぽつり、ぽつり、と話すのを、皇子サマは黙って聞いてくれた。
今日は剣を遠くに立てかけてあるから、気がついたら突きつけられてるって事もなさそうだし、あんまり怖くない日かも。
とか思ったのに。
「ふん、そうか」
機嫌悪い。ヤバイ。機嫌悪い! 何で!?
「グリンヒルで、あの3人に何があった?」
「知らない!」
怖さに負けて、つい叫んじゃった。
せめて黙っていれば良かったかもしれないと思ってすごく後悔した。
ガッ! って音がしたんじゃないかっていうくらいの勢いでアゴを鷲づかみにされる。
殴られる! と思ってそむけようとしていた顔を無理矢理正面に向けられると、もう皇子サマから目を逸らせない。
「おれは今、機嫌が悪い。隠し立ては許さん」
「本当に知らないんだ!! 俺はその日、夕方まで眠りこけてた! 気がついたときにはもう全部終わってたんだよ!」
ギリッと、手に力が込められたのを感じる。
アゴ、砕けちゃうかな。
痛いな。
っていうか、顔が近い。顔が近い。顔が近い。
怖さまで薄れてきて、どうでもいい事しか思い浮かばなくなった頃、ふっとアゴへの圧力が無くなった。
「嘘は無さそうだな。いいだろう、信じてやる」
皇子サマが離れていく。
また、助かった、のかな。
初めて至近距離で顔を見たせいなのか、切り殺されそうになったときよりよっぽど怖かった。
ちょっとさ。
別に俺へのビビらせレベル上げたってしょうがないと思うんだけどさ。
どうしてこの皇子サマは、会うたびに怖くなっていくのかな。
最初だってもちろん怖かったけど、最近拍車がかかってる気がするよ?
ひとまずは、皇子サマは俺の言葉を信じてくれたようだった。
さっさと自分の椅子に座りなおしてくれて、ようやく安心できる俺。
気が抜けた瞬間、膝の力までガクッと抜けそうになったのをやっとのことでこらえる。
ダメ、ゼッタイ。
こんな場面でそんなことしたら、みっともない姿を晒すな! とか言われて殺されるんだ、きっと。
「まあいい。今回のことはお前にしては上出来だった」
おや?
「今までの功に、報いてやるのも悪くない」
もしかして。
「褒美をやろう。望みは何だ?」
俺、すんごく褒められてるー!!
どうしよう! ごほうびだって!
でもさ。ごほうびくれるのはもちろん嬉しいんだけどさ。
だけどさ。
「もう少し優しくしてくれたらいいのになー」
ってダメだよ! 声に出して言っちゃったよ! 言っちゃった!
余計な事を言った自分に絶望して、俺は死を覚悟した。……んだけど。
予想に反して、剣や罵声は飛んでこない。
恐る恐る見てみたら、皇子サマは怒るでもなく、ただただびっくり! という表情で俺を眺めている。
うわあ。初めて見た、そんな顔。
もうね。あれだよ。俺で言うと、
ポカーン、
って顔。
ついつられて、俺までポカーンとしてしまった。
静寂に包まれる室内。
次の瞬間。
皇子サマの高笑いがこだました。
「このおれに面と向かってそれを言ったのはお前が初めてだ!」
そんなバカな。
皇子サマだって子供の頃はあったんだから、言われたことあるでしょ。
他人には優しくしてあげましょう、とか、弱いものイジメをしてはいけません、とか。
それともまさか、昔は心優しい少年だったとか?
それはないか。ないない。
何はともあれ、だ。機嫌を直してくれたみたいで嬉しいです。
しかも、何でもあげるよ! お金が欲しい? それとも貴族になってみる? というのも聞かれました。
お金なんてなくても宿屋で働けば生きていけるし、キゾクになんてなりたくないし、丁重にお断りすることに。
「あ、でも」
「どうした。言ってみろ」
「ハイランドの地図、くれませんか?」
グリンヒルでの勉強で一番面白かったのが地理の勉強だったんだよね。
都市同盟がここだとするとー、ハイランドがここ、群島がこっちの方、ってヤツ。その土地の名産品とかも教わった。
もともと、世界にはどんな場所があるんだろうって思ったのが俺の旅の理由だったし。
ただ、グリンヒルには都市同盟の地図しか無かったんだ。
世界が実際にどんな形をしてるかなんて誰にも分からないだろうから、仕方ないけど。
それでも、グリンヒルへ行けばいくらでも見られるって部分で、都市同盟は便利になってるらしい。
普通の国では、それこそ王家の人たちとか、一部の人しか知らないんだって。
「何に使うつもりだ?」
「勉強に。卓上旅行とも言うらしいです」
俺の言葉を聞いて納得したらしい皇子サマは、机の上にあった紙に、さらさらと何かを書き始める。
邪魔をして怒られるのもヤだし、大人しく待っていると、やがて書き終わった紙をぴらっと投げ捨てた。
拾えってこと? わざわざ下へ捨てなくたっていいのに。
皇子サマの視線に耐え切れなくなった俺がその紙を拾ってみたら、そこにあったのはひとつの絵。
色々と描き込んであったんだけど、その中に、ルルノイエ、と書いて丸で囲ってある部分があった。
「国全体の地図など、どこにも無い。それで満足か」
地図、描いてくれたんだ。
「ありがとうございます!」
兵士になって初めてのごほうびだった。
その後は、次の仕事の話。
ハイランド貴族のアトレイド家について調べろってさ。
城の資料室は俺みたいな下級兵士でも入れる1階にあるから、そこで調べたことを詳しくまとめて提出すればいいんだとか。
レポート作りは学校でさんざんやったから、俺、得意。
こういう仕事ばかりなら、ハイランドの兵士ってのもいいかもしれない。
そんなことを思ってみた俺の、20歳の夏真っ盛りのことでした。
7話コメント、ありがとうございました!
クセがありすぎて嫌われるかな、とも思っていたので、主人公を気に入ってくださって嬉しいです。
フリックとの再会は、7話までの展開上、避けるほうがむしろ不自然かな、と思いああいった形になりました。その為、今後の再会の予定は今のところありません。
ほぼ毎話コメントがいただけているので、読んでくださっている皆様には本当に感謝しています。
酷評、激励、ともに真剣に受け止めて精進していこうと思いますので、今後も愛あるツッコミいただけたら励みになります。気が向いたらぜひ、一言残していってください!
何度かルカ様の今後についての展開予想をしていただいています。
できれば、最後まで興味を持って読んでいただきたいという思いからあえてコメントは控えていましたが、完全スルーは失礼かも、と思い直し、ここでお礼に代えさせてもらいます。
これからも読んでいただけたら嬉しいです!
それでは、次回も頑張ります!