川の流れる音が耳に響く河原。
そこに六の影があった。
この話は。
「ははっ、追い詰めたぞ怪人! 今日で貴様も年貢の納め時だ!!」
五人の戦うヒーロー達の話。
ではない。
「ふん、貴様らごときに、我はやられん!!」
だが、ヒーローの前に立つ、クワガタかカブトムシであるかのような甲殻類を彷彿とさせる、悪の組織の怪人の話、
でもない。
この話は。
『こちらイェーガー。目標を確認、ターゲットを狙撃する』
「行くぞ怪人!! 変し――、え?」
川の流れる音に混じって、乾いた銃声が響く。
赤いジャケットの男は、その手に握る四角い機械を使うことなく、その頭を弾けさせた。
ゆっくりと男は傾いでいき、倒れ、動かなくなった。
そのショックに、遺された四人はただ茫然としていたが、しばらくして、青色が怪人を糾弾する。
「貴様!! 卑怯だぞ!」
だが、その言葉を、怪人は何ら堪えた様子のないように、真っ直ぐに受け止めた。
「卑怯で構わん、悪と呼ばれても仕方あるまい。だが、我には! 悪と呼ばれても尚、貫き通す信念があるッ!!」
怪人が、その甲虫の翼を広げ、ヒーローたちに突進した。
その角が、変身を終えたヒーローすらも、貫く。
怪人は咆えた。
「貴様らにはあるのか? 是が非でも貫き通す信念が! 否! あるまい!! 故にぃ、我等は!! 腐敗した貴様らなどには負けん!!」
その剛腕を振り抜いて、鋼鉄の拳を叩きつけ。
その角で敵を貫き。
吼え続けた。
「貴様らなどに負けられんのだぁああああッ!!」
この話は、悪の組織に所属する怪人の話ではなく、ましてやそれと戦うヒーローの話でもない。
この話は、
『ターゲットの狙撃を確認、早急にここを撤退する』
戦場の表舞台に出てこない、一人の猟兵の話である。
厨二とかクールとかヒーローとかそう言った色々をあーだこーだと怪人だの何だのかんだの末にヒーローでも戦闘員でも怪人でもない何か。
注意書き。
今回の作品の主題は、最近なんか面白いダーク戦隊ヒーローとか、悪の組織のあれとか、てな感じの奴+厨二、ただ厨二、只管厨二、ただ只管に厨二、という一発ネタです。
要するに、ハードボイルドと戦隊ヒーローと怪人と狙撃と厨二混ぜて真っ向から書いてみようかな、思った結果がこれだよ!!
ちなみに、書き終わった後に考えてみたらそこまで厨二満載という訳でもなかった! 残念。
厨二[ちゅうに] 本人は格好いいと思っているが、はたから見た場合そうでもなかったり、波長が合わないとつらかったりする思考回路のこと。
厨二の代表として、
黒牙滅龍斬のような、無意味に意味のわからない感じを使った技や、
歪曲衝撃と書いてディストーションブレイカーと読ませたり、
無意味にドイツ語だったりする、がある。
本人に自覚がない場合は、かなりの痛さを誇るため、自分を客観的に見詰めることが肝心。
ちなみにこの作品においては、シュバルツドラッフェ等、無意味なドイツ語が使用されている。
ヒーロー[ひーろー] ここでは戦隊ヒーローのこと。
最近においては、ヒーローの方があくどかったり、敵だったりすることがこの業界においては多い。
正直長いこと続いているネタなので使い古され、新しい設定も中々浮かばないことが一つの原因である。
だがしかし、逆に完全に熱血正義のヒーローを取り扱う現在において作品が少ないため、チャレンジしてみるのも面白いかもしれない。
今から半世紀ほど前。
大体二千五十年のころ。
世界征服を企む、シュバルツドラッフェという悪の組織があった。
だが、彼らの目的は、世界征服などではない。
人類への警鐘。
彼らは、注意を促すためにそこに在った。
二千五十年、世界大戦は過去の話となり、それを身をもって知る者がいなくなったころ。
世界は平和で、腐っていた。
世界において、最も多い死因は自殺。
なぜ、こうも自殺が多いのか。
人口の減少を抑えきれぬほどに、人々は自ら生を捨てて行った。
それに対して、シュバルツドラッフェは、危機感を覚え行動を起こした。
このままではまずいと。
平和であることはいいことであるが、闘争を忘れるのは愚かである、と。
戦時中、そこには絶望がいくつも転がっていたのにも関わらず、自殺者は二千五十年前後の10分の1だった。
何故か。
簡単に死んでしまうような時代だったからこそ、皆生きることに必死だった。
そして、敗戦して尚、日本などは怒涛の復興を遂げた。
そのバイタリティこそ、人の生きる活力であり、生の根源である。
だが、闘争を忘れた人間は、そのバイタリティを失い、敵と戦うどころか、自分の人生とすら戦えなくなってしまう。
故に、彼らは現れた。
闘争を忘れるな。
生とは死と戦うことだ。
人類の歴史は戦いの歴史だ、と。
警鐘を鳴らし続けた。
そして、ヒーローがシュバルツドラッフェを壊滅させて五十年がたった。
「お疲れ様です、アタルさん」
日本の京都の地下にあるヴァイスドラッフェ本部。
「……ああ。そっちもな」
廊下の入口に立つ、女性怪人に、無愛想に返した男、二十八 中。
読みは、つちや、あたる。
高い背に、黒いコート、黒い目。
彼を構成する要素は限りなく黒。
黒髪をオールバックにした彼は、年は大体三十くらいだろうか。
若い頃は怜悧だったろうその顔には、威厳を持つ年季が刻まれている。
「それにしても、またピンポイントの完璧な狙撃でしたね! 何かコツでもあるんですか?」
その怪人の問いに、なんとなく中はライフルを収めたハードケースを見た。
そしてお決まりの台詞を言う。
「銃は人と似たようなもんだ。一途に向き合えば、応えてくれる」
もう何度目のやり取りになるか。
お約束になるほど繰り返した狙撃。
その一つとて中は外すことはなかった。
「すごいですよね……、普通の怪人じゃ全く太刀打ちできないヒーローをその銃一つで」
その言葉に、中は首を横に振って否定を示した。
「変身前に不意打ちしただけだ。俺はできることをやっただけだし、できることをやっていくだけだ」
だが、女怪人も、それを否定する。
「でも、貴方が来るまで、上級怪人じゃなきゃ、ヒーローは全く太刀打ちできない存在だったんです、生身でヒーローを倒すなんて前代未聞ですよ?」
そんな言葉に、中は薄く、自嘲気味に笑った。
「どんなに不可能だと思われていても。奇跡が起こらないと無理だと言われていようと。誰かがやった瞬間、それはできることに成り下がる」
中は、自分が別段すごいなどとは思っていない。
ただ、自分には狙撃しか能がなかった。
体を鍛えて武術を教わっても、達人以下。
ヒーローになど敵わない。
知識を覚えて戦っても、指揮官には向かなかった。
使うより使われる方が性に合っていた。
そして、ヒーローを陥れるような策略など思いつかないし、驚異の身体能力があるわけでもない。
だから、たった一つあった狙撃の才を、只管に突き詰めた。
突き詰めて、削って、どこまでも尖らせて、こうなった。
例えば、人は地面を掘る時スコップを使い、物を切る時包丁を使う。
だが、例えば剣を限界まで極めれば、地面を切り掘り、あらゆるものを斬れる万能になれるのではないか?
そんな子供のような考えを妄信し、実行した。
その夢の果てが中であり、いつの間にか彼は、ツェーレンゲヴェール、宙を舞う銃などと呼ばれていた。
だが、それでも尚、彼は彼の妄信する姿には届いていない。
彼の妄信する姿、たった一つの弾丸で、全てを救い、全てを解決する有り様。
それが遠き夢の果てだと分かっていながら、彼は盲進する。
まるで弾丸のように。
五千メートル離れた、絶対届くはずのない、存在しているかすらわからない、0,1ミリ以下のターゲットを狙う狙撃のように。
◆◆◆◆◆◆
シュバルツドラッフェが猛威を振るっていたころ。
彼らを倒すために現われたのがヒーローだった。
ヒーローは、能力を高めるスーツを着て、怪人たちを倒していく。
それに対し、シュバルツドラッフェは喜んだ。
人類は土壇場の根性でこのよう物が作れるのだ。
そして、その英知を身に纏い、人のために前線にでる、高潔な武人がいるのだ。
我々はまだまだやれる、と。
人類はまだ滅ばぬ、と。
そして、ヒーロー達はシュバルツドラッフェを壊滅させ、世界から称賛を得た。
その後もヒーロー達は治安維持に協力し、治安機構の一つで有り続けることとなる。
そのことに、誰も何も言わなかった、否、彼らを褒め称えた。
正義と平和の象徴である彼らが組織の一つであり続けることが、人々にとって賞賛されていた。
だが。
それが続いたのも、半世紀が限界。
組織は腐敗する。
一代目のヒーロー達が引退し、二代目に変わったころ。
ヒーロー達の組織は少しづつ、周りから金を取るようになっていった。
だが、誰も文句は言わない。
ヒーローは、現代兵器で全く歯が立たない怪人たちを簡単に屠っていくのだ。
敵う訳がない。
そして、次の悪の組織が現れた際に守ってもらえないのは御免だった。
それに気をよくしたヒーロー達は、いよいよもって暴虐を働いていく。
人々は、憎みながらも逆らえない。
そんなとき、現れたのが、ヴァイスドラッフェだった。
前組織、シュバルツドラッフェ頭領の、シュバルツ・オーエンの孫、七海・オーエンが、ヒーローを正さんと、立ち上がったのだ。
まだ、十二の少女であるにもかかわらず、祖父の代から続く、最先端技術遺伝子操作によってつくられた怪人を率いて、彼女はヒーローに立ち向かった。
自分の犠牲でヒーローが本来の姿を取り戻すならよし。
そうでないなら自分達がヒーローの代わりになるという、祖父のような、悲壮な覚悟を決めて。
◆◆◆◆◆◆
「ご苦労さま、中、ホルン」
悪のシンボルが、壁に大きく貼り付けられた薄暗い部屋。
そこにぽつんと置かれた机に座る、小さな少女。
七海・オーエン。
彼女は、銀のストレートロングの髪を揺らしながら、優しく微笑んで、中と、先ほどヒーローと戦闘していた怪人、シュツルムホルンを見つめていた。
「もったいなきお言葉」
恭しく、シュツルムホルンが言う。
それをよそに、中は仏頂面のまま、七海を見つめていた。
七海は、それを見てとったか、少し困ったように笑う。
「中は、また、納得してないの?」
「当然だ」
中の求めるものは、神と呼ばれる先にある。
人の身では終わりはないし、果ては見えない。
それは、ある意味覚悟でもある。
何処までも、死するまで、それを目指し、努力し続け、一瞬でもその有り様に近づき続ける。
死ぬまで努力を続ける覚悟。
そんな感情が、彼の眼には灯っていた。
そして、それが解らないほど、七海は生易しい人生を送っていない。
「そう。じゃあ、頑張って、応援してるね」
中は肯いた。
「言われずとも、雷管は叩かれた。行きつくとこまで行き着くしかない」
そう呟いて、ただ、中は虚空を見つめ続ける。
それからしばらく、沈黙が続いていたが、やがて七海が口を開く。
「ねえ、中に、お願いがあるんだけど、いいかな」
命令ではなくお願い。
その言葉に、中は怪訝な顔をするが、何も言わずに続きを待った。
「ここに、水族館のチケット、二人分があるんだけど……、明日、一緒に行ってくれないかな?」
言い難そうに、だがしかし、はっきりと意思を示した少女に、中は返すべきではないと分かっていたが、嫌そうな表情を返した。
が。
中はすぐ横で自分を睨みつけるシュツルムホルンの存在を確認して、戦慄を覚えると同時、断ることが出来ないのも察した。
「なにも、俺でなくとも問題あるまい」
だが、それでもできる限り回避したい。
そう思って食い下がるが、そう上手くはいかなかった。
目の前に座る少女は、困ったような表情で、言う。
「うちの怪人たちは、人前に出すのに向いてないから――」
反論の余地がなかった。
すぐ横でシュツルムホルンが、この外見でさえなかったら我が行きますのに、と嘆いている。
そう、基本的に人間らしいフォルムをした者は圧倒的に少ない。
少々強面である以外普通の人間である中が、この本部の中において最もまともな外見をしているのだ。
「……、ドクターは」
「おじいちゃんは頭にネジ生えてるし、煙吹くし、ゴーグル外せないから駄目」
「女性型蟻怪人は?」
「お姉さんは人型に近いけど、あのお尻は隠せないよ?」
「俺は」
「顔はちょっと怖いかもしれないけど、それがいいっていう子もいるし、きっとおばさん達に人気になれるよ? だから大丈夫」
その言葉に、中は深く息を吐いた。
隣で断ったら殺すとオーラで表す男がいる以上、断ることはできない。
中は普通の人間なのだ、怪人などとやり合ったら死んでしまう。
「わかった……。だがあまり期待はするな」
その言葉に、七海が花のような笑みを咲かせた。
「うん! ごめんね、ありがとう!」
その笑みを見て、再び中は息を吐く。
最悪だ、自分の才は狙撃だけで、子供のお守など、全くの専門外だというのに。
中は、少し名字が変わっているだけの家で生まれた、普通の日本人だった。
それが何故、悪の組織の狙撃手等を務めているというのか。
中は、無邪気に室内でトランプに興じる友人たちを見て、危機感を覚えていた。
それが、幼稚園の頃の話。
それは、周りからすれば異常でしかなかったが、正しい感覚だったのかもしれない。
外に出て遊ぶことのない友人。
まるで機械のように無気力に動く大人たち。
そして、傍若無人のヒーロー達に戦おうともしない人々。
中はそれを見て、いいようのない焦燥感を覚えた。
そして、小学生になった中は、ただひたすらに外に出て、ただ一つ決めたビルの屋上から、来る日も来る日も、
学校にすら行かず、人々を見つめ続けた。
そのことに対し、誰も怒りを示そうとはしなかった。
親も、教師も。
ただ、注意するだけで、余計に危機感を覚えるだけ。
だだ、焦燥感は募るばかり。
そして、半年も緩慢な世界を見続けた頃、中はとある狙撃手に中は出会った。
それも、ビルの屋上だった。
「……、こんな所に子供がいるとはな…。俺のリサーチ不足か」
白髪交じりの金髪を、後ろに撫で上げた、黒いコートの男。
その男の手には、大きな長方形型のケース。
その時はそれがライフルのケースだとはわからなかったが、ただ、大事なモノが入っているのはわかった。
「……、お前…。…俺は今から、とある人間を殺す。誰かに言うつもりはあるか?」
男が問うた。
中は、意味が解らず首を傾げる。
「俺は、このビルから八百メートル離れた所にいる、議員を撃ち殺す」
「……!」
無謀とも言える男の告白。
この時中は、歓喜に震えた。
目の前に立つ長身の男に、今まで見ることのできなかった、生命の躍動を感じていた。
生を戦い生きる、その有様に、感動を覚えた。
「それを、お前が黙っていてくれるというのなら……、いいことがあるかもしれない」
上から降ってくる言葉に、中は矢も盾もたまらず肯いた。
それに、男は少し目を丸くしていたが、すぐに、肯き返すと、持っていたケースを開く。
「やっぱり、か……。よし、いいだろう、よく見ておけ。これが多分、お前の求めていたものだ」
そう言って、流れるような動作で、男は地面に伏せるようにライフルを構えた。
中の眼は、その黒光りする、無骨な鉄の塊に釘づけになる。
それは、中が感じた通り大切なものだった。
男にとってではない。
人類にとって。
「さあ、引き金を引く。お前はこの瞬間を目に焼き付ける。そして次の瞬間、お前は涙を流すだろう」
男が、祈るように呟いた。
ただ、中はライフルの銃口を睨みつけた。
そして、引き金が、引かれ。
刹那が永遠に引き伸ばされる。
内部の部品が動く音、そして、銃弾が放たれた。
全長五センチにすら満たない弾丸が、彼方の向こうのたった一つの標的に向かって飛んで行く様に、中は、人類の失った生命の躍動を感じていた。
その頬に、一粒の滴が、流れ落ちた。
その後、男は、中をしばらく見つめてから、こう言った。
「お前、俺と来るか?」
既に、中は肯いていた。
◆◆◆◆◆◆
その出来事から二十年もの時を経て、中はスナイパーとなった。
彼の師となった者のライフルを受け継いで。
そんな彼は、シュツルムホルンと共に、悪の組織の、本部の廊下を歩いている。
「くう、我が普通の人間の姿だったら……!」
先ほどから仕切りに嘆くシュツルムホルンを、中は黙殺した。
シュツルムホルンは、組織内でも、ある程度ましな外見をしていると言える。
鎧とカブトムシを合わせたような体に、赤く光る目。
そして、背にはクワガタムシの角のようなブレードが黒光りしている。
あだ名は、虫キング。
ちなみに、一部の怪人からはオウビートと呼ばれているが、中には何のことかはわからなかった。
「中、くれぐれも、姫をお願いする! 姫を目いっぱい楽しませてくれ!!」
シュツルムホルンが、一瞬で中の前に現われ、その両肩を掴む。
「……、クライアントだ、全力で守るが…、楽しませる方については期待するな」
そう、ぶっきらぼうに言った中だったが、シュツルムホルンは、逆に、口元に笑みを浮かべた。
「そう言って、冷たい風を装うのが貴様だが。貴様だからこそ精一杯やってくれると信じているよ」
その言葉を、中は無視することにする。
なんとなく、背筋がむず痒かった。
「照れるな中。それと、貴様も楽しんで来い。それが終わったら、また任務だ、貴様の腕、、頼りにしている」
中は肯く。
近々、大きな任務がある。
今までで最大となるであろう任務が。
「お互い、苦労する……」
そう呟いた中に対し、シュツルムホルンは豪快に笑った。
「はははは! そうだな、我も、貴様も。気が付けば組織の中核だ」
事実である。
が、中はその仏頂面の眉間に更にしわを刻みこむ。
「俺は……、ただの雇われだ。ただの雇われを、組織の主力に組み込むとは気がしれない」
「ははははは! 貴様の憎まれ口は来た当初から全く変わらんな!! もう裏切るどころか、姫の元から去る気もないくせに!」
図星であるからこそ、更に中は不機嫌そうな顔になる。
逆に、シュツルムホルンは上機嫌を隠そうともしない。
「貴様が来てすぐは、ただの不遜な下衆だとだと思っていたのだがな」
笑いながら言うシュツルムホルンは、中の背をばんばんと叩いた。
「……それがいつの間にこうなったんだ? 知らぬ間に、というならお目出度いが」
中への評価は、最初は酷いものだった。
七海が連れて来た時は皆面食らい、そしてその無愛想な態度に、好感を抱く者はいなかった。
そしてそれを黙殺し、堪えた様子もなく自分達の頭領に不遜な態度を取る男に、憎しみが湧いていた。
それが変わったのはいつだったろうか。
シュツルムホルンは言う。
「貴様が、初めての狙撃を成功させてからだよ」
組織での初めての狙撃。
一キロ先の、ヒーローの変身デバイスを撃ち抜くだけの仕事を、あっさりと中は成功させた。
「あの時、我は解った。貴様は馬鹿なのだと。貴様は届く訳もない馬鹿な理想を掲げ、それに向かって進むだけの弾丸なのだと」
なんとなく、馬鹿に馬鹿と言われて腹が立ったが、中は黙って聞いた。
「無視しているのではなく、脇目を振れないだけなのだと、あの作戦に出ていた者は全て理解した」
そう考えると、中への態度が柔らかくなったのは確かにその作戦の後であった。
「なんせ、ガス爆発で燃え盛り、崩れ落ちる室内での狙撃だったからな。誰もが失敗だ、逃げろと言った。なのにお前は『目標を確認、狙撃する』だ。誰もが思ったさ、こいつ馬鹿だ、とな」
そう言ってシュツルムホルンの話は終わった。
「仕事をこなしたまでだ。褒められることはしてない」
「それをこなすのが如何に困難であろうと貴様は遂行する、それが今の信頼につながっているのが解っているか? 貴様にとっては、来る日も来る日も狙撃し続けただけなのだろうが、それが人に安心感を与える」
「そんなものか?」
聞いた中にシュツルムホルンは肯く。
「だから、姫も懐いている」
その言葉に逆に、中は首をかしげた。
「そうか?俺が子供に懐かれるとは思えんが」
「こんな事をしてるからな。安心するんだそうだ。お前なら、明日も、明後日も、世界が滅んでも変わることなく狙撃をし続けていそうで安心するんだそうだ」
その言葉は間違っていない。
中のそれは、身に沁み込んだことだ。
だから、変わることはない。
中は決して、それが人に安心感を与えるとは思っていなかったが。
「…まあいい。明日は思い切り楽しんで来い。だが、姫に傷一つ付けたら五体バラバラにちぎり殺す」
「善処する」
そう言って、シュツルムホルンは、中とは違う怪人用宿舎へと向かって行った。
中は、仏頂面のまま自分の宿舎へと歩き出した。
◆◆◆◆◆◆
「あ、中、あの魚は?」
「カクレクマノミだ」
街の外れの水族館。
そこに、仏頂面の男と銀髪の少女がいる。
その様は、どうしても人目を引くはずだった。
だが。
水族館にいる人間は、二人を見ても一瞥するだけで、後は見向きもしない。
ただ死んだ目で、ふらふらと歩くのみ。
多分、この場で、誘拐や殺人が起きてさえ、人々は運が悪かったと諦めるだろう。
そんなとき、七海が、ギュッと一際強く中の手を握った。
「私達が、皆に活力を与えなきゃ、ね」
そう言った彼女の眼は悲壮な覚悟を宿している。
中はそれを、ただ見つめていた。
そして、不意に思う。
中と七海は、似ている。
全てが流されるままの時代に生まれて、疑問を感じた者。
世界に生まれた異分子。
果たして、中と彼女が出会ったことに、何の意味があるのか。
わからない、わからないが、中は現在の目的を少女を楽しませることと定めた。
強く握られた手を、相棒のライフルを握るように、優しく、包み込むように、それでいて力強く握り返す。
七海は、はっとしたように、中の顔を見上げた、そして笑った。
「えへへ、ありがとう」
「いや、それより…、昼からイルカショーがあるそうだ。行くか?」
言うと、七海は意外そうな顔をする。
「どうした?」
「意外だな…、って。中がちゃんと調べてくるとは思わなかった」
そう言って微笑みを向けてくる少女に、中は沈黙を返した。
実は、イルカショーの下りは、シュツルムホルンによるものだった。
理由は実に簡単。
先日の夜、組織から渡された端末に、シュツルムホルンから、水族館の綿密なスケジュールが送られて来たのだ。
そして、
『これも任務である』
と。
それに対し、中は任務と言われた上、律儀な性格が災いしたか幸を奏したのか、完全にスケジュールを暗記していた。
「あれ? 怒っ、ちゃった…?」
不安げに聞く七海に、中は首を横に振って応えた。
すると、表情は一転。
楽しそうに中の手を引いて行く。
「えへへ、良かった」
そして、イルカショーが始まった。
イルカが輪をくぐり、列を揃えて泳ぎ、
必死で、魚を捕らえる。
それを、最前列で座りながら見ていた七海が、呟いた。
「必死だね」
「そうだな」
そう言った七海の眼には、いつもと違う深い銀色が宿っていた。
「イルカもそう。動物達はいつも必死なのに、人間だけが何でこうなんだろう」
今を必死で生きる動物達に対し、人間達は、ヒーロー達に逆らえず、ただ漫然と暮らしている。
それに対し、異を唱える少女に、世間は冷たい。
否、世間は全てに対して無関心なのだ。
無理だと割り切り、自分ではできないと解決を諦め、他人に任せる。
だからこそ、ヴァイスドラッフェは人々に戦う姿を見せなければならないのだ。
まるでこのイルカのように滑稽に。
もしかしたら自分も何かできるかもと思わせるために。
「作戦、明後日だね」
「そうだな」
本作戦の内容。
それは、
「中には、一番重要な役目をしてもらうことになるからね?」
巨大ロボの破壊。
事の始まりは一週間前に、ヒーローの使う巨大ロボを開発したという、齢百を超える研究者が現れたことから始まった。
研究者は博士と名乗り、巨大ロボを破壊してくれと言ったのだ。
更に、ロボの弱点を携えて。
ロボを建造し、世界の平和を作った一人の研究者は言った。
「あれは、わしの夢だった……、だからこそ、あの穢れた夢はこの手で、壊さなきゃならん! …だが、わしにその力はない……。頼む!! わしの代わりにあれを壊してくれ!!」
そう言ったのは、世界の平和を作った偉人などではなく、ただの小さな老人だった。
「もう、あれは…、見ていられん……。頼む……」
その瞳から流れる涙に、七海は約束した。
必ず達成すると、夢を正すと。
イルカショーも終わり、一通り水族館も回った頃、中と七海は売店にいた。
「ホルンはー……、あ、カブトムシのキーホルダーがある」
水族館に置くには正気を疑うキーホルダーを、七海は取る。
そんな中、中は異常な量の菓子箱を持たされていた。
七海曰くお土産、である。
ヴァイスドラッフェは総員二百名ほどのさほど大きくない組織ではあるが、二百人分ともなると、随分な量になる。
そして、最も仲のいい、シュツルムホルンを含む最古参の怪人たちへ、キーホルダーなどを買い漁り、いい加減に中が苦痛を覚えて来たころ。
七海は、中の顔のすぐ下に、とあるストラップを差し出した。
「これ、中に似合うと思わない?」
水族館に奥には相変わらず正気を疑うそれは、麻雀の牌。
赤い字で刻まれた中の牌だった。
そう言って、七海はそのストラップの購入を決めた。
なぜか、二つも。
「何故、二つ?」
問うと、はにかむように七海は答えた。
「えへ、私も、中の狙撃が中るように、ね」
そう言って、七海はレジに向かう。
中はそれに付き従い、やっと菓子箱から手を話すことに成功したのだった。
そして、代金を払い終え、荷物を持つ中に、七海がストラップを差し出した。
「はい、これ」
中は無言で受け取る。
そして、ゆっくりとそれを眺めて、手の中でもてあそぶ。
「あ、中、今笑ってる……。珍しいなぁ…」
その顔には、珍しく笑みが浮かんでいた。
そして――、作戦が開始される。
◆◆◆◆◆◆
中は、あるビルの屋上に立っていた。
あの時の、ビル。
師と出会った屋上。
その顔には、薄く笑みが浮かんでいる。
昔、中は師に自分を何故拾ったのか聞いたことがあった。
その時、師はこう答えた。
「屋上から眼下を見下ろすお前の眼が、目標を見失った狙撃手のようだった」
と。
弾は込められていた。
セーフティもとうに解かれていた。
あの時はただ、目標だけが見つからなかった。
だが、今は違う。
今の自分には、
「こちらイェーガー。配置についた」
確かにターゲットが見えている。
今回の中の任務は、巨大ロボのエンジンを破壊することにある。
今まで、巨大ロボは無敵を誇っていた。
その秘密は、エンジンにある。
博士が作ったエンジン、名を、霊思念エンジンという。
概要は、死者の思念を使い、エネルギーを作りだす、というものだった。
そして、封入された死者の数は一万。
シュバルツドラッフェとの戦闘で出た死者が、英霊として、死して尚戦っていたのだ。
その思念が、巨大なパワーを生み出していた。
そしてその巨大なパワーで、次々と怪人を屠って行ったのだ。
だから、今まではヴァイスドラッフェは極力ロボを呼ばせないようにしていた。
どう頑張ってもかなわなかったのだ。
が、博士が来た事で状況は変わる。
実に、実に十センチ未満の小さなの排気筒。
そこを撃ち抜けば。
霊思念エンジンは停止する。
博士は確かにそう言った。
そしてエンジンが止まれば、後は補助用の動力だけ。
こちらの巨大化したシュツルムホルンだけで互角に戦える。
そのための狙撃であり、そのための中なのだ。
巨大ロボは。
五十年前の最終決戦と比べ、格段に力が落ちているという。
中に封入された霊の思念が弱まっているのだ。
中に封入された霊は、もう既にヒーロー達を見限っているのだ。
だから、休ませなければならない。
英霊に休息を。
そう、祈るように、中はライフルを握った。
ヒーローと戦っていたシュツルムホルンが巨大化した。
――いよいよ、か……。
ここまでは布石。
予測通りに補充されたのであろう赤が何事かを叫び、ヒーロー達は巨大ロボを呼び出した。
力が全盛期の四分の一になった今でさえ、ロボは強い。
ロボの拳が宙を穿つ。
それを巨大化したシュツルムホルンは沈み込むように回避し、逆に拳をぶつけて見せた。
だが、ロボはびくともしない。
『はははは!! 怪人ごときの攻撃がロボに通用すものか!!』
ロボのスピーカーから、耳障りな声が響く。
対して、シュツルムホルンは咆えた。
「それでも尚!! 男には貫かねばならぬときがあるッ!!」
シュツルムホルンはいつだって咆えている。
高らかに、理想を、魂を。
まるで音を奏でるホルンのように。
粗野で、荒々しくて、只管咆えるだけなのに。
その叫びは清々しく。
「ここで、負けられるわけがないのであろうがぁぁあああああああああああああッ!!」
シュツルムホルンが、背の二つの刃を抜いた。
クワガタムシの角のような刃が、高速振動を始める。
そして、シュツルムホルンが、消えた。
『何ッ!?』
ヒーローが辺りを見渡した時にはもう遅い。
シュツルムホルンは、ロボの後ろに立っていた。
「おおおおおおぉぉぉぉぉおおおぁあアアアアアアアアアッ!!」
刃が唸り、振り下ろされる。
装甲と刃がこすれ合い、火花が散る。
しかし。
ロボの装甲に刃は入らない。
『はははは、無駄だァ! このフォイアロートフェーニクスには傷一つ付けられない!!」
だが。
それでも。
「それでも」
それでも尚。
「それでも尚ッ!!」
ただ、何度も。
只管に、ただ只管に。
「絶対に、打ち抜くッ!!」
何度も何度も、剣が振り下ろされる。
愚直に、真っ直ぐに、馬鹿正直に。
金属がこすれ、大きな音を上げる。
粗野で、荒々しく、粗暴な演奏。
シュツルムホルンは、世界にその粗暴な音楽をかき鳴らし続けた。
シュツルムホルンは、戦い続けるその様を、世界に見せ続けた。
シュツルムホルンは、ただ只管、刃を振り下ろし続けた。
そして。
「これがッ! 我の意地だあああぁぁぁぁあああああああああああああッ!!」
その刃が、ついに折れ。
宙を舞う。
だが。
「……抜いて見せたぞ英霊よ……ッ!」
その装甲には、裂け目ができていた。
それは、シュツルムホルンの意地の証だった。
『……』
その様に、しばらくヒーロー達は唖然とする。
が、動作に問題がないことを思い出すとすぐに余裕を取り戻した。
『奮闘したみたいだが、お前ができたのはバリア装置を破壊しただけ!! 故に、疲労困憊のお前など簡単に捻り潰してくれる!!』
その耳障りな声を無視して、中は呟く。
「よくやった、シュツルムホルン。バリアが壊れれば……、十分だ……!!」
中が、ライフルを構えた。
ライフルに体を密着させ、一体化する。
スコープを覗き、目標を見た。
今、敵はこちらに背を向けており、格好の的となっている。
そのことに、中は笑みすら浮かべず、引き金を引こうとして――
影。
轟音。
「……な…?」
次の瞬間。
中は、
宙に放り出されていた。
足場は崩れ、瓦礫が自由落下を始める。
中は、背後を振り向いて事態を把握した。
中のいたビルを、破壊したのは、シュツルムホルンの刃だった。
折れた刃が宙を舞い、中のいた屋上を破壊したのだ。
だが、理解したからとてもう遅い。
落下する現状では狙撃などできようはずもない。
生きることすら危うい。
中は、狙撃を諦め、全てを諦めようとした。
その時。
その時だった――。
視界に映る、小さな四角い何か。
白と、黄土のリバーシブルで、白い面の中心には、赤く
中の文字が。
「ッ!!」
その瞬間、中はすでにライフルを構えていた。
落下する中、瓦礫の向こうにロボが見える。
その中から、瓦礫を全て避けさせて弾を当てるなど不可能。
だが。
できる。
そう思った。
この状況下で狙撃を成功させるのは不可能に近い。
だが、中はこう言った。
『どんなに不可能だと思われていても。奇跡が起こらないと無理だと言われていようと。誰かがやった瞬間、それはできることに成り下がる』
ならば、どんな狙撃でもやって見せよう。
そして、それができたなら、それはただのやればできることだ。
刹那が、無限に引き伸ばされる。
中は空中で静止し、瓦礫は果てしなくスローモーションで動く。
瓦礫の中から、ロボへと直進するルートが、浮かぶ。
ぴたりと、銃口が止まった。
瓦礫が、腕を打つにもかかわらず、照準は、ミリメートルすらずれはしない。
当たる。
絶対に、中る。
スコープ越しの小さな風景。
きっとこの小さな中の少ししか自分は現実を変えられない。
自分の求める有り様とは程遠い。
だが。
それでも。
例え自分一人の弾丸では少しの世界しか変えられなくとも。
仲間と一緒なら。
きっと世界を変えられる。
インカム越しに声が響く。
『中? 中!? 生きてるの!? 大丈夫!?』
それを、中はどこか遠くのことのように聞いていた。
――ああ、七海か。そう、急かすな。当てる、絶対に中るから。
ぼんやりと、そう考えながら。
「こちらイェーガー」
人とは、銃のようなものである。
精度が悪かったり、暴発したり、そんなこともある。
だが、それでも放つ弾は真っ直ぐ目標に飛んで行く。
だが、今の時代の人間は、弾を失ってしまった。
平和のためといって、弾を捨ててしまった。
そんな時代、中には何故か弾が込められていた。
であれば、その弾丸は、どこへ行くのか。
中は、世界を撃ち抜けるのか。
耳から聞こえる言葉に。
『中!? 大丈夫なの!?』
中はいつもの台詞を口にした。
「目標を確認。ターゲットを、狙撃する」
中の牌が照準と重なり。
中は、引き金を引いた。
放たれた弾丸は、中の牌を貫いて、思った通りの軌道を描き飛翔した。
無限が、刹那へと戻る。
再び、中は落下した。
ほどなくして、衝撃。
怪我はあるだろうが、致命傷ではない。
周りからは、金属の擦れ合う音が聞こえていた。
果たして、中の狙撃は成功したのか。
果たして、シュツルムホルンはロボを倒せたのか。
中は、確認しようともしなかった。
結果など、見なくても分かっている。
◆◆◆◆◆◆
怪人と巨大ロボがぶつかり合い。
そしてロボが、地に伏した。
ロボの背の動力部からは青白い光が洩れ、火を吹いている。
中が、狙撃を成功させた証拠だった。
「崩れるビルからの狙撃、か……。相変わらず恐ろしい執念よ」
シュツルムホルンがそう呟いて――、
その瞬間、一際大きく。
ロボが青く輝いた。
「ぬぅッ! これは……!?」
それは、爆発だった。
今まで閉じ込められていた、世界を救った英雄たちが、在るべき姿に戻る、生と死に満ち溢れた光だった。
世界中の人間が、全てを忘れてその光を見つめていた。
その光は、今まで日々を死んだように生きていた人々に灯る。
「……、この光は……、ぬ、引きずり込まれる……!?」
そして、ヴァイスドラッフェはこの世から消滅した。
◆◆◆◆◆◆
「……ここは……?」
中は、ヴァイスドラッフェ本部の、医務室で目を覚ました。
「あ、起きた?」
「七海か……、状況を」
即座に身を起こし、すぐ隣にいた七海に、中は質問した。
「まず、全体から言うと、作戦は成功。ロボは倒したよ。それで、中は五時間ぐらい眠り続けてたんだけど――、驚かないで聞いてね?」
驚くこと。
何が起こったというのか。
思わず身構える中に、七海はこう言った。
「私たち、本部ごと並行世界に跳んだみたいなの」
中は黙殺した。
否。
何も言えなかった。
何が起こっているのか全く理解できない。
「霊魂が地獄に行くのに引っ張られた、ってうちのおじいちゃんは言ってるけど、私達は肉体があるから地獄じゃなくて並行世界に放り出されたみたい」
博士が言ったなら、多分そうなのだろう。
だが、納得はしてもこれからどうするのか中には判らなかった。
「これから、どうする…? ヒーローは…」
だが、予想に反して七海の表情は明るかった。
「それがね? 私たちが消えた後皆が活力を取り戻したみたいなの」
その言葉に、中は怪訝そうな顔をしたが、答えは意外なところから返ってきた。
「霊思念エンジンだ」
「……シュツルム」
シュツルムホルンは、戦闘での怪我か、中の隣のベッドで寝ている。
「あれの中に入っていた霊が、人々に活力を与えた」
その言葉に、中は茫然とした。
先ほどとは違う方向で、何も言えなかった。
シュツルムホルンは続ける。
「貴様は、たった一つの弾丸で、世界を変えたよ」
そう言って笑うシュツルムホルンに、中は笑みを返す。
「貴様は、たった一つの弾丸で、世界中に戦う力を与えた」
つられて、七海も笑った。
そして、中がベッドから立ち上がる。
と、そこで手の中に何かが握られていたことに気づいた。
それに対し、ますます中は笑みを深める。
笑みを深めながらも、中は部屋を去ろうとする。
その背に、七海の声が届いた。
「すごかったよね、中。崩れるビルからの狙撃。どうしたらあんなことできるの? コツでもあるのかな?」
その言葉に、中はいつもの台詞を返すのだ。
いつものように。
今日も明日も明後日も。
「銃は人と似たようなもんだ。一途に向き合えば、応えてくれる」
その手には、縦に分割された、半分の中の牌が握られていた。
人類よ、再び弾は込められた。
その銃口はどこへ向く?
後書跡
この小説について、マスターの言葉を借りるなら、
この小説を見たとき、君は、
きっと言葉では言い表せない
「痛さ」みたいなものを感じてくれた
と思う。
クールとか緩々とか熱い者の流行らない世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この書き込みをしたんだ。
とかなんとか。
さて、今回は真っ向から厨二にぶつかってみましたが、どうだったでしょうか。
というか、厨二とか、ハードボイルドとかヒーローとか怪人とか色々混ざってちゃんぽんがコンセプトなのですが。
ただ、厨二かどうかは途中から思いつくままに描いたおかげで定かじゃないので注意。
本来はもっとこう、すごい名前の斬撃とか、グラビティショットとか言うはずだったのに……。
尚、なんかいきなり霊思念エンジンとか出ましたが、要するにあれです。
私の書いてるオリジナル長編を読めばすんなり受け入れられるかも。
ちなみに、いきなり並行世界行きとかなってますが、ある意味別ネタへの伏線かもしれません。
どれから書くかにもよりますが。
二十八 中について
実は名前にちなんで二十八歳なんて話がある。
かなりすごい狙撃手。
狙撃馬鹿。
狙撃馬鹿一代。
シュツルムホルンについて
なんか怪人。
兄貴。
外見イメージはモンスターハンターのオウビートの背に、クワガタの角みたいな黒い剣がついてる。
巨大化する。
ちなみに、遺伝子操作によって生まれた。
初代ドラッフェにおいては、諸君らが普通に使っている遺伝子操作はこのような化け者も生み出すぞ、という警鐘だったそうな。
七海・オーエン
父親がは、日本人女性と結婚したそうで、ハーフ。
ちなみに普通に強い。
こっからは相変わらずどうでもいいこと。
思えば私は、中学時代から変な思考を持っていた。
空からヒロインが降ってくる系の小説とか言って、
空から降ってきたヒロインを反射的に受けとめようとしたら、腕が千切れる話とか。
……、おかしいな。
涙なんて出てません。
七重人格の女の子とのハーレムラブコメなんて考えてません。
さて、こんなもんでまた書き逃げとさせていただきませう。
次があったら会いましょう。