マシュー・バニングスの日常 第九十四話 マーくん、三佐待遇になったそうや。 それも鳴り物入りで表彰つきで彼がそうなるのは当然!って勢いで。 反対者ゼロ。関係者はもちろん上から下まで管理局中全員で大賛成して、そうしたって感じやったな。 医者は・・・トクやなあ・・・そらま分かるけどさ・・・医者を敵に回したい人なんておらへんし・・・ 例えばなのはちゃんとかって強力な魔導師、生来の天才であることは誰もが認めるけど、同時に、そうであることに隔意を持つ非魔導師系職員とかやっぱり一定おるねんな。 マーくんかて実は強力な魔導師なんやけど・・・そんなこと意識しとる人なんてほとんどおらへんわな、やっぱり医者やって皆、思っとるんや、同じ魔導師でも、敵を打ち倒す強力な砲撃が持ち味のなのはちゃん相手やったら普通の人はどっかでちょっと引いてまうやん、ところが治療専門の医者としての魔導師となると逆にそういう隔意は全然もたれへん、人間現金なもんやで。魔法はずるい魔力あるから有利なんは不公平やっていうんが本音の人でもやな、実際に怪我してそれを上手い治癒魔導師に治されればやっぱり魔法は素晴らしいって言い出すもんなんや。 私が佐官になるためにどんだけ苦労したか、そらもう無茶苦茶やで? 大体、私は古代ベルカ系の術式を使うベルカの騎士やし、それだけでも凄い少数派、近頃流行ってる近接戦重視型の近代ベルカ式魔法なんかとはほんまは全然違うからなぁ・・・ 管理局では当たり前やけどミッド式魔法の方が主流なんや、ベルカ式を使うってだけで微妙にマイナス修正食らったりするんやで? 今でもベルカ系の勢力は聖王教会中心に結構生き残っとるわけやしな、いやほんまんとこ次元世界全体の3割くらいは支配しとる勢いやから、そっちで生きろやってのが普通の意見なんやろけど、せやけど私はどうしても管理局でって事情が・・・ しかも闇の書の主やしな、それがバレたら本気で洒落ならん、せやからどっかコソコソせんとあかん部分があるんや。 私は元々、まずベルカ式魔法を教会である程度磨きながら、海の本局で特別捜査官として働いとった。そんでそれだけやと何も分からんと思ったから、上級キャリア試験を受けて、評議会直属の中央管理部に入れる上級管理官資格いうんも取った。せやけどなー・・・ そうやって上を目指してバリバリと頑張って頑張って頑張った末に、やっと得た今の階級まで。 あっというまに上がってきおったマーくん。少し本気出しただけで。 多分、彼のことやからこれ以上は簡単に上に行かへんかも知れへん、出世欲とかもともと大してないやろ。 でもそれは・・・彼がそうせえへんだけやな。マイナス補正だらけの私とは違う。 それだけでも微妙に複雑やったけどそれ以上に。 なんかな、実際問題、この前、マーくんが閲覧できる機密情報とかどのレベルになっとるんか少し調べようとしたんやけど。 管理局内のデータベースで、彼の個人的経歴とか、少し前まではある程度は見れてたのが。 全部、見れへんようになっとった。 彼に関する情報は全部機密みたいな扱い? 例えば私でもやな、闇の書の主やっていう情報とかプロテクトかけられてて一般局員が調べて知るのは無理やけど。 私個人の公的な経歴とかやったらある程度、見ることはできるもんなんや。 一定以上の階級の局員に義務付けられる情報公開いうんがあって。 それが彼の場合、いつの間にか全部機密に。 これは、あれやな、うん、はっきりいって。 私よりも既に上のレベルの待遇を、ほんまはされとる。特別扱いやな。 頑張って上に食い込もうとしとった私よりも。 彼の方が実は既に上に認められてる? もちろん彼は医務官、技官の一種なわけやから階級は待遇を表すだけで実際の指揮権命令権等は持ってへんわけやし、健康上の問題もあるから就いてる役職も名目上はどこでも誰かの部下って感じの地位なんやけど。 そういう形式的な問題とは別に、管理局という組織の中で実質的にどれだけ大切に・・・貴重品みたいな扱いされとるんかって程度で言えば明らかに・・・ほんまのところは「いつでもやめていいよ」的な扱いされとる私と比べたら・・・ まあそれは考えてもしゃあない。 実はマーくんて、どっかやっぱりアリサちゃんに似とるとこがあってナチュラルに偉そうやったりするし。 小柄であんまり迫力無い小娘の私と違って、上に行ったら行ったで平気な顔して周囲の人にも認められやすい押し出しがあって。 いや身長とか男性平均より少し高いくらいやし体は痩せ気味やけどな、普通に男性的やし基本冷静やし。 私も年相応とは言えへん出世をしとるし階級も高い、せやけど私が初対面の人に、簡単に階級相応の扱いをきちんと心からしてもらえるかと言うたら難しい、やっぱ最初は「なんだこんな小娘が」的な偏見もたれる、後から実力で黙らせる自信はあるしこれまでもそうしてきたけど・・・マーくんはそういうところで損せえへんねん、最初からバニングス家特有の堂々たる雰囲気を出せて・・・年上の人相手でもなめられへん、クロノ君より偉そうやと思う、しかも医者、研究者としての実力が伴っとるのもほんまやからそのままいける、つまるとこ私よりも自然に偉くなれるタイプなんやな。年功序列とか実は本気で気にしてへんみたい、感覚がどっかやっぱりアメリカ人? しかも最高評議会に気に入られるような研究をして上手く取り入ってるフシがある、そういうとこは妥協せえへんねんな、さらにミッドにも医師会みたいな組織あって、当然やけどマーくんもそれに所属しとる、医師会の政治力は凄い強い、当たり前やな海とか陸とか関係なく医者を敵にまわしたいアホはおらん、バックがベルカの私よりも、医師会の寵児であり医師会の政治力を背景にできるマーくんの方があらゆる意味で無茶苦茶有利やねん。医師会の中でも、海派、陸派、少数やけどベルカ派もおるらしいけど、マーくんは普通に主流派与党勢力の海派中央寄り、近頃コア治療技術の発展を武器にして一番勢いあるとこなんや、それもマーくんの影響大きいわけやけど! それやこれやで結局。 そうやな・・・今は私も中央管理部におるわけやけど所詮は外様で傍流扱い? ベルカの紐付き小娘やからな。 せやけどマーくんはちゃう、いきなり中央に来れるししかも特別扱いで本流に自然に入れる立場。 あ~ほんま、複雑や。 なにより複雑なんは、これは多分無理やって状態になってもうたから。 私の新部隊に・・・彼を呼ぶとかな。 うん絶対無理や。 古代遺失物管理部に、新たに特定のロストロギアの追跡確保を主な任務とする課を、実験部隊扱いで設立するって方針は。 既に大体固まっとるねん、これでなんとか設立まで持っていける思う。 そこに皆を呼ぶ予定、なのはちゃんにフェイトちゃんに私の騎士たちに。 そこの指揮官は私で、私は今は三佐、正式な設立までにもう少し・・・上げられるかな階級、難しいけど。 まあつまり新部隊の部隊長である私で、良くて二佐、このままなら三佐、そのレベルの部署なわけやから。 既に三佐待遇持っとって、さらにどちらかといえば純粋な医者、研究者に近くて。 しかも下手したらほんまは上から見たら、向こうの方がエライみたいな扱いちゃうんかという疑いのあるマーくんを。 私の部下として呼ぶとか? うんそれ無理、絶対無理。 そんな要望とか出したら「ふざけんな」て一蹴されて、さらに折角固まりかけてる新部隊の設立自体、怪しくなるかもしれへんわ。 元々、研究者に近い、高度な専門医って感じやからなあ、マーくん。 前線部隊に所属する軍医とか、向いてへんねん、それは分かっとったけど。 やっぱりマーくん呼ぶのは無理・・・か。 うんそれは分かっとったし、うんそれはそれでええやん。 下手に私の仕事に巻き込んだりとかしたくないしな。 あれ? 巻き込みたくない巻き込んだらあかんってあんなに自分に言い聞かせたはずやのになんで私はまたそんな思考を・・・ いつか一緒に仕事できたらとか思ったこともあるのもほんまやけどせやけどそんなこと考えたらあかんって! あかんなあ、ほんまに私ダメやなあ・・・ 理性で自分に言い聞かせてたつもりでも、感情がそれを裏切って勝手にまたマーくんをそばに引き寄せようとか・・・ あかん! 絶対あかん! マーくんとは一定の距離を置かんとあかんのや!! うんそれはええ、せやからそれは置いて・・・まずは、なのはちゃん、フェイトちゃんに・・・話を通しておかんとな。 前にも一回ざっと話したことはあったし同意もしてもらったけど細かい所を詰めてへんからな。 公的な通達の前に、プライベートで二人とじっくり話する時間を作らんと・・・ 二人の予定を確認、とかしとったら。 第四管理世界で紛争勃発。 しかも今度はなんや結構手こずっとるらしい。 妙な新兵器みたいな、もしくは逆に古代兵器みたいな? そんなもんを持ち出して結構な被害を管理局側に与えたとか。 ああ゛~~~勘弁してや、旧ベルカ強硬派が暴れたら、またミッドでベルカ系の人間が肩身狭くなるやんか・・・ 今回の紛争は少し大きい、多分裏がある、せやからお前、調べて来い、旧ベルカ系だからって贔屓とかしないよな? とか上司に嫌味まじりに呼びつけられて命令された。しかも並行して現場全体の査察もお前がやれ、つまり現場の艦隊の人達への目付けみたいな役もやれということやから・・・ふん、そういう目付け役は、見張られる方からしたら半分敵、艦隊所属の局員の協力を得られる可能性もすごい低いっちゅうことやな。 ・・・このくらいで私がへこむと思ったら大間違いやで。 この際ズバっと調べてビシっと決めて、また功績挙げたろうやないかい!☆ ☆ ☆ 人権を無視した、違法クローンによる人造魔導師計画。 私はそれだけは絶対に・・・許せない。私自身がそういう生まれで苦しんだからだろう、それは分かってる、でもきっとそれは私という人間の原体験、性格全てを形作ってる根源的なトラウマ、一生治らないと思うし、またそうであることが悪いとも思わない、私がその生まれゆえに苦しんだように、そういう生まれゆえに苦しみ死ぬ人たちも多い、そんな人たちを救うことこそ、私が救われたように、私も救うことこそが私の生きてる意味だと思うから。 だからその種の事件は何度も何度も、自分から志願して担当にしてもらって、解決してきた。 そうしているうちに少しずつ分かってきた事実。 人造魔導師の育成に使用されている技術は・・・少なくともその基礎となる部分は・・・ ある一人の違法研究者によって生み出されたらしい。 広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。 彼の違法な研究施設や、それに協力している組織、利用されてる工場などは管理世界、管理外世界に幅広く点在していて。 そして見つかったと思って行ってみてももう全ての証拠は隠滅済みで何も手がかりが無いという状態が続いてた。 彼につながる手掛かりがあるはずだと・・・実はかなり前から目星をつけていたのが第四管理世界「バドブルグ」。 でもそこはミッドと昔から仲が悪くて・・・政治的な理由で、管理局が捜査に入ることが出来なかった。 それを利用して隠れ蓑にして違法な研究等をしてるはずなのに! お願いします、捜査させて下さい! と頼んでも執務官統括部の上司は苦い顔。 海の執務官など向こうの人たちからすれば仇敵、命の保証は無いし、しかも捜査してることがバレたらそれが口実になってまた紛争が起きる、それで多くの人命が失われる可能性がある、お前はそれで失われる命に対して責任が取れるのか? といわれると・・・ 私としても反論出来なかった。 ところが! 私の捜査とは全く関係なく、いきなり紛争が起きた! うん、定期的に小競り合いを起こしてる場所だから、それも不思議は無いんだけど。 そこで私は再び上司に頼む。 既に紛争が起きてますよね? しかもなんだか今回は手こずってる、長引きそう! この機会に潜入捜査したいんです! 認めてもらえませんか! 上司はやっぱり苦い顔。 平時であればまだ捕虜にしてもらえるかも知れないが戦時となれば、見つかれば問答無用で殺される可能性が高い。 普段よりもむしろ危険、そんな任務をさせるわけには行かない・・・ 言ってることは分かるけど! でも平時もダメで、戦時もダメなら、つまり捜査は出来ないってこと? イヤだ、納得できない、違法クローン研究、違法な人造魔導師研究、それにつながる手掛かりがある場所なのに! その捜査が出来ないというのなら、フェイト・T・ハラオウンが執務官である意味が無い! 仕方ない。 使いたくない手だったけど・・・ 今でも管理局の裏表に強い政治力を持つ、後方勤務本部の総務統括官、リンディ母さんに泣きついた。 リンディ母さんも私の頼みに最初は苦い顔をしたけど・・・ 必死にお願いしたらなんとか分かってくれた。裏から手を回してくれると。 でも絶対に無茶はしないこと、必ず生きて帰ってくること、現場ではクロノと常に相談すること。 クロノに相談せず独断専行するようなら強制的に帰らせること。 色々約束させられたけど、でも! 私はついに念願の捜査が出来ることになった! ありがとうリンディ母さん! ごめんね・・・ でも私はどうしても。 違法な人造魔導師計画だけは・・・必ずこの手で・・・××年○月○△日「長引いてるらしいなぁ」「だね。でも前例を調べてみたら、第四世界での紛争、最長で半年くらい続いた例もあるみたいだよ」「平均では?」「2~3ヶ月くらいかな」「まだ2ヶ月・・・それならまだまだって可能性もあるか」「そうだね」 病院近くの喫茶店。平静に話し合うユーノと俺の男二人に対して。「でも心配だよ・・・フェイトちゃん、クロノ君・・・大丈夫かな」 高町の表情は暗い。 この一ヶ月、全く連絡とれないそうで、こんなことはじめてだと。 しかし任務なら仕方ないだろうと思いつつ。「クロノは大丈夫だろう。あいつが考えなしに無理をするとは思えん」「同感。それに過去の例でもクロノみたいな艦長クラスの高級士官が戦死したことは無いみたいだよ」「・・・でも、フェイトちゃんが・・・」 そこを突かれると俺たちの表情も暗くなる。 そうなんだよなフェイトさんは・・・正直心配だ。 長年追っていた違法クローン研究の手掛かりが第四世界にあるというしそれを求めて・・・ 場合によってはクロノの静止も聞かずに無茶をするのでは無いかと。 昔から彼女を知ってるがゆえにこそ心配になってしまう。そこは彼女の逆鱗なのだ。「まあ、でも・・・確実に第四世界にその証拠があるって保証があるわけでも無いし・・・」 俺のその場しのぎ的慰めに対して。「確かにね、それに今回の紛争は少しこれまでとは様相が違ってて、フェイトも無茶できないんじゃないかな?」 ユーノも同意する。それにさらにかぶせる。「そうだよな、そういえばなんだか珍しい兵器を向こうが持ち出してきたって?」「うん、基本的には一種の砲台みたいなものに過ぎないんだけどね。半分質量兵器入ってるのかな、今の管理世界では使用されてない強力な砲撃で、しかも射程も威力も凄いらしくてね。空からも陸からもまとまった戦力では近づけないらしいんだ。しかも大威力砲撃だけでなくて、個人の魔導師に対する狙撃システムも完備で手を焼いてるとか。つまり強力な複数主砲とそれを援護する砲群がセットになった防空網がね、いつの間にか出来ていて。射程は宇宙空間から地表まで自在で対処が実に難しいらしい。古代の総合防空システムがなんらかの理由でそれだけ蘇った感じ・・・なのかな?」「射程距離外の宇宙空間からアルカンシェルぶちこめば・・・」「旧ベルカ強硬派の住む星にアルカンシェル打ち込むのは無理だね。政治的に問題あり過ぎる」「あ~・・・なるほどな。手加減抜きの攻撃はできず、手加減しながらだと決着をつけられず、と」「そんな感じで膠着してるね。僕の所に調査依頼も来てね、少し調べたら分かったんだけど、古代ベルカの兵器らしい」「それは珍しい。これまでは見つかってなかったのか?」「いや発見自体は何十年も前の話なんだけどね、見つかった時から何をやってもウンともスンと言わず、そのまま錆付いて風化して埋もれてくとしか思えなかった代物で、どうして急に復活して稼動してるのかも謎なんだ。かなり古代のベルカの兵器なのは間違いないんだけど、ただロストロギアという程に強力なものでは無い・・・次元航行艦隊と打ち合いして膠着状態に持ち込めるほどのものだけど、それだけというか・・・射程外からアルカンシェル打ち込めれば実際にはすぐに終わりそうだし、まあそれは禁じ手だけど、そう強くも無いのは確かでね。兵器の技術進歩の観点から言って一世代か二世代前の最新兵器?って感じのものかなぁ」「アルカンシェルの発明実用化普及よりも前の時代のシロモノか・・・なのに意外と強いと」「ベルカだしねぇ。軍事的には昔から向こうのほうがミッドより上だったし」「うーん、どうなるのかなぁ」「大丈夫かなフェイトちゃんたち・・・」 心配そうな高町、それを見ながら俺たちは顔を見合わせて溜め息を付くしか出来なかった。(あとがき)・強制イベント。フェイトの危機。・必ずしもフェイトのフラグが強化されるとは限りません。・生きてたのでストック分だけでも出そうかなとか。