マシュー・バニングスの日常 第五話 マシューがのんびり暮らしていたその頃、衛星軌道上の謎の船のブリッジでは謎の会話が交わされていた・・・「話は分かった・・・つまりこの地図にマークした人間は、自分が魔道士であるという自覚も無いのだな?」「マシュー・バニングス君ね・・・なるほど、そこそこ魔力あるかな。でもそれほど規格外な探査魔法が使えるかどうかは分からないわね。」「生まれつき心臓が悪いというが・・・ん? 心臓?」「リンカーコアの先天的異常の可能性が高いかも。この惑星の医療も、魔法関係を除けば決してレベル低いわけじゃないし。」「治療可能か?」「残念だけど遠くから見てるだけじゃ分からないかな。心臓自体もかなり弱ってるし。専門的調査が必要になると思う。」「この距離から分かる範囲でいいから、精査することは出来ないか?」「出来ないことはないけど、専門の医療機関で検査しなくては結論は出せないよ?」「まあいい、できる範囲でやってくれ。」「了解。」 謎の船の謎の和室の中で。「それじゃあマシュー君は治るんですか!」「う~ん、やっぱり専門的検査をしなくては結論は出せないんだけど・・・可能性はあるわね。」「マシュー君は世界中の病院を回ってきたんだってアリサちゃんが言ってました。それでも治らなかったって。もし魔法的治療で治るんだったら、すごく喜ぶと思うんです! お願いします! マシュー君を助けてあげてください!」「落ち着いて、なのはさん。」(う~ん、これは難しいわね。治療できる可能性があるにしても、これまで魔法のことを全く知らなかった人間にいきなり接触するのは禁じられているし。リンカーコアの異常という線は固いだろうけど、それに引きずられて心臓だけでなく全身くまなく弱ってるようだし・・・どのみち治療するには専門施設への長期入院が必要になるわ。アースラの医療室なんかで片付くレベルじゃない。 でも、なのはさんみたいに事故的に巻き込まれたって事情があるわけでも無いから、いきなり接触するわけにも・・・ それにしてもこの探査能力は桁違いなのよね・・・ 二枚の地図の情報を元にしてアースラでシミュレーションしてみたら怖いくらい正確にジュエルシードの位置が分かったわ。 ああ、そういえば、この海にまとまって落ちてるジュエルシードについては、先に回収するべきか・・・それとも敢えて残しておいて、フェイトさんを誘き出すのに使うべきか・・・ う~ん。あれもこれもどうしようかな・・・) なんか見られてるような気がして、落ち着かない気分になったのは、高町さんが学校を休むようになってちょっとしてからだった。 誰かが近くにいるときはそうでもないが。例えば深夜に一人きりになったとき、ふとしたはずみに、確かにどこかから見られてる、それも無遠慮に凝視されてるような妙な感覚がするようになった。 よく「視線を感じる」などと言うが、実際にはそんなもの無いだろうと俺は思ってる。だからこそこの違和感には戸惑った。 近くに人がいれば、そのうちの誰かが見ていた、ってことで済ませられるのだが。 誰もいないときに限って、その違和感があるのだ。 その夜、違和感がさらに強くなった。 ただ見られてるレベルじゃない。凝視されてるって程度でも無いな・・・なにか、ほとんど感じないようなレベルだけど、妙な力が体に注がれて、ああそうだこの感覚は、レントゲンとか取るときの放射線が体を透過するときの違和感に似てるような・・・ その時の俺は、ベッドに横になって、うつらうつらとしていた。半覚醒状態だわな。 だからこそ何の自制もせずに、全力全開で、その違和感の元を探ってしまった。 その頃、謎の船のブリッジでは謎の二人がまた妙な会話をしていた。「精査の進み具合はどうだ?」「60%経過。う~ん、彼のリンカーコアは出力は凄いのに、魔力を大気から集める方に問題があるのかな。バランスがとれていない感じ。だから体中の微弱な魔力までムリやり引きずり出そうとして、体に負担をかけてる可能性が・・・」「ふむ、意外と出力リミッターをかければ、それだけで安定したりしないか?」「素人考えは危険だと思う。心臓だけでなく体中が衰弱してるから、気軽に手を出すと取り返しのつかないことになる可能性もあるし。リミッターかけて、これまでのバランスが崩れたとき、彼の体のどこかに新たな負担がかかったりしたら、それだけで死んじゃう可能性は大いにあるわ。」「確かにそうだな・・・やはり入院が必要だな。」 二人の見つめるスクリーンに急に異変が現れた。「探査魔法の発動を確認! 凄い出力!」「何事だ!」「凄いわ! 彼を中心に50以上のサーチスフィアがドーム状に展開して、さらに凄い勢いで広がっていってる! これは・・・もしかして気づいてる? ドーム状だった形が崩れて、一直線にアースラ目掛けてサーチスフィアが近づいてきてる!」「なに!」「うわ届いた! 気づかれてる! 見てるわよ、これ。」「バカな! 衛星軌道上で、しかも隠蔽されているアースラに気づくはずがない! 大体、魔力反応なんて感じないぞ!」「これ見てクロノ君! 対外魔力レーダー、通常なら誤差の範囲内くらいしか数値の変動が無いけど、さっきから、繰り返して確実に、その一定値の誤差が連続して観測されてる!」「しかしサーチスフィアにしても反応が弱すぎる!」「信じられないくらい薄い密度の魔力だわ! なのにサーチできるだけの形は保ってる? 凄いわこれ。こんな薄い魔力を制御できるはずないのに・・・これ体感だったら絶対気づけないわよ。今だって、あらかじめ注目してたから気づけたようなもんだし。」「彼はこちらを見てるのか? 確実に。」「いやあ確実にどうかって言われると自信ないけど・・・なんせこんなレベルの探査なんて・・・ああ!」「どうした!」「まずい! 魔力切れを起こしてバイタルに異常が! 心臓発作だわ! 全身も痙攣してる! バイタル低下!」「くっ! 緊急事態だ! 仕方ない、僕の責任で緊急転送を!」「なにごとですか、クロノ執務官。」「艦長! 例のマシュー・バニングスが精査中に!」「ああっ! お姉さんたちが部屋に駆け込んできた!」「なんだと!」「看護士さんらしき人が何か注射したわ・・・落ち着いたみたい。お姉さんが病院に連絡してる。入院するみたいよ。」「大丈夫なのか? 命に別状は?」「どうだろう・・・とりあえず落ち着いたみたいだけど・・・繰り返しになるけど、やっぱりこれムリだよ・・・専門的な医療機関じゃなければ分からないってば・・・」「そうか・・」「ゴメンだけどクロノ君、私、もうイヤだからね、これ。下手に刺激するとまた命にかかわるレベルの問題になるわ。」「エイミィ・・・分かったよ、確かにな。」「で、二人とも、報告してくれる?」「「は、はい。」」 遠くから八神の声が聞こえる。「マーくん、聞こえてるか~?」「なんか相当危なかったらしいで、今回は。一回、心臓止まったって。お姉さん泣いとったで~。」「はよ、目ぇ覚ましてな・・・またうちが料理作ったるからさ・・・」「大丈夫やんな・・・絶対に目ぇ覚ますよな?」「待っとるから・・・」(あとがき)なーんもしないまま、いきなり主人公、死に掛ける。この場合やはり加害者はクロノでしょうかね。