マシュー・バニングスの日常 第三話 検査入院でしかなかった八神は翌日には退院してしまい、俺はヒマだった。 あいつがいなければ対戦できないしなあ。実際、一人でCP相手に技を覚えても、意味がないとは言わないが、必ずしも有効に活用できるとは限らないもんだし。 今は懐かしきバイ○ハ○ード2で豆腐の大冒険でもやるかな・・・あのクリアなんて出来るわけがない絶望感がたまらん・・・ 俺は普段から、恐らくギリギリ生きてるか生きてないかレベルで何とか生きてる程度の状態のため、一度、倒れることによる消耗を回復するのに少なくとも数日はかかる。 俺がゾンビ相手のムナしい戦いを始めようかというときに、珍しい客人が来た。 なんか思いつめた様子の高町さんである。 高町さんは誤解してるんだろうが、実は俺は基本的に高町さんのことは好きである。 明るいし前向きだし、姉ちゃんの暴走を強引に止めてくれるキャラクターを持ってるし、姉ちゃんのかけがえの無い親友でもあり、嫌いになれるはずがないのだ。 「なのは」と呼べと詰め寄られて発作を起こして倒れた一件にしても、姉ちゃん以外の女の子にあんなに近づかれたのが初めてだったのでドキドキしたというヘタレな理由が実は一番大きかったんだと思うし。倒れて妙なトラウマを負わせてしまってホントに悪かったと思う。 しかしそれにしても一人で見舞いにくるってのは珍しい。例の件以来、高町さんは俺と一対一で会うのは怖がっていたのだが。「んと、どーしたの高町さん。珍しいね。」「うん、迷惑だったかな?」「いやヒマだったし。基本的に人が来てくれるのは歓迎。」「そか。よかった。」「・・・」「・・・」 沈黙が痛い・・・「うーん・・・」「・・・」「あのさあ、ここはぶっちゃけて話そうよ。」「え?」「高町さん、ズバリ、なんか用事があって来たんじゃないの?」「あ、でもお見舞いもね・・・」「うんうん、それは分かってる。でも他にも用事あるんでないの?」 しばらく黙って下を向いていた高町さんは、決心したのか足元のカバンからなんかボロボロになった紙を取り出した。「実は、これの話なの。」「ってなにそれ。なんかボロい紙だね。」「ボロい?・・・ああ! ホントだ! ごめん弁償するね。」「いや心当たりが無いんですが。」「いや、ほら前に見せてもらった地図だよ、ほら。」「おおう、確かに。しかしなぜそこまでボロボロに・・・それ貸してからまだ何日かしか経ってない気がするんだけど。」 再び沈黙が。よほど言い出しにくいことらしい。「実はね・・・」「ん、なに?」 高町さんは決意を目に真剣な口調で話し出した。なんか雰囲気違うなぁ。「驚かないで聞いて欲しいんだけどね。」「うん、努力する。」「・・・マシュー君の見た夢は、多分、正夢なの。」「・・・ん? どういうこと?」「不思議な石が、たくさんこの海鳴に落ちてきたってのは本当だってことなの。」「へー。」「実際、マシュー君がつけたマーキングに従って探してみたら、立て続けに3つも見つかったの。」「へー。」「街中とか人の多いところではともかく、そうじゃない場所なら凄い精度で見つかってるの。」「へー。」「へーって・・・驚かないの?」「いや、夢の話を真に受けて、わざわざ実際に探してみる高町さんのヒマ人っぷりには驚いてますよ。」「だから! 現実に石は存在したんだってば!」「ふむふむ。」「ふむふむって・・・」 いきなりそんな話をされてもねぇ。「高町さんの頭の中身って俺の想像以上にぶっ飛んでたんだなあ。」「違うって! ホントにホントなの!」「はああああ・・・じゃあ一応確認。その石とやら、持ってたら見せて。」「え! いや、持ってないわけじゃ無いんだけどね、でも今はちょっと・・・」「家にでも置いてあるのかな?」「いやそうじゃなくて、今も持ってるんだけどね、でもちょっと事情があって・・・」「そのカバンの中にでも入ってるの?」「そうじゃないんだけどね、でも。」「なるほど・・・うんうん分かったよ。このことは黙っておいてあげるから・・・」「ちょっとまって! なんか誤解してない?」「大丈夫、いつもの高町さんなら精神疾患とか感じないから、ゆっくり休めばきっと。」「違うってば! ホントに持ってるの!」「じゃあ見せてみ。」「だからそれには事情があって!」「うんうん、分かってるよ。今日は帰ってゆっくり休みなさい。」「だーかーらー!」 しばらく押し問答が続く。メンドイので話を切り替えるとしよう。「えーっとさ、高町さん。とりあえず地図を弁償するとか言ってたよね。」「う、うん。」「じゃさ、近くのコンビニでも行って同じ地図買ってきてくんない? 手持ち無ければ貸すから。姉ちゃんに返してくれれば。」「いや大丈夫! うん、ちょっと待っててね。」 互いに頭を冷やすために時間を作ることには成功したかな。 しっかし何がどうなってるんだか。 あれは夢・・・にしてはリアルだったような気もするが、しかし宇宙船とか出てきた時点で夢だろう、どう考えても。 石が落ちてきたのは本当ねえ・・・ ああ~なんつうか正直言うと・・・ ダルい。 メンドい。 これは何年も経ってから当時の自分を振り返って分かったことなんだが、このときの俺はありとあらゆる意味でスタミナというものが無かった。肉体的にはもちろん、精神的なスタミナもだ。きちんと根をつめて考える、筋道を立てて理が通るように頭を使う、という行為も、ちゃんとできなかったのだ。恒常的な疲労感、定期的な苦痛に耐えるため、俺は俺自身を鈍くしていたように思う。だから結局の所、大して考えることも無く、思いつきだけで行動していたのだろう。「お待たせ~」「おかえり。んじゃちょっとその新しい方、貸してみ。」「え? うん、はいどうぞ。」 俺は大して考えることもなく、ただメンドイから話を早く終わらせるために、また適当にマークでも付けて、やっぱりデタラメだったという結論にしようと思っていた。後になって思えば、この完全に近い無心な状態、何の成果も求めない心が、皮肉にも異常な成果を実現する動因となったのだろう。 まあとにかく俺は、ただ集中するフリをするつもりで目を閉じて、なんとなく前の夢を思い出した。 自分を中心にセンサーが限りなく広がっていく感じ・・・ っと・・・海鳴が上から見える・・・あの妙な石も見えるなあ・・・ 集まってる場所もある・・・ あと変な人・・・妙な力を感じる人が・・・ 目を開ける。同時に忘れないうちにと速攻で石の位置をレの字でマークしていく。 さらに変な人がいたところには×マークを付けていった。 作業が終わって、地図を高町さんにわたす。「ふ~これで所詮は夢の話だってはっきりすんでないかな~」 俺の気楽なセリフに高町さんは全く同意しなかった。なんだか前にも見た愕然とした表情で俺のほうを凝視して、口もポカンと開けっ放しだった。なんつーかマヌケである。「どしたの?」「い、いやそのうん、えっとはい見せてもらうね!」 ユカイに動揺しながら高町さんは地図で顔を隠す。しばらく見入っていた高町さんが5分ほどしてから再起動。「えっとさ、確認なんだけど。」「うん。」「レの印のところが、石の位置かな?」「そだよ~なんか前よりはっきり分かったようなそうでないような・・・まあ微妙なんだけど。」「×は何?」「なんか変な人がいたところかな。」「変な人?」「まあそうとしか言いようが無いな。とにかく妙な人。例の石ほどではないけど、なんか変だ。うまくいえないけどね。」「ねえマシュー君ってさ・・・私の自宅ってどこか知ってる?」「なんだよいきなり。翠屋は知ってるけど、確か自宅は違う場所だっけ? まあ知らないけど。」「これ、この×印。うちなの。」「ほほう。では高町さんの家に変な人がいると・・・いや知らなかったわけだし、そもそも夢の話だし、そんなマジな顔しなくても。」「ううん、怒ってるわけじゃなくてね・・・」「えっと・・・そういや今になって思い出したけど、なんかこの病院付近も俺、マークしまくってなかったっけ?」「え? ああホントだ・・・レが集中してる・・・×も幾つかあるのかな?」「ふむ、ということは病院付近に例の石が大量に存在して、しかも変な人もたくさん・・・て無いじゃないか。これだけでもデタラメだってはっきりしたなあ。ああ良かった。」「・・・そうだね・・・」 で、その後は大した会話も無く、夕食の時間が来たので高町さんは帰っていった。貸すとも言ってないのに新しいほうの地図も持って行ってしまったのは天然というのだろうか。 高町さんが帰って行った後にすぐ、何か凄い脱力感が体を襲った。 まるでこれまでは何かが補給されていたから何とかなっていたのが、それがいきなり無くなって、本来ならばこうなるはずだった状態になるかのように・・・あ・・・やばい・・・これはまた意識失うかな・・・「マーくん、そろそろ夕飯の時間やで。」 急速に意識が戻ってくる。あれ?・・・発作でも起きるかと思ったのに力が戻ってる。「って八神、お前、退院したんじゃ無かったっけ。」「やっと起きたな。なんか妙に深く眠っとるから心配したんやで。」「ああっと・・ああそうか俺は眠ってたのか。で、なんでいるのお前。」「なんやその言い方は~せっかくうちが手料理を作ってきたったのに。」「手料理? っていつものお粥とスープじゃん。」「甘い! 主治医の先生とか栄養士さんと相談して、うちが作り上げた間違いない手料理やで!」「あ~八神、気持ちは嬉しいんだけどさ、俺は普通の人が食うようなものは食えなくてだなあ・・・」「大丈夫や! ちゃんとそこも考えてある! マーくんは濃い味とか重いものとか受け付けへんからな、繊細な味の部分で勝負や!とにかく騙されたと思って食べてみい!」 そこまで言われては仕方ないので、スプーンでスープを一口・・・「あれ・・・なんか違うなこれ・・・いつものとは・・・」「せやろ!」「お粥の方は・・・あれ? 確かにこれも違う・・・」 これまでに感じたことの無い感じ・・・「ああそうか、これが美味いって感じなのかな・・・」「ふふふ・・・うちの勝ちやな!」 その後、八神が、丁寧なダシの取り方から、野菜の一品一品に至るまでの切り方、下ごしらえ、火を通す順番などのこだわり、お粥にしても単に米が砕けるまで煮るなんて単純なものではなく、絶妙な水と米のバランスや火加減の調整などについて薀蓄を垂れていたようだがよく覚えていない。 俺が珍しく、ほとんど中断せずに一心不乱に食事を摂るのを満足げに眺めていた八神は、俺が食い終わると、俺に礼を言わせるヒマも与えずにさっさと帰ってしまった。 今度、何か礼をしないとな・・・ 食い終わった俺は、例によって速攻で眠りについてしまった。 某喫茶店の娘の部屋にて。「見てこれユーノ君。」「前とは微妙に位置が変わってる?」「それとさ、ユーノ君、私が病院に行ってた時間、うちにいたんでしょ?」「うんそうだけど・・・ん? この×印・・・」「奇妙な力を感じる人がそこにいる、って印だって言ってたよ。」「それとこの病院の位置の集中は・・・」「私と、マシュー君、それに私の手元のジュエルシード、それを全部書き込むとそうなっちゃったんじゃないかな。」「ちょっと待ってよ、仮に彼が、ジュエルシードの位置を認識できるだけでなく、魔道士の位置まで分かるっていうのなら・・・」「ん?」「この家の位置は良いよ、僕がいたからね。病院も良い、なのはと彼がいたわけだから。でもこれ見て。かなり離れた場所にも×印がある。これが本当なら、他の魔道士がいるってことになるよ。」「マシュー君みたいに、自覚してないけど、何らかの力を持ってる人がいるってこともあるんじゃない?」「ううん・・・これはその時の位置に過ぎないからね・・・正確に把握するには継続調査が・・・いやまだ確実に彼にそんな探査能力があるって決まったわけじゃないし・・・」「ユーノ君も頑固だねえ。私は間違いないと思うけどなあ。それはともかく週末は、すずかちゃんの家に遊びに行く約束してるから、そのとき、このすずかちゃんの家のところの印を調べよう?」「友達の家なんでしょ? なんで後回しにしたのかよく分からないんだけど。」「すずかちゃんの家はね・・・すっごく広いし、敷地内を無断で歩き回るなんて危険なマネは出来ないのよ・・・ちゃんと招待されて行くんだったらいいんだけど、気づかれずに無断で入るってのは無理なの・・・」「どういう友達なんだい・・・」(あとがき) 戦闘シーンは基本、傍観すらせずに事後報告で流す予定です。 それでいいのかと疑問に思いつつ、とりあえず今の感じでいってみます。