††恋姫無双演義††講釈の9『天下に諸侯もはや乱立し 連合に合同するも混戦す』黄河と、遠く長江まで続く運河とが合流する、その至近に位置する「敖倉(ごうそう)」ここは「秦」帝国以来の“物流ターミナル”だ。産業革命以前の陸上交通の事情、黄河や長江といった大河に恵まれた地勢、当然ながら、物流における水運の地位は高い。帝都洛陽の南を流れ、黄河に合流する洛水。その合流点から、少しばかり(あくまで中国的スケールで)下流に、敖倉は位置する。結局のところ、下流側から帝都に攻め上る軍は、敖倉を集結点とし、洛水沿いに進軍するしかない。少なくとも、今回の連合軍ほどの規模になってしまえば、兵站ラインからもそうなる。その結果、洛水沿いの街道を封鎖し、要塞化された関門が、決戦場となるのも、ある程度の必然性を持っていた。かくて、連合軍は敖倉に集結しつつあった。――― ――― ――― 敖倉へ進軍する公孫賛軍を、追走する劉備軍の軍中。「伏竜鳳雛」は、落ち込んでいた。本来「郡太守」とか「州牧」とかの「官」を名目としており、その「官」が勅命を得て、「賊」や「蛮族」を「追討」する名目で編成された筈の軍が、勅命なくして、帝都へ攻め上る。これはもはや「軍閥」以外の何者でもない。この事実がむき出しになった。「三顧の礼」の段階で、予測していたことだ。予測した上で主君に選んだ劉備(桃香)を、この群雄の1人に押し上げる。その決心で出てきた筈だったのに、出遅れた。もっとも、北郷一刀は、まだ楽観していた。一刀の知る「正史」での「出遅れ度」は、現状以上だったが、それでも蜀王国は建国出来たのだから。一方、桃香本人はといえば、伝え聞く、帝都の民衆の惨状に心を痛め「何とかして救わないと」としか言わない。一刀にしても、当面、気になるのは別のことだった。そう、この戦いには、やつが出てくる。「俺が知っている話だと」張飛、関羽、劉備の3人が、まるで走馬灯の如くかかっても、結局は逃げられたし、その途中では、危なかったかもしれない程の「モンスター」なんだ。呂布というやつは。「“もんすたあ”って何なのだ」「俺の国で、怪物とか、化け物とかいった意味だ」意味が理解できてしまうから、おそろしい。そんなやつがいる軍を相手にして、それでも、諸侯連合軍を出し抜いて、劉備軍の名を上げる。落ち込んでいる暇も無さそうだった。もっとも、愛紗とか鈴々とか星とかは、余計に張り切ってしまったが。・ ・ ・ ・ ・敖倉に到着した公孫軍は、空いている場所に、陣営を設営し始め、白蓮は軍議に出かけていった。いまだ、劉備軍の立場は、公孫軍の中の客軍に過ぎない。だから、軍議には出ない。「お人好し」の桃香本人よりも、愛紗あたりが憤慨するかもしれないような、不愉快な事が起きるかもしれない、そんな場所へなんか、わざわざ出るまでもない。その前に、実績と名を上げる方が先だろう。公孫軍に混じって、陣営を設営する劉備軍から離れ、一刀は連合軍の陣営の間を歩き回っていた。光り輝く「天の衣」で知られているから、着替えてしまえば、どこかの軍に徴用された、雑用の少年がサボっているようにしか見られない。それをいい事に、密偵と勘違いされない程度に、歩き回りつつ、ある人物を探していた。・ ・ ・ ・ ・曹仲徳は、姉である曹操(華琳)が軍議に出ている間に、ある人物を探し出して、接触したいと考えていた。そして…傍目(はため)には、どこかの軍に徴用された、雑用の少年がサボっていたのを、中級の将が叱っている程度に見えるだろう。内容は、仰天するか、理解困難か、どちらかの話なのだが。「軍議の途中経過だが」現段階では一番名が知られてもおり、一番多くの兵を連れても来た、袁紹が「総帥」で、決起を呼びかけた曹操が「参謀」と決まった。「ここまでは「正史」通りですね」「問題は、どこまで「正史」通りにするかだな」「最後は、董卓は洛陽を焼き払って、長安へ遷都してしまう。そうなったら、この戦いは結局、連合軍の負けです」「その通り、うちの軍などは、その時ひどい事になる」まあ、その後、再起した段階の陣容まで、現段階で充実しているから、あれほどまではならないと思うが。「それに、桃香の目的は、帝都の民衆を何とかして救う事です」劉備だから本気ですよ。それなのに長安へ拉致されてしまっては。「やっぱり、その前に洛陽を包囲してしまうしかないな。そうなると、速攻で2つの関門を突破する事になる」「問題はおそらく、次の虎牢関で出て来る、あの「モンスター」ですね」「ああ、アイツが出て来ては、速攻で虎牢関を落とすのは難しいな」「しかも、その前にもう1つ汜水関を突破しないといけないんですね」「とりあえず、俺は華琳姉さんや、桂花たち軍師に董卓の「焦土作戦」について、それとなく吹き込んでおくよ」「その方が、連合軍全体への影響は大きいでしょう。今の劉備軍の立場だと」――― ――― ――― 華雄は、汜水関の守りを、急ぎ固めようとしていた。軍師である詠は、この段階にいたって、自分や霞・恋・音々音たちを集めた。主君である月の顔も見せた。そして、詠が知っている限りの「真相」を明かした。唖然とした。一時の詠が他の誰も信じられなかったというのも、納得はしないが、理解した。その上で、詠は依頼した。「こうなったら何としても、月だけは涼州に返したい」だけど、月を逃がす好機を見つけるだけでも、時間が必要なんだ。君たちは信じられても、他に誰を信じられるか分からないんだよ。ボクを憎むなら憎んでいい。月のために時間を稼いでくれ。この時の華雄の心境は、あるいは、まもなく対峙するであろう、関羽には共感できたかも知れない。いずれにしろ、彼女はこの関門で命を懸(か)けるつもりだった。後方の虎牢関より先に、時間稼ぎの捨石になるだろう。それを承知で戦おうとしていた。――― ――― ――― 軍議の結果は、結局、無難なところに落ち着いた。波状攻撃、各軍が1軍ずつ順に攻めかかる。元々、指揮系統のバラバラな連合軍である。一方、洛水沿いの限られた平原には、全軍を展開はさせられない。決められたのは、攻撃する順番である。攻囲、つまりじっくり攻め落とす、という手段も検討されたが、しかし、なぜか、董卓に時間を稼がれないよう、参謀である曹操は主張した。「(仲徳ったら。董卓は洛陽を焼き払って、長安へ遷都してしまう。あの子、本気でそう考えているの)」華琳にしても、本当に実行されれば、最悪であることは理解できる。しかし、最悪であるがゆえに、同床異夢の連合軍の軍議で、すべてをあからさまにはできない。・ ・ ・ ・ ・連合軍対董卓軍の戦いは、汜水関攻撃の第1陣、呉の孫堅軍の攻撃から始まった。戦況は互角。もしも、孫堅軍の規模が、第2陣の袁術軍ほどもあれば、持ち堪(こた)えられなかったかもしれない、だが、現実には、持ち堪えた。シビレをきたしたか、袁術軍が替わろうとし、しばし、混乱する。無理もない。元々、この規模の軍同士を入れ替えながらの波状攻撃となれば、同じ指揮系統の軍同士でも簡単ではない。そこにきて連合軍だ。――― ――― ――― 「(劉備軍もとい公孫賛軍は、5番手だったな。多分、そこでここの決着は付くだろうけど)」曹仲徳は、洛陽までの「時間」を今も気にしていた。――― ――― ――― 「そろそろ出番なのだ―」「出来れば、速攻で決めたいんだけど(洛陽を燃やされる前に)朱里か雛里に策はないかな」桃「それと、出来れば犠牲が出ないように出来ないかな。」「あうぅ…「上」「中」「下」の3つの策ぐらいならありますが」「(たしか鳳統がこう言った時だったら)多分、中策が桃香の気に入ると思うけど」「では、桃香様が陣頭に出て、敵を挑発して下さい」「え?私が」「大丈夫です。敵の主将である“魔王董卓”の罪を唱えればいいです」今回の連合軍の大義名分でもありますし、数えれば十ぐらいはあります。そのあたりで、挑発の効果は出ます。そうしたら、愛紗さんとの一騎打ちに持ち込んで下さい。多分、それで片が付きます。「う―っ。鈴々ではダメなのか―」朱「鈴々ちゃんでは、芝居っ気の点で、敵が乗らないかもしれませんので」念のため、確かめてみたが「上」は、汜水関だけではなく、虎牢関も無視して、帝都を目指す。現在の劉備軍程度の小勢なら、抜けられる道ぐらいはある。「下」は適当に戦ったら交代して後曲に下がり、後は高見の見物だった。やっぱり。・ ・ ・ ・ ・「わが名は劉備玄徳。漢の中山靖王の末裔(まつえい)にして、上は国家に報い、下は民を安んずることを誓った身」良く聴け。現在の地上に“魔王董卓”程、悪逆非道の者がいようか。先ず1つ……帝都における涼州兵の、略奪暴行と、それを放置、いや、けしかけるが如き董卓軍の振る舞いを糾弾した。2つ目には、民衆の虐殺、例として、「車裂」事件を挙げた。さらには、皇宮の占拠。先帝と母后にたいする大逆。その結果、生き残った現在の幼帝を押し立てて置いて、自分は「相国」などになり、朝廷の人事を独占。その人事。さらに、大逆を犯しておいて「大葬」すらおこなわず、それどころか、歴代の御陵に対する盗掘……等々、並べた末、十番目には今一度、帝都の民衆が現在、如何に苦しんでいるかを繰り返す……こうして、十の罪を並べ立てたうえで、こう締めくくる。この連合軍は、正義の軍である。だが、かくの如き罪人を討つのに、いわんや“魔王の使い魔”如きに、漢王朝の末裔たるこの身が、わざわざ手を汚すまでもない。わが部下をして相手をさせれば、それで足りる。ここで、選手交代。右手に青龍偃月刀、左手に杯を持って、愛紗もとい関羽が進み出る。「この酒が、まだ温かな間ぐらい、わが青龍偃月刀と討ち合って見せたならば、“使い魔”風情(ふぜい)にしては、中々ぐらいには、みてやろう」・ ・ ・ ・ ・「うわ~ん」本陣に帰って来た桃香は、一刀にしがみついて泣き出した。真っ赤になっているのは、どの時点からだろう。少なくとも「芝居」の間は持ったらしく、効果は出た。いや、出過ぎた。・ ・ ・ ・ ・関城の門が開くというより、跳ね上がって、守将の華雄が飛び出して来た。ところが、「何も・・・何も知らないくせに!月は・・・月は悪くない!!あの子を貶(おとし)めるなあ!!!」半泣きどころか、ほとんど全泣きとでも、言うべき状態だった。とても、愛紗の相手が出来るどころじゃない。愛紗には、半ばあきれつつ、ミネウチにする余裕があった。この後の攻防戦は、呆気無(あっけな)く終わった。袁術軍に後をまかせて待機中と見せていた孫堅軍が、両軍が唖然とする中で、いち早く立ち直り、まだ立ち直っていない汜水関に突入したのである。… … … … … その夜の陣営は、汜水関より、少しだけ帝都よりに設営された。しかし、劉備軍の同志達は、第一関門を突破できた勝利感よりも、あの敵将の反応に対する違和感があった。こちらの策通り、挑発に乗った、だけでは説明がつかない違和感が。愛紗に気絶させられた華雄は、曹操軍に連行されていった。それをどうこう言える立場には、今の劉備軍は無い。しかし、尋問の結果はどうなったのだろう。この違和感の答えは出たのだろうか。「(その内また、先輩と密談するかな)」北郷一刀は、曹仲徳を思い浮かべた時点で、彼ら2人が共有する「大問題」の方へ意識を移した。洛陽を燃やされる前に、虎牢関を突破しないとな。あの“モンスター”が待ち構える関門を。--------------------------------------------------------------------------------違和感の「正体」が今後にどう絡んでくるか。「正史」と「恋姫」の違いがここで出てしまいますね。それでは続きは次回の講釈で。次回は講釈の10『汗血を駆るは人中の雄将 今こそ義軍は関を破って名を示す』の予定です。