ホッホッホッ。皆さん、こんにちは。私は全宇宙の支配者フリーザ様ですよ。
………………。
だーっ!! なんで俺がフリーザなんだよ!? 普通、こういう場合はサイヤ人の戦士とかに憑依して、打倒フリーザを掲げて修行するべきところだろうが!?
ラスボスに憑依して、どうしろってんだよ!?
「フリーザ様、仕事してください」
現実逃避してたらザーボンさんに叱られました。
うん、ゴメン。人に徹夜仕事を何日もさせといて、自分はサボるとか、やっちゃいけないことだよね。俺も、ここしばらく寝てないけど。
一般人というか、ただのオタクな俺がフリーザになって最初に考えたのは、今の仕事を止めることである。
まだ、惑星ベジータ健在のこの時期なら、しばらく問題はないが、このまま続けていればいずれ俺はスーパーサイヤ人に殺されてしまう。
今すぐ地球を破壊してきてしまえばその心配もなくなるのだろうが、肉体はともかく精神は一般人の俺である。他に方法がないわけでもないのに、地球人皆殺しとか良心の痛む事はやりたくない。今のフリーザ軍の活動ですでに胃に穴が開いているというのに。
で、最初はフリーザ軍を解散してしまえば済むと簡単に考えていたんだけど、そう簡単にいくほど甘い世界ではなかった。
宇宙規模に広がったフリーザ軍の活動は、トップが止めようと言ったくらいでどうにかなるものではない。そもそも社員の多くが、戦い破壊することしか知らない脳筋ばかりなのだ。そうでなくて誰が、こんな死と隣り合わせの灰と青春な職場で働くものか。ここで、いきなり解散などをしてしまったら、全宇宙にならず者をばら撒く結果にしかならない。そんな胃の穴を増やすようなことはやりたくない。
そもそも、憑依してから分かったことだが、フリーザ軍は父親であるコルド大王の後継者として相応しいことを示すために組織したらしいのだ。
今現在、兄のクウラを押しのけて父親の後継者と見なされているフリーザが軍を解散などしてしまえば、不信感を持った父と兄がどう行動してくるか分からない。
万が一にも、敵対する事になどなっては勝てる自信などこれっぽっちもない。
正直なところ、フリーザの戦闘力がクウラやコルド大王に劣っているのかどうか俺は知らない。だけど、戦闘力で勝っていたとしても戦って勝てる確率は恐ろしく低いだろうと予測している。
なにしろ、体はフリーザでも中身は喧嘩もほとんどやったことのない日本人の俺なのだ。意気地はないし、格闘の知識や経験もない。
人間、体を鍛えただけで強くなれるほど便利にはできていない。戦闘に関する知識、技術、経験などがあって初めて強者足りうるのだ。
今の俺は、ソードワールドRPGなんかで例えると、全能力値オール200くらいで冒険者技能0という、やたらとバランスの悪いキャラということになるのかもしれない。
この例で分かりにくければ、レベル1のカツ・コバヤシを、まともに動かせもしないグランゾンに乗せて、いきなり最終マップに放り込んだようなものとでも思ってくれ。
そんな俺が、圧倒的に格下の相手ならともかく、同格の存在に勝てるはずがないのだ。
そんなわけで、できるだけに穏便な方法を取ることにした俺が考えたのが、解散ではなく方針の大幅転換である。
ついでに言うが、社員の中には、
「もうすぐ子供が生まれるんだ。これからバリバリ働かないとな」
なんて、言っている者なんかもいたりして解散は難しいのだ。胃の調子的に。
これまでのフリーザ軍の活動は、環境のいい惑星に住む人間を皆殺しにして、それを他の宇宙人に売り、その金で新しい技術を買う。そんな仕事であったが、俺はこれを地回りにすることを考えた。
宇宙にならず者は多い。ならば、こちらは兵を送って、そのならず者から守ってやるかわりに謝礼を受け取ろうというわけである。
ぶっちゃけヤクザだが、それでも今の仕事よりはマシなはずだ。
ところがどっこい、言うは易し、やるは難しとはよく言ったもので、組織の方向転換というのは簡単ではない。
やたらと処理しなくてはならない案件が多いのだ。
これまでの仕事を続けるなら、俺がやらなくてはならない仕事はほとんどなかったのだが、今までの活動の停止と、新しい仕事の導入。人員の適切な振り分けなどやること多い。ザーボンさんとドドリアさんが事務仕事のできる人じゃなかったら過労死してた自信があるね俺。
うん。ザーボンさんはともかく、ドドリアさんが事務仕事ができるって意外だったよ。今は、こき使いすぎて寝てるけどね。
ただ、他に事務仕事ができる人がいないんだよね。フリーザ軍は基本的に脳筋ばっかだし、人事に関する仕事だと、戦闘力の低い下っ端に任せると「こんな雑魚の決めた事に従えるか!」って暴れる馬鹿がいっぱいいるんだよね。
おかげで、この巨大組織の人事をたった三人でまとめなければならないというこの事実。死ねと?
「フリーザ様」
「なんですか?」
「私、頑張りましたよね? もう、ゴールしてもいいですよね?」
「逝くなー!!」
ザーボンさんが、限界突破してヤバイことになってました。
「わかりました。睡眠を取ってきてください。ついでにドドリアさんを起こしてきてください」
ドドリアさんも、一週間ぶりの睡眠とはいえ、三時間も寝てるんだし、もう充分だよね。フフフフフ……。
なんだか、宇宙の帝王に相応しい邪悪な笑みを浮かべた自覚がありますが、疲れきったザーボンさんはノーリアクションです。ゾンビみたいな顔でフラフラしながら部屋を出て行きました。
これが、私の日常です。
「フリーザ様!!」
一ヶ月ぶりに布団に入ろうとしたところで、アプールさんが叫びながら寝室に入ってきました。殺意がわきました。今ならやっちゃっても情状酌量の余地があるよね?
「前に発見した、高い科学力を持った異星人の住む惑星なのですが……」
ああ、科学力に反比例して戦闘力の低い住人しかいない星ですね。たしか、あそこは多くのならず者に狙われているので、兵を守りに送ったはずですが。
「壊滅しました!」
ブホォーッ
「どういうことですか? 我が軍の兵でも守りきれないような強力な異星人が現れたとでも言うのですか!」
「いえ、それがその……、やったのは我々が送ったサイヤ人です」
「またですか!」
ええ、サイヤ人の暴走は今に始まったことではありません。
自分たちを戦闘民族だなどと称している、あのサルどもは、闘争本能の赴くままに破壊の限りをつくすので、守るという行動に徹底的に向いていない。
しかも、やたらと勤勉なのも問題です。惑星守護に派遣すれば、行った先で守護対象まで全滅させてくる。
送らなければ、戦わせろと抗議をしてくるは、放っておいたら勝手に出て行って、適当な惑星の異星人を全滅させて、ただでさえ低いフリーザ軍の評判を地に落としてくれるし。
しかも、最近では、
「フリーザは惑星ベジータを破壊してサイヤ人を滅ぼすつもりだ。そうなるまえにフリーザを倒すんだ」
なんて、噂をばら撒いている奴がいるらしく、いちいち反抗的なのが増えています。
だめだ、こいつら……はやく何とかしないと……。
「ホントにサイヤ人滅ぼしてやりたいんですが」
「全面的に同意しますが、この時期にやると問題が残ることになりますよ」
そうなんだよね。急な方針転換で、まだ外部の不信感が拭えてないってのに、身内の兵を滅ぼすとか外聞が悪いよね。
「ですので、フリーザ様から、ベジータ王に厳重に注意をお願いします。我々が言っても、その……」
そうですね。自分より強い相手の言葉しか聞かない、あのサルどもには、私以外が文句を言っても聞き流されてしまいますね。
後に、私は注意だけで済ませた自分の考えを後悔することになる。
「やっちゃいました」
「やってしまいましたね」
「まあ、いい加減、限界でしたから」
上から順に、私、ザーボンさん、ドドリアさんのセリフです。
私の前には、ベジータ王含め、数人のサイヤ人が死んでいます。下手人は私たち三人。
このサルどもは、私を倒すとか寝言をほざきながら突っ込んできたので、さっくり死んでもらいました。
我慢にも限界というものがあります。ただでさえ、洒落にならない仕事量にアップアップ言ってるのに、その仕事をさらに増やしてくれるサイヤ人が、こちらを殺そうとしてくれば温厚な私も、ぶち切れるってもんです。
本来なら、ネズミ一匹殺せないヘタレな私ですが、睡眠不足でいい感じのテンションなおかげで殺人に躊躇いも罪悪感もありません。さすがに、これはベジータ王の自業自得です。
「いっそ、この勢いでサイヤ人を皆殺しにしませんか?」
ザーボンさんが、寝不足のテンションで物騒なことを言い出しました。
「ああ、それなら惑星外に出てるサルは始末してきますよ」
眼の下に隈を作ったドドリアさんが、うつろな眼で同意してます。
「ああ、それならいっそ惑星ベジータごと吹き飛ばしてしまいましょう。きっと綺麗な花火が見れますよ」
私も、なんだか、取り返しのつかないことを言ってるような気がします。
いいじゃないですか。どうせ、生きてても人に迷惑をかけるしかできない害虫みたいな種族です。ここできれいさっぱり駆逐してしまいましょう。
私が、フリーザに憑依してから何年が経ったでしょう? 憑依前の記憶も、おぼろげなものになってきました。
サルどもを滅ぼしてからフリーザ軍の活動は順調です。事務仕事を手伝ってくれる人も増えました。
といっても、もうサイヤ人が全滅したかというとそうでもなく、フリーザ軍には三人の行き残りがいますし、惑星ベジータを破壊した時に、事前にその事を知っていたとしか思えない迅速な行動で行方をくらませた者たちもいるので、全滅とはいきません。
ある日、サイヤ人の生き残りのラディッツさんが弟を迎えに行くといって、地球という星に出かけて帰らぬ人になりました。
地球か……、何もかもが懐かしい……。
ってか本気で懐かしいな。そういえば、なんか思い出さなければならないキーワードがあったような……。
気になったので、後を追って地球に行ったベジータさんたちを盗聴してたらドラゴンボールという言葉が出てきました。
おお! それだ!
たしか、ドラゴンボールは何でも願いをかなえてくれる奇蹟のアイテムだったよな。
あれを集めれば、これまでの活動で、うっかり命を奪ってしまってたり、守りきれなかった多くの命を蘇らせることができたはず。
よし、ザーボンさんドドリアさん。行きますよナメック星へ!
その後、フリーザ様の姿を見たものはいない……。
おまけ
ある日のギニュー特戦隊。
「ギニュー隊長ーっ!!」
「どうしたジース!!」
「フリーザ様が、軍の方針を変えるとかで、惑星を攻めて、そこの人間を皆殺しにする仕事はもうやらないそうです!!」
「なに!? では、我々は、これからどうなるのだ?」
「はい! ヒーローになれとのことです!」
「ヒーローだと!?」
「我々の助けを求める弱き者を救い、暴虐な異星人を倒す正義の味方になれとのことです」
「うおォォォォ! 正義の味方だと! カッコイイじゃないか!」
「ですよねー!」
「よし、これから正義の味方に相応しい、スペシャルファイティングポーズの練習をするぞーっ!!」
「「「「オオー!!」」」」
そんな彼らも、ナメック星で帰らぬ人となりました。
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蛇足
行方をくらませたサイヤ人たちは転生者や憑依者です。
彼らは、ある者は地球に行き悟空の仲間になり、ある者はナメック星に行き不死の肉体を欲し、ある者は他の戦闘力の高い異星人の元へ行き仲間を集い、ある者はスーパーサイヤ人を目指し修行に明け暮れました。
そして全員が、行った先でフリーザが、いかに倒すべき悪であるかを吹聴してまわったのです。
つまりは、そういうことです。
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この話はこれで完結しています。
続きを期待している方は、次からの話を読むことを、お勧めしません。