及川佑は、その晩、けっこう酔っ払って自室に戻って来た。
とは言え、すでに学園内の寮暮らしの高校生でもない。
受験勉強、就職活動を経過して、結婚活動の真っ最中である。
したがって、法律的にも収入的にも住環境からも、飲酒に問題は無い。
むしろ問題なのは?飲酒の理由だろうか。
元「お嬢様学校」の数少ない男子生徒仲間、その中で真っ先に結婚した裏切り者を罵りながら、傷をなめ合う席だった。
別名、結婚式の3次会。
現在、親元を離れて1人暮らしの自室に戻ると、酔い覚ましに冷蔵庫から取り出したPETをガブ飲みする。
ゲップと共に、体内の緊張が出て行く感覚がして、ふとセンチメンタルな感傷が戻って来る。
本来なら同席していた筈の1人の友人。
本日の花婿が、花嫁と成る少女と行動を共にするように成ってからの数ヶ月、仲間たちの中心に居た剣術青年。
しかし、謎の資料館荒らしと共に行方不明と成って……
「かずピー…一緒に、あの裏切り者を罵り倒したかったで…」
就職してからの数年、住み慣れた自室が、何故か急に遠く成って………。
……。
…ヒョロロロ~~
地平線までも続く黄色い平原のド真ん中に立ちつくしていた。黄砂交じりの風が吹き付けて来る。
「あかん。飲み過ぎた」すでに酔いも覚め果てていた。
頭を叩くまでも、ホッペをつまむまでも無い。風に混じって吹き付ける黄砂の感触だけでもリアル過ぎた。
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「…て」何時の間にか、朝の自室。
結婚式に立ち会った黒スーツに白ネクタイのまま、及川はひっくり返っていた。
「そうやろ。夢やろ」
ところが、リアルに自分の身体の上に乗っかっている代物に気が付いた。
「…竹簡…」
そして、夢(?)の記憶が戻ってきた。
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…リアル過ぎる黄砂の感触。
唖然としている背後から、突然に声がかけられた。
「うふ~ん」ゾクゾクとする声にはちがいない。
「だ…だれだ」
「このまんまTPDDで連れて帰ってあげるのは難しいとも限らないけどねん」
「……」
「ホームシックが治らないと、また同じ事が起きるかも知れないのよ。困ったご主人様」
「…だ…誰だ?…」
「アタシの事は、今は良いわん。規定事項の時には連れて帰ってあげる。それより、ほらん、お迎えよん」
黄砂を巻き上げて、馬に乗った何人かが近付いて来た。
「黄叙」そう名乗ったのは、中華の武将らしきコスプレ(?)をした紫色のロングストレートの少女。
有無を言わさず、騎馬隊の中央に用意して来た籠(かご)付きの車に及川を押し込んで連れて行かされた先は、
「紫禁城?」としか見えない。
そして『皇帝陛下』の御成りを待たされて………。
……。
…内容的には夢としか思えない。まして、非常識を信じないという意味でも、成人に成りかけている。
それに酔っていた。酔う前にアイツのことも考えた。
しかし、目の前に物証が有る。
「そうやった。かずピーから手紙を預かったんや」
その預かり物を前に、しばし考え込む。
「まあ、筆跡で分かる人たち宛ばっかりやな。心無い悪戯かどうかは」
誤解されて恨まれる位の危険は冒しても悪く無い気分だった。
その程度には友人だった。そして、何もしてやれなかったのだから。