二年前。
大きな戦争があった。
宇宙を挟み、火星と地球が行った戦いは、五年に渡って続けられた。
大きな陰謀があった。
小さな祈りがあった。
そんな怒涛の五年の中。
我々は度々この名前を耳にする。
グレテアの龍。
世界を救った英雄にして、グレテア軍のエース、もしくはその乗機のことだ。
彼らの逸話には、一機の援軍で、押し込まれていた戦場を押し返した、や、単機で敵超攻撃要塞を破壊した等、俄かには信じがたい話がある。
その、余りに誇張としか思えないその話に、私は興味を持った。
私はその足跡を追い、彼の駆けた、いや、彼らの駆けた戦場を見て回った。
そして、グレテアの龍に関わった、話しを聞ける限りの人間に私は聞いた。
その彼らは、何を持っていたのかと。
当時最新鋭であり、万能液体金属シフト・オリジンなどの最新技術が搭載された彼の機体には、どのような機能が、兵器があったのか、と。
それは戦況を一人で引っくり返しうるのか、と。
すると、龍に関わった人間は、搭載された兵器については一切語らず、皆口をそろえてこう言うのだ。
全員が全員、彼等をこう評価する。
「確かに胸に、大和魂って奴を持っていた」
と。
このインタビューの記録は、グレテアの龍と呼ばれた、一人のエースと、一機の機体の戦いの足跡である。
Report No.1
戦争を駆け抜けた龍
まずは、突然届いたこの通信から、見せよう。
俺の名前はドラゴンバレット。
本名としては、Tx-01 ドラゴンバレット。
ははは、どんな外国人だよ、って思うだろ。
でもこれが日本人なんだ。
まあそりゃ、日本人離れした外見ではあるんだけどさ。
まず、十メートルを超す体躯。
青色の肌。
……人間離れしてるよね。
ああ、職業は、グレテア軍第二戦闘旅団所属の――。
ディストラクションフレームだ。
はっきりと言おう。
俺は今、巨大ロボットに憑依している。
憑依主人公はどうせだからこんな憑依をしてみればいいと思う。きっと無双もできる。
この話を聞いて、私は驚愕を隠せなかった。
実に彼は、千年前の人類だと言う。
千年前と言えば、火星に人は住んでおらず、地球の中だけでこじんまりと戦争や環境問題に関することを繰り広げていた頃だ。
その彼が、その時代の人間で、朝起きたら、件の機体、ドラゴンバレットのAIになっていたというのだ。
いや、驚いたね。
朝目覚めたら、体がなくなってるんだもの。
思わず叫んだね、なんだこりゃあ!
ってさ。
うん、そいつはコクピットのスピーカーで悲しく響いてただけなんだけどさ。
で、どうしたどうしたと思う前に、自覚した訳だ。
俺はグレテア地球軍所属のディストラクションフレーム、通称DFの、最新鋭機、Tx-01ドラゴンバレットだってね。
あ、ちなみに、Tx-01、ってのはTがトライアルで、xが未知数。要するに、試験機の一番機って話。
でさ、要は俺はAIだから、色々なネットワークとかとリンクしてるし、インプットされた基本データから自然と俺の――、ってか機体のことかな?
そいつを理解しちまったわけだよ。
その後しばらくへこんだね。
えー? 夢だろこれ、って。
ところがどっこい夢は覚めない、後は寝れもしない。
三日位で諦めた、こいつは現実さ、ってな。
そりゃも色々諦めることになったさ。
睡眠できない、機体は動かせるけど、黙って動かしたら廃棄処分にされそうだし感触はないし。
飯も食えなきゃラノベも読めん、と、思ってたら、電子書籍でラノベは読めたわ。
っつか、ラノベで三日時間つぶしてたんだけど。
ともかく諦めたわけよ。
こう、人間として生きられなくなっちまった事を、もうどうしようもない、しゃあない、これからは美人の女軍人か、美少女テストパイロットの尻に敷かれて頑張ろうってな。
まあ、整備の人か開発者か知らんが、ネットワークに接続してたことがばれて、色々危なかったんだけどさ、なんとか知らん振りできた。
で、それまでで一週間。
本当はここまでへこみっぱではあったんだけどね。
それでもこの辺からは、俺のシートに座る女の子が誰だか気になって仕方なかった。
あー、多分半分夢気分だったんだろうな。
余りにも非現実すぎて、考えるのをやめちまった。
あれこれ仕方ない、って決めつけて、流されるまま行ってみたわけさ。
そんで、いよいよ俺に乗る奴が来るってんだ。
どんな奴かメインカメラ、あー、モノアイじゃなくてちゃんと目ぇあったわ。
ともかくそれで確認したかったんだけど、ここでブォンってつけたらびっくりされてなんだこりゃお前は誰だーこれはいかん廃棄処分だー、ってなりそうでさ。
黙って待ってたわけよ。
で、ハッチが開かれて、俺のシートに座る人影。
その時既に、俺は脱出装置を作動させていたよ。
色々間違ってたけど、叫んだね、スピーカーで。
『男かよ!!』
そう、野郎だったんだよ。
大体二十後半位の、日本人、黒髪黒眼で、短髪。
結構修羅場くぐってそうな。
で、その脱出装置により、椅子ごと宙に放り出された男が、今の俺の相棒。
望月虎鉄。
後々、日本人だったことに驚いたり、んなことがあったんだけどな。
ともかく今回は、男であることに驚いちゃったわけだ。
ま、そりゃそうさな、職業軍人で、女の人に当たること自体、珍しいだろう。
それにDFの操縦きついらしいし。
で、格納庫は驚愕で沈黙してた。
そりゃそうだ。
起動してないはずの機体がいきなりブォン、って起動して男かよ、って叫んだんだぜ?
俺なら疲れてるんだと部屋に戻って寝なおすね。
で、やべー喋っちまった、と、俺は急いでメインカメラ消灯、寝たふりゴー。
すると格納庫の整備員は大慌てで、シートつけ直して再チャレンジ。
で、俺は寝たふりして、そいつが俺の起動キーを押した訳だ。
んで、俺はどうしたかというと、できる限り普通のAIを装ってさっきのはなかったことにしようとした訳だよ。
『おはようございます、当機はTx-01、ドラゴンヴれ、噛んだー、噛んだー、もうやだ諦める』
二秒で諦めた。
俺にゃ無理だぜ、ってな。
ちなみに当の虎鉄は茫然としてた。
で、なんだお前、って。
『俺ぇ? 俺はこいつのAIですよーだ。考えりゃわかるだろ、脳みそ腐ってんの?』
「いや、本当にAIか?」
そう言って聞いてきた虎鉄に俺はこう返したよ。
『AIですぅー。ついこないだ朝目覚めたらAIになってたんですぅーだ』
もう開き直ったね。
スクラップにされたときはそん時だ。
そんで、目を丸くしたまま虎鉄は俺に聞いた。
「名前は?」
俺は心の中でにやりと笑って答えたね。
「名を問うときは自分から、礼儀だろう?」
いやー、一度言ってみたかったんだ。
これで死んでも思い残すことはないって思ったんだけど、意外にも虎鉄は大笑いして見せたんだよ。
「ぷっ、くははははは、面白いAIだな……!! いや悪い、俺の名前は望月虎鉄、階級は中尉だよ」
その言葉に、俺は逆に驚いたね。
『マジで!? 日本人なの!?』
すると、あいつはもっと笑った。
『何がおかしいんだよ?』
俺が聞くと、あいつは笑いながら言った。
「お前、日本語で喋ってるの気付いてるか?」
『あ』
ちなみに、この時まだ虎鉄は俺をこういうAIだと思ってたらしい。
システムのため疑似的に人間らしい人格を作ったと聞かされてたっていってたから、そこからだろう。
後になって聞くと俺が憑依主だと信じるまでに、しばらくあったそうな。
じゃあ途中まではどうだったんだよ、って聞いたら、
「途中まで信じてなかった。途中からどうでもよくなった」
って返ってきたわけだ。
あいつらしいっちゃあいつらしいがな。
で、ともあれ俺は、虎鉄に初めて名前を教えるわけだ。
『とりあえず。俺の名前は昭乃守龍馬、よろしくってやつだ』
「ああ、よろしくな」
これが、相棒との出会いだ。
この通信が届いたとき、私は達の悪いジョークか何かだと思った。
無論、ありえないと思った訳だ。
英雄の駆る機体のAIの人格が千年前の人間だなどと誰が信じられようか。
だが、それも打ち消されることになる。
次に現れたのが、一度だけその顔をメディアにちらとだけ映した男。
そこには、彼の望月虎鉄が立っていた。
あー……、インタビューって言うから一応来てみたが、これでもこの通信結構エネルギー食ってるんでな。
早く終わらせる、とは言わん、というかゆっくりやってもいいんだが、無駄なく行こう。
何でも聞いてくれ。
私は聞いた。
画面にかぶりつくように、先ほどのことは本当か、と。
あー、本当も本当。
いきなりコクピットから放り出された時は、驚いたね。
急いで着地しなきゃ、地面に激突だった。
んで、再度行ってみたら、今度はいきなり噛んだだの何だのと。
面白いAIだ、って思ったな。
いやはや、その当時は全く前時代の人間とかは信じてなかったんだがな。
ともかくすごい面白いAIだと思ったわけだ。
いやはや、果てには日本人だなどと言うんだ。
確かに日本語だったな。あれは。
ともあれ――、そんな出会いだった。
その後、テスト機のこの主人公っぽさと無駄な採算度外視具合が死亡フラグだとか叫んでたな。
心底面白いと思った。
ん?
初戦の話?
そうだな……、そいつはバレットに聞いた方が早いだろ。
私は、この映像を関係者に見せた。
すると、ある者は懐かしいと笑い、ある者は涙を流し彼等の名を呼んだ。
要するに、これは本物だったのだ。
彼らは、どこかで私の話を聞いて通信を送って来たのだ。
さて、ここからは、前半は散々で、後半から疾風怒濤の勢いを得たと言うドラゴンバレットの初戦について語ってもらった。
初戦の話ね?
いや、懐かしいな。
そうだなぁ……。
そりゃ最初は散々だったさ。
なんせ、戦争を知らない平和な時代の日本人だったんだからな。
Report No.2
紺碧の誓い
格納庫で棒立ちの俺は、近くに起きる戦争に緊張を隠せ――、いや隠していた。
と言うよか俺に表情はないから誰も気づかない。
ただ俺は、忙しなく走る整備員を眺めながら、自分を誤魔化していた。
そんな中、俺に声を掛ける整備員の子がいた。
むっさい整備員の中で珍しい、女の子だ。
金髪でそばかすが可愛いんだなこれが。
このあいだ、引っかけて台車の上の箱ばら撒いてたから直すの手伝ってやったら仲良くなったんだ。
で、その子がわざわざ上がってきて、
「頑張ってくださいね、気を付けて」
と言ってきた。
『お、おう』
俺は何となく照れながら、そう返す。
これが、出撃前の一幕。
んで、虎鉄が乗り込んで、艦長からの出撃任務が降りた訳だ。
ちなみに地球な、それも実戦。
火星派の国との戦闘だった。
テスト機なのに戦闘に出てんのは、基本テストはもう終わってるってなログが俺にはあって、更に、戦闘じゃないとテストにならない機能が色々あったんだなこれが。
虎鉄が俺に乗り込むと、ハッチが開く。
「行くぞ? 行けるな?」
『上手く操縦しろよ?』
「当然」
自信ありげに虎鉄が言い、ドラゴンバレットの背部バインダーが展開。
ハッチが開き、俺は外へと飛び出した。
この時の俺の感動は今でも忘れられん。
自分で空を飛ぶこと、そして空の青さ。
触覚も味覚も嗅覚もなくなってしまったが、視覚を失ってないことに初めて気づいたね。
まあ、嗅覚センサはあるにはあるんだけどさ。
人間的には感じられない訳で。
んで、少し黙ってたら、
「どうした? 御喋りなお前らしくない」
とか言ってきたから素直に話したんだ。
『ちょっと、空に感動してた』
そしたらアイツめ大笑いしやがった。
空に飛び出した俺は、虎鉄の操縦の元、敵陣に迫って行った。
武装はハンドガン。
虎鉄は、迫るミサイルをマニュアルにはないコンバットで回避しながら突撃した。
人型機動兵器であるのにもかかわらず、ロールに、インメルマンターンまで決めるこいつに、
『無茶なことすんなよ。腕のコンディションが少し悪くなってる!』
などと言った俺を、虎鉄は不敵に笑って返した。
「確かに、無駄はいかんが、無茶や無理は必要ならやるしかあるまい?」
そんな風に笑いながら、虎鉄の操縦する機体は、一瞬にして、敵の第一陣の背後に現れた。
驚く敵陣を余所に、無茶な機動で錐揉みしながら前後を反転、そして、敵の背後に、ハンドガンを向ける。
「墜ちろ!」
だが、その銃口から、弾が発射されることはなかった。
「どうした? 何がある?」
俺に聞く虎鉄に、言う。
『あれには人が乗ってるんだぞ!?』
「それがどうした!?」
『当てたら死ぬだろうが!!』
意気地のないことだが、俺の本心だった。
だが、そうこうしている間に敵は体勢を立て直し、弾幕を張ってくる。
それを虎鉄は神がかった機動でひとつ残らず回避して行く。
それに対して俺はレーダー妨害を行い、相手のミサイルを止めて行く。
「当てなきゃ死ぬ。判ってるのか?」
その言葉に、俺は叫んだ。
『わかってる、わかってるっての!』
だが、虎鉄は首を横に振った。
「わかってないな」
『何がだよ!?』
「当てなきゃ死ぬのは俺たちじゃない。艦の皆だ」
もう一度、ハンドガンの銃口が、敵を向く。
俺は、整備員のそばかすの少女を思い出した。
爆発の炎に、彼女が焼かれる姿を想像して、
俺は――。
「さあ、どうする?」
腹、括った。
敵機が、落ちて行く。
「……悪いな。だが、動かしてんのは俺だ、気に病むな」
『いや、俺が決めた。俺がやった』
これでパイロットのせいにしたら格好悪すぎるだろうが。
すると、優しげに虎鉄がほほ笑む。
「そうか」
『ふん、気持ちわりいんだよ。まだ残ってんだろうが、とっとと片付けろ』
力強く、虎鉄は肯いた。
「ああ、任せておけ」
そこから先は、まさに獅子奮迅だな。
ミサイルをブレードで切り裂き、弾丸の嵐を目にも止まらぬスピードで越え。
『右、アラート、ミサイル避けろ!』
「了解っ! 索敵、長距離ミサイルを撃ってる奴がいる、探し出せ!」
『Yes. 索敵、発見。レーダーに映す!』
「狙撃、できるか?」
『それもYesだ!!』
背より、ライフルを握り、狙いを付ける。
生前からは考えられない速度で、風向き、敵位置、弾道を計算し、トリガーを引く。
『破壊確認。次!』
「よし、突っ込む!」
虎鉄がフットペダルを限界まで押し込み、操縦桿を前のめりから後ろへ。
がくんと、下へ向かっていた機体が上昇しながら前進。
「なんとか……、突っ切る!」
『そんなお前に朗報だ。…GAS起動』
「なんだそれは?」
『Gatling-Automatic-System、通称GAS。使えば早い!』
「了解っ」
ブレードを両手にもった青い機体が天へと舞い上がり、敵を切る。
そして、
「ち……、後ろからもとは厄介な!」
そう言った瞬間、ドラゴンバレットの肘から機関砲が出現し、敵を穿つ。
更に、下方に居た敵へ、足からの機関銃掃射。
「……やるな」
『全身に搭載されたガトリングが、射線に来たらフルオートだ。敵陣の中こそ効果を発揮する』
ジャカリ、と音を立てて、全身から砲頭が現れる。
「それじゃ、まあ、続けるとしよう!」
『おうよ!』
青い機体が敵陣の中に突っ込み、全身から弾をばら撒く。
鈍く輝く薬莢を排出しながら敵艦へと向かうその姿は、敵陣を食い荒らす龍の如く。
「これで、終わりだ……!」
『冥土の旅への準備はいいか?』
敵の旗艦が、いとも簡単に空から墜ちる。
戦闘開始から、三十分の出来事であった。
いやしかし、初めて敵を倒した時はあれだったな。
踏ん切りがついてしまえばもう後は無我夢中だったんだが。
ま、その後格納庫で一人へこんでたよ。
そしたら、整備員の子が来て、
「すごかったです! 整備した私も、すごく嬉しいです!!」
なんて言って、しばらく話してたら、だいぶ楽んなってたな。
別にこの子を守るために――、とか云々言うつもりはなかったけど、ただ、守った分のお礼はもらえたっていうかさ。
良かったな、と。
うん。
そのようにして初戦のことを彼は語ってくれた。
ちなみにこの時点でのドラゴンバレットの撃墜数は、三十機。
これは、搭載システムのGASに依るものが大きいが、差し引いても異例。
虎鉄氏と、龍馬氏、双方の息があった結果であろう。
これにより、グレテア地球連合軍の士気は上がり、地上の火星勢力の排除に成功。
これを踏まえて、戦場は宇宙へと変貌する。
これから先は、その二年後、戦局をこの二人の英雄が変えたとされるレイジス戦役についてになるのだが、その前に、龍馬氏にAIとなる前は何をしていたのか聞いてみることにした。
ああ、俺はぶっちゃけ大学二年生だったんだがな。
まあ、ちょっとどころじゃないオタクって奴をやってた。
うーむ、弟と妹がいたんだが、俺だけ親元を離れて大学に行ってたんだ。
あと、弟はちょいと前に行方不明になった。
少々思ったのだが、弟も俺みたいに別世界未来並行世界に飛ばされたんじゃないかと、今は思ってる。
前の生活は好きだった?
まあ、飯も食えたしな。
んー、でもまあ、今が特別悪い訳じゃないしな。
どちらの生活も今では大切なものだな。
いや、こっちの方が大事だな。
恋人もできたしな!!
はっはっはっはっは!
そのように軽くジョークを飛ばして語ってくれたのだが。
恋人?
おうよ。
可愛いぜ?
ドラッフェンバルトなんて男らしい名前だけどな。
愛称はドラ子だ。
虎鉄にもそう呼ばれてるからな。
ま、後で詳しく話すと思うぜ。
出会いはレイジス戦役だからな。
さて、まずはレイジス戦役について、彼の整備を務めた男、ジャック・ロウガから話を聞いてみたいと思う。
最初に、彼から見た虎鉄と龍馬について聞いてみた。
リョーマ? コテツ? ああ、知ってる。
懐かしい名前だな。
……?
VTR?
……!!
あいつら生きてやがったのか!
死んでねえとは思ったが……、この通信はいつ来たんだ?
先週?
ほぉ…。
で、何を話せばいいんだ?
コテツの人となり、ね?
そいつは龍馬が一番解ってんだろうけどな…。
なるほど、ひねくれた答えしか返ってこなかった、ね。
うーむ。
コテツか。
あいつを語る上で外せねえのはそうだな――、
無駄にモテたな、あいつは。
女泣かせだよ。
このようにして彼の話は始まった。
龍馬氏も憎たらしそうにそう言っていたのだから相当なのだろう。
なんつーかな。
あいつは戦場に一途で脇目もふらねえ。
それで刹那主義で、後先考えねえ。
無論女性軍人もいるっちゃいるんだが、あれと同じ所属になった奴は軒並みアウトだったな
何が悪いって、圧倒的技量のパイロットで、助けた味方は数知れず。
そして、その数少ない女性軍人はコテツに窮地を少なからず助けられてる訳だがな?
あいつの戦場への一途さが男の下心を感じさせないんだろうな。
それで、強くて顔もそれなりにいい。
そして、どこか危なっかしかった。
それが悪かったんだろうな。
女どもの間では、私が支えてやらないと、なんて思ってたに違いねえ。
ただ、憎たらしいのはそれで誰かととっととくっついちまえばよかったのに、最後まで独り身貫きやがった。
なんつーか、あいつの恋人は戦場だな!
あっはっはっはっはっはっは!!
おかげで何人の女が泣いたんだかな。
自分のことを慕う女のことなんて知らぬ存ぜぬで戦場に突き進む様はもう、不能なんじゃねえかと思ったな。
どっちかつーと、あれだな。
慕おうが何しようが勝手にしろ、ただし、自分の道の前に立つなら切り捨てるってタイプだな。
邪魔にならなきゃ好きにしていいが、見向きもしねえ。
そりゃもうレイジス戦役もそうだったさ。
戦況は限りなく悪い中、確実に死亡する出撃。
止めようとした女達に、苦笑いして「行ってくる」だ。
痺れたね。
うーむ、言いすぎたかも知れんが間違っちゃいない。
コテツは自分の在り方を女の為に変えられるような器用な奴じゃなかった。
そんで、女達はそんな不器用なコテツに惚れたわけだ。
どうしようもないな、こりゃ。
Report No.3
決死の戦場
俺と虎鉄のいる戦場は最悪だった。
何が悪いかと言われれば、相手のDFの方が宇宙では一枚上手だったということか。
地球は開戦と同時に宇宙の主導権を握られていた。
理由は、宇宙におけるDFの適正だ。
攻撃掛けられると思ってなかった地球側に対し、火星は宇宙向けの機体の開発に勤しんだり。
宇宙における戦闘技術の習得を頑張っていたわけだ。
気合いの入り方が違う。
そりゃ地球に押し込まれるわけだ。
それに地球、宇宙の戦闘の差は結構大きい。
なにがって、宇宙には上も下もないから方向感覚が狂う。
だから、先ほどまで上に居たと思っていた敵にしたから撃たれたり、宇宙用のフォーメーションを組む必要があったりする訳だ。
所が、地球で訓練して後は宇宙はマニュアルでどうにかしてね、っていう地球軍はどうしようもなかった。
いいようにやられ、ぼこぼこにされて帰ってきたわけだ。
それに対し、地球は必死でまとまり、地球連合グレテアを作る。
で、現在に至るまで、地球に居る月派の排除に勤しんでいたが、この間虎鉄と俺でブレイクしたあれが最後だったので次は宇宙だ!
なんて息まいたらやっぱりそれはそれで中々辛かったと。
そも、地球連合は外からの意見だが、考えの足りない子みたいで。
火星に移民した人たちが目の届かなくなることはわかってたから、首輪をしておこうと重税みたいなことをした結果、それに不満を覚えた火星の人々が戦争を起こすという本末転倒具合からその辺は滲み出てる。
ともあれ、グレテア軍は、息まいて宇宙に上がった訳だが、おおむねの敗北を喫し、敗走。
そんな中、敗走した部隊を寄せ集めた艦隊を、火星軍が主力艦隊を挙げて攻撃。
汚いなさすが火星きたない、なんて言う暇もなく、グレテア軍艦隊は窮地に立たされてしまった訳だ。
ここで地球に各々逃げかえれば良かった物を、勝利を信じて艦隊を集めて体制を立て直せばどうにかなると思った上の負けだ。
だが、問題はそこじゃない。
問題は、俺達の艦に、敵艦隊に攻撃を掛け、足止めせよとの命令が下りてることだ。
これはなんて玉砕指令?
多分お上は俺と虎鉄が全力で爆砕すれば足止め程度にはなると思っているのだろう。
無論GAS全開で弾切れエネルギー切れ上等で、十分くらいが限度か。
それでも、艦隊の速度は十分取れるし、最新型とはいえDF一機なら安いものでもある。
おかげで、格納庫で修羅場が発生してる訳だが。
「行くことないわ! このまま逃げましょう!?」
そう言っているのは虎鉄のキルマークの中に星を刻んだ、要するに虎鉄のことが好きな女性パイロットだ。
更には艦長までが、
「私も、それで構いません。火星に亡命することも考えます」
男は義務、女は愛。
そんな現場だった。
だがな? 悲しいことに戦争ってのは犠牲の上に成り立つ物。
理不尽な命令とて、降りたなら従わねばならねえ。
そして、男の汗臭くてうざったい挙句に最低な論理からして。
そこで女に罪を被せるような真似、できねえんだよな。
そんな中、俺は虎鉄の元に歩きだした。
『さて、相棒。俺とお前は運命共同体だ。お前の生き先に俺がいる。要は、お前の選択次第。どうする? 相棒』
すると虎鉄は、自身を取り巻く数名の人間達に、苦笑い一つ。
「行ってくる」
迷い一つなしか。
俺にはできないことをやってのける。
そこに憧れるがまあ、しびれはしない。
俺は乗り込んだ虎鉄に言う。
『さて相棒、神様にお祈りは済ませたか?』
「生憎俺は無宗教でな、お前は?」
『俺がこんなことになってる時点で神などいない!』
「その通りだな。戦場には、敵と味方しかいない」
『はっはっは、誰がうまいこと言えと。で、未練はないのか?』
「傭兵になったあたりからんなもんは弾丸に込めて放ったよ」
『さよけ。じゃあ、行くか』
「ああ……! 望月虎鉄、ドラゴンバレット、出撃する!!」
そのようにして、俺と虎鉄は敵のひしめく宇宙に飛び出した。
うーむ、それにしてもモテたなあいつは。
気持ち悪いくらいに。
一切手を出さない事にあたって、女に興味がなくて、そっちの気があるんじゃないかと思うくらいには。
いやいや、俺も背後が危ないな、と言ってもぶっちゃけこの鋼鉄の体にはどうしようもない訳だが。
うん、迷いは一切なかったね。
むしろ血沸き肉躍っていた。
奴は根っからの傭兵だ。
戦場でしか生きられない類の。
そいつはもう、最低野郎だよ。
自分のことが好きな奴がいても知ったこっちゃない。
わかってても、自分の生き方を変えようとすらしない。
わかっていながらやるってんだから、最低だ。
だがな?
俺はその最低野郎の相棒だった訳だ。
その戦場はまさに地獄。
そして、地獄に足を踏み入れることになる俺たちもまた、狂ってる。
『うじゃうじゃと……、GASを起動しておく。ただし弾切れには注意な』
「…なあ、バレット」
『んだよ』
俺の名前は龍馬なのだが、たまに虎鉄は俺のことをバレットと呼ぶ。
なんとなくのあだ名みたいなもの、と、虎鉄は言っていた。
どうやら、機体含めての俺を虎鉄はバレットと呼ぶらしい。
「どうやったらもっとも効率的に勝てる? 何があれば、これをひっくりかえせると思う?」
そのように聞いてきた虎鉄に俺がはじき出した結論を叩きつける。
『気合いと、根性』
すると、その答えに虎鉄は大笑いした。
「くっくっく、そうか、いや、根性とはな…。面白い。だったら、敵の旗艦に直接突撃するか、根性で」
『おいおい、危険な賭けだぞ?』
そう言った俺の内心はにやりと笑っていた。
これが虎鉄、俺の相棒である、と。
そしてそれを、この相棒は読み取っているのかどうなのか、俺に笑みを返して見せた。
不敵に、凄絶に。
「危険な賭けと知って尚――、楽しめないなら今夜を生きる価値もなかろうにっ!」
これが、この男の生き方。
全く持ってどうしようもない。
一時のスリルに全てを賭ける、ギャンブラーより性質が悪い。
なんせ外れりゃ一撃で死亡。
それでも迷いなく貫くのは、ここで退いたらもう進めなくなるからだろう。
別に止まってもいい、そこで一生を終えてもいい。
だがしかし、
「俺は」
『それでも進みたい』
虎鉄がフットペダルを限界まで踏み抜いた。
俺は、弾と薬莢を撒き散らしながら、宇宙を駆ける。
『アラート。敵機一五〇七、内半数が艦隊に向けミサイル発射』
「GASで撃ち落とせ!!」
『了解っ!』
俺はガトリングとレーダー妨害でできる限りのミサイルを破壊妨害し、虎鉄はブレードでミサイルを切り裂いて行く。
相変わらず、無茶な腕してやがる。
そして、すれ違う敵を容赦なく撃ち落とし、切り裂いた。
「やはり、焼け石に水。艦を全て落とせば引っくり返せるか?」
その通りだ。
DF一体一体に、前線基地に戻るようなエネルギー、推進剤はない。
であれば、艦がなくなれば白旗を振るしかないわけだ。
『だが、できると思うか?』
すると、逆に聞き返された。
「できないと思うか?」
笑いながら言う虎鉄に俺は答えた。
『いいや?』
それから先は、詳しく覚えていない、っていうか、記すことがない。
記録されたログを見ても、只管敵を撃ち落とす俺と虎鉄しかいなかった。
だが、そうやって進撃を続けられたのも二十分が限界。
『GASの弾が切れた!』
「……よく持った方だな…! むしろこの機体だからここまで耐えられたと言うべきか。チャージにはいくらかかる?」
『駄目だ、十分は要る』
そう、ドラゴンバレットは驚くほど弾が積まれているし、弾が自動的に精製されるシステムがある。
だが、それをもってしてもGASの全開は、回復が追い付かない。
そして、同じく永久機関と思えるほどの回復するエネルギーも、尽きかけていた。
当然だ、虎鉄は無茶な機動を今尚続けているのだから。
バーニアは吹かしっぱなし、弾は撃ちまくり。
ドラゴンバレットでなくば、一分二分で弾が切れ、五分やそこらで動かなくなるほどの機動。
そんな中、敵が、動いた。
敵の旗艦、それが、不意に巨大な砲と化す。
それに俺は驚愕を覚えた。
『まじいっ!! あの艦のエネルギー収束が異常だ! あれじゃ、艦隊ごと吹き飛ぶぞ!?』
初めて、虎鉄の顔に驚愕が、
浮かばなかった。
「ち、突撃する、行けるな!?」
迷わず、虎鉄はフットペダルを踏みぬいた。
今までの回避を重視した機動とは違う突撃。
数発はかわしきれず、装甲が剥がれ、足は千切れた。
それでも、なんとか被害は最小にとどめ、敵の第一陣を突破。
『敵旗艦接触まで予測一分!!』
行ける、そう思った。
だが。
『な、に?』
スラスターから漏れる光が消える。
メインカメラに点る光は黒に戻り。
ドラゴンバレットは、エネルギーを失い、慣性で動く鉄の塊と化した。
「どうにかならないか!?」
『無理だっつの!!』
その瞬間、ミサイルが直撃、俺には妨害電波を発するエネルギーすら残されておらず、機体が横に流されていく。
『まじい、まじいぞ? エネルギー収束予測八十% あと少しで、皆死んじまう!』
格納庫のメンバーも。
同僚のパイロットも。
艦長も、オペレーターも全て。
俺が、この体になって関わった全てが失われる。
俺に笑いかけてくれる、そばかすの、少女も。
何故か、ないはずの心臓が早鐘を打つ気がした。
認められない。
認めたくない。
それは相棒も同じようだった。
ただ、操縦桿を強く握りしめる音だけがコクピットに響き渡り。
「ああ、くそ、エネルギーが切れたくらいがどうした……!」
『弾が切れたからなんだっ…!』
俺も相棒も、諦めることを知らない。
叫ぶ、ただ、叫んだ。
己の、あり方を。
ただ、相棒は、操縦桿を引き、フットペダルを踏み抜き叫ぶ。
「雨を掃いて戦友を守れッ!!」
機械の瞳に、火が燈った。
『嵐となりて使命を果たせぇえええッ!!』
背の燻ぶる炎が、燃え盛る。
壊れた装甲を脱ぎ棄てて、白と青に、輝く姿がそこにあった。
二人の声が重なる。
『「おおおおおおおおおぉぉぉぉおおおッ!!」』
再び動き出した機体は、誰も気付けぬうちに、敵旗艦を粉砕していた。
何の兵器でもない、体当たりで。
爆発の中から飛び出した俺は、敵を後ろから眺めつつ、息をついた。
なんだこれは、俺の知らないシステム?
そんなとき、
『シフト・オリジン、接続。起動おめでとうございます。エネルギー容量、百パーセント。装弾数、フル』
コクピットに、第三者たる女の声が響く。
同時に、俺の領域に、俺の部屋に何かが生まれる感触。
「お前は、誰だ?」
虎鉄が聞く。
『私は、Tx-01、ドラゴンバレットの管制人格AI、ドラッフェンバルトです』
その言葉で思い出す。
彼女は、この機体の本来のAIだ――。
そして、AIたる俺達の本来の役目。
それは、シフト・オリジンの展開。
シフト・オリジン、というものについて説明しておこう。
シフト・オリジンとは、ある特殊な液体金属をさし、自己増殖する性質を持つ。
これの特徴は、ある一定の信号を流すと硬化、増殖速度の上昇が起こり、気化させることにより、膨大な熱量を発生させ、エネルギーとして扱う事が出来る事である。
これだけ聞くと、まさに万能の金属であるように聞こえる。
だが、これの抱える問題点として、使用の際に、使用者の特別な資質を求めるのだ。
シフト・オリジン。
これが俺にはたらふく積まれてる訳だが。
便利だな、流石に。
傷は自己修復、エネルギーは自動回復。
弾は自動装填。
ただ、その一定の信号を流せる奴は世界に一人しかおらず、ある意味ではシフト・オリジンを使いこなせるのはそいつ一人だった訳だ。
だが、それでも必死で研究を続け、DFに搭載することである程度門を広げることはできた。
それで尚、資質を求めるのだが。
その結果選ばれたのが虎鉄である。
一介の傭兵が最新鋭機を任されるなんておかしいと思っていたがこんな裏があった訳だ。
まあ、本当は本末転倒してるんだがな。
実は最初のシフト・オリジンの使用目的は、歩兵の重火器の使用だったんだよ。
ぶっちゃけると、一番最初のシフト・オリジン搭載兵器はハンドガンだ。
そのハンドガンに、一定の信号を送れば、無茶な変形でレールガンになったりするんだこれが。
更に、カートリッジ変更で、マシンキャノンとかな。
でも、ハンドガン携帯なら重さ一キロにも満たない。
これが夢だった訳だが、残念、世界で扱えるのは世紀のモルモット隊長と呼ばれた辺境警備隊の男だけだった訳だ。
うん、実はそれなりの施設があれば一定の信号ってのは作り出せるんだ。
だが、それをやるなら普通に機関砲でも作ってた方が早い。
それで、あーだこーだ言ってるうちに、じゃあ、それなりの施設をDFに乗せましょう、という訳だ。
これの問題点はやはり、パイロットの脳波接続だろう。
パイロットの脳波接続には特殊な資質がいる、と。
「で、ドラッフェンさんよ、何しに出てきたんだい?」
そう問われたドラッフェンバルトの代わりに俺が答えた。
『あー……。多分、本来のAIだわ。ほら、俺憑依したって言ったろ?』
すると、虎鉄は間を置いて、
「……本当だったのか」
まだ信じてなかったのかよ。
『で、ドラッフェンバルト、お前の本来の役目は?』
すると、俺の領域内に住むもう一人の女の子は、言った。
『私の、いえ、私達の役目は、シフト・オリジンの本来の展開』
ちなみに俺の領域内における仮想イメージは黒髪色白少女だ。
可愛い。
「シフト・オリジンの本来の展開?」
俺には、理解できた。
『シフト・オリジン本来の使い方ってのは、ちまちま傷回復したり、エネルギー溜めるためのもんじゃねえ、そういうこった』
『Yes.今の精神状態であれば、展開可能』
すると、虎鉄は意味がわかってないだろうにも関わらず、にやりと笑って見せた。
「どうすればいい?」
それでこそ俺の相棒。
『要するにイメージだ! でっかい剣でも銃でもいい。ひたすら気張れば俺達が具体的な形に固めてやるっ!!』
「了解っ。……!」
『接続、開始。……、全接続、フル稼働』
『おーけいッ!! イメージ確認! 構築開始ぃッ!!』
呆気に取られ、俺達を敵全軍が見守る中、俺達は。
そこに巨大な砲を作り上げた。
「行くぞ相棒。戦場を――」
『引っ繰り返すッ!!』
虎鉄の指により、トリガーが押し込まれ。
敵は軒並み行動不能になって宇宙に放り出されることとなった。
ご紹介にあずかりました、ドラッフェンバルトです。
今話しにでたレイジス戦役最後の撤退戦は、最も死者の少なかった作戦として記録されております。
その言葉に私は思わず驚愕した。
千を超える機体を一瞬で薙ぎ払うレーザーの照射で何故死者が少ないというのか。
その件に関しては、巨大砲で表面を溶かしただけですから。
マスター、コテツのイメージを正確に再現したあの砲は、マスターの要望通りに広範囲に、弱い威力で、を見事体現しました。
また、私の計算式によると、丁度機関部が壊れる程度の――。
……? おかしい、これでは完全消滅に――。
――おーい、その計算式、桁一つ間違えてるぞー?
え?
あー……、最後にお茶目を披露してくれたドラッフェンバルト氏の言葉の通り、専門家が言うには、DFなんてものは所詮精密機械の塊であり、それを無骨な鉄で包んだだけである、と。
よって、装甲が剥げればそれはむき出しの精密機器であり、ちょっとしたダメージであちこち動かなくなるそうだ。
さて……、これでこのリポートも最後になる。
この戦争最後の戦い。
超攻撃要塞、フリューゲンドラッフェ攻防戦。
奇しくも、ここに二体の龍の戦いが始まることとなる。
だが、その前にドラッフェンバルト氏について、龍馬氏から話を聞きたいと思う。
うーん、ドラ子ね。
可愛いよ? マジで。
本来のドラゴンバレットはこの子の管制で動くはずだったんだよね。
そこに俺が来て、しばらく乗っ取ってたわけさ。
その間彼女は寝てたらしいけど。
うーん、だが、俺が憑依して良かったね。
あの子、計算間違えるし、敵は一定以上はたくさんだし、自動照準の才能ないし。
正直俺と彼女逆なんじゃない? って思う程度には。
だから未だにメインサポートは俺で、一部を彼女に任せてる。
天然ドジっ子のAIだよ、彼女は。
Report No.Final
宇宙駆ける龍の軌跡
レイジス戦役は、まさかの火星の敗退となる。
このことにより、グレテアは勢いづき、体制を立て直すと同時、侵攻に打って出た。
あの撤退戦で火星の戦力は半分以下。
勝てると踏んだんだろう。
俺たちとしてはいきなり手のひら返しやがってとムカつきはするが、確かに妥当な判断だ。
ちらほらと起こる戦闘を切り抜け、もう少しで火星に辿り着く。
そんな時だった。
悲劇が起ったのは。
その時俺は、コクピットで虎鉄と会話していた。
『そういやお前、これ終わったらどうするんだ?』
この戦いが終われば、戦争は終結する、が。
虎鉄は解放されるのか。
虎鉄はシフト・オリジンに適性がを持つ、故にモルモットにされかねん。
「また、戦場を探すだけだな」
『軍に追われるかもしれないぞ?』
いや、確実に、追われるだろう。
すると、何でもないかのように虎鉄は微笑んだ。
「そん時は、抵抗するさ。そうそう俺を捕まえられん。それより――、お前は?」
俺か。
しばらくはあれこれ実験されそうだが、新型が出たら廃棄だろうなー。
「だったら――」
相棒は言う。
「俺と行くか? どうせなら」
『ケッ、男と駆け落ちなんざごめんだね』
「ふん、同感だ」
そう言って俺と虎鉄は笑い合った。
まあ、俺の顔なぞ見えない訳だが。
『だが――、そうだな、相棒のよしみとして、なんかあったら手伝ってやるよ。ドラ子と一緒にな』
ドラ子は今は寝ていたりする。
要するにスリープモードだな。
「そうかい。じゃあ、遠慮なく借りるとするさ」
そう言って、虎鉄はシートに倒れこむようにして力を抜いた。
作戦開始まで、後三十分。
その時だった。
『アラート……? 火星前に敵要塞出現!? まじいぞ!! エネルギー収束、来る!』
グレテア艦隊の半分の戦力が消滅した瞬間だった。
「ハッチ開けろ! 急いで出る!!」
虎鉄が叫び、ハッチが開く。
他は全くまともに動いちゃいねえ。
とにかく要塞からの砲撃を止める必要がある。
俺と虎鉄は、すぐに宇宙へと飛び出した。
『敵、五万千八百』
そう言ったドラ子に俺が突っ込み。
『桁が増えてる。敵DF、五八二〇。全力で守りに来てやがる』
「……シフト・オリジンの砲で要塞をなんとかできないか?」
それができれば一番楽だが、絶望的。
『まずお前さんのテンションもたんねーし、仮にテンション最高潮だとしても、あの要塞貫くにゃ接近しねえといけねえよ』
だが、前にいるのは五千八百二十のDFと戦闘用でないものまで駆り出された千の艦が、壁を造っている。
『かといって、ここで突破するために展開すれば、近づくエネルギーが足りなくなって、チャージ中に敵のチャージも終わる』
そうなればゲームオーバー。
唯でさえ破れかぶれの艦隊だ。
もう一発食らえば完全に沈黙する。
「わかった」
『なにが』
「突っ込むしかないんだろう?」
『その通りだ』
その瞬間、虎鉄がフットペダルを限界まで押し込んだ。
浮いていた体が、方向性を持って飛翔する。
「行くぞ相棒。これが――、最後の戦いになるだろう」
『オーケイ相棒。最後の戦い、派手にキメようか』
虎鉄が連動操縦桿を引く。
連動操縦桿とは、コクピット左右に取り付けられた操縦桿を引っ張り出し、握る事で上半身の動きをDFにトレースさせることができるという代物だ。
握る強さまできっちり再現してくれる魔法の筒だ。
柄尻からワイヤーが伸びるをそれを、虎鉄が振る。
その瞬間、起動していた高周波ブレードがミサイルを切り裂いた。
『相変わらずひやひやする腕だな相棒』
「いい加減慣れろ」
言いながら、虎鉄は次々と敵を切り裂いて行く。
無論、GASは起動しっぱなしだ。
「邪魔だっ!」
右からの突撃にブレードを突き刺し、左からの攻撃はハンドガンで対処。
「っ!!」
だが、それでもと無数の敵機が群がり――。
「おおおおおおッ!!」
『シフト・オリジン起動』
前進から無数の棘。
それが、群がる敵を串刺しにする。
只管に、只管に前進。
シフト・オリジンで即席でブレードを作り突き刺し。
ビームキャノンを放ち。
投げナイフまでやってのけた。
だが。
「っ、ここまでか!!」
目の前の敵の壁は厚く。
敵を一体切った後の俺達は完全に無防備だった。
その時。
銃撃、爆発。
『大丈夫かい? 龍と英雄さんよ!』
不意の通信。
思わず後ろを見る。
そこには、グレテア軍の荒くれ達が、立っていた。
『あんたにゃ死んでもらっちゃ困るんでね』
「感謝する――」
そう言って再び前進。
後で、ポツリ、ぽつりと反応が消えていく。
『まだだ、まだ終わっちゃいない!!』
通信が鳴り響く。
『また手柄、取られるぞ! 俺達もやらなきゃなっ!』
敵も味方も消えていく。
『誰でもいい!! 絶対に抜けるんだ!!』
俺達も、ただじゃ済まなかった。
ミサイルが腕を千切り。
銃撃が足をもぎとる。
隻腕となりながらも、只管に駆け抜けて。
俺は――。
虎鉄をコクピットから放り出した。
「おい!?」
虎鉄の声に、俺は言う。
『ここからは、俺一人でいい』
「お前――」
この時の為に、ドラ子を艦のPCに置いてきたのだ。
あとは――、俺がやる。
『お前は帰れよ。帰ってやれ』
お前のことが好きな子がいる。
宇宙空間に放り出された虎鉄。
俺は、そのまま進もうとして、できなかった。
『手、放せよ』
「断る」
コクピットハッチを握りしめた虎鉄の手は力強く。
多少動いたくらいでは全くとれやしない。
そして、シートに座ると、
「おい、ハッチ閉めろ」
その瞬間、虎鉄は拳を握りしめ――。
俺が嫌な予感を感じてハッチを閉めると同時。
虎鉄はヘルメットの顔面部分をたたき割った。
「これで、放り出せまい」
『……馬鹿だな』
「人のことが言えるか馬鹿」
『その通りだ』
どうして男とはこうなのか。
わかっている訳だ。
ちゃんと帰ってやるべきだ、と。
だがしかし。
虎鉄は女になんか見向きもしない最低野郎で――。
俺はその相棒だった。
「行くぞッ!!」
『応ッ!!』
ドラゴンバレットの目が煌々と輝き。
翼から特大の光が漏れ出し、進む。
『敵要塞付近に味方の反応!!』
敵の機銃が装甲を穿ち。
『抜けた!? 誰だ!!』
ミサイルが力を奪う。
そして、
コクピットが暗闇に包まれる。
背の光は消え。
目は暗く。
だが。
「……と」
『……えんだよ』
それでも尚。
諦めず。
「アラートだなんだと……!」
『ごちゃごちゃうるせえんだよ……!』
その眼に火がともる。
背から漏れる光が戦場を包む。
『ドラゴンバレットだっ!! あいつら抜けやがった!!』
叫ぶアラートを無視。
ダメージだなんだとうざったい。
行動不能がどうした?
ジェネレーターが動かないのがどうした。
そんなもん、気合で動かすんだよ!
『「機械如きが……!!」』
二人の声が――、重なった。
『「人間様をッ! なめるなぁああああああああああああああああああッ!!」』
その時確かに、人の意志は。
機械の限界を超越した。
あの時の光景は、私も見た。
宇宙を掛ける光の矢。
あれは確かに――、
龍だった。
あれ以来、彼等の行方はつかめていない。
あの通信の逆探知も効かないし、目撃証言もない。
ただ、彼等の最後の通信――。
『ハッキング終了。次置いて行ったら怒ります』
『わっ、悪い!! ほんと悪い!!』
「おい、痴話喧嘩は後で頼む。目の前で光ってるのはなんだ」
『……? 次元が歪んでる?』
『エネルギー照射によるゲートの開封と推測』
「抜けたら、どうなる?」
『上手く行けば異世界でしょう』
まるで、悪戯をする子供のような声で、虎鉄は言う。
「ほう……? なあ」
『んだよ』
「どうする? 相棒」
『はっ、そんなもん決まってるんだろうが――。
相棒』
この記録と、私に届いた通信。
これが全てを物語っている。
彼等は――、きっとどこかの世界で生きているのだろう。
後書たい。
ロボ長編がやりたかった。
でも時間的に不可能なので短編に。
そして描写の合間にインタビュー的なあれを入れて見た。
後悔はしてない。
補足の設定とか。
望月虎鉄
日本人。
二十七歳。
幼少からDFを乗り回し、傭兵業を営む。
出身は日本だが、事故により激戦区へ。
その際に、乗り捨てられたDFを使い才能を示す。
後、金を貯め、日本で平穏に過ごすが、開戦と同時に戦場を求め傭兵業を再開し、ドラゴンバレットに出会う。
昭乃守龍馬
日本人。
過去の人間である。
この世界における過去の日本から、目覚めるとDFのAIに入れられていたという妙な憑依の経験者。
元の世界では、弟と妹がいたが、弟は失踪。
名字からして、多分筋肉の兄である。
ドラッフェンバルト
AIはドイツ生まれ。
ただし、組んだ開発者は何を考えていたのか、故意か偶然か、ドジっ子AI。
そのへっぽこぶりはAIかと疑いたくなるほど。
別にシステムを龍馬に奪われたとかではない。
シフト・オリジン
超便利な万能液体金属。
作者が中学の頃ガングレイヴをしながら思いついた。
無限に出る弾(装弾数が億でしたっけ)とか、ありえない棺桶の変形を見ながら考えた結果。
常に増殖し続ける液体金属であり、そこに上限を作らなければ、延々増え続ける。
また、一定の信号を流すと硬化する、気化させることでエネルギーを作れる、など超万能。
自動修復機能、EN回復、弾装填、全てこれ一本。
まさに無敵金属。
ただし、真の意味で使いこなすには適性が必要であり、また、テンションに左右される部分があるため兵器としては二流。
Tx-01 ドラゴンバレット
初のシフト・オリジン搭載型ディストラクションフレーム。
全身を硬化させたシフト・オリジンで構成されており、機体としては高スペックで纏まっている。
また、自己修復機能や弾数自動回復、エネルギー自動補給などの特性を持ち、基本的にメンテナンスフリーであるなどと、かなりの高性能。
が、ドラゴンバレットにおける最大の目的は、シフト・オリジンによるDFの戦略兵器化であり、本来のスペックを完全に使いこなした場合、作中のように単機で戦況を覆すことができる。
しかし、スペックが使用者の精神状態に左右される、本来の性能を発揮するにあたって適性が必要、コストが異常である、などの問題点があり、やはり兵器としては二流。
当機は、それらの情報収集も兼ねたテスト機である。
本来は長編的な奴だったのを、一本にまとめたので、色々と描写の足りないところがあるかも知れやせん。
そこばかりは私の力不足です、申し訳ない。
とりあえず、今回の話で何が言いたかったかというと。
体当たりはロマン。
それと、これを書いている途中でリリカルデバイスに憑依とか思いついた、けどかけない。
リリカル原作見てない。
それと、コメントで、最新話は途中まですいすい水夢さんのshineにスゲー似てるけどもしかしてオマージュとか?
と来ましたが、読んできました、その作品。
なんといいますか、設定がとても被ってました。
凄いですね、私の脳内では主人公の属性は半適当な挙句に、最後の魔術の見栄えが最も良さそうな属性にしたわけでして、他にも、女性の方が魔力云々は、昔考えてた魔女物の奴を流用しただけだったんですが――。
という言い訳が白々しいほどあれでしたんで、
そうです、前回の話はすいすい水夢さんのShineのオマージュで――、……すいすい水夢さんに失礼なんでやめます。
ちなみに、昨日の夜エースコンバットゼロをやっていたのは秘密。