9話 インターミッション
ザクッ、メリメリ、ミチャリ。
右の肩口から背中にかけて裂けてゆく。
「ほう…」
これは、助からぬかな?慎二が言っていたのは、これか。なるべくこうならぬよう、速やかに間桐臓硯を止めると言っていたが…
ズルリ。
黒い影が降り立つ。ふむ、鍛え抜かれた体躯ではあるが、いささか均整と言うものが取れておらんな。これが暗殺に特化したと云う存在か。なるほど、佐々木小次郎が異端であろうというもの。正統なアサシンとはこういうものか。
「間に合わなんだか。」
もう、この石段で魔女を悔しがらせながら共に茶を飲むこともないか。
真なるアサシン…ハサン・サッバーハは、此方を一顧だにせず、蟲を拾って石段を降りてゆく。
「挨拶の一つもなしか。もとより、饒舌な暗殺者など聞いたこともない。」
その動きは、獣じみた、というよりいっそ昆虫のようでもある。脚を素早く交差させつつ進み、それに乗っかる上半身を微動だにさせない。そして音を立てない。くっくっ、まるで油虫よ、と思ったところで、そろそろ限界が訪れる。
「あっけないものだな。本当にランサーとの手合わせ以外にすることもなかったか。」
がさり。草が揺れ、音を立てる。
……?何者かが傍に寄ってくる。ほう。今わの際を看取ってくれる者がいる、か。
見ればそこそこに整った容貌。なにやら面妖な裾や袖の飾りはいただけないが、まあ、贅沢は言えん。最期に見た人の形をしたものが、あのアサシンでは無粋が過ぎると言うもの。
「ちょ、早くしなきゃ。」
何をしてくれると言うのか。もとよりサーヴァントのこの身に葬式の準備など無駄。
などと埒外なことを考えているうちに―――
傷は塞がり、欠けた部分を構成するエーテルは補われていた。いや、むしろいまのこの身はマテリアルにすら近い。
「なんと。」
「あはは。こんばんは、佐々木小次郎さん?ちょっとお話があるんですよ。ええ、少し時間もかかるので、歩きながら。」
先程とは違う声。見れば目の前の娘ではなく、杖?から聞こえてくる。
といっても、山門に括られている身では、そうも…何?
「ええ、もう束縛されてはいませんよ。」
面白い。一体何が起こったのか、何をするつもりなのか、何をさせようというのか…
「ではゆっくりと歩きながら語らうとしよう。こんないい夜に娘と二人、月を眺めながら彷徨うのも風流。」
「うわ、時代がかった気障。あんましあたしの好みじゃないなあ。」
「二人きりでもないですよー。」
「はっはっ。それは残念。」
はてさて、どんな面白い話を聞かせてもらえるものか。
暗躍していた方々が、表に出てきます。