マシュー・バニングスの日常 第八十九話○○年△月○日 魔力中枢中核刺激の志願実験者への実施が始まった。 大体、一週間に一人で、十週間で何とかするという予定だ。 これは実はかなりのハードスケジュールである。主に俺の体力的に。 しかし俺にも色んな意味で時間制限があるのでなるべく早くしたいのでこのスケジュールとした。 多分大丈夫だと思うんだよな・・・ギリギリかもだけど。 そこで何とか頑張ってこなして・・・ んでまぁ、もったいぶっても始まらんので結論だけ言うと。 全員成功。 魔力出力にして5%~10%程度の向上が実現された。 全員の、魔力が、確かに、上がったわけだ。 大成功と言って良いだろ。 実際もの凄い評判になったし。 あっさり言ってるが実際には相当苦労もしたし疲労もたまりました。 しかし俺としては残念だったのだが、ギンガ・スバル姉妹については5%少し程度の向上しか見られず・・・ ぶっちゃけ向上率は一番低い二人ということになってしまった。 あ~やっぱりなんか柔軟性に欠けるみたいな? そういうのがあったのかな・・・ とにかく成功は成功、上の人からも凄く褒められたし。 地位階級とか、肝心の情報アクセス権限とかも向上の見込みである。 だが少し問題も。 ほぼ二ヵ月半の連続の実験。それに先立ち並行して実施してたコア精査。 さらに余りにも話題沸騰したので、取材の申し込みとか殺到して。 それへの対応も・・・やはり俺が顔出さなくては納得しないというマスコミ多くて。 実験だけなら・・・ギリギリ体力持ったと思うんだけどな・・・ 取材攻勢のがきつかった・・・それが計算外で・・・ 久しぶりに倒れました。体力の限界。 別に吐血したとかそういうのは無かったのだが。 食欲が減って、微熱が出て、体がふらついて、慢性的にだるくなり。 つまり風邪みたいな症状で、それが治らず収まらずって状態が続いたのだな。 過労による一時的な症状だろってのが俺の診断でもあり、ギルさんも同意してくれたが。 でも俺の場合は、大事をとったほうが良いということで。 一週間ばかりの入院に、一ヶ月ばかりの完全休養を申し渡されました。 助かった、なによりもマスコミを強制的に遮断してくれたのが何よりも助かった。 姉ちゃんには連絡したが、今回は単なる風邪みたいなもんだって何とか納得してもらえて・・・ 前みたいに付きっ切りで俺の病室に入り浸るということは無かった。 まあ姉ちゃんも近頃忙しくなってきたしね。 こうして一人静かに病室でゆっくり休むのも悪くない・・・慣れてるしな・・・zzz・・・ でもこういうときに、そばにいる人として夢見るのは・・・☆ ☆ ☆ 倒れたとは言っても大したこと無いという連絡網がまわってきたの。 どちらかといえばマスコミを完全に遮断するために少し大げさにしたらしいという話も。 でもしばらく仕事の方は完全休養するとのことなので、私はお見舞いに行くつもりだった。 アリサちゃんから、アメリカでの仕事があれこれ忙しくなってきたので病院に余り顔を出せないという連絡も来た。 アリサちゃんの意図は分かりやすい、つまり私に面倒みてほしいってことだと思う。 うん、それはいいよ? そのために有給休暇とるくらい今の私は・・・平気でしてしまうみたい。 それはいいとして、でもそれだけでいいのかな? 何か忘れてるような・・・何かがすっきりしない。 すっきりしないと思いながらも・・・ アリサちゃんからのメールが連続して来て、その内容は。【不公平になってはいけないと思ったので、すずかにも伝えた】 うん了解。 すぐ行こう、今すぐ行こう早く行こう。 有給取りますね、明日から。承認お願いします。突然すぎる? いつも有給取れって言ってるじゃないですか! それを取るって言ってるんです! いいですね? それでは失礼します! 一番乗り~♪ うふふ・・・すずかちゃんも連絡見てすぐこっちに向かってる可能性はあるけど。 地の利が私にはある! ミッドにいる以上、私が圧倒的有利なの! 余裕~って気持ちでマシュー君の病室を訪ねると・・・ ユーノ君とクロノ君が先に来てた! 偶然、時間が空いたし、一度、今評判の魔力増幅手術=中核刺激法について聞きたかったからとか言ってる・・・ 仕方なく私は3人のお茶とか入れたりするんだけど・・・ こうして男性3人の話を横から聞いてて新しく知った事実。なんでも普段からユーノ君とマシュー君は私的に連絡とりあうことも多くてだから中核刺激法についてもある程度は知っているんだけど、クロノ君の方はそれほど連絡とりあってないとか。そして将来的には管理局全体を背負って立つくらいの気概を持ってるクロノ君としては、この新たな技術が管理局全体に与えるインパクトはどの程度なのか、一度きちんと話を聞いておきたかったとか。熱心に質問するクロノ君、詳細に答えるマシュー君、二人ともデバイスから画面出して、互いに資料やデータを交換したりしながら凄く真剣に議論を続け・・・続け・・・続け・・・・・・ 気付けば既に夕食の時間に・・・ 一般のお見舞いの方はもうご遠慮してくださいと看護士さんが・・・ アリサちゃんみたいに本当の身内で無くては、これ以上残るのはダメだそうで・・・ 仕方なくその日は帰宅。 翌日また朝一でお見舞いに。 そして病室前で、すずかちゃんを発見。 すずかちゃんも同時に私を発見、にこりと笑って、一緒にお見舞いしましょうって。 何か複雑な気持ちでマシュー君の病室に入る。 久しぶりだね、倒れたって聞いて心配したよ?ってすずかちゃんはいつものペースでマシュー君に話しかける。 大したこと無いよって答えるマシュー君、そしてそのまま二人は午前中一杯・・・談笑を続けて・・・ 二人の間に漂う雰囲気はとても穏やか、うーん・・・昔は気にしてなかったんだけど・・・ 実はこの二人・・・自然に気が合ってる、性格が上手く噛みあうみたいなところがあるのかな・・・ マシュー君はゆったりとくつろいで、すずかちゃんは上手くそういう空気を作って・・・ 私が会話に入り込みにくいような・・・ 結局午前中は私は・・・ほとんど置物みたいな感じで・・・ 昼、マシュー君は病室で食事するとのことで、私とすずかちゃんは病院の近くのお店に入った。 すずかちゃんは余裕の表情で。「ふーん。少しは素直になったのかな? でもまだはっきりしてない感じ? それじゃあ勝負にならないかも?」 いつものような穏やかな笑顔でそう言う。 私も今の心境を正直に言う、好きかもしれないとは認めたけど分からないって。 それを聞いて少し呆れた感じのすずかちゃんは・・・「今はまだそれでよいかもしれないけど・・・私も、近い将来・・・機会をとらえて本格的に攻めるかもしれないよ? はやてちゃんがやっぱり・・・って思い直したら一瞬だろうし・・・もう少しきちんと気持ちをまとめておいたほうが良いよ。とりあえず私は、今日のところは無理せず帰るけど・・・なのはちゃんも後悔しないようにね・・・」 言葉通りにあっさり帰るすずかちゃん、なんだか肩透かしされたみたいに感じた私。 どこか複雑な気持ちでマシュー君の病室に再び入って見ると・・・ 昨日に引き続き、ユーノ君とクロノ君が! そして再び始まる、中核刺激法についての説明検討会議・・・ クロノ君はそれからも3日も通ってきて同じことを繰り返した・・・ 空気読んでよクロノ君! その話ってまた後でも出来る話じゃないの?! 魔導師平均ランクの上方修正がもたらす、陸士部隊充実の可能性、海が人材引き抜くのが容易になる可能性、いやそれをさらにやってしまうと対立が・・・だが折角余裕ができるのなら・・・お前が海の立場を優先するのは分かるがそれを続けていては・・・分かっているつもりなのだがそんなに陸は・・・やはり実際に病院勤務した経験から言わせてもらうと・・・云々 だんだん中核刺激法とは関係ない幅広い議論になってきてユーノ君が資料提出したりそれを元に3人が意見を交換したり。 もちろんアリサちゃんも何日かに一回は必ず顔を見せるし。 その他にもお見舞いに来る人、結構いるのに・・・ ほとんどの時間を占有したのはクロノ君だった・・・ あっという間に退院の日が来る。もともと形だけみたいな入院だったし・・・最後に少し健康診断して帰るんだって。 帰って休養、ただし問題はその場所、日本のバニングス邸か、アメリカの方か、どちらかは決めてないって・・・ 日本の方にしたら?って言おうかな、言うとしてどのタイミングで・・・とか私は暢気に考えてたんだけど。 ギルさんが顔を顰めて病室に入ってきて言う。「熱は下がってる、他の異常も見られないが・・・マシュー、体重が半年前より4キロも落ちてるぞ?」「あ~・・・やっぱりそうですか。近頃忙しかったですしね・・・」「お前は元々痩せ型だ、前から少し気にしてたんだが・・・この一週間の入院でも依然、減少傾向にある。良くないな」「病気では無いし、コア異常がぶり返したわけでもないと思いますけど?」「それはそうだ。しかしな・・・お前の場合は慎重に、いつも余裕を作っておいた方が良いから・・・」「家に帰ってからたくさん食べるようにしますよ」「ううむ・・・」 この会話を聞きながら、私は結構ショックを受けてた。 うん、言われてみたら気付く。改めてマシュー君の顔をまじまじと見ると確かに・・・前より少し痩せてる。 それに私・・・気付いてなかった。 そこで咄嗟に口を出してしまう。「私が注意して見ておきます! ご飯とかも作りますから!」 せっかく私がこう言ってるのに。「いや、高町にそこまでしてもらう理由とか無いし・・・」 マシュー君の返事は冷たい。正直少し傷ついた。「あ~・・・そうか今は高町さんが・・・・・・(八神さんなら安心なんだが)」 ギル先生の発言はもっとひどかった。後半部、小声で呟いてたけど聞こえたよ! うふふ・・・そこまで言われたら私も引き下がれないの! これでもお菓子とかお茶だけじゃなくて、料理全般について、お母さんから相当厳しく仕込まれてるんだよ! 昔はともかく今では、料理の腕前、技術的な面だけで言えば、はやてちゃんにも勝ってる自信はあるの。 とりあえず一緒に海鳴に帰ってきた私たち。 これから一ヶ月は、夕食は私が作りに行く!ってマシュー君に宣言。 マシュー君は、あぁ~いや~しかしだなぁ~とかうじゃうじゃ言ってたけど聞こえない!☆ ☆ ☆ マーくんがマスコミ対策で入院したそうや、それは知っとった。 そしてそれ以外のことも実は知っとった。 つまりな・・・マーくんは毎日サウロンで自動で健康チェックしてデータを私の方に送るってシステムを・・・忘れてたんか、故意にか知らんけど、今でも継続中やったんや。もうそれやめたほうがええやろって言うにしてもそれもちゃんと連絡して話し合いせんとあかんやん、それに送られてきても私が・・・見ぃへんようにしとけばええって思っとったんやけど。 かなりの強行スケジュールで中核刺激法の実験をこなしたいうこと。 数ヶ月間は、新たな魔力増幅手術の実用化に成功!って話がミッド全体で一番ホットなニュースになって。 マーくんはマスコミの取材に対応して相当忙しそうで・・・そしてテレビで顔見ると・・・なんか痩せて来たみたいに見えて。 一度、なんか痩せたみたいやって気付いてしまうと。 もう無理やった。 一度だけ、一度だけやから、サウロンから送られてくる体調データ見てみようって思ってもうて。 あかん、私と一緒やった時代は・・・なんだかんだで体重も身長も微増傾向が続いとったのに。 私と別れたときから体重は微減傾向に転じていて・・・ ここ半年、相当忙しかった時期になってかなりのペースで体重落ちてて。 これはなんとかせんとあかん、でもどうしようどうしようって。 心配で心配で。 折角、私が長年頑張って少しずつマーくんの体重増やしてきたのにこれでは・・・ またマーくんが昔みたいに病的に痩せ細って倒れたらどうしよう・・・ マーくんが倒れる悪夢とかみて泣きそうになって目覚めたりとかした。 なのはちゃんがなんとか対応してくれへんかなって少し思ったんやけど。 でもそれも私には・・・分かってしまっとる。 多分、今の段階ではまだなのはちゃんには無理やろう。 実際、なのはちゃんと、かなり接近したっていう、研究所襲撃事件以降なんやな・・・ マーくんの体重減少傾向が加速したんは。 もちろん同時期にハードな実験とかしとったわけやけど。 でもそれを近くで見とったはずの、なのはちゃんは何の対応も出来てへんかったわけや。 それもしゃあないんやろう、なのはちゃんは昔からマーくんに「面倒みられる」側やったんや。 私みたいに最初から「面倒見る」意識とか、多分全然無い。 そこの所から無理あんねん。 それでもどうしたらええんか迷っとった優柔不断な私やったんやけど。 最後の後押しになったんは、見ぃへんようにしとったマーくんからの私信のメール。 サウロンからの自動定期通信をな、昔に遡って一個ずつチェックしとったら偶然間違って開いてもうたんやけどな。【やっぱり好きだ、会いたい】 ってだけのシンプルな内容で、一瞬で読めてしまって、なんというか・・・直撃されてしまったいうか・・・ 気付いたら私は、既にアリサちゃんに連絡取って。 マーくんの体重減少傾向について説明して。 時間あるときに、ご飯を作りにいってええかってきいとった。 もちろんずっと一緒にいるとかは無理やけど。 料理作れるときに作って、それを宅配するくらいやったら。 なんとかなる思うから・・・ アリサちゃんは、しばらくは渋っとったんやけど。 マーくんの健康状態についての長期観測データを示されると納得してくれた。 特に・・・なのはちゃんと接近して以降に体重が減ってきたいうデータが・・・相当きいたらしい。「あ~・・・なるほどね・・・そっか、なのはだと・・・はぁ・・・そうなっちゃうわけか・・・ごめんなさいね、はやて。今さらこんなこといえた義理じゃ無いのかもしれないけど、私からお願いするわ、出来る限りでいいからそうしてくれる?」 アリサちゃんにとっての優先順位は明確。 マーくんが可能な限り健康であるようにする以上に重要なことなんて無い。 せやから私からの提案に結局は、そう答えてくれた。 私はそれから家におれる時間は出来る限りたくさんマーくんの好きな料理を作っておいて。 無理やりひねり出した20分とかの時間を使ってバニングス邸に配達して、配膳とかも注意して。 会う時間は無かったけど、とにかく可能な限り、彼に私の料理食べてもらって。 バニングス邸には、もちろん料理人さんがおるんやけど。 そしてその人らも昔から「若」の体調を考えた料理を作っとったそうやけど。 少しその人らの作った料理とか味見させてもらったら・・・なんというかレベル違って、ほんまにプロやったんやけど・・・ それでもなぜか。 マーくんは。 私の作った料理だけは絶対に残さず全部、食べてくれとったそうや。 料理人の人らも呆れとった。 「なんであんなに正確に分かるんでしょうね? 八神さんの味付けとか私たちも真似してみたりしてるんですが・・・」 って不思議がるくらいに。彼は私の作った品は完食、他は微妙に残したりしとったって。 アリサちゃんもその報告を聞いて・・・ 「あぁ~・・・やっぱりそういうことなのかな・・・そういうレベルで既に完全に・・・掌握されちゃってたわけね・・・」 諦めたみたいな口調でそう言っとった。 そうこうしてるうちにマーくんの体重も少しずつ戻って来たみたいや。 良かった・・・ せやけど・・・ ほんまマーくんは手ぇかかるわなぁ・・・やっぱり私がおらんとあかんのやろか・・・ 他の人の作った料理やとダメで、私が作ったらんとちゃんと食べへんとか・・・ もう、そんなことではあかんでマーくん・・・☆ ☆ ☆ バニングス邸には専属のコックさんたちがいるの。 だから私が料理作りに行くって言うのも、実際にはせいぜい週二くらいだったの。 コックさんたちとも話し合ってそのくらいに落ち着いたの。 でも私が頑張って作っても・・・マシュー君、ちゃんと全部食べてくれることは少なくて。 どうしても食べきれず残してしまうことが多くて。 コックさんたちに聞いたらそれが普通だって。 そして「若」に無理に食べさせようとしてもいけない、それでも倒れたことがあるって言ってた。 だから私は、今度こそマシュー君がペロリと全部食べてしまうような料理を作ろうって。 毎週、頑張ってたんだけど・・・ ある日、バニングス邸の大きな厨房の冷蔵庫の中に、なんだか家庭的な花柄の可愛いお鍋があるのを見つけた。 ここには場違いな感じ? 中身を見てみると、普通の素朴なお味噌汁。 なんだろうなって不思議に思って味見、うーん、これは本当に普通だ。 微妙に特徴はあるような気もするけど、とにかく普通。ここのコックさんが作った味じゃ無い・・・ でもどこかでこの味、知ってるような気がする・・・どこで食べたんだろう・・・ そのお味噌汁は私が次の日にまた確認すると完全に無くなってた。 そしてそれからも、実は結構・・・バニングス邸の厨房には似合わない庶民的なお鍋とかお皿とかタッパーとかに入れられた、素朴な家庭料理みたいのが・・・冷蔵庫の中にあることが多いって気付いて・・・ 見つけるたびに少しずつ味見して、そしてそのうち気付いてしまった。 そうだこれは、はやてちゃんの料理だ。私も昔は結構、食べたことがある。 そしてそれが今もここに配達されてきてる? そしてその料理は全部、あっという間に無くなってる。 二日と残っていたことが無い。 私が作ったのは結構、残されてしまったりするのに。 はやてちゃんの作った料理はすぐに無くなる。 いや、それはそれで・・・別に問題無くない? そうだよ、重要なのはマシュー君が元気になることなんだから。 はやてちゃんの料理で元気になるならそれで良いんだよ、うん、間違いない。 でもなぜか。 すっきりしないものを。 私は感じていた・・・かも知れない。(あとがき) 「はやて・なのは」方面に進んだ場合の固定イベント、「過労で入院」。 はやての作った料理なら全部食べられる、小さい頃からの積み重ねの圧倒的な強さ。胃袋を完全に支配してるはやて。 ちょっと近づいただけで絆の強さが明確になる・・・うーん、なのはが不利というよりは、はやてが強いということかな。