現在、窓から潜入済み。まずは2階を探す。ぷんっ。
「し、慎二さま、機嫌を直してくださいな。」
「そうですよお、兄さん。私たちは兄さんが魔術回路がないことなんて気にしません。」
ふん。いまさらそんなこと言われても機嫌直さないもんね。
「慎二様は何も出来なくてもいいんです。私たちが支えますから。」
「ええ、私が面倒を見てあげますから。」
「さらりと「たち」を外しましたね、サクラ。」
「…ヒモだな。」
「るっさいわ。」
「ああもうあんたたち!いいかげんにしなさいよ!ここは敵地よ敵地!わかってんの!」
「侵入者、みつけた。」
怪力メイド が あらわれた
「姉さん…。」
「リンですね。」
「ふむ、凛だな。」
「ちょ…なによその「あーあ」みたいな顔は!私一人が悪いみたいじゃない!」
流されたゆたうワカメのごとく 9話 後編
ブンッ!!
ドガ!!「のわ!」
無言でいきなり例のハルバートを振り下ろしてくる。高そうな家具がぶっ壊れるけど気にした素振りはない。
ちびるかと思った。な、なんだよあのハルバート?ホムンクルスとはいえあの細身で片手で振り回してる威力じゃない。
よし、ここは二手に分かれて――
「発見された以上もたもたはしていられないわ!対バーサーカーの要になるセイバー・アーチャー・ライダーは私と先行して士郎を探す!足の遅い残りはここでこいつを片付けてから追う!アーチャー!体調がどうとか泣き言聞かないわよ!」
仕切られた!?俺マジでいる意味ない!てか俺が最初のターゲットにされてるっぽい!
「ここは任せました!」
だだだだだだっ!
あっほんとにみんな行っちゃった!
ブゥーン!!
「避けちゃだめ。」
「無茶言うな!」
ガスッ!!
とかいっている間にも、リズは攻撃を緩めない。ちょ、これマジでやばくね?
ピシリ。
は?って、床崩れる!この城見かけどおりの耐久力じゃないのね!
ガラガラガラ
「うひゃあ」
「あ」
落ちる!
「兄さん!」
「慎二様!」
いつつ…って、分断された!ただ今タイマン状態!
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
逃げること脱兎の如く!
「今行きます!」「あっ!キャスターさん、飛ぶのはずるいです!くっ、階段を探さないと!」
「侵入するだけでは飽き足らず、破壊工作まで!やはりマキリもトオサカも品位というものを知らないと見えますね。」
お小言メイド が あらわれた!
ひえええ、状況がマッハで悪化していく!いや、壊したのアンタのところのメイド!うわ!あぶね!
「だから避けちゃだめ。大丈夫。全部殺さない。」
大部分はどうなるんdeathか?答えはこの後すぐ!
「慎二様!」
「させません!」
メディアさん?助かった!って、おお、小言メイドのほうも頭脳派らしく魔術戦もなかなか堂に入ってる!
「キャスターを相手に魔術で挑もうと言うの?」
「ええ。気づいていると思うけど、この城にはその対策もなされているのよ。とくにこそこそとしたアサシンとキャスターは力を発揮できないようにね!」
なるほどそれで身内の馬鹿力には無力だったんですねわかります!
ガキン!とまた俺のいた空間をハルバートが容赦なく(こんなの手加減してるっていわねえ!)打ち据えていく。
「早く片付けてまたシロウに遊んでもらう。」
あの男、ここでフラグ建ててやがった!人がリアルタイムに死ぬ思いで助けに来ているって言うのに、自分はメイドさんとキャッキャウフフか!男の敵め!
「何をしているのです!早くしとめなさい!」
「殺すとシロウ怒る。イリヤも。」
「衛宮士郎もそいつも、敵のマスターなのですよ!」
「ケーキ。」
「うっ。」
「プディング。タルト。エクレア。おいしかったね?」
餌付けまでしてやがったか!一体何本フラグ建てる気だあの一級フラグ建築士!そういう技術ばかり成長しやがって!戦いの最中だって判ってんのか!後で殴らざるをえない!
「なんでジト目でため息つくんですか?メディアさん。」
「いえ。なんとなく慎二様が考えていることがわかってしまったので。」
それでなんで?わからない。
「だからシロウは終わったら連れて帰る。」
「くっ…仕方ありませんね。ええ。盟約者たる衛宮切嗣の息子でもあることですし。」
いや絶対違う理由で転んだろお前ら。
と、ドアが乱暴に押し開かれる。
バン!
「ハァハァ、無事ですか兄さん!」
「桜!」
「ここは任せて、先輩のところへ行ってください!」
「けど後衛二人じゃ!俺でもマトにくらいはっ」
う、自分で言ってて悲しい。ていうか今日の俺こんなんばっか。
「大丈夫です!兄さんは誰でも出来る役をこなしてください!」
「そうです!人質を救出するだけなら慎二様でも!」
今晩の君たちも本当に容赦ないね。だが尤もだ!
「すまん!ここは任せる!」
「はい!」
「くっ!待ちなさい!」
そういわれて待ったヤツを俺は知らない。ていうかそのセリフをいうヤツは、それで本当に止まると思っているんだろうか?言う意味あんの?謎だ。
片っ端からドアを開け、中を確認していく。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…畜生、部屋多すぎなんだよこの城。ていうか絶対使わねー部屋が大部分だろ。次はここだ!
バン!
口にテープ。椅子ごとロープで縛りつけ。うん、典型的な「捕われの人質」だ。しかしこの城には激しくミスマッチ。
「!むーむーむー!」
「ここにいたか士郎!」ベリベリベリッ。ぶつっ。ぱら。
申し訳程度の俺の武器であるナイフでロープを切る。
「助けに来てくれたのか慎二!」
士郎のヤツが感動の面持ちを見せる。
「だあっしゃあ!」バキ!
出会い頭に容赦なく一撃!
「痛!なんでさ!」
「やかましい!くだらねー嘘、あ、いや、嘘じゃなくて都合の悪いとこ隠した真実に騙されてホイホイ付いていって拉致されやがって。おまけに人が心配してる最中にメイドさんと遊んでただぁ?ふざけろこの野郎!」
「しょ、しょうがないだろう!怪力のメイドが遊んで~って視線をぶつけてくるんだぞ?横にあのハルバート持って!それが終わったらイリヤに厨房に立たされて後ろからバーサーカーがプレッシャーぶつけてくるんだ!不味いもの作ったら俺が食われるかと思ったよ!」
「あんまりのんびりもしてられん、まずは逃げるぞ。」
「あ、ああ。そうだな。お前のせいで5秒くらい無駄にした気もするけど。」
と、そうは問屋が卸さなかった。
「へえ。どこへ逃げるのお兄ちゃんたち?」
「ひっ。」
「イリヤ。」
イリヤが部屋の入り口に仁王立ちしていた。相変わらずミニマムなサイズをまるで感じさせない重圧だ。情けないが正直ビビる。
「イリヤ、こんなことをしちゃいけないんだ。人を殺してでも願いをかなえようなんてのは、間違ってる。」
士郎君、人それを蛮勇と言う!
「関係ないわ。アインツベルンは悲願を叶えるために何百年も犠牲を払いながら準備してきたの。今回の聖杯戦争だってそう。何があろうと何をしようと聖杯を手に入れるわ。わかった?シロウ。」
眼光は鋭く、プレッシャーはきつく、だがしかし淡々と告げる。
「だけど、それでも――」
「おしゃべりは終わりよ、お兄ちゃん。今日は楽しかったね。じゃあね。殺しだけはしないであげるから。」
やべ、今度はメディアさん居ない。あたまのなか、が、ぐんにゃりとする、ちく、しょ――
「それはまだ困るな、アインツベルンよ。」
――^―は?
ことみね、き、れい?
「くっ!バーサーカー!そっちの相手はもういいわ!こっちに来なさい!」
あたまがはっきりしない。
バーサーカーが、突進してくる。言峰は、それを、いなす。
迫る刃を、横っ飛びしながらデカイ剣の横っ面をはたいた勢いで逃れる。
つま先立ちで、だらりと垂らした腕を肩で振り回す。なんだろう、あの動き。
言峰は、黒鍵を左右に4本ずつ、爪のように広げて構える。ああ、戦国バサラ懐かしい。こっちにはなかったな。ていうか黒鍵て投擲武器じゃなかったの?
ぼやけた視界には、言峰がまるで襲いかかろうとする獣のシルエットのように見える。
影絵のように見えるその姿からは、表情など窺い知れる筈もないのに、なぜだろう、ヤツがまるで、肉食獣のように歯をむいて凄惨な笑みを浮かべたように見えた。
それはまるで、俺の知る言峰綺礼のイメージとは似ても似つかなくて、でも、あのイメージは何かがひっかかる――
「シンジ、シロウ!無事ですか!」
「ほう。バーサーカーを追ってきてみれば、意外な顔に出くわす。」
「しばらくみないうちに、随分と戦闘スタイルが様変わりしたのね?そんな愉快な動きはアンタからは習わなかったわ。」
ああ、みんな無事だったか。早く、引き上げよう。この頭を、何とかしなくちゃ。
メディアさんは、まだ?これを何とかしてもらわないと、歩けもしない。
もう一匹、今度は見慣れた青い獣が降り立つ。
「よう。てなわけで、選手交代といくか。」
獣と化け物の打ち合う姿をアーチャーの背中から眺めながら、そこで意識がぷっつりと切れた。
メディアさんと小次郎さんのラインが切れたことを聞かされたのは、翌朝だった。
すいません。今回はあまり、もっとやれませんでした。
次は、また番外編を挟むと思います。ギャグ以外に意義のないこの作品で、設定を改悪してまでのこじつけはどうかとも思わないでもないのですが、この話の決着を付けるためにどうしても必要だったので。
基本をギャグで行く方針にはなんの変わりもないのですが。