俺の「現世」での人生における驚愕は、2才の時に使い切ってしまったものと思っていた。
そうだろう。
21世紀の日本で大学生をしていた筈が、2才児に転生していて、おまけに姉(!)が「あの」曹操と来ていたのだから。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「十常侍」事件。正確には、麗羽さんによる(華琳姉さんも史実通り共犯)十常侍虐殺事件の後、
俺は、姉さんの拠点である予州潁川郡の許昌から、帝都に呼び出されていた。
「今頃、援軍を呼んでも遅い筈じゃないかな。それとも、華琳姉さんには余程の兵法でもあるの?」
「十常侍だけなら、私と麗羽が連れて来ていた兵で充分だったでしょう」
「結果的に、その通りだったね」
「菫卓が予想外だったのよ」
「確かに「天の御遣い」でも無ければ、想像の斜め上だったろうさ。いくら「乱世の姦雄」曹操でもね」
「そして、菫卓(正確には軍師賈駆)は、元から連れて来ていた兵まで汜水関の向こう側に引き上げろ、なんて言い出したわ」
「それは、また露骨な」
「仲徳に来てもらったのは、表向き、その兵の引率だけど……」
……華琳姉さん、春蘭さん、秋蘭さんといった「チート」武将たちが、何かの気配を嗅ぎ付けた。でも、
「殺気では無いわね」
で、俺は庭先に忍び込んでいた“猫の子”の首っ玉を引っつかんで、まではしなかったが、
本当の「猫の子」よろしく、両脇に手を入れて部屋の中に抱え込み、俺の膝に乗せて話を続ける事にした。
「玉羽じゃないの?」麗羽、美羽姉妹の末の妹の8才児である。名前の由来は「月のうさぎ」とかじゃなかったかな。
大人しくしていれば「お人形」の様な容姿を裏切るような、大胆ないしは活発な冒険をやってのける8才児だとは思っていたが。
「まあ、いいわ。麗羽も美羽も太守職をあてがわれて出て行った後に取り残されていた子だし。連れ出して置いた方が、後で恩を売れるかもね」
…と言う事は、やる気だな。華琳姉さん。「正史」通りに。
連れ出すつもりで無ければ例え8才でも、このまま聞かせられないような事を。
「それで、さっきの続きだけど。仲徳は、今、帝都に居る曹軍の兵を引率して汜水関を出てちょうだい。ただし、許昌まで戻る必要は無いわ」
「だったら?何処へ」「敖倉(ごうそう)」
成程、どのみち「反董卓連合軍」は、敖倉に集結して、洛水沿いに進軍する事になる。真面目に戦略を考えたらそうなる。
だからこそ、汜水関や虎牢関が決戦場に成る理由がある。
「それで?姉さんは」
「私自身の目的は、この帝都を遁走して、許昌まで逃げ帰る事よ。兵はそんなにいらないわ。むしろ、身軽な方がいいのよ」
「了解した。でも気を付けてよな」
…… …… …… …… ……
華琳姉さんと袁家当主との話がどう着いたか、俺は鞍の前に玉羽を抱えて帝都を出立し、敖倉の付近で来るべきものを待つ事になった。
…… …… …… …… ……
さて、行軍も汜水関を通り過ぎ「現在」も敖倉に当然ながら居る守備兵を、どう誤魔化すか、などと考えていた時だった。
「君。日本語で話しているの」
へ?
確かに、他人に聞かれたくない事、例えば「前世知識」に関係する事とかを口走ってしまう場合とかを意識した時には、
独り言でも、日本語でしゃべるクセが出る場合があったりする。
この時も「正史」の「連合軍」はどうの、こうの等と考えていたから、口には“日本語”が出ていたかも。
何時もなら、意識しなければ「翻訳コXXャク」効果らしきものが作用しているのだが。
だから、訳の分からない独り言を誤魔化して、正常だと思ってもらう「スキル」は身についていた筈だった。
だが、しかし。
この「お子様」は、今何と?
「お兄ちゃん。変な事をしゃべっている」なら、俺も予想はしていたが。
その予想の斜め上を飛び去るような事を言わなかったか?
「どうしたのよ。返事をしなさいよ」
いや、口調からして、むしろ俺より年上みたいな口の聞き方。8才のしゃべり方じゃない。
それに、耳をすませば「懐かしい」日本語だ。確かに。
あの「天の御遣い」の出現で「翻訳コXXャク」効果らしきものと、リアル日本語の聞き分けが出来るようになっていた。
「君は、いや、もしかして貴女は誰だ?」
………。
……。
…俺は日本に居た頃、近い関係だった。
年齢は(禁則事項)バリバリの「ビジネスウーマン」だった。
そういう女性が「草食系」を「飼う」のが流行だったせいか、どうか。
俺は、その人の「フラット」にまで「三国無双なんとか」といったゲームを持ち込んでプレイしていた。
まるで「その人」のような口調の“日本語”でしゃべる8才児を抱えて、
俺は未だ、自分に驚愕という感情が残っていた事にも驚いていた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
豪族「袁」家の本拠地と言って良かった予州汝南郡は、実の処「黄巾の乱」での最大の被害地域でもあった。
それで、袁家でも「討伐」に行かなかった(年齢から当然に論外だろう)玉羽たちは、帝都に疎開していたのだが、
8才児、それも「お屋敷」の「奥」から出たのは、これが「現世」8年目にして始めての「箱入り娘」には「PTSD」ものの体験だったらしい。
それで「壊れた」らしい「現世」玉羽の「自我」の代替のように「前世記憶」が覚醒したのだ……
…… …… …… …… ……
まるで、21世紀日本の社会人が営業での対話をしているが如くに、これだけの説明をしてのけた「見た目」8才児に俺は驚愕していた。
しかし、同時に歓喜も自覚していた。
「俺もです。俺も「前世」は日本人ですよ。曹操の弟に生まれて2才の時に覚醒しました」
8才に敬語を使う高校生相当というのは、身分社会の「この」時代なら在り得る。
しかし、この時の俺としては
「タメ口を聞いて良いかどうか。先ずは確かめさせてもらえませんかね。レディには失礼かもしれませんが」
「年齢は禁則事項という事にしておいてよ。君の年を聞いたら、こっちで判断するから」
幸いにして、行軍中というのは、報告を受けるにしろ指示を出すにしろ、大声が必要なくらいに騒がしい。
その中で、玉羽は俺が抱えている。密談には丁度よかった。
その状態で、互いの情報を交換する間に、思い当たる事が次々に出てきた。
まさか?そんなベタな?都合が良すぎるぞ。いや、そもそも、俺たちの「この」転生だけでも「ファンタジー」もいい処か。
「誤解しないでよね。私は、君が事故にあった後も、何年も仕事に打ち込んだりしていたのよ」
「はい。それで何の誤解ですか」
「だから「私が」死んだのは、君の後追い、なんかじゃないって事」
「そうですね。今の俺たちの年齢差に「それ」が反映しているとしたら」
そんな会話も懐かしかった。
「それより、今後の事なんだけど」あらためて真剣そうな態度になった。
「私は、君ほど「三国志」マニアじゃ無かったら良く覚えていないけれど。袁家という事は、これから殺されるんじゃない。貴方のお姉さんに」
「その事ですか」
「麗羽お姉さまや美羽お姉さまには、妹として可愛がってもらったから、心が痛まない訳じゃ無いけれど。これは究極の選択だわ」
「なまじっか知っていると重いですね」
「お姉さまたちが袁紹や袁術に成れる様な「異世界」だから、女というだけなら「ハンデ」には成らないけれど」
「流石に8才では。せめて美羽ちゃんの年齢だったら」
「そうなると、君が「前世」で教えてくれた「真田一族の陰謀」くらいしか、手段が残っていないじゃない」
「しかしですね。いくら華琳姉さんでも、8才は犯罪ですよ」
「だったら君は男でしょ。君の方が余っ程、犯罪よ」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
数年後、想像の斜め上を飛び去る手段で、天下太平を実現した「天の御遣い」だった。
そして「天の御遣い」の相談相手という「ポジション」に収まる事になった曹仲徳が、ある時、反撃を受けた事があった。
「先輩は俺の趣味がどうの、こうのと言いますけどね」
「言ったかもな」
「『愛紗さんと鈴々ちゃんとか、朱里ちゃんと雛里ちゃんとか、麗羽さんと美羽ちゃんとか』」
「良く覚えているな」
「そう言う先輩はどうなんです。玉羽ちゃんの事。俺だって流石に璃々ちゃんは汚していないですよ」
「だから「彼女」の中身は(禁則事項)だぞ。俺は絶対に、北郷とは別だ」
「玉羽ちゃん1筋ですしね。本当に「連れ込んだ」んじゃないんですか?」
「“貂蝉”にでも聞いてくれよ」
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
今回のヒロインは、ひな様の『なんちゃってシンデレラ』(「オリジナルSS投稿掲示板」)からのインスパイアがあります。
当然ですが、盗作のつもりなど無いつもりです。
また、ひな様には、この場を借りまして「エール」を送らせていただきます。