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No.7000の一覧
[0] マシュー・バニングスの日常[ごう](2010/03/17 21:46)
[1] マシュー・バニングスの日常  第一話[ごう](2009/03/16 04:17)
[2] マシュー・バニングスの日常  第二話[ごう](2009/03/16 04:35)
[3] マシュー・バニングスの日常  第三話[ごう](2009/03/16 04:41)
[4] マシュー・バニングスの日常  第四話[ごう](2009/03/16 04:42)
[5] マシュー・バニングスの日常  第五話[ごう](2009/03/16 05:09)
[6] マシュー・バニングスの日常  第六話[ごう](2009/03/03 09:13)
[7] マシュー・バニングスの日常  第七話(無印編・完)[ごう](2009/03/16 04:37)
[8] マシュー・バニングスの日常  第八話  幕間[ごう](2009/03/16 04:39)
[9] マシュー・バニングスの日常  第九話  入院日記[ごう](2009/03/04 09:45)
[10] マシュー・バニングスの日常  第十話  A’s突入[ごう](2009/03/05 08:56)
[11] マシュー・バニングスの日常  第十一話[ごう](2009/03/06 08:43)
[12] マシュー・バニングスの日常  第十二話[ごう](2009/03/07 07:49)
[13] マシュー・バニングスの日常  第十三話[ごう](2010/05/23 20:30)
[14] マシュー・バニングスの日常  第十四話[ごう](2009/03/09 06:06)
[15] マシュー・バニングスの日常  第十五話[ごう](2009/03/10 03:19)
[16] マシュー・バニングスの日常  第十六話[ごう](2009/03/11 05:38)
[17] マシュー・バニングスの日常  第十七話(A’s・完)[ごう](2009/04/01 23:39)
[18] マシュー・バニングスの日常  第十八話  小学生日記[ごう](2009/03/26 18:27)
[19] マシュー・バニングスの日常  第十九話  小学生日記2[ごう](2009/03/26 18:37)
[20] マシュー・バニングスの日常  第二十話  小学生日記3[ごう](2009/03/15 06:16)
[21] マシュー・バニングスの日常  第二十一話  なのは治療編[ごう](2009/03/27 19:17)
[22] マシュー・バニングスの日常  第二十二話  なのは治療編2[ごう](2009/03/28 22:08)
[23] マシュー・バニングスの日常  第二十三話  なのは治療編3[ごう](2009/03/26 18:43)
[24] マシュー・バニングスの日常  第二十四話  なのは治療編4[ごう](2009/03/19 06:25)
[25] マシュー・バニングスの日常  第二十五話  リハビリ編[ごう](2009/03/26 19:47)
[26] マシュー・バニングスの日常  第二十六話  リハビリ編2[ごう](2009/03/27 19:13)
[27] マシュー・バニングスの日常  第二十七話  リハビリ編3[ごう](2009/03/28 22:06)
[28] マシュー・バニングスの日常  第二十八話  リハビリ編4[ごう](2009/03/30 19:24)
[29] マシュー・バニングスの日常  第二十九話  リハビリ編5[ごう](2009/03/30 19:23)
[30] マシュー・バニングスの日常  第三十話    退院・卒業[ごう](2010/01/05 01:55)
[31] マシュー・バニングスの日常  第三十一話  中学生日記[ごう](2009/04/01 23:39)
[32] マシュー・バニングスの日常  第三十二話  中学生日記2[ごう](2009/04/03 18:30)
[33] マシュー・バニングスの日常  第三十三話  中学生日記3[ごう](2009/04/06 20:48)
[34] マシュー・バニングスの日常  第三十四話  中学生日記4[ごう](2009/04/09 06:16)
[35] マシュー・バニングスの日常  第三十五話  中学生日記5[ごう](2009/04/09 06:16)
[36] マシュー・バニングスの日常  第三十六話  中学生日記6[ごう](2009/04/11 06:54)
[37] マシュー・バニングスの日常  第三十七話  中学生日記7[ごう](2009/04/18 07:47)
[38] マシュー・バニングスの日常  第三十八話  中学生日記8[ごう](2009/04/14 07:53)
[39] マシュー・バニングスの日常  第三十九話  中学生日記9[ごう](2009/04/18 07:58)
[40] マシュー・バニングスの日常  第四十話    中学生日記10[ごう](2010/01/05 01:57)
[41] マシュー・バニングスの日常  第四十一話  中学生日記11[ごう](2009/04/24 21:25)
[42] マシュー・バニングスの日常  第四十二話  中学生日記12[ごう](2009/04/27 08:27)
[43] マシュー・バニングスの日常  第四十三話  中学生日記13[ごう](2009/05/11 02:33)
[44] マシュー・バニングスの日常  第四十四話  中学生日記14[ごう](2009/08/03 18:33)
[45] マシュー・バニングスの日常  第四十五話  中学生日記・終[ごう](2009/08/20 13:03)
[46] マシュー・バニングスの日常  第四十六話  アリサinミッド1[ごう](2009/09/02 01:55)
[47] マシュー・バニングスの日常  第四十七話  アリサinミッド2[ごう](2009/09/13 14:04)
[48] マシュー・バニングスの日常  第四十八話  アリサinミッド3[ごう](2009/09/24 19:31)
[49] マシュー・バニングスの日常  第四十九話  アリサinミッド4[ごう](2009/09/30 21:07)
[50] マシュー・バニングスの日常  第五十話    アリサinミッド5[ごう](2010/05/23 20:24)
[51] マシュー・バニングスの日常  第五十一話  エリオ編[ごう](2009/11/06 04:36)
[52] マシュー・バニングスの日常  第五十二話  エリオ編2[ごう](2009/11/06 04:36)
[53] マシュー・バニングスの日常  第五十三話  エリオ編3[ごう](2009/12/01 21:57)
[54] マシュー・バニングスの日常  第五十四話  エリオ編4[ごう](2009/12/05 03:19)
[55] マシュー・バニングスの日常  第五十五話  エリオ編5[ごう](2009/12/07 21:54)
[56] マシュー・バニングスの日常  第五十六話  「なのは」1[ごう](2009/12/09 18:05)
[57] マシュー・バニングスの日常  第五十七話  「なのは」2[ごう](2010/05/10 07:17)
[58] マシュー・バニングスの日常  第五十八話  「なのは」3[ごう](2009/12/12 00:51)
[59] マシュー・バニングスの日常  第五十九話  「はやて」1[ごう](2009/12/12 18:07)
[60] マシュー・バニングスの日常  第六十話    「はやて」2[ごう](2010/01/05 01:56)
[61] マシュー・バニングスの日常  第六十一話  「はやて」3[ごう](2009/12/15 21:38)
[62] マシュー・バニングスの日常  第六十二話  VS.八神![ごう](2009/12/17 21:01)
[63] マシュー・バニングスの日常  第六十三話  VS.八神! 2[ごう](2009/12/20 00:43)
[64] マシュー・バニングスの日常  第六十四話  VS.八神! 3[ごう](2009/12/21 22:12)
[65] マシュー・バニングスの日常  第六十五話  VS.八神! 4[ごう](2009/12/23 00:55)
[66] マシュー・バニングスの日常  第六十六話  VS.八神! 5[ごう](2009/12/25 05:09)
[67] マシュー・バニングスの日常  第六十七話  VS.八神! 6[ごう](2009/12/27 09:13)
[68] マシュー・バニングスの日常  第六十八話  VS.八神! 7[ごう](2009/12/29 06:54)
[69] マシュー・バニングスの日常  第六十九話  VS.八神! 終[ごう](2009/12/31 00:35)
[70] マシュー・バニングスの日常  第七十話   リスタート[ごう](2010/01/05 04:54)
[71] マシュー・バニングスの日常  第七十一話   迷走日記[ごう](2010/01/08 21:35)
[72] マシュー・バニングスの日常  第七十二話   迷走日記 2[ごう](2010/01/11 13:12)
[73] マシュー・バニングスの日常  第七十三話   迷走日記 3[ごう](2010/01/17 17:04)
[74] マシュー・バニングスの日常  第七十四話   迷走日記 4[ごう](2010/02/10 22:28)
[75] マシュー・バニングスの日常  第七十五話   迷走日記 5  クロノ・エイミィ結婚 1[ごう](2010/02/10 22:16)
[76] マシュー・バニングスの日常  第七十六話   迷走日記 6  クロノ・エイミィ結婚 2[ごう](2010/02/20 22:55)
[77] マシュー・バニングスの日常  第七十七話   迷走日記 7  クロノ・エイミィ結婚 3[ごう](2010/03/08 19:41)
[78] マシュー・バニングスの日常  第七十八話   迷走日記 8  クロノ・エイミィ結婚 4[ごう](2010/03/14 22:15)
[79] マシュー・バニングスの日常  第七十九話   迷走日記 9  ギンガの卒業式[ごう](2010/03/19 22:29)
[80] マシュー・バニングスの日常  第八十話    迷走日記 10  ギンガの卒業式 2[ごう](2010/03/27 05:27)
[81] マシュー・バニングスの日常  第八十一話   迷走日記 11  ギンガの卒業式 3[ごう](2010/04/03 06:40)
[82] マシュー・バニングスの日常  第八十二話   迷走日記 12  レリック[ごう](2010/04/10 06:13)
[83] マシュー・バニングスの日常  第八十三話   迷走日記 13  レリック 2[ごう](2010/04/16 22:37)
[84] マシュー・バニングスの日常  第八十四話   迷走日記 14  レリック 3[ごう](2010/04/22 07:39)
[85] マシュー・バニングスの日常  第八十五話   迷走日記 15  レリック 4[ごう](2010/04/26 07:12)
[86] マシュー・バニングスの日常  第八十六話   迷走日記 16  レリック 5[ごう](2010/04/30 00:11)
[87] マシュー・バニングスの日常  第八十七話   迷走日記 17[ごう](2010/05/03 10:32)
[88] マシュー・バニングスの日常  第八十八話   迷走日記 18[ごう](2010/05/06 23:05)
[89] マシュー・バニングスの日常  第八十九話   迷走日記 19[ごう](2010/05/10 08:03)
[90] マシュー・バニングスの日常  第九十話    迷走日記 20 二年目のクリスマス[ごう](2010/05/16 22:35)
[91] マシュー・バニングスの日常  第九十一話   迷走日記 21  U.D.[ごう](2010/05/23 20:05)
[92] マシュー・バニングスの日常  第九十二話   迷走日記 22  U.D. 2[ごう](2010/06/01 06:26)
[93] マシュー・バニングスの日常  第九十三話   迷走日記 23  U.D. 3[ごう](2010/06/07 05:40)
[94] マシュー・バニングスの日常  第九十四話   [ごう](2011/03/17 20:20)
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[7000] マシュー・バニングスの日常  第六十八話  VS.八神! 7
Name: ごう◆daa9f0e0 ID:9fced06a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/29 06:54
マシュー・バニングスの日常      第六十八話







「でもな、結局のところは・・・全部、マーくんの体が弱いこと、きちんと治ってないこと、それが悪いんや。」


 少なくとも十秒くらいはマジで何を言われてるのか分からんかった。


「マーくんが健康で丈夫やったらそんな色んな心配とかする必要も無かったのに・・・私が心配せんとあかんようになるんも、全部・・・

マーくんが体、弱いのがあかんのやないか・・・もう耐えられへんわ・・・」


 すごく遅れてやっと理解しだす。



 おいおい・・・それを、お前が、言うか・・・

 これは・・・なんだいきなり、そもそも唐突だ。

 八神がこんなことを言うはずがない。

 それって俺にはどうしょうもないことだろう。

 俺が生まれつき持っていたハンデ、そういう体であることは俺の責任ではない。

 しかも近頃は少しずつ改善されてきたのも事実で、それもこいつはよく知っていて。

 なのにそういう俺にはどうしょうもないことを、あたかも俺の責任、俺の悪いところみたいに言うとか。

 こいつがそんなことを思ってるはずがない、言うはずが無い、きっと無理してる。


 そうだ八神は無理してる、無理に言ってる、その証拠に顔を見せない、横向いてる。



 大体だな・・・世の中には例えば生まれつき心臓病を患って、乳児のうちからペースメーカーを心臓につけて暮らさなくてはいけないって

人もいる。そういう人はそのまま一生ペースメーカーをつけたままでいかねばならず激しい運動とかは出来ないが、しかしそれでも日常生活は

できるし、仕事にも就けるし、そういう体だって理解してくれる相手がいれば結婚だって出来る。八神は幼いころから病院暮らしが長く、そう

いった症例も当然知っている、こいつが知らないとかありえん。

 だから八神にはそういうことに対する理解があるし、俺の体の事なんて当然良く良く知ってるし、そしてその上で俺の事を受け入れてくれて

いたわけだし、将来的には普通に結婚もしてくれるつもりだったと思う。


 そうだ八神は理解してくれてる。

 八神は分かってくれてる。

 八神は受け入れてくれてる。

 今は無理して言ってるだけだ。

 そんなことは分かってる。


 分かってるのに・・・


 きいたわ。


 無茶苦茶、きいた。

 つまりこいつだけは絶対そういうこと言わないと。

 完全にこいつに対しては。

 そこんとこ無防備だったんだ心が。


 だから俺は何も言えず。


 絶句するしか、無かった。




 八神は続ける。


「マーくんが健康でありさえすれば・・・こんなに悩まんで済んだのに・・・全部マーくんの体が弱いのが悪い・・・そうなんや、それが

あかんのや・・・私がどんなに仕事忙しくても・・・マーくんの体が頑丈やったら・・・アリサちゃんもあそこまで怒らへんで・・・」


 呼吸が乱れる。くそっ! 軽く涙出てきたかも。きっついなあw

 他の誰でも無く、こいつに言われると、死ぬほどきつい、マジで。

 口が回らん、反論できん。

 心にもないこと言ってんだろ?

 無理して言ってんだろ?

 その証拠にこっち全然向かないじゃないか。

 俺の目を見て、同じことが言えるなら言ってみろ!


 だが俺の唇は震えるだけで言葉が出ない。

 うわあ。

 すんげえショック受けてるぞ俺。

 なさけねー。



 なんとか息を整える。

 心臓も・・・よし落ち着け、落ち着け俺の心臓・・・大丈夫だ・・・

 落ち着いてきた、よし深呼吸・・・


 やっと自分を落ち着かせる。

 落ち着かせると・・・


 急に。


 壁を思い出した。

 昔からあった、俺と、健康な人間の世界を隔てる、絶対的な壁。

 その壁は俺と八神の間にだけは、これまでは確かに無かった。

 だが急に、それが無いフリをしてただけで・・・実はあったのかと。

 そう思った。



 その壁を思い出せば。

 あとはいつもの情景。

 そうだ寝たきりの俺と、その壁で隔てられた周囲の世界を、完全に客観的に眺める・・・

 死と接し続けていた幼いころの心境に・・・俺は一瞬で立ちかえり。



 ひどく・・・冷静になった。


 頭が冴える。


 八神は今、俺に悪いことをしたという罪悪感がベースになってる心境から、やはりまだ抜け出ていない。

 だから考え方が全て後ろ向きに悲観的になってる、これもこいつにしては非常に珍しいことだ。

 さらに自分の仕事の・・・自分が仕事する目的の持つ危険性に俺を巻き込みたくないと思うあまり・・・

 俺を突き離そうとしている。

 そのために俺を傷つけようとしてる、これは間違いない。

 その直接的なきっかけになったのは、はじめて俺に本気で怒られて・・・それで本気でビビったってことにあるんだろ。

 ただでも悪いことをしたって後悔してたのに、さらに無神経なことを言って俺に怒られた、本当に私はダメだとか思いこんだんだ。

 そこで恐らく、かなりの程度衝動的に・・・俺が一番言われたくないことを言い出した。


 それを言ったらおしまいよって話だ。

 俺たち二人は俺の体が弱いなんて今更なことは前提として気にもせず、それでも仲良くやって来た、それが事実だ。

 しかしどうしても俺と別れねばと思いつめた八神は、ついにその前提を崩してきた。


 そのとおり。 

 俺が健康で頑強な肉体をさえ持っていれば全て問題は無かったのだ。

 だが実際にはそうではない。

 だから俺が悪い。

 俺の体が弱いのが、悪い。


 それは俺が望んでそうなったわけではなく・・・ただ生まれつきに強制的に負わされていた業であり。

 それは俺のせいではない、それは確かであっても。

 それでも、それは、情け容赦のない事実。



 そうだ、俺が悪い、俺の体が弱いから、だから俺が頼りないのが悪い、それが諸悪の根源だ、その通りだ。

 肺腑をえぐるような・・・俺にとっては一番痛い、触れられたくない・・・事実だ。

 それを言ってまで・・・そこまでして・・・俺を突き離してしまいたいと?

 まだ話はついてない、はっきりさせておくべきことは残ってるはずなのに曖昧にしたままで。

 こうして俺を傷つけて無理にでもおしまいにしてしまおうと?

 それも恐らくは、俺の体の事を心配してるからって大義名分を掲げて自分の心を納得させて?




 ・・・俺の体のことはいいんだよ、今さらだ。

 だけどな八神・・・お前、そうして、何も言わず、適当に傷つけて追い払おうとかさ・・・

 それはちょっと俺の事、バカにしすぎてるぞ?

 また腹立ってきたな。

 八神はまだなんかウジウジと「俺の体が弱いから」発言を表現を変えて繰り返している。

 はいはいそれは分かったから。


 あれだな、これはなんといいますか・・・言い返さずには気が済まんな。


 お前が、俺に、絶対に言われたくないことを言うってんなら。


 こっちも同様の事を言い返してやろうじゃねーか!





 八神は無理に・・・言葉を続けてる。


「もともと私らは二人とも体弱くて、せやから互いに依存して支え合うフリをしとっただけやったんや。でも今は違う、私は健康で・・・

マーくんはまだ半病人、そんなマーくんに依存されたかて・・・もう迷惑やねん、マーくんは・・・私の・・・足手まといなんや。」

「で?」


 俺の出した声は・・・なんつーか絶対零度?

 別に八神に対してってだけじゃない、誰に対しても出したことのないような声だった。


 八神は一瞬ひるむが、再び言葉を続ける。


「私はもう健康やから、せやからもうマーくんなんて、いらんねん・・・おっても邪魔なだけや、せやから・・・」

「で?」


 八神は唇を噛み、言葉を続けようとして・・・続けられない。


「今日は本音を言う日だって、言ったのは俺だったな。さあいいから続けろよ。言いたいことを全部言ってみな。」


 相変わらずの凍りついた口調。八神は・・・何度か唇を震わせるのだが・・・なにも言えなくなった。


「それだけか? じゃあ俺からも言いたいことがあるが・・・まずこっち向け。」


 横を向きしかも顔を伏せてる八神。

 俺に言われてこっちを向こうとしながら・・・どうしても向けない。



 いいかてめえ言われたくないことを思い切り言ってきたのはそっちからだぞ。

 同様の事を思い切り言ってどんな気持ちになるか教えてやろう!


「まず言うが・・・お前ははっきりいえば大して女性として魅力的では無い。」


 意外なセリフに驚いてこっちを見る八神。涙目だなやっぱり。


「例えば姉ちゃんとか、例えばフェイトさんとか、そういう誰がみても歴然とした美人ってレベルと比べれば、せいぜいちょっと可愛い程度?

まあそこそこ見られる程度か。スタイルも別によくは無い。これも標準かな。いやそれ以下か? なんつってもお前はチビだし、近頃やっと

あちこち成長してきたとはいってもまだ幼児体型の名残がそこかしこにあるしな、いや日本人体型というべきなのかな、だったらお前の

スタイルってのは多分一生その程度止まりなんだろな。俺とお前は結構、きわどい関係にもなってるわけだが結局、一線は越えてない。

超えずに我慢できたのはやっぱりお前の肉体ってのが・・・やらずに我慢できる程度の魅力しか無かったからなんだろうな。我慢できなく

なるくらい魅力的な肉体ってのはフェイトさんみたいな体の事を言うんだろ、それと比べればお前の体なんてな。」


 フンっと鼻で笑ってやる。

 八神、最初は呆然としてたが、俺の言葉が進むにつれて少しずつ俯き・・・なんか肩が震えてきている。


「仕事仕事で洒落ッ気も無いしな、普段着も大人しい地味なのばかり。いいか考えてみろ、俺にとっての女性の基準てまず姉ちゃんだぞ?

ああいう圧倒的な華やかな美人系が俺にとって基準であるわけだ。お前ってばそれに比べれば全く地味で、はっきりいえば十把一からげの

そのへんにいくらでもいる一山いくら程度の女に過ぎないっていうかさ~」


 八神は思わずといった感じで立ち上がる。

 テーブルに腰をぶつけて湯呑をひっくり返してる。

 が、そんなこと気付かないかのように・・・肩を震わせている。


「だがまあ外見の事は置いておこう。問題はむしろ内面にある。幼いころに苦労し過ぎたせいなんだろうが、お前って性格がひねくれて

ねじ曲がって素直さがかけらもない。常に腹黒く二枚舌で本心を明かさない、実は皮肉屋で冷笑家でもあり裏表があって・・・まあ総じて

言えば『かわいくない』性格の持ち主というかな、いやもっとシンプルに『性格悪い』とはっきり言うべきか。つまるところお前って女は

ひねくれものの性格ブスの腹黒チビ狸に過ぎないのであって、素直で優しくて裏表が無い純真な高町とかと比べれば、もうお話にならない

っていうか?」


 八神は・・・ブルブルと震えながら、なんか拳を握りしめている。

 もう一押しで殴ってきそうだな。

 だがまだここからだぞ八神、容姿スタイル性格の問題なんてまだ甘い。

 お前が本気で言われたくないことを言ってやる。


「お前もだな、俺の体が悪いから悪いって思い切りぶっちゃけてくれたよな。」


 まず前置きにそれを言う。

 それを言われると八神は急に怒気が薄れる・・・また力無く座りなおした。

 それをみてさらに続ける。


「さてお前は、ひねくれ腹黒チビ狸に過ぎないわけだが問題は他にもある。それは、お前が、孤児だってことだ。」


 八神は俺の言葉をきいた瞬間、体を硬直させた。一瞬、なにを言われたのかわからないって顔で呆然と俺を見る。

 なるほどさっきの俺もこんな表情してたのかもね。

 俺はその八神の目をまっすぐみて話を続ける。


「孤児で、親戚もおらず、中卒で、どこの馬の骨ともつかぬ小娘、それがお前だ。さて冷静に考えてみよう。体の問題で後継者から外れてる

とはいえれっきとしたバニングス家の長男である、この俺の嫁として、お前のような女がふさわしいかどうか。」


 八神は何を言われてるのか理解すると・・・目線を力なく下におとした。


「一言でいえば、ありえねー。そう断言できる。家柄身分など釣り合う相手と言えば、まず月村さんとかな。高町でも背景にきちんとした

二親揃った立派な家庭があり身元が知れてるからアリかもしれん。だがお前はありえん。どこの馬の骨とも知れない浮浪児同然のあわれな

みなし子であるお前が、バニングス家の長男と結婚するとか、どこのシンデレラだ、そんな話は現実には無い。」


 八神は俯いて・・・なんか今度こそ本当に泣きだしそうな顔になってるな。さらに押す。


「地球の話は置いても、さてミッド的に考えてみよう。お前は『闇の書』の主で、世間の常識的偏見によれば犯罪者の一味だ。それに対して

俺はどうだろうね? 若くしてコア治療の権威として有名であり若手医師有数の注目株、キャリアにも傷一つ無い。だからお前みたいな得体

の知れない犯罪者まがいの女と付き合うのは俺にとってマイナスにしかならない、あんな女と付き合うのは良くないよって親切に忠告してく

れた上官とか実際にいるぞ? 世間体を考えれば本当にその人の言うとおり、俺は反論する気にもならなかったよ。なにせその人は本当に

人柄の良い常識的な人物で、そういう人から見ればお前ってのはやっぱりそういう女なんだよ。」


 肩がぶるぶる震えてる、うーん本当に泣いてるかも。

 そろそろいいかな。


「おい八神、骨身に染みたか。」


 俺の問いかけに八神は答えない。


「八神! こたえろ!」


 仕方なく叱声を浴びせる。八神ビクっとする、そして力無く・・・


「せやな、その通りや・・・私なんて・・・私なんて・・・・・・」


 ふむ相当こたえた様だな。


「分かったか?」

「分かった・・・うん、私なんて・・・マーくんのそばにいる資格とか初めから無かったんやな・・・」

「違うわいアホ。」

「・・・え?」

「自分のせいでは無いのに、自分に強制的に背負わされていたハンデの部分をだな。」


 いったん言葉を区切り、八神の目を見詰める。


「容赦なく言葉でエグられると、どういう気分になるか、分かったかってんだ。」


 俺の体は、確かにダメさ。

 生まれつきな。マシになったとは言っても治って無いって事実は消せん。

 だがそれは、俺のせいでは無い。

 俺の意思によらず勝手に俺に背負わされてきたハンデ。


 八神が孤児であり、そういう存在であるという事が社会的に差別を受ける原因になるのは事実。

 進学でも就職でも結婚でも確実に差別される。保護者とか保証人がいないって死ぬほどきついぜ? 社会的には。

 さらに闇の書関係の偏見もどうにもならん、今だけでなく将来に至るまでこいつにつきまとうこと間違いなし。

 地球でもミッドでもこいつは実はそういうマイナス要素の固まりなのだ。

 だがもちろんそれは八神のせいではない。勝手に背負わされたハンデ。


 元からだな、俺は肉体的には慢性的に死にそうだったが姉ちゃんがいて。

 八神は俺に比べたら病状はマシだったが天涯孤独。

 だから俺の方が体は弱くて。

 八神の方が心は弱かったんだよ。

 そうして俺たちは支え合ってきたんだ。


 だから対等。

 最初からそうだったし。

 実は今でもそうなんだよ。


 分かってねーな八神。

 元から足が動かない程度で俺みたく日常的に死にそうだったわけでも無いくせに。

 お前自身の決定的な弱点、それ言われたらおしまいだって部分は・・・無くなってないんだぞ、今でも。


 やっと八神にも俺が何を言いたいか分かって来たらしい。


「あ・・・」

「きいたぞ、無茶苦茶きいた。『俺の体が弱いのが悪い』、なにせ事実であるだけに無茶苦茶きいた。」

「・・・う。」

「どーもお前は健康である自分が病弱である俺にそれを言えば俺は何も言えずに泣いて帰るとでも思ってたんじゃないかって気がするんだが、

甘いぞ八神。お前にも実はエグられると物凄くきいてしまう弱点、ハンデの部分があるんだよ。」

「・・・せやな、うん、せやから、もう、私らは・・・」

「うるせえ。」

「え?」


 俺はなんかぼんやりしてる八神を見詰めてはっきり言う。


「お前の言ったことも俺の言ったことも事実だ、だから互いに謝る必要はない、そしてこの話はここまでだ。」

「え・・・せやけど・・・」

「お前は俺を傷つけ怒らせて話を濁したまま、俺が帰るのを期待していた。」

「う・・・」

「だがそんな手には乗らん。だから取りあえず言い返した、そしてきちんと話に決着付ける、曖昧なままでは終わらせん!」

「あぅ・・・」


 無理に心にもないことを言ってた状態が解けたな。平常に戻った、表情で分かるさ。

 しかし俺が感じてしまった壁は・・・あるようなないような。

 これまでは確かに絶対に無かったものが、あるかもしれんって状態にされてしまったな。

 だけどね。

 それはそれとしてだ。

 今日は話さねばならないんだ。

 まだ八神に言いたいことがある。



☆     ☆     ☆



 うあっちゃー・・・

 あかんほんまに。

 またやな、また甘く見とったマーくんのこと。

 体弱いから邪魔やとか私に言われたら、それが決定打になって・・・そこで終わるやろとか思ってたんやけど。

 耐えるどころか・・・思い切り反撃してきおった・・・それもむっちゃ痛い的確な反撃。


 天涯孤独の身寄りのない孤児でおまけに闇の書の主と。うん言うとおりや、私って多少の健康問題なんて目や無いくらいマイナス要素

だらけの女やな。そこを思い切り言われると無茶苦茶痛いわ。孤児とバニングス家の長男では釣り合わへんし、少々病弱程度やけど有名な

エリート若手医師から見れば闇の書の主と付き合う事はマイナスにしかならんと、ほんまやな。


 しかしなあ・・・孤児やとかいうんは今さらやねんけど・・・

 考えたらなんで顔とかスタイルのことにまでケチつけられへんとあかんねん!


 ああそうか、それで私は普通に腹立って・・・感情が動いて・・・


 それまで無理して感情を殺して「マーくんの体が弱いから悪い」って言ってた心の状態が一瞬で変わって・・・普通に戻ったんかな。

 やるなぁ、マーくん、やっぱお医者さんやな・・・


 でもスッキリしたわ。

 これまで互いに遠慮して言わへんかったこと思い切り言い合ったな。

 これって初めての経験ちゃう?


 そしてそうなると・・・なんか心も晴れてきた。

 今なら、むやみやたらに罪悪感に駆られて後ろ向きに考える・・・みたいなこともなくなったような気がする。

 うん、私がアリサちゃんより美人やないとか、なのはちゃんより素直やないとか、フェイトちゃんよりセクシーやないとか!

 涼しい顔で平気で言いおったこのアホに、なんで気ぃつかわんとあかんねん!ってな。


 お茶を入れ直すために台所にきて、お湯を沸かしながらまた考える。

 うーんやっぱりマーくんは・・・長い付き合いだけあって・・・そんな簡単に騙すとか怒らすとか無理やったな、最初から。


 もうウジウジと策とか考えんの、やめよ。



 心に浮かんだことを素直に言おう。


 素直やないって言ったんもマーくんやったな・・・よっしゃそんな私でも素直になれるところを見せたろやないかい!






☆     ☆     ☆





<蛇足>


「凄絶な打ち合いですねクロノさん。」

「はやてのカウンターは間違いなく、もろに入った。しかしそれに耐えて打ち返したかマシュー・・・」

「こうなるとこれまでの蓄積ダメージがものを言う、やはりマシュー有利ではないでしょうか?」

「だが互いに仕切り直して無心に打ち合うとなると・・・もう戦術とか無しで純粋に打ち合うとなるとどうかな。」

「それでもマシュー有利は動かないと思うのですが・・・」

「はやても虚心になって思ってることを言うならば、つまり今は離れようってのが本音かもしれないぞ?」

「でも本当の本心では離れたくないって思ってるはずだよ! マシューはそう言うはずだ!」

「ここまでくるともはや意地だけの勝負かも知れん、僕としてはただ、はやての勝利を祈るのみだ・・・」





(あとがき)

 そんなことを気にして無いことは互いに当然わかってると。心にもないことを言っても相手には通じない。

 本音を素直にぶつけあった時に二人はどんな結論を出すのか。

 長々と引っ張って来たVS.八神! 次回で決着であります。


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