今回の「サブタイトル」が「死亡フラグ」かどうかは、次回以降まで引きます。--------------------------------------------------------------------------------††恋姫無双演義††講釈の32『白馬有情』英雄を論(ろん)じて肴(さかな)にする~現在の「漢」の帝都である許昌。劉備に与えられた邸宅に深夜、不意の来客があった。「誰だって?」来客の名前を聞いた途端、北郷一刀は桃香を押し倒していた。星や紫苑は微笑し、朱里や雛里は「はわあわ」し、鈴々や璃々はキョトンとし、翠は蒲公英に突っ込まれ、そして愛紗は叱り付けた。この有様に客もあきれて帰ってしまった。いよいよ憤慨する愛紗だったが、一刀の方はホッとしていた。流石に“竜鳳”の軍師は何か気が付いた。「ご主人様には、何か考えがあるのですか?」「俺が知っている話だと、あの客の用件は、曹操の暗殺かもしれなかったんだ」「「「(絶句)」」」押し倒したままではサマにもならないが、内容は重大だった。それこそ「天の御遣い」でもなければ、もっと仰天されただろう。・ ・ ・ ・ ・「演義」では、この陰謀さえ無ければ曹操と劉備は対立したかどうかも微妙とすら解釈可能な“曹操暗殺計画”。その陰謀が密議されていたのは「正史」では、この時期。そのタイミングで主謀者と記録される人物がやって来た。会うわけにはいかないだろう。この計画は「返り討ち」になるのだから。・ ・ ・ ・ ・「やめろと言って、言う事を聞いてくれる筈も無かっただろうしな」「そうなると、少しでも早く、成都に帰るべきですね」「そうだな」(…それに、次は「あの」イベントがあるんだろうし…)… … … … … 今度の来客は曹仲徳だった。「姉が梅の花を見ながら、酒席を設けたいとの意志です」(…先輩「あの」イベントですね…)(…そうだろうな…)2人だけにアイ・コンタクトが通じていた。――― ――― ――― 潁川郡太守以来の曹操の公邸。その庭の梅林と泉水に囲まれた亭。そこに、曹操らしいというより、なんとなく華琳らしい洒落(しゃれ)た酒食の席が設けられていた。酒と料理は4人分。最初からそのつもりだったわけだ。最初に2人を見た時の華琳は「天の国」の言い方なら、いかにも「百合」が「バカップル」を見た、という表情をしたが。… … … … … 「黄巾も董卓も袁術も呂布も倒れたわ」英雄の時代でも、英雄になれるとは限らないのね。後は誰が残っているかしら。(…始まったよ…)「袁紹さんでしょうか?」桃香も役割通り(?)だ。華琳は微笑すらして、首を振った。「麗羽も妹と同じだわ。「四代三公」の蓄積の上に乗っているだけ」確かに、人材はあり過ぎる程居るわ。でも、使いこなすだけの統率力と決断力が無いから、持て余しているわ。「孫策さんは?」「油断は出来ないわね。麗羽より、もしかしたら危険かも」でもどこかで焦(あせ)りすぎているわ。それで自分の足元が危なくならないといいけど。英雄になれるかどうか、まだ保留ね。「一応、白…伯珪さんについては」「友だち思いね。でも、公孫賛には、貴女を使いこなすだけの力量は無かったでしょう」「えぇと?後は…」「荊州の劉表なんかは、庭の中の番犬よ。後は出遅れた弱小軍閥。結局はいないわね」ここで、華琳は太陽のような笑顔を浮かべた。「今の天下に英雄は…」(…来たよ…)・ ・ ・ ・ ・曹操は劉備に向かって言い切った。「今の天下に英雄は、君とこの曹操孟徳。このただ2人のみだ!」思わず箸を落として驚愕する劉備。ここまで評価されている事自体、曹操相手では危険だ。だが、評価されてこれだけ驚いた事も、また曹操に警戒されるかもしれない。その瞬間、偶然にも雷が鳴った。劉備はその雷におびえた振りをして、箸を落とした事と、曹操に英雄などと評価された事をごまかした。・ ・ ・ ・ ・「…あ、桃香。ほら、あの空に、変な雲が?もしかして、雷雲かも」「え?きゃっ?」思わず一刀の片腕に抱きついた桃香に、華琳は決め科白を決める「タイミング」を逃した。(…先手を取ってくれたな。北郷…)… … … … … 1度、白けた後は他愛も無い雑談になった。その雑談がしばらく続いた頃に、風がやってきた。「zz」「ほら、寝ないの。報告は何?」「ふあ?はい。北方から、間者が戻りました」「それで?」“太陽の塔”だけが、来客の方を向いた気がしたが?「公孫賛が袁紹軍に降伏しました」「降伏?戦死したわけではないのね」「あの、それで、白蓮、いえ、伯珪さんは無事なのでしょうか?」桃香が握り締めている一刀の腕に、力を加えていた。「答えていいわよ。風」「生死不明です。現段階の情報では。少なくとも袁紹は「首」を晒してはいません」「そうですか」「心配かしら?」「はい。恩義はありますし、友人ですし。それに幽州は故郷です」「助けに行きたい?」「でも、みんなに相談してみないと」「主君としては、無責任でもないわね」――― ――― ――― 門前まで愛紗が、鈴々を連れてむかえに来ていた。「桃香様。お顔の色が良くありませんが?」「ああ、酒や料理もあんまり進まなかったみたいだし」「そうなのか?お姉ちゃんは、いつもあまり食べないのだ」一刀としては、突っ込みたいのを我慢していた。口に出したらセクハラである。「五虎大将」のほとんどは「飲み食い」の量に関する限りは。もともと、桃香とは比較にならないだろう。…冗談はさておいて「邸に戻ったら、相談がある」――― ――― ――― 「劉備はあまり、飲みも食べもしなかったようね。それにしては、食べて行ったものが片寄っているかも」「華琳姉さん?どういうこと」「女だから気になったの。男が聞くものじゃないわ」――― ――― ――― 「これ以上、許昌にいたら、白蓮さんの敵討ちと言われて、今度は袁紹軍と戦わされる危険もあります」「もしも白蓮さんを救出するために、何らかの行動を起こすにしろ、蜀の国主として自らの意思で行動すべきです」「例の陰謀にも、巻き込まれるかもしれませんし、やはり、成都に帰るべきです」竜鳳の意見に異論は無かった。「そうですね。桃香様のお身体の事もありますし」「あの紫苑?」「何ですの」「紫苑さんの微笑が微妙な気がするんですけど?」「ご主人様。私は璃々の母です」桃色になる桃香。北郷一刀は絶句した。その後の数分間は、ツッコミあり、かけ合いありの集団漫才が続いたが、最後は一同そろっての祝福だった。・ ・ ・ ・ ・「いよいよ、成都に帰らないとなりません」孫乾(礼)の蜀の外交官としての初仕事は、この件での曹魏陣営との交渉になる。――― ――― ――― 曹魏陣営の側の軍議。ここで、華琳は劉備の「体調」について問題にした。桂花などは「だから所詮、男はち○こ…」などと乙女らしからぬ嫌悪(けんお)の発言をし、仲徳などには(…やれやれ…)と内心で思わせていた。「これは真剣な話よ」もし、あの2人の間に子供が生まれたら。ただの赤子が生まれた、のとは問題が異なるわ。主君が2人いるような蜀も、その2人が男と女になってしまえば、悪い事にはならないわ。まして、2人の間に子供が生まれてしまったら。その時は、2人とも首を取れたとしても、その子供が残っていたら。子供自体の有能、無能は問題ではないわ。例えば「五虎竜鳳」が全員、生き残っていたら。「その子供を盛り立てて「五虎竜鳳」は、蜀王国を存続させて行く事ができるわ」曹仲徳は思った。「正史」での劉備の跡継ぎは無能は言い過ぎで、平凡だけど普通の出来じゃなかったかな。孔明でも魏に勝てなかったのは「五虎竜鳳」の半数以上に先立たれていたせいもあったし。「それでは、子供が生まれるまで、何とか逃がさないように?」「獅子の子に手を出す勇気があるのならね」「五虎竜鳳」が逃げ出そうとして檻の中で暴れられたら、たとえ討ち取る事が出来ても無傷ではすまないだろう。華琳の結論に、部下たちも同意した。「でも、ただ帰すのも惜しいわ」――― ――― ――― 「礼ちゃん。つまり」「はい。関将軍お1人は残留せよ、との名指しでの条件です。はっきり、人質と言われました」「だけど…どうして愛紗ちゃんなの?」「天の御遣い」には、曹操が考えている事を説明は出来る。「曹操は、愛紗いや関羽を自分の手元に置いて置きたいんだ」「・・・・・」「・・・・・」少しの間、それぞれが考え込んでいたが、やがて、愛紗本人が断言した。「私が残ろう。今はたとえ、1人脱落してでも成都に帰る方が、問題の根幹だろう。それに…」それぞれの性格通りの表情や態度をしている、主君や同志たちを見回した。「私1人で、こう言って何だが、足手まといが居なければ切り抜けてでも帰れる」「それはそれで、外交とか、大義名分とかの問題を先送りする場合も在り得ますが」「まあ、私とて、武一辺倒な訳でもない。通す筋は通すがな(ニヤリ)」――― ――― ――― 「そう、関羽は承知するのね」とんぼ返りの様に、華琳の元に引き返した礼は、愛紗を同行していた。「それがしからも申し上げたき事がござる。これはあくまでも、この関羽雲長という個人が、独断で希望いたす事にござるが…」「なあに?」ニコニコしている華琳だが、礼などは礼儀作法の“甲冑”を込んで、華琳の「気」に圧倒されないよう努めていた。「先ず第1に」作法通りの礼儀は保っているが、言いたい事は言い始めた。「あくまでも、恐れ多くも陛下のおわす帝都を騒がせたくは無いがため、わが主君は退去いたす。決して曹操如きの脅迫に屈した訳ではない」「言ってくれるわね」“曹操如き”に何処かの独眼竜が反応したような気もしたが、「第2に、わが主君が、拠点たる成都まで御無事に帰還なされるまでは、大人しくもいたす。だが、それ以降は1身の勝手を御許し願いたい」「それで?その以降は」「したがって第3に、退散すべき時が来たならば、真っ直ぐに御主君の下に帰参させていただく。その期に及んで行手をさえぎる御積もりならば…」「どうする積もりなの?」愛紗が答える前に、華琳が大笑いした。いかにも楽しそうに。「どうせ、劉備たちには、こう言って来たのでしょう。『自分1人で、足手まといが居なければ切り抜けてでも帰れる』」「恐れ入ります」「ますます気に入ったわ。これだから、側に置いときたいのよ。本当、劉備には嫉妬するわね」「さらば御承知いただけるか?ご無礼は重ね重ねなれども、われらが「桃園の誓い」にかけて、これだけは御承知いただきたい」「いいわよ。ただし、貴女がここにいる間は、存分に口説き落とさせてもらうわ。それでも、同じ事が言い続けられるならね」――― ――― ――― 許昌の城門。そこから延びる街道。蜀軍が行軍して行く。今度こそ、帰還するために。中軍に在って、いつの間にか馬術の達者になった一刀が、桃香に寄り添いながら進む。そのすぐ後ろから見守るように続き、鞍の前に璃々を乗せた紫苑。行軍の先頭で元気一杯に先導する鈴々。頼もしげに、しんがりを固める星。お馴染(なじみ)の4輪車の朱里と雛里。正直に晴れ晴れとした態度の翠と蒲公英。愛紗は見送っていた。周辺では、霞や季衣たち、魏の武官たちに囲まれていた。やがて、しんがりの星が地平線に没すると、未練を断ち切るように城門の中へ歩みだす。ただ1人。--------------------------------------------------------------------------------次回は原典「三国志演義」通りならば「原典」でも有数の、関羽の“見せ場”の筈なのですが、そうでなければ、ひたすら作者の未熟です。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の33『汗血流転』~駆け抜ける千里の道~の予定です。