後漢帝国の天下の南半分とも言える長江流域の内、中流に位置する「荊州」9郡。
その内で、更に南半分である長江より南の荊州南部4郡への劉備軍の侵掠は、
あくまで『演義』に於ける主人公陣営の視点からすれば、”痛快”ですらあった。
先ずは、4郡の中央に位置する零陵郡を総攻撃。
次いで、桂陽郡へ趙雲、武陵郡へ張飛、長沙郡へは関羽を派遣。
この内、多少とも手間取ったのは『五虎大将軍』の“4人目”に成る黄忠が抵抗した、長沙郡くらいだった。
そして『演義』は、いかにも、それぞれの武将らしい「エピソード」を、それぞれの攻略戦で描写している。
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零陵郡で待機する北郷一刀と桃香の処へ、桂陽郡へ派遣した星と雛里、武陵郡へ派遣した鈴々と朱里から、
相次いで勝利の報告があった。
これで残るは、“黄忠”が出て来る筈の長沙郡だけ。こちら側は戦力を集中できる。
一刀と桃香は、零陵に待機していた蜀軍の本隊を率いて、長沙攻略の援軍に出発。
桂陽と武陵へ派遣した部隊にも、長沙への再進撃を命令した。
ところが来て見ると、魏延こと焔耶の「返り忠義」もあって、長沙城は落ちていた。
………。
……。
…戦争の後は、戦後処理である。
生け捕りに成った4郡の太守たちが、桃香と「天の御遣い」に対面する事に成ったが、
その前に、一刀は「ある」事に気付いた。
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『原典』三国志演義。
桂陽郡太守の趙範は、趙雲が軽く1戦して軽く勝利してしまうと、もう戦意を消失した。
そして、桂陽城内に趙雲を招待して、せいぜい接待したのだが……
その席に美貌の未亡人で、自分の元兄嫁を同席させて、趙雲との縁談を申し入れた。
その余りにも媚び媚びの態度に、かえって趙雲の不快を買ってしまった。
結果は戦闘再開。無論だが趙雲に軽く撃破されて、縄目の恥を受けてしまった。
劉備の前に引き出された趙範は、
「自分は、玄徳様に抵抗する意思などありません。それどころか、趙将軍の関心を買おうとしたのに、逆に攻撃されたのです」
と訴えたものである。
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変に気に成ってしまった「天の御遣い」は、星と一緒に桂陽から合流した雛里に、それと無く確かめてみようとしたのだが……
隣に桃香が居て聞きそびれている間に、星自身が趙範を引き出して来た。
「主殿。まったく、こやつは何を思っていたのやら。何処ぞの美少年らしきものを、それがしの閨に忍び込ませようと」
一刀の隣では、桃香が桃色に成っていた。
「この身も心も、捧げ尽くした御主君が在るものを」
「いえ、いいえ!私は、存じませんでした」趙範も、どう聞いたのやら。
「よもや「天の御遣い」様の御手付きであられたとは!」
「?俺には桃香が居るんだけれど?」
後の「種馬」からは信じ難いかも知れないが
「この」時点での一刀は、劉備こと桃香を「ただ1人の恋人」と認識していた。
「天の御遣い」こと北郷一刀は現代日本人である。
「恋愛結婚」が普通で「一夫一妻」が常識の世界から落ちて来た、大した恋愛経験も無い若者に過ぎなかった。
少なくとも「この」時点では。