「そうなんですよ。本当に凛さんってばいじり甲斐があるんです。ふふっ。」
「えー、あはは。そんなことがあったんですか。」
「ええ。もう少しですね。」
「はい。それではまた。」
あれは…なんなんだろう。一成が仏頂面の神父と向かい合って話しているのか?
でもそれにしてはおかしい。一人の声しかしないし、神父も一成も喋っているような挙動がない。第一聞こえてくるのは女の声だ。
何なんだ?これは。この教会で何をしているんだ?
「ふむ。では…潜り込んだ鼠の始末をつけるとするか。」
__え?
そこで、あたしの意識は、すっと、刈り取られた。
流されたゆたうワカメのごとく 第六話 インターミッション
なぜ、こんなことになったのだろう。
あたしは、ただ、慎二の心配を取り除いてやりたかったんだ。
あたしはあの兄弟が意外といってはなんだが精神的にも肉体的にもタフであることを知っている。
桜は柔和な雰囲気をまとっているが、怖いぐらいとても強い子だ。あの子のことをなんでも言うことを従順に聞いてくれそう、とかいろいろ言う事きかせてえとか言っている部員達がいるが、そいつらにはあの子のナンパの断り方を見せてやりたい。
しつこいナンパ野郎どもがあたしと桜と、もう一人いた連れを相手に強行手段に出ようとしたとき、「殺しますよ?」という言葉が本来の意味で使われるところをはじめて見たんだ。止めなければ物理的に実行していたと思う。
結局向こうから全速力で走ってきた慎二がナンパ野郎の後ろから蹴りをかまし、ダッシュで逃げていったんで、慎二とそいつらの鬼ごっこが始まってうやむやになったわけだが。
そんな怖いところもみせる子だが、あの子が兄を見る目はいつも優しい。兄、弟、父、息子、恋人、夫…そういったあらゆる男性への思慕の念に溢れている。
慎二は普段バカばっかりやっていて、しょっちゅうポカをやらかして周りを沸かせている。面倒見がいい割に抜けたイメージが蔓延しているのが、女のあたしが慎二を差し置いて部長になった理由である。
けどあいつは、なんというか、中心がブレていないんだ。衛宮は一種の鈍さもあって物事に動じないんだが、慎二は動じるが芯が揺れてない。
突発的なアクシデントやらに慌てた風でも、頭の中ではきっちりと対応している。
弟の漫画で読んだフレーズだけど、「男はへその下」だったか。おたおた不恰好にびびりまくっても、丹田の力は縮んでいないっていう。
乱暴なOBとやりあったときも、人の機微に疎い衛宮が他校のヤツに因縁をつけられてたのをなんとかしたときも、あいつはそうだった。
そういう兄妹だからあたしは好きなのだ。
その二人が、なんだか最近様子がおかしい。不安が透けて見えるのである。あの二人に限って、お互いが無事である限りそんなものとは絶対に無縁だと思っていたのに。
なのであたしはおせっかいもいいとこなのは百も承知で、まずは事情を知るべくつけていたのだ。家の中のこと、といっていたが、ここのとこ慎二たちがいつも出歩いていて、おそらくは外に心配事があるだろうことをあたしは知っている。
まずは昼間気にしていた一成のことを解決するためにあいつの所へ話しに行くだろう、と思い、そいつが終わったら尾行開始と意気込んでいたのだが、
慎二は一成と話をすることもなく、後をつけだした。
普段のあいつと一成のやり取りを見る限り、互いに胸襟を開くような付き合いをしているのを知っている身としては、不思議に思うと同時に興味が湧いた。
そして一成をつける慎二、それをつけるあたしという構図ができあがったのだが、不思議なことに間もなく慎二を見失ってしまった。
不思議だったがとりあえずおそらく一成の尾行をつづけているはず、と思い、一成を直接あたしが追う格好でスニーキングミッションは続いていた。
が、いつの間にか、そう、ほんとにいつの間にか慎二が姿を現していたのである。なにやら見知らぬ少女と話をしていた。
ずいぶんと小さな子だったし、外国の子であったようなので、迷子か?慎二も相変わらず面倒見がいいと思いつつ、ならば尾行任務はあたしが引き継いでやろう、と一成を追い続けたのだ。
正直に言うとこのときのあたしには、慎二の役に立ってみせて、気を引きたかったところがあったのだろう。
ここでへんな色気を出したことを、ほんのすぐ後にこんなにも後悔することになるなんて思ってもいなかった。
しばらくすると教会についた。寺の子がなぜこんな真逆なところに?と思いつつ、そのある種のミスマッチに興が乗ってしまったあたしは中にまで入ってしまった。
そこには神父が待っていて、一成はそいつに近づくと、鞄からなにか変な棒を取り出した。すると一方的に喋る声が響き、あたしは気を失い、そして____
さらにさらに紆余曲折があって、
摩訶不思議な奴等の前にさらにさらに摩訶不思議な格好で立つ羽目になっている。
「おっおおお、お待たせ!まっ魔法少女カレイドインペリアルトパーズっ、参上よっ!」
いやーーーーーーー!見ないでぇぇぇぇぇ
インターミッションなのでいつもよりさらに短いです。
ええ、今回もいつものごとくやってしまいました。
すいません、前回の綾子壊さない宣言は嘘でした。
だってまともな人間はこの話の中で生きていけないんです。
うっ。もっとやれがノドに詰まってしまった。んぐんぐ、ふう。
こんどは一杯もっともっとやれが怖い。
本日の一席「もっとやれ怖い」寒風の中、お後がよろしいようで。
テケテン テケテン テケテン