この作品は、あくまで短編小ネタです。
例えば、ラインハルトが華琳になっているといった、大それた作品では、
決してありません。
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ハインリッヒ・フォン・キュンメル男爵は、1度の人生で多方面に業績を上げた人々にあこがれた。
それは、レオナルド・ダ・ヴィンチであり、ラザール・カルノーであり、トゥグリル・ベクであり、同時代人ではエルネスト・メックリンガーであった。
そして、女性としては、古代中華帝国の曹操であった。
彼女はまず、実行の人としては、戦争と政治の天才であり、
理論家としても「孫子の兵法」を復刻し、後世に残した。
また、詩人としても、その時代を代表する文学者であり、
さらには、酒造においても、後世に“マニュアル”を残した。
ハインリッヒが、この歴史上の人物について、自分以外の他者の関心を引こうとした事があった。
ある日、ヒルデガルト・フォン・マリーンドルフは、ハインリッヒの寝室に運び込まれた、TVホンの画面に、
中佐待遇の軍服に身を包んだ姿を現した。
数日の内には、ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥に従軍して、宇宙に飛び立つ。
このためすでに、常に所在を明らかにしておかなければならなかったため、身を運んで男爵邸を訪問する事もできなかったが、
しかし、この「弟」を見舞わずして、出立するつもりにもなれなかったのだ。
「ヒルダ姉さん」
あれだけ、いくつのも業績を残した曹操ですら、あの「天の御遣い」などと自称した、種馬みたいなやつの後宮に入れられてしまった。
ヒルダ姉さんは、たとえ、どんな事になっても、ヒルダ姉さんであって欲しい。
たとえ、皇帝の後宮に入れられる事になっても。
「ハインリッヒ……」
ヒルダには「弟」がいう“皇帝”が誰を意味するかが、理解できた。
理解できたからこそ、ラインハルトはちがうと言いたかった。だが、
「そうだよね」
曹操だって、後宮に入れられても曹操だったよ。
戦争と政治以外の、彼女の業績は、後宮に入れられてからのものでもあったし。
むしろ、女性として後宮の人となる前にも、そして、後にもあれだけの業績を残した。そこが偉大だったんだ。
それなのに……
僕は、男なのに、死ぬまでに何が出来るのだろう。後、どれだけ時間が残っているんだろう。この体が、どれだけ動いてくれるんだろう……
「……」
ヒルダは画面の中の「弟」の手を握っていてやりたかった。彼が眠りにつくまで。
彼女がこの時、感じた不吉が現実化するのは、尚、数ヶ月が経過した時である。