「おおおおおおッ!!」
俺の拳から放たれた光の刃が黒く、熊と狼を足したような化け物を切り裂く。
更に出てくる数体の魔物。
それに向かって俺は手を突き出して、唱える。
「Shine,Shine. Smear Away White!」
突きだされた手から、閃光が漏れ出した。
そして、奔流が敵を包み込む。
その瞬間、俺の前方に居た魔物たちは消滅していた。
だが。
空中に逃れた敵の一匹が、俺に向かって急降下。
「させるか!」
俺は敵を指差し呪文を唱える。
「Thrust You. Light Does Not Stop!」
俺の指先から光の刃が飛翔し、敵を穿つ。
魔物は、声すら上げずに、地に落ちた。
そして、辺りが静寂を取り戻す。
「終わった、かな。本部、これより帰還するよ」
俺は、耳に装着したインカムで、本部に通信を送る。
すると、声は若い女の子の声で帰ってきた。
『ご苦労さまです。すぐ、帰ってきてください。寄り道しちゃ、駄目ですよ?』
諭すような、年上ぶった声に、辟易としつつ俺は返す。
「わかってるよ、ってか、疲れてて寄り道する気も起きねえ」
そう言って、俺は歩きだした。
毎回毎回ヒロインにボコにされて終わる主人公について考えてみたら超展開が拝めた。
ヒロインにボコにされる主人公 [ひろいん-に-ぼこ-にされる-主人公] 最強だったり強キャラだったりするはずの主人公が、
毎回毎回話の落ちの度にヒロインにぼこぼこにされて終わりという主人公を出す。
悪いとまではいかないが話がワンパターンになったりする他、なんとなく納得できないなど、批判を招くことも。
1,光の魔術師
「ふぅ……今日も疲れたな」
日本の京都にある魔術師協会司令部の廊下を、俺は歩いていた。
という時点で多くの人は違和感を覚えると思う。
魔術師。
このキーワードに関して、大抵の人は首を横に振る。
だが。
確かに魔術師は存在する。
否、大半は魔女であると言っておくが。
「お疲れさまです、命さん」
ちなみに、俺の名前は長久命。
ながひさ みことだ。
断じてちょうきゅうめいではない。
ましてや長久命の長助さんなどではないから間違えないでほしい。
なんせ小学生時代のあだ名は寿限無だったくらいだからな。
と、話が逸れた。
仕切り直そう。
俺の名前は長久命。
魔術師を、やっている。
「あら、お帰りなさい命」
「ただいま司令」
扉を開いた先に居たのは、この司令部の責任者である、あいたに ひいこ。
漢字は四十谷 英己という中々男らしい名前なのだが、気に入らないらしく、もっぱらひらがなで書き、部下にもそう教育している。
そんな彼女の年は二十五で、黒いストレートの髪をアップにしている。
ちなみにだが、グラマーな美人だ。
そんな彼女が、俺に向かって言う。
「今日のクリーガーは二十体いたけど、あなたのおかげで助かったわ」
クリーガー。
現存する魔術師が生み出した魔物を言う。
正確にはザーヴェラークリーガーという彼らは、人の魂を奪い、連れ去っていく。
それの対策につくられたのが魔術師協会。
そして、それの非常勤勤務が、俺の仕事だった。
「助かったもなにも、いつものことでしょうが」
「そうね。悪いとは、思っているんだけど……」
そう言って申し訳なさそうにするひいこに、俺は横に首を振って見せた。
「別に悪くはないと思ってる。女の子を戦わせる気は起きないからな」
「…そう」
女の子を戦わせる。
俺はできる限りそれをよしとしたくない。
そも、俺がやれば問題ない以上、何もさせることなどないのだ。
「でも、私たち皆、貴方に頼り過ぎてるわ。たった一人の男の子だから仕方なくはあるんだけど……」
そう、そこだ。
今現存する魔術師は、俺を除いたら女性しか存在しない。
何故か。
魔力とは生命力の余剰であり、二つの命を同時に存在させられる、所謂子供を宿せる女性の方が容量が高い、という話だ。
対し、男は余剰分の生命力はあれど、それを留め置くことが出来ないのだ。
故に、魔術師は魔女しかいない。
では俺はなんであるか。
今だ不明である。
調査の結果、容量は一般的日本人男性と変わらないそうだ。
まあ、本当かと言われれば疑問であるが。
当然だろう、そもそも男の容量を測る機会も機械もなかったのだから。
ただ、男で有り得ない魔力量を誇り、即物的な戦闘力に長た特性を持つ俺はこうして戦うこととなっているわけだ。
「さって……。帰るか」
「もう行くのかしら?」
「学校早退してんだよ、早めに帰らんと家に誰か来たらサボり扱いだ」
まあ、家に来るやつと言えば一人なのだが、その一人が確実にくるから手に負えない。
「送っていこうか?」
「いいのか?」
すると、ひいこさんは俺に微笑んで見せた。
「ええ、あなたのおかげでお仕事もひと段落したことだしね」
無論、事後処理などあるはずなのだが、俺に気遣ってくれてるのだろう。
ありがたく、俺はそれを受け取ることにして――。
後悔することとなる。
俺はひいこさんに車で送ってもらい、そこで家の前にいる人影を見つけたわけだが。
「ねえ…、命、貴方、早退するって言ってたわよね……?」
車から降りた前に居るのは――、
在神 凛。
神が在るとかいう古臭い名前の通り、古い家の出身だ。
そして、俺の幼馴染で、クラスメイトで――、
恐ろしい女だ。
「なのに、オープンカーで送ってくれるような女の人の所に行ってたんだ……、へえ…」
ずんずんと凛が近づいてくる。
怒気を含んだ、赤が見える髪は、本来は綺麗なはずなのに、恐怖しか浮かばない。
「ま、待て、これには事情が、ぁああああああああああああああああッ!!」
俺、生きて帰ることができるのかな。
◆◆◆◆◆◆
昔、聞かれたことがある。
「自分を犠牲にしていないか?」
と。
俺は答えた。
「いや、俺は皆の笑顔を見ることが幸せなんだ」
そう、だから。
幼馴染みにぼこぼこにされても強く生きます。
しかし、あの攻撃は何故避けれないのだろう。
おかしい、俺の身体能力は魔術強化すれば人の二十倍は軽いし、戦闘経験から、色々な判断力もあるはずなのに、一つも避けれない。
まあ、いいか。
俺は今日も、学校に居る。
魔術師は基本的に司令部勤務であるはずなのだが、俺の希望により、学校は続けている。
授業がところどころ抜けてるからわからない部分も多いが。
「うーむ……、わからん」
「命が授業出てないで遊んでるからじゃない」
隣の席の凛が言う。
「遊んじゃいない」
「本気なの?」
「ああ……!」
最大の覚悟を現したはずなのだが――。
なぜか彼女は机を持ち上げている。
「待て、在神――」
教師の制止も聞かず。
「あんたって人はあぁぁぁあああッ!!」
お前、素手でクリーガー倒せるだろ……。
後に聞いたが、どうやら、俺が本気でひいこさんと付き合ってると勘違いしたらしい。
2,彼は光たり得るか。
ボコにされ、午前の授業を休んだ俺は、午後からの授業に出席しようと、廊下を歩く。
が。
不意に着信音。
「もしもし」
相手は、予想通りの人。
「命君? クリーガーが出たわ」
また、か。
俺は、歩く方向を変え、玄関へと向かって行った。
◆◆◆◆◆◆
「Shine,Shine. Darkness is cut off!」
光の刃が現れクリーガーが切り裂かれていく。
跳びかかるクリーガーを裂き、貫き、切り捨てる。
「数で攻めてきたって……!!」
俺の背後に数十の光の刃。
俺は前方を指差し、唱えた。
「Thrust You. Light Does Not Stop!」
飛翔、滑空。
光の刃が次々と敵を刺し貫いて行く。
「次! 場所は!?」
すると、すぐにインカムの向こうから返事が戻る。
「北に五百メートルですっ!」
了解、と叫んで俺は魔術強化した足でその地点に向かう。
「……でかい?」
現状四百メートルほど先の敵を見て、俺はそう評した。
白い獣のような体躯は、軽く二十メートルを超しているだろう。
それほどの大きさだった。
俺はそれに高速で接近し、光の刃を放つ。
「Thrust You. Light Does Not Stop!」
だが。
「なにッ!?」
その刃は、あっさりと敵に当たり、霧散した。
「効かない? だったら……!!」
高出力で切り裂くまで。
「Shine,Shine. Darkness is cut off!」
両拳の先に、光る刃が現れる。
俺は、それを確認して、敵に斬りかかった。
「おおおッ!!」
だが、それで尚。
「そん、な……」
刃はミリとて通らない。
『駄目、避けて!!』
オペレーターの声が、呆けた俺の意識を現実に引き戻した。
そうだ、この図体なんだから、攻撃は鈍いはず。
なら、避けながらチャンスを――。
「あ、がっ……?」
衝撃。
脳が揺れる。
頭に残ったのは、巨大な拳の直撃をもらったという事実だけ。
本能で理解する。
これは、俺よりも強い。
「あ、ああ……、ちくしょお…、戦わねえと…」
俺しかいないんだ。
俺が勝たなきゃいけない。
俺は血を吐きながらも、立ち上がろうとする。
地に膝を着き、両手に力を込め、立ち上がりかけて、
敵が拳を振り上げた。
「くっそ……、こりゃ、まずいかな」
クリーガーの拳が迫る。
俺は、避けれもせず、ただ見守る。
◆◆◆◆◆◆
結果として、俺は死ななかった。
「え、あ、ぁ……」
俺は、守られていた。
ただ、守られていた。
守っていたはずのものに。
他でもない。
在神 凛に。
「なん、で……、凛が…」
そんな中、軽々と黒い障壁で敵の拳を受けとめた凛は言う。
「ごめんね、命。私、黙っていたけど魔術師なのよ」
そんな話、聞いてないぞ?
呆ける俺を余所に、凛は一方的に敵を押し込み、腕を切り裂き、足を千切る。
天に踊る漆黒の刃は俺よりずっと綺麗で。
「これで、終わり!」
敵は、消滅した。
『命さん、戦闘終了です! 帰ってきてください!! 命さん?」
俺は、インカムを捨てると、司令部とは別の方向に歩きだした。
そんな展開って……、ありかよ。
それから、一月が経過した。
「どこに、いるのかしらね。彼は」
いつもと変わらぬ司令部の光景。
だが、長久命の姿は、どこにもない。
あの後すぐは、家に居た、という目撃情報があった。
そして、あれから三日から四日の間に、彼は姿を消す。
「彼には、自分が人を守っている、という自負と、誇りがあった。だから、自分が守られていることに、堪えられなかった」
司令部の面々が、沈痛な面持ちで肯いた。
「だけど、私たちはさぼってられないわ。幸い在神さんもいるし。今回の件もどうにかなるでしょう」
そう、今正にこの街は、敵の襲撃にあっていた。
◆◆◆◆◆◆
私の家系は、魔術師の家系だ。
だが、魔術師協会に関わろうとはしない。
自らの魔術体系を他に晒すことになるからだ。
だが、私は両親の反対を振り切り、勘当、最悪殺しにくることを覚悟して、私は力を使った。
幼馴染を助けるために仕方がない、と思った。
命が戦っているのには少し驚いたが、彼が死にそうなのを黙っては見ていられなかった。
だが、結果としてそれが、彼を傷つけた。
「塗り潰せ、常闇!」
暗い光が敵を包み、消滅させる。
それで尚沸く敵を、凛は黒い刃を飛ばし、殲滅して行く。
「……何体いるのよ!」
それで尚、それで尚。
敵は依然としていなくなりはしない。
「切れ、闇影!」
鞭のように黒い影が伸びる。
それに触れた敵は次々と切り裂かれていき――、
「あんたがボスよね……!? やらせてもらうわ!!」
一際大きな白い獅子に凛は挑む。
「はあッ!!」
其の白い姿を見ながら凛は思う。
あの日の敵に似ていると。
初めて、隠していた力を使った、彼を守った日の敵に似ていると。
凛の拳に力がこもる。
黒い刃がうなりを上げた。
「てええいッ!!」
飛び上がっての上段からの真っ向唐竹割。
その刃は、大きなその頭部を真っ二つにするはずだった。
だが。
「そん、な……」
がちり、と音が響き。
黒い刃はいとも簡単に受け止められた。
ギロリ、とその眼が凛を捉え――。
その巨大な腕が、凛を捉えようとする。
避けられない。
「あ……。命、ごめん……」
呟いて、死を覚悟する。
ただ、その手は無慈悲に凛に届き。
彼女は地面に叩きつけられる。
誰もがそう思った。
誰もが諦めた。
最も強い凛が勝てなかった。
これでは誰も勝てやしない。
そう言って、誰もが、勝負を放棄した。
だが、そこに。
諦めない者がいた。
「え……?」
自分の弱さを知って尚。
限界を知って尚。
それでも限界を超えようとする者が。
そこには立っていた。
「待たせたな」
凛を抱えて悠然と立つ男。
「みこ、と?」
名を、長久命と言う。
不敵に笑う命に、凛は血相を変えた。
「駄目よ! 私でも駄目だったのにあんたじゃ――」
それでも命は、その笑みを崩さない。
「知ってる。知ってるさ。俺が弱いのも、凛が強いのも」
「なら!!」
凛の言葉を遮って、命は言った。
「俺は、最強じゃないといけないと思ってた」
凛より弱いことを知って、命は自分の価値が強さにしかないことに気が付いた。
自分は、最強でなければ勉強もできず、少し運動神経がいいだけのただの人間に成り下がる。
それが、どうしようもなく不安だった。
だが違う。
違った。
「俺は最強じゃなきゃいけないんじゃない。俺は最強であろうとすることを諦めたらいけないんだ」
最強じゃない、だからもうやめる。
そんなことを言って立ち止まったなら、それは本当に価値のない人間に成り下がってしまう。
だから、止まらない。
他を無視して戦いだけ突き詰めた、故に、半端でやめたりしない。
きっと、貫けば何か価値が残るから。
「さあ、覚悟しろよ化け物」
その言葉に獅子が唸る。
それを真っ向から見据えて。
命は叫んだ。
「喰らえッ!! 俺より強い女を守るために手に入れた技をッ!!」
自分を一から見つめ直す。
そのために俺は山に居た。
理由は簡単、一人になりたかった。
家では監視が付いていたし、街では無理だ。
そう思って、山で一晩考えた。
自分の価値とは何だったか。
それでも答えは出なかった。
だけど。
わかった。
最強だと思っていた俺などより、強い者がいた。
それは、凛にも適用されるのではないか。
そう思った瞬間、全ての物事が音を立てて理路整然とおさまった。
最初から、最強などどこにもいなかったのだ。
強い奴等、いくらでもいた。
だから。
だからこそ。
自分は強くなるのを諦めちゃいけない。
いつか凛より強い奴が出た時に守れるように。
最強じゃないのがどうした?
今から最強を目指せばいい。
限りなく、近づき続ければいい。
そう決めて、修行に挑んだ俺は、一人の男と出会った。
その男は、只者ではなく。
手にした錫杖で、山に現われたクリーガーをたやすく屠るのを、俺はただ見ていた。
そして、俺はその男に教えを乞うた。
自らを天狗と称する男は、言う。
「魔術ってのは、魔力を使うもんだ。魔力ってのは、生命の余剰エネルギーだ、ってのは判ってるな?」
そう言った男に俺は肯く。
「だが、その出力には限界がある。そうだな…、人間という電球が点いたときに、電力の有り余ってる奴が熱を生み出す、というか。要するに、ついでだから限界があるっていうかな。だが、それでも出力を上げたいなら」
男は言った。
「電球を外して全電力熱を生み出す方向に注げばいい」
「それは……、文字通り命を燃やせ、と?」
それに対し、男は首を横に振る。
「魔術ってのは、顕現系、要はお前さんが使ってた光の剣だ、あれは、使い潰さず元に戻せば魔力が返ってくるだろう?」
なるほど、リスクの高い技だ。
全生命力を注ぐその技は、しくじれば一撃で死に至る。
だが、迷いはなかった。
ただ、刃に全生命力を通す。
だが、男の言う事は違った。
「違うな、本当に出力を上げたいなら――」
その言葉は、凛を助け、敵の前に立つ今でも全く忘れられない。
「お前自身が魔術になれ」
◆◆◆◆◆◆
司令部はすべてをあきらめていた。
最強たる凛が負け。
全く歯が立たずに地に伏すこととなり。
誰もがもう終わりだと思った。
我々は蹂躙され、殺されるのだ、と感じていた。
たとえ束になったとしてもあれには敵うまい。
あれは、本部が束になっても全く勝てない凛を軽く凌駕している。
勝てるわけがなかった。
だから、誰もが諦めた。
脅威に跪き、神に救いを求めるほかなかった。
だが。
凛を助けた影。
そこに、人々は光を見た。
3,見よ彼は獅子に勝つ。
「Prayer In The Body」
――体に祈りを。
「Blade In a Heart」
――心に想いを。
「On The Right Hand Determination」
――右手に決意を。
「In The Left Fist Faith」
――左の拳に信念を。
「The Desire Of This Body Is One Blade!!」
――この身一念、一振りの刃。
命が咆える。
「ああああぁぁぁぁぁああああああぁぁああああッ!!」
その姿はすでに人ではなく。
ただ、激しく光を放つ人型の何かがそこに立っていた。
それは人間、長久命ではなく。
一つの現象としての魔術。
既に声など出ていない。
声帯は消えている。
ただ、高圧縮されたエネルギー体が咆哮するかのように音を発しているだけだ。
それでも、命は咆える。
魂の底から。
「オオオオオォォォォォッ!!」
命が、一筋の光となる。
跳ねるように、斜め上に光の尾を引きながら飛びだして、敵とすれ違い――。
獅子の右前脚を吹き飛ばした。
獅子が呻く。
命は、獅子の後ろに着地した。
「っく……、どうだ!」
肩で息をする命の姿は人間に戻っている。
『なかなかやるじゃないか、魔術師』
「喋った……? いや、音声魔術か」
命は一瞬驚きを覚えたが、すぐに、クリーガーを作った魔術師がクリーガーを通して喋っているのだと気付く。
『だが、なぜ、ここまでする? 何故、己を魔術にしてまで戦う? 貴様、完全には戻れていないのだろう?』
その言葉に、命は答えなかった。
図星であったからだ。
今尚、命の肩は光から戻れていない。
時間を置けば元に戻るが、少しずつ、細胞の――、いや原子に至るまでが魔術から戻れなくなっていく。
わかっていたことだ。
だから何も言わない。
『そもそも、そこにお前より強い者がいるのだからな。それに任せればよかったろうに。なぜ、お前は戦場に舞い戻って来た?」
ただ、命は敵を睨みつけた。
「任せられるかよ。最強なんていないんだ。だから、俺は戦わなきゃならねえ……。いや、戦う姿を見せなければいけないんだッ!!」
誰もが諦めてしまわぬように。
ただ、命は戦わなければならない。
誰もが諦めようと、命は諦めない。
ただ、己の最強の姿を見せつける。
そうあり続けることで、あとに続く者が現れる。
それでいい。
「例え圧倒的な力で捻り潰されようと。最強の力で叩き潰されようと。俺は――、心だけは折られねえッ!!」
誰も命の心を折ることはできない。
故に、命を倒すことはできない。
それが命の描く、最強。
『はははは! いいな! 面白いよ、魔術になった人間よ! 私が研究してみたかったが――』
獅子が、動く。
『その様子では、最早私の物になることはあるまい』
「T D O T B I O B!!」
沈黙を見せた獅子の腕が振られる瞬間、命は略式の呪文を唱え、上空に回避。
その体は一瞬にして光から元に戻る。
略式では半秒、通常でも三秒しか命は魔術でいられない。
それ以上は、固めきれずに、魔力として霧散する。
そして霧散した命は、地獄にも行くこと敵わず、その場を漂う魔力としてあり続ける。
だが、
命は叫んだ。
「The Desire Of This Body Is One Blade!!」
体は光に。
そして、真っ直ぐに敵へ。
一秒。
それを、一度敵は大きく飛んで避ける。
二秒。
これ以上は危険。
だとしても。
命は――、決して諦めはしなかった。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!!」
声にならぬ声で叫ぶ。
地が震え、大気を揺らす。
ただ、只管な、愚直なまでの突進。
敵に、到達。
これで、三秒。
命の力が、敵の魔力障壁と擦れ合う。
命は、自分を保てず遠のく意識を、無理矢理に抱きとめる。
そんな中、不意に、一月だけ師と呼んだ男の言葉を思い出した。
『別に、死ね、とは言っていない。だけどな…、命の使いどころってのは――、ある。死ぬかどうかは別にしてな。その時の為に、お前は強くなって行け』
命は笑う。
――ああそうだ。死にたい訳じゃない。でも、漫然と生きるのも御免。そして――、凛が死んで尚、生きるのはもっと御免。
別に、自己犠牲がしたかったわけではない。
生きていたいとも思う。
だけど、ここで諦めてしまえば、どこにも進めない。
ここで逃げてみんな死ぬか、ここで命が戦って死ぬか。
変わりはしない。
変わりはしないのだ。
零か全てか、そのどちらか。
半端はない。
ただ、貫く。
語る、叫ぶ、咆える。
――ここが、命の使い所だああぁぁぁぁああああぁぁぁぁッ!!
少なくともその時。
最強でなくなってしまった少年は、
誰よりも強かった。
光が、消える。
4,彼は結局、何であったのか。
あの事件の後。
彼のことを聞くと、皆がこう言う。
「彼は最後の最後で、灯台になった」
自分たちの道を照らしてくれた、と。
私は、流れ星のようだったと思う。
暗い夜に、不安に押しつぶされそうになって見上げた夜空の。
闇を切り裂いて飛ぶ、流れ星。
彼より、私は強かった。
最強であったことに誇りがあった、命としては、それは価値の否定だった。
言うなれば、私が殺した、と言ってもいい。
だけど、私は生きる。
彼の残した街を、守らなくてはならない。
彼は私達の上を飛んで、道を照らし、落ちた。
私達は――、そこまで行ける。
流星の落ちた地までは、
絶対に行けると、彼が証明してくれた。
だから、少なくともそこまでは、私達は続かなければならない。
そして、そこで道が見えなくなったら。
今度は私達が道を照らす。
そうだよね、命。
今はいない彼。
道を照らしてくれた彼。
少なくとも。
彼は流れ星だった。
後書きません。
今回の己より強い人を――、の所はキメラのあの台詞だったり。
えー、今回のコンセプトは。
最強の力を失った最強主人公の価値は何処に。
いや、実はヒロインにぼこぼこにされる主人公の秘密が、ヒロインのがずっと強い、ってとこを書きたかったんですけど、続きが思い浮かんだので、カッとなってやった。
後悔はしてない。
ちなみに、続編予定が一応あったり。
ってか、私バッドエンド苦手なんすよね。
いえ、全く救いがないのも好きですが、半端なのが苦手というか。
要するに、命君があまりにもあんまりなんで。
最強だと調子に乗る→実は最強じゃねえよバーカ、と出鼻を粉砕骨折→立ち直る→死ぬ。
という訳で、一応復活の予定があったり。
ただし、このあと二本か三本書かないと続きかけないんですよねー。
多分次の話は、女の子が剣に云々か、トラックか、これと同じ魔術系か、のどれかで。
所で、自分はオリ主系の話を扱き下ろしたような作品をよく描くわけですが。
ぶっちゃけ嫌いではないです。
どころか、好物であります。
ですが、こんなものが出来上がるのです。
こんな感じのネタでしかない作品ですが、これを見てオリ主というものを見つめ直している気分であったり。
これを見て、拙作のような一発ネタに走ったお話ではなく、面白いオリ主作品が描かれるなら、望外の喜びでありますが。
オリ主物について。
最近思ったのですが。
お客さんが人の家の冷蔵庫を開けるのは失礼ですよね。
しかもお客さんがしたり顔で風水が悪い云々言って家具の配置換えとか有り得ないですよね。
でも、家の住人が冷蔵庫開けても配置換えしても不思議ではない。
オリ主は、その世界の住人になれるかどうかが問題なのかもしれない、とか思った。
長久命について。
光魔術師。
光魔術師自体珍しいが、自身も魔術になれる素質を持つ、特殊な人間。
男なのに魔力を多量に持っているのは、遺伝子レベルで細胞の一つ一つに魔力を浸透させるなどという事ができるから。
おかげで細胞は魔力によく馴染み、本人は魔術にすらなった。
最強だと思っていたが、そうでもなかった。
ちなみに、略式呪文とは、「The Desire Of This Body Is One Blade」と言った呪文の各単語頭文字、TDOTBIOB、のようにしたもの。
精度が落ちる。
現在魔術として霧散。
長久命の師について。
彼です。
今頃河原で石を積んでる彼にゲスト出演してもらいました。
在神凛について。
本当の最強。
実は旧家のお嬢様は、魔術師家系のお嬢様だった、と。
魔力量、術式ともに、命以上。
クリーガーについて。
人の魂をさらっていき、なんかしようとしてるらしい。
ボスの魔術師はロリババァ。
戦闘について。
基本的に人避けで秘匿される。
ぶっちゃけると、魔術が一般公開されると、自分の秘奥が世間にさらされる、という上層部の魔術師の利益のため秘匿されてたり。
さて、これでおさらば。
いつも感想どうもです。