「小夜とトキは間に合わなかったか…」
決戦予定地を見極め、その前に該当する城に篭って数日…
魏も呉も既に兵の準備を終えているらしく既にかなり近い場所で布陣しているそうだ。
門の前に一万もの馬と共に待ちうけ…機を見計らうラオウ。
敵の陣営はまだ動いてはいない…とは言っても見える位置には居ないのだが。
「ラオウ様…本当に兵は一人でいいの?」
ラオウの様子が心配になったのか…城内待機を指示されていた桃香がラオウに駆け寄ってくる。
ラオウは多少呆れた表情をしたものの…咎めるような事はしなかった。
「そうだ…俺はこの黒龍とこの騎兵隊だけで十分だ」
騎兵隊とは言っているが、兵はラオウ一人だけで後は全て無人の馬である。
その状態でどう戦うのかは微妙だと思うのだが…馬を率いる強大な馬が居る為、
馬自体の指揮は高い。
それに馬一頭で大人五人ほどに匹敵する為、攻撃能力は低くなく…
攻撃用の鎧を装備しており、圧倒的な存在感を醸しだしていた。
「うーん…やっぱり心配だよ…ラオウ様が強いって言ったって相手は
百万超えの軍隊だよ?」
「確かにな…だが、今回の戦は時間稼ぎが主となる…おそらく一日持ちこたえれば
トキ達は必ず戻ってくる」
自分と互角の力を持つ男に対する絶大な信頼…
少なくとも小夜が南斗聖拳最強格である以上、敵う者はまず居ない筈だ。
小夜の方面は多少心配だが…穏健派が揃いも揃って南斗最強と推していたから
問題は無いだろう。
「それに、だ…今回で敵の指揮系統を乱すことも可能となる」
「あの作戦の事…?一体何なの?」
「…この俺が知る史実で数の差を覆し、敵の大将を追い詰めた策だ
ところで…用意は整っているのだろうな」
「うん…なんとか集めたよ…後は塗るだけだから」
「明日の策の肝になる…念入りに塗りこんでおけ」
「曹操様…間もなく北斗軍の結集している城が見える頃で御座います」
「そう…なら、様子を探る事に念を入れておきなさい…あの男が篭城戦に
持ち込むなんてあるわけ無いんだから」
「は!」
そして、伝令はそのまま他の隊へと伝令に向かっていった。
華琳の言っていた事は間違いなどではなく…実際に篭城戦をしても
この兵力の差では何の意味ももたらさない…むしろ野戦に持ち込んだほうが
ラオウの存在により篭城するよりも有利に働く。
「まったく…あいつらも無茶な要求をしたものね…」
「仕方が無いでしょう…南斗の穏健派が北斗の軍に付いたって騒いでいたからね」
「六聖拳と謳われている内の四つを抱え込んでいるくせにねぇ…」
六聖拳の存在の事はレイから聞いている。
「南斗最強の将…その存在を引き込めなかった事で騒いでいるらしいわね」
「あぁ……確かにあの子だったら一度付いた者を裏切りそうに無いわね」
南斗聖拳最強の南斗鳳凰拳…構えが存在せず、どのように繰り出してくるのが
予測できないのと圧倒的な速さをもつらしい……実際、反董卓共同戦線の時には
目にも写らない速さで戦場を駆け、兵を蹂躙していた。
「北斗の存在に隠れがちだけど…優秀な将が揃っている事…」
「将の質じゃ負けないけどね…敵の北斗と大和将は別格ね」
「それに、それに劣る事の無い最強の馬が居るし……こちらの騎兵隊は役に立たないわ」
「あぁー…だから置いてきたんだっけ…進軍速度が遅くなるってぼやいていたけど…
使いものにならなくなるのだからしょうがないのよね…」
最強の馬、黒龍…愛紗ら武将をも超えるであろう覇気を纏っている馬。
方々の噂でその馬は千頭もの馬に匹敵すると謳われている馬である……
真偽の程は定かではないが…確かに圧倒的な強さを誇っていた。
人間と違い、動物は本能に忠実だ…黒龍が出てきてしまえばあっという間に
馬は役に立たなくなってしまうだろう。
そうなれば確実に騎兵隊は壊滅状態になる。
ラオウは馬上にいると戦闘力が落ちるが……それを補う機動力と制圧力が備わる。
「考えれば考えるほど鬱になってきたわ」
「ま、なるようにしかならないでしょう…」
「華琳様に孫策様…お二方がそれでは困ります…もっとしっかりと気を持ってください」
この軍の軍師を勤めている荀彧が溜息混じりに激励する…しかし、その荀彧の表情も
翳っている為、説得力を持っていなかった。
その時、急に前線から混乱が生じ…曹操達の場所にも動揺が伝わってきた。
「どうしたのかしら?」
「まさか、もう激突したの?」
「いえ…それにしてはこの動揺はおかしいような気がしますが…」
「も、申し上げます!」
話し合っていると一人の兵士が曹操達の下へと訪れた。
「どうしたの?」
「北斗の軍勢が現れ、騎兵隊の強襲に遭い、指揮系統が乱れております!!!」
「数は!」
「そ、それが……たった一万です」
「はあ?」
―――少し前
「中々…現れないなー…」
「そりゃそうだろう…敵の城はまだかなり先だろ?」
最前線の兵士達がゆっくりと丘を登って行く…その丘はかなり急であるらしく、
中々苦戦していた……しかし、この丘ですらも他の丘と比べると緩やかだったのである。
「それにしても…遅いよなー」
「仕方が無いだろう…百五十万以上も兵を引き連れているんだからさ」
愚痴を言いながら移動している……以前の曹操ならまだしも、今の曹操には
かなりの不満があるようだった…。
曹操というよりも南斗の将達に対しての不満だが。
「そろそろ丘を抜けるな………と……」
「おい、どうし……た……」
丘を抜けた途端…兵士達の目には恐ろしい光景が映っていた…
目の前…丘の下の方に赤い池があるのだ。
ここを迂回するしかないのか…と溜息を吐きつつも…奇妙な事に気が付く。
池が心なしか接近しているように見えたのだ。
「な、何だあれ…」
「おいおい池だろ……動いている?」
ようやく他の者達も気が付き脚を止める。
池の接近速度は速くあと少しで池の正体が分かりそうだ。
「お、見えてき……あ、あれは!?」
「う、馬の群れ!?」
視認出来る距離になってようやくその正体が判明した。
巨大な馬を先頭に突進を仕掛けてくる紅い馬の軍勢だった。
おまけに…明らかにおかしいほどの指揮能力の高さで……。
「ふ、見えてきたか…」
ラオウは眼前の敵をとらえ、口元を歪ませる…黒龍の背に乗り…いや、今は真っ赤になっているため
紅龍と呼ぶべきだろう。
その馬にのり、目の前の軍勢に突撃を仕掛けているのだ。
その後ろには同じく真っ赤に染められていた一万近い馬の数が同行している。
「言葉の通じるものが今この場に居ない、か…だが、これも策略の一つだ
全部隊に告ぐ!この戦いはあくまで時間を稼ぐ為のもの…討ち漏らしを気にするな!
目に見える者共を殲滅せよ!!!!」
【ギュオオオオオオオオウ!!!!】
【【ヒヒヒィーーーーーン!!!!!!!!!!】】
かなり近くまで接近したところで、ラオウは紅龍の速度を上げる。
巨大なだけでなく、速度すらも最速…欠点としては小回りが効かないというものがあるが…
今この状況ではそのような欠点など意味をもたらさない…
あるのはいかに早く、制圧するかだけである。
そして、ラオウには近距離攻撃以外に遠距離攻撃を可能とする奥義を所持している!
「北斗剛掌波!!!」
敵陣に辿り着く寸前に闘気をめいっぱい溜めた一撃を放つ…それにより百人近くが宙に舞い上がり、
始めに攻撃を受けたものは四散した。
宙に舞い上がった者は後方に吹き飛び落下し、二次災害が発生した。
「これぞ、天を目指す剛の拳!」
「ひ、ひぃい!?」
兵士が驚いたのは、ラオウの形相と強さではない…それだけでも驚き恐れるだろうが…
ラオウ自身も紅く染め上がっていたのだ…鎧も肌も…唯一瞳が赤く染まっていないだけで、
それ以外は一点残らず赤だった。
赤を見て…ラオウを見て血を連想してしまい、兵士達の戦意が大幅に削られていく。
「貴様らが戦う意思を見せなければ俺は貴様らの軍を蹂躙しつくすだけだ!」
そうして、何度も剛掌波を打ち込む…近場にいる兵士には眼もくれていないが、
その兵士達は紅龍と化した黒龍が踏み潰し蹴り飛ばし蹂躙して行く…。
更に遅れて到着した馬達が突進したまま兵士達を蹂躙していき、戦場は混沌としたものになった。
前線の兵はあっという間に瓦解し、大混乱に陥っていく。
「どうした!この程度か!この拳王を倒しえるものは居ないのか!?」
【ギュオオオオオオオオウ!!!】
「う、うわああああ、らば!!」
「ぎゃああああ!」
ラオウと紅龍の咆哮が戦場に響く…だが、兵士達はその言葉を聞く余裕が無かった。
冷静さを取り戻そうにも、興奮を刺激するかのように紅い光景が眼に映るため
冷静になれない…その混乱はどんどんと広がっていき、前衛部隊だけでなく
本陣の部隊にも伝播していった。
先ほどの曹操の所に伝わっていった混乱もその影響である。
「ぬおおおおおおおお!!!」
そして、ラオウは強大な闘気を一挙に解放し…
「あ、あれ?何処へ行った?」
姿を掻き消した…兵たちは唖然としていたが…馬の兵達は残っていた為、存在を忘れてしまっていた。
『『ぎゃあああ!?』』
突然、上空から強大な闘気が降り注ぎ、兵達は混乱する…
そして、上を見てみると…
「北斗剛掌波!!!」
数秒おきに剛掌波を打ち放っているラオウの姿があった。
先ほどの現象は姿を消したのではなく、宙へと舞い上がったのである。
ケンシロウとの戦いの際に黒王ごと上空に舞い上がり空中戦に持ち込んでいた為
このような方法は容易い…無論、完全に自由自在に飛びまわれるわけではなく
浮いているという表現が正しいか。
「弓兵!!」
「無理だ!届くわけが無いだろう!!!」
兵士の部隊長とも思える男が弓兵に活を入れる…だが、明らかに射程距離では無い。
仮に届いたとしても、威力は無いに決まっている。
「なんとかし…ぼあ!!」
「隊長―――!!!」
叫んでいるのが格好の的となってしまったのか…紅い馬に跳ね飛ばされる。
仇を討とうとしたが、縦横無尽に駆け回る馬に成す術など無いと知り、
逃走を試みる、が…
「がはあ!!」
運悪く、剛掌波の射程上に入ってしまい、命を落とした。
「天将奔烈!!」
若干疲れの見え始めたラオウは上空に秘奥義を放ち、急降下する…
その下には勿論…
「ぎゃああ!」
「ひでぶ!」
「うわらば!」
兵士達が居た為、踏み潰す…紅龍は対して堪えた様子も無い…
見た目どおりの頑強さ故に落下のダメージがほとんど無かったのだ。
やがて、ラオウの騎兵隊は踵を返し戦場領域を去っていった。
その際にもいくらかの剛掌波を放っていき、兵士を数を減らしていった。
そして、三つほど丘を越えたところで部隊を止めて息を整えて行く。
「第一波は成功か…損害は五百二十頭か…」
それでも、曹操の軍勢はそれ以上の損失を被っていた。
被害総数は死者、数千名、重度の負傷者数万人、軽度の負傷者も同じ様な人数。
「数刻後には再び向かうぞ黒龍」
ラオウがそう言うと黒龍は静かに頷いた。
「酷い光景ね…」
「兵たちを落ち着かせて話を聞いたのですが…人間は北斗一人だったようです」
「あとは、全て無人の馬ばかり…黒龍の統率はかなり恐ろしい領域にあるって事なのね」
「数よりも…上空に浮いていた方が驚いたけど」
次々と運ばれてくる負傷兵を見やりながら曹操は下唇をかむ。
先ほどの戦いの際にラオウが浮いていた所を目撃したのだ…そのせいで命令が遅れてしまい
混沌とした状況を収めるのにかなりの時間を要してしまった。
このような損害を出してしまっては数刻は動く事が出来ないだろう…どう考えても時間稼ぎに思える。
「援軍の当てでもあるのかしら」
「本当に五胡と組んでいるんじゃない?」
その冗談はとても笑えるような類のものではなかった。
もっとも五個の援軍は無いのだが…
:これが、私の限界……半月以上考えてこれでは文章力もたかがしれているなー
次回は五月以降になると思います…