「とりあえず、俺たちはそっちを追おうと思う。」
「私たちはどうすればいいんですか?シンジ」
「とにかく今は情報が欲しい。放課後はジジイのほうを引き続き探っててくれ。」
「俺は引き続きセイバーとの鍛錬でいいんだな。」
「あまり大人数だと尾行がばれるしな。」
「それに私の認識阻害も効きが悪くなります。」
「そんなこと言って二人きりになりたいだけじゃないんですか?」
「あらいやだ。余裕のない子はこれだから。」
「ちょ、メディアさんも桜もやめて。」
「メディアさん?いつの間に名前で呼ぶように…兄さん?」
「恐い…俺は今まで女性の何を知っていたというんだろう。親父…女は違う生き物だって言ってたの、本当だったんだな。」
士郎、そりゃアレはホムンクルスだったからだ。思えばこいつの知り合いの女性で一番まともなの美綴か…次点がタイガーとネコさん。
うん、美綴が最後の砦だな。
流されたゆたうワカメのごとく 六話 後編
というわけで二人で一成を尾行中なのだが…
(慎二様。あとをつけられています)
(へっ?誰に?)
(先ほどの美綴とかいう小娘のようですわ)
(あちゃー。変に気を引いちまったか。よせばいいのに)
(慎二様がよろしければ、すぐにも始末を付けますが)
(ちょ、穏やかじゃないな)
(あの小娘もきっと慎二様を狙っているんですわ、あつかましい)
(いやまさかそれはないだろ。とりあえず撒くか。少し早いけど認識できなくして)
(わかりましたわ)
そうしてしばらく一成を追い続ける。美綴はまだあきらめていないようだ。しょうがねえな。どうするかな__
(慎二様。アインツベルンが居ます!)
「なに!?」
って、しまった?
「あはっ。へーえ、こそこそ何かしてたんだ?ちょうどいいわ、遊びましょ?マキリのお兄ちゃん?」
(もう、うかつですわ)
「はあ、しゃーねえか。イリヤスフィール、なんの用だ?」
姿を見せる。チッ、尾行は中断だ。バーサーカーは……よし連れてない。どうするか。
ここでやってしまってもいいのか?いや、バーサーカーを呼ぶ気があるなら令呪を使えば一瞬だ。そうなるとメディアさん一人じゃ荷が重い。その後逃げればとりあえず令呪一回消費させたってことになるけど、逃げ切れる保証もないし。
「とりあえず、お話しましょ?」
「お、おい?」
とかいいつつおれの腕を引っ張る。
んで、公園。
「シンジって呼ぶね?」
「いきなり呼び捨てかよ。」
「ふふん、ちょっと話してみたかったんだ。
聖杯への悲願は他の2家に勝るとも劣らないはずのマキリ。だっていうのにやっていることが不可解すぎる。まじめに勝ち抜く気があるように見えない。
マスターを失ったキャスターを従えたかと思えば、きっちりと支配下に置くでもなく、魔力量も半端なままにしている。
セイバーと同盟を組んだみたいだけど、実質野放しで一方的に庇護しているようにしかみえない。偽書で支配権奪うくらいしてもいいのに。キリツグの息子なら簡単に騙されてくれるでしょ?信用されてるみたいだし。
いったいマキリはこの聖杯戦争でなにがしたいのかなあって。」
「さてな。それをいう必要はないぜイリヤスフィール。」
このおこちゃま、苦手だ。こちらをなにもかも裸にするような目ぇしてやがる。この半目きらい。
び、びびってないぞ?
「あはは。イリヤって呼んでよシンジ。」半目を止める。
「やっぱキャスターがついてるか。ついてたのがライダーなら今ので操れる自信あったんだけどなー。」
な?今まさに危なかったのか!?メディアさんナイス!お城に持ち帰りされてお人形さんにされるところだったぜ。
「それでどうする?ここで私とやる?ほっといたら次は何を仕掛けてくるかわからないよ?」
「いや、今はその気はないよイリヤ。」
「ふーん?ずいぶん余裕なんだね。じゃあやっぱり遊ぼうよ。」
「結局そうなるのね。」
(慎二様、危険ですわ)
(わかってる。けど多分今日はもうちょっかいを出してこないと思うよ)
(まったく、本当に女に甘いんですから)
その後は、本当に遊んだ。ゲーセンでプリクラとったり、クレープ買い食いしたり。
一番白熱したのはメディアさんによるイリヤの服選びだったけど。この人本当にかわいい女の子が好きだな。
はっ!?この二人が組んでしまったらあらゆる女の子が着せ替え人形になってしまうんじゃね?いやいやまさかな。
ひとしきり遊んで、もう夜。今は河川敷を散歩している。
「ふふ、今日は本当に楽しかった。ありがとうねシンジ。」
服とぬいぐるみを抱えて花が咲いたように微笑うイリヤ。ぬいぐるみはおれのプレゼントである。メディアさんにも日を改めての何かのプレゼントを約束させられた。またネコさんとこで士郎といっしょにバイトすっかな。
「慎二様。誰か来ますわ。」
と、そこに。
「イリヤ。」
「ここにおられましたか!」
セラリズコンビが殺到してきた。例の物騒な武器を細腕に携えて。
「マキリのマスター!離れなさい!」
「ちょ、ここで事を構える気はないぜ。」
「どうしたのよ。セラ、リズ。」
「向こうの橋でランサーとアーチャーがやり合ってる。」
なに?
「それに、もう一人なにかが。」
「イレギュラーなクラスかもしれません。どこの陣営かわかりませんが卑怯な真似を。」
「おまえらのとこがそれを言うの?」
しかし、イレギュラーだと?まさかギルガメッシュか?
「金色の鎧着た男だったか?あ、いや、鎧着てなくてもいい。金髪の優男か?」
「男じゃなかった。」
ナニ?
「リーゼリット!何を敵と話しているのです!」
「落ち着きなさいセラ。今橋でその戦いが起こっているのね?」
「ええ。ここは城へ引き上げましょう。」
「そうね。そうしようかしら。シンジ、それじゃここで解散ということでいいかしら?」
「あ、ああ。わかった。元気でな、イリヤ」
「元気で?あはっ、やっぱりシンジって面白い。じゃあね、また!」
「ばいばい。」
「あなたはまた!」
「セラ、うるさい。」
「あ、最後に一つ、シンジ、自分の体のこと、気づいてる?」
何のことだ?って今はそれどころじゃないか。
てなわけでアインツベルン一行とは別れた。
「慎二様、いかがしますか?」
「とにかく見に行ってみよう。」
「凛!アーチャー!」
「ほほう。今日は千客万来の日らしい。いや、百鬼夜行かもしれんな。」
膝を着いていたアーチャーが双剣を構えようとする。凛は俺たちの到着からずっと、呆然としたままだ。
「よせ、アーチャー。今はやりあうつもりはない。」
「そうしてくれると助かるな。何せ今の私はランサーにやられて虫の息寸前なのでね。」
「凛、おい、凛!しっかりしろ、何があった!」
「…え、慎二?」
「ああ、どうしたんだ?」
「慎二!綾子が!」
な、美綴がまさか巻き込まれたのか!?
「美綴がどうなったんだ!いったい何が。」
「あんな…あんな酷いことになるなんて…向こうにランサーと一緒にいるわ。けれど…」
「けれどなんだ!」
「ダメ。あんたはあそこに行っちゃダメ。あんな姿を見られたら生きていけないわ。」
そんな酷い目にあわされたって言うのか、そのイレギュラーに!
「クソッ!俺はアイツを助けに行くぞ!」
「ダメよ!慎二。女としてのあの子のことを考えるなら、あんたは今のあの子を見ちゃダメ。」
なん・・・・だって・・・・・。
女として、だって。それはつまり……そんな目にあわされたのか。くっ。
ああ、俺があの時ちゃんと止めていたら。すまん美綴。なんと言っていいのか・・・。
「だったら、なおさら助けないわけにいくか!」
「ダメよ!お願いやめてあげてーーー!」
凛を振り切り、その場所へと辿り着いた俺とメディアさんの目の前に居たのは。
俺を親の敵のように睨むダメットさんと、
こらえきれず腹を抱えて転げまわって笑うランサーと、
オレンジ色のリボンとフリル大盛りな衣装に身を包んで例のステッキを持った美綴だった。
「いーーーーやーーーーー!」
アア、オレガアノトキチャントトメテイタラ。スマンミツヅリ。ナントイッテイイノカ・・・。
以前あとがきで書いたとおり、本来美綴の出番はありませんでした。元のプロットであったシーンは、こうです。
「皆の衆、待たせたな。魔法剣士華麗奴金剛、推参。」
小次郎さんがカレイドになる予定でした。うん、変えてよかった。
良かったですよね?華麗奴金剛のほうが読みたかった人います?