マシュー・バニングスの日常 第八十七話○○年×月△日 ユーノから連絡が来る。 「私はマシュー君が好きかもしれないの! ユーノ君はどう思う?」って正面から相談されたそうだ。 そう俺に伝えてきたユーノの声は・・・冥界の底から響いて来るかのような鬱々とした実に・・・暗い声であった。 ダメだ、やっぱり高町、分かってねー、鈍い所は変わってねー それとも、猛獣である高町には、草食系であるユーノの繊細な感情とか分からないのだろうか? 天性の強者ゆえの無自覚な無神経さみたいのがあるのかな・・・それは同時に天真爛漫で明るいということでもあるのだが。 で、ユーノに、それに対してどう答えたのかを聞いてみると・・・ 「そうなのかな? どうなんだろうね?」とか無内容な答えをするのが精一杯だったとか。 そして俺のほうはどうなってんだと温厚なユーノには珍しい半キレ声できかれたので正直に言う。 俺も「私はマシュー君が好きかもしれないの? どうなんだろう、本当にそうなのかな?」と正面から相談されたと・・・ それをきいたユーノ、深く深く溜め息をつき・・・ 「なにかが・・・違う・・・どこかが・・・ずれている・・・」 と呟く。 そして俺の方は、同時に、「でもはやてちゃんとの仲を応援するよ!」とも言われたことも伝えると。 「本当に分からない、なのはの気持ちってどうなってるんだろう・・・」と。 再び溜め息をつくしかなくなるユーノ。 ユーノは、管理局に流れた「俺と高町ができてる」説の噂話は、耳に入ってもカケラも気にしなかったそうなのだが。 そういう噂話が出て当然みたいな距離感だったから。でもそれは無いことは知っていたから。 だがこうして正面から高町に高町自身の気持ちの相談とかされるとさすがにへこむと。 再び「はっきりと告白するべきなのか・・・それしかないのか・・・だがそれをしても通じるのか?」と悩みだすユーノ。 うーん俺も良く分からんよ。高町はどこか・・・常人離れしていて掴めない部分があるんだよなぁ・・・ だが安心してくれ、俺は八神を嫁にする気だし、それは高町も知ってて応援するといってるし。 別に状況が悪化したということもないと思うのだがどうだろう? ユーノの苦悶の時はまだまだ続きそうであった・・・○○年×月△○日 エイミィさん妊娠のニュースが入る。めでたいめでたい。 それが分かった日、軽くお祝いみたいのをするので来れる人は来てくれと連絡網が廻ってきた。 こういう臨時の話になると・・・ほぼ百発百中で八神は来れない。 ドイツ在住の月村さんも無理。 姉ちゃんも仕事とかぶって無理。 ユーノも同様。 そういうわけで海鳴のハラオウン家に顔を出せたのは、高町と俺だけ。フェイトさんも今日は帰って来れたけど。 エイミィさんを囲んでキャッキャとはしゃぎ、お腹を触らせてもらったりしてる高町やフェイトさん。 そして初孫に実は一番興奮してるリンディさん。 俺とクロノはそれを見ながらボソボソとダベる。「順調に行けば、来年にはお前も父親か・・・」「正直実感無いんだがな。」「だろうなぁ・・・しかしガキの頃から知ってるクロノが父親になるとか・・・時の流れを感じるなぁ」「なに、お前もすぐだろう。・・・相手が誰になるかは知らんが・・・」 夕食はちょっと豪華なのをリンディさんが腕を振るって作ってくれた。 エイミィさんは幸い今の所は悪阻など余り無いそうで。 食事の準備が出来たからとエイミィさんのそばにいって気遣いながら彼女を連れてくるクロノは既に父親の風格が・・・ 結婚して、妻が妊娠、そしてそれを本当に喜んでいて関係者みんな幸せそう・・・ うーん、いいなぁ・・・ 暖かな気持ちでこの光景を眺めていたのだが夕食中。 エイミィさんから爆弾発言が。「マシュー君、前に送った画像、気に入った?」 口の中のものを噴出しそうになった。なんとかこらえる。平静を取り繕い・・・「ありがとうございました。助かりました、ハイ」 とか、あたかも仕事上のデータを廻してもらったみたいな方向に誤魔化せないかと・・・「画像ってなんだ?」 クロノが尋ねる。むむ、本当に全然知らない雰囲気。 その質問を待っていた! とエイミィさんはニヤリと笑い。「マシュー君がね~フェイトちゃんの可愛い写真が欲しいっていうから送ってあげたんだよ~♪」「ちょ! ちょっと待ってくださいそれは少しちが」 否定しようとして詰まる。 前にもらったフェイトさん画像集・・・なぜか、まったくなぜだか俺にも不明な理由によって・・・ まだ消去されていない! 俺の部屋のPCの奥深くに残存している・・・! 画像をもらってから既に数ヶ月経過している、消去してないのを見られたら言い訳の余地が無い! しかしあれは三重のプロテクトをかけてあり他者が見るのは不可能のはず・・・ いくら情報処理が専門のエイミィさんでも俺が今でも持ってるとか分かるわけが無い! よしシラを切ろう。「確かにそういうのをいきなり送られたことはありますけど・・・正直何のためだか良く分からなかったので消しちゃいましたよ」「へ~、本当に?」「本当です。」「それじゃあデバイスのメール履歴とか見せてもらって良いかな?」「どうぞ。何も無いですよ?」「ふふ~ん♪」 デバイス内部の画像については念入りに消去してる、プログラム再生ソフトとか使っても絶対復活しない、大丈夫! しかしエイミィさんがちょちょっとサウロンから出てるディスプレイを操作すると・・・ なんと満面の笑みを浮かべたフェイトさんのアップの画像が! 何か本当に嬉しいことがあったのだろう、無垢で純粋でそれを見た男は誰もが一目で恋に落ちてしまいそうな。 優しく微笑むくらいの表情は良く見せるフェイトさんだが、こういう全開の笑顔とかめったに無いその瞬間を捉えた貴重な一枚! しかしだ。 送られた、けしからん画像集の中にはこんな一枚は無かった! 不本意だが何度も全部チェックしたのだ・・・確かに無かったと断言できる!「ほらあった~♪ ほらほら見てごらんフェイトちゃん、こんな笑顔のフェイトちゃんの写真をマシュー君てば大切に保存して~」 な・・・なぜだ・・・メールはすぐにデータごと転送したはずなのに・・・ メモリー保存領域に・・・どうやったのか分からないが直接送り込んでいた? しかも俺が気付かないような場所に・・・! なんて高度な・・・無駄に高度なテクニック・・・! 元凄腕情報士官エイミィさん恐るべし・・・! 俺がフェイトさんの満面の笑顔の写真を保存して隠していたと皆さんに思われてしまい。 フェイトさん真っ赤。うつむいてチラチラこちらを見たりして、いかんやばいそんな萌え120%の視線で見ないでくれー! クロノは「そうだったのか、うんうん、祝福するとも」と、とぼけたセリフを・・・ リンディさんも、あらあらそういうことになってたの? とにこやかな笑顔でこちらを見るし・・・ だが高町からの冷え切った視線にぶつかってこっちも冷静になれた。 とにかく誤解だ誤解だと繰り返し続け、食事が終わり、すると高町、速攻で帰宅するのでと言い出し。 俺も帰りますね本日は本当におめでとうございました、でもエイミィさん覚えてろよ!っと捨て台詞を残して後を追う。 あ~なんかフェイトさんにフォローしとかなきゃ不味い気もするがそれはまた今度にしとこう・・・ 今はまず高町を・・・ ずんずんと無言で先を歩く高町、ついていって話しかけようとする俺。 だが無言のまま・・・歩いて来たにしてはかなりの速さで高町家に到着してしまい。 そのまま俺を無視して家の中に入ろうとした高町だったが。「ちょっと待ってくれ。とにかくなにか誤解が・・・」 という俺からの言葉を聞いた途端、凄い勢いでこちらを振り向いて。「はやてちゃんが好きなんじゃなかったの!? なのにどうしてフェイトちゃんの写真を欲しがったりするの!」「だからそれは誤解、本当はエイミィさんが何を考えたか悪戯みたいな感じで送ってきた写真なんであって」「でも消去もせずに残してたんでしょう? その事実は変わらないんじゃない?」「あ~・・・うぅ・・・」「はやてちゃん一筋みたいなこと何度も言っておいて本当は・・・浮気者!」「待てよ、ただ写真を持ってただけでなんで浮気者? ほら例えばアイドル写真集みたいの買ったとしてもそれとこれとは別で・・・」「好きなアイドルの写真とかじゃなくて、身近なフェイトちゃんの写真じゃない! 全然違うよ!」「いやフェイトさんは下手なアイドルより可愛いだろう・・・あくまでそれで消せなかったわけで他意は・・・」「可愛い女の子の写真であれば誰でも良いわけ? なんなのマシュー君ってそんな節操なしだったんだ!」「だから写真はあくまで写真であって、そこに深い意味とかは無いのであって」「でも結局は、たまにあのフェイトちゃんの笑顔の写真を見てニヤニヤしたりしてたんでしょう!」「それは違う、だからだなぁ・・・」「なんなの!」 白熱した言い合いは延々と続きそうな雰囲気だったのだが。「あの~・・・お二人さん?」 いきなり高町家の門が開いて、美由希さん登場。「母屋まで普通に聞こえてきたよ? 多分ご近所さんにも響き渡ってる・・・ここで大声のケンカはやめたほうが良いよ?」 言われて真っ赤になる高町、踵を返して家に向かって小走りに。 引きとめようと声をかける俺。「おいちょっと待ってくれ、とにかく・・・」「知らない! 帰って!」 言いながら家に駆け込んでしまう。 ダメだ話にならん・・・俺は軽く溜め息をつき。「ああ~~・・・すいません、お騒がせしました・・・帰りますね・・・」 美由希さんに挨拶して、仕方なく帰ることにした。「うんうん、今はちょっとお互い頭冷やしたほうが良いね。それじゃマシュー君、またね~」☆ ☆ ☆ マシューが帰った後の高町家リビングで。「それで母さん、何があったのか、なのはから聞き出せた?」「それがね美由希・・・マシュー君がフェイトちゃんの可愛い笑顔の写真を持ってたことが判明したんだって」「へ~それで?」「それだけ」「え? それでマシュー君が実はフェイトちゃんを好きかもって話が出たとかは?」「なし」「実際に既にフェイトちゃんとデートしてたとかの浮気的実績は?」「なし」「本当にただ単に写真持ってただけ?」「そうみたいね~そしてそれだけであんなに怒って・・・」「意外と・・・なのはって嫉妬深いのかな?」「そうなのかしらね・・・サッパリした子だと思ってたんだけど意外と・・・」 そんな会話をしていた所に、風呂上がりのなのはが通りすがり二人の会話を聞きつけ吠える。「違うの! だってあの写真のフェイトちゃん凄く良い笑顔で・・・本当に華みたいな満面の・・・そんな写真を隠し持って、きっとたまに眺めてはニヤニヤしてたんだろうマシュー君の変態性が許せないだけなの! いい写真だったからとか、好きなアイドルの写真を持ってても悪くないだろう似たようなもんだとか! 聞き苦しい言い訳するのも許せないの!」 言うだけ言って自分の部屋に戻るなのは。 バタン! と大きな音をたてて、なのはの部屋のドアが閉まる音を聞いた後。「写真一枚も許せないんだ・・・母さんもそうだった?」「う~ん、私にはそういう経験無いわね。誰に似たのかしら・・・」 などと言いつつ二人は顔を見合わせ肩を竦めた。 自室でしばらく枕をボスボス殴って腹立ちを宥めつつ、なのはは思った。 本当にマシュー君はダメダメなの! そんなふうに浮気者だから、はやてちゃんに逃げられたに違いないの! あんなに可愛く写ってるフェイトちゃんの画像を隠し持ってるなんて・・・ はやてちゃんにバレたらまたきっとややこしいことになるの! そんなことにならないように私が手伝ってあげなきゃダメかも? どうしたらいいんだろう・・・ そうだ! 木を隠すなら森の中ということわざがあった。 私の笑顔の写真とかも持ってれば、紛れてセーフになるかもしれないの! 本当にマシュー君は仕方ないんだから・・・ 私が可愛く笑ってる写真も送ってあげるとするの。 消したら撃つって書いとけばきっと大丈夫! 全く、どうせ見てニヤニヤするんだったら、知られたら危なそうなフェイトちゃんじゃなくて・・・ 純然たる友達である私の写真を見とけばいいの。 うん、わたし、まちがってない! 怒りながらニマニマ笑うという不思議な表情で、なのははレイジングハートによるセルフ撮影会を始めた。 ちなみに今の彼女の姿は、風呂上り、薄いパジャマ姿、少し湿り気が残ってる髪は下ろしてる状態。 そんな自分自身を、あらゆるアングルから、重要なことなので繰り返すが、あらゆるアングルから撮影した画像を・・・ 撮った端からマシューのデバイス宛てに送信しまくるなのは。 しかもそれはその夜だけの話では無く・・・ その後も折々に自分が可愛く写ってる画像を送りまくるなのは。 基本、男性に対して無防備である傾向は直ってないので、様々な・・・実に様々な写真を送ってしまうなのは。 送られて、ついつい出来心で編集保存してしまったマシュー。 勢いで、我ながら「ちょっと危ないかも」と後になって思うような写真を大量に送ってしまったなのは。 後年、思い切り後悔することとなったのが、どちらであったのかは謎である。(あとがき) フェイトの「最高の一枚」ゲット。フェイト好感度、クロノ友好度による。フェイトの次イベント発生するだけの好感度はある状態。 なのは写真集をゲット。前回の「好き・・・かも?」を見てれば強制。写真全削除したら後でランダムで強制入院イベントが来るw 少し、幕間的な話をして、それからキャロ保護に進む予定。フェイトさんのフォローはそこですることになるのかな。