マシュー・バニングスの日常 第八十四話 ガジェットは刻一刻と数を増やしている。 うーん、こいつらの侵入経路は下水道かな・・・ そこ狙って、高町の砲撃を俺が転送して潰せば、これ以上数が増えることは無いだろな。 その上で、あとはコツコツと潰していくか? しかし今のところ、ガジェットの群れはひたすらうじゃうじゃと集まるばかりで研究所の敷地内に入ろうとするそぶりも見せん。 敷地内の警備部隊とにらみ合い状態、でも、それに抑止されてるって感じでも無いんだよな、悪いけど。 あの数で一気に来たら、おそらく警備部隊程度の戦力では持ちこたえられない。 それは既に十分くらい前から? 数的にはそういう状態だった。 なのにさらに戦力追加されるばかりで、ひたすら、にらみ合いの維持。「分からんな・・・何が目的だ? この研究所に何かあるのか?」「心当たりとか無いの?」「いや・・・ロストロギア研究棟とかさ、何があるのか俺も隅々まで知ってるわけでも無いし・・・何かあるのかも知れんが・・・」「もしかしたら『レリック』があるのかも・・・」「レリック?」「うん、そういう名前の結晶状のロストロギアで・・・ガジェット絡みの事件は大体、レリック絡みでもあって・・・ただ、その両者の因果関係とかは良く分かってないんだけど・・・」「しかしそれがあるとしてもおかしくないか? それを奪うのが目的なら・・・なんで侵入してこない?」「それは・・・良く分からないんだけど・・・」「うーん・・・」 分からないときはとりあえず情報収集だな。 もう一度探査。 しかし先ほど見えた、当研究所から出て行ったところらしいトラックがどうも気になるのでまずはそちらから。 集中してそちらにサーチャーを多数(俺の場合は一度に数十単位で)送り込む。 うーん探査魔法的に「見えない」範囲に完全にトラックが入ってしまった? 既に市街地から数百M程度離れて、野中の一本道みたいなハイウェイ部分に「見えない」領域が・・・ ああ~これは見てても無駄かな・・・ AMF範囲外くらいに転移して行けば視認できるので何が起こってるのか分かるんだろが。 しかし俺が勝手に動くと、責任取らされるのがまず高町であり、またここの警備の人たちであり・・・ そういうマネはできんわな。 あきらめようかと思ったそのとき。 急に、AMF範囲外、「見える」範囲に、ゴツいスーツケースみたいなのが? ゴロゴロとかなりの勢いで転がって出て来た。 そのままAMF範囲外に30mほど転がり出て、そこで止まる。 そしてそれを追ってAMF範囲内から、一人の女性がケースに駆け寄る。 どっかで見たかな・・・って! あいつ! 前にエリオ君搬送中に襲ってきた武闘派の女だ! その女がそのまま駆け寄ってケースを手にしようとしてるのを見た俺は。 咄嗟にその周辺のサーチャーをその周囲に集中、座標の正確な特定、目標物の質量形状容積なども正確に計測! 転送術式発動! 遠距離でサーチャーを介した間接転送だから時間はかかるがそれでも俺の場合はほんの2秒程で可能! 転送の魔方陣が出るのをみて焦ったらしい女が手を伸ばして今にも届きそうになったタイミングで! ブンっと音がして完全に転送成功、俺の研究室の机上にそのケースが現れる。 目の前でケースを奪われた例の女は。 周囲を見回し、どこにいったかわからず、悔しそうな顔して地団太踏んでいるww ふははははは。ざまぁwww この前、好き勝手やってくれたリベンジ成功! ユカイな気持ちで探査を切る。ふん、どこから見られてたかも分かるまい。 俺のサーチは異常に魔力密度が薄いからな。 そうと知ってて意図的に逆探知せねば見つからん、現状それはシャマルさんくらいしか不可能だ。「このケースは!」 高町の声に、俺も改めて机上のケースを見る。「なんだか怪しいやつが奪おうとしてたみたいだから取りあえず持ってきた。なんだろこれ?」「遠距離で間接の対象特定転送・・・また腕、上がってない?」「うむ。精進してるからな。ところでこれは? 心当たりある?」「開けてみないと断言できないけど・・・多分これレリックケースだよ」「ほほう。噂のレリックか。うーん、さてどうするかなこれ」「え? 普通に返すべき部署に返却すれば良いんじゃないの?」「その際、俺が勝手に取り返したとか人に知られるとなー。色々面倒だ、とりあえず怪しいやつにさえ渡らなければ良いから・・・」「どうする気?」「・・・あのガジェットの群れが掃討されて残骸だらけになったタイミングで、そっとその片隅にまた転送しよう。そうすれば自然に現場検証の人たちが見つけるだろうし、そうなれば然るべき筋に返却されるだろー」「うーん・・・いいのかなそれで・・・」「陸士部隊に渡れば、そっからまた陸の古代遺失物管理課とかに行くだろ、それで問題ないと思うぞ。これを奪おうとしてた怪しい連中のいた現場は・・・少し遠いから不安だしな、まああいつらがいなくなってAMF解除されて現場の状況が分かったら、どこかその近くに紛れ込ませてそっと置いておくという手もありかな。」「えぇ~・・・でもさ・・・」 とかなんとか高町が言おうとしたとき。 再び、ウゥ~ウゥ~って五月蝿いサイレンの音が。 今度は何だ?☆ ☆ ☆ 都市部を抜けて、周囲に道路以外なくなり、さらに丘と藪の陰になって都市側から見えにくい場所に目標の運送車両が来た時点で。 牽引してる後部貨物コンテナのタイヤを狙って攻撃。 後部のタイヤを両方破壊され、後ろ半分を路上に引きずり強制的に停止させられるトラック。 護衛も同乗してるはずだが、多くて十人程度。 AMF下で、不意打ちなら、平均的陸士くらい何人いても、戦闘機人の中でも前線戦闘に特化してるトーレの敵では無い。 貨物コンテナ後端の扉を破壊、中から護衛が飛び出してくるがほとんど一瞬で全員片付ける。 別に殺すつもりは無いが死んでも構わない程度の攻撃で。さらに運転手も眠らせて。 目標のレリックケースはすぐ分かる位置にあり、それを確保、と。 後はこれをセインに渡して、さらに私も撤退すれば終わり、実に簡単な仕事だ。 気を抜いたそのとき。 いきなりトラックの魔力燃料タンクが爆発した! それに煽られて、レリックケースを手放してしまう、ゴロゴロと転がってAMF範囲内から出てしまった。 私は無傷。完全に防御した。 これはイレギュラー、燃料タンクに引火とか簡単にするものではないのに。 しかしこういう事故に車があったとき、そういうことが絶対に起こらないかといえばやはり起こることもあるという程度の不運。 爆発に巻き込まれて、私が叩きのめした連中のうち何人か・・・助かるはずの者が助からなくなった可能性はあるが。 そこまで気にする必要性が、私には無い。 転がって、止まったレリックケースに駆け寄って・・・ え? これはミッド式の転送陣?! 近くに魔導師が? しまった気付かなかった! 油断・・・!!! 焦りながらも全速でケースに手を伸ばしたが届かず・・・! 持って行かれてしまった・・・!! っく! どこだ? どこから見ている? どこに転送した? ダメだ、私は戦闘特化タイプで・・・こういうときの索敵とかほとんど出来ない。 だがそれほど遠くに転送できたわけが無いということだけは分かる、緊急に対応して転送しただけのはずだから・・・ 探せば近くに術者が隠れているはずなのだが・・・しかし当ても無く探して見つかるわけも無い・・・どうしたものか。 とりあえず全体の情報を集めて指示する役も兼ねてるクアットロに緊急で連絡を入れよう・・・ トーレ姉様からの連絡を受けて情報を分析。 ・・・それは普通の転送魔法では無い。展開された術式自体は普通のミッド魔法の改良版程度だったけど。 展開速度が違うし、周囲に全く術者の影も形も無い位置から見事にケースだけ特定して転送した点などから・・・ 実験して改良中とかの開発中の魔法? 何にしても普通ではなく・・・ そういう魔法が存在し得る場所は? やはりレリックが先ほどまで存在していた研究所しか無い。そこから運ばれてきたレリックを奪おうとしたのだから、それに対して逆襲して奪い返そうとする動機があるのはそこしかない。 もちろん全然別の第三者が介入した可能性とかもあるけど・・・今の場合はそこまで考えても仕方ないだろう。 レリックを奪い返した者達は、結構広い研究所内のどこにいるか? それは正確にはわからないけど・・・少なくともロストロギア研究関係の人間であることだけは間違いないのだから。 そこを制圧すれば手がかりくらいは見つかるだろう。 研究所周辺のガジェット群、こちらから攻め込むつもりはなかったんだけど・・・ この際、仕方ない。 攻撃目標、ロストロギア研究棟、制圧し情報収集しレリックを、最低でも手がかりくらいは掴む! クアットロは実際の任務に当たると結構視野が狭くなり、目的達成以外のことは考えなくなるタイプだった・・・☆ ☆ ☆ まずい! いきなりガジェット群が研究所敷地内への侵入を開始!? これは・・・もしかして、レリック奪われたことへの報復とか? こちらから何もしなければ向こうも何もしなさそうな、にらみ合いが続く雰囲気だったのを・・・ その微妙な均衡を破ってしまう一石を・・・俺が投じてしまった? まずい、実にまずい、責任を感じる。 俺は立ち上がり、研究室の窓を全開に、今の雰囲気に合わない快晴の空が目にまぶしい、そちらを指差しながら。「高町! その窓から空に向かって! まずお前の最大砲撃一発派手なの撃ってくれ!」「・・・本気で撃つと窓が壊れるかも?」「かまわん、頼む!」「了解」 こういうとき高町は、任務に従って俺の安全を確保するだけでよいという考え方をしない。 助ける力がある、助けられる方法がある、だったら助けるべきだという彼女の信念は揺るがない。 さっきから本当は研究所の防衛部隊に援護したくてたまらなかったんだよな、だから話が早い。 レイジングハート展開、カートリッジ装填、そこから魔力を溜めて溜めて・・・「行くよマシュー君、うまくあわせてよ!」「誰に言ってる、早く撃て!」 両足をしっかり踏みしめ、姿勢を整え、複雑な意匠の紅い杖の先端に集束した魔力を一気に解き放つ!「スターライト・ブレイカー!」「砲撃・・・転送!」 うぬ・・・こらーきついな、前にやったときよりも威力も速度も上がっててギリギリだった。 高町の撃ち出した桜色の光は、窓にヒビを入れながら、何も無い空に向かって飛んで行こうとしたところで、俺の転送陣に突入して全く別の場所に転送される。具体的には、ガジェット群の侵入経路となってる下水道の縦穴部分を上から斜めに貫く軌道にいきなり出現、地上の数体、縦穴内部の十数体、さらに下水道内部の十数体を吹き飛ばし、さらに縦穴から下水道にかけてのかなりの部分の地盤に衝撃を与えて崩落を起こし十数メートルにわたって土砂で埋め尽くし、通路を遮断する。 ガジェット達が展開してるAMFなどものともしない集束砲・・・エースの名前は伊達じゃ無い。「侵入経路の遮断に成功したが・・・念のためだ、さっきのほど強くなくて良いが3発ほど頼む。」「うん分かった・・・・・・ディバイン・バスター!」 3発連続で撃たれた砲撃を連続で転送し、縦穴付近を角度を変えながら掃射、周辺のガジェットを吹き飛ばしながら通路を完全に遮断。 ここまではいい、あとはどうするべきかと探査魔法を発動。「・・・っち! AMFで覆われてて一体一体の位置が正確には『見えない』。誘導弾を出してもらってそれを動かしてピンポイントに倒していくのは難しいか・・・味方の警備部隊に当たらない位置と角度を計算しながら水平掃射を連続が一番効率良いかな・・・味方を巻き込まないようにするのが難しい、慎重に行く・・・よし、まず一発撃ってくれ。」「了解、いくよ!」 味方の警備部隊に間違っても当たらない位置から水平にガジェット群を薙ぎ払う位置に高町の砲撃を転送。 貫通力が並で無いので角度を間違わなければ・・・一発で十体近くに損傷を与えてるようだ・・・そのうち全損して機能停止してるのはせいぜい数体かも知れないが、見えない位置からいきなり飛んでくる砲撃に敵は防御も回避もするヒマが無く、指揮系統が混乱しつつあるようにも見える。もっとも味方もどこからの援護かといぶかしく思ってるようだが。 さらにそこから慎重に一発ずつ、高町に撃ってもらい、転送しというのを繰り返し。 十発ほど撃ち終わり、敵ガジェット群の10%ほどが機能停止、30%ほども中破程度の損傷が行ったかなというくらいに。 なったとき、また戦況が変わる。☆ ☆ ☆ 何がどうなっているの! この研究所が・・・こんなに凄い防衛能力を持ってるなんて事前情報に無かった! 一体なんなの! あのいきなり飛んでくる砲撃は! 術者の位置が全く見えない、ただいきなり絶妙な位置から絶妙な角度で打ち出されてきてガジェットは何も出来ずに倒される。 陸士部隊が来る前にカタをつけるだけの戦力差があったはずなのに・・・逆にこのままではその前にこちらが全滅しかねない。 ここは撤退するべきだろうか。 レリックを奪い返せないのは痛いが、元々この研究所敷地内への攻撃というのも、なるべくしない方向でと事前に言われていたし、その理由はドクターの気に入ってる研究者がいるからという理由だったはずだけど実はそれも単なる建前で・・・実際にはこういうふうにそう簡単には攻め落とせないだけの防衛力を持っていたから? いやそれならそうと教えられていたはずだし調査した限りでも、普通程度の警備が敷かれている以上に特徴など無かったはずなのに・・・ 考えているうちに二件の報告が連続して入ってくる。fromチンク【通信中継所は予定数の破壊を完了。予定通り、今から研究所周辺のガジェット群に合流する】fromドゥーエ【目的データを発見。通信準備完了。受信OK?】 ドゥーエの方には速攻でOKと返事するだけで良いので問題ない。コア形成術のデータ奪取というこちらの目的は上手くいきそうだ。 しかし問題はチンクの方。今から既に半壊しつつあるガジェット部隊に合流させても・・・意味があるだろうか? チンクが来れば研究所を確実に落とせるか? いやそれも困難だろう。彼女も近距離から中距離の戦闘タイプで・・・どこから撃って来てるのか全く分からない強力な砲撃という当面の敵相手に有効だとは思えない。 レリックを奪われて手持ち無沙汰なトーレ・セインを併せても・・・トーレは接近戦タイプだし、セインはそもそも戦闘タイプでは無く特殊な移動スキルを持つのが取り得の補助型・・・索敵が得意なのはむしろクアットロ自身なのだが、自分はデータの確実な受信と保存、さらに全体の情報管制と指揮、ガジェット群の統御も同時に行わねばならず・・・とても前線に出て索敵までしてるヒマが無い。 ガジェット群の侵入経路が壊されたのも痛い。もちろんその場合の他の侵入・撤退経路の想定もしているが、そこは当然少し遠くて、またそこを使うとバレたらピンポイントで狙われるだろう、最悪通路の全てがふさがれれば・・・チンクの退路がなくなるかも知れない、消耗品であるガジェットと違い、強力な戦闘機人であるチンクたちは使い捨てになど出来ない、リスクが高すぎる。 しかし迷った。こういった派手な作戦行動は久しぶりで、しかも前線部隊の指揮権を委ねられたのも初めてで、どうしても成功したかったのだ。ここで何の成果も挙げずに撤退するわけには・・・ 迷うクアットロの元に再びメールが。 それが彼女から迷いを消した。from Doctor【研究所への侵入は避けろ。重ねて『上』から命じられた】 ・・・ならば、仕方ない。命令に従う。 ここからは撤退作戦と行こう。 一区画ほど離れた位置にある下水道の入り口、経路の第二候補目掛けて動くようガジェット群全体に指示。 同時に、チンク、トーレ、セインにも撤退指示。 身軽な3人ならすぐに撤退できるだろう、ガジェットの撤退は狭い通路を使うので手間取るだろうがそれで良い、囮だ。 撤退指示を出してすぐに、本局病院データバンクからのデータのロードが終わる、幸先が良い。 ロード完了をドゥーエに連絡、彼女も迅速に撤退に移る。彼女は外面偽装・潜入工作のプロ、バニングス医師が相手でもなければまず見抜かれるということは無い。証拠隠滅も抜かりが無いだろう。 レリックがどこに行ったのかは分からなかったけど・・・目的の半分を達成できたのだから完全な失敗でも無い、か・・・ クアットロは軽く溜め息をついた。(あとがき) トーレの好感度が下がった! クアットロの好感度が凄く下がった! でもまだ隠しパラメータの段階だし気にしないで良い。 ミニゲーム「ガジェットシューティング」。制限時間内に一定基準をクリアするのがアリサルート開放の条件の一つだったりとかw これは事後処理のほうが手間取りそうですね。そもそもこれは勝ちと言えるのか?