予州潁川(えいせん)郡
「治世の能臣 乱世の姦雄」曹操が初陣を飾った土地でもある。
「黄巾の乱」当時、潁川郡で賊将波才の黄巾軍に苦戦していた、朱儁将軍の官軍を救援したのが曹操の初手柄だった。
それから10年……
「乱」以降、官僚に戻っていた曹操は「魔王」董卓が出現した時、実質的な軍を指揮していない朝廷の護衛武官だった。
したがって董卓を討つためには、先ず朝廷での官位を捨てて故郷に逃亡するしか無く、
すでに軍閥に成りかけていた「名門」袁紹を総帥に担ぎ出すしか無かった。
その上、故郷の曹夏侯1族の後援で旗上げした、なけなしの軍勢を返り討ちにされ、落ち延びた地方で出直す事になる。
やっと再起して拠点と勢力を確保した矢先、
「徐州大虐殺」の報いか、留守の拠点を預けていた旧友の信頼まで失い
「猛獣」呂布に荒らし回られて、またまた落ち延びる羽目に成った。
落ち延びた先が、10年近く前に初陣を飾った予州潁川郡。
その1帯に居座っていた黄巾の残党、実は西の青州から流れて来ていた難民が暴徒化していた問題の解決を、
潁川郡近辺の名士「グループ」から依頼されたのだ。
曹操は今度こそ拠点を確保した。
降参させた青州兵を屯田で自活させて兵力を確保、
潁川「名士グループ」荀彧・郭嘉・程昱らを軍師に、
周辺の村々を守っていた、許緒や典韋といった豪傑たちを武将に「スカウト」して、
潁川の郡城、許昌に拠点を確保した。
この時が、曹操の「魏」王国にとって真の“スタート”だった。
同じ潁川郡に初陣を飾ってから10年間の“ループ”が「乱世の姦雄」曹操にとっても『助走』だったのである。
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「…その10年のループを、もしかしたら、俺のせいでスルーしてしまったかも知れません」
曹仲徳は、膝の上の玉羽に語っていた。
「この」世界での姉である曹操(華琳)は、仲徳が「知っていた」歴史通りに、潁川郡での初陣に勝利すると、
そのまま郡太守に成ってしまった。
“姉”が潁川太守に成ってからの「驚愕」を共有できる相手に、ようやっと「再会」出来ていた。
「君には「歴史」をしゃべってしまった覚えがあるの?」
「具体的に「あの時」とまで確信出来ません。それでも、ループをスルーした事だけは分かってしまうんです」
玉羽にしか語れない、内心の疑惑だった………。
……。
…やがて、仲徳は自分が「天の御遣い」である事を姉に明かした。
「華琳姉さん。どうしても1度、聞いてみたかったんだ」
ある時、そう切り出してみた。
「俺は、この「空白の10年」といった事を姉さんにしゃべった事があった?」
「覚えてないわ。大体、あの頃の私は、自分の弟の「正体」すら知らなかったじゃない」
「そうだよな。じゃあ……」
「ただ…何故か桂花や稟と言うよりも、荀彧や郭嘉みたいな「潁川の名士」と仲良くすると喜んでいたわね」