気になることがある。原作ではもう、この時期にはギルガメッシュはあの青年の姿で出歩いていたはず。
ニアミスがないのは運だとしても、このところ広範囲にわたる調査を繰り返しているし、美綴の捜査のことがあってそれを強化しているのに、メディアさんの報告にもギルガメッシュらしきやつが浮かび上がってこない。
なので、ここは危険を承知で教会へと調査を広げた。
先日のアーチャーのダメージは未だ回復しておらず、藪をつついてランサーを出してしまうのは覚悟の上だ。どの道もうサーヴァントとしての敵はランサー、バーサーカー、ギルのみなのである。
もちろんみんなはギルのことはまだ知らないが。
そして、俺にとっては驚愕の事実が判った。教会地下に何もなかった。
ギルを現界させ続けた状況証拠がなにも出なかったのである。
今現在、この世界において、神父はギルを現界させていない?
流されたゆたうワカメのごとく 第八話 前編
美綴の行方はまだわからない。というか、アレが俺たちから何かを隠そうとしたら、見つけ出すのは不可能かもしれない。
士郎の特訓は夕べから開始している。なんというか、やはり遠坂凛はすごい。
溢れんばかりの才能を持ち、その上に胡坐を書くことなく研磨しつづけただけのことはある。
士郎の特性、異能を俺が助け舟を出すこともなく見抜き、あいつが持つたった一つの力を鍛え抜くべく指導を開始している。
ジジイの行方も知れないが、桜曰く、この冬木のいたるところにジジイの自らのスペアともいうべき蟲のコロニーがあるそうだ。
おまけに、そいつがレーダーに対するチャフの役目も果たしている。
それがため、メディアさんの自ら出歩かないタイプの探索網は断ち切られてしまうらしい。
現状、捜査を進めて何かの収穫がありそうなのはジジイの線だけである。
よって、ジジイの手がかりを脚で探すこととなったのだ。
チーム分けは俺とセイバー、桜とライダーである。
凛は相棒が負傷中なため士郎の特訓を続けている。
メディアさんは凛とともに衛宮邸から俺たちのバックアップである。
有事に巻き込まれたらもう一方のチームに連絡もままならないかもしれないので、両チームを監視して異常をもう一方に伝えて欲しいし、衛宮邸にも一人サーヴァントが欲しい。
一応ドラゴントゥースウォリアーも撒いて貰っているし、持たせてもらっている。
そんなわけで捜査を続けているのだが、
「あれだ。戦力重視でチーム分けした弊害だな。」
ぶっちゃけおれの蟲への理解度は低いし、セイバーはこういうことにはなっから向いていない。
桜チームと比べて仕事の進み具合はダンチだった。
「ここも痕跡が消されてたか。巣の残渣しか残っていない。」
「次へ向かいましょうか。」
歩きながら考える。
しかし、不安の材料はどんどん増えているというのに、問題はちっとも解決しやがらない。
ギルを使わないくせに、ランサーはあちこちのちょっかいに使う神父は何を考えている?
目的なんかないと思っていたが、サーヴァントの争いになぜあのステッキは割って入った?
ジジイは何のために姿を消した?
わからない。全て意味があるようにも思えるが、全て単なる気まぐれでそうしているのかもわからん。
「シンジ。」
「どうしたセイバー?」
「あまり思いつめないで下さい。貴方には皆がついています。」
「あ、ああ、顔に出ていたか?」
「私もかつて多くの民を率いる王としての苦悩を抱えたことがあります。
そのときの私と、同じような顔をしていたものですから。」
「そうか。セイバーはそんな時、どうしてた?」
「私には、頼れる義兄がいました。頼もしい臣下がいました。彼らが知恵と力を貸してくれる限り、そんな苦悩は消し飛んでしまいましたよ。
ですが、それを失ったとき、それが私の落日だった。臣下の、友の、身内の裏切り。いえ、不満の流出だったのですね。
私は祖国を外に広げ、外敵から守ることばかり考えていた。それこそが王としての使命だと。
国の中へ目を向けていなかったから、内なる不満に気付けなかった。
こちらに来て、本を読みました。我が祖国は数百年後にも、私のように外にしか目を向けないエドワードという王を出したのですね。高潔な騎士道を言い訳にした暴威を振るう、悪しき前例を私は作ってしまったわけです。」
「セイバー、それは、違う。」
「いいえ。私のなしたことの中の悪、その最たるものがそれです。その事実は変わらない。私は生涯抜き身の剣だった。自らが納まり、ともに安らぐ鞘を持たなかった。」
「セイバー…。」
「だから、今こうして、新しい時を生きている指導者に賢しらな口を利いてしまうわけです。老賢人の威厳はとても持ち合わせていませんが。
_全てを抱え込まないで下さい。困難なときには頼ってください。」
そういって、俺になんとも言えない笑顔を向けてくれた。
「ありがとう、セイバー。やっぱお前は王だよ。」
「ふふ、いつでも当てにしてください。あなたには、私がついているのですから。」
それまでの穏やかさは、嵐の前触れだったのだろう。そこに__猛犬が死を告げるために現れた__
「よう。これで三度目だな。」
「ランサー!」
これが、悲劇の始まりだった。
俺はこの日のことを生涯忘れることはなかった。
ランサーの一撃をセイバーが流す。この戦い、1対1での勝利は無理だ。なんとしてもライダーの到着まで粘らなければ。
バゼットさんの相手はドラゴントゥースウォリアーに任せる。正直時間稼ぎでしかないが、基本的に彼女は対多数の攻撃手段や広範囲の武器を持たない。
ここで足止めしてまずランサーを2対1で倒し、その後でバゼットさんを倒す。これが正しいと信じる。
既に令呪は発動した。__来る!
「来たか!ライダー!」
「お待たせしました。_どうやらまだ無事だったようですね、セイバー。」
「ふん、私を誰だと思っている。」
「ほう。もう一騎も来たか。これでもう全員と顔を合わせた事になるわけだ。
初手は全て様子見をしろと言われているが、二騎以上と同時に対峙するなら緊急時には倒す許可も貰っている。
この状況は?マスター。」
「先日は実力未知のセイバーと一度圧倒したアーチャーとの対戦でしたが、今回は実力者とばれているセイバーと、ライダーです。全力を出しなさい。」
「だ、そうだ。悪いが生かして返す気はない。」
「吼えたな、ランサー。高くつくぞ。」
「騎兵の力、決して三騎士に劣るものでない。身をもって知ってもらおう。」
サーヴァント達が激突する__!
ここからシリアスな展開です。慎二は生涯最大の危機を乗り越え、大きく成長することになります。