おう、どうも。俺です。
ハイランドの首都に着きました。ルルノイエっていう街だそうです。ミューズよりおっきいよ。遊びに来るならオススメだよ。
ルルノイエに入るのは大変だった。
あれがルルノイエだよって言われて、なんとなくわかるかなー、ぐらいの距離までは大勢の集団に混ざって連れて来てもらったんだけどね。
そこでミューズのときとは別の人だったけど、やっぱり見張り君と2人だけにされた。
置いてけぼり!? って大騒ぎしてたら、見張り2号にぶん殴られた。痛いよ! 怖いよ!
怖すぎて怯えてた俺に見張り2号が言ったことをまとめると、
1、俺は軍人として登録されてないから正規軍と一緒に街に入っちゃダメ。
2、でもあのでっかい人が街で待機しろって言った。
3、ちゃんと一般人として街に入れる方法を思いついたから言うとおりにしなさい。
ということらしい。
でもおかしい。
俺は知ってるんだ! あのでっかい人、ミューズで俺よりちょっと年下かなー、ってくらいの男の子連れてたもん!あの少年は軍と一緒のはずだもん! 何で俺だけ!?
つい騒いじゃったからか、またぶん殴られた。ねえ、やめようよ。暴力、いくないよ。
よくわかんないけど、とりあえず頷いておくことにした。
そうしたら、モンスターの前に、一人で放り出された。
それからのことはよく覚えてない。
目が覚めたのは応急の医務室で、大勢いた医者の一人が3日間生死の境を彷徨っていたことを教えてくれた。
事情はよく分からないけど、死にかけたのが、助かった。うん、それで満足。
意識がはっきりしたからということで優しさのしずくをかけてもらい、体力も万全になったところでじゃあさようなら、と思ったのに、そう上手くはいかなかった。
話によると、俺を助けてくれたという人が今相当ヤバイ状況なんだそうです。
医務室から連れてこられたのは、尋問室という部屋だった。
俺がぐっすり眠り込んでいた3日の間、行き倒れを助けてくれただけの優しい人が閉じ込められていたという。
部屋の扉を開けると、赤毛の男の人が思ったより元気そうに座り込んでいるのが目に入った。
「お前!」
相手もすぐに俺に気がついた様子で、叫びながら飛び掛るように詰め寄ってくる。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 俺のせいで迷惑かけちゃってごめんなさい!
「助かったんだな? 生きてるな? もう大丈夫なのか?」
お前のせいで俺がこんな目に! とか怒られるかと思ったのに、赤毛さんはひたすら俺の心配をしてくれた。
この前の隊長さんたちといい、この人といい、世の中っていい人ばっかりだと思う。
あ、訂正。見張り2号はキライ。あのでっかい人は怖い。
「もう万全。でも、まだ状況がよく分からなくて。俺を街に入れたせいで怒られたって聞いて」
「あー、そんなこと聞いたのか」
お礼と一緒に尋ねたら、苦笑いを浮かべて答える赤毛さん。
「軍規違反ってヤツだよ。任務からの帰還中は正規の軍人以外と街に入るのはちょっとマズイんだ」
何だとう! グンキイハンって何だか全然分からないけど、もしかして俺めちゃくちゃ迷惑かけてんじゃん!? どうしよう、謝るか? 謝るだけでいいのか?
だけどどうしたらいいのかやっぱり分からないし、とにかくひたすら謝った。
「気にすんなよ。軍規っていっても、普段だったらそれほど重大事でもないんだ。何つったって、オレは地位があるからな」
「うあ? そうなんだ……じゃない、そうなんですか?」
「おう。今回はちょっとタイミングが悪くてな」
どうやら、赤毛さんはすごくエライ人だったようだ。
いつもなら、オレが責任を取る! とか言えば、ちょっと遅刻しちゃったよ、とか、行き倒れ拾ってみたよ、とかは少し怒られるだけで済むらしい。
今回3日間もキンシンショブンを受けたのは、ちょうど皇子サマが城に帰ってきてたからなんだとか。
「皇子サマって、そんなに厳しい人なんですか?」
「厳しいなんてもんじゃねえよ。あれは鬼畜って言うんだ。でもまあ、自分で言うのもなんだがオレは有能だから、これからの尋問にさえ耐えれば軍務に復帰ってところだな」
ちょっとした休暇だと思えばどうってことねえさ。と爽やかに笑う赤毛さん。
器がでっかい! カッコいい! 俺、尊敬!
「ところで、どうして俺はこの部屋に呼ばれたんですか?」
「そこなんだよな。しばらくしたら皇子から尋問を受けることになってんだよ。もしかしたらお前も皇子から直接尋問を受けることになんのかもな」
それ怖い! 皇子サマが厳しい人だって今言ってたじゃんか! 怖い人なんてあのでっかい人だけで十分なのに!
あ、でも、もしかしたらもう当分会うこともないのかも? あの人結局どこにいるのかわかんなくなっちゃったし、今はもう見張りもついてないし。
でも怖いし、とりあえずトイレに行かせてもらうことにした。大事な儀式。
戻ってすぐに、皇子サマが来るからしゃんとしなさいと言われた。
どんな人だろう。皇子サマってくらいだからきっと、華奢で、キラキラしてて、くるくる金髪に青い目で……。
「ルカ様!」
来た!? って、えー。
「おい、お前が拾ってきたというのはこいつか」
「はい。ルルノイエから少し離れたところでモンスターに襲われて倒れていたのを見つけて、つれてきました」
「そうか。ならばお前はもういい。次はグリンヒルだ、準備が整ったらすぐに発て」
この人皇子サマだったの!? どうして誰も教えてくれなかったの!?
動揺しているうちに、2人の間では話がついてしまったようだ。
「では、失礼します」
ちょっと! 赤毛さんだけ行っちゃうの!? 俺は!? どうしたらいいの!?
そんな俺の思いなんて知らないまま、赤毛さんは部屋から出て行ってしまった。
恐る恐る皇子サマを見上げると、
「つくづくお前は運がいいな。偶然とはいえ、シードとつながりを持ったのは好都合だった」
ニヤリと笑う。
「あの、事情の説明とかしてもらえたら、嬉しいなー、なんて」
「お前は普通に軍へ入れたところで何の役にも立たん。しばらくは街で放っておこうと思っていたが、予定が変わった」
これからは当分あの赤毛さんが俺の面倒を見てくれることになったらしい。今の今そんな話してたらしいんだけど、聞いてなかった。
と言っても、赤毛さんは自分でも言っていた通り優秀な軍人らしく、7日もしたらグリンヒルという街へ出かけることになっているんだとか。
とても大きな学校があると聞いて、行ってみたい! と言ったら、すんなりいいよって答えてくれた。文字の読み書きくらい出来るようになれ、とも言われた。
でも、皇子サマは手続きとかそういうのを手伝ってはくれないんだってさ。赤毛さんに自分で頼んでなんとかしてもらえって怒られたよ。
「おれの手を煩わせるようなブタなら用はない。いっそのことここで死ぬか?」
「はい! ごめんなさい! 自分で頼みます!!」
尋問室から慌てて逃げ出したら、赤毛さんに追突。
どうやら俺を心配して部屋の前で待っていてくれたようだ。ホッとして涙出ちゃったし。
「何で!? 何であの人って人のことブタブタって! よりにもよってブタって! 死ねって!」
前のキャンプの時と同じようにマジ泣きした俺を、赤毛さんはしっかり慰めてくれた。いい人。
ルルノイエで暮らし始めてから3日経ちました。今日も宿屋でアルバイト、頑張ってます。
「将軍がいらっしゃったよ! 今日はもういいから行っておいで」
「本当ですか! じゃあ行ってきます、おかみさん」
あれから毎日、自分も忙しいはずなのに赤毛さんは夕方になると俺の様子を見に来てくれていた。
「よっ。どうだ、変わりねえか?」
「はい! あ、でも最近ちょっと困り始めました」
「何だよ、どうしたんだ?」
心配そうに聞いてくれる赤毛さん。
「それほど大したことじゃないんですけど。宿帳の管理ができなくて」
「宿帳だあ? そんなの、ちょっと中身読めばそれでいいんじゃねえのか? よく知らねえけど」
「そこが問題なんですよね。俺って文字の読み書きできないんです」
すごく驚かれた。おかみさんもそうだったから知ったけど、この国の人で俺くらいの年になると、読み書きができないのってすごく珍しいらしい。
自分が育った島ではそれが当たり前のことだったから、読み書きができなくて恥をかくとは思ってもみなかったよ。
「そういえば、もう少ししたらグリンヒルへ行くんですよね?」
「ああ。だから、ここへ様子を見に来られるのもあと2、3日ってところだな」
「俺、学校ってのに通ってみたいんです。なんとかして連れて行ってもらうことってできないですか?」
「グリンヒルへか? それはムリだ」
皇子サマから聞いたときはちょっとしたおつかいみたいな口ぶりだったけど、グリンヒルには戦争しに行くんだとか。
遊びに行くんじゃねえんだ、ふざけんな。って言われたけど、口が悪いわりにいつもニコニコしてるから怖くない。
戦争かー。じゃあいいや。怖いし。文字が読めなくても死ぬわけじゃないし。
「でもまあ、確かに読み書きができねえってのは困るよな。オレも知り合いにちょっと相談してみてやるから、あんまり期待はしないで待ってろよ」
「ありがとうございます!」
じゃあな、と言って去っていく赤毛さんは、とにかくひたすらカッコいい。
あんな男に、俺はなりたい。
次は何を話そうかな、なんて考えてたんだけど、翌日、赤毛さんは来てくれなかった。
あと2、3日は来てくれるって言ってたのに、どうしたんだろう。何かあったのかな?
夜になって、おかみさんに呼び出された。
今日までそんなこと1度もなかったから、何事かと思って驚いてたら赤毛さんだった。
「お前、昨日グリンヒルに行きたいって言ってたよな。その気持ち、変わってねえか?」
急にどうしたんだろう。グリンヒルは危ないよって教えてくれたばっかりなのに。
「変わりました。戦争なんですよね? 俺、怖いのキライ」
「そうだよな! だ、そうだぜ。やっぱりムリがありすぎるんだよ」
ホッとした顔で頷いて、後ろに振り返る赤毛さん。つられて赤毛さんの後ろを見てみたら、知らない人が立っている。誰?
「それは困るな。ルカ様からの命令がある以上、これはもう決定事項だ」
なんか、怖い言葉が聞こえた気がするんだけど。
「ルカ様って、皇子サマのことじゃ、ありませんでしたっけ?」
「それがどうした」
やっぱりー!
何で? 命令って何!?
事情を聞いた。
赤毛さんが俺の為に、なんとか読み書きを教えてくれる人がいないかどうか、この人に相談してくれたらしい。
でも、ちょうど通りかかった皇子サマに話を聞かれた。
で、それだったらちょうどいいからグリンヒルに潜り込ませろ、命令だ。って言われた。
だって。
何のイジメよ? 戦争するんでしょ? 危ないんでしょ?
そもそもさ。あの人が通りがかりに部下の話に口を突っ込んだところなんか、俺、見たことないんだけど。
俺をイジメるタイミングを今か今かと計ってたとしか思えない。でも、実際のところどうなのかは俺には到底わからないし、確認なんてしたくもない。あの人、怖いもん。
「なんなんだろうな、最近のルカ様は。次のグリンヒル攻略だって、急にあのガキに指揮権を与えるって言い出すし」
「さあな。私たちには理解できない考えがあるんだろう。当分は忙しくなりそうだな」
「まあ頑張れや、知将さん?」
「馬鹿を言うな。お前もだ」
急に難しい話を始めるから、俺にはほとんど理解できなかった。
とりあえず、赤毛さんと一緒に来たこの人はチショーさんというらしい。
うん、覚えておこう。
「それで」
突然こっちに振り返るチショーさん。
「これだけ機密事項を聞いたんだ。命が惜しいなら従っておいたほうが身のためだぞ」
「や、やらせてイタダキマス」
返事は、決まりきっていた。
と、いうわけで。
このたび、ニューリーフという学校へ入学することになりました。
詳しいことを聞いた後で、年齢制限に引っかかってるけど大丈夫? って聞いたら、赤毛さんとチショーさんが2人して驚いてたのが不満です。
どう見ても10代だから大丈夫だ、と言われてすごく複雑。
年齢相応に見られるためにも、学校でしっかり勉強してこようと思った。
そんな俺の、20歳の春の終わりのことでした。
みなさま、いつもコメントありがとうございます!
今回、話を作るときのコンセプトとして、ルカ様には思うまま、望むまま、邪悪に、生きてもらう。ということと、主人公は無自覚スパイ。ということがあるので、その辺りも理解していただけたようで嬉しい限りです。更に、今回は本当にありがたいコメントいただきました。まさかここまで受け入れて下さる方がいるなんて、と、とても喜んでいます。
そして、実はタマネギ将軍も嫌いではないので、読んでくださった人たちのお気に入りにも加えてあげてね、という気持ちで出演させてみました。
こんな文体なので好みによって好き嫌いは分かれるとは思いますが、ご意見、ご感想はありがたく受け止めています。もし気が向いたら、今後もよろしくお願いします。
それでは、次回も頑張ります!
追記
事件の起こった時期に関して、愛あるツッコミいただきました。
お恥ずかしい限りですが、完全に勘違いしていました!
書き始める前にゲームをプレイしてチャートのようなものを作っていたにもかかわらずこの失態。深く反省しております。
皇王暗殺のタイミングについては今後の展開に大きく関わることでもなかったため、急遽訂正、という形で編集し直してあります。ご指摘、ありがとうございました!
見捨てずに、今後も読んでいただけたら嬉しいです。
今後も愛あるツッコミ、どしどしお願いします。それでは!