お茶を飲みながら。
「なるほど。そんなことがあったか。」
「どうしたらいいんすかね。」
「お主もいろいろと災難なことだな。だが羨ましいぞ。山門に括られているこの身では、彩や風雅を愛でる機会もない。ましてや強敵との出会いなど。」
代われるモンなら代わって欲しいけどね。
「あの槍兵も一度顔合わせと手合わせと称して来たっきりで、それきり無しの礫だ。また来てくれぬものか。」
うーん。求道者とバトルジャンキーで気が合うのかもしれんな。
「小次郎さんも、もっといろいろなところに連れて行けたらいいんですけどね。」
「それは贅沢というものだな。もとより一度生を全うした身、ここでこうしていることは余禄に過ぎん。それに、先ほどは愚痴をこぼしてしまったが、自分なりにこの境遇を楽しんでいるのだ。気にかけることではない。」
「はあ。そういうもんですか。」
あなたを喚んだヒトは、一度目の人生で掴み損ねた幸せを意地でも取り戻す気満々なんですけどね。
達観しているなー、この人。佐々木小次郎って若くして死んだ剣士ってのが世界に浸透したイメージなのに、才気走った若者っつーより年齢を重ねた老剣豪みたいな感じだ。
だから相手してて和むんだけどね。他の奴らが生き急ぎすぎなんだよ。みんなしてこういうところを見習ってれば、もっと穏やかな聖杯戦争になるんだけどな。
って、現実逃避してちゃ駄目だよな。とにかく、俺の目的は、みんなで生き残ること。
そのためには、聖杯を出現させない。サーヴァントさえ殺させなければ、そうなる確率は高い。あと、聖杯を望む奴らを抑えるか倒す。神父にジジイにアインツベルン。
イリヤとは、なんかやりにくくなってしまったなー。こないだ一緒に遊んだし。ヘブンスフィールだ、ホムンクルスとのハーフだっつっても印象は人間と変わらないし。
いや普通にうちのサーヴァントたちより人間に近いし。場合によっちゃ殺さなきゃだけど、なるべくしたくねーなー。
はー、考えること多すぎる。
流されたゆたうワカメのごとく 9話 前編
とはいっても、時間は有限なわけで、いつまでものんびりしてるわけにもいかない。先日の調査結果について話し合うべく、衛宮邸に集まったのだった。
「結論から言うと、今現在お爺様は冬木に居ません。」
「聖杯戦争の只中に?あの間桐蔵硯が?くさいわね。ただ逃げたわけじゃないと考えるべきね。」
「ええ。逃げたとも既にやられたとも思えません。あの人の厭らしさを知る身としては。それに、居なくなる直前に結構な量、「食べた」形跡がありました。」
「――人を、という意味ですか、サクラ。」
「ええ。」
なんともいえない空気が流れる。ここのところランサーのような正々堂々とした渡り合いが続いていたから忘れてたけど、こういうのも確かに聖杯戦争の本質なんだよな。
他2つとはすっきりと決着を付けられそうだけど、やはりあの糞ジジイとだけは無理だな。
ほら今もこういう話になるとウチの士郎君が激昂して「止めなきゃ!」とか――アレ?
「士郎どこ行った?」
「ふむ。そういえば。凛?」
「セイバーが居残り訓練させてるんじゃなかったの?」
「セイバー?」
「サクラが夕飯の仕込を任せたのでそれにかかっているものとばかり。」
「桜?」
「ライダーに昨日ライダーが壊した2号の修理を頼まれてたんじゃ。」
「ライダー?」
「ゴミ袋を間違われて出されるところだったキャスターだと思い追いかけて裸足で陽気に駆けていったと。」
「どういう間違いかね。キャスター?」
「遠坂凛が地獄の補習とレポート提出を課していると聞いて放置していました。」
「と、いうことらしいぞ?間桐慎二。」
なんともはや。最近ぜんぜん活躍してなかったようにみえたが、見えないところでいろいろ頑張ってたんだなあ。やはりブラウニーだ。人が見ていないところで、というのが「らしい」なあ。
って、そういえばあいつの目に見える活躍ってあったっけ?……えーと、俺のせいで空気と化してる?
「で、凛、結局補習は?」
「もう終わってるわよ?」
「じゃあ今何してるんだ?」
見つからない。連絡も取れない。
「おいおいおい。どうすんだよ。」
「なにかに巻き込まれていると考えるのが自然ですね。」
「そうね。この状況下だものね。」
「置手紙がありました!」
「へっ?」
「それでその手紙にはなんと?サクラ。」
「えーと、
「俺の生き別れの妹が今アインツベルンの連中のところにいるそうです。
なんでも、
「昔愛情ゆえに狂って妻と子供を殺したり、次の妻が襲われそうになったら襲った奴を有無を言わさず撃ち殺したりしたこともある上に、現在はロリコンにもなったガチムチマッチョ」
と四六時中一緒に居るはめになっているそうです。
隣にいたどう見ても嘘を付けそうにない人に確かめたら、「うん。全部本当」と応えたので、本当だと思います。
妹をそんなところに一人にするわけにいかないので、勝手だけどアインツベルンの所へ向かいます。なんとかして妹だけでも逃がすつもりでいるので、後をお願いします。」
……だそうです。」
あほー!何してんだあのばかー!ていうか騙されんな!いや、騙してねーのか?衛宮切嗣とイリヤの関係とか話しておかなかったのがこう響くとは!にしてもセラとリズからのヘラクレスの評価ひでぇ。
「シンジ!早く士郎を助け出さねば!」
「先輩をほうっておくわけにはいきません。私も!」
「サクラが行くならわたしも。」
「弟子を見殺しにするのも気が引けるわ。」
というわけで、アインツベルン城へと乗り込むこととなった。
いま一つ気が乗らないメディアさんと不調のアーチャーも置いていくわけにはいかない。なにしろアイツを相手にするには攻撃手段の多様さがものを言うのだ。手札を全て出し切る勢いでなければ。
「……というわけでやって来ましたアインツベルン城。」
雰囲気出てるなぁ。夜の城って恐いよね?しかもナニが仕掛けられてるかわからんし。
「で、どう攻める?」
「考える間はありません!一刻も早く突入しなければ!」
「待ちなさいセイバー、急ぐのには賛成だけれど、少し考えなきゃ。何せ相手はアインツベルンなんだからね」
今ここで、凛がうっかりしていないということはあまり危険はなさそうだな、と思う俺は間違っているのだろうか。
「そうですセイバー。ここは慎重を期すべきです。」
「慎二様。ここは私に。」
「なにかあるのか?」
「セイバーとあの坊やのラインから坊やの居所を探り、相手の目を掻い潜って救出しましょう。」
「よし、早速頼む。」
「おお!」
「腐ってもキャスターということですね。」
感心するセイバーと相変わらずケンカ腰のライダー。こんなときぐらい仲良くして。
「はい♪お任せください。…ってあら?」
「どうした?」
「その…それが、ラインがあまりにも脆弱すぎて辿れませんでした。」
んなにぃ?
「まったく使えない人ですね。」
桜。お前もやめて。
「うるさいわね!大体この場合使えないやつなのはあのボーヤでしょう?もう少しきちんとサーヴァントと繋がっていたらちゃんと上手くいっていたわよ!」
「なに先輩をバカにしているんですか!自分の無能を棚において!もう一度いったら殺しますよ?」
「あー何度でも言ってやるわよ!あのボーヤはボンクラよ!なに?満足にサーヴァントに魔力も供給できないくせにマスターですって?ナメてんのよ!聖杯戦争を!」
「いくら先輩が魔術師としてダメダメのズタボロだからって言いすぎです!そりゃサーヴァントの面倒も自分ひとりじゃみれない人ですけど、あれでも魔術師なんですよ!」
「あんな貧弱な魔術回路しかない子なんて認められないわよ!ないよりはマシな程度じゃない!」
「ないよりは一億倍もマシじゃないですか!」
「その辺でやめておきなさいよ。敵地で騒ぎすぎよ?それに、そこで慎二が地面にのの字書いてるわよ。」
「「あ」」
ふん、ふん、どうせ俺は出涸らしだよ、悪かったね、ないよりマシ程度の回路すらなくってさあ。
「シンジ…そう、気を落とさないで下さい。まるで魔術師とは思えなかったおかげで初対面のとき私のことは欺くのに成功してたじゃないですか。立派な武器ですよ。」
「ありがとうセイバー。でも、どーゆー慰め方だよ。」
「プッ。」「ふっ。」
笑った!今ライダーに笑われた!あとアーチャーも!
「うわああぁん」
「ああ、泣かないで下さい。」
「ああもう、こんなんで本当に大丈夫なのかしら?組む相手間違った気がしてしょうがないわ。」
「君の迂闊さは今に始まったことではない。」
「うるさいわね!」
投稿再開です。4日投稿しなかっただけで3ページ目からも弾かれそうになったチラシの裏のスピードにビックリです。